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タ イ ト ル 更新年月日
 未年にちなんで 2003/01/08  日本における国際花き生産流通戦略
  【4】 東アフリカの切りバラ生産
2003/04/08
 日本における国際花き生産流通戦略
  【T】 バラの国際的な生産流通事情
2003/01/09  日本における国際花き生産流通戦略
  【5】 イスラエルのバラ生産
2003/04/22
 日本における国際花き生産流通戦略
  【2】 アメリカの切りバラ生産の歴史
2003/01/16  日本における国際花き生産流通戦略
  【6】 オランダの切花生産(概要)
2003/05/06
 日本のお米を世界へ
  (朝日新聞2003/1/8社説より)
2003/02/06  日本における国際花き生産流通戦略
  【7】 オランダの切りバラ育種戦略
2003/05/22
 北京で日本のバラを! 2003/02/09  日本における国際花き生産流通戦略
  【8】 オランダの生産の自動化
2003/07/10
 東南アジアへの柿の輸出 2003/02/24  日本における国際花き生産流通戦略
  【9】 オランダの環境対策
2003/08/21
 日本における国際花き生産流通戦略
  【3】 南米エクアドルの切りバラ生産
2003/02/26  日本における国際花き生産流通戦略
  【10】 オランダの国際市場戦略
2003/10/08
 日本の農業の担い手は2種類ある 2003/03/11  日本における国際花き生産流通戦略
  【11】中国の花き消費動向の現状と予測
2003/10/09


★日本における国際花き生産流通戦略
 【11】中国の花き消費動向の現状と予測(2003/10/09)

 中国の経済状況を分析すると、「もし米中衝突がなければ、50年後の中国の経済規模は日本の5倍か10倍になる」と予測されており(シンガポ−ルのリー・クァンユー上級相)、中国の経済大国化への動きが今後一層加速するとの見方はいずれも共通しています。
 この経済大国化への変化を下支えしているのが個人消費能力です。個人消費は「国民の豊かさの指標」といわれており、1人あたりのGDPで推定することが出来るといわれています。日本の過去のデータをみると、1人当たりGDPがいったん1,000ドル台に乗ると国民の豊かさは加速状態に入るとの結果が得られています。日本の1人当たりGDPが1,000ドル台に達したのは1966年で、第2次大戦から21年の長期間を要しました。しかし、その後1,000ドルから2,000ドル(1971年)への所要年数は5年、3,000ドル(1973年)へは2年、10,000ドル(1984年)へは11年と到達年が短縮され、豊かさの実現に拍車がかかった状態となっていることが判ります。
 中国の1人あたりのGDPをみると、持続的な高度成長の結果、1人当たりGDPは2001年の時点で既に900ドルを超え、2003年に1,000ドル台に到達することが確実と推定されています。したがって、今後国民の豊かさの実現が急速に進み、2010年に2000ドル台、15年に3000ドル台、20年に5000ドル台に達する見通しとされています。また、経済成長率も今後20年間平均6〜7%を維持するのは確実と考えられており、一般的な見方として2020−2025年には中国は経済規模で日本を追い越し、世界第2位の経済大国になる可能性が高いといわれています。
 このように中国は現在高度経済成長期にあたり、経済成長率は8%と世界で唯一高い水準を維持しています。その結果、内陸部と沿海部の国内地域格差が拡大しているものの、沿海部には「富裕層」あるいは「新富裕層(ニューリッチ)」と呼ばれる人々が現れています。富裕層の定義には色々な説が立てられていますが、平均年収5万元(1元15円と換算して、75万円)以上とした場合、都市部で5%程度が相当するといわれています。沿海部の人口を約2億人とすると、1,000万人が富裕層といわれる人々に相当します。一方、新富裕層の定義として、(1)個人月収が5,000元(75,000円)以上、または世帯月収が8,000元(12,000円)以上、(2)最終学歴は大学以上、(3)職位は企業の中間管理職とする説があります。この定義に基づいて北京、上海、広州の3大沿海都市の新富裕層の人口を推定すると、北京市の新富裕層は24%が相当し、北京市の人口1,122万人のうち269万人が相当します。同様に上海市の新富裕層は上海市の人口1,327万人の23%といわれ、305万人が相当します。また、広州市の新富裕層は人口994万人の27%、すなわち268万人といわれており、3都市の合計は842万人となります。その年齢構成は20〜30歳台が80%を占めています。中国国内の経済は、2008年の北京オリンピック開催を契機にさらに大きく発展すると考えられ、この新富裕層はこの中国経済の発展に伴ってさらに増加して、2010年には4億人に達するとの予測もされています。
 これらの富裕層あるいは新富裕層の消費行動は、一般の中国国民の消費行動とは明らかに異なっており、パソコンを6割が所有し、9割が携帯電話を使用し、高級レストランで食事をする人々です。
 この新富裕層をターゲットとしたマーケットは急速に拡大し始めており、例えば、北京や上海の高級マンションは平米あたり5,000〜8,000元で、販売価格は80〜100万元(1,200〜1,500万円)もしますが、完売が相次いでいます。また身近な商品では、北京資生堂の中国オリジナルブランド口紅の「オプレ」は中国産の口紅が20元(300円)に対して90元(1,350円)と高いのですが、月収5,000元の新富裕層にとっては高い買い物ではないといえます。むしろ彼らにとっては、中国産ではない高級化粧品を使うことが「新富裕層」のステータスを実感することを意味します。
 最近ニュースを賑わした「トヨタの中国進出」は、これらの新富裕層をターゲットとした戦略として有名で、中国で新しく生産を始めた小型乗用車「VIOS(ヴィオス)」は「新しい顧客がいる一つ上のクラスの乗用車に仕上げた」といわれ、新富裕層を狙って、中国国内で製造販売が手薄な「高級小型車」で出遅れをばん回する考えといわれています。「VIOS」は排気量1,500ccですが、中国初のカーナビや革張りの座席が標準装備されており、価格は同クラスの車より2〜5割高いものの好調な出足を見せているようです。
 同様な事例として、上海で生産されているフォルクスワーゲンの小型車「ポロ」は一台200万円ですが、4月だけで3千台を売り切り、年内3万台の販売が見込まれています。また、ホンダが中国で生産を始めたミニバンの「オデッセイ」は450万円の高価にもかかわらず、ディーラーからの引き合いが強く、納車は3ヵ月待ちの状態といわれます。
 新富裕層の住宅内生活状況を見ると、今後購入したい商品の1位は「大型テレビ」で、デスクトップパソコンやDVDが上位に位置しています。このように高級マンションに住み、大型テレビの前で家族が団らんしている情景が浮かんできます。この新富裕層の消費意識は「質の良い商品にお金をかける」と答えた割合が9割を越えるとの調査結果からみても、明らかな高級品志向であると推定できます。
 前述のように、新富裕層は北京市、上海市および広州市に局在しており、なかでも北京市に269万人が、そして上海市に305万人の計574万人が住んでいることを考えると、大きな消費者集団が日本の近くに存在していることが判ります。
 東京から北京へ旅客航空便は毎日10便以上が就航し、所要時間は約2時間半です。同様に東京から上海への航空便も毎日9便が就航し、所要時間は2時間と極めて近い地域ということができます。成田−上海の貨物航空便は日本貨物航空が月曜日と土曜日以外毎日、フェデックスが週5便、中国国際航空が週3便、中国東方航空が週1便運行しており、航空貨物の輸送は極めて便利な環境にあり、航空便を用いて北京あるいは上海への輸出は極めて便利な状況にあります。
 また、黄海沿岸に位置する大連や青島、あるいは天津(北京まで高速道路で1時間半)および上海から日本への貨物船舶による輸送に要する日数は3〜4日で、冷蔵コンテナを使用することが出来ます。したがって、日本国内から新富裕層が住む北京市および上海市へは船便を使用して、3〜4日で輸出することもが能です。
 以上のように、中国の経済状況はまれにみる高度経済成長期に相当し、新富裕層をターゲットとした日本から北京や上海への花き類の輸出は、極めて現実性を帯びた新たなビジネス展開をもたらすのではないかと考えます。


★日本における国際花き生産流通戦略
 【10】 オランダの国際市場戦略 (2003/10/08)

