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草間花園(有)
 【シクラメン鉢物生産】
 (北海道札幌市北区新川)

 2007年9月2日に(株)雪印種苗の不破規智氏の案内で,札幌市北区新川の草間花園を訪問しました。
草間花園のシクラメンは2005年第25回北海道鉢花品評会で農林水産大臣賞を受賞しています。

 社長の草間裕氏は設計関連のサラリーマンを経て,24年前の1983年に就農し,花き生産を始めました。当時はバブル景気で,花を作れば何でも売れる時期でもあり,徐々に規模を拡大して現在は1,600坪の経営面積です。
 花き生産は1990年のバブル崩壊後もガーデニングブームで,シクラメンの裏作にハーブ苗を生産して,品質が良ければよく売れた時代だったと言います。しかし,その後ガーデニングブームが去った後はシクラメンも含めて花きの価格が下落し,2004年からは生産作目をシクラメンを主体とした品目に絞り込み,北海道という地理的な気候の有利性を活かした生産を行っています。
 シクラメンは,3.5号鉢でのミニシクラメンのほか,4号鉢,5号鉢のシクラメンを中心に生産を行っています。ミニシクラメンはEbb&Flow方式のプールベンチで,4号鉢,5号鉢のシクラメンはC鋼の底面吸水で栽培していました。ミニシクラメンは北海道内のホームセンターと連携して全体の60%を生産・出荷しています。ホーマックは北海道で72店舗を経営しており,草間花園の契約店の中心となっています。また,新たに出店しているジョイフルエー・ケーとも取引をしています。

 

 4号鉢,5号鉢のシクラメンは中京圏の(株)福花園花き,関西圏の(株)鶴見花き(株)姫路生花に出荷しており,予約注文での定額販売に努めています。
 札幌の7・8月の夏の気温は,最高が25〜26℃,最低が17〜18℃とシクラメンにとって最適な気候です。岐阜などの暖地では,夏には肥料を切らせて半休眠状態で夏越しを行います。しかし,草間花園では8月も休眠させることなく液肥を与えてスクスクと成長させます。
 下左の写真は,5号鉢のシクラメンですが,9月2日にもかかわらず素晴らしいボリュームで,これに花が着いていれば既に商品です。中心には新しい葉芽がビッシリ着いており,新葉が次々と伸びてきています。

  

 草間花園では,4,5号鉢のシクラメンは10月中旬を中心に中京,関西圏に出荷しているとのことで,5号鉢のシクラメンはこの後1ヶ月半で3倍のボリュームになり,直径40〜50cmに達するとのことです。中京圏では福花園花き市場を経由して名古屋園芸で販売されているとのことですので,一度見てみたいと思います。
 栽培の特徴として,鉢間の広さを挙げることができます。私がこれまで見てきた鉢間の1.5倍以上のゆとりが取ってありました。このことが高品質なシクラメン生産と深く関係していると思いました。葉柄が伸び過ぎるのを防ぐためにB9処理を行っていました。

 

 一般に,シクラメンは球根の上部1/4程度が土の上に出るように定植しますが,草間花園では特に気にせず定植していました。暖地では夏の暑さで球根の芽点に病気が発生するために球根上部を出して栽培しますが,札幌では気候がシクラメンに適しているため,病気の問題もなく良好な生育が期待できるものと思いました。

 草間裕氏は設計関連の経歴を活かして,様々なアイデアを駆使して生産を行っています。下左の写真は,鉢間隔を広げるための手製のスペーシング装置です。この装置を使って1,600坪すべての鉢のスペーシングを奥様一人で行うそうです。スグレモノです!

 

新製品の開発にも積極的で,ウォーターシクラメン・アイル(水耕シクラメン)を試作販売しました。72穴のプラグトレーで栽培した超ミニシクラメンを土洗いして水耕ガラス容器に入れて出荷します。

  

昨年の園芸店の評価は「容器のデザインが・・」と芳しくありませんでしたが,商品を見たオランダの仲卸業者が高く評価し,オランダでの生産が始まるとのことでした。
また,北海道という地の利を活かして,「ウォーターシクラメンを極東ロシアの都市に輸出したい」との夢を持っておられました。

