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●南陽月季基地有限公司 (河南省南陽市)
    河南省南陽市石橋鎮

 2005年9月に南陽月季基地を訪問しました。
 南陽月季基地は河南省南陽市の北に位置しています。河南省南陽市は「中国月季之郷(中国のバラのふる里)」といわれていますが,そのルーツは南陽月季基地です。
 会社は総裁の趙国有氏が1983年に設立しました。中国の花き生産は1989年以降に急成長していることを考えると,南陽月季基地でのバラ苗生産は中国花き生産の黎明期に始まったということができます。
 総経理(社長)の王波さんとは2年前に北京でお会いし,女性ながら素晴らしい経営センスの持ち主であると感心しました。
 南陽市は南陽盆地にあり,冬季の最低気温は-15℃,夏季の最高気温は36℃にもなります。しかし,最低気温が-15℃を記録するのは2〜3週間です。年間降水量は700〜800mmと少なく,晴天率が高いのが特徴です。短期間ではあるものの-15℃を記録するため害虫が越冬できず,虫害が少ないというメリットになっています。
 生産面積は2500ムー(167ha)で,アメリカのJackson & Perkins社に次ぐ農場面積のバラ苗生産会社であると思います。農場の一部は借地で,借地料は1ムー(666u)が500元ですので,750円/10aです。
 訪問した日はあいにくの雨でしたが,下左の写真の遠くにみえる村(霞んで良く判らないですが)までが農場です。農場の中心に作業室があり,そこから端まで歩きましたが,小1時間ほどかかりました。

  

 農場の至る所に潅漑用のポンプ小屋があり,井戸が掘られていました。ポンプ小屋から潅漑用水路が縦横に張り巡らされており,生産管理が行き届いていました。

   

 従業員は500人で,一般労働者の給料は400〜500元/月(6000〜7500円/月)です。従業員は班に分属しており,班ごとの競争で売上や実績に応じて毎月100〜120元/月(1500〜1800円/月)のボーナスが支給されます。冬季の苗出荷時には臨時雇用しています。その場合の給料は8〜10元/時間(120〜150円/時間)とかなり高給です。
 南陽月季基地の経営方針の素晴らしい点として,従業員の福利厚生を挙げることができます。給与とは別に,従業員全員に通勤用オートバイと携帯電話,夏服と冬服の2着を支給します。南陽月季基地は中国農業部,河南省政府,南陽市政府などから優良企業として数多くの表彰を受けており,従業員は町中で南陽月季基地の制服を着て歩くことを誇りとしているとのことです。
 下の写真は,本社横にある食堂,会議室,来客用宿泊施設です。
 会社の方針として,家族的な繋がりを大切にしており,従業員は昼食を共に食堂でとります。毎週,豚1頭を社員の食用として拠出しているとのことです。

 

 生産品種数は600品種にのぼり,ハイブリッド・ティー,ツルバラ,グランドカバー,フロリバンダ,ミニチュアなど3000万株が植栽されています。1990年以前は生産ししているバラ品種のほとんどが海外品種であったが,近年中国育成品種の割合が高まってきており,ガーデンローズでは60%程度を占めているとのことです。
 育種についても積極的に取り組んでおり,現在,オリジナル品種を30品種保有しており,年間3品種以上を育成目標としています。主な育種手法は,交配育種,突然変異選抜のほか,放射線育種にも取り組んでいます。しかし,中国全体としては育種が遅れており,南陽市以外では上海,北京,鄭州で行われているのみです。趙国有氏は科学技術開発費の国家支援を切望しておられました。

  

下の写真は南陽月季基地育成のツルバラ品種「臥竜」です。ウドンコ病と黒星病に対して耐性があり,樹勢が強く,生育速度が速いのが特徴です。
下左の写真の右側に「臥竜」が植わっており,左側には同じ時期に定植した白のツルバラが植わっています。
明らかに「臥竜」の生育がよいのが判ると思います。花は単弁ですが花着きは良く,朱赤の花色がよく目立ちます。
   

