研究分野解説

言葉は何を教えてくれるのか

岐阜大学地域科学部 地域文化学科 橋本永貢子(言語学)


記号としての言語vs現象としての言語

動画の中で、社会言語学は、言語を社会や文化との関わりから見ていく学問分野である、と紹介しましたが、そもそも人間言語が社会や文化の中で形成されてきたものである以上、本来は社会や文化とは切り離せないものです。しかし、言語を論理的に、あるいは科学的に探究するという錦の御旗のもとに、実際に見聞きできる言語現象ではなく、理想的かつ抽象的な“言語”こそが言語学の研究対象だと主張された時期がありました。つまり、言語は記号のように完璧な体系を持ったものとし扱い、その体系を明らかにするのが言語研究であるという考え方です。そうしたアプローチももちろん大事ですが、実際の言語現象は様々な「非」理想的な形で――変異形(variation)とも言われます――現れることを完全に無視することもできません。その形は、往々にして偶然そうなっているのではなく、一定の社会的要因が見いだせる、言い換えれば規則性があります。そうであるなら、それもまた言語研究の対象とするべきだとして確立されてきたのが社会言語学です。

言葉を通して社会を見ることの面白さ

昔の日本人が用いていた日本語と現代の日本語が大きく異なっていることは、皆さんご存知の通りです。古典といわれるかつての日本語から現代語の日本語へは、一足飛びに変化してきたわけではなく、徐々に変化してきたことは言うまでもありません。ということは、現在の何らかの変異形も、実は未来の規範的な日本語として定着していく可能性があるということです。変異形は、偶然ある小さな集団において共有されることになった表現がより多くの人がその形式を必要であったり合理的であったりと感じて広がっていくことになります。これまで無かった形式がなぜ必要だと思われ合理的だと感じられるようになるのかは、まさに社会や文化の変化、思考様式の変化を反映しています。またある文化ではよく現れる形式がある文化ではあまり現れないというのも、社会や文化の相違によるものだと考えられます。言葉は、普段それほど意識的に用いているものではないからこそ、潜在的な社会や文化の見方の本質的な部分を見て取ることができると言えます。

教員からのメッセージ(岐阜大学地域科学部 地域文化学科 橋本永貢子)

大学生になって初めて第二外国語として中国語を勉強し、音もそうですが、語彙、文法など、表現の仕方に中国人の意識が現れていることに興味を持ち、もっと知りたいと思い、現在に至っています。私自身の研究では、社会言語学的なアプローチだけではなく、言語を体系的な記号として記述するアプローチも行っています。中国語はもちろん中国人や中国文化を知り、またそこから自身の母語や自身の文化を考え、さらには、人間言語の可能性にも思いをはせる、そんな学びをしていきたいと思っています。



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