植物生理学の講義内容

参考図書として推薦する教科書
   テイツ・ザイガー植物生理学 第3版
   L.テイツ/E.ザイガー編 西谷和彦/島崎研一郎監訳
   培風館
   \8800+消費税

1.植物生理学という学問は?
 地球上に広く生育している植物は,地球に生を受けている全ての生物の生存を支えている。光合成によってCO2を吸収して酸素を作り出し,それらの濃度を一定に保つとともに,動物の食物としてのエネルギー源の供給などの役割を果たしている。また,太古の時代の植物の遺骸は化石燃料として人類の活動を支えている。
 人類が狩猟生活から農耕生活へとその営みを変化させた以降は,植物の生育をいかに効率よく管理するかが重要な課題となり,植物の成長の仕組みを解き明かす学問としての植物生理学は重要な位置を占めるようになってきた。
 植物生理学は,基礎学問としての意味を持つ学問分野であるが,植物生理学から得られる知識を実際の産業で如何に応用することができるかが重要であり,知識を深めることが重要ではない。以下の言葉は,宮崎安貞(江戸時代の農学者)の『農業全書』の中に記されているものである。
「上の農人ハ、草のいまだ目に見えざるに中(なか)うちし芸(くさぎ)り、中の農人ハ見えて後芸(くさぎ)る也。みえて後も芸(くさぎ)らざるを下の農人とす。」
現代では「上農は草を見ずして草を取り、中農は草を見て草を取り、下農は草を見て草取らず」といわれている。
「上農は草を見ずして草を取り」の意味としては,例えば,雑草の発芽の植物生理に関する知識「光発芽性(光がないと発芽しない性質)」を利用して,「敷きワラ(ワラで株元を敷き詰めること)をして光が届かないようにすることで雑草の発芽を抑制し,雑草の発生を防ぐことで除草をしなくても良くする」などが挙げられる。

(1)植物生理学の歴史
 古代エジプト人は作物栽培を本格的に行い,ピラミッドの壁画などにもブドウを始め数多くの作物の栽培の様子が記されている。
 ギリシャ時代にはアリストテレスの弟子のテオフラストス(B.C.371-286)は「植物学」という著書の中で植物の地理的分布や形態に関する詳細な記述を行っている。ローマ時代にはプリニウス(23-79)は「植物学」の著書の中で薬用植物や果樹栽培について記述している。
 中世は植物生理学にとって暗黒の時代といわれるほど大きな発展をみることがなかった。18世紀後半になると酸素が植物の光合成によるものであることが見いだされ,植物が二酸化炭素を吸収して酸素を発生させるという光合成の基本的な機構が明らかとなってきた。
 ザックス(1832-1897)は植物生理学に化学の知識を導入し,それまでの植物学の一分野の学問として位置づけられていた植物生理学を,独立した学問として確立した研究者といわれている。このことから,植物生理学はザックス以前と以降に大きく大別されている。
 ザックス以降の植物生理学の中心となった研究は,植物栄養学,光合成,養分吸収と転流,植物ホルモンの発見,成長と運動である。
19世紀にヨーロッパで体系化された植物生理学は,当初は「植物の生長の不思議を解き明かす」という人間の興味から始まり体系化されて発展した。20世紀になると細胞学,有機化学を始めとする様々な学問の知見を取り込みながら細分化が進み,さらに物理学の知見を取り込んで,生化学,生物物理学などの新たな分野が開拓された。その結果,光合成,呼吸,植物ホルモン,成長と分化,環境応答など様々な植物特有の生理反応が詳細に解明され,基礎科学としての植物生理学が完成をむかえた。1990年以降になると,シロイヌナズナを始めとした分子生物学の急速な発展が植物生理学を新たな方向性に導き,これまでブラックボックスと考えられていた現象がDNAを始めとする緻密に管理された生理現象であることが判り始めた。
 植物生理学は当初,基礎科学として取り扱われた。いわゆる理学部,植物科学の研究領域であったが,19世紀後半になると農業分野への貢献が顕著になってきた。バイオテクノロジーや食料生産,地球環境保全など人間社会のみにとどまらず,グローバルな観点からも植物生理学は重要な学問としてさらに大きな注目を浴び始めている。
 植物生理学は,単純な「生物学」の植物版というものではなく,その知識を応用科学として速やかに活用できる学問であり,園芸学や作物学のような農学の研究は植物生理学そのものといえる学問である。
植物生理学を研究すればするほど植物の不思議にとりつかれ,植物の巧妙さ,緻密さ,そして植物の巧みな行動に感動する。これから半年間で講義する植物生理学は,「応用植物科学のための植物生理学」として講義を行っていくが,受講する皆さんには是非,植物の魅力にとりつかれてほしいと思う。

講義内容を列挙すると,以下のようになる。
1.植物生理学という学問は?
2.植物器官の構成と機能
3.水分生理
4.篩部転流
5.光合成の生態学的考察
6.植物ホルモン
6-1.オーキシン
6-2.サイトカイニン
6-3.ジベレリン
6-4.エチレン,アブシジン酸,ブラシノライド
7.成長と発生
8.種子の成熟と発芽
9.花芽分化と環境応答

2.植物器官の構成と機能
植物の組織の基本は,「茎・葉・根」の器官で構成される。器官は「表皮系・基本組織系・維管束系」の3種類に分けられ,表皮系は植物体の保護を,基本組織系は光合成や呼吸などの機能を,維管束系は物質の移動をつかさどっている。(第1図

(1)茎の構造と機能
 茎は葉や花を支持し,葉や花での光合成や生殖に適した形態をとらせる。若い茎では光合成も行っており,貯蔵器官としての機能を持つ場合もある。貯蔵器官としての機能を持つ事例として,サトウキビの茎や果樹などの冬季の休眠状態を挙げることができる。また,ジャガイモなどのように貯蔵器官として特化した塊茎などの形態を持つ場合もある。
 茎の最も重要な機能は,根で吸収された養分や水を葉や花,果実などに輸送する機能であり,葉の光合成で作られた炭水化物をそれ以外の器官に転流する機能である。
 茎の主要な機能である物質の輸送,転流をつかさどるのが維管束である。維管束は水と無機塩類の通路となる木部と,光合成産物やアミノ酸などの通路となる師部からなる。木部は,道管(仮道管),木部繊維,木部柔組織からなり,師部は師管,師細胞,伴細胞,師部組織,師部柔組織からなる。(第2図,第3図,第4図

 道管は,はじめは原形質を持つ生きた細胞であるが,上下に長く伸長し,上下に隣接する細胞壁が消失して長い管状となると共に,二次壁が形成されて死細胞となって管となる。木部繊維は木部の強度を補強する機能を持ち,木本植物では著しく発達する。木部柔組織は生細胞であり,デンプンや樹脂などの貯蔵組織として機能する。道管は夏季の水分上昇が盛んな季節には太くなり,冬季のように蒸散が少ない季節にはその発達が低下するため,年輪が形成される。
 師部では師管と師細胞が主要な組織であり,養分の通路となる。師管の細胞は生細胞であるが細胞としての機能はなく,師管の細胞の上下の隔壁には多数の小孔(1〜15μm)があいており,師板といわれる。被子植物に見られる伴細胞は活発な生理機能を持つ細胞で,師細胞と密接な関係を持っている。
 茎は,中心に維管束組織と柔組織からなる中心柱を持ち,その外側に皮層,さらに外側に表皮を持つ。木本生の双子葉植物や裸子植物では形成層を持ち,形成層は内側に二次木部を形成すると共に,外側に二次師部を形成する。
 茎の先端には茎頂生長点があり,活発な細胞分裂を行って葉原基を形成して,葉を形成する。(第5図

(2)根の構造と機能
 根も茎と同様に表皮,皮層,中心柱から構成される(第6図)。根端から0.1mm程度のところにはほとんど細胞分裂が見られない静止中心と呼ばれる組織があり,静止中心の上部には活発な細胞分裂を行っている細胞群があり,根端成長点と呼んでいる(第7図)。成長点を保護する組織として根冠があり,根冠はムシゲルと呼ばれるゼラチン状の物質を分泌している(第8図)。ムシゲルの機能は明らかではないが,根の土壌中への潤滑剤,根端を乾燥から防ぐ,養分の根への移動を促進する,土壌微生物との相互作用などの働きが推測されている。根端成長点の上部0.7〜1.5mmは細胞分裂が少なくなり細胞伸長が行われる伸長域となり,最後の細胞分裂を行って,内皮と呼ばれる環状細胞層群を分化させる。内皮細胞の細胞壁にはカスパリー線が見られ,根からの養分吸収に重要な役割を果たしている。根は内皮で外側の皮層と中心柱に仕切られ,中心柱には木部と師部が形成される。皮層は細胞間隙が多く,通気組織としての役割を担うと共に,細胞壁や細胞間隙は水の通路となっている(第8図)。
伸長域のさらに基部には成熟域があり,成熟域の根の表皮には根毛が形成される。根毛は単一細胞で形成され,活発な原形質流動を行っている。根毛の細胞壁はペクチン質が多く,水和性が高いため水の吸収が活発となると共に,土壌粒子を包むように粒子間を伸長するため,根と土壌の接触面積が大きく,各種イオンの吸収の場となる。根毛の寿命は一般に数日間で,根の伸長と共に基部の根毛細胞は老化して死滅して剥離すると共に,先端に新たな根毛が形成される。

