研究分野解説

文化研究について――人は文化に縛られている

岐阜大学地域科学部 地域文化学科 内田勝(文化研究)


「文化」には二つの意味がある

研究室紹介動画の中でも言いましたが、「文化」という言葉には、大きく分けて二つの意味があります。第一の意味として、大学などで文化を研究するという場合の「文化」とか「カルチャー」というのは普通、「ある集団に特有の〈物の見方〉、およびそうした〈物の見方〉に基づく慣習や産物」といった意味なんです。一方、「文化」という言葉にはもう一つ、第二の意味があります。すなわち文化とは「なにやら上質な雰囲気をただよわせるもの」なんですね。学問や芸術、上品な趣味、洗練されたファッションなど、それに触れることで自分をアップグレードさせるような気にさせてくれる何か。「文化」という言葉が日常会話で使われる場合、むしろこちらの意味の方が多いんじゃないでしょうか。でも、第二の意味の「上質なもの」としての文化もまた、第一の意味の「ある集団に特有の〈物の見方〉」が生み出したものなんですよね。人々が所属する集団によってそれぞれ文化は違っていて、文化が違えば何が上質とされるかも違う、というのが私の動画の結論でした。

人は文化に縛られている

さて、第一の意味の、「ある集団に特有の〈物の見方〉」である文化は、その文化を生み出した集団に所属している人々を、ある価値観の中に封じ込めています。われわれはみんな、自分の文化の価値観にどっぷり浸かっていて、普段はそうした価値観から抜け出すことができずにいるわけです。だからこそ、ある文化の中で「〜でなければならない」という常識に縛られて窮屈な思いをしている人もいっぱいいるでしょう。そんなとき、文化の縛りは普遍的なものではなくて、あくまであなたがその文化の枠内にとどまっているからこそ縛られるものなのだということに気づくことができれば、ずいぶん生きやすくなると思いませんか。ある集団の文化があなたに合わなければ、そんな文化はさっさと見限って、別の文化の中で暮せばいい。たとえ諸般の事情で今の文化を捨てることができなくても、別の文化、別の価値観を知ることで、窮屈な縛りから少しだけ逃れることができます。

「あたりまえ」を疑うこと

自分自身が縛られている文化を、ちょっと距離を置いて異文化のように眺めてみることから、文化研究は始まります。あまりにも身近で「あたりまえ」になっている物事の「あたりまえ」さを、あえて疑ってみましょう。たとえば「本」について考えてみましょうか。スマホばっかり見ていると「もっと本を読みなさい!」と叱られたりしますけれど、じゃあいったい「本」って何なんでしょう? 印刷した紙を四角く綴じて表紙をつけたもの、という定義では、「本」のすべてを含めることはできませんよね。電子書籍なんて、印刷されてもいなければ紙でもないし、スマホのアプリで読めますし。電子書籍はスマホで読めるけれど明らかに「本」だし、電子書籍以外の、スマホのディスプレイに表示される大量の文字情報にしたって、読むことによって心を動かされたり深く考えさせられることもあり、紙の本と同じような機能を果たしてるじゃないですか。そういえば、あなたが今読んでいる私のこの文章も、一種の「本」じゃないですか? そんなふうに、「本」についての「あたりまえ」を疑うところから、「本」についての文化研究が始まるのです。

教員からのメッセージ(岐阜大学地域科学部 地域文化学科 内田勝)

私自身の専門は18世紀イギリス文学ですが、地域科学部の専門セミナーでは文化研究全般を扱っています。ゼミ生たちが選ぶ研究対象に付き合う形で、漫画・映画・音楽などのポップカルチャー研究に20年以上携わってきました。普段われわれが娯楽として接しているポップカルチャーにも、それらを生み出したある時代・ある地域の人々の価値観が如実に反映されています。身近な文化現象を学術的に研究したいと思っている人は、ぜひ岐阜大学地域科学部で文化研究を学んでください。以下にリンクを張った、私の専門セミナーのウェブサイトも見てくださると嬉しいです。
内田勝セミナー(文学・文化研究)関係資料



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