研究分野解説
誰もが当事者になる―社会政策を学ぶ意味
岐阜大学地域科学部 地域政策学科 鈴木力(社会政策、労使関係論)
日々の生活には社会問題がありふれている
現在の日本社会には、賃金の低下、正社員の減少、性別による待遇格差、貧困、疾病・障害、社会保障の予算とサービスの削減、少子高齢化、マイノリティへの権利侵害など紹介しきれないほどのさまざまな問題が起きています。社会政策は生活することや働くことに関わる幅広い範囲を対象にする学問です。その中には、大学生にもかかわるアルバイトの問題や、年金、若年介護、就職難など身近な問題も多くあります。社会政策という授業では、生活する上で身近でありながら学ぶ機会の少ない働くルールや社会保険・公的扶助の仕組みなど、基礎的な知識を習得しながら、社会に存在する課題に取り組むアプローチを学びます。
このように誰もが社会問題の当事者になっている、あるいはこれからなるということを踏まえて学びを深めてもらいます。
個人の身におきる問題を社会化(社会が取り組むものに)する
社会問題について、例えば長時間労働について映像でも取り上げましたが、報道で違法性が指摘される職場では、“労働者本人の能力が低いから労働時間が延びる”という主張が多くみられます。これは実際には労働時間の長時間化の背景にある構造を隠して、個人の責任に矮小化する論理です。
こうした論理に対して、社会政策において大事なことは個人に起きる様々な問題を社会問題、すなわち社会が取り上げるべき問題として発見することです。個人的な問題として解消しきれない事実を捉えることから、社会政策という学問が始まります。
そのため、社会政策という学問に必要な視点は“あなたが悪いのではないか?”という主張を批判的に考えることです。日本では、2000年代以降に自己責任という言葉が流行し、定着してきました。社会政策が取り組む分野の中にも自助を重視する発想が入り込み、政府の社会政策の位置づけが低下しています。しかし、個人の問題に還元できない問題を社会に問うことこそ社会政策という学問の本質といえます。大学では、この視点を大事に学んでもらいたいと思います。
教員からのメッセージ(岐阜大学地域科学部 地域政策学科 鈴木力)
私が大学生だった、2000年代の後半はリーマンショックに端を発した世界的不況によって厳しい就職戦線に大学生たちがさらされました。これこそまさに、大学生たち1人1人にとってはどうしようもない社会問題であり、私自身が社会政策を研究するきっかけになった出来事でした。こうした労働問題に限らず、受験生の皆さんにもさまざまな社会問題があると思います。それらの問題について個人的に悩むのではなく、大学で、友人や教員と一緒に考えていきたいと思います。皆さんのご進学をお待ちしています。
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