(3)葉の構造と機能
 葉は葉身,葉柄,托葉からなる。葉身は表皮系,基本組織系,維管束系よりなる(第9図,第10図)。表裏性を持ち,表裏がそれぞれ機能を持つ。表皮は葉緑体を持たない単一細胞層で,表側の表皮の外側の細胞壁はクチクラ層を持ち,組織の保護や水分の蒸発を防いでいる。裏側の表皮は2個の孔辺細胞よりなる気孔を持ち,孔辺細胞は葉緑体を持つ。気孔は1mm2あたり50〜300個程度が分布しており,光合成や呼吸に伴うガス交換や蒸散の役割を果たしている。
 葉身の周縁部には水孔がある。水孔は開閉気孔を持たず,葉脈の先端と連絡して余分な水分の排出を行っている。
 基本組織系は葉肉組織があり,表側には柵状組織,裏面には海綿状組織を持つ。柵状組織は円柱状の細胞が縦に密に配列し,通常1層であるが2〜3層の場合もある。海綿状組織は不規則な形状の細胞からなり,全体積の10〜40%程度の細胞間隙がある。細胞間隙は繋がっており,気孔を通じて外界と連絡している。

3.水分生理
 植物細胞の重量のほとんどは水で占められており,一般的な植物の水分含量は90%程度で,新鮮なレタスなどでは95%に及ぶ場合もある。
 水は地球上で最も豊富な溶媒で,様々な養分を水とともに吸収すると共に,細胞間の物質移動の貢献し,細胞内では生化学反応の場を提供している。
 植物は根から水を吸収し,葉から蒸散する。植物の蒸散量はとてつもなく多く,晴天日には葉全体の水分の全てを1時間で交換する程である。蒸散は,根からの水吸収の原動力の1つであると共に,蒸発に伴って奪われる気化熱を利用して太陽光からの赤外線によって葉の温度が上昇するのを防ぐラジエーターの役割も担っている。
 農業において潅水管理は極めて重要な管理技術であり,潅水のための水が確保できないところでは農業を営むことが出来ない。地球温暖化に伴う砂漠化は,水が制限要因となり,植物の生育が制限され,人類の生存を脅かしている。同時に,過剰な潅水は地下深くの無機成分を地表面に集積させ,塩類集積による耕作不能地を増加させている。植物と水との関係を良く理解し,植物生産における適切な潅水管理を行うことは将来の人類の生存を図るために重要な知識である。
 水の移動は,拡散と体積流に分けられる。拡散は水分子の運動によって行われており,一定の容器の水の一部に熱を加えた時に,容器内の水の温度ムラが均一になることや,容器内の水の物質濃度ムラが均一になることで理解できる。これに対して体積流は,圧力差によって生じるマスフローであり,植物体内の水の移動の多くはこの体積流で生じている。
 植物は根で水を吸収し,土壌から根,根から葉,葉から大気中へと水を移動させている。根での水の吸収には浸透,毛細管現象,吸引圧の3種類の力が作用している。根での水の吸収力はこれら3種類の力の合計値で表され,水ポテンシャルという尺度で表現され,パスカル,バール,気圧などの単位で示される。
浸透ポテンシャル(溶質ポテンシャル)はψs(s:solute potentialの略)と表される。植物細胞は様々な物質を含んでいるため高い浸透ポテンシャルを持っており,これが根での吸水の1つの原動力となり,根圧の発生する原因となる。圧ポテンシャルはψp(s:pressure potentialの略)と表され,毛管現象による力や蒸散による吸引圧が根から茎,葉への水の移動の原動力となる。

(1)根からの水の吸収
 土壌から根毛,根の皮層,道管への水の移動は3種類の経路がある。
A) アポプラストを経由する伝達経路
土壌の水は根毛の細胞壁を経由して表皮および皮層の細胞壁や細胞間隙を次々と伝わって浸透していく。しかし,内皮に存在する「カスパリー線」でアポプラスト伝達は遮断される。カスパリー線は内皮の細胞壁にある帯状の組織で,スベリンと呼ばれるロウ状の疎水物質でアポプラスト経由の水の伝達を阻害している。(第11図,第12図

B) 原形質連絡を経由したシンプラスト伝達
土壌の水は根毛の細胞膜内に取り込まれ,原形質連絡を経由して表皮細胞,内層細胞,内皮へと伝達され,根の木部道管に移動する(第12図)。

C) 膜を連続して通過する伝達
アポプラスト経由で内層最深部に移動した水は,内皮細胞の細胞膜を経由して内皮細胞内に入り,その後はシンプラスト経由で根の木部道管に移動する(第12図)。

 アポプラスト:apoplast 細胞膜外の細胞間隙や細胞膜をさす
 シンプラスト:symplast 細胞と細胞は原形質連絡で繋がっており,連絡された細胞質をさす
 細胞壁:極めて水が通過しやすい構造物で,細胞膜の1,000〜10,000倍の透水性を持つ

カスパリー線が存在しないと,どのようなことが起きるか?吸収した養分によって根の無機組織含量が土壌の中の濃度を上回った時や乾燥期に根の外界の水ポテンシャルが低下し,道管に移動した水が外界に再び逆流することを防いでいる,

 根の道管に移動した水は木部の道管を通じて葉まで移動する。この移動には「根圧」と「蒸散による負の静水圧(陰圧)」が関係している。
 (2)根圧による樹液の上昇と出液(排液)(guttation)
 根圧の存在は,木を切り倒した時の切り口からの樹液の流出や,春先の樹液の移動などで確認することが出来る。
 根圧の発生は,(i) 能動輸送によってエネルギーを用いた無機塩類の吸収が行われ,根の木部道管内の浸透ポテンシャルが低下する。(ii) 浸透ポテンシャルの勾配に従って,水が根毛から吸収されて木部道管内に入ってくる。(iii) 道管にプラスの圧が発生する。
 根圧は,土壌の水ポテンシャルが高く,蒸散速度が低い時に最も生じやすく,夜間の湿度が高く蒸散が抑制された時に葉の先にある排水組織から「露滴」として水が分泌される。(第13図
 また,メープルシロップで有名なサトウカエデの樹液は,樹皮木部や形成層に蓄積されたデンプンが春先に糖に分解され,根の道管内が糖溶液で占められて著しい水ポテンシャルの低下が起こり,根圧の発生によって吸水が盛んとなって樹液が活発に出てくる現象を利用したものである。

(3)蒸散による負の静水圧(陰圧)
 蒸散は植物が根から水を吸水するための最も大きな力の原動力である。植物が根から水を吸水する仕組みは以下のような原理による
A) 葉肉細胞から水が蒸散によって大気中に放出される
B) 葉肉細胞の水分含量が低下し,浸透ポテンシャルが低下する
C) 葉の道管内の水が葉肉細胞に移動する
D) 葉の道管内の水の圧ポテンシャルが低下し,道管内の水の間に圧ポテンシャルの勾配が生じる
E) 圧ポテンシャルの勾配に従って水が上に移動する
F) 葉の道管から根の道管まで繋がっている細い水柱は,水の凝集力によって切れることなく引き上げられる
G) 根の道管内の水の圧ポテンシャルが低下する(根の道管内が負圧になる)
H) 圧ポテンシャルの勾配に従って根の外の水が道管内に移動する

 従って,葉肉細胞からの水の蒸散を最も大きくすることが吸水を大きくすることになる。蒸散速度は下記の関係式によってあらわされる。

         El−Ea
 E = k----------------
        Rlv+Rav

   E:蒸散速度、 El:気孔内空隙の水蒸気分圧、 Ea:大気中の水蒸気圧、
   Rlv:気孔抵抗、 Rav:葉面境界相抵抗、
   k:係数
 この式から、蒸散速度を高めるためには、A::分母を大きくする、B:分子を小さくする、C:係数を大きくする、の3つが考えられる。
 A:分母を大きくするためには、(a)Elを大きくする、(b)Eaを小さくする。
 B:分子を小さくするためには、(c)Rlvを小さくする、(d)Ravを小さくする。

