研究分野解説

心を研究するとはどういうことか

岐阜大学地域科学部 地域文化学科 峰尾 菜生子(心理学)


心理学は人の心に「寄り添える」のか?

 心理学に「人の心を理解し、寄り添う」といったイメージをもっている人もいるでしょう。しかし、心理学がかえって人を苦しめてしまう場合もあるのです。たとえば、「自分は学校になじんでうまくやっていけている」という生徒の学校への適応感が高いほど望ましく、低い場合は何らかの問題があるとみなされがちです。しかし、特定の生徒を見下すようなクラスの雰囲気が嫌で適応感が低くなっている生徒がいるとするとどうでしょう。そういう生徒に、「クラスになじんで適応感を上げろ」と言うのが望ましいのでしょうか。人の心を探究する学問だからこそ、真に人の心に寄り添うものになっているのかを常に問うていく必要があります。

発達しているからこそ悩める、悩むからこそ発達する

 現在、「自分が何をしたいのかわからない」などと悩んでいる人もいるかもしれません。悩みや自己否定は良くないものと思われがちですが、心理学的にみると、自分を客観的に見る認知能力が発達した証でもあるのです。ただし、一人で悩み続けると頭の中がぐるぐるして自己嫌悪に陥りやすくなります。他者と共に悩み、知識を得ながら具体的に悩み、自分がどう生きるかを焦らず模索していく「モラトリアム」の時期や場が必要です。無駄や否定的に思えるものが人間の発達にとって重要だということがわかるのも、心理学の面白さです。

個人の心のありようを個人の心の問題とのみ捉えない

 私が行った研究では、青年は現在の日本社会を否定的に捉えているものの、社会を変えるのではなく自分の力で何とかしないといけないと考える傾向が明らかにされています。この結果だけ聞くと、社会にかかわろうとしない青年個人の意識が問題のように思えます。しかし、その背景には、「自己責任」を強く求める社会構造も影響していると考えられます。心のありようを個人の能力や性格などの問題としてのみ捉えず、さまざまな環境との関係で捉える姿勢が重要です。他分野の学問研究にも触れ、心理学を相対化することによって、心理学の醍醐味である個人の心のメカニズムの解明が進むのです。

教員からのメッセージ(岐阜大学地域科学部 地域文化学科 峰尾菜生子)

 私が心理学を学んでみようと思ったきっかけの一つは、1997年に神戸で起きた中学生による殺傷事件です。コメンテーターたちの「普通の少年」の「心の闇」という事件の論じ方に、当時中学生だった私は納得できず、「自分が背景を解明してやる」と思ったのです。関心や研究テーマは変わりましたが、自分が疑問に思ったことから出発する姿勢は今も大事にしています。学生たちともそのような姿勢で一緒に学びたいと考えています。



Copyright © 2023 Faculty of Regional Studies, Gifu Universtiy. All Rights Reserved.
[岐阜大学地域科学部Webオープンキャンパスサイトに戻る]