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★「上海市花卉良種試験場(上海種業集団)」 

 2004年1月にキリンビールの中国企業「麒麟生物農業(上海)有限公司」の張志豪氏の紹介で上海市花卉良種試験場を訪問し,黄雪龍副農場長に案内をいただきました。
 上海市花卉良種試験場という名前を聞くと,日本の感覚では試験・研究機関のように思うかもしれませんが,実際は異なってカーネーションの切花生産農場です。上海市花卉良種試験場は名前の通り,以前は上海市の農業関係の試験・研究機関でしたが,活性化政策の結果,独立採算性が取られるようになり,上海種業(集団)有限公司が全額資本出資して,生産を主体とした「生産実証農場」といった経営内容になりました。主な業務は、カーネーションの種苗生産、主要切花種苗生産、球根育成、カーネーションとユリの切り花生産です。
 栽培面積は80,000uで,内ハウスは6,000uで,ハウス内ではカーネーションの切花生産と苗生産が行われています。
 年間のカーネーション種苗生産量は1000万株で,カーネーションの国際種苗繁殖権を持つ中国唯一の種苗会社です。
 これまでのカーネーション切り花生産量の実績は120万本/年(スプレー品種が80%)で,職員は4名,パート職員は70名です。2004年の生産計画は450万本で,その60%を日本に輸出する計画です。(2004年1〜5月の生産計画表参照)
 日本への輸出は2002年春から始まり,母の日を中心として昨年は100万本を輸出した実績を持っています。2004年は250万本を輸出予定で,3月から5月が出荷のピークをむかえるように生産調整を行っています。日本への輸出方法としては,量が少ない場合には航空便を利用し,量が多い場合には船コンテナを使用します。
 日本側の輸入業者は東亜通商で,輸出価格は年間契約で決定しており,2004年はFOB価格でスタンダード70p(L):10円/本、スプレー65p(L):13円/本、55p(S):11円/本です。輸出切り花の品質検定は東亜通商が実施し,日本の到着港は神戸港がほとんどで、一部横浜港があります。

 2004年7月にも訪問して,日本に輸出した母の日の状況を尋ねたところ,「コロンビアからの輸出カーネーションに価格で勝てず,かなりの損害を被った」とのことでした。中国国内市場の極めて低いカーネーションの価格をみると,「日本国内のカーネーション農家は崩壊するより仕方がないのかなあ・・・」と思っていたのですが,その中国を価格で打ち負かすコロンビアという国はどうなっているのでしょうか。

 日本に輸出できないものを上海市場で販売しています。日本に輸出していることが上海市場で高く評価され,昆明産の平均価格が0.1元/本であるのに対して,昨年の平均価格は0.25元/本で,今年の春節では0.5元/本で販売できたそうです。中国国内流通はトラックを使用し,段ボール梱包で行います。

●国内販売では、品質が高いものと低いものとの価格差が小さく、収量が優先される。
●夏と冬は切り花出荷を休む。
●中国国内販売では切り前が固いため、輸出用は切り前を調整する必要がある。
●品種としては赤色のスタンダードが主力であるが、価格が高いのは赤色のスプレー品種である。現在栽培している品種は、赤色45%、黄色15%、ピンク・混色系統が40%を占める。
●中国での色の好みとしては、赤色が主力で、次いで黄色となり、濃い色を好む傾向がある。

●プラスチックハウス建設費:70元/u
●パート労働者の人件費:17〜18元/日(上海市の平均は20元/日)
 上海市花卉良種試験場では、20年前よりカーネーションの育種に取り組み,最近,赤色と紫色のカーネーション2品種を登録したとのことです。現在,上海市花卉良種試験場で生産されている切花カーネーションのうち,パテントが掛かっている品種(登録品種)は20%程度である。この登録品種については,上海市花卉良種試験場では,海外の育種会社に対して,生産している切り花親株および増殖した苗について正規のロイヤリティーを支払っている。
 上海市花卉良種試験場では,切花生産のほかにカーネーションの苗の生産販売も行っているが,苗を販売した国内の農家に対してはロイヤリティーを請求していない。中国国内の農家は,購入した苗を栽培し,その過程で発生する腋芽(芽掻き芽)を使って増殖している。中国種子法では農家の自家増殖を認めているため,農家の増殖は無断増殖とはいえない。
 問題は、アングラ苗生産会社が大量に無断増殖を行い,農家に販売していることである。この結果,苗の価格が暴落しており,上海市花卉良種試験場としても農家にパテント代を請求できない状況に追い込まれている。パテント代を付加した場合には価格競争に勝てない。
 上海市花卉良種試験場の親会社の上海種業集団全体の日本へのカーネーション輸出量は,2001年:300万本→2002年:3100万本→2003年:7700万本となっており,全量が東亜通商を通じて輸出されている。
 上海におけるカーネーションの品種寿命は2年と短い。良い商品が必ず高いということはなく,産地によって価格が左右される傾向がある。また新品種が高いというわけでもないため,育種に対する意欲や生産技術の向上に対する意欲が低下している。
 現在中国で流通している切り花品質は低く,その原因となっているのが昆明である。昆明は生産量が大きいため,市場で一定の評価をせざるを得ない状況であるが,品質は極めて悪い。昆明の生産技術の向上が今後の中国の大きな課題といえる。
 上海は中国の切り花生産発祥の地であり、生産技術は高いものの,冬の低温・低日射、夏の高温など必ずしも生産環境に恵まれているとはいえない。現在の上海の切り花農家数は1100戸程度と推定される。暖房コストは高く、12〜2月の暖房費は46万元である。

   
6,000uの連棟ビニルハウスは圧巻です。

   
豊富な労働力を武器に,人海戦術で収穫し,選花場への運搬も色々と工夫して行っています。

   
選花は文字通り「人海戦術」で,パートさんたちが楽しそうに大声で話をしながら行っていました。
先にも述べたように,輸出用と国内販売用との切り前(蕾の堅さ)が異なるため,苦労されていました。
右の赤いカーネーションは輸出用だとのことです。

 
収穫,選別が終わったものは大型冷蔵庫に入れられて,ロットが揃うまで一時保管されます。

   
暖房は石炭が基本です。夜通し担当者が寝ずの番をしながら石炭を燃やし続けます。