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Dubai Flower Centre
Dubai, UAE

2007年7月28日にドバイフラワーセンター(Dubai Flower Centre:DFC)を訪問しました。
 ドバイフラワーセンター(DFC)構想は4年前の2003年に立案され,7,000万$の事業費を費やして,2006年7月から営業を開始しました。
訪問した7月下旬はドバイでも最も気温が高い時期で,昼の最高気温は48℃に達しましたが,DFCの建物の中は空調が完備しており,事務室内は18℃に維持されており,荷受けスペースなどは10℃に維持されていました。

●ドバイフラワーセンターの背景

 一般に,アラブ首長国連邦は産油国として認識されていますが,ドバイ首長国は既に産油国ではなくなっており,UAEの中で産油能力を持つのはアブダビ首長国のみです。産油国でなくなったドバイが将来の国家構想として目指しているのが,物流・情報・金融の拠点としての国家構想で,産油国であった時代に蓄積した金融資産を情報・物流の集積拠点形成のためのハード資産に置き換えることで国家の存立を目指しています。
 情報・物流に関わる人間がドバイに集まることで食品,住宅,生活用品などの関連産業が発展し,その結果としてドバイ経済が相対的に潤うことを目的として,様々なフリーゾーン(経済特区)を設立して優遇措置をとっています。ドバイには25カ所のフリーゾーンがあり,Jebei Ali,Dubai Airport,Dubai Internet,Dubai Mediaなど様々な分野に渡っています。
 ドバイフラワーセンター(DFC)はフリーゾーンの一つで,以下の優遇措置を受けることができます。
     ★外国資本100%の受け入れ
     ★法人税100%免除
     ★個人所得税100%の免除
     ★輸出入課税の100%免除
     ★従業員採用に関するローカルコンテンツの要求撤廃
     ★利益の100%本国送還可能
   (ここまで優遇されると,ドバイに進出しない理由は見あたりませんねぇ・・)
 ドバイ政府は花の流通自体で収入を挙げようとは考えていません。DFCに事務所を開設して花束加工などの業務収益が上がってもその収益に対しては無税で,まさに文字通りフリーゾーンということになります。経費としてはDFCの面積使用量のみをDFCに支払うだけです。
 DFCの3階にある34部屋の貸事務所の年間家賃は350$/u(30平米以上),500$/u(30平米以下)とのことです。標準的な小さな事務室を1室借りると,6,000$/部屋/年と低価格です。
 DFCでは,植物検疫,国際的な切花入荷・分荷,花束加工など様々な業務機能を持っており,その業務に携わる人間がドバイに駐在し,またそれに関連する業界の従業員がドバイを訪問することとなります。ドバイに滞在する従業員が多くなればなるほど,生活,宿泊,食事など様々な生活行動に伴ってドバイにお金が投下されることになり,経済学的には直接投資金額より大きな効果が現れることになります。従って,フリーゾーン(経済特区)の設立で儲ける必要はなく,その波及効果の方が直接的な業務収入より経済効果が大きいという国家経済理念に基づいてDFCは運営されています。
 日本でよく論議される受益者負担や単年度収支といった考え方はDFCにはなく,現在の状況を考えれば施設の空調に関わる光熱水量費や人件費など,当然とても収支が合っているようには思えませんが,将来への投資という観点でみれば物流拠点形成のメリットは将来必ず大きな価値を持つという信念の基にDFCは運営されています。

●ドバイフラワーセンターの概要

 DFCはドバイ国際空港の北側に位置し,第1期工事が完成し,航空機から貨物カーゴを直接フラワーセンターに入庫することが出来ます。現在のDFC事務所の入居率は60%程度ですが,満室になった段階で第2期工事が予定されています。ただし,将来的には2011年に滑走路11本を持つ新国際空港の建設が予定されており,そこに新たなフラワーセンターを建設する構想があるようです。

  写真をクリックすると拡大写真が見られます。(Google earthより)