水蒸気圧(水ポテンシャル:水蒸気濃度)は湿度が高くなればなるほど上昇し,かつ飽和水蒸気濃度は温度に伴って上昇することから,葉内空気間隙の水蒸気圧(水ポテンシャル:水蒸気濃度)を高めるためには葉温を高める必要がある。また,外気の水蒸気圧(水ポテンシャル:水蒸気濃度)を低下させるためには,湿度を低下させる,気温を上げるなどの方法がある。
水蒸気圧(水ポテンシャル:水蒸気濃度)

第15図 (飽和水蒸気曲線)

A-(a) : El(気孔内空隙の水蒸気分圧)を大きくするには、葉肉組織からの水蒸気放散を高くする必要があり、さらに気孔内空隙の水蒸気量を大きくすることが必要である。このいずれも葉温の影響を受け、葉温が高くなれば気孔内水蒸気量が大きくなり、葉肉組織からの水蒸気放散も高くなる。また、根からの充分な吸水を行わせることも葉肉組織の水ポテンシャルを高めることになり、葉肉組織からの水蒸気放散を高めることになる。

※直射日光を当てる
  ・日当たりを良くする
  ・株間をあけて葉に良く光が当たるようにする
  ・立体的な葉の着生(果樹のスレンダースピンドル仕立て)
※植物体内の水分含量を確保する
  ・充分な潅水
  ・早朝の潅水

A-(b) : Ea(大気中の水蒸気圧)を小さくするには、除湿が有効であり、温室内の換気を行うことでも大気中の水蒸気圧を小さくできる。

※温室内の換気
  ・温室内と外気の温度差を利用し,高温の温室内の空気を排出して,低い温度の外気を取り込む。温室内の温度が高まると湿度が下がる。
  ・冷気を取り込みながら暖房する
  ・天窓と側窓の効果的な解放
※植物体周辺の空気の移動
  ・密植しない
  ・下から上への換気

蒸散速度を律速する抵抗には,葉面境界層抵抗と気孔抵抗がある。葉面境界層抵抗は風速に大きく影響される。
気孔抵抗は気孔の開度によって変化し,開度が大きいほど小さくなる。孔辺細胞の細胞壁は気孔側が厚く,セルロース繊維は気孔に対して放射状に並んでいる。膨圧が高くなり孔辺細胞が膨らむと気孔開度は大きくなり,膨圧が低くなると気孔開度は小さくなる。

B-(c) : Rlv(気孔抵抗)は気孔の開度に大きく影響され、気孔が充分開いた状態では気孔抵抗は小さくなる(第14図)。一般に、気孔は日中開き、夜間閉じることから、蒸散は日中行われる。気孔の開閉には植物ホルモンのサイトカイニンとアブシジン酸が関与している。植物ホルモンのサイトカイニンは気孔の解放を促進することから、植物体内のサイトカイニン含量が高いと蒸散は活発になる。サイトカイニンは根の先端で生合成されることから、根の生長が活発に行われるような土壌環境(土壌の気相・液相率、地温など)を最適に管理することは気孔抵抗を小さくする。根数を増加させることはサイトカイニンの生合成の場を増加させることに繋がり,生合成量が増加する。同様に、サイトカイニンを葉に噴霧することも一時的な蒸散促進作用を持つ。また,気孔は青色光によっても開放が促進される。アブシジン酸の活性が高まると気孔は閉じる。アブシジン酸はストレスホルモンの一種といわれ,植物にストレスを与えない栽培管理が重要となる。

※サイトカイニン活性を高める=根端の細胞分裂組織で生合成される
 ◎根長より根数を増やす
   ・鉢替えを行う
   ・断根する
 ◎根の伸長を促す
   ・土壌の改良=気相率の確保
   ・最適な潅水と施肥

※アブシジン酸の生合成を抑制する
 ◎ストレスを与えない
   ・水ストレス,低温ストレス,高温ストレスなど

◎青色光を当てる
  ・朝日が良くあたる環境

B-(d) : Rav(葉面境界相抵抗)は葉から出た水蒸気が大気中へ拡散する際の抵抗であり、風速に影響される。風速が大きいと葉面境界相抵抗は小さくなる。

◎風速を強くする
  ・温室内に循環扇を付ける
   (ただし,風速2m以上の風を当てない)
  ・下から上への換気(気孔は葉の裏面にある)
  ・植物体の吹き抜ける風の流れ(側窓の取付位置を低くする)
◎風通しを良くする
  ・株間をあける
  ・適宜の整枝剪定
◎植物体を揺らす
  ・振動や音波,植物の移動

4.篩部転流
 木部は,葉での蒸散による負の静水圧(陰圧)によって根から吸収した水を植物体の隅々まで行き渡らせるパイプの役割を持っていた。これに対して師部は,成長組織や貯蔵組織へ光合成産物やアミノ酸などの有機物質を輸送する組織としての役割を持っている。また,貯蔵した養分が再び成長組織に再転流する働きも持っている。
 師部転流において重要な観点は,養分の分配である。
 師管は師管要素と伴細胞からなっており,師管要素は上下の細胞壁に師孔を持つ師板がある。また,師管要素の周囲には柔組織があり,師管要素を保護している。木部組織とは異なり,師管を構成する師部要素は生細胞であるが核を持たず,伴細胞が師管要素の生存に貢献している(第16図)。
 師管要素を転流する師管液の転流は重力や上下流にしたがって行われるものではなく,シンク(sink:消費部位)とソース(source:生産部位)の関係で成り立っている。シンクは成長点,展開中の幼葉,蕾,花,果実,根,貯蔵根などであり,ソースは展開葉,根などである。
 師部を転流する物質は光合成産物である糖や,根から吸収された硝酸イオンから葉で生合成されたアミノ酸,植物ホルモン,無機イオンなどであり,師部を転流する師管液にこれらの物質が含まれていることを明らかにする研究にはアブラムシが貢献している。
 師管液中の糖で最も多いのが光合成産物から合成されるショ糖であり0.9M(360g/リットル)に達する場合もある。物質が師部を移動する速度は早く,1〜15gh-1cm-2

師管液中に含まれる物質組成(ヒマ:Ricinus commnis)
---------------------------------------
  成分         濃度(mg/ml-1)
---------------------------------------
  糖類         80.0〜106.0
  アミノ酸          5.2
  有機酸         2.0〜3.2
  タンパク質      1.45〜2.20
  カリウム         2.3〜4.4
  リン酸         0.35〜0.55
  マグネシウム    0.109〜0.122
---------------------------------------

師部を物質が転流する機構は『圧流説』が最も有力である。
半透膜で囲まれた球状のAにガラス管が繋がっている。同様な構造を持つ球状のBがあり,Aには濃度の高い溶液が,Bには濃度の低い溶液が入っている。球Aと球Bは純水が入った容器に沈められると,A,B共に半透膜を通して水が入り込み,ガラス管A,Bのいずれも水柱ができる。ただし,その高さはA>Bとなる(第17図a)。ガラス管AとBを連結させると,ガラス管の中を水がAからBに流れはじめ,純水容器の水位はB>Aとなる(第17図b)。
さらに,容器同士を管で繋げると,ガラス管AからBへ,容器BからAへと循環し,球Aの溶液濃度と球Bの溶液濃度が同じになるまで循環し続ける(第17図c)。
球Aを葉,球Bをシンク組織(貯蔵器官)とすると,葉(球A)は光合成産物である糖(溶質)を絶えず供給し続ける。同時にシンク器官である貯蔵器官(球B)において,水溶性の糖から不溶性のデンプンへの変化が生じるため,球Bの溶質である糖は絶えず取り除かれることになる。この様な場合には,ガラス管AからBへの管P(師管)の溶質の流れと,容器BからAへの管Xの溶質の流れ(道管などのアポプラスト転流)はいつまでも持続されることになる。すなわち,球B(例えば貯蔵器官:シンク)での糖からデンプンへの転換が活発であればあるほど,球A(光合成を行う葉:ソース)からの糖の転流はより活発に行われる。この様に,シンク能が強ければ強いほど葉からの光合成産物はより多くシンクに流れ込むことになり,これをシンク能という。シンク能の高低には植物ホルモンが関係おり,オーキシンやサイト下院の活性が高い器官に光合成産物はより転流しやすい。このことは,人為的に植物ホルモンを処理すると処理した組織に光合成産物が転流することで実証されている。
ソースからの光合成産物の転流はシンク能の強弱によって決定され,これをシンク間競合という。シンク間競合には,果実間の競合,果実と成長中のシュートの競合,シュート間競合などがある。

