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【栃木県日光市戦場ヶ原の山上げ栽培】

 視察の参加者は、群馬県鉢物研究会の須田会長他2名とFAJの長岡求氏、フジカワ肥料の藤川博之氏、福井博一の計6名でした。写真左からFAJの長岡求氏、山上げ農場主の新井信明氏、群馬県鉢物研究会会長の須田泰嗣氏です。

 戦場ヶ原は栃木県日光市の中禅寺湖の北に位置し、男体山の噴火で湯川がせき止められてできた標高1400mの山麓平原にあります。周辺は日光国立公園に指定されており、高層湿原に様々な亜高山植物が自生し、また近くには竜頭の滝などの名所もあり、観光地「奥日光」として夏季には多くの観光客が訪れます。現在、山上げ産地として知られる戦場ヶ原は、戦後高冷地農業の振興を目的に第二次世界大戦後に農地として開拓された場所で、農地開拓の歴史は明治時代にさかのぼることができます。

    

 山上げ栽培が行われている戦場ヶ原の総面積は27haで、7月〜8月の気温は最低12℃、最高26℃と山上げ栽培に最も適した気候です。日射量が多いため、山上げ栽培地では寒冷紗などによる遮光栽培を行っていました。山上げ栽培を行っている総面積は27haで、9月中旬には初霜が降るそうです。

  

 以前は、戦場ヶ原ではイチゴの山上げ栽培が主流でしたが、夜冷育苗やポット育苗等の技術が開発されたことによってイチゴの山上げ栽培は急速に面積が減少しました。写真はわずかに残っていたイチゴの山上げ栽培の風景です。

  

 山上げ栽培では用水の確保が重要な要素になっています。しかし、戦場ヶ原は周囲が男体山の原生林に囲まれ、湿地帯でもあることから用水の確保は容易で、若干水温が低いものの充分に用水が確保されていました。各農場では用水から水を引き込んで、簡易貯水槽に貯水した後、潅水に用いていました。潅水方法は基本的にはスプリンクラーを用いた潅水方式で、これに加えて手潅水を行っていました。潅水にかかる労力は極めて多大で、山上げ・山下げの搬入・搬出と並ぶ昼間の大きな仕事の1つとなっています。

    

 戦場ヶ原山上げ農場では、従業員は現地に宿泊して勤務していました。農場の規模にもよりますが、2〜5名の従業員が6月から10月までの期間中、常時泊まり込みで勤務するそうです。視察していた数時間の間もひっきりなしに山上げ・山下げの輸送トラックが発着していました。全ての作業が人力によるもので、「大変な労力がかかっている」と感じました。視察した埼玉県の田島園芸では山上げ栽培の人件費、輸送費、施設費など含めて年間4千万円の経費がかかっているとのことでした。

  

【カランコエの山上げ栽培】
 カランコエの山上げ栽培は低温・短日処理を効果的に行うことを目的に行われています。山上げ期間は45日を目処に行っています。したがって、6月中下旬から順次山上げを開始していることから、視察した8月2日は6月に山上げしたカランコエが調度山下げする時期に当たり、処理の終わったカランコエの「山下げ」と下界で挿し木育苗されたカランコエの「山上げ」が同時の行われる大変忙しい光景を見ることができました。
 山上げされているカランコエは夜間の低温の影響もあって堅くしまっており、岐阜県で行われている暖地での短日処理したものと比較すると明らかに品質的にも良い商品になるものと感じました。特に大鉢のカランコエの品質の高さはすばらしいものでした。
 視察した田島園芸では10万鉢が山上げされているとのことでしたが、6月から10月までの期間に約3回転することを考えると、計30万鉢が山上げで生産されていることになります。
 当然のことですが、短日処理を行っているので、朝と夕方には毎日トンネルハウスに遮光フィルムの開け閉めの遮光処理を人力で行っているとのことです。50〜70mのトンネルハウスの開け閉めに要する時間は2人かかりで2分間ということで、とても信じられない手際の良さです。ただ、これが毎日となると大変な仕事でしょう。ちなみに下の最初の写真の畝間にあるシルバーフィルムを毎朝、毎夕開け閉めします。また、2枚目の写真に点在する肥料袋はシルバーフィルムの風押さえに使用する重石です。
 短日処理や潅水などの効率化を図る手段は色々とあると思いますが、「11月から5月まで雪に閉ざされてしまうことを考えると、設備投資がなかなかできない」というのが現状のようです。

       

【シャコバサボテン】
 田島園芸ではカランコエに加えて、シャコバサボテンとアッツザクラが山上げされていました。シャコバサボテンは30万鉢が山上げされており、山上げ期間が30日間ということですので、6月から10月までの期間に約4回転することを考えると、計120万鉢が山上げで生産されていることになります。当然、シャコバサボテンも花芽分化を行わせるために短日処理が必要ですので、カランコエと同様、毎朝、毎夕シルバーフィルムの開け閉めが必要です。視察したときには、6月下旬に山上げしたものが順調に花芽分化しており、写真のように花芽が見え始めていました。これを山下げして栽培すると9月には出荷できるとのことでした。
 日長処理を行わないものとしてアッツザクラが栽培されていました。全体で5000ケースが山上げされていました。田島園芸の戦場ヶ原農場の総面積は1.7haあるとのことでした。

    

 群馬県の新井園芸(新井信明氏)の山上げ農場では、プリムラの山上げが行われていました。年末から年始にかけて販売計画とのことでしたが、戦場ヶ原の気候を有効に活用した生産方式だと感じました。