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2001年10月7日〜13日にかけて、中国の花き流通を調査しました。


★北京市の概要
★北京の鉢花市場
●北京市南の「花郷」にある【花郷花卉市場】(相対市場)
●北京市南の「花郷」にある【花郷園芸場】(相対市場)
●北京市西にある【通貨花卉商品市場】(相対市場)
★北京の鉢花流通状況と考察
★北京の切り花市場
●北京市北にある【北京菜太拍売中心】(オランダ式セリ市場)
●北京市南の「花郷」にある【花郷花卉市場】(相対市場)
★北京の切花流通状況から見た今後の日本との関係
★中国での花の価格
★今、中国ではやっている君子蘭
★花卉市場で販売されている番外編



★北京市の概要

 北京市は人口1500万人で、うち200万人の農民が住んでいます。したがって、1300万人の都市住民の食の供給を200万人の農民が受け持っているという近郊農業が発達しています。特に穀物以外では、冬季を除いて周辺の農村地帯がかなりの生産力を持っているといえます。
 緑被率は30%で、名古屋市の25%や東京都および大阪府の20%前後と比較すると高い緑被率を占めています。その理由の1つとして、道路の両側に設置された緑化帯を挙げることができます。特に、2008年の北京オリンピックを向かえて、広域的な緑化が行われていました。緑化木の生産については、別の項目で解説します。

 

2000年のオリンピック開催キャンペーンの時ほどではありませんが、至る所に2008年オリンピック開催のスローガンが掲示されており、
緑化関係に投じられる予算は、単年度で200億元(3000億円)といわれています。

  

北京中心部の街路樹の様子(道路も広いが、街路樹帯の幅も広い)

   

高速道路の両側は30mの緑化帯が法的に整備されており、農村地帯の道路でも街路樹が必ず植えられていました。

 労働者の人件費は、大学卒業で月給1700〜2000元(25000〜30000円)。農村の労働者は、男性が月給600元(9000円)、女性が日給13元(195円)【月給に直すと約6000円】です。



★北京の鉢花市場

●北京市南の「花郷」にある【花郷花卉市場】(相対市場)
 北京市豊台区花郷は北京市の南に位置する地域で、清の時代から花の生産が盛んな地域として発展してきたそうです。この花郷地区には108の村があり、いずれの村でも花卉生産、特に鉢花生産が盛んです。生産技術は極めて高く、積極的に海外の品種や栽培技術を導入し、北京での花卉生産をリードしています。このような花卉生産地域に位置する相対市場の1つに「花郷花卉市場」があります。
 市場の建物内には、長さ500m程の通路が3本あり、その通路の両側に間口3m×奥行き4m程度の販売ブースが並んでいます。各々の販売ブースでは生産農家あるいは生産農家から仕入れた業者が販売を行っていました。1ブースの年間借受金額は3万元(45万円)だそうです。ここで販売されている鉢花の品質は極めて高く、日本で生産・販売されている鉢物と比較しても全く遜色のないものばかりでした。ただし、価格面では日本の2倍以上の価格で販売されていました。
   
 市場内は日曜日の午後(国慶節の連休最終日)ということもありましたが、肩と肩が触れ合うほどの人出で賑わっていました。日本では大きな園芸店の開店セールでも見ることができないような込みようです。
   
 写真のように日本で販売が十分できるような高い品質の鉢物が販売されていました。
  
店のレイアウトも良く考えられており、販売方法のレベルもかなり高いものと感じました。
     
 北京市は土埃が多いため、店の人は観葉植物の葉を一枚一枚丁寧に拭いていました。葉の光沢があると高く売れるため、「リーフシャイン(Leaf Shine)」というスプレーワックスをかける店もありました。
 商品のなかにはシクラメンやアザレア、シンビジウムのように品質がまだまだのものもありますが、これらについては栽培技術が充分伝わっていないことによるものと思います。
 視察中に大鉢の観葉植物を購入した人がいましたが、いかにも会社の玄関に置くといった雰囲気で、個人消費はまだまだ未熟な段階といえると思います。


●北京市南の「花郷」にある【花郷園芸場】(相対市場)
 「花郷花卉市場」に隣接する相対市場で、いわゆる一般的な鉢花を販売している相対市場です。品質は「花郷花卉市場」と比べると数段落ちるものが販売されていました。恐らく個人消費として購入されるものは、この「花郷園芸場」で販売し、会社消費のものは「花郷花卉市場」といったように分離されているものと思います。
 観葉植物の多くは、広東省より輸送し、温室内で維持しながら市場に出荷して販売されます。個人購入もできますし、地方で販売する仲卸的な方々も購入します。