光合成によって生成された炭水化物が、葉から他の部位に運ばれる生理機能を転流という。また、根から吸収された窒素、リン酸、カリウムなどが地上部の器官に運ばれることも含む。光合成産物は維管束内の師管を経由して運ばれ、根から吸収された養分は下から上に移動する場合には導管を経由する。例えば、根から吸収された硝酸イオンは導管を経由して葉に転流され、葉でアミノ酸に変換された後、師管を経由して果実や茎頂組織などに再転流される。

1)シンク(sink)とソース(source)
 これらの炭水化物や養分がどの器官に転流されるかはシンク(sink)とソース(source)の関係で決定される。ソースは転流元のことで、葉などがソースに相当する。シンクは転流先のことで、果実、球根などの貯蔵器官や生長点展開中の葉などの生長器官などがある。
 ソースから転流し始めた養分は、シンク能の高い器官に優先的に転流される。シンク能の高低を決定する要因の一つとして植物ホルモンの活性が挙げられる。植物ホルモンの活性が高い器官のシンク能は高く、優先的に養分が転流される。この転流に関与すると考えられている植物ホルモンとしてオーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸がある。
 一般に果実は細胞分裂期と細胞肥大期を持つ。幼果期の細胞分裂期には未熟種子で生合成されるサイトカイニン活性が高く、その後ジベレリン、オーキシン活性が高まる。種子数の多い果実は種子数の少ない果実と比較して、サイトカイニン生合成量が高く、果実内の活性も高いためシンク能が高くなり、種子数が少ない果実に対して優先的に炭水化物やアミノ酸、リン酸などの養分が転流される。したがって、種子数の少ない果実は養分の転流が阻害されて生長が停止し、生理落果する(果実間の養分競合)。
 同様に、頂芽生長点には根から転流されるサイトカイニンが蓄積しやすく、下位の側芽と比較してサイトカイニン活性が高いため、炭水化物や養分が優先的に供給され、生長しやすくなる(頂芽優勢)。 また、生長点と果実との間にも植物ホルモン活性の高低によるシンク能の競合がみられる。[生理落果]
 貯蔵器官のシンク能が高まると、他の生長器官への養分転流が著しく抑制されて生長が停止し、翌年のための貯蔵養分の蓄積が積極的に行われるようになる。
2)転流に関わる要因
 水分 CO2交換速度は水ストレスのない条件で大きくなるが、葉中の水分含量が高く糖含量が低いため、糖の転流が抑制される。一般に「水切り」といわれる栽培技術は、水ストレスを与えることで葉中の糖含量を高め、果実の糖濃度を高める技術である。
 温度 一般に、温度が高いと幼葉や生長点への転流が促進され、気温が低いと果実や根に転流する。夜温が高いと果実への糖の転流が低下し、夜温が低いと果実の糖含量が上昇する。また、養液栽培では夏季より冬季の根量が高まる現象がみられる。
3)栄養生長と生殖生長
 生殖生長器官とは、花芽、花蕾、花、果実、種子などで、栄養生長器官は葉、茎、根などの生殖器官以外の器官である。
 園芸植物には栽培期間中に生殖生長を伴わない「栄養生長のみを行うもの」と「栄養生長と生殖生長を同時に行うもの」、「栄養生長を行った後、生殖生長を行うもの」に分けることができる。
(1)栄養生長のみを行うもの
 サラダナ、ホウレンソウなどの葉菜類、観葉植物など。特に葉菜類では花芽分化を行うと商品価値が著しく低下するため、花芽分化が行われないような栽培管理に気をつける。
 栄養生長のみを行う作物のシンク器官は生長点と幼葉であり、これが生長した後のソース器官となる。したがって、シンク間の競合はなく、栽培環境の制御は容易で、CO2交換速度を高く維持し、水ストレスを与えず、窒素吸収を高めに維持する。シンク間の競合がないため、栽培は容易である。肥料成分としては窒素成分を多く施与する。
(2)栄養生長と生殖生長を同時に行うもの
 トマト、キュウリなどの果菜類、サフィニアなどの花苗など。これらは着果(花)数(生殖生長)が枝の分枝・伸長(栄養生長)と密接に関係しており、分枝・伸長が盛んであることが着果数の増加に不可欠である。したがって、シンク器官としては栄養生長器官である生長点や幼葉に加え、生殖生長器官である花芽、花蕾、幼果などがあり、生殖生長器官と栄養生長器官のシンク間競合が起きないような栽培管理が必要である。すなわち、栄養生長器官のシンク能が高まりすぎると生殖生長器官の養分転流が抑制され、生理落果や花芽分化阻害が発生しやすくなり、収量が著しく低下する。栄養生長は、肥料成分として窒素を過剰に施与すると旺盛になることから、窒素を過剰に施与せず、リン酸やカリウムをバランスよく適度に施与する必要がある。これらの作物の中でも果菜類は果実肥大を伴うため、栽培には植物体の状態を判断する技術を要する。例えば、トマトで栄養生長が勝ってくると茎の横断面が円形ではなく楕円形に変形したり、葉から不定芽が発生する現象がみられる。このような場合には花が開花した直後に落果したり、花芽分化が行われなかったりする。
 また、生殖生長器官のシンク能を高めすぎると、一時的には果実の肥大や果実糖度の上昇がみられるが、光合成器官である葉の分化や展葉が阻害されてCO2交換速度が低下し、最終的には収量の低下を招く。特に窒素、リン酸、カリウムの施与比率や適度な水分ストレスを与える技術を必要とする。
(3)栄養生長を行った後、生殖生長を行うもの
 メロン、カリフラワー、果樹など。初期に一定の栄養生長を行った後、生殖生長を行わせる作物である。初期のシンク器官は生長点と幼葉であり、これらの成長を充分に行わせた後、これらのシンク能を低下させる栽培管理を積極的に行い、相対的に生殖器官としての花芽、花蕾、幼果のシンク能を高める。栄養生長のみを行うものより環境制御は難しいが、同時に行うものに比べると容易である。

5.光合成の生態学的考察
細胞レベルでの光合成は,その主体が葉緑体にあり,葉緑体内での電子伝達や炭素の代謝など複雑な生理化学的反応で成り立っている。
植物体のレベルで光合成を考えると,光合成は炭水化物の生合成であり,ソースとして最も大きな機能を果たす過程である。農業生産において,植物体の光合成能力を最大限に発揮させることは,より多くの収穫物を得ることに繋がり,光合成速度を律速する環境要因を明らかにすることは農業生産において極めて重要である。

(1)光合成とは
 光合成と呼吸は下記のような反応式として表される。
光合成
  6CO2 + 12H2O + 光エネルギー → C6H12O6 + 6O2 + 6H2O

呼吸
  C6H12O6 + 6O2 → 6CO2 + 6H2O + 化学(熱)エネルギー

 上記の反応式から判るように、光合成と呼吸は相反する反応であり、光合成によって光エネルギーを化学エネルギーとして保存した後、呼吸でこれを化学エネルギーあるいは熱エネルギーとして利用する。

(2)光合成(呼吸)の速度
 光合成あるいは呼吸速度は様々な方法で測定することができるが、最も一般的な指標として用いられているのは「CO2交換速度」である。CO2交換速度の測定は同化箱と呼ばれる透明容器に一定濃度のCO2を含む空気を一定速度で流入し、流入空気と」流出空気のCO2濃度を測定することで消費あるいは排出されたCO2量を測定する。(第18図

 CO2交換速度は下記の式で表される。
   CO2交換速度 = 真の光合成速度 − 呼吸速度
           = 真の光合成速度 − (暗呼吸速度 + 光呼吸速度)
 したがってCO2交換速度は、見かけの光合成速度、純光合成速度とも呼ばれる。
 一般に呼吸と称しているものは、ここでは暗呼吸を指し、光呼吸はC3植物で行われる呼吸で、光が照射され、光合成が行われているときのみみられる。陸上植物は光合成経路の差により、大きくC3植物(ほとんどの木本植物と多くの草本植物、イネ、コムギを含む)、C4植物(亜熱帯・熱帯原産のイネ科の植物、トウモロコシやサトウキビを含む)、CAM植物(多肉植物に多く、サボテンやパイナップルを含む)の3つに分類できる。農業上重要な植物は、その光合成様式からC3植物とC4植物とに分類される。C4植物はC3植物から進化した植物であり、独自の光合成回路(C4光合成回路)の働きでC3植物の約2倍の光合成能力を発揮する。(C3植物であるイネにC4植物であるトウモロコシの炭酸固定酵素(PEPC)の遺伝子を導入したところ、イネ内でPEPCをトウモロコシ以上に高発現させることに成功した。)

