研究情報発信コーナー
これまでの研究概要(2000年〜 )
最初に、2000年4月に作製した個人調書の中から研究教育業績の部分だけを抜き出したものをお示しします。これまでの比較的新しい部分の業績listをご紹介しますのでクリックして御覧下さい。各業
績に簡単な概要を書いていますので、タイトルだけよりは掴みやすいと思います。
岐阜大学工学部に来てほぼ10年が経ちましたので、これまでの研究を簡潔にご紹介し、今後の方向性(あと5年程度の)などもお話したいと思います。
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(1)人体の代謝を簡便にかつ高精度に測定する方法の開発に関して(〜2009年と今後)
現代医学においては、生体分子の代謝、特に脂質・脂肪酸や蛋白質・ペプチド・アミノ酸さらには糖・複合糖鎖などをヒトの血液や他の体液や臓器の一部を使って測定し、体
の状態さらには病態を理解しようとしてきました。そのため、高精度な生化学的物理化学的計測技術を使って生体分子の検出・同定・定量化などを行って、新し
い高感度な診断法の開発に努めてきました。
ところが、これらの人体での計測・診断方法は、医療機関や高価な装置を備えた研究機関でしか使用することができず、「簡
便に誰でも、そしてできれば家庭でも」高
精度な計測とをする、という目的はなかなか達成することができませんでした。そのため、私たちは誰でも採取できる人体の試料として、口腔粘膜、唾液や涙液
(などの簡便に採取できる体液)等、そして口唇皮膚を使って生体分子を簡便かつ高精度に測定する方法を探ってきました。
代謝の中でも、特に脂質・脂肪酸代謝の測定を検討しましたが、これは現代の様々な疾病、生活習慣病をはじめとした慢性的炎症性疾患の病態や発症機構を解明
するうえで、脂質や脂肪酸(飽和及び不飽和)のバランスや過酸化脂質(脂肪酸)の変化の測定が極めて重要であることがわかってきているからです。脂肪酸は、
生体脂質の中でも基本的なものですが、炭素鎖長と不飽和度によって様々な種類があります。これらを測定するのは、通常、ガスクロマトグラフィーという測定
技術を用いるのですが、誘導体化や抽出操作の煩雑さ、さらに測定時間が数分から数十分かかることなどから、数千から数万という多量のサンプルを扱う疫学的研究にお
いてはかなり問題になって おりました。
また、ヒトでの脂肪酸の代謝となると、これまでは安定同位体でラベルされた脂肪酸やリン脂質などをヒトが摂取し、それらが血液中の血球の脂質にどのような
時間経過を辿って取り込まれていくか、という研究しかありませんでした。これも大変お金と時間のかかる測定法でしたし、採血する必要があるため医療機関の協力なし
ではできません。様々な個人レベルで、食事で摂取され た脂肪酸がどれくらい素早く取り込まれ、血液以外の末梢組織に運ばれ、どのように代謝していくのかを、簡 便にどこででも測定出来る方法の開発が待たれていたのです。こ
の技術は、上手く行けば今後の健康産業を支える技術の一つとなることが期待されま す。
以上の課題を解決するために次の2つのテーマで研究を行い、成果をあげることができました。
(A) 口腔粘膜の脂肪酸組成を赤外分光法によって推定する方法の開発:
(文献的関連業績: S.Yoshida,
H.Yoshida Non-invasive analyses of unsaturated fatty
acid species in dietary oils and human oral mucosa in vivo by attenuated
total reflectance Fourier-transform infrared
spectroscopy. Clin.Chem.Lab.Med., Vol.40,
pp.S109, (2002).; 吉 田敏、
発明特許申請:「赤外分子振動解析装置、生体データ測定システムおよび生体データ測定方法」 特開2003−42952(P2003−42952A);
S.Yoshida,
H.Yoshida. Non-Destructive Analyses of Unsaturated Fatty Acid
Species in Dietary Oils by Attenuated Total Reflectance Fourier-Transform
Infrared Spectroscopy Biopolymers, 70(4),
604-613 (2003).; S.Yoshida,
H.Yoshida. Changes of Polyunsaturated Fatty Acids in Human Oral Mucosa in
Vivo Measured by Fourier Transform Infrared Spectroscopy. The Journal
of Near-Patient Testing & Technology, 3(4): 168-171, Dec.