   

   

 鉢の多くは「素焼き鉢」ですが、なかには「プラスチック鉢」もありました。使用されている用土は畑の土をそのままの場合もありますが、堆肥などを混合したものも見られました。畑の土は極めて物理性が悪く、この土を使って日本の生産農家に生育管理させたとした場合には、ほとんど栽培不可能ではないかと思います。右から2枚目のブーゲンビレアの大株は、畑の土で素焼き鉢を使ってこのような立派な生育をさせています。この点では、中国の農家の技術レベルは極めて高いということができるのはないでしょうか。単に資材と情報が不足しているだけではないかと思います。


●北京市西にある【通貨花卉商品市場】(相対市場)
 相対市場の形態としては前出の「花郷花卉市場」と全く同じですが、販売されている商品の品質がかなり低く、そのせいか客の入りがまったく少なく、通路はガランとしていました。同行した岐阜生花市場の速水氏いわく、「とてもこれでは日本のセリに掛けられるものではありません」。
   



★北京の鉢花流通状況と考察

 中国における鉢花需要の主流を占めるのは、現状では公共利用あるいはビジネスユースであり、いわゆる個人消費はほとんど発達していないと考えます。公共利用の一例として、右写真は調度訪問日が重なっ中国建国記念日の天安門広場の風景です。中国の屋外の花飾りは鉢花を並べて行います。日本のように花壇を作らず、鉢花を並べて花文字や花絵を作って飾るので、建国記念日などの催事があると大量の鉢花の需要があります。また、ホテルや企業の玄関も鉢花で飾る習慣があり、特に大鉢の観葉植物はどの会社に行っても必ずといって良いほど飾られていました。
 屋外に飾る鉢花は風で倒れては困るため、重量のある素焼き鉢を使用し、培土も重めの土を使用しているようです。また、催事が終了すれば廃棄処分となるため、個々の鉢物の品質を重要視するのではなく、マスとしての色彩を重要視するようです。
 このような現状を考えると、日本でいう「公共緑化事業」のような感覚であり、園芸業界というよりも緑化木業界といった感じでしょうか。したがって、「花郷花卉市場」で販売されていた高品質の花鉢物は、ほんの一握りの「大金持ち」や「高級官僚へのつけ届け」などのような需要を満たしているに過ぎないのではないかと思いますし、とんでもない高価格なのも納得できると思います。
 今回の中国訪問で一般家庭を訪問する機会がありましたが、やはり一般家庭では4〜5号鉢の観葉植物が主体で、鉢花物を観賞するには至っていませんでした。恐らく2008年の北京オリンピックがすむまではこの状況が続くのではないかと思います。北京オリンピック終了後、急速に一般国民の経済生活状況が高まるに従って、ヨーロッパや日本のように家庭に鉢花を飾る習慣が定着するものと考えます。
 日本の感覚からすると、1500万人の人口に対して相対市場の数が圧倒的に少なく、需要をまかなえていないと感じましたが、一般需要がそれ程大きくない状況から、このような直接相対市場で充分需要と供給が釣り合っているのでしょう。しかし、10年後には需要の急増と共に日本やヨーロッパのようなセリ市場が登場するのではないかと思いました。



●北京の切り花市場

●北京市北にある【北京菜太拍売中心】(オランダ式セリ市場)
    〒100016 北京市朝陽区麦子店西路九号 TEL:(01)64634600
 本年3月より開業し始めた切花のオランダ式の時計ゼリ市場です。昨年の中国訪問時にその存在を耳にしていましたが、今回初めて視察することができました。買参人席は400席が用意されており、セリ場は2個所設置されていました。セリの開始時間は夕方6:00で、日本のように早朝にセリが行われるということはありません。恐らく、雲南省昆明から空輸した切花や近郊農家が朝から収穫した切花をセリにかける都合から、夕方にセリを行うものと思います。また、北京の早朝からの通勤渋滞は有名なほどで、これを避ける意味もあるのではないかと思います。
   
 買参人の数はまばらで、全員を合わせても30名程度でした。セリのシステムが未だ本格的に稼働していない状況で、実際に活発にセリに参加している買参人は数名のようです。「マリ」(市場の専門用語で、1回のセリで決まったセリ値と同じ価格で購入する買参人を募ること)が行われておらず、「同一買参人が価格を次々に下げてセリ落としていく」という奇妙な現象が見られました。
   