 CO2交換速度の単位は「一定時間あたり一定面積で吸収されるCO2量」で、kgm-2S-1、mgcm-1h-1(CO2質量)、molcm-1h-1(モル濃度)などで表現される。
 光合成は反応式からみられるように、光強度の影響を受ける。太陽から照射される光には様々な波長の光が含まれるが、光合成に関わると考えられる光の波長は400〜700nmの波長で、この波長域の光を光合成有効放射(PAR:Photosynthetically Active Radiation)という。
 250〜380nmの波長域の光は紫外線といい、700〜760nmの光を遠赤外光、760nm以上の光を赤外光という。

-----【参考】---------------------------------------
 G(ギガ)=1,000,000,000、M(メガ)=1,000,000、k(キロ)=1,000、m(ミリ)=1000-1、μ(マイクロ)=1,000,000-1、n(ナノ)=1,000,000,000-1、p(ピコ)=1,000,000,000,000-1

ppm:part per million  百万分の1 1/1,000,000
  weight/weight, weight/volume, volume/volume
  1g/1000g  1mg/1000ml  1μl/1000g
参考:ppb:part per billion

化学物質の反応は、1分子あたりの反応である(化学反応式)。したがって、物質を比較する場合には重量ではなく、分子数で比較する必要がある。分子数の単位はmolであり、molあるいはM(mol/l)で比較を行う。
--------------------------------------------------

(3)光合成と光
光はエネルギーを持っており,ワット(Wm-2)で表される。ワットには時間あたりのエネルギー量が含まれており,1W=1Js-1である。一方,光を光量子数で表すこともでき,単位はmolm-2s-1である。
光合成は400〜700nmの特有の光の波長領域で行われ,この領域の光の強度を光合成有効放射(PAR:Photosynthetically Active Radiation)といい,PARを光量子で表す場合には光合成光量子密度(PPFD:Photosynthetic Photon Flux Density)という。晴れた日のPARは2,000μmolm-2s-1程度で,おおよそ400Wm-2である。
太陽光は光合成に利用できない400〜700nm以外の波長の光を含んでおり,光合成で炭水化物に変換できる光エネルギーは5%程度である。葉はPARの内85〜90%を吸収することができる。
光吸収の効率を高めるために植物の葉は様々な構造をとっている。表皮細胞は可視光を非常に良く透過する。表皮細胞は凸型のレンズのような構造をとることで,光を屈折・集中させて柵状組織により強い光を集めている。柵状組織は葉面に垂直の直射光をより効率よく吸収できる構造をとっている。海綿状組織は不規則な形をとり,細胞間隙が大きいために細胞表面での反射や屈折のために光散乱が生じ,光量子が葉の中を通過する距離が大きくなる。(第19図

しかし,強い太陽光を吸収すると高熱を発したり,組織への障害の原因となるために,光吸収効率を下げる作用も働いている。(第20図

 光強度によってCO2交換速度は影響を受け、光強度とCO2交換速度の関係を「光−CO2交換速度曲線」という。
 光強度が0の時光合成や光呼吸は行われないため、この時のCO2交換速度は負となり、呼吸量を示す。光強度が高くなるに従い、CO2交換速度は直線的に増加し、CO2交換速度が0になる光強度がみられる。この時は光合成速度と呼吸速度が同じになる点で、この時の光強度を光補償点という。
 一般に弱光を好む植物は光補償点が低く、強光を好む植物は高い。
 光強度がさらに高くなると曲線の傾きが小さくなり、光強度を強くしても光合成効率が上がらなくなり、さらに光強度を高めてもCO2交換速度が一定になる点が現れてくる。この時の光強度を光飽和点という。
 このように光強度と光合成は密接な関係を持つ。
植物の光合成速度は,葉のCO2吸収速度を測定することで知ることができる。光合成速度と光強度との関係は光−光合成曲線という。暗黒下では光合成が行われておらず,呼吸によるCO2放出のためにCO2吸収速度は負の値をとる。光強度が高まるにつれて呼吸速度と光合成速度が等しくなり,光補償点に達する。さらに光強度が高まるとCO2吸収速度は光強度に比例して高くなるが,光強度がある程度まで達するとCO2吸収速度の増加が見られなくなってくる。この時の光強度を光飽和点という。

第21図  

(4)CO2濃度
 植物のCO2交換速度は,CO2濃度に大きく影響される(第24図)。大気中のCO2濃度は約350μmolmol-1(ppm)であり,一般に0〜2000μmolmol-1(=μll-1=ppm)の範囲ではCO2濃度が高まるに従ってCO2交換速度は大きくなる。

 植物が生育している環境における大気中のCO2濃度は,日中低下し,夜間上昇する。年間の変化を見ると,夏季に低下し,冬季に上昇する。
 したがって,施設内で栽培している場合にはCO2施与(二酸化炭素発生器を用いて人工的にCO2濃度を高めること)を行うことで光合成活性が高まり,生育や収量の増加や糖度向上などの効果が認められる(イチゴやトマトなど)。
 大気中のCO2濃度は,約350μリットル/リットル(ppm)で1立米の大気には約630mgのCO2が含まれる。このCO2の量は,標準的な光合成速度(21mgCO2・dm-2・h-1)で光合成を行っているキュウリの葉10枚が1時間で吸収するCO2の量に相当する。したがって,冬期などの閉め切った施設内では光合成によって短時間にCO2が消費されてしまい,作物の生育が抑制されることがある。
 一般に日の出と共に施設内の温度が上昇するため側窓や天窓が解放され,これに伴って外気のCO2が供給されるため,昼間にはCO2欠乏がみられることは少ない。しかし,作物の生育が旺盛で施設内の換気効率が悪くなっている場合には植物体内部に外気から取り込んだCO2が供給されにくく,植物体内部では昼間でもCO2欠乏が生じている場合もみられる。(第58図

 土壌には微生物が多数生息し、地温が高い場合にはこれらの呼吸に伴うCO2発生量は相当量に達する(土壌呼吸)。土壌中に有機物を施用し、土壌内の有効菌相を増加させることは土壌の物理性を向上させ、作物の根の生長を高めることにもつながることから、施設内のCO2濃度を高める処理として有効な方法である。
 養液栽培や隔離ベッドなどを用いて作物を栽培する場合には、上記の土壌微生物が有機物を分解することで生じるCO2放出(土壌呼吸)がないため、土耕栽培と比較してCO2欠乏が生じやすく、CO2施用は光合成を促進させるための手段として有効である。また、土耕栽培であっても、冬季のように地温が低い場合には土壌呼吸量が低く、土壌からのCO2供給が期待できず、同時に施設が閉鎖される時間帯が長いこともあり、CO2施用は積極的に行われるべきである。
 近年の新たな技術として、施設内のCO2濃度を大気濃度と同じ程度まで高める方法が行われ始めている。この場合には、換気を行って施設を解放した場合でも施用したCO2が施設外に流出しないため効率的なCO2施用技術として注目されており、この場合には作物内部のCO2低下にも対応できることから、日の出後のみならず、日中もCO2施用が行われる。このようなCO2施与においてはCO2濃度センサーによる細やかな計測と制御が不可欠である。
 CO2施用の効果は様々な作物で認められており、葉菜類(レタス、ホウレンソウ、シュンギクなど)では750〜900ppmの施用によって50〜100%の増収となる。果菜類(トマト、ナス、ピーマン、キュウリ)では750〜1,500ppmの施用で開花促進、果重の増加ながみられ収量が30%程度増加する。根菜類では効果が顕著で、ダイコンでは750ppmで収量が2倍、ハツカダイコンでは2,000ppmで3倍の収量、コカブでは1,500ppmで10倍の収量に達した。切り花でもカーネーション、バラ、キクで収量が10〜30%増加し、開花日数も数日〜10日程度早まり、品質も向上する。(第24図
 CO2供給方法としては、液化CO2を用いる方法とプロパンガスや天然ガス、白灯油を燃焼させる方法がある。前者は施設内に設置したCO2センサー連動させてCO2濃度を正確に制御できる特徴があるが、価格がやや高い(100円/kg)。白灯油の燃焼方式は安価であるが(40円/kg)、有害ガスの発生の恐れや濃度制御が困難であるなどの欠点を持つ。

