漁業による魚の進化?


  近年の大規模な漁業活動により、魚の種類によっては、集団内の個体数の大幅な減少が起こり、地域的な絶滅も起こっているようです。これは、数の問題、つまり量的な問題です。これ以外に、漁業活動によって魚に質的な変化が起こっているのではないか、そんな危惧が広がっています。

漁業では、一般に大きな魚を狙います。ですから、同じ種の魚の中でも、大柄な個体は小柄な個体に比べて死亡率が高いと考えられます。人間の例を見てもわかるように、身体の大きさには遺伝的に決まっている部分があります。つまり、小柄な個体の子供は、やはり小柄であることが多いのです。では、もしも大柄な個体が人間に捕まってしまい、小柄な個体しか子孫を残せないとしたら、いったいどんなことが起こるでしょう。子孫の代になったら、その魚は平均的にみて少し小柄になってしまいますね。同じようなことが、早熟の個体と晩熟の個体についても言えます。時間をかけて成長して大きくなってから一気にたくさんの卵を産もう、そんな悠長な晩熟の個体は、漁業活動のもとでは子供が残せない可能性があります。だとすると、世代を経るうちに、魚は次第に早熟になっていくことでしょう。実際、例えば北大西洋のタラなどで、人間活動の影響による進化が進行しているかもしれないと報告されています。このような進化は、人間に直接的な不利益をもたらすだけでなく、数が減少した魚集団の回復にも悪影響を及ぼしかねません。

進化は、このような成長や生殖などに関する形質以外でも起こっているかもしれません。例えば、釣りのことを考えて下さい。好奇心が強く積極的であり、危険に出会っても「のど元を過ぎればすぐ忘れる」タイプの魚は、どんどん釣られてしまうでしょう。逆に、臆病で用心深い魚は、釣られずに生き延び、子孫を残すことができるでしょう。もし、このような行動パターンが遺伝するものなら、世代を経るにつれて、生まれつきの臆病さや用心深さが次第に強まっていくことが予想されます。言い替えれば、魚はどんどん釣れにくくなるのです。釣り人にとっては困ったことですね。

漁業の将来を考えるとき、この問題についてもっと光が当てられるべきだと、私たちは考えています。

(2010年6月)


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