 セリ時計の説明ですが、一番下が「品目名と生産社名」で「陽金山」という名前のバラで、生産者は「北京中以示苑」です。下から2段目は「セリ落とした買参人の番号」で11110番の買参人がセリ落としました。下から3段目は、左から「規格と等級」「数量」「入り数」の順で、20本入りで、残数量は5束です。一番上の段がセリ落とした価格で、20本入りが16.25元(244円)です。
  
買参人席の押しボタン。机の中には買参人の認識装置が入っていると思われます。この日に出荷されたものは、「シダの葉(魚尾)」が13束、「ストレリチア(天堂花)」が110束、「バラ(?瑰)」が500束、「ユリ(百合)」が100束、「スターチス(勿忘我)」が100束、「排草(?)」が500束、「ダイアンサス:単弁カーネーション(石竹)」が6束などでした。
 色々な問題点を抱かえたままの開場のようで、「北京で必要な全ての切花をこの競り市場で取り扱う」という初期の目標がうまく機能していないようでした。説明ではここでセリ落とした花を翌日に相対市場で販売したり、その逆もあるようです。また、買参人の教育も充分行われておらず、特定の大手の買参人の言いなりで価格が決定されているという感じを受けました。


●北京市南の「花郷」にある【花卉市場】(相対市場)
花郷の「花卉市場」は、建物内にある3本の通路のうちの1本が「切花通り」になっており、その両側には切花のブースがずらりと並んでいました。2年前と比べて品質が良くなっていましたが、相変わらずウドンコ病の発生は改善されていませんでした。

  

 

2年前の「昆明の花博」の時と比較すると、格段にバラの品種数が増えていました。また、2年前には、白いバラの品種名を聞くと「パイメイクイ(白バラの意味)」、赤いバラは「ホンメイクイ(紅バラの意味)」といっていたのが、今回はしっかり品種名が記載されていました。中国も品種の概念が優先されるようになったのでしょうか・・・。


 
  

中国の切花需要の多くは盛り花です。開店記念や誕生日などの催事には盛り花を贈る習慣があります。上の写真の盛り花で、300〜400元(4500〜6000円)程度の価格です。また、結婚式には車を写真のように花で飾り新婚さんを祝います。調度車に乗っているときに横を豪華に飾った車が通っていきましたが、まさに写真のように花が飾ってありました。車の飾りも、300〜400元(4500〜6000円)程度の価格です。