 オランダはアフリカや南アメリカ、イスラエルなどからの切花輸出攻勢を受けて切花価格の低下を招き、大変厳しい状況をむかえています。アールスメール花市場(BVA:Bloemenveiling Aalsmeer)は生産者によって設立された花市場ですが、かなり以前からケニア、イスラエル、ジンバブエ、エクアドルなどから輸出切花が出荷され、現在、全取扱量の39%がこれらの輸出国からの切花です。以前から、オランダの切花生産者のなかから、これらの輸出国からの切花の扱いを停止して欲しいとの声が挙がり、ケニアなどの花き生産会社を株主として受け入れるかどうかについて色々検討されてきていました。最近、ようやく海外生産者も株主として受け入れる方向で決着が図られたようです。このことは、オランダの切花生産に極めて大きな決断を迫ることになりました。すなわち、これらの輸出国の切花と同じ土俵(価格)で市場販売を行う限りは、気象条件などの生産環境や労働者人件費などの生産コストの面から、とうてい太刀打ちできず、アメリカの切りバラ生産と同じ道を歩む可能性も推定されるからです。これを打開する手段として、@オランダでの育種の推進(オランダからの新品種の発信:品種の差別化)、A品質向上による差別化とブランド化、B自動化を含めた生産コストの削減、C生産会社の国際化を挙げて取り組み、バラの単価は輸入が15セント/本に対してオランダ産は23セント/本と高価格を維持しています。
 @オランダでの育種の推進と差別化については、「【7】オランダの切りバラ育種戦略」で既に述べたところです。この10年間にバラの育種会社は11社に達し(世界のバラ育種会社の半数を占める)、「オランダのバラ」は「ヨーロッパのバラの代名詞」になろうとしています。同様にオランダの切りバラ品質は近年格段に向上してきており、2002年6月に訪問したアールスメール花き市場でのオランダ産の切りバラ価格はアフリカ産の2倍で取り引きされています(オランダCultra社の紹介)。このようにオランダは「高付加価値戦略」と「生産会社の国際化」で後進国からの切りバラ輸出戦略に対抗しようと考えているようです。
 日本のバラの価格が韓国やインド、中国の輸出によって急激に低下し始めていますが、オランダのようなそれに対抗するための長期戦略を聞いたことがありません。このままの状況が進めば、コロンビアやエクアドルに駆逐されてしまった「アメリカのバラ産業」の二の舞を演ずることになるでしょう。『アジアの中の日本』という意識を持つことが日本のバラ産業を発展させる一つの方向であると思います。
 もう一つのオランダの海外戦略として紹介いたします。オランダ農業・水産・自然管理省の方からオランダの将来の花き園芸の将来像についてお話を聞くことができました。
 「5年後の将来像」です。私がオランダのバラ生産会社「Fukui Flora International」の社長だったとしましょう。私の妹は「Fukui Flora International」のスペイン農場の農場長です。私の従兄は「Fukui Flora International」のケニア農場の農場長です。オランダ本社農場、スペイン農場、ケニア農場ともに、いずれも「Fukui Flora International」の農場です。スペイン農場やケニア農場からバラがFukui Flora International本社に『輸送』された場合、同じ会社の中の輸送ですから一般の『輸入』とは少々異なります。オランダ農場、スペイン農場、ケニア農場のすべてのバラはオランダに本社のある「Fukui Flora Internationalのバラ」としてアールスメール花き市場に出荷され、ヨーロッパ(EU)全土に販売されていきます。
 「10年後の将来像」です。ケニア農場からアメリカのニューヨークに切りバラが輸出されます。しかし、伝票はオランダのFukui Flora International本社を経由しますので、商品は「オランダのFukui Flora Internationalのバラ」として取り扱われ、代金の決済はオランダのアールスメール花き市場を通じて、オランダ本社に支払われます。
 このことは、新しいタイプのオランダ植民地政策と言えるかもしれないと感じながら聞いていました。


★日本における国際花き生産流通戦略
【9】 オランダの環境対策 (2003/08/21)

 オランダは運河の国といわれ、低地には縦横無尽に運河が流れています。 【PDF file】 一見きれいな風景ですがオランダの低地の大半は海抜以下であるため【PDF file:オランダの干拓方法】、汚れた運河の水は海に流れることなく停滞しています。気温が低いのでメタンの発生はみられませんが、水質汚染は大きな社会問題となっています。また生産サイドでは、地下水への塩水の混入や農業用水の汚染などから水の確保が難しく、用水のほとんどを雨水に頼っており、どの生産施設でもハウスの屋根に降った雨水を蓄えるための大規模な貯水施設を持っており、ふんだんに用水を使用することが困難な状況です。 【PDF file】 オランダで開発されたロックウール栽培システムは、当初は給液量の節約を目的に開発され、蒸散量に相当する給液量の調節が行われ、いくらかの余剰廃液は運河に排出される「かけ流し方式」でした。しかし、運河や地下水の汚染が社会問題となるに従って様々な環境規制が行われ始め、「循環式養液栽培」への変更が必要になってきました。
 オランダの環境保護法制定は、1991年に訪問した際に話題として既に挙がっており、1992年の訪問時には2000年の施行が提示されていました。1992年の段階では、オランダのロックウールをはじめとするバラの養液栽培は、現在の日本のバラの養液栽培と同じ、いわゆる「かけ流し方式」を採用しており、循環式養液栽培(クローズド・システム)を導入している所はほとんどありませんでしたが、2000年の施行以降の2001年と2002年にオランダを訪問した時には、後述のように、ほとんどの大規模生産会社では循環式養液栽培が実施されていました。
 循環式養液栽培を導入するにあたって、いくつかの解決すべき課題があり、(1)バラに適した単肥での最適養液組成の確立、(2)廃液の定期的な分析方法の確立、(3)効率的な廃液の単肥調整法の確立、(4)廃液の殺菌方法の確立、などが当面の課題として挙がっていました。単肥での最適養液組成については、その当時、既にオランダの試験研究機関が検討を終えており、速やかに対応がなされましたが、その他の課題については試験研究機関、業界を巻き込んだ対応が必要となり、1992年当時、私の所にもオランダの友人から日本の最新情報に関して相次いで問い合わせがありました。
 2001年と2002年にオランダを訪問して現状を視察しましたので、これらの課題に対する対応方法を紹介したいと思います。今回訪問した場所は、Terra NigraStokman RozenOlij RozenDeRuiterRoyal van Zanten(旧Van Staaveren)の各社です。
 廃液の定期的な分析と単肥調整については、専門の分析会社が定期的に廃液を分析し、分析結果と単肥調整の処方箋を返送するシステムが完成していました。分析会社は肥料会社と提携しており、提携している肥料会社の原液濃度に従って処方箋を作成しているため、分析費は極めて安く抑えられているようです。廃液の分析間隔は、最も短い所で毎週、最長で3週間おき、平均2週間毎に分析をしてもらっていました。 【PDF file】 単肥は8液で構成されており、施設の外に配置された供給口(ガソリンスタンドにあるようにタンクローリーから直接供給でき、施設内の原液タンクに配管を通じて供給されるシステム)がいずれの生産施設も完備していました。 【PDF file】 廃液の殺菌方法については、多くがサンドフィルターを導入しており、ロックウール栽培やココピート栽培で給液した養液の余剰水は、ベンチ下の樋で全量回収し、サンドフィルターで除菌していました。 【PDF file】
 サンドフィルターは、砂を入れたタンク内に繁殖させた原生動物に病原菌を捕食させて防除する生物防除法の一種で、施設面積が大きいと循環する養液量も多いため、かなり大規模のサンドフィルター施設が必要となります。サンドフィルター内の温度を維持するために、いずれの生産施設でもサンドフィルターは施設内に設置されており、生産効率を低下させる原因になります。サンドフィルターと類似した装置としては、瀑気槽に軽石状の資材を入れる方法を取り入れたところもあり、DeRuiter's New Rosesでは栽培ベッドの下に深さ150cmの瀑気槽が温室の地下に設置されていました。 【PDF file】
 サンドフィルターは、Pythium(根腐病)菌やPhytophthora(疫病)菌の除菌には効果が高いのですが、線虫などには効果がないため、加熱殺菌を併用していました。 【PDF file】 加熱殺菌後の高温加熱養液は、給液した「戻り養液(回収養液)」との熱交換で冷却され、殺菌された「戻り養液」に60%の新たな養液を添加して、再度給液する完全閉鎖型循環式養液栽培が行われていました。
 これらの養液栽培の他に、アルストロメリアの育種と生産をしているRoyal van Zanten(旧Van Staaveren)社では、土耕栽培でクローズドシステム(循環式栽培)を行っていました。すなわち、地中に50cm間隔で暗渠パイプを埋設し、アルストロメリアに施与した肥料の廃液を暗渠パイプで回収し、これをサンドフィルターを通して殺菌し、廃液の分析の後、単肥調整し、液肥として再び施与する方式です。養液栽培ではクローズドシステムの導入は比較的容易であろうと考えていましたが、土耕栽培でも積極的に導入しようという試みが行われており、環境を考える意識の高さ(規制の強さ?)が感じられました。
 また、多くの生産会社では環境対策基準のISO14001と品質管理・保障のISO9002を取得していました。 【PDF file】  環境保護法は、生産施設からの廃液問題にとどまらず、農薬の使用についても1990年の使用量に対して65%の削減を目指しています。したがって、農薬の使用についても大きく制限されており、天敵の導入や病害発生を防ぐ施設環境の改善が行われていました。
 オランダで生産された切花の最大の消費国はドイツであり、オランダが「環境問題を世界に提案する」ことは、ドイツ国内の地球環境保護意識の高い消費者対策ということができます。このように、オランダは「地球環境保護(地球にやさしい)」をスローガンに国際花き戦略で優位に立とうと考えています。
 日本国内でも極めて近い将来、類似の環境保護法による規制が始まる恐れがあると考えます。オランダとは異なり、日本の切りバラ生産農家の生産面積は小さく、オランダと同じ方式のサンドフィルターによる殺菌や天敵の利用、採花運搬ロボットや自動選花機の導入などに関しては種々問題があると思いますが、今後、オランダのような大規模切りバラ生産体制を充実させて環境対策に対応するか、日本の生産形態に合わせた機材の開発・普及、流通改革などを積極的に行う必要があると考えます。


