橘 中 楽


囲碁の別名としていくつかの由来のある言葉があります.例えば,烏鷺 (うろ) .これはカラスとサギ,黒白の石を表しています.また,爛可 (らんか) という言葉もあります.これは山中に迷った樵夫が,二人の仙人が囲碁を打っている姿を見つけその深遠な技量に見惚れている間に,持っていた斧の柄が朽ち果てていた (つまり途方もなく長い時間が経過していた) 伝説から来ています.さらに,手談 (しゅだん) という言葉もあります.これは,言葉を交わすかわりに,石をうちあう中で互いの交流を深めることを表します.このようないくつかの別名の一つとして,橘中楽 (きっちゅうらく) という言葉があります.中国の古代伝説に以下の話があります.昔,巴蜀に広大なたちばなの園を持つ人がありました.ある年非常な冷害におそわれ,この人が人を集めて霜の中からたちばなの実を収穫させました.その中に二つの非常に大きな実が見つかりました.三斗樽の大きさであったといいます.早速刀で二つの実を割ったところ,中には身の丈一尺ばかりの仙人がそれぞれ二人一組碁を囲んでいました.人々が驚き大声をあげる中で,四人の仙人達は泰然自若,少しも慌てずに碁を打ち続けました.やがて一人が“橘中の楽しみとはこれなり,商山に遊ぶと何ら変わらず”と言ったかと思うと,ひらりと地面に舞い降りました.その途端に地中から水が噴出し,四人はいずれも白竜に姿を変えあっという間に空中に舞い上がって見えなくなってしまった,というものです.この話にはいくつかの象徴的な意味合いや歴史的な符合もあるのですが,たちばなの中から竜が舞い上がっていったというのはいかにも縁起の良い話でもあり,卒業生や学生の皆さんに期待するという意味からも取り上げてみました.