第22図

(5)温度
 光合成反応は生体反応であり、多くの酵素が関与している。酵素反応は温度に依存しており、最適温度が存在する。同様に呼吸も酵素反応であり、温度依存性がある。したがってCO2交換速度は温度に大きく影響を受ける。ここでいう温度は気温ではなく、反応が行われる葉内の温度であり、葉温の影響を大きく受ける(第23図)。
 左図に示すように、CO2交換速度は葉温が約25℃で最大となり、それより高くても低くても小さくなる。また、5度以下や42度以上ではCO2の吸収は行われなくなる。
 右図に示すように、CO2交換速度は「真の光合成速度−光呼吸速度」と「暗呼吸速度」の差である。「真の光合成速度−光呼吸速度」は35℃付近で最大となり、それ以上の温度では低下する。これに対して「暗呼吸速度」は温度が高まるに従い指数的に増大する。ここで見られるように、真の光合成速度は一般に25〜40?付近で最大を示し、光合成反応はかなり高温域が適温といえる。したがって、暗呼吸速度が高温でも増大しにくい植物では光合成の適温はかなり高くなることがある。熱帯・亜熱帯に自生する植物では高温域での呼吸速度の上昇が緩やかであるため、30℃以上の温度域で光合成が最大になるものが見られる。しかし、暗呼吸速度が真の光合成速度−光呼吸速度を上回る場合には、光合成による炭酸同化作用を呼吸が上回ることになり、植物体は衰弱する。

6.植物ホルモン
 植物が種として統一された形態形成や成長を行うためには,特定の情報伝達物質が存在すると近代植物生理学の祖であるSachs(1832〜1897)は考えた。この考えは動物における内分泌物質「ホルモン」の影響を強く受けた。動物のホルモンは,タンパク質,ペプチド,アミノ酸派生物,ステロイドの4種類の物質に分類され,受容体と呼ばれるタンパク質と特異的に反応する。植物ホルモンには5種類の物質(オーキシン,サイトカイニン,ジベレリン,エチレン,アブシジン酸)が確認されてきたが,近年になって,これ以外にも植物ホルモンとして作用するスレロイドホルモン,ブラシノステロイドが確認され,さらに植物病原菌に対する耐病性などに関係する物質も次々と発見されはじめ,植物ホルモン,植物ホルモン様物質は増加しており,様々な情報伝達物質が植物にも存在することが明らかとなっている。

6-1.オーキシン
 植物ホルモンとして最も早く発見されたのがオーキシンである。オーキシンはサイトカイニンと共に,植物が生育するためには必須の植物ホルモンであり,ジベレリンなどの他の植物ホルモンにおいてはそれの生合成能力を欠損する突然変異個体が見いだされているのに対して,オーキシンとサイトカイニンに対してはその生合成能力を欠損した突然変異株が見つかっていないことから,オーキシンとサイトカイニンは本質的な成長に不可欠な植物ホルモンで,これらを欠如する突然変異は致死的であることを示している。
オーキシンを提唱したのは進化論で有名なCharles Darwinとその息子のFrancis Darwinである。ダーウィン親子は光屈性(屈光性)について研究し,カナリーグラスの芽生え(幼葉鞘)の先端が光を感応する部位であることを発見した。光に反応する特定の物質が存在し,幼葉鞘の先端で生合成された物質が下部に伝達されて陰側の成長を促進し,その結果屈曲が促されると考え,1881年に「植物の運動する力」を出版した。(第26図
この研究を契機にBoysen-Jensen(1913),Paal(1919)などの研究者が次々と新たな発見を繰り返し,Went(1926)が最終的に物質の存在を証明し,ギリシャ語の「増加」や「生長」を意味するauxeinからAuxin(オーキシン)と名付けられた。(第29図

 天然に存在する主な植物のオーキシンはインドール−3−酢酸(indole-3-acetic acid:IAA)である。この他に4-クロロインドール3−酢酸(4-chloro-indole-3-acetic acid:4-Cl-IAA),インドール−3−酪酸(indole-3-butylic acid:IBA)があり,合成オーキシンとしてナフタレン酢酸(Naphthalene acetic acid:NAA)や2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-phenoxy acetic acid:2,4-D)や2−メトキシ−3,6−ジクロロ安息香酸(ディカンバ)などが発根促進剤や除草剤などの農薬として利用されている。(枯れ葉剤と2,4,5-T)

第27図

6-1-1. オーキシンの生合成と転流
 オーキシンは植物にとって基本的な植物ホルモンの一つで,植物体のほとんどすべての部位でわずかではあるが生合成することが出来る。しかし,多量にオーキシンを生合成できる部位は茎頂分裂組織,若い葉,発達中の果実と種子である。
 オーキシンの植物体内の移動は,頂端から基部に移動する「求基的移動(極性輸送)」が行われる。以前は,オーキシンは重力に影響される重力移動するといわれてきたが,様々な研究結果から,極性輸送は細胞から細胞へとエネルギーを用いて移動するもので,重量に依存しない移動であることが明らかとなってきた。すなわち,細胞の上下を認識してオーキシンは移動しており,上下を逆にして挿し木した場合には,オーキシンは重力上の上下ではなく,植物体としての上下に移動して,上部から発根が始まる減少が認められている。(第28図
また,根においては維管束の師管内を移動する。
 オーキシンは植物体内において10-6〜10-5M程度の濃度の時に成長を促進するが,それ以上に濃度が高くなると,エチレンの生合成を促進するなど様々な生理障害が発生する。

6-1-2. オーキシンの生理学的効果
(1) 細胞伸長
 アベナテストで知られる屈光性や屈地性はオーキシンの細胞伸長効果によって引き起こされている。屈光性は(1)茎の先端でのオーキシンの生合成,(2)極性移動,(3)一方向からの光刺激,(4)光刺激に反応したIAAの横移動,によって行われる。
オーキシンに反応する酵素の生合成に関与する遺伝子にその遺伝子にGUS遺伝子(β−グルクロニダーゼレポーター遺伝子)を結合させたDNAを遺伝子組み換えで導入し,GUS染色を行うと,オーキシン活性が高い部位が青色に染色される。この特性から組織的にオーキシン活性の高い部位を視覚的に確認することができる。(第30図
光刺激によって,光照射と反対側に移動したIAAによって細胞伸長に偏りが発生し,あたかも光に向かって伸長するように区曲する。

-------- 【参考資料】--------------------
屈地性は,細胞内のアミロプラストによって関知される。アミロプラストは細胞内での比重が高く,重力によって下部に移動する性質があり,平衡石という。平衡石を持つ特殊化した細胞は平衡細胞と呼ばれる。平衡石を基準にIAAは左右に移動する。(第31図,第32図
--------------------------------------

(2) 頂芽優勢(apical dominance)
 頂芽優勢は,頂芽だけの成長が促進され,その直下の腋芽の成長が抑制される現象である。オーキシンは頂芽で生合成され,頂芽のオーキシン活性は著しく高い。オーキシンは,根で生合成されて頂部に移動するサイトカイニンのシンク能を高める作用を持ち,頂芽でのサイトカイニン活性が著しく高まる。これに対して腋芽にはサイトカイニンが蓄積せず,成長が抑制される(第33図)。このことはサイトカイニンの項目で再度解説する。

(3) 不定根の分化
 オーキシンは根の内鞘の細胞分裂を促進し,根原基の形成を促進する。同様に根の組織ではない細胞分裂も促進することができ,根原基を形成させる。根から根が分化することを側根形成といい,根の組織ではない組織から根が分化することを不定根形成という。
 オーキシンの不定根形成能力を活用した技術が園芸産業において発根促進剤として用いられ,挿し木での栄養繁殖に用いられる。
 オーキシンは求基的移動(極性輸送)が行われ,茎頂部で生合成されたオーキシンは基部に移動し,その後師部移動して根に移行する。根でのオーキシン活性が高まることによって側根形成が盛んに行われ,根が分岐する。したがって,茎頂部(芽)の成長が活発な植物体では根が多く分岐しやすくなる。(根端でのサイトカイニン生合成の増加)
 しかし,オーキシンは根の伸長を阻害するため,過剰なオーキシンは不定根の分化を促進するが,根の成長を阻害する。

