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Maron BV Kwekerij
Delftsestraatweg 30A
2641 NB Pijnacker
Netherlands

 2005年オランダの切りバラ生産の状況を視察しました。これまでのオランダ視察では,大規模生産施設や育種会社の視察が主でしたが,Holland Web社のMichel de Kok氏の案内で中・小規模生産者を訪問することができました。

  

 Maron BV Kwekerij社の経営面積は14,000uで,オランダでは個人経営の小規模生産会社です。(日本では大規模生産者になりますが・・・。)生産している品種は,Grand Prix(グランプリ)のみの1品種です。10年前からGrand Prixを生産し続けており,4〜5年で株を更新しています。

 Grand Prixは,Terra Nigra社が育成したオランダの主力赤バラ品種です。生産性が安定していることや,花が大きく,濃くて深い赤色は消費者にも好まれています。古い品種ですがオランダでは評価が高く,日本のローテローゼに相当する品種です。生産性が高く,ロックウール栽培では150-190本/u(坪当たり500〜600本)の収量があります。切花長も長く,70〜100cmの長い切花が収穫できます。しかし,病気に弱いため作りにくく,さらに花首にトゲがあるため,流通上問題があります。乱雑に取り扱ったり,長距離輸送を行うと花首のトゲが隣の花の花弁を傷つけて商品性を低下させます。
 その結果,立て箱出荷が基本で,流通ルートが整備されているオランダ専用品種となっており,ヨーロッパでも大量輸出で問題となっているケニアでは生産できない品種です。

 Grand Prixは10,000lux以下だとブルーイングするため,最低でも12,000lux以上の補光が必要であることが判り,Maron BV Kwekerij社でも14,000luxで補光を行っていました。補光は多大の電力を必要としますが,天然ガスを利用したコージェネシステムを導入することでエネルギーコストを節減しています。また,補光ランプからの放熱で,冬季であっても暖房がほとんど要らないほどの付加効果があり,さらに収量がかなり高くなるため,総合的にみると補光の効果は絶大ということができます。

 日本では,電力費が高いと言うことから補光が進まない状況ですが,暖房費節減効果,収量効果,品質向上効果,湿度の低下による病害の発生防止効果など,総合的にデータを取る必要があると感じました。

   

雇用労働者は8人(40時間/週)+4人(4時間/土日)です。
 切花収量は180本/u(590本/坪)と平均収量からみて高い方です。Maron氏の話によると,オランダの生産者のなかには300本/u(990本/坪)という,とんでもない生産者もいるとのことです。しかし,Maron BV Kwekerijでは切花長が長くて,大きい花を出荷することを目標にしており,高品質な切りバラという評価を受けて切花販売単価も高いので,180本/u(590本/坪)で充分満足しているとのことでした。
硫黄薫蒸は毎晩4時間実施しています。当然のことですが,養液は完全循環方式で,養液の消毒はUV250Jで行っていました。

  

 収穫したバラは,速やかに殺菌剤の入った冷却水に浸けられ,選別,調整を行った後,冷蔵庫に入れられます。バラの切花保持品質に対して,高い自信を持っておられました。

  

 下の写真は,ロックウールの苗定植キューブの上に発生する雑草やコケ,シダの防除用に,ココピートのマットを被せてあるものです。日本でも,ゼニゴケやシダなどの繁茂に困っておられる生産温室を見かけますが,簡単な発想で防いでいました。

 オランダでは近年ブランド化を目指す方向にあることから,「Dutch United」などの流通販売ブランドについて質問してみました。
「Maron BV Kwekerijのバラは切花保存品質も含めて,生産したバラに強い自信がある。当然,高品質であることから花き市場でのセリ価格も高く評価されているので,「Dutch United」などの表面的なブランドに頼る必要はない。」との答えでした。
花き市場でのセリ取引と予約相対取引について質問しましたが,「予約取引は品質を正当に評価できない可能性が高く,将来価格下落の原因になるのではないかと危惧している。セリ取引は重要な花き流通の基幹である。」との答えでした。
 まさに,日本でよく見かける「職人」としての自負を持つ生産者といえます。
Maron BV Kwekerij社では,,2年前に7,000uの温室を増設して14,000uの施設面積に達したのですが,この面積では将来も切りバラ生産を経営を続けていくことは難しいと考えています。後継者の問題も含めて,5〜6年後には将来の方針を決定したいと言っておられました。
 施設面積が現状の14,000uのままの場合には,他の切花に転向するか,もしくは廃業するしか方策はないとのことです。

