研究分野解説

英米文学が語る世界――The Great Gatsbyに見られる1920年代

岐阜大学地域科学部 地域文化学科 小林亜由美(英米文学)


文学研究

 小説を読む際、その物語の舞台や登場人物、また登場人物が語る言葉に共感したり疑問を抱いたりすることがあります。文学研究は、作品を読み、場面描写や登場人物の心理描写、会話等を分析し、作品から得られた共感や疑問を考察することから始まります。F. スコット・フィッツジェラルドの小説The Great Gatsby (『グレート・ギャツビー』、1925年出版)は、度々映画化されていますので、そのストーリーはよく知られているかもしれませんが、原作である小説は、作品の内容に加え、社会的・文化的背景を浮き彫りにします。ニック・キャラウェイが語る東部は、1920年代のアメリカの豊かさを読者に示し、その語りは当時のアメリカ文学の潮流であるモダニズムの視点としてとらえることもできるでしょう。

語り手

 1920年代のアメリカが舞台であるThe Great Gatsbyの語り手はジェイ・ギャツビーの隣人であるニック・キャラウェイです。ニックは都会的な東部に憧れて中西部からやって来ますが、物語の結末では中西部に戻ることを決意します。ニックは東部に落胆して故郷に戻ったと推測されますが、その落胆は必ずしも誰もが抱く感情ではないかもしれません。読者はニックの視点を通して物語の世界を見ているためです。ニックを「信頼できない語り手(unreliable narrator)」として作品を解釈すると、東部の活気は人々を幸福へと導いた可能性も考えられます。ニックはギャツビーを肯定的にとらえ交流を深めますが、作品の読了後にギャツビーの言動をあらためて考察すると、彼の生涯は潔白であるとは言えず、結末で平然と宝石店に入るトムに共感を抱く読者もいるかもしれません。

言葉

 ジェイ・ギャツビーは頻繁に“old sport”という言葉を使用します。The Great Gatsbyの翻訳書では「親友」「君」「オールド・スポート」等と訳出されていますが、原文で解釈すると理解を一層深めることができるでしょう。この言葉は親しみを込めた男性同士の呼びかけで、主に19世紀から20世紀初頭にかけて使用されたイギリス英語です。その言葉をアメリカ人のギャツビーが使用していることは、トムと同様に、読者も違和感を覚えるかもしれません。ギャツビーがこの言葉を好んで使用したのは、相手に親しみを伝えること以上に、彼が思い描く理想的な出自を周囲に印象づけようとする意図もあったと考えられます。彼はかつてヨーロッパの地で仲間とともに知性あふれる日々を送っていたことを暗示するためにこの言葉を発していたと推察され、その真偽を含め、この言葉は彼の人物像を考察するうえでの重要な手がかりのひとつとなるでしょう。

教員からのメッセージ(岐阜大学地域科学部 地域文化学科 小林亜由美)

 私自身は、The Great Gatsbyのような「モダニズム」の側面からも興味深い作品をはじめ、1920~30年代のニューヨークで興隆した「ハーレム・ルネッサンス」の文学を研究していますが、専門セミナーでは時代や作家・作品を限定せず、幅広く英米文学を議論しています。また、定期的に読書会を開催しており、特定の作品をセミナー生の全員で読み進めることもあります。専門セミナーでの活発な議論を通して、学生の皆さんとともに私も多くの学びを得ています。小説や英語圏文学の学術的な解釈に興味を持っている人は、ぜひ一緒に学び、議論しましょう。



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