 現在の施設は写真の1/2の規模です。

DFCの建物内は3階建てで,1階は海外の輸出会社やリパック業者の事務所,2階はバイヤーやブローカーの事務所,3階がDFCの事務所となっています。


DFC事務所のカウンター

ドバイに到着した切花のDFC内での移動は以下のようになります。

(1)航空機が到着後,貨物カーゴが1階から搬入され,リフトで専用保冷格納スペースに一時保管されます。

 
1回搬入口の扉の外はドバイ国際空港です。航空機から降ろされた貨物カーゴは外気にさらされることなくDFC内に搬入されます。

  
搬入口の内側には巨大なリフトがあります。搬入された貨物カーゴはリフトで専用保冷格納スペースに納められます。

(2)ドバイ国内消費は検査後にエレベータで3階に搬出し,植物検疫後に輸入業者に引き渡されます。海外転送荷物は2階の冷蔵保管倉庫に移動します。
 ドバイへの国内輸入切花は,ドバイの植物検疫を行っていますが,これとは別に,国際取引のための切花検査基準を策定中です。DFCに事務所を置いている輸出入商社あるいは取引国と共同でドバイでの中間植物検疫代行業務を模索していました。
これができるようになると,例えば日本へ輸出するオランダの切花のように日本での植物検疫が免除されることになります。
実際に植物検疫代行業務が運用開始となった場合には,日本国産の切花に取っては大きな驚異になることは間違いありません。

 
1階フロアーは広い荷受けスペースになっています。

 
1階荷受けフロアーには巨大なエレベータが2基あり,荷受けされた荷物は2・3階に移動します。荷受けフロアーの温度は10℃にコントロールされていました。

(3)2階の冷蔵保管倉庫での保管
海外への転送荷物は2階の冷蔵保管倉庫で再出発を待ちます。保管倉庫は20区画あり,それぞれの保管庫の温度は2℃〜10℃で個別に管理することができます。特にエチレンの影響を受けやすい場合には,他の商品から発生すれるエチレンの影響を受けないように特別にシールされた区画に保管することができます。

   
2階スペースは輸出入業者の冷蔵保管倉庫になっており,借り上げ料は220$/uです。

(4)冷蔵保管倉庫で一時保管された切花が再輸出されるときには,1階の急速冷却庫で冷却されて出庫されます。

 冷却庫は2機の閉鎖型真空予冷庫と3機の急速冷却庫があり,冷却温度は個別に調節ができます。急速冷却庫のうち1室は,エチレンの影響を受けないように切花専用の冷却庫となっていました。

 
写真は急速冷却庫で,庫内には5基の冷却器が設置されていました。通常はここで2〜3時間かけて予冷して出荷します。

 
これらの温度管理はすべて自動制御システムで管理されています。

  
訪問した日は土曜日であったため荷物は極めて少ない状況でしたが,エクアドル,コロンビア,ケニアの切花が搬入されていました。


●ケニアからの切花のドバイ経由のヨーロッパ輸送の例

 夜ケニアを出発し,早朝にドバイに到着します。午前中にドバイを出発してヨーロッパ最大の需要国であるロシア(モスクワ)には夕方に到着します。植物検疫を経て翌日にはモスクワ市内の集荷センターで分荷されて花店に配送されます。(2日間で店頭に到着)
 ケニアを出発する切花は空港前で5℃に保冷されますが,ドバイに到着までに12℃程度まで温度が上昇します。ドバイに到着した切花は再びドバイで2℃に予冷されてモスクワに出発します。ドバイからモスクワへの輸送の過程で,切花の温度は15℃程度まで上昇することになりますが,ケニアからモスクワまでの輸送過程で切花の温度は15℃以上に遭遇しないことになります。
 ケニアからオランダを経由してモスクワに輸送した場合を考えてみましょう。夜にケニアを出発した切花は翌日にオランダに到着し,次の日にセリにかけられます。その後,分荷されてロシア便の航空機,あるいは陸送便でモスクワに出発します。
 ケニアからオランダに輸送する過程で,切花の温度は18℃程度に上昇します。オランダでセリにかけられる中で切花温度は15℃程度で維持はされますが,その後の航空機の輸送で再び温度は上昇し,20℃を超えることもあるようです。当然,トラック陸送の場合には温度は制御ができない状態になる可能性があり,品質はかなり低下する可能性が指摘されています。
 このように考えると,ケニアからモスクワに切花を輸出する場合に,オランダを経由するよりドバイを経由した方が低温での品温管理が可能となり高い品質が維持でき,品質保持の観点から,オランダを経由するよりドバイを経由した方がより高品質が維持できるように思えます。
 このような状況から判断して,ドバイフラワーセンター(DFC)の発展はオランダの花き市場の将来の発展を揺るがす存在になると予想され,2006年のアールスメール市場とフローラオランダ市場の合併にDFCが大きな影響を与えていたことが理解できます。

下のポスターはDFC事務所に掲げられていたものです。
「Key to the Cool Chain」
まさにDFCの存在価値を表現したキーワードだと思いました。

 