 過剰なオーキシンの生合成を行う遺伝子組み換え植物(第34図下段)は,野生型と比較して多数の根原基の形成が促進される。

(4) 維管束分化
オーキシンは維管束分化を促進する。オーキシン活性が高い部位が存在すると,その部位にむかって維管束が分化し始める。茎頂組織は盛んに細胞分裂を行い,葉原基を次々と分化する組織である。茎頂部の下部には維管束が分化しているが,茎頂部は維管束が未分化の状態である。茎頂部の高いオーキシン活性の影響を受け,茎頂下部の維管束が次々と分化,伸長し,茎の伸長に伴って維管束が上部に伸びていく現象は,茎頂部の高いオーキシン活性による。(431)
同様に,分化直後の幼葉でも維管束(葉脈)が未分化であるが,若い葉での高いオーキシン合成によって維管束が次々と分化し,複雑な形状の葉脈が形成されていく。

 オーキシンに反応する酵素の生合成に関与する遺伝子にその遺伝子にGUS遺伝子(β−グルクロニダーゼレポーター遺伝子)を結合させたDNAを遺伝子組み換えで導入し,GUS染色を行うと,オーキシン活性が高い部位が青色に染色される。第35図の写真は,オーキシン活性の高い青色に染色された部位にむかって維管束が分化して伸長するところを示したものである。

(5) カルスの分化
 植物の組織を培養すると,器官に分化していない組織(脱分化組織:カルス)が形成される。オーキシンは組織からのカルスの脱分化を促進する。これは,植物が傷を受けた時に病原菌の侵入や樹液の漏出を防ぐ目的で傷をふさぐ「カサブタ」のような組織で癒傷組織ともいう。カルスが細胞分裂して増殖するにはサイトカイニンが必要であるが,オーキシンだけではカルスは形成されるが,増殖は行われない。
 第36図上左の写真,下段の2枚の写真は組織培養によって形成されたカルスである。

第36図

(6) 果実発育促進
オーキシンは発達中の果実と種子でも盛んに合成される。特に種子(胚)でのオーキシン合成能力は著しく高い。リンゴなどの果実の細胞分裂は開花後30日までに終了し,その後,細胞肥大が盛んになる。胚で生合成されたオーキシンは果肉組織の細胞肥大を促進し,果実の発育を促進する。イチゴを用いた実験で種子の役割の1つにオーキシンが重要であることがわかる。
また,オーキシンはシンクとソースの関係にも重要な役割を果たしており,シンク能を左右する要素の1つとしてオーキシン活性が関係している。
 イチゴの種子(植物学上は果実)はオーキシン生合成を行っている。開花直後に種子をピンセットで除去すると果実の肥大は抑制され,果実は大きくならない。しかし,種子を除去したイチゴにオーキシンを処理すると通常の果実と同様な肥大がみられ,種子のオーキシンが果実の肥大(果肉細胞の細胞肥大)を促進していることが判る。(第37図
 オーキシンはアミノ酸のトリプトファンから生合成される。トリプトファンを青色に染色する色素で染めたところ,第38図の右図に示すように,種子の中の胚(E)に多く含まれており,種子の中でも胚がオーキシンの生合成の場であることが判る。左の図は通常の染色を行い,種子全体の組織が観察できるようにしたものである。右の図で胚乳(EN)は青く染色されておらず,胚乳ではオーキシンは生合成されていない。

第38図

(7) エチレンの生合成の促進
 オーキシンとエチレンとの関係は複雑で,植物にとって最適な濃度ではエチレンの作用を打ち消す効果を持つが,過剰な濃度では逆にエチレンの生合成を促進する。エチレンは落葉を誘導するホルモンであるが,正常な植物体では,若い葉のオーキシン活性によってエチレンの作用(落葉作用)が抑えられているが,葉が老化してオーキシン生合成能力が低下するとエチレンの作用を抑えられなくなり,落葉が促進される。(第39図
 過剰なオーキシン処理による落葉促進を利用した事例にベトナム戦争での枯れ葉剤がある。オーキシンの1種である2,4,5-Tによってエチレンの生合成が促進された樹は落葉し,ベトナム戦争でのゲリラ(ベトコン)抗戦を困難にした。枯れ葉剤散布による様々な催奇性は,2,4,5-T合成過程で発生したダイオキシンなどの副産物の混入によるものといわれている。

 エチレンはアナナス属植物の花芽分化を促進する。パイナップルの花芽分化を促進する目的でオーキシン処理が行われている。

6-1-3. オーキシンの園芸産業での利用
 オーキシンは最も早く研究が行われた植物ホルモンであり,園芸産業における利用も活発に行われている。
・ 発根促進剤(挿し木)
・ アナナス属の花芽分化(パイナップルやグズマニア)
・ 着果促進(エチレンの作用阻害とシンク能の向上:トマト)
・ 除草剤(単子葉植物は合成オーキシンを不活性化する酵素反応を持っているが,双子葉植物ではそれがないため,植物体内のオーキシン活性が異常に高まり,生育障害を引き起こす:トウモロコシや芝などでの除草剤)
・ 摘果剤(過剰なオーキシン活性による離層形成促進)

6-2.サイトカイニン
 タバコの茎切片をオーキシンを添加した培地で培養すると、初期には細胞分裂を行い、その後細胞肥大がみられるが、その組織を新しい培地に植え継いでも細胞分裂は見られず細胞肥大のみが行われる。また、茎のうちの髄部のみを培養すると細胞肥大のみで細胞分裂が行われない。したがって、皮層部や維管束部には細胞分裂を促進する物質が含まれることが明らかとなった。すなわち、茎切片培養では維管束部に含まれる細胞分裂促進物質の作用で初期には細胞分裂が行われるが、それが使い果たされてしまうと細胞分裂が行われなくなってしまうのではないかと考えられ、維管束内には細胞分裂促進物質が存在することが考えられた。一方ココヤシの胚乳液や酵母抽出物を培地に添加すると細胞分裂が促進されることが見いだされ、その中の物質を抽出したところ核酸関連物質でプリン核を持つ物質であった。このことからことが明らかとなった1950年代はDNAの発見によって核酸が遺伝物質であることが明らかにされた時期であり、DNAを培地に添加する実験が多数行われた。1955年にMillerが古いDNAから細胞分裂促進物質を抽出し、それをカイネチン(kinetin) と命名したのがサイトカイニンの研究の最初である。1963年にはレザム(Letham)がトウモロコシの未熟種子から天然のサイトカイニンを抽出同定し、これをゼアチン(zeatin:trans-6-(4-hydroxy-3-methylbut-2-enylamino)purine)と命名した。サイトカイニンはプリン塩基を持ち、細胞分裂を促進する作用を持つものの総称として用いられる。
 天然に存在するサイトカイニンの種類としては、ゼアチンとiPの2種類である。

第40図

 合成サイトカイニンのなかにはカイネチンの他、ベンジルアミノプリン(BAP)があり、この他にも20種類程度が合成されているが、現在よく用いられているものはこの2種類である。サイトカイニンの定義のなかでプリン塩基を持つ化学物質であることを述べたが、近年の研究により、プリン塩基を持たないサイトカイニン様活性物質が発見された。それは、ジフェニル尿素(ジフェニルウレア)の関連物質で、そのなかで最も活性の高い4−ピリジルフェニル尿素(4-PU)もサイトカイニンとして加える場合が多い。

第41図

 サイトカイニンは植物ホルモンの1種であるが,植物以外の昆虫や細菌がサイトカイニンを生合成する例がある。クラウンゴールを作るアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens),天狗巣病を引き起こすCorynebacterium faciens(第42図),虫えい(コブ)を作る昆虫(タマバエやタマバチ)など(第43図)である。
【Agrobacterium tumefaciensによるクラウンゴール形成,Tiプラスミド,オパイン,遺伝子組み換え】(第44図

6-2-1.サイトカイニンの生合成と転流
サイトカイニンは根端分裂組織,胚乳組織,展葉中の葉,幼果で生合成される。この中で根端分裂組織は最も重要な生合成の場である。根端分裂組織で生合成されたサイトカイニンは蒸散流と共に道管を通じて植物体上部に転流する。

6-2-2.サイトカイニンの生理学的効果
(1) 細胞分裂促進
 根端分裂組織で生合成されたサイトカイニンは道管を経由して道管の先端,茎頂分裂組織に集積される。茎頂分裂組織に集積されたサイトカイニンは茎頂分裂組織の細胞分裂活性を促進し,茎頂の成長を促進する。サイトカイニンの酸化酵素の活性を活性化させる遺伝子組み換え植物は茎頂部でのサイトカイニン活性を急速に低下させるために,茎頂分裂組織の細胞分裂活性が著しく抑制される。
 この細胞分裂促進作用の最も明確な現象がカルスの増殖である。カルス組織の脱分化はオーキシンによって促進されるが,オーキシン単独ではカルスの増殖を促すことはできない。オーキシンによって脱分化が促されたカルス組織は,サイトカイニンが添加された培地で培養することによって細胞分裂が促進され,カルスの増殖がみられるようになる。(第46図