シクラメンの培土は調整ピートモスを使用しています。

 9月中旬になると札幌は夜温が急速に低下するため,湿度が上昇して灰色カビ病が発生しやすくなります。防除には常温煙霧機を使用しています。また,冬季の育苗のためにプールベンチに温湯パイプが配管されていました。

 

プールベンチでおもしろい物を見つけました。谷地坊主のようなベビィティアーズです。結構おもしろそうな商品が出来上がりそうです。

 

 草間花園のシクラメンは本州への出荷が70%を占めています。本州の暖地では夏の高温で育ちにくいシクラメンを,冷涼な気候を活かして,本州が品薄の時期に高品質なシクラメンをタイミングよく出荷できることを強みとしています。また,北海道内のガーデンシクラメンの需要として,春の需要が高いことにヒントを得て,来年には春咲きガーデンシクラメンを販売していきたいと述べておられました。

 草間裕さんとの懇談の中で,中国ではシクラメンが「仙客来」と呼ばれて縁起が良く,1月末から2月にかけての春節の時期には高品質なシクラメンが高額で販売されることから,是非中国にシクラメンを輸出したいとの意欲を伺いました。シクラメンは生産技術が極めて重要であり,中国のシクラメン生産技術から考えても,仮にシクラメンを輸出してもその栽培技術をマネされることはなく,有利に販売できると考えます。

 草間裕氏は研修生も積極的に受け入れて後進の育成に努められておられ,その豊かな発想に加えて人間的な魅力からも北海道の鉢花生産のリーダーの1人として期待しています。



札幌(北海道)でのシクラメン生産の課題を書いてみます。

北海道の最大の問題点は首都圏や関西圏などの本州の消費地からの距離です。当然輸送費が掛かるために,その輸送コストを上回る魅力を持っていることが重要です。

北海道の魅力に一つに「早い秋」を挙げることができます。また,梅雨がなく6〜7月の日射量が確保でき,8月の高温高湿度という植物にとって生育不適な気候がないことも利点として挙げることができます。この点ではシクラメンの早出しは北海道の魅力を前面に出した商品生産ということができます。

しかし,シクラメンが出荷される9〜10月の本州中西部の気温はまだ高温期であり,冷涼な気候で生育したシクラメンが高温に遭遇することで,消費者の手に渡ってから高温ストレスで品質が急速に低下する現象も見られ,この解決についても対応する必要があります。

一方,北海道の人口は562万人で,札幌市には188万人が居住しています。札幌市は北海道の東京といわれ,東京に次いでファッション性の高い都市といわれています。しかし,札幌市で消費される花き類は本州の生産地から輸送されている物が多く,北海道内で生産された花が必ずしも札幌市の需要をまかなっているとは言えない状況です。

消費地の周辺産地で生産された花きは,気候が同じ消費者の手元での鑑賞期間が長く,輸送に伴う痛みもなく高い鮮度が維持されます。大消費地である札幌市内の消費者を満足させる商品構成,品質について正面から取り組む必要があると考えます。

北海道の特色として,中核都市が北海道内に点在していることを挙げることができます。北海道第2の都市である旭川市は札幌市から130km,函館市は280km,釧路市は380kmなど,本州では複数県をまたがる距離にあります。しかし,これらの中核消費都市に対して花を効率的な配送・流通するシステムが構築されていないため,消費需要の掘り起こしが不充分な状況と考えます。

一方,生産者についても伊達周辺,札幌周辺,旭川周辺にある程度集まっているものの,集荷業務を行う観点からは極めて非効率的であり,産地形成に対する生産者の取り組みが不足していると思います。農地所有の問題はあるとは思いますが,個々の生産者が勝手に生産を始めることで集荷コストが増加するのに加えて,生産者相互の情報交流が困難になってきます。

岐阜県の鉢物生産者は集出荷施設として岐阜花き流通センター農協を設立しましたが,その功績として生産者相互が頻繁に集まって情報交換ができたことを挙げることができます。病害虫,肥料,品種導入,仕立て方,流通方法など様々な情報を交換することによって生産者自身の技術向上が図られたのに加えて,後継者や新規就農者に対する教育効果も極めて高かったと考えます。

広い北海道であるからこそ生産者が組織的に産地形成を行い,流通コストの低減と資質向上を図る必要があるのではないかと考えます。