★北京の切花流通状況から見た今後の日本との関係

北京の切花需要を考えると、ホームユースのような個人消費は極めて少ない。主な切花消費は、開店祝いや誕生日、結婚式など記念日の贈答用の盛り花で、いわゆる「仕事花」である。
 中国はアジア圏内のなかで唯一経済成長を遂げている国であり、WTO加盟を目前にして活気のある状況に加えて、2008年には北京オリンピックを開催する。このような状況から、今後、国民の経済状況も今後大いに改善され、日本の35年前がそうであったように、個人消費が急速に増加することが予想される。
 バラの品質についてみると、切花長は40〜60pが主体でそれ以上の長さのものはほとんど見られない。ウドンコ病に対する防除も徹底されておらず、罹病した切花が多数出荷されている。3年前までは品種が明示されていなかったが、今回は品種名が明示されていた。
 6年前に調査したときのバラの価格は店頭で平均31円、市場で20円程度でした。3年前でもほぼ同様な価格で維持されていましたが、今回の調査結果では11〜15円/本と価格が急落していました。これは雲南省昆明での大規模な切りバラ生産が無計画に行われたことによるもので、雲南省での切りバラ生産量が現状の中国国内のバラ消費量を大きく上回り、需給バランスが大きく崩れ始めていることを示しています。雲南省での切りバラ生産面積は現在でも増加しているとのことからみて、2005年には供給過剰をむかえ、切りバラ価格が暴落すると予想されます。このことは、オランダ式時計ゼリを行っている「北京菜太拍売中心」でバラの価格が既に5円以下で取り引きされたことがあるという話から見ても間違いないことであろうと考えます。
 これまで「中国のバラの価格は高いため、中国のバラ生産農家が日本に輸出するメリットはない」と述べてきましたが、今回中国を訪問して、「このまま切りバラ価格の暴落が続けば、必ず近い将来中国からの輸出が行われる」との考え方に変わりました。国内価格が暴落した時の流通変化は、必ずといって良いほど高価格を維持している地域への輸出が行われます。現在の日本の切りバラ価格をみると、韓国の輸入バラが40円程度といわれています。
バラ50本束を中国から輸出した場合の価格想定表
日本での小売価格 (1本30円) 1,500円
小売利益(25%) 375円
卸売価格 1,125円
卸売利益(10%) 112円
輸入商価格 1,013円
輸入商利益(10%) 101円
日本到着価格 912円
陸送費、消費税および関税 150円
CIF日本価格 762円
航空運賃 500円
現地輸出価格 262円
中国引渡単価(1本価格) 262円÷50=5.24円
 上記の表から、中国の国内価格が5円を下回ったときには輸出経費などを加えても充分採算が合い、日本への輸出が始まるのではないかと考えます。10月24日現在、昆明の雲南花卉連合の市場価格は60pのカーディナルが1.8円で取り引きされているところからみて、既に輸出に対する環境は整い始めたと推定できます。
 中国国内の切花の個人消費は、前述のように急速に増大すると推定されるものの、現状の中国国内の切花の需要はかなり低く、雲南省昆明で大量に生産される切花が個人需要開拓がなされないままに推移すると、近い将来中国国内の需給バランスが崩れて価格が暴落し、日本への輸出が始まるものと考えます。今後の昆明の生産技術の向上と北京や上海などでの需給バランスの崩れ(価格の低落状況)に充分な注意を払う必要があるものと考えます。
 ただし、現状では日本向けに輸出できるほど切花品質は高くありませんし、切りバラは葉の至る所にウドンコ病が発生している状況ですので、生産技術の向上が不可欠です。
 現在の日本の切りバラ生産を考えると、出来るだけ長いバラを収穫する方向に向いていますが、中国からの輸出に向けて生産技術の開発や流通の改善を真剣に考える時期にきていると考えます。早急に中国に対する対応策を考えないと、アメリカの切りバラ生産がコロンビアやエクアドルに駆逐されてしまったように、壊滅的な影響を受けかねないと思います。

 このような低い切花需要のなかで開業したオランダ式セリ市場「菜太拍売中心」は今後ともしばらくの間、苦しい経営が続くものと考えます。私の感想からすると、セリ市場の開場自体が時期尚早であったのではないかと思います。すなわち、現在の需要に対して直接相対市場で充分機能しており、新たなセリ市場を開設する必要がないにも関わらず、海外の事例を鵜呑みにして市場を開設したことに無理があったのではないかと感じます。



★中国での花の価格

 鉢花について、品質的に日本と同じもので比較すると、日本の販売価格の2倍以上で販売されていました。2年前に昆明で開催された国際花博に参加し、上海、広州の相対市場で同様の価格調査を行いましたが、その時の価格は日本と同じか、わずかに高い程度と感じましたが、今回の価格を見ると、この2年間で日本での価格が低下したことに加えて中国の花の価格が上昇しているため、日本と中国の価格差が2倍以上と大きくなっていました。
 右の写真は喫茶コーナーの飲み物の価格表ですが、2段目のものがコーヒーでその価格が2.00元(30円)です。日本の喫茶店のコーヒーが平均300〜400円という価格から見て、価格水準として10倍程度はあると考えると、花の価格がいかに高いものであるかが推察できると思います。すなわち、中国で5000円で販売されているものは、消費者の実感として日本での50000円以上の価値があるということができます。
 日本での鉢花の価格が低落していますが、この実態を体験すると、中国に輸出した方が有利であると考える人がいてもおかしくありません。いかがでしょうか?
   
90元(1350円)        460元(6900円)        360元(5400円)
   
580元(8700円)         560元(8400円)        90元(1350円)       売れ残りの観葉植物 12元(180円)

北京では 0.7〜1.0元(11〜15円)/本
長春では0.2〜0.5元(3〜8円)/本



★今、中国ではやっている君子蘭

     



★花卉市場で販売されている番外編

数年前と比較して、造花(香港フラワー)の販売が少なくなっていることに気が付きました。以前は切花の倍以上の販売面積を造花が占めていたのですが、今回はほとんど見られませんでした。同様に、花卉市場といえば必ず金魚が我が物顔で販売されていたのですが、これについても造花と同様片隅に押しやられていました。この他、液体肥料や固形肥料もかなり大量に販売されていました。下の写真の右端のは日本との合弁企業による花の培養土です。