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教授御挨拶

 近年、数学、物理学、化学、生物学等は、めざましく進展しています。一方、医学の進歩は相対的に緩やかであり、感染症、がん、アルツハイマー病、糖尿病、心疾患などの重要疾患に対する根本的な治療法は、未だに確立されておりません。実際の医療の現場では、これら疾患に対する根本的治療法の開発を待ち望んでいます。

 人類は20世紀において、量子力学及び分子生物学を発見し、生命を詳細に理解するための基礎を築きました。21世紀では、その知識に基づき、生命を制御する事が可能になると予想されます。しかし、コンピューターやロボットの製作と異なり、生命の制御には原子ひとつひとつの動きを制御する技術が要求されます。原子ひとつひとつの変化が、生体のような多粒子多体系にもたらす作用は、バタフライ効果に似て非常に多岐に渡るため、理論的予測が困難です。

 現在知られている内科的疾患の多くは、体内の化学反応に問題があることが理解されています。化学反応を制御するには、化学反応に関与する生体分子(タンパク質、核酸、脂質、金属イオンなど)の構造を制御する必要があり、そのためには外部から適切な分子(薬剤など)を送り込む以外に方法がありません。この物質が、天然に偶然存在する確率はどのくらいでしょうか?分子量500程度の化合物の種類が1015(100兆)くらいとすると、現在知られているデータベースの数は、せいぜい1000万種類程度です。将来、増えたとしても、一兆種類以上の化合物を工場で管理し網羅的にスクリーニングすることは、現実的にはほぼ不可能に近いでしょう。このことから、将来これら疾患群を制御できるとすれば、各疾患の原因となるタンパク質などの分子を分子生物学的な手法で(複数)同定し、立体構造を決定し、その活性を制御するための薬剤分子を量子力学(化学)に基づいて、理論的に計算機を用いて設計する方法が、効率的であることがわかります。その後、分子を有機合成し、生体内に投与した際の影響を観察します。さらに目的とする作用のみを示すようになるまで、薬剤の化学構造を最適化します。最適化のプロセスは、いわば宇宙船の操縦に似ています。前進しながら、軌道修正することにより、目的地に確実に到達できます。このような手法で、人類は、疾患の分子制御を可能とする、と予想されます。

 私たちは、以上の手法を「論理的創薬」と名づけました。論理的創薬は、①疾患関連分子の「立体構造決定」、②構造に基づく「創薬計算」、③設計された分子の「有機合成」、④合成された分子の「生物試験」の全4工程よりなります。①‐④を再帰的に繰り返すことにより、薬剤の化学構造を最適なものにすることができます。

 当研究室では現在論理的創薬を、プリオン、ウイルス感染症、がん、神経変性疾患、糖尿病、免疫疾患、遺伝性疾患など、ほぼ内科疾患全般に適用し、網羅的に治療薬開発を展開しようとしています。特に、現在、人類に大きな脅威を与えているプリオン病、インフルエンザウイルス感染症、エボラウイルス感染症などの「人獣共通感染症」に対し、迅速に薬剤開発を行える体制を構築しているところです。

 また、薬剤投与が間に合わない急性期の外科的疾患においては、手術療法が適用されます。しかしながら、生体で臓器が何故そのような形態をとるのか?を説明する理論は未だに存在しません。我々が出来ることは、操作可能な連続空間から量子化された生物空間への作用素環を、医療機器として実現し、開発・製造することです。

 特に医学上、心臓は重要な臓器です。補助人工心臓(VAD)の装着により、心停止下においても日常生活が可能となります。然し一方で、感染や血栓形成が問題となります。これらを順次解決すれば、心疾患を克服できると考えられます。心機能に問題がないとすると、脳、肺、肝、腎などの主要臓器の非可逆的ダメージに関しては、再生医学及び組織工学手法により臓器の再生を行い、外科的移植手術を行うことで、根本的治療が可能になると考えられます。このためには、臓器などの生物の形態が何故、現在の姿になったのかを理解出来なければなりません。 外科的操作は連続群で表現出来ますが、操作の対象は非可換生物空間です。この操作の進化論的意義を解明する必要もあるでしょう。 ここで開発された手法は、原理的に政治、経済、法律の分野においても適用可能である、と考えています。

 このように医薬品・医療機器の革新的技術開発、及びそれに伴う医学医療技術の発展により、人及び動物の寿命は飛躍的に延長されると考えられます。 勿論、これらの近未来医学療法を受け入れるかどうかは、個人の選択に委ねられるべきです。希望する人があれば、いつでもその治療法を選択できるような、医療環境を確保する。これが我々の医療に対する基本的な考え方です。

 本サイトを通じて、このような論理的創薬及び医療機器開発の進展状況を、逐次、公開していきたいと考えています。今後とも、何卒ご支援を、よろしくお願い申し上げます。



桑田一夫

 

岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科医療情報学専攻

大学院医学系研究科遺伝発生学分野

応用生物科学部野生動物管理学研究センター
人獣共通感染症研究部門

研究推進・社会連携機構 学術院 生命科学研究部門