(2004).; S.Yoshida,
H.Yoshida. Noninvasive Analyses of Polyunsaturated Fatty Acids in Human
Oral Mucosa in Vivo by Fourier-Transform Infrared Spectroscopy. Biopolymers,
74, 403–412 (2004).; S.Yoshida,
H.Yoshida. Changes of Polyunsaturated Fatty Acids in Human Oral Mucosa in
Vivo Measured by Fourier Transform Infrared Spectroscopy. The Journal
of Near-Patient Testing & Technology, 3(4): 168-171, Dec.
(2004).; S.
Yoshida, Okazaki Y, Yamashita T,
Ueda H, Ghadimi R, Hosono A, Tanaka T, Kuriki K, Suzuki S,Tokudome S.
Analysis of human oral mucosa ex vivo for fatty acid compositions using
Fourier-transform infrared spectroscopy. Lipids, 43(4), 361-372 (2008). ;
S. Yoshida
Analysis of fatty acid compositions of human tissues using
Fourier-transform infrared spectroscopy. Lipid
Technology, 20(8),
184-186 (2008).)
私たちがまず考えたのは、体の脂肪酸量の変化を見る場合血液やその中の血清あるいは血球を使うことが多いわけですが、血液を使わずにその影響を受けやす
く、かつ採取が容易な生体組織を得るということです。この場合、口腔粘膜の細胞は綿棒などで擦ってすぐ採取できますし、これまでの私たちの仕事でも明らか
にし
たように(口腔粘膜のFTIR分析により高トリグリセリド血症を診断できる;下記のテーマ(4)を参照のこと)、口腔粘膜は血中の脂質の変動の影響を受け
やすいことが分かっていますから、口腔粘膜の脂肪酸組成を簡便に測定する方法を考えました。口腔粘膜を 直接in
vivoでFTIR測定することも可能ですが、今回は ex vivo
で、粘膜細胞を綿棒で擦ってSucrose入の緩衝液に混ぜドライアイスで凍結して海外から送られてきたもの(数カ国から300程度のサンプル数)を使い
ました。名古屋市大医学部との共同研究
です。その後、使用する前に解凍して、洗浄した細胞を遠心で沈殿させて回収し、その一部(7個ほど)通常の脂肪酸組成測定のためGCMS法で定量化しまし
た。そし
て、残りの細胞ペレットを直接FTIR測定し、スペクトル分析したのです。さらに、これらのデータを、PLSという多変量解析プログラムによって分析しま
すと、未知試料でもその赤外スペクトルパターンから、かなりの精度で脂肪酸組成が予測できることがわかったのです。これらを図示します。
この方法で重要なポイントは、10個程度のサンプルでまず正確に脂肪酸組成をGCパターンから求めることです。そして、同じサンプルの赤外スペクトルの2
次微分スペクトルをとり蛋白質のピークについて規格化することです。その上でPLSという多変量解析的手法を適用するのです。この手法は、端的に言うと
「予測的統計手法」であり、あるパターン1と別種のパターン2を潜在的パラメータによって対応付けを行い、未知のパターン1がわかるとそれに対応するパ
ターン2を予測することができる、というものです。即ち、粘膜組織のFTIRスペクトルの中で脂肪酸の鎖長(CH2の数)と不飽和結合の状態(シス型HC
=CHの数と状態)を示す赤外吸収パターン(パターン1)は、まさに脂肪酸組成(パターン2)で決まるパターンですから、数学的にパターン1とパターン2
は対応させることができるはずなのです。それをやってくれるのがPLSという多変量解析的統計手法で、実際100以上のサンプルの脂肪酸組成を予測するこ