★日本における国際花き生産流通戦略
 【8】 オランダの生産の自動化 (2003/07/10)

 ケニアやエクアドルなどの熱帯高地の生産国は人件費が安く、かつ環境がバラ生産に適しており、環境問題もほとんど提起されていないため、生産設備費も低く、簡単な施設でバラが生産されています。これに対して、バラを消費する温帯の先進国で切りバラ生産を行う場合には、暖房を必要とし、降雪や台風などに対応するための丈夫な施設などに加えて、高額な人件費に対するための生産効率の向上を目的とした生産設備が必要で、通常の栽培方式では対抗できない状況です。
 生産原価の安いケニアやエクアドルからの花き輸出攻勢にさらされているオランダでは、こられの国々に対抗するために、労働生産性向上対策を積極的に行っています。
 オランダは1980年代に「オランダ病」と呼ばれる高失業率(14%)、労働コストの上昇、高インフレなどの経済不況に陥っており、海外からの花き生産輸出に対抗する国際化戦略の再構築が必要となっていました。
 オランダ政府は国内経済の活性化策としてパートタイム労働制の導入による労働市場の活性化や長期的な賃金抑制策などの導入などの政策を1990年代に実施することで、2000年には失業率が3%まで低下して不況を脱し、「オランダの奇跡」と呼ばれました(ただし、現在は再び失業率が5%台まで上昇しているようです)。
 オランダのパートタイマーは大きく分けて2種類あり、週20時間(4時間/日×5日)の半日労働者と週30〜35時間の週4日労働者です。パートタイム労働者の3/4は女性で、女性労働者の2/3がパートタイム労働者です。また、男性労働者の1/6もパートタイム労働者となっています。パートタイム労働者の待遇はフルタイム労働者と差がなく、時間給はフルタイム労働者とほぼ同じとなっています。労働者の立場からみると、男性の賃金が抑制されましたが、主婦がパートタイムで働くことによって世帯あたりの収入には大きな差がなくなり、労働時間が短縮されたことによって生活に余裕ができ、週末の余暇時間が増加して消費が増大したという経済効果が現れました。
 日本では、主婦のパートタイマーの時間給は750円程度で、正規の従業員の賃金を時間給に換算すると2500円程度になることから、パートタイマーはいわゆる安い労働力として取り扱われています。これに対してオランダでは、正規の従業員と雇用条件は同じですので、パートタイマーの導入は必ずしも低賃金の確保には繋がりません。しかし、パートタイマーの勤務に対する姿勢が向上し、労働生産性を高める効果がありました。
 労働者を雇用できる条件が備わったことによって生産体系が大きく変化し、家族労働を前提とした小規模生産者から、雇用労働を前提とした大規模生産会社への転換が進み、海外市場への輸出体制が整い始めたということができます。表【PDF file】に示したように、0.1ha未満の花き生産農家数は1980年の1769戸から853戸へと半減し、0.75ha未満の総農家数は35%減少しています。これに対して1.0ha以上の生産者は約2倍に増加し、2.0ha以上の生産者数は3倍以上に増加しています。国際市場をにらんだ生産企業の大規模化への移行は近年さらに拍車がかかっています。
 このように、労働生産性の向上と生産会社の大規模化は進んだものの、ケニアやエクアドルなどの生産国の人件費とは比べものにならない高い人件費に対応するために、機械化・自動化を積極的に行っており、労働効率を低下させる作業については機械の導入を積極的に行っています。その導入の内容については、日本の感覚からは異常と思えるほどですが、時間給が2000円以上と高い人件費に対処する方法としては仕方がない状況ともいえます。日本の切花産業においても、将来、人件費の高騰が予想され、オランダの自動化・機械化は一つの選択肢となってくると考えます。
 例えば採花する作業では、採花したものを運搬する装置を導入し、採花時間の短縮を図っています。 【PDF file】 採花したものは採花バケットに入れ、運搬ロボットに採花バケットを積み替えた後、無人で冷蔵庫まで運搬します。採花箱運搬ロボットは採花バケットを6個収納でき、通路に設置したレールに従って冷蔵庫まで自走します。冷蔵庫では全自動クレーンが無人で採花バケットを吊り上げて、切花保持剤が満たされたプールに運んでいきます。 【PDF file】 これらの運搬装置や運搬ロボットの導入にはかなりの設備投資が必要であろうと考えますが、「毎年支払う人件費を考えると年々の減価償却費の方が明らかに安く、経営上当然のことである」との答えが返ってきました。
 また、自動選花機をいずれの生産施設も導入しており、人件費削減に対する配慮がなされていました。 【PDF file】 しかし、これらの設備投資は、当然、生産価格に大きな影響を及ぼしており、販売価格が低いと生産原価を割ることになるため、後述する「差別化販売戦略(ブランド化戦略)」が必須となっています。
 生産効率を上げるための自動化・機械化は切バラ生産に限らず、鉢物生産や切花生産、、野菜生産でも同様に導入されており、Ebb & Flow(プールベンチ)の移動が全自動運搬ロボットで行われていたり、 【PDF file】 温室を2階建て構造にして出荷場の2階が生産施設になっています。 【PDF file】 
 また、人間工学的な観点から、出荷調整や鉢の移植などの作業工程において、全ての器具・装置の配置が労働者の体格に応じて設計されており、労働生産性の向上を図るためのきめ細やかな配慮がなされていました。日本では、作業台の高さが労働者の身長に合っていなかったり、椅子を共有していたりして、作業者の体型と作業施設が合っておらず、「肩こり」「腰痛」「関節痛」が当たり前で、実はこれが労働生産性を低下させる大きな原因であることに気が付いている人は少ないのが残念です。「気持ちよく働ける環境」こそが「最大の労働生産効率をもたらす」ことに早く気が付く必要があると思います。
 最近、私が訪問したオランダの生産会社を下記のページで紹介しています。是非見てみてください。
De Ruiter's New Roses International B.V.社 (http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/03-dutch-rose01.htm)
Royal van Zanten社 (http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/03-dutch-breed01.htm)
Kwekerij W. van Diemen社 (http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/03-dutch-pot02.htm)
Bunnik Plants社 (http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/03-dutch-pot03.htm)
Bunnik Vriesea's社 (http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/03-dutch-pot01.htm)
Lansbergen Gerbera's社 (http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/03-dutch-cut01.htm)
I. A. Bos B.V.社 (http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/03-dutch-veg01.htm)


★日本における国際花き生産流通戦略
 【7】 オランダの切りバラ育種戦略 (2003/05/22)

