研究の周辺から

岐阜大学小児病態学には、先天代謝異常症,アレルギー免疫不全症の研究において,日本および世界において多くの教科書を塗り替えるような業績があります.しかしそれは常に患者さんを診る事から始まっております.
 先天代謝異常症においては折居忠夫名誉教授が教授をされていた頃に,当時治療法のなかったムコ多糖症の症例に対して治療を開発したいという思いから始まっており,まずは診断法の確立,原因蛋白の精製,その遺伝子のクローニングと進み、折居名誉教授の退職後もその流れを受け継いだ戸松俊治先生が渡米して遺伝子発現による酵素製剤の開発、早期診断のためのムコ多糖症のタンデムマススクリーニング法の開発にも着手されてきました。また現在岐阜大学医学教育開発センターの教授となっている鈴木康之先生が細胞内小器官であるペルオキシソームの形成されないというZellweger症候群を研修医時代に主治医を持ったことからペルオキシソーム病の研究ははじまりました.現在岐阜大学生命科学総合研究支援センター教授になってみえる下澤伸行先生が加わって大きな発展を遂げ、ペルオキシソーム形成にかかわる多くの遺伝子の同定、患者さんの発見につながり、ペルオキシソームはGIFUと世界に知られるようになりました。現在も副腎白質ジスとロフィをふくめたペルオキシソームの診断、治療にとって岐阜大学生命科学総合研究支援センターは非常に重要な拠点となっております。また現在島根大学小児科教授をされている山口清次先生が、日本でまだ当時確立されていなかった有機酸代謝異常症のスクリーニングをガスマス(GC/MS)という装置を用いて開始され、多くの患者さんの診断に貢献されました。島根大学の教授になられてからはさらに脂肪酸代謝異常症の診断にタンデムマス(MS/MS)を用いたハイリスクスクリーニングを開始され、それが2014年に日本全国で開始されたMS/MSによる新生児スクリーニングに結びついております。それによりこれまでライ症候群、乳幼児突然死症候群のような形で不幸な転帰をとっていた患者さんを未然に防ぐことが可能となっています。その山口教授も2015年の3月で退職ですが、まだ新生児スクリーニングについて今後も活躍されます。

私自身は折居名誉教授のもとで信州大学名誉教授の橋本隆先生のご指導を受け、山口清次先生が行われてきた有機酸代謝異常症の研究から、小児でありふれたケトーシス、ケトアシドーシスと関連したケトン体代謝異常症という概念へとすすめてきて、現在はケトン体代謝異常症では世界でGIFUというところまで来ております。現在はケトン体代謝、脂肪酸代謝の異常症の診断、治療に重点をおいた研究をしております。その研究の流れの中で多くの医局の先生方が研究に従事され、その研究成果が点ではなく線で結ばれて面となって広がってきた結果であると思います。

免疫不全症、アレルギーの研究においては、近藤直実名誉教授が実際の診療のなかから多くのことを発信されてきました。その1部については以下近藤名誉教授が旧ホームページに書かれていた部分を引用させていただきます。

 「まず食物アレルギーでは日常診療の中で「昨日食べて本日症状がでた」という訴えをしばしば耳にして、食べてすぐに症状がでる即時型に対して、そうでない症例が少なからず存在することに気づき、そのアレルゲン診断は特異IgE抗体では困難で、何か方法は、と考え、抗原(アレルゲン)刺激によるリンパ球の幼若化反応が有用であることを見出し、かつ即時でないという意味で非即時型と提唱した。ここには、いわゆる遅発型や遅延型も含まれるが、病態は多彩で今後解明すべき点が多いが、あくまで臨床的に非即時であることからこのように名付けた。幸いこの呼称は現在いろいろな所で使用されている。また食物負荷テストの重要性といわゆるダブルブラインドテストが大切であることから本邦で草分け的に方法を確立させていただいた。」   この研究はアレルギー分野で最もすばらしい貢献であり、教科書を書き換えた研究だと自分がアレルギー研究に携わるようになってから思えるようになってきましたが、このように臨床での患者さんからの訴えに耳を傾け、そこから研究につながる例として受け継いで行きたい態度とおもいます。その他にも免疫不全症の研究では実際に岐阜大学でフォローしていたIgGサブクラスのIgG2のみが欠損している兄弟例の病因をなんとか突き詰めたいという思いが、世界で初のIgG2欠損症の病因解明につながりました。この研究には私自身も加わりました。同様に病棟によく入院していたBloom症候群やAtaxia-telangiectasiaの患者さんの診療からその病態を解明したい、もっと理解したい、治療したいという気持ちから、現在長良医療センター臨床研究部長の金子英雄先生と私がオーストラリアのLavin博士のもとへ留学して研究をすすめてきました。アレルギーの研究では、アレルギー疾患と関連する遺伝子の研究を日本でいち早く開始し、また食物アレルギーにおいては『食べて直す』治療法の開発として、抗原性を低下させたミルクの導入など新規治療法の開発に取り組んできました。免疫不全症、アレルギーにおいてもその研究の流れの中で多くの医局の先生方が研究に従事され、その研究成果が点ではなく線で結ばれて面となって広がってきた結果であると思います。近藤名誉教授はさらに新たな視点として蛋白構造の解析を導入され、その中から現在注目されてきた自己炎症性疾患の病態解析が始まり、当院でながく原因が不明であった患者さんが実はこの自己炎症性疾患であったことがわかって、その重要性が再認識され、岐阜大学小児病態学の1つの研究分野として確立されてきています。

その他にも血液腫瘍関係では、プロプラノロールというありふれたβブロッカーが血管腫に効果があるという論文にヒントを得たリンパ管腫症への応用を世界に先駆けて行いました。それもなんとか目の前の患者さんをよくしたいという思いが実ったものと思います。その研究も現在は血管腫、リンパ管腫の内科治療といえば岐阜大学と言われるまでになってきました。
 研究は、iPSのように世界があっというすばらしい研究から、地道ではあるが確かに1つの成果を世の中に残すものまであると思います。私たち医師を志して医療をしているものにとって、診療の中から世の中に小さくても確かな成果を残し、それが他の先生の成果と線、面になっていけばすばらしいことではないかと思っています。若い先生が研究にも目を向け、確かな点をまず残し、そこから発展していく医局でありたいと思っております。

参考
最近の研究費獲得状況について
厚生労働省関連

  1. 平成22年度厚生労働省難治性疾患克服事業「先天性ケトン体代謝異常症(HMG-CoA合成酵素欠損症、HMG-CoAリアーゼ欠損症、β-ケトチオラーゼ欠損症、SCOT欠損症)の発症形態と患者数の把握、診断治療指針に関する研究(H22-難治-一般-104)」深尾班 研究代表者 深尾敏幸
  2. 平成24-25年「新しい新生児代謝スクリーニング時代に適応した先天代謝異常症の診断基準作成と治療ガイドラインの作成および新たな薬剤開発に向けた調査研究」遠藤班 研究分担者 深尾敏幸
  3. 平成26-28年「新生児タンデムマススクリーニング対象疾患の診療ガイドライン改訂、診療の質を高めるための研究」遠藤班 研究分担者 深尾敏幸
  4. 平成26-27年厚生労働省難治性疾患政策事業「HSD10 病の発症形態と患者数の把握、診断基準の作成に関する研究(H26- 難治等(難)-一般-021) 」深尾班 研究代表者 深尾敏幸
  5. 平成26-28年日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業「新生児タンデムマススクリーニング対象疾患の診療ガイドライン改訂、診療の質を高めるための研究」班 研究代表者 深尾敏幸