とが可能となったわけです。特に、疫学的に必要となるリノール酸組成比やn-6/n-3比、飽和/不飽和脂肪酸比などの数値は比較的精度高く求めることが
できました。また、もともと粘膜中の微量な脂肪酸の組成比の予想の誤差は大きくなりますので、改良は必要です。
今後は、精度を上げる
ために手法の改良と、組織自体の赤外スペクトルを測定するとバックグラウンドでPLS解析プログラムが動き、即座に希望する脂肪酸組成比やn-6/n-3
比などの数値を表示できるようにする統合的プログラムの実装を目指す必要があります。これらのソフトウェア的改良と、FTIR装置自体がどこでも誰でも持
ち運んで使えるようなものが統合されていけば、精度の高い脂肪酸組成データを大量のサンプルでとることができ、しかも短時間でデータを出すことが出来るた
め従来のGCなどのクロマトグラフィー的手法より優れており、脂質と慢性的炎症性疾患との関係を明らかにするための疫学的研究にも十分使われ、大きく貢献
できる可能性があるでしょう。
さらに付け加えると、口腔粘膜の成分は唾液の成分からも影響を受けていますから、唾液の研究の一環として唾液中の過酸化物の変動の測定もしてきていま
す。特に、過酸化物の代謝に関係する酵素(カタラーゼ)の研究と、唾液脂質過酸化物の簡便測定法の研究、唾液中のコレステロール、トリグリセリドを簡便に
家庭でも計測できる方法の開発(【発明の名称】微量成
分の濃度測定方法および濃度測定装置;特開2005−274545(P2005−274545A、【発明の名称】濃度測定装置;特開
2009−92632(P2009−92632A))、
を行ってきました。唾液自体を乾燥させFTIRで測定すると、脂質や蛋白質などの成分の変化が測定されると同時に、リン酸エステルと思われる赤外吸収が
1240cm-1に観測されて、それが日内変動をすることがわかりました。そして、分子レベルで調べるとリン酸化蛋白質の日内変動とほぼ同じ振る舞いをし
ていることがわかりました。そのリン酸化蛋白質を調べるとカタラーゼであることが分かりました。(Yoshida, S., Shimada, Y.
and Ueda, H. Catalase as a phosphoprotein in human saliva. (3P-B-501)
20th IUBMB International Congress of Biochemistry and Molecular Biology
and 11th FAOBMB Congress, June 18 - 23. (2006), Kyoto, Japan.)ただ、口内バクテリアのカタラーゼとの区別がまだできておらず、ヒト由来の酵素が
どれほど寄与しているのかまだ不明なので課題は残っています。
(B) 摂取脂肪酸などの人体での代謝を簡便に測定する方法の開発
(文献的関連業績: Yoshida S, Zhang
QZ, Sakuyama S, Matsushima S. Metabolism of fatty acids
and lipid hydroperoxides in human body monitoring with Fourier transform
Infrared Spectroscopy. Lipids in Health
and Disease 8:28
doi:10.1186/1476-511X-8-28 (2009). )
前記では、口腔粘膜を使った脂肪酸の測定法について書きましたが、実は脂肪酸の変動に関しては口腔粘膜よりも口唇の皮膚表面の方が強く出ているのが分かっ
ていました。ヒトの口唇には、他の顔面の皮膚とは違って汗腺や皮脂腺がありません。そのため口唇の上皮に出てくる脂質・脂肪酸は、そのすぐ下を流れる血液
からその皮膚細胞に供給されたものが出てきていることになります。ですから、直接口唇をFTIR測定できれば体の脂質脂肪酸代謝をうまく測定出来るのでは
ないか、と考えられます。そこで、私たちは口唇だけでなく、顔面の皮膚を直接FTIR測定できるアダプタを開発しました。被験者にはただ椅子に座っても
らって、その口唇にアダプタ(ダイヤモンドATRアダプタ)を触れさせれば、口唇表面の赤外スペクトルが測定できるのです。この状況を下に図示します。
この方法によって、食事によって摂取されたドコサヘキサエン酸(DHA)が口唇表面に現れることをFTIRで直接検出することができましたし、さらに20
