今行なっている研究内容
私たちの身体を形作っている細胞は、外部からの刺激を受け様々な形に変化します。これがどのようにして起こるのかすごく不思議ですよね。(少なくとも私には不思議に思えるのです。)そういう疑問を持ちながら現在、私たちが行っている研究の中心テーマは、「三量体GTP結合蛋白質共役型受容体刺激による細胞骨格制御機構の解明」です。三量体G蛋白質により、どのようにしてRhoファミリー低分子量G蛋白質が制御され、アクチン細胞骨格に代表される細胞骨格が制御されるのかについて、その分子機構の解明を目指しています。

1)なぜ三量体GTP結合蛋白質共役型受容体刺激なのか?

2)低分子量G蛋白質の制御機構って何?

3)この分子機構を解明する意味は?

4)どのようなやり方で研究を進めていくのか?



1) なぜ三量体GTP結合蛋白質共役型受容体なのか?

私たちヒトを含め、生体が恒常性を保ちながら健全に活動するためには、複雑な細胞内情報伝達機構と機能調節機構による巧妙な制御が必要です。それらの情報伝達および機能調節機構は、あまりにも膨大で、まだまだ解明されていない点が多い。

最近、ヒトゲノム解読計画がほぼ完了し、ヒト遺伝子の数もほぼわかった。その中で、三量体GTP結合蛋白質共役型受容体(G-protein-coupled receptor;GPCR)の数は、約1000種類存在し、4番目に多いファミリーを形成していることがわかった。GPCRのリガンドには、エンドセリンやプロスタグランジンなど、循環調節などを含む重要な生体制御機構に関わっているものが多く。当然、これらの生体内における機能を探ることは重要な研究分野であると考えられます。また、遺伝子としては、同定されたが、その内在性のリガンドが不明な受容体(オーファン受容体)がまだ数多く存在し、それらのリガンド同定作業も製薬会社を中心に精力的に進められています。この研究分野は、学問的のみならず新しい治療薬開発の基盤研究として、社会的にも大きな意義を有すると考えられます。



2)低分子量G蛋白質の制御機構って何?

低分子量G蛋白質は、以下の表のようなファミリーに分けることができます。

Rasファミリー Ha-Ras,Ki-Ras, N-Ras, Rap1, Rap2, RalA, RalB, R-Ras, M-Ras, Ritなど
Rhoファミリー RhoA, RhoB, RhoC, Rnd1, Rnd2, Cdc42,TC10, Rac1, RhoG, Rac2など
Rabファミリー Rab1〜Rab30
Arfファミリー Arf1〜Arf6
その他 Ran, Rad, Kirなど

これらの低分子量G蛋白質は、単量体で働き、GDP結合型が不活性型でGTP結合型が活性化状態です。

図2.低分子量G蛋白質の制御機構

低分子量G蛋白質のGDP結合型かGTP結合型かを制御する因子が細胞内には存在し、GDPを外してGTP型に変え、低分子量G蛋白質を活性化させる蛋白質を、グアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide exchange factor;GEF)と総称し、逆にGTPase活性を著しく促進することにより、GTPをGDPに加水分解し、不活性化させる蛋白質をGTPase活性化因子(GTPase-activating protein;GAP)と総称します。低分子量G蛋白質の細胞内での制御はこれら二つの因子によって行われていると考えられ、これらの因子の活性制御機構を解明することにより、低分子量G蛋白質の時間的空間的な制御を明らかにすることができると考えられます。



3)この分子機構を解明する意味は?

Rhoファミリー低分子量G蛋白質は、細胞内のアクチン骨格の制御に働いていることが知られており、細胞の形態変化、運動、細胞分裂などに関わっていることが数多く報告されている。これらのことから、これらの分子機構を解明することにより、形態変化や細胞運動に関わる病態(癌など)の起こる分子基盤や神経のネットワーク形成などの分子基盤の解明の一部を担えるのではないかと考えられる。そして、それらに関わる創薬の基盤研究としても重要であると考えられます。



4)どのようなやり方で研究を進めていくのか?

基本的には、培養細胞(一般的に広く用いられている培養細胞)を用い、生化学的(大腸菌からの蛋白質の精製やimmunoblotなど)、分子生物学的手法(細胞への遺伝子導入法やPCRを使用した変異体作製など)、薬理学的手法(阻害剤や刺激剤などを利用する)を用い、三量体GTP結合蛋白質により制御される細胞骨格制御分子を同定し、その細胞内での機能を探っていきます。