 茎頂組織での細胞分裂は葉原基の形成が促されるために,サイトカイニンによって新たな葉の分化が促進される。サイトカイニンは根端分裂組織で生合成されるため,根端組織数が多いほど,すなわち根端数が多いほど生合成されるサイトカイニンは多くなる。長く伸びた根と短いが分枝が多い根ほど地上部の成長は旺盛になる。根の生長が良い植物ほど地上部の成長が良いという事実は,根端数の多さと関係しており,サイトカイニン活性の高さと関係している。
 春から夏にかけて,地温の上昇と共に根の成長が活発となり根端分裂組織でのサイトカイニン生合成活性が高まると,茎頂成長点の細胞分裂が促進される(第45図左)。しかし,秋の訪れと共に地温が低下し,根の活性が低下して根端分裂組織でのサイトカイニン生合成が低下すると,茎頂成長点の細胞分裂は衰え,茎頂組織は小さくなる(第45図右)。
 サイトカイニンを分解する酵素の遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換え植物(第44図右2枚)は茎頂組織でのサイトカイニンの集積がみられないため,茎頂組織の活性が低下して成長が抑制されるのに対して,野生型(第44図左写真)は茎頂組織でのサイトカイニンの集積が起こり,活発な成長がみられる。

(2) 不定芽分化促進
 サイトカイニンの不定芽分化促進作用は,樹を地上部で切り取った時に現れる。樹の切口には根端分裂組織で生合成され,樹液を通じて上部に転流したサイトカイニンが集積し,切口部のサイトカイニン活性は著しく高くなる。この影響を受けて切口部に多数の芽が形成され,サイトカイニンの不定芽分化促進作用を実感することができる。同様にカルスをサイトカイニンが高い濃度の培地で培養すると,カルスからの不定芽分化が観察される。(第47図第36図上段右写真
 また,Agrobacterium tumefaciensのオーキシン生合成遺伝子を抑え,サイトカイニン生合成遺伝子のみが正常なTiプラスミドDNAを遺伝子組み換えすると,組み換え植物はクラウンゴール(カルス)形成ではなく,不定芽を盛んに分化するleafyと呼ばれる突然変異株となる。

(3) 頂芽優勢の打破(側芽の成長促進)
 サイトカイニンは側芽の成長開始を促進する。休眠している側芽にサイトカイニンを塗布すると,側芽は成長を速やかに開始する。根端分裂組織で生合成されたサイトカイニンは道管を通じて地上部に伝達される。地上部の茎内濃度は下部ほど高く,上部に従って低下し,最上部の茎頂分裂組織ではサイトカイニンの集積の結果特異的に著しく高くなる。その結果,茎の下部ほど側芽の成長は促進され,上部になるほど成長活性は低下し,頂芽優勢が発現される。ただし,頂芽だけはサイトカイニンが高い濃度で集積することで,活発な成長活性を持つ。
 側芽の萌芽が行われにくい植物では,サイトカイニンを植物体全体に散布することで,側芽の萌芽が著しく促進される。

(4) 老化の抑制
 サイトカイニンは植物の組織の老化を遅らせる効果を持つ。植物体の葉は,成長と共に下位葉が老化して黄化して落葉する。サイトカイニンを散布すると黄化が抑制され,緑色を保ったまま維持される。挿し木を行う場合に,着生している葉は光合成を行わせるためにも重要である。挿し木時にサイトカイニンを散布すると葉の黄化が抑制され,挿し木の活着が促進される。

(5) シンク能の強化
 植物体内の物質はサイトカイニン活性が高い部位に集中して移動し,サイトカイニン活性が高い部位はシンク能が高い。植物体にサイトカイニンを散布すると,処理した部位にアミノ酸や糖などの物質が集中して蓄積される現象がみられ,植物のシンク能を左右する物質の1つである。
 第48図の解説: 【左図】アミノ酸の一種(アミノイソ酪酸)を右側の子葉に処理すると,右側の子葉を中心に左側の子葉にも広く拡散される。【中図】同様に右側の子葉にアミノイソ酪酸を処理して,左側の子葉にカイネチンをスプレー処理すると,アミノイソ酪酸はカイネチンをスプレーした左側の子葉に集中して移動する。【右図】同様に右側の子葉にアミノイソ酪酸を処理して,右側の子葉にカイネチンをスプレー処理すると,カイネチンをスプレーした右側の子葉のみに集中する。したがって,処理したアミノ酸はカイネチンに引きつけられて移動することが判る。

(6) 葉緑体の発達を促進する
 サイトカイニンは葉緑体の発達を促進し,サイトカイニン活性が高いほどチラコイドの発達が促進され,光合成活性が高い葉緑体が形成される。暗所で植物を生育させると,葉緑体は発達せず黄化した葉が形成される(第50図左)。サイトカイニンを散布すると,暗所であっても葉緑体が発達し,正常な緑色葉が形成される。(第49図右

6-3.ジベレリン
 ent-ジベレランを骨格とする物質の総称で、GAと略される(第50図)。1930年代に日本の研究者によって発見された。イネの苗を徒長させる病気「馬鹿苗病菌Gibberella fujikuroi」(第51図)から単離されたが、その後植物でも 生合成していることが明らかとなり、同定された。同定された順にGAに数字が付けられ、GA1、GA3 などのように書き記す。ジベレリンの大きな生理作用に節間伸長があり,タケノコには多量のジベレリンが存在し,初期のジベレリンの研究は「タケノコの水煮」を用いて行われた。

6-3-1.ジベレリンの生合成と転流
 ジベレリンは成長中の若い芽,若い葉,節間上部で生合成される。シュートの先端部で生合成されたジベレリンは師部を通じて植物体の各部位に転流される。
 【第52図の解説】: ジベレリンと結合する酵素遺伝子と共にルシフェラーゼの遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換え植物を作り,ルシフェリンを処理すると,ジベレリンが存在するところでルシフェリン発光がみられ,暗所で蛍光を発する。蛍光を視覚的に判別できるように画像処理して植物体のシルエットに重ね合わせると,蛍光を発する場所が茎頂部の若い葉に集中することから,これらの部分でジベレリンが生合成されていることが判る。

6-3-2.ジベレリンの生理学的効果
(1) 茎の伸長成長の促進
ジベレリンは,正常な成長を行っている植物体に処理しても伸長成長を促進することはない。しかし,ジベレリンを生合成できない突然変異体やジベレリンを過剰に分解促進させる遺伝子組み換え体では,正常な個体と比較して著しく背丈が短くなり(第54図右写真),これにジベレリン処理すると正常な植物と同じように伸長成長が行われる。
また,キャベツのようにロゼット化した成長を行うものにジベレリン処理すると,茎の伸長が認められる。(第53図左写真
ジベレリンは節間伸長が旺盛なものほど多量に含まれ,タケノコにも多量にジベレリンが含まれている。また,馬鹿苗病菌によって分泌されたジベレリンによって,イネは徒長成長する。(第53図

(2) 種子の発芽促進
 種子は胚乳や子葉に多量のデンプンやタンパク粒を蓄積し,発芽の養分としている。しかし,これらの貯蔵養分は糖やアミノ酸などのような可溶態にならない限り利用することができない。
種子が発芽する時には,これらの貯蔵物質が可溶態化する。ジベレリンはα-アミラーゼの活性を促し,デンプンの糖化を促して発芽を促進する。ジベレリンによってα-アミラーゼ遺伝子に関係するmRNAの転写を促し,α-アミラーゼが生合成され,胚乳内のデンプンが速やかに糖に分解される。
したがって,吸水した種子にジベレリン処理を行うと発芽率が向上する。

(3) 花芽誘導促進
  アブラナ科植物のように栄養成長期間はロゼットを形成し,長日条件で花芽分化し抽苔と呼ばれる茎の伸長がみられる。ジベレリンは花芽分化と抽苔を促進する。 (第55図左写真

6-3-3. ジベレリンの園芸産業での利用
 ジベレリンは果実の発育促進に用いられる。特に種なしブドウはジベレリンがなくては生産することができない。

結実促進などの作用がある。

6-4.アブシジン酸
ABAと略される。休眠を促したり、落葉を促進したりする生理作用を持つ。また、気孔を閉じさせる作用をもつ。組織培養では、細胞分裂の誘起、細胞増殖の促進、不定芽形成の促進などが知られているが、作用機構についてはほとんど明らかになっていない。

わい化剤

6-5.エチレン
気体で、老化を促進し、節間伸長を促進する。