 南陽月季基地では十数種類のグランドカバーのバラ品種を持っています。下の写真はその一つです。生育が旺盛で,葉の着生も密ですので,抑草効果もかなり高いと思います。いずれの品種もウドンコ病や黒星病に対して強い抵抗性があり,生産農場で発病はほとんど見られないとのことでした。日本ではあまりグランドカバー用のバラ品種は普及していませんが,これらの品種は景観形成としても効果が高く,是非導入してみたい品種だと思いました。

 

 下の写真は中国語で「樹状月季」といいます。スタンダード仕立てのバラで,5品種があります。台木のノイバラに芽接ぎを行って生産されています。下の写真のように道路の脇に植栽すると「バラの並木」が完成し,見事でした。

  
  

当然のことですが,ノイバラの採種圃場があり,訪問した時には多くの果実が結実してました。

2008年には北京オリンピックが開催されますが,それにちなんで五輪のバラのアーチが作られていました。
まだ,完成には至っていませんでしたが,花が咲いたら立派でしょう!
(ただし,五輪の青色と黒色はないんでしょうねえ・・。)
(意地悪く見れば,Audiのマークにもみえますが・・・!)

 10年後の育種目標として,切花では,赤=10%,ピンク=20%,黄〜オレンジ=50%と判断していました。また,鉢植え(ガーデン用)では,赤=20%,ピンク=20%,白=20%,黄=40%とのことです。中国人は「赤色が好き」と考えていましたが,必ずしもそうではなく,黄〜オレンジの人気が高まりそうです。
 下の写真は,掘り上げたバラ苗を貯蔵する巨大な冷蔵施設です。ヨーロッパに輸出する際に,植物検疫のための処理済みのバラ苗を貯蔵します。冷蔵施設の中は上下の二段に分けられており,リフトで移動します。

  

 掘り上げたバラ苗は土を落として,洗浄した後,生育状態に応じて6段階の規格に分類されます。
訪問したのは9月でしたので,トウモロコシが積んでありました。
冬の掘り上げ作業が始まる前なので,多くの輸送車の整備・調整が行われていました。
  
  

 南陽月季基地で生産されるバラは,緑化用のスタンダード仕立ての大株などが40%,ガーデン用の苗が30%,ツルバラが20%,切花用・小鉢苗・バラの花茶用で10%です。中国のバラの需要が緑化用であることを反映しているものと考えます。ガーデン用およびツルバラ苗の60%をドイツ・オランダ(Moerheim社)に輸出しています。南陽月季基地は2005年8月にISO9001を取得しており,バラ苗の品質は保証付きです。日本へは国華園を通じて輸出しているとのことです。
 苗生産方法は70%が挿し木繁殖で,30%がノイバラ(Rosa multiflora)を台木にした接木繁殖です。「樹勢や耐病性などの観点から接木の方が有利ですか?」との質問に対して,趙国有氏は「接ぎ木と挿し木ではほとんど差が認められないので,敢えて接木をする意味はない」と答えていました。
 農場での有機物施与は積極的に行われており,鶏糞+豚糞+トウモロコシ茎葉+コムギ茎葉を1年間堆積した堆肥に腐葉土を加えたものを10aで1t程度施与するとのことです。また,土壌消毒は適宜行っています。
 パテント問題で面白い話を伺いました。ドイツのKordes社からパテント料の支払を請求されたそうです。当然国際価格としてのパテント料請求ですので,100円/株程度を請求されたそうです。しかし,中国国内でのバラ苗卸価格が6元/株(90円/株)ですのでパテント料が苗販売価格を上回ってしまい,これを知ったKordes社の担当者が,パテント請求を諦めてしまったということです。育成者権の保護は大切なことですが,国際標準価格が通用しない典型的な事例といえるかもしれません。




 新たなバラのビジネスとして,バラの精油やバラの花茶などにも進出し始めていました。バラの花茶は生薬で,肩こり,イライラした時の胃の痛み,ストレスなどの食欲不振に効果があるようです。バラの花茶の原料はハマナス(Rosa rugosa)です。