 世界の園芸大国といわれるオランダでも国内の切りバラ生産は60%程度で、アールスメアー(Aalsmeer)花市場フローラオランダ(Flora Holland)花市場で取り引きされる切りバラの約40%が海外からの輸入です。この海外依存率40%はアメリカの1990年の輸入量に匹敵しており、この年を境にアメリカの切りバラ国内生産が崩壊し始めました。 【(PDF file:アメリカのバラ輸入量】 オランダがアメリカと同じ道を歩むとは思いませんが、オランダ国内の切りバラ生産量は今後減少する可能性があると予想できます。このような状況の中で、オランダが国力を投じて切りバラの生産振興に努力しており、その一つの方向性として育種を挙げることができます。
 世界中に切りバラの育種会社は50社程度あるといわれており、その中でオランダの切りバラ育種会社は14社にのぼります。 【PDF file】 切りバラの育種会社は、日本の他、ドイツ、フランス、アメリカ、ニュージーランド、スウェーデン、韓国などにもありますが、1国で14社という数は飛び抜けて多い数です。今回は、オランダの切りバラ育種戦略を考えてみます。
 202年に日本で種苗登録されたバラ品種は92品種あり、その多くはコルデス(W. Kordes' Sonne)タンタウ(Rosenwelt Tantau)メイアン(Meilland International)京成バラ園芸で育成されたものですが、オランダで育成された品種はそのうちの14品種を占めており、全体の15%です。 【PDF file】 同様に、韓国でも主要20社として挙げられているバラ育種会社の内、オランダの育種会社は6社の名前が挙がっています(http://www.gcri.com/tech/flo/rose/stoc.htm)。
 ヨーロッパをターゲットとして生産・輸出を行っているケニアについてみると、生産されているバラ42品種の育成国の内訳は、ドイツ育成品種21品種【PDF file】、オランダ育成品種9品種(Astra、Cream Prophyta、Evelien、Jaguar、Joy、Porcelina、Prophyta、Souvenir、Vivaldi)、フランス育成品種6種類(Fire King、First Red、Leonidas、Minuette、Sonia、Versilia)、アメリカ育成品種3品種(Disco、Laminuette、Tineke)、その他の国育成品種3品種(Darling、Gabriella、Gerdo)で、ドイツ育成品種が全体の50%、オランダ育成品種が22%を占めています。
 ケニアで生産されているバラの品種のなかでドイツで育成された品種が半数を占め、そのうちコルデス社(W. Kordes' Sonne)で育成されたものは17品種です。 【PDF file】 コルデス社は国際化戦略の一貫として、10年以上前にオランダ国内のスキポール(Schiphol)空港近くにInterplants B.V.社を子会社として設立し、営業活動の多くをオランダInterplants B.V.社に移しています。したがって、ケニアで生産されているバラ品種のうちで、コルデス社(Interplants B.V.社)とオランダ育種会社を併せた品種は実に全体の62%にも達し、ヨーロッパへ輸出攻勢をかけている東アフリカ諸国に対してオランダが圧倒的な育種力を示し、大きな地位を確保しているといえます。
 この戦略は、次のような流れとして理解することができます。(1)東アフリカ諸国はヨーロッパに切りバラを輸出販売をしようと考えている。(2)ヨーロッパで売れている品種を生産したい。(3)ヨーロッパで売れているバラ品種はオランダ産のオランダ育成品種である。(4)東アフリカ諸国はオランダから品種の苗を購入する。(5)品種の苗を購入した東アフリカ諸国はオランダにパテント料(品種育成特許料)を支払う。(6)オランダの育種会社には多額のパテント料収入が入る。(7)パテント料収入の一部はオランダ国内の切りバラ生産振興に使用される。(8)オランダ国内の切りバラ生産が盛んになる。(9)オランダで生産された切りバラはヨーロッパ全土に販売され、オランダの地位がますます高くなる。→(10)東アフリカ諸国はオランダ育成品種を購入して栽培せざるを得なくなる。
 オランダの切りバラ育種会社の多くは、切りバラ生産も同時に行っている切りバラ生産会社でもあることを考えると、上記のオランダの国際戦略はより一層充実した状況になるものと考えます。すなわち、自社で育成した品種を自社の大規模生産施設で大量に生産・出荷することで市場性をより一層高め、輸出攻勢をかけようとする東アフリカ諸国の注目を集めやすくすることになります。また、オランダで生産された切りバラがEU圏内の60%のシェアを確保し、維持していることは、このオランダの国際育種戦略を遂行する上で極めて重要なポイントであるということができます。もし、オランダの切りバラ生産がアメリカのように崩壊し始めると、以前は切りバラ生産国であったドイツのコルデス社のように、生産国であるケニアやザンビアに販売拠点を移すことになり、オランダの育種事業の空洞化が始まることになると考えます。
 この点からみると、日本最大のバラ育種会社である京成バラ園芸は切りバラ生産能力を持たないため、品種販売ディーラーの役割しか持つことができません。したがって、オランダのような育種戦略を実行することは不可能であり、ドイツのコルデス社のような販売戦略を立てざるを得なくなるものと考えます。すなわち、日本の切りバラ生産が盛んであり続けることは、切りバラ品種販売会社である京成バラ園芸の企業戦略としても重要であり、京成バラ園芸と日本の切りバラ生産者は共存関係を維持することが重要であるといえるでしょう。
 近年、日本国内の切りバラ生産者の中から、バラ育種に積極的に取り組み始める方々が現れ始めており、私が最初にオランダを訪問した15年前のバラ育種戦略創生期に近い状況が見られるようになってきています。このことは、オランダにおけるコルデス社(Interplants B.V.社)がオランダ国内の切りバラ生産・育種会社と共存・発展していったように、日本国内で京成バラ園芸がコルデス社と同様な役割を担い、さらに国内の生産・育種会社と共にアジア切りバラ戦略を実施していく上で重要と考えます。すなわち、中国や東南アジアの熱帯・亜熱帯高地の切りバラ産地が、切りバラ生産・消費先進国である「日本で売れている品種」を生産する、という大きな流れを作ることができると考えます。


★日本における国際花き生産流通戦略
 【6】 オランダの切花生産(概要) (2003/05/06)

 ヨーロッパの花き消費額は5兆5278億ドルに達し、北米の5.5培、日本の17倍の花き消費があります。なかでもドイツは2兆127億ドルを消費する大消費国で、ヨーロッパ全体の37%を占めています。 【PDF file】 これに対して花き施設面積をみると、オランダが5,518haで最も多く、消費量の多いドイツはオランダの半分にも満たない2,713haと少なく、ドイツは花き輸入依存型の国であることが判ります。 【PDF file】 同様にフランスも消費量に比べて生産面積が少なく、花き輸入依存国であるといえます。しかし、ドイツとフランスには切りバラ育種会社の老舗ともいえるコルデス(W. Kordes' Sonne:ドイツ)とタンタウ(Rosenwelt Tantau:ドイツ)、メイアン(Meilland International:フランス)があり、このことはドイツやフランスが、以前は切りバラ生産国であった時期もあることを示しています。したがって、現在は切りバラ消費国に生産用切りバラの育種会社が存在することとなり、産地と直結していない育種会社の宿命として、いずれの育種会社も20年前のような活気は見られなくなっています。
 このような状況から、ヨーロッパではオランダが生産と消費を備えた国として発展してきており、現在ではバラの育種会社も14社が存在します。オランダで生産された花きはアールスメール花き市場(Aalsmeer Flower Auction)オランダ花き市場(Flora Holland)などの大規模花き市場からドイツやフランスに輸出されると共に、ケニアやエクアドルから輸出される花きも同様にこれらの市場を経由してドイツなどの消費国に再輸出され、オランダはヨーロッパにおける花き流通のハブ機能を目指しているといえます。 【PDF file】 
 オランダの気候についてみると、気温は7〜8月でも平均17.3℃で、名古屋の27℃に比べて10℃低く、冬季は平均気温が3℃と低いのが特徴です。また、日照時間は6〜7月には16時間を超えますが日射量は少なく、冬季は8時間程度と名古屋より2時間短く、日射量も松本の1/6以下です。 【PDF file】 したがって、冬期間は暖房に加えて補光栽培を行う必要があり、生産経費の上昇を招いています。 【PDF file】 一方、人件費についてみると、オランダでは日本のようなパートタイマー労働者の制度がなく、すべての労働者は男女の区別なく平等であり、さらに海外からの労働者の移入に対しても近年厳しく規制していることもあって、生産コストに占める人件費は高く、労働者の時間給は1時間当たり2000〜2500円と日本の3倍程度となっています。このように生産経費が高いにもかかわらずオランダの切りバラ店頭価格は安く1本45〜90円で、アールスメールの花市場の仲卸(Cultura社)の価格が1本25〜80円程度であったことから、生産者価格はさらにこれより低いと考えられ、消費量は多いものの生産者価格は日本の1/2程度と判断できます。
 このように生産を取り巻く環境が悪い状況でケニアやエクアドルからの低価格の切花輸出に対抗するために、オランダでは国を挙げていくつかの国際戦略を実施しています。(1)育種を積極的に進め、輸入相手国に対する種苗規制を強化する、(2)アールスメール市場に代表されるように切りバラの流通を自らが掌握し、自らの手で価格形成を維持する、(3)積極的な経営の合理化を図り、生産コストを削減する、(4)環境問題を世界に提案しオランダの国際ブランド化を図る、などが挙げられます。