歳代12名や60歳代6名の口唇の赤外スペクトルの時間変化を調べると、20歳代では食後2時間ほどで口唇表面に出てくるのに対し、60歳代では4〜5時
間かかることも判明しました。また、昼ごろに最大になる口唇上の脂肪酸ヒドロペルオキシド(過酸化脂肪酸)も、FTIRだけでうまく測定できることがわか
りました。FTIRだけでなぜDHAというような高度不飽和脂肪酸を検出出来るのかといえば、シス2重結合(HC=CH)のCH伸縮振動由来の赤外吸収は
およそ3010cm-1付近に出てくるのですが、その吸収位置がオレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2n-6)、アラキドン酸(C20:4n
-6)、DHA(C22:6n-6)で明確に異なるので(3006~3014cm-1の範囲にある)赤外スペクトルだけで区別して測定できるのです。例え
ば、DHAは3014cm-1に出ますし、C20:4は3012cm-1に出ますので、この2cm-1の差は十分区別可能です。
このように口唇表面の脂質脂肪酸を測定することで、トリグリセリドの形で摂取したDHA脂肪酸が、体内で吸収され血液の流れに乗って末端組織に取り込ま
れていく様子(即ち代謝速度)を見ることができるので、私たちの開発したCISMEのシステムは、この脂肪酸代謝と様々な病態(生活習慣病や脂質異常症な
ど)との関係を研究するための、簡便な測定法として使えると思います。そのためにもこのCISMEのFTIRのシステムのさらなる小型化可搬化によって、
臨 床現場で使えるようにしていくことが望まれます。この方法の原理は特許出願しています。(【発
明の名称】生体データ測定装置:特開2009−183636(P2009−183636A))
(C) FTIRを用いた糖尿病のスクリーニング法の開発
(文献的業績: Yoshida
S, Yoshida M, Yamamoto M, Takeda J. Optical
Screening of Diabetes Mellitus using Non-invasive Fourier-transform
Infrared Spectroscopy Technique for Human Lip. J.
Pharm. Biomed. Anal. 76 (2013) 169– 176.)http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0731708512006814
これまで糖尿病の非侵襲的診断法の開発のために、赤外分析、近赤外分析、ラマン散乱法などの振動分光法が適用され、特に近赤外線を使った診断装置も開発
され臨床適用の一歩手前までいった(10年ほど前)が、残念ながら現在でも臨床現場で使われてはいない。この方法は、基本的には人の皮膚を通して血中のグル
コース量を測ろうとする方法であるが、ある程度の相関はあるものの個人差が大きく臨床的に信頼できるようなレベルで血糖値を予想することはできていない。これ
は、皮膚を通して血中の状態を測ろうとすると、近赤外線を使って測定する場合血液の情報以外に、血管と皮膚表面の間にある皮膚組織(角質層から基底層まで、さ
らに真皮まで含む)の持っている様々な糖関連物質(糖鎖や糖脂質、糖タンパク質、糖化物質など)が大量に含まれるので、その情報が血液のグルコースのかすかな
スペクトルに被さってくるので、その皮膚組織の性質の個人差が大きいと血糖値の測定はかなり困難となる。一方、グルコースを直接測るのではなく、それと化学反
応を起こして生成した糖化物質、例えば糖尿病のマーカーであるグリコヘモグロビン、すなわちHbA1cの量と関連したものを測ろうという試みもあって、それは
一つには蛍光検出法を使って皮膚の最終糖化産物(AGEs)を測って糖尿病を診断しようということも行われている。そのための装置も開発され、一部では臨床的
にも使われてきている。しかし、AGEsのすべてが蛍光性であるわけではないので、特に皮膚には蛍光性ではないカルボキシメチル化リジンのようなものが多いと
言われているので、一部の報告ではこの蛍光法では糖尿病の診断は難しいとも言われている。
我々は2年前に上記のCISMEシステムを備えたFTIRを病院の外来に搬入し、糖尿病の専門医の
