第21回幻聴音楽会「火影の音楽」  野村幸弘(幻想工房主宰)

2004年8月29日(日)午後6:30〜7:30
がまごおり東港埋立地(愛知県蒲郡市)
入場無料
音楽 坂野嘉彦
演奏 片岡祐介、片岡由紀、正木恵子、里見麻衣、坂野嘉彦
美術 宇治山田直行
企画・構成・演出 野村幸弘

今回の幻聴音楽会「火影の音楽」は、がまごおり市制50周年記念/パブリックアート・プログラム
「うみ/そらの音楽会」の一つとして開かれ、宇治山田のインスタレーションを舞台に繰り広げられました。


音楽+インスタレーション/音象風景

会期中の8月12日(木)〜8月29日(日)の18日間、会場の空き地では、
「音象風景」と題する宇治山田直行のインスタレーション+山辺義大と坂野嘉彦の
CDウォークマンによる作品が展開されました。





音で風景が変わる   

野村幸弘(幻想工房主宰)

 東港埋め立て地には本当に何もなかった。少なくとも最初に訪れたときの印象はそうだった。この荒涼とした空き地を芸術的な空間に変えるには、相当な労 力と時間と予算が必要だと思われた。
 その三つの条件が十分に揃わない場合、考えられる方法は二つあった。
 ひとつは、何もないことを際だたせること。そのためには聴覚に訴えればいい。

 見わたせば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ  藤原定家

 定家は何もないところに詩情を感じている。しかし、何もなくても、潮風の音は耳元で聴いていたはずだ。僕らは今、携帯オーディオによって、いかなる音
もいかなる音楽も耳元で聴くことができる。その音と音楽の力で、目に見える風景を「塗り変え」られると考えた。私は、作曲家、坂野嘉彦と山辺義大に現地
に来てもらい、この場所で聴くのにふさわしい音楽の作曲を依頼した。
 もうひとつの方法は、本当にそこには何もないのか、と疑うこと。
 よく見ると、風雨にさらされて草地に同化し、目立たなくなった木柵が、空き地のところどころに立っていた。これらの木柵に白いペンキを塗るだけで、空
き地の風景は「塗り変え」られ、際だつだろう。これでインスタレーションの20パーセントは出来上がったと感じた。残りの80パーセントは、椅子、机、
タンスなど、粗大ゴミとなった木製家具をすべて白くペイントして並べればいい。
 即席即興仮設芸術家、宇治山田直行の指揮のもと、名古屋芸術大学の学生たちや商工会議所の人たちなど、おおぜいの人々の協力を得て、100点以上の白 塗り家具が出来上がった。それらを、作品然とした展示のようでも、不法投棄のようでもなく、秩序でも混沌でもないような仕方で配置した。
 結局、私は考えた方法を二つとも採用し、実現した。携帯オーディオを聴きながら会場に入った人は、家具の間を散策し、そこに腰掛けて足を休める。そん
な、ありそうで、実際にはけっしてない風景を、私は見てみたかったのだと思う。藤原定家なら、この光景をどう歌に詠むだろうか。    (聞き手・前慎二)