★日本における国際花き生産流通戦略
 【5】 イスラエルのバラ生産 (2003/04/22)

 イスラエルはヨーロッパを輸出対象とするバラの輸出生産国で、ケニア、エクアドルインドと共にヨーロッパの切りバラ生産に大きな影響を及ぼしている国の一つです。イスラエルの人口は620万人、面積は210万haで、日本のほぼ1/20と少なく、国土全体が乾燥地帯であることから耕地面積は34万haで国土の17%しかありません。気候は厳しく、年間降水量は647mmで5〜9月までの5カ月はほとんど雨が降りません。 【PDF file】 また、12〜2月は平均気温が10℃以下で、雪が降ることもあります。 【PDF file】 このように自然条件が厳しいイスラエルでは露地栽培が困難であることから施設を使った農業が特に発達し、1980年には900haであった施設栽培面積は1990年には2,000haに、そして2000年には3,800haと拡大しています。乾燥地で降水量が少ないため潅漑技術が進んでおり、養液土耕(点滴栽培)を始めとするハイテク農業技術でも有名な国で、施設園芸はコンピューター産業・情報産業と同様に国を支える産業として位置付けられています。資源の少ないイスラエルでは知識・情報を資源と考えて教育に力を入れており、教育水準が高く、農業者が自らコンピュータ技術を駆使して栽培管理システムを構築したり農機具を開発しています。このことが、単なるコスト削減のための大規模経営による農業ではなく、土地風土に合った農業の構築に役立っています。
 イスラエルは人口が少ないため、施設で生産される農産物はもっぱら輸出にむけられています。イスラエルはヨーロッパや米国と自由貿易協定を結んでおり、農産物貿易が盛んで、肥料や農業生産資材等を含めた農業関連輸出額は主要産業であるコンピューター産業をも上回る実績を持ち、農産物では付加価値の高い花き類と果実を中心に栽培が盛んです。なかでも花は、イスラエルの輸出総額の29%を占めています。このように農業を取り巻く背景は日本や韓国に近く、将来の日本における切りバラ生産の一つの方向性をみることができます。
 イスラエルの生産団地は「キブツ」といわれる集団農場で、温室と共に住居も建設し、人間も他の場所から移住してきて生産団地を形成します。 【PDF file】 この他に家族単位で共同農場組織を形成するモシャブもあります。
 バラの施設栽培は1970年代に始まり、1990年には生産・輸出量が3000万$に達し、その後3000〜4000万$で推移しています。 【PDF file】 イスラエルから輸出されるバラのヨーロッパでのシェアは1991年には約8%に達しており、オランダに次いで2位となっています。ヨーロッパでのシェアはその後も8%を維持していますが、ケニア、ジンバブエなどの東アフリカ諸国からの切りバラ輸出が急増したため、1995年にはオランダ、ケニア、ジンバブエに次いで4位に下がっています。 【PDF file】 
 イスラエルの気候の特徴として、高日射量と1日の寒暖の差が大きいことを挙げることができ、高品質のバラが生産できます。イスラエルは降雨が少ないため、ほとんどの施設はガラスハウスではなくフイルム被覆です。晴天日が年間300日といわれる程日射量が極めて高いため、高温防止と遮光を兼ねて白色の被覆資材が用いられています。 【PDF file】 天窓の構造が日本と異なっており、開放面積が大きく効率的です。 【PDF file】 薬剤散布は主に煙霧機を用いており、作業者の健康に気を遣っています。また、湿度が低いことを利用してパット・アンド・ファンによる冷房がどの温室にも設置されていました。イスラエルの生産会社の面積は平均1haと小さいのですが、コンピュータで炭酸ガス濃度、冬季の暖房、夏季のパッド アンド ファンによる冷房、潅水と養液の施与が最適制御されており、生産性が高く、300本/uに達しているとのことです。写真【PDF file】は採花直後の状態を写したものですが、1株からかなりの本数の切りバラが収穫されていることが判ります。しかし、よく見るとかなり細いもの(短いもの)も収穫されており、品質よりも収量を重視した切りバラ生産が行われていることが理解できます。実際に収穫したバラの選花を見ましたが、日本では規格外として扱われるものでも出荷されていました。私が訪問した切りバラ生産会社では専門の営業職員がおり、ヨーロッパ各地での切りバラ需要調査と販売交渉を行っており、例えば、イタリアで30cmのバラの需要先を探してきて輸出することが行われていました。また、イスラエルでは政府と生産会社が出資して設立した輸出促進会社アグレシコ(Agrexco)があり、輸出業務および市場との交渉業務を担当しています。
 日本の切りバラ価格を見ると、3L、4L級の価格が低迷しており、B級品の価格がさほどの低下が見られないことから、今後、これまで規格外として出荷しなかったものについても生産体系のなかに組み入れていくことも必要であるかもしれません。
 特記事項として、労働者として中国人研修生を受け入れていましたが、その経営者の話に興味が惹かれました。「中国は将来世界でも有数の切りバラ生産・消費国に成長するでしょう。イスラエルに研修に来ている中国人研修生は、帰国後、中国国内でバラを生産し始めます。その場合には、イスラエルで経験した生産施設を使い、同じ生産方式で生産を開始します。その場合には、直接生産指導にも出掛けます。そうすることによって、イスラエルの生産施設や資材を中国に輸出することもできますし、研修生と密接な関係を維持することで中国での生産をコントロールし、イスラエルから中国にバラを輸出することも可能になるでしょう」
 単純に安い労働者として中国人研修生を雇用するのではなく、長期的な国家戦略の基に立って中国人研修生を受け入れていることに感心しました。


★日本における国際花き生産流通戦略
 【4】 東アフリカの切りバラ生産 (2003/04/08)