指導のも と糖尿病を含む患者25名を測定する機会を得た。そこでは、20代から80代までの男女の被験者の口唇赤色部を測定した。
その結果、HbA1c値(国際標準値;NGSP)が6.5%以上の人たちと、それ以下の人たちの口
唇の赤外スペ
クトルの差スペクトルを見ると、一部のAGEsのスペクトルをかなり反映したものであることを確認できた。特に、カルボキシメチルアルギニンやカルボキシメチル化PEのス
ペクトルと高い相関があった。
さらに、PLS法を適用して、HbA1c値を予測し
たところ、相関係数R=0.82と高い予測率を示した。この方法だでけで、糖尿病患者16名中14名をスクリーニングできたが、偽陰性の患者2名が出ていた。
そのため、さらに解析を進めたところ、口唇表面に出ている過酸化脂質由来のトランス型不飽和脂肪酸の赤外吸収強度をもとに分類を追加することで、偽陰性の患者
を見つけることができるようになり、100%スクリーニングが可能となった。
この方法で、HbA1c値ほどではないが、血糖値(グルコース値)の予想も有意に可能ではあったの
で、スクリーニングというよりは個人の定点観測(一人の人の血糖値の時間変化)をしていくのには有効であろう、と考えられる。
(D) FTIR法を使って、ペルオキシソーム病として知られている極
長鎖脂肪酸の蓄積病(ZSなど)を、簡便に計測する方法を開発しました。血清を数μL赤外分析するだけでC26/C22比などを推定するこ
とができるようになりました(医学部・ゲノムセンター 下澤先生との共同研究です)。論文 Isogawa, M. , Yoshida,
S. and Shimozawa, N. (2014)
Evaluation of Fourier Transform Infrared Spectroscopy for Diagnosis of
Peroxisomal Diseases with Abnormal Very-Long-Chain Fatty Acid Metabolism.
American Journal of Analytical Chemistry, 5, 359-366.
doi: 10.4236/ajac.2014.56043. Abstract:
(NEW)
(2)皮膚・毛髪を通して身体および脳神経(精神)の働きをモニターする方法の開発に関して(〜2009年と今後)
内臓を含め身体の病的状態が皮膚に何らかの変化が起こる場合があります。デルマドロームとも云われる内臓の癌病態が現れる皮膚症状も知られています。毛
髪も皮膚の一部の組織ですから、身体状態の影響を何らかの形で受けるはずです。これは、身体の中の各部位は皮膚を含めお互い何らかの繋がりがあるわけで、
神経的にもリンパ液の流れでも血液の循環によっても(さらにホルモン的にも)繋がっている、即ち程度の差はあれ相互作用していると考えられます。さらに、皮膚
は外胚葉由来であり、脳も外胚葉由来であり発生学的には近い組織ですので、皮膚は「第3の脳」(傳田氏・資生堂)とも云われるとおり、皮膚の系は脳神経系
と密接な繋がりがあります。
統合失調症のように複雑な精神的疾患は、脳の神経システムの異常なのですが、その異常は血液においても現れていることがあります。血清中に出ている
NCAMという神経細胞接着因子の蛋白質のフラグメント(限定分解されたもの)に、正常なヒトと比べて統合失調症の患者さんのものに変化があることも示し
てきました。( Tanaka, Y.,
Asai, K., Okazaki Y., Ueda, H., and Yoshida,
S. Serum Fatty Acids in Patients with Schizophrenia. (P095)
7th Congress of International Society for the
Study of Fatty Acids & Lipids (ISSFAL), July 23 - 28. (2006)
Cairns, Queensland, Australia.; Tanaka Y, Yoshida
S, Shimada Y, Ueda H, Asai K. Alteration in serum neural cell
adhesion molecule in patients of schizophrenia. Hum. Psychopharmacol.
