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国本洋蘭園
【シンビジウム鉢物生産】
(鳥取県鳥取市)

2012年8月28日に鳥取県東部に位置する扇ノ山麓の広留野高原(ヒロドメノコウゲン)にある国本厚氏のシンビジウム山上げ施設を訪問しました。
標高は850mで、真夏の時期でも最高気温30℃、最低気温20℃を超えることはほとんどなく、シンビジウムの生育に最適な環境です。
国本洋蘭園の広留野高原山上げ施設は2ヶ所に分かれていますが、最も大きな山上げ施設の面積は3,000uで合計4,000uになります。

850mの広留野高原は豪雪地帯で、積雪は4mに達します。従って、この広大な面積の山上げ施設は毎年秋の山下げ終了時には解体し、初夏の山上げ前に再度建設し直します。

 

広留野高原は高原ダイコンの生産地として開拓されたため、畑地潅漑施設が完備されています。貯水槽で水を溜め、ポンプで汲み上げてスプリンクラー潅水を行っていました。ポンプの能力は毎分500リットルで、2台がフル稼働して広大な施設全面に潅水が行き渡ります。
電気も通じているため自動潅水にすることもできますが、国本洋蘭園ではあえて自動潅水装置は設置していません。
人間の性で、自動潅水で管理するとついつい機械に任せきりになって山上げ農場に行かなくなり、栽培管理がおろそかになりやすいことから、潅水管理のために片道1時間をかけて山上げ施設に毎日通います。

   

山上げ施設では株間を充分に取って栽培します。
山上げ栽培中に花芽が最低でも1個増加しています。
下の写真は2年目の株ですが、元気なリードシュートが伸びていました。
 
最近急速に広がっているのが「花芽ベルト」です。花芽が上向きに伸びるように矯正するプラスチック板で出来たもので、これを使用すると花芽の方向を調整できることに加えて、山下げの時に大きくなった花芽を痛めてしまうことも防げます。
花芽ベルトの内側では元気に丸丸とした花芽が成長していました。

  

下の写真は山下げ直前の9月下旬のものです。見事に花茎が上がっています。
施肥管理は、180日のロング肥料15gを1鉢当たり年2回施与します。
培養苗鉢上げ1年目のものを山上げしていました。環境が良いためすくすくと成長しています。下右の写真は山下げ直前の9月のものですが、培養苗から2つの元気なバルブが形成され、1−2−2(ワン・ツー・ツー)の仕立てができそうです。

  

下の写真の左は山上げした苗の状況で、右の写真は山上げしていない自宅の温室で管理したものです。山上げしていない個体は中心の新葉が黄色く高温の障害を受けています。

 

山上げ・山下げは、3t車1回で700鉢。1日2回往復したとして、12,000鉢を移動させるのに9日間を要します。山上げは7月から始め、10月に山下げを行います。
山上げ栽培中にシンビジウムはグングン成長し、10月の山下げ時には1鉢の重量が4kgに達します。1トレーに5鉢入れるため、1回の山下げでは20kgの重さのトレーを140回トラックに運び入れる作業となり、かなりの重労働です。
トラックは3段に切ることができます。

  

山上げ、山下げ時に活躍する移動用装置です。板の下にはベアリングが付いており、鋼管パイプに渡してトレーを移動します。
国本洋蘭園では製品出荷を愛知県の豊明花きと東京のFAJに限定しています。
シンビジウムの価格低落の影響を受けて、経営は近年難しい状況になっています。
苗の購入価格は平均400円/本で、3年間の生産経費は1600円程度かかります。
製品販売価格は、花茎1本の想定価格が800円ですので、4本立ちで販売価格が3200円で、生産経費1600円と苗代400円を引いて、1200円が目標収入です。
3本立ちでぎりぎり再生産価格で、2本立ちでは赤字です。
従って、花が1本立ちのものは山上げ場で放棄します。
国本洋蘭園の出荷率は90%ですが、これを下回ると経営が成り立たなくなります。
まさに、シンビジウム生産では生産ロスを下げることができる栽培技術力が問われている状況です。
このような状況を受けて、鳥取県のシンビジウム生産者は以前は7軒あったのですが、2軒になってしまったとのことです。
国本洋蘭園では培養苗をニイバイオ(新居バイオ花き研究所)バイオu河野メリクロン向山洋蘭から購入しています。
日本国内のシンビジウムの苗の出荷量は最盛期には推定で500万本あったのが、現在では200万本まで減少しています。育種会社が成り立たない状況では新たな品種開発ができなくなり、今後のシンビジウム業界の将来の危機が近づいていると心配しておられました。
新たな取り組みが行われていました。
シンビジウムは、5〜6月には花芽が確認できるようになり始めます。従って、花芽分化期は3・4月頃と推定されます。シンビジウムの花芽分化要因は何でしょうか?
一般に、シンビジウムの花芽分化はバルブの充実と関係しているといわれています。しかし、鉢に根が十分回って根の生育が阻害されることが関係しているのかもしれません。
そこで、1年栽培した株を、鉢の大きさを同じにして鉢の下に空間を作って栽培すると、鉢下の空間に根が回り始め、2年生株で花芽が付き始めます。
この段階で一回り大きい鉢に植え替えて出荷すれば、消費者は必ず翌年にも花を楽しむことができそうです。

 

コラム「観葉シンビジウム(2001/05/16)」でも書いたように、開花した豪華なシンビジウムを貰ったあと、「花の咲かないシンビジウム(観葉シンビジウム)」が転がっています。出荷されるシンビジウムは既に「根づまり」していて、春にはすぐ植え替えをしないといけない状態ですが、これが大変です。
しかし、翌年も開花するシンビジウムを貰った消費者は、「自分が世話をしたから咲いた!」と喜んでくれます。
このようなシンビジウムが広がれば、もう一度シンビジウムブームが起きるかもしれません。
ただし、くれぐれも販路には気を付けてください。過去の過ちを繰り返してはいけません。【シンビジウム業界の悩み (2008/07/27) 】





広留野高原は夏ダイコンの産地としても有名で、出荷期は7月下旬〜10月下旬です。
広留野高原の開拓は戦後の昭和23年から始まり、数軒の農家が60haの原野を開墾した農地です。
現在は8軒の農家が20haの農地で夏ダイコンを生産しています。10アールあたり5000本のダイコンが作付けされ、年間100万本のダイコンが鳥取や姫路などの市場に出荷されています。最盛期には一日に35,000本が出荷されているとのことです。
収穫は早朝2時半から始まり、手作業で収穫します。その後にダイコンの洗浄と調整、梱包が行われます。
栽培圃場の風景
  
洗浄
 
調整と梱包
  
ダイコンに加えて、長ネギの生産も始まっていました。