 世界の切花消費地域はアメリカ、ヨーロッパ、日本に大別でき、ヨーロッパではドイツの消費量が多く、日本に匹敵する切花が消費されています。ヨーロッパ市場を対象とした生産地域として、ケニアを中心とした東アフリカを挙げることができます。
 現在、東アフリカの切りバラ生産は急速に増加しており、ケニア、ジンバブエ、ザンビアなどの赤道直下の1000m以上の高地で生産された切りバラが大量にヨーロッパにむけて輸出され始めています。 【PDF file】 これらのバラ生産国の中で最も生産量の多いケニアについて解説をします。ケニアの首都ナイロビ(Nairobi)の緯度は南緯01度の赤道直下ですが、南には標高5896mのキリマンジャロ山があり、北には5199mのケニア山に挟まれた標高1624mの高原台地です。年平均気温は19.1℃で、7月が17℃と低く、10〜5月までが20℃前後と温暖な気候です。 【PDF file】 気温の日格差は大きく、日中の最高気温は30℃程度になり、最低気温は12℃まで低下します。この日格差はバラの花色や品質に大きく寄与し、オランダでのケニアのバラの高い評価に繋がっています。また、気温の日格差は日中の湿度にも関係し、日中の湿度は60%程度まで低下します。年間降水量は722mmと日本の1/2以下で、3〜4月と11〜12月に雨季がありますが、年間の日射量が高いのが特徴です。 【PDF file】 このような環境から多くの生産は無加温施設で行われており、日射量が高いため平均収量は高く205本/uです。
 土壌は必ずしもバラ生産に適していませんが、有機質を混合した土壌を用いた栽培ベッドに定植することで栽培が可能となっています。しかし、この隔離ベッド方式を採用したことで、良質な水が豊富にあれば地域を選ばないで生産することが可能となっています。年間降水量は722mmと少ないのですが、万年雪を冠するキリマンジャロ山やケニア山からの雪解け水が豊富で、潅水のための水が不足することはありません。
 ケニアでのバラ生産は1960年代にオランダ人の技術提供によって始まり、1970年代には生産されたキクやカーネーションがオランダやドイツへ輸出されていました。1980年代にはキク、カーネーション、スターチスを生産する100haの大規模生産会社が現れ始め、1990年代には空港の整備などに伴って切りバラ生産が急速に発達し始めました。1990年の切りバラ生産面積は27haで、カーネーション生産面積250haの1/10でしたが、1995年にはカーネーション生産面積とほぼ同じ210haに達し、1997年にはカーネーションの2.7倍の550haまで増加し、2001年には855haに達しています。1998年の統計によるとケニアで生産される切花のうちバラが最も多く17,977tで、次いでスターチス3,267t、カーネーション2,842t、アルストロメリア1,903tとなっています。このようにケニアにおける切りバラ生産は急速に発達し、1990年代後半にはヨーロッパ市場においてオランダ、イスラエルに次ぐ第3位のバラ生産供給国に成長しています。これらの生産された切りバラの65%はオランダに輸出され、16%がイギリス、9%がドイツに輸出されています。 【PDF file】 オランダに輸出された切りバラは、アールスメール(Aalsmeer Bloemenveiling)やフローラオランダ(Flora Holland)を経由して全ヨーロッパに輸出されています。ヨーロッパで消費される切りバラの内、ケニアの占める割合は7%に達しており、ジンバブエやザンビアなどを含めたアフリカ諸国からの輸出が占める割合は1997年には18%に達しており、年々増加する傾向にあります。ケニアの切りバラのアールスメール市場での平均取引価格は0.20$(24円)です。
 ケニアでの切りバラ生産の状況を述べると、収量は2,055,296本/ha(205本/u)、労働力は12人/ha、輸出価格(F.O.B.)は1.57円/本となっています。生産に関わるコストは、10aで年間129,900円で、苗代が最も大きく639,000円(52.8%)、次いで人件費171,300円(14.2%)、土地代16,800円(13.9%)、農薬費72,000円(6.0%)、肥料代63,600円(5.3%)などとなっています。 【PDF file】 ケニアの切花生産農家は約5000あるといわれていますがその多くは零細農家で、100haを越える大規模生産会社25社が全体の75%を生産しています。小規模生産農家は品種の高額なロイヤリティー(パテント代)や航空運賃などの高額な生産コストの影響を受け、淘汰される状況にあり、大規模生産会社の占める割合が今後ますます高くなると推定されています。大規模生産会社のなかには6000人の労働者を雇用しているところもあります。
 ケニアの日中は高温となるため開花が進みやすく、収穫は1日数回にわたる場合が多く、収穫したバラは速やかにバケットに入れられます。収穫後の処理は徹底して行われており、採花直後に切口をpH3.0〜3.5の溶液に4時間に4℃で処理され、その後、ショ糖、殺菌剤の溶液に入れられます。選花以外の過程は生産農場→トラック輸送→空港→航空便のいずれにおいても2〜4℃で維持されています。
 ケニアの人口は約3000万人で、ジンバブエ、ザンビアなどの周辺諸国を合わせても6000万人程度であり、この地域で生産した切花を消費することは不可能であることから、約3億8000万人のEU圏に輸出せざるを得ない状況です。同様のことは前述のコロンビアやエクアドルにも当てはまり、両国の人口も5500万人に過ぎず、約3億人の北アメリカに生産した切りバラの消費を委ねることになります。
 ケニアの主な輸出農産物はコーヒーです。温帯以外の世界のバラ生産地域を見渡すと、コロンビアやエクアドル、ケニアやザンビア、インドや雲南省など、コーヒー生産地域とバラ生産地域がかなりの頻度で重なることが判ります。後に述べることになりますが、アジア圏のコーヒー生産国は、インドネシア、インド、ベトナム、雲南省、パプアニューギニア、マレーシア、スリランカなどがあり、これらの諸国は、将来のバラ生産国となる可能性を秘めているということができます。


★日本の農業の担い手は2種類ある (2003/03/11)

 日本の農業の将来を支える担い手を育成する必要性がさけばれています。地域の農村を見渡すと、「農業の担い手」には2種類あると思います。一つは一般にいわれている「若手後継者」で、二つ目は「女性と高齢者」だと思います。
 40〜50歳代の生産農家から後継者対策について相談されたことがあります。後継者の育成に重要なことは「農業の魅力」をいかに伝えるかにかかっています。産業としての農業の魅力を伝えるには「儲かる農業」と「楽しい農業」を示すことです。農業者である父親が子供の前で「儲からない。疲れた。」と言っているようでは子供は農業を継ぎたいとは思わないでしょう。ウソでも良いから子供の前では「高く売れた。楽しい。」と言い、ゴルフに行ったり、釣りに行ったり、サラリーマンには出来ない余裕のある生活を楽しむことが重要です。サラリーマンの年収を500万円として、労働時間を2000時間とすると、時間給は2500円になります。農業収入の基本は時給2500円以上を確保することだと考えます。これに余裕のある生活が加われば、子供達は「サラリーマンをするより農業が良い」と考えるようになるでしょう。夫婦二人で800万円の収入で満足していては、時給2500円を確保することは出来ません。
 もう一つの担い手としての「女性と高齢者」について考えてみましょう。各地で地産地消がさけばれ、ファーマーズマーケット(農産物直売所)が活気を帯びていますが、その主役は「女性や高齢者」です。それまで男社会であった農業、農協一辺倒であった農業が大きく変化し始めているように感じます。都市住民といえども、50年前は農村の住民だった人がほとんどです。地産地消は都市住民の「ふるさと回帰」ともいえる行動で、「ふるさと」の主役は女性と高齢者です。日曜日のドライブを兼ねて農村を訪れ、ファーマーズマーケットで農村の女性や高齢者と会話し、擬似農業体験を楽しんで、都市の生活に戻っていく。それに加えて、町のスーパーよりチョット安い新鮮な野菜や花が加われば何もいうことはありません。市場流通を基本とする大量生産生産ではない「顔の見える農業」の姿が見えてきませんか?
 農業改良普及センターや市町村の農業担い手対策事業は「後継者対策」に偏っていると思います。女性や高齢者が生き生きと農業に取り組める環境整備が整っていません。「2種類の農業の担い手」対策をそろそろ考える必要があると考えます。


★日本における国際花き生産流通戦略
 【3】 南米エクアドルの切りバラ生産 (2003/02/26)