間違いなくオランダでは「小規模生産者の淘汰の嵐」が吹き荒れており,小規模生産者は正念場をむかえ始めていると感じました。
ケニアやエクアドル,インドなどから大量の切りバラが輸出されてきている日本の場合も,近い将来同じことが起きてくると思います。
MPSについて
 Maron BV Kwekerij社は,10年前にMPSに参加した初期登録者の一人です。しかし,現在の認証は「MPS-C」とのことでした。その理由は,補光を14,000luxで行っているため,エネルギーの問題からMPS-C以上にはなれないそうです(10,000lux以上の補光を行っている生産者はMPS-C以上の認証を受けることができない)。
 Maron氏は,「14,000luxの補光を行うことで生産性は著しく向上することから,切花収量当たりのエネルギー投資という概念を是非導入して欲しい。もし可能であれば,売り上げ当たりのエネルギー投資効率という概念が最も適していると考えている。このような現状から見て,MPS-C認証でも仕方がないと考えている。経営効率の方が最優先である。」
 Maron BV Kwekerij社を訪問する直前に Henk van Os & Zn, Rozenkwekerij社を視察したことから,ムービングシステムについて質問してみました。
 「ムービングシステムの設備を導入するには,通常の固定ベンチでの施設費に対して20ユーロ/uの付加投資が必要となる。5年償却と仮定して年間5ユーロ/uの増収が必要となる。現在,オランダ全体で30haのムービングシステムが導入されているが,現実問題として年間5ユーロ/uの増収が確保されているとは思えない。ムービングシステムの将来性に対しては否定的です」との答えが返ってきました。
 ムービングシステムの導入付加コストが20ユーロ/u(坪当たり1万円程度)とは随分安いものだと思いました。この金額を償却できないということは,オランダの切りバラ価格がかなり安いことを示していると思います。

以下のことは,案内していただいたTerra Nigra社のTon Boerlage氏とHolland Web社のMichel de Kok氏との会話の中で伺った内容です。

●オランダでの切りバラ生産の最近の話題は「冷房システムの導入」である。夏季に25℃以下,60%の湿度に制御することで高品質な切花の収量が増加するとの報告があり,実用レベルでの成果待ちの状況である。
●人件費高騰の影響も大きな経営上の課題となっている。ポーランド人労働者の受け入れも検討され始めている。50,000uの生産施設では,ポーランド人労働者を雇用し,24時間3交替制を導入している生産会社も出てきている。
●オランダの切りバラ生産は工業生産化してきている。
●生産技術レベルが20年前に比べて格段に高くなってきており,公的研究機関での研究内容が産業課題に追いつかなくなってきており,「研究所不要論」も出てきている。大規模生産会社では,自前の研究所が必要との考え方も出てきている。
 (静岡大学を退職された大川清教授から,「オランダのアールスメール研究所がオランダの花き生産を支援するための研究を常に目指してきた結果,現在の世界に冠たるオランダの花き産業が発展してきた」という話しを聞いてきました。また,大川先生からは「日本の大学も生産現場とかけ離れた基礎研究ではなく,もっと現地に根ざした研究をするべきです」といわれたことを思い出しながら,隔世の感を感じた次第です。
●オランダで生産されるバラはPassion,Grand Prixなどの「大輪系赤バラ」が主力なのに対して,ケニアで生産されるバラは,「小輪系バラ」でSphinx(黄色)が主力です。ケニアが小輪系のSphinxを主力としている理由は,(1)赤バラ市場はオランダが占有しており食い込めない,(2)大輪系を栽培すると気候上の問題から巨大輪になってしまいヨーロッパ市場で受け入れられない,(3)航空運賃は重量もしくは体積のいずれかの大きい方で運賃が決定され,大輪のバラは重量が重いため輸送費に対して重量当たりの販売金額が低く不利,(4)Grand Prixはケニアで生産すると切花長が長くなりすぎて,収量性(面積当たりの切花本数)が少ない,(5)長い切花は重量がかさみ輸送コストが非効率,などの理由が挙げられる。
●オランダの切りバラの目標は,切花長80pで高品質,高生産性の追求であり,ケニアは50pの小輪系の多収性を追求している。
●オランダの切りバラ生産は,生産コストに対して売上金額が低く,2000年から2004年の平均経営金額は赤字で推移している。オランダの切りバラ経営は極めて危機的な状況をむかえており,生産上のトラブルや新品種導入の失敗は倒産の危険に結びつく。新たな設備の増設や新設は経営対策として重要であるが,投資に対する生産性の向上効果が低かった場合には経営危機に陥ることになる。
●新たな設備投資を行わず,現状の生産施設で生産することは経営危機を回避できるが,将来にわたって切りバラ生産を継続することは不可能である。すなわち後継者のいない生産者にとって,一代限りの生産を継続することは可能であるが,結局,近い将来には廃業の道を選択せざるを得ない状況をむかえる。経営能力がより求められている状況といえる。
●ロックウールは再回収コストなどの問題があり,ロックウールに変わる資材の検討が行われている。コンポストは品質安定の面で問題が大きく,ココピートがロックウールに変わる資材の主力となる。コンポストの原料は産廃の関係でオランダでも無料である。