Dubai Flower Centre(DFC)には現在16社が入居しており,そのうち1社は野菜関連会社,2社は物流会社で,花に関係する会社は13社です。入居会社の国はUAE,ケニア,ヨルダン,スリランカ,ドイツ,インド,オランダなどです。
2007年7月現在の主なテナントは次の通りです。
Alissar Flowers International Fzco (ヨルダン:中近東の大手生花,観葉の輸出入商社)

Andean Arabian Flowers Ltd. (St.Kitts & Nevis:切花の大手輸入卸商社でコロンビアと南アメリカから主に輸入)

Ceylinco Foliage Exports Ltd. (スリランカ:観葉植物と資材の輸出)

Global Flora Partners Fzco (オランダ・ケニヤ・UAEの合弁:生花+資材の輸出入商社)

Kampac Flora (切花・観葉鉢物・野菜・果物の輸入総合商社)

Shirin Flowers Fzco (アジア・アフリカ・南アメリカ・欧州からの切花輸入商社)

Spectrum Fzco (ケニアのPrimrosaの子会社で,自社生産バラの海外向け中継会社)

Swift Perishable Logistics (UAE:航空貨物,船貨物の大手運搬業者)

Van Bohemen Flowers Fzco (オランダ:23年の歴史あるオランダ産切花輸出卸会社で特にフロリストホテル向けに直接卸)

Tadi Food Holding Fzco (ドイツ:ホテル・航空会社向け高級野菜と果物の卸会社)

Thakur Flowers Fzco (インド:老舗総合商社で,切花・果物・野菜を取り扱う)


●ドバイフラワーセンター(DFC)構想の波及効果

 ドバイはヨーロッパ,アジア,アフリカの中間地点にあります。世界各地165都市に就航するエミレーツ航空,さらに112の航空会社が乗り入れるハブ空港としての役割を持つドバイ国際空港内にDFCがあり,中間地点で切花の品温を再度低温管理することによって切花の品質を高く維持することができるようになり,国際流通商品としての価値を持ち始めた切花流通を掌握できる可能性を持ち始めています。
 オランダが大規模花き市場を発展させることで生産物を集約し,需要者を引き付け続けたこととはまったく違う価値観で,国際商品となり始めたケニアなどの東アフリカやインドの切花を,さらにはマレーシアやベトナムなどの切花をもヨーロッパ市場に配送できる集荷分配機能を持つことができるようになり始めたということができます。
 DFCの担当者は,「オランダと競争する考えはない」と言っていましたが,オランダとDFCが共存することは難しいと考えます。
 本当かどうかは疑問ではありますが,「オランダに比べてDFCを経由する有利性を,バイヤーや生産国に対してプロモーションすることはありません。ケニアの生産会社が直接オランダに輸出するよりドバイを経由した方がよりメリットが大きいと判断すれば,自ずとドバイに切花が集中することになる」と言っていました。
 DFC説明担当者の夢は大きく,「DFCはエミレーツ航空とともに発展する。例えば,ロシアは大きな消費国として期待しており,ドバイ−モスクワ直行便は,ケニア−アムステルダム−モスクワより便利だと思う」と説明してくれました。また,「アフリカ,インドの切花のすべてをDFCに集約させたい」との夢を語ってくれましたが,まんざら夢物語には思えませんでした。
 現在はまだ機能していないようですが,切花の輸送中の状態や航空機の搭載状況,商品の温度状態をDFCのコンピユーターシステムでモニター可能となるシステムが近々稼働するそうです。
 DFCは2006年7月に開業し,年間130万トンの航空貨物が行き交い,その取扱量は年間19.9%の急成長を遂げています。DFCは国際切花流通の拠点に成長していくことは間違いありません。


 現在のエミレーツ航空の日本国内都市への就航は関西空港と中部空港に限定されていますが,今後,成田空港あるいは羽田空港への就航枠が確保されたときには,大消費圏としての首都圏にケニアとインドの切花が大量に日本に流入し始めることになると思います。
 ドバイフラワーセンターは日本に対しても大きな影響力を及ぼし始めることは間違いありません。国内生産者はそれに対してどの様な対策(戦略)を考えているのでしょうか?

 ケニアやインドの切花がドバイに一端集積され,温度管理されたDFC施設のなかで日本国内の量販店向けに花束加工されて輸出されたときには,インド産・ケニア産という区分すらなくなって,商品としての花束が日本に入ってくることになります。
 日本国内の切花生産者だけでなく,花き市場や花束加工業など,花き業界全体に大きな影響がみられるようになることでしょう。


 恐ろしいことです!!