 1960年代から1970年代にかけて、オランダの花き産業は世界に対して圧倒的な支配力を強めていきました。その情勢を見た第3世界の指導者は花きが外貨を稼げる国際市場商品であることに気が付きはじめ、タイやマレーシアなどのアジア諸国、ザンビアやタンザニア、モーリシャスなどのアフリカ諸国、コロンビアやエクアドル、ペルーなどの南アメリカ諸国などでバラが生産されはじめました。花きは生産技術を習得できれば労働集約型の工場的大規模生産が可能で、それまで行われていた果樹のプランテーション生産と比較して面積あたり5倍以上の収入が期待できます。また、バラ、キク、カーネーションなどの主要切花の生育適温は20±5℃で、標高2000m以上の熱帯高地では1年中この気温を確保することが出来ます。
 エクアドルの首都キト(Quito)は標高が2794mで、年平均気温は13.7±0.2℃と年間気温が安定しています。 【PDF file】 この気温は岐阜の4月に相当し、バラ生産において最適な環境といえます。エクアドルのバラ生産地は首都キト(Quito)周辺で、30社以上のバラ生産会社があるといわれ、広大な農地と多数の労働者、航空輸送の便が良いことも魅力です。キト(Quito)周辺の土壌は砂壌土で、5,911mのCotopaxi山の万年雪の雪解け水が豊富であるため多くは土耕栽培ですが、近年養液栽培も普及しはじめています。キト(Quito)周辺は無霜地帯で、日射量が多いため無暖房で栽培ができます。また熱帯無風地帯であるため強風はなく、木枠にビニルシートを張った温室でも充分ですが、近年では大型パイプハウスも普及しています。 【PDF file】 エクアドルのバラ生産会社の栽培規模は10〜30haで、100〜400名の労働者を雇用しています。エクアドルでの切りバラの収穫は45〜57日(6〜8週)で、年間6回の切花収穫が行われ、株は5〜7年で更新されています。
 エクアドルの輸出用バラ生産は1983年から始まり、1991年にアメリカで可決されたThe Andean Trade Preference Act (ATPA)を契機に一気に増加しました。The Andean Trade Preference Act (ATPA)について解説すると、ATPAは「アンデス貿易特恵法」と訳され、アンデス地域からアメリカ市場へ輸出される農産物に対して免税処置を与えることで、これらの国々での麻薬植物(コカ;コカインの原料)の栽培から経済作物栽培への転換を促すことを目的としています。また、農産物以外の製品に対しても同様に免税処置を与えることで国内の経済発展を支援し、政府が麻薬テロリズムと戦うための民主主義および政治的な安定を支援するための法律です。ATPAの施行以来、アンデス地域からアメリカへの輸出は2倍以上増加し、1995年から2000年の間に100万エーカー以上のコカ栽培面積が切花やバナナなどに転換され、麻薬作物根絶と代替経済作物栽培に成功しました。なかでも最も重要な代替農産物として切花を挙げることが出来ます。ATPAは2001年12月4日に終了しましたが、ブッシュ大統領はATPAの更新と継続を決定しています。
 この法律が1991年に施行され、エクアドルからのアメリカへの輸出に対する関税が免除されると急速に切花生産輸出量が増加し、それ以前は1,000万$程度であった切花輸出額は毎年2,000万$以上の増加を示し、2001年には2億2,900万$に達し、世界第5位の花き輸出額を誇る切花輸出大国となりました。 【PDF file】 2001年にはアメリカ国内のバラ消費量の32%のシェアを確保し(64%とのデータもある)、さらにヨーロッパをも対象とした国際戦略を進めています。主な輸出先は、アメリカが63%、オランダが16%、ドイツとイタリアが各々8%です。 【PDF file】 切花の栽培面積は1997年には2,000 haに達し、2002年には3,500haを越えるといわれています。エクアドルの切花生産の特徴は、バラに特化していることで、品種の多さや蕾の大きさでは南米先進国のコロンビアより優れています。
 収穫したバラは集荷場で前処理(殺菌液を吸水させる)した後、冷蔵庫に入れられ、15℃に設定された選花室で選花されます。選花された花は1束25本、10束を1箱にして立箱に入れられ、2段階の変温施設で5℃まで下げられます。空港までの輸送は冷蔵車で行われ、空港にも冷蔵庫が設備されており、コールドチェーンが完備されています。
 近年の問題として、農薬の汚染と地下水汚染があります。エクアドルの切りバラ生産は輸出を目的としており、植物検疫のために大量の農薬が使用され、労働者の農薬被爆が問題となっています。また、バラの生産地が高地の水源地域であるため、地下水汚染は深刻な問題となっています。この対応として、コンポスト(堆肥)の使用による有機栽培や天敵利用が行われ始めています。
 後に述べるように、エクアドルやコロンビアと同じ気候条件はアフリカのケニアやザンビア周辺にも存在し、これらの熱帯高地が世界の花き生産・流通の鍵を握りはじめています。熱帯高地は当然アジアにも存在し、将来の日本の花き生産に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
 アメリカの切りバラ生産を壊滅状態に陥れたエクアドルのキーワードは、「熱帯高地、高日射量、熱帯無風地帯、多数の労働人口、低賃金労働力、広大な面積、豊富な水資源、空港の整備」を挙げることができます。


★東南アジアへの柿の輸出 (2003/02/24)

 私が花の研究を始める前の果樹(柿)研究者だった時代に、ニュージーランドの柿生産会社「SO-FRESH社」を訪問し、お叱りを受けたことがあります。ニュージーランドは世界有数の柿(富有柿)生産輸出国です。主な輸出先は、香港、シンガポール、バンコクなど東南アジア諸国です。熱帯地方では柿は生産できないため珍しい果物であり、柿はリンゴなどと違って酸味がなく、甘さが強いことからどちらかといえば熱帯果樹に近い食味であり、東南アジアでは高級果物として流通しています。
 1980年頃、当時の岐阜県経済連が東南アジアに富有柿を輸出したことがあります。しかし販売実績はふるわず、2年で取り止めたとのことでした。輸出した富有柿は形の良い2Lや3Lではなく、MやSクラスの柿で、その理由として「東南アジアに高い富有柿を送っても高すぎて買えないから、そこそこの価格で販売できる2級品を送った」とのことでした。「日本から輸出された2級品の柿が東南アジアのデパートの店頭に並び、それがほとんど売れなかったために、それまで有利に販売されていたニュージーランドの柿も売れなくなってしまった」というのがニュージーランドの柿生産会社の販売部長のクレーム内容でした。「東南アジアで柿を購入する人々は富裕層で、高級輸入果物として柿を購入している(ヒョッとすると普通の日本人は足下にも及ばない大金持ち)」という発想ができず、「東南アジアの人々は貧しい」という情けない差別意識が、大きなマーケットを取り逃がしたということができるのではないでしょうか。


★北京で日本のバラを! (2003/02/09)

 中国では春節(旧正月)に赤いバラが高値をよびます。普通の時期の価格は1本0.3元(4.5円)程度ですが、昨年の春節直前のバラの市場価格は1本4元(60円)まで高騰しました。岐阜県内の切りバラ生産者が2月1日の春節にむけてバラを輸出しようと考え、市場調査を兼ねて岐阜市の「亜細亜園芸事業コンサルタント」の鄭社長に赤バラを北京に持っていってもらい、価格調査を行いました。北京莱太花卉市場での回答は「値段を付けられない」とのことでした。その理由は、中国国内で販売されているバラの品質と比較すると格段に品質が高く、対応した市場担当者は「こんなバラは見たことがないので、いくらで売れるか判らない。10元(150円)で買う人がいるかもしれないし、ヒョッとすると大金持ちの中には20元(300円)で買う人もいるかもしれない。どんな反応が出るのか予想がつかないので、値段を付けられない」ということでした。
 中国には北京や上海などの大都市を中心に富裕層とよばれる人々がおり、その数は564万人にのぼるといわれています。これらの人々はマンションに住み、大型テレビを見て、パソコンでインターネットを楽しみ、高級レストランで外食をする人々で、ベンツやアウディに乗る超大金持ちも沢山います。「中国は後進国で、日本に農産物を輸出する貧しい国」と考えている人がもしこの文章を読んでおられたら、考え方を改めてはいかがでしょう。
 日本の花の品質が高いことは中国でも有名で、富裕層の人々は「中国国内で生産された花ではなく、最高級品質の日本の花を家に飾ること」にステータスを感じる人々です。日本国内で「花の価格が安い」と嘆いている生産者の皆さん、目を海外に向けて「中国に花を輸出する」ことを真剣に考えてみませんか?中国ではシンビジウムやシクラメンが日本の園芸店の価格よりも高い値段で売られていることをご存じでしょうか?


★日本のお米を世界へ(朝日新聞2003/1/8社説より) (2003/02/09)

 【水田の4割の減反、消費の1割近い輸入の果てに、この瑞穂の国で「縮み志向」から脱する動きが芽吹き始めた。新潟県加茂市の農民52人でつくる加茂有機米生産組合は一昨年、米国にコシヒカリを輸出した。現地の日本人の注文が発端だったが、米国人も加わり、昨年は2回計1トンほどを送った。今年はもっと増やす。値段は5キロ入りの袋が40ドルと現地米の5、6倍する。「それでも産直だからスーパーで買うより安い。有機農法で安全だし格段においしい、とリピーターが増えている」。代表の石附健一さん(44)はいう。価格差以上の「付加価値」があれば道は開ける。手応えを感じた石附さんは、次におにぎり屋の出店を考えている。素材の価格差を吸収できるうえ、炊飯や調理まで含めた日本米の真価を伝えたいからだ。 90年代以降、コシヒカリ、あきたこまちなど日本で開発された品種の海外生産が広がった。世界的なすしブーム、日本食への評価の高まりが背景にある。「ここで日本農業が出なければ、日本農業なき日本食が世界に広がる」と懸念するのは伊東正一・鳥取大助教授だ。「素材も日本直輸入とうたう日本食店に客は魅力を感じるはず。健康・自然志向の流れに日本の食文化が果たす役割は大きい」。 台湾では、1年前の世界貿易機関(WTO)への加盟を機に日本農産物ブームが起きた。2キロ入り500元(約1800円)と台湾米の6倍もする魚沼コシヒカリが人気を呼び、60トンが1カ月弱で完売した。成長著しい中国では、ぱさぱさしたインディカ米からジヤポニカ米へと急速に生産が移行した。富裕層が増えて、おいしいご飯を食べたいという欲求が高まっているのだ。ジヤポニカの代名詞である日本米のプランド力が生きる時代が来たといえる。台湾や中国に限らず、豊かになったアジア各国では、味や安全への関心が高まってきた。日本米が入り込む余地はある。大手商社で食糧畑を歩んだ白岩宏さん(62)は雑誌に発表した「輸出戦略構想」の中で、「輸出市場があれば、海外、国内の有利な方に販売することで需給も調整される」「閉塞感が打破され、意識改革が進むメリットも大きい」と指摘して、官民あげての市場開拓努力などを訴えている。それに呼応、米輸出プロジェクトの立ち上げ宣言をしたのは千葉県佐倉市の印旛沼土地改良区副理事長の兼坂祐さん(83)だ。「世界一安くてうまい米」をめざす兼坂さんの眼前には、1枚最大7・6haもある「スーパー水田」が何枚も広がる。「農業も遅ればせながら産業になりつつある。産業なら世界中の消費者が望むものを安く作るのが当たり前だ。ようやく出番がやってきた」やる気のある生産者を応援する。】
 これまで日本の農業は、日本国内の生産と消費しか考えることができませんでした。海外からの輸入に対しては「弱者保護」のスローガンのもと、セーフガードをはじめとした保護政策が優先され、農業を産業として支えていこうとする専業農家に対する農業振興策が取られてきたとは思えません。これからの日本の農業を考えた場合、少なくともアジア圏をにらんだ国際的な視野を持って日本の農業を捉えていく必要があると考えます。
 米で出来ることが園芸産業で出来ないわけはないと思います。園芸生産農家の皆さん、ガンバレ!!