21, 1-6 (2007).) こ
のように、脳の変化が血液に出てくるくらいですから、皮膚の何処かに変化が現れても変じゃないと思っています。実際様々な「こころの病」が様々な身体症状
を呈す る事が知られており、原因不明の身体症状(例えば体の痒み)が「こころの病」と関係する場合があることも知られています。
皮膚の一部である毛髪
は、体の状態の記憶がテープレコーダのテープのように、毛根から毛幹部先端に向けて保存することができる「装置」でもあります。過去に食べた食物の水銀量
などを推定するのに毛髪が使われることが(死者の毛髪が使われることも)ある、のはよく知られていますし、他の例えば微量なヒ素の摂取も毛髪に蓄積するこ
とが分かっています。では、毛髪に過去に摂取した脂質の変動が「刻印」されていることはあるのでしょうか?実際私たちは、毛髪を1本高精度に赤外分析する
ことで(顕微FTIRを使用)、脂質由来の赤外吸収ピークの強度が長さ方向に概
周期的に変動していることを見出しました。(2006年日本生化学会発表)
また、摂取脂質が多いと、毛髪にも数ヶ月後に多く脂質が取り込まれていることも見出しました。(2009年日本脂質栄養学会発表)さらに、毛髪には他の臓
器にはあまり知られていない糖脂質(糖ステロール脂肪酸エステル)が存在することも見出しました。(【発明の
名称】毛髪化粧料:特開
2008−24628(P2008−24628A))それらの脂質が、毛髪の成長と維持にどのように働いているのかを明らかにするのも今後の
課題です。
*この辺りの研究を著書の中にまとめて発表しました。( Yoshida
S, Koike K. (Book) Chapter one -
Lipid and Membrane Dynamics in Biological Tissues―Infrared Spectroscopic
Studies, in Advances
in Planar Lipid Bilayers and Liposomes, (Elsevier; Edited
by Dr. Aleš Iglič) Volume 13,
Pages 1-32 (2011).)本文はここから(clicking
this link)ダウンロードできます。 (NEW)
私たちは、体内の状態や脳神経系の状態特に精神的異常の状態を、より観察の容易な皮膚系の生体分子の変動の観察を通して理解できなだろうか、という問題意識のも
とに、皮膚(特にその表面にある角質層)や毛髪の研究を続けてきています。
(A)皮膚表面には概月周期的に変動する生体分子がありそこには乳酸マグネシウムが主成分として含まれていた。
(文献的関連業績: Sakuyama
S, Hirabayashi C, Hasegawa J, Yoshida
S. Analysis of Human Face Skin Surface Molecules In situ by
Fourier-transform Infrared Spectroscopy. Skin
Research and Technology (2009) DOI:
10.1111/j.1600-0846.2009.00414.x)
顔面の皮膚、特にT1ゾーンの額中央部分の皮膚表面を、上記のCISMEシステムによってFTIR分析しました。CISMEのATRプローブを額の皮膚に
押し付けるだけで簡単に測定できますので、1週間ごと10ヶ月に渡って測定したり、毎日測定し3ヶ月続けたりして皮膚の赤外スペクトルの変化を見たとこ
ろ、ほぼ1ヶ月の周期で強度が変化しているところがあることが分かりました。
通常皮膚細胞の代謝的変化としては、皮膚の基底層で作られた表皮細胞は外へ外へと動き角質層の最外層まで達すると自然と剥がれ落ちる、ということを繰り返
し(角化
サイクル)、一定の厚さの角質層が形成されて、体を防御しています。そして、基底層から有棘層、顆粒層を経て角質層の最外層まで細胞が達するのに28日掛
かる(いわゆるターンオーバーサイクル)と云われています。しかし、上記の最外層成分の約1ヶ月周期(概月周期)というのはこの表皮のターンオーバーに
28日掛かるということとは違うことを表していると思います。基本的に、有棘細胞がアポトーシスを起こし角質細胞となって外に押し出されていく過程で、出
来上がった角質細胞自体が約1ヶ月周期で若干質的に異なったものが作られて入っている、ということを示唆しています。
この概月周期的に変化して
いる成分とは何か?これを明らかにするために、まず赤外スペクトルの差スペクトルをとってみました。その結果、それは乳酸のようなαヒドロキシ酸を主に含