★日本における国際花き生産流通戦略
 【2】 アメリカの切りバラ生産の歴史 (2003/01/16)

 世界のバラ生産流通を考える場合に、切花の生産消費の先進国であるアメリカの生産の歴史を分析する必要があります。アメリカにおける切花生産は、1892年に日本からの移住者がサンタモニカ周辺とロサンゼルス南部で花き生産を開始したことに始まり、その後、多くの日系人が花き生産農場を作って大規模な生産を始めました。なかでも北部カリフォルニアのサリナス周辺は、サンフランシスコが日本からの移民の受け入れ港であったことから多くの日系人が居住し、大規模な花き生産地として発展しました。生産した切花の出荷拠点として、1913年に日系の花き生産農家と販売業者が花き市場を開設し、これが現在のSouthern California Flower Growers Market, Inc.の前身となりました。1923年にロサンゼルス市内に市場が移転するとともに、1924年にはアメリカ人によるLos Angels Flower Market(現在のAmerican Florist Exchangeの前身)がWall Streetを挟んで建設され、現在の「The Los Angels Flower District」が形成されました。その後、第2次世界大戦の影響を受けて切花生産は一時中断されましたが、1950年代にカリフォルニアを中心に、再び本格的な切花生産が日系人と新たに移住した日系移民によって開始されました。1960年台はキクとカーネーションの切花生産が急速に発達し、数ヘクタールから数十ヘクタール規模の生産会社がカリフォルニアの至る所にでき、The Los Angels Flower Districtの花市場を拠点に全米に出荷されていきました。当時のキクやカーネーションの需要は結婚式と葬儀が主体で、いわゆる「仕事花」を中心とした需要でした。
 1973〜74年にかけての石油危機の影響を受け、これらの切花生産は一時的に停滞しましたが、その後の急速な景気の回復は切花の個人需要、いわゆる「ホームユース」の切花需要を急速に拡大させ、キクやカーネーションに代わってバラの需要が急速に増加しました。1970年台後半までは切りバラ単価は高く、アメリカ国内の生産農家の生産意欲も高かったのですが、その高単価に魅力を感じた一部の生産者が生産コストの安い南米コロンビアでの切りバラ生産を開始し、1978年以降急速に輸入量が増加しました。【PDF file:アメリカのバラ輸入量
 当初コロンビアから輸入された切りバラの品質は悪かったのですが、次第に品質が向上し始めました。コロンビアからの輸入バラは、単価が安いこともあって、輸入量の増加が消費者のバラの購買意欲を高める相乗効果が働いてアメリカ国内での生産量も増加し、アメリカ国内のバラ生産も活気を帯びて切りバラの好景気が続きました。しかし、1990年の時点で輸入バラの割合は38%に達していました。
 1991年に、コロンビアからの麻薬密輸入を防ぐために、コロンビアでのコカ(コカインの原料)の栽培を切花に転向させる目的で切花の輸入関税が0%となりました。この5〜6%の関税の免除は大きな影響をもたらし、コロンビアの生産農家の切りバラ生産意欲を大いに高めると共に、新たな輸出国エクアドルを出現させました。
 1992年以降のアメリカにおける切りバラ流通をみると【PDF file:アメリカのバラ輸入量】、全体のバラ消費量はほぼ1,100万本で一定しており、コロンビアからの輸入もそれ程大きく増加していません。これに対してアメリカ国内生産量は急速に減少し始め、このアメリカ国内生産量の減少を補う形でエクアドルからの輸入量が年々急速に増加していきました。このことは、明らかにアメリカ国内のバラ生産経営がエクアドルからの安価なバラの輸入によって苦境に立たされたことを意味しています。
 その結果、2001年にはアメリカ国内のバラ生産量はバラ消費量の15%に満たない状況となり、アメリカの切バラ生産は壊滅し、ほとんどのバラ生産農家は廃業するか、他の作目に転換しました。それに伴って、米国バラ生産者協会Roses Inc.は解散し、2000年に国際切花生産者協会International cut flower grower's associationとなりました。
 このアメリカの切りバラ生産の歴史は、今後の日本の切りバラ生産の将来を考える上で大変参考になります。もし、中国や東南アジアからの切りバラ輸入に対して手をこまねいて何も対処せず、さらに戦略を間違えると、必然的にアメリカの歩んできた道を進むことになると考えます。
 しかし、セーフガードのような一時的な防衛手段がこれからの日本の花き生産の活性化に繋がるとは誰も考えていないのではないでしょうか。アジア圏の中での日本のあり方を真剣に考えるべき時に来ていると考えます。
 (本原稿の作成にあたり、日本ばら切花協会第33回全国ばら切花研究大会のアンディ松井氏の講演を参考にさせていただきました。)


★日本における国際花き生産流通戦略
 【1】 バラの国際的な生産流通事情 (2003/01/09)

 切りバラの生産流通は国際的規模でダイナミックに行われ始めています。世界的に見たバラの消費地域は、北アメリカと西ヨーロッパ、そして日本といわれており、これに対して生産地域は、コロンビア・エクアドルを中心とした南アメリカ北部と、ケニア・ジンバブエを中心としたアフリカとなっており、これらの生産国から消費地域への輸出が激しくなっています。
     【PDF file:世界の切花消費国とその消費量
     【PDF file:アメリカとヨーロッパのバラの国際流通
     【PDF file:アメリカのバラ輸入量
     【PDF file:アフリカのバラ生産量
 生産地域であるコロンビア、エクアドル、ケニア、ザンビアの共通点は、赤道直下の標高2000m以上の高地であることです。一般に気温は標高が100m上がると0.6℃下がるといわれており、赤道直下の海抜0mは年中35℃の熱帯地帯であるのに対して、その2000mの熱帯高地は年中23℃となり、バラ生産の快適な環境となります。これらの国では人件費が安く、気候も良いことから低コストでバラが生産でき、人件費が高く暖房費などの生産コストを要する温帯の先進消費国への輸出は有利に働きます。その結果、2001年のアメリカ国内のバラ生産供給量は国内消費量の15%で、コロンビアとエクアドルからの輸入によって国内のバラ生産は壊滅状態となりました。これに対してヨーロッパとアフリカとの関係はアメリカとコロンビアの10年前の状況で、生産崩壊には至っていませんが、何も対策をたてなければ10年後にはアメリカと同じように生産崩壊の道を歩んでいくと予想されます。
 さて、アジア圏の赤道直下の2000m以上の高地は、中国雲南省からラオス、ミャンマーにかけてのインドシナ半島北部、マレーシア、インドネシア、フィリピン・ミンダナオ島などがあり、これらの地域が今後日本へバラを輸出し始める可能性のある国々です。
     【PDF file:アジアの熱帯高地
 花は、米や野菜などと異なり国際保護貿易の対象農産物となっていないため、タイ国からのデンファレ(ランの仲間)の切花に代表されるように、完全自由化に近い状況です。しかし、保護されていないからこそ国際競争力を着実に付け始めた農業分野ともいうことができ、日本国内の農業が低落している中で、生産量が着実に増加している分野です。しかし、戦略を立てなければアメリカのような生産崩壊の恐れもあります。
 これからの花き生産を考えたとき、どのような戦略が必要となってくるか。これからしばらくの間、この一言コラムでは「日本における国際花き生産流通戦略」を連載したいと思います。


★未年にちなんで (2003/01/08)

 今年は未年なので、私は年男です。年頭に当たって、メール年賀状を作成いたしました。ご覧下さい
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