んでいることが示唆され、より詳細な比較をして、Mg-lactateであろう、ということが予想されました。そして、テープストリッピングによって剥が
した角質層の最外層の水抽出物のHPLC分析、TOF-MS分析、酵素アッセイ分析などを行ったところ、遊離の乳酸というよりもマグネシウムと乳酸の会合
体(Mg-lactate conjugate)のかたちで表面に、それも比較的大量に出てきていることがわかったのです。
このMg-
lactateは、実際様々なヒトで試験した結果、経皮水分蒸散量(TEWL)を抑制すること(保湿効果)がわかりました。さらに、科学的に皮膚で明確に
なったわけではありませんが、Mg-lactateはアロエの葉肉に多く含まれこれがヒスタミンの合成を抑えてかゆみを抑える作用をもっている、とも云わ
れて
います。これは今後ヒトの皮膚角質層を使って証明する必要がありますが、このありふれた有機物が結構面白そうな役割をしているようです。乳酸ですからその
量の変化は皮膚でのエネルギー代謝の状態とも関連があるはずです。角質層のマグネシウムやカルシウムイオンの存在は皮膚機能維持に重要であるとも云われて
いま
す。このありふれたMg-lactate会合体が皮膚に大量に表在している事の意味、特に皮膚機能の維持に重要な他の成分(セラミドや蛋白質分解酵素な
ど)との相互作用とそれらへの調節機能という視点で、今後探っていきたいと思っています。
(B)ヒト毛髪では新しい糖脂質や水酸化中鎖脂肪酸が働いていた。 (NEW)
(文献:Takahashi, T., and Yoshida, S. (2014)
Distribution of Glycolipid and Unsaturated Fatty Acids in Human Hair. Lipids,
(Published online: 8 August 2014) Volume
49, Issue 9, pp 905-917. Access
here. or here.
The online version of this article (doi:10. 1007/s11745-014-3937-0)
contains supplementary material, which is available to authorized users.)
頭部の毛髪(頭髪)は、基本的には「頭部の保護」(紫外線や外的損傷などから)として働いていると考えられますが、現代社会においてはそれ以外に個人のア
イデンティティや個性の表現手段としての役割が大きくなっているようです。さらに、毛髪は細い割には表面構造であるキューティクル層、内部の多くを占めるコル
テックス層、そして中心部に対応するメデュラ、という3つの部分から成り立っており、コルテックスには多くメラニン顆粒が集まっている、という微細構造になっ
ています。
そしてこれらの構造の中に、過去の体表組織での代謝の「記憶」が刻印されているのであり、毛髪の軸に沿って先端に行くほど過去(数か月以上)の代謝物質
(過去にどれくらい脂質を摂取したか、といった状況)がテープレコーダーのテープのように残っているのです。人工的なテープにも層構造が作られていますが、毛
髪でも層構造同士の相互作用がしっかりして結合していないとしなやかで強靭な毛髪にはならないし、枝毛などの壊れた毛髪になってしまいます。今回の研究では、
キューティクルとコルテックスの界面に特別の糖脂質が存在しており、赤外分光法では1020cm-1に大きな吸収を持つGlc(Gal)NAc
構造を持つ糖脂質であろう、と考えられました(下図)。他の証拠からこの糖脂質はエステルステリルグリコシド様の構造でN-Acetyl基
をもつものであることが分かりました。この糖脂質がまわりの蛋白質と水素結合をしてその界面での糊(接着剤)のような役割をしているのではないか、と予想しま
した。
また、LC-MS(UPLC-Qtof-MS)分析の結果、メラニン顆粒から洗浄後抽出した脂質の中に分子量884の成分があり、この成分の部分構造を
MS/MSにより推定すると、3,6,8−トリヒドロキシデカン酸の構造を持つことが分かりました。この構造は、一つの水酸基の位置がω3の位置にあるためαリノ
レン酸(C18:3n-3)由来のものではないか、と推測されました(下図)。他の過去の研究から、食事中のαリノレン酸の多く(大部分)は皮膚や頭髪の脂質に集
まることが報告されいますので、このαリノレン酸由来の水酸化中鎖脂肪酸はメラニンの代謝輸送に特別の役割を担っているのではないか、と予想されました。他にも、
毛根の中から抽出された脂質の中に、やはり6,8-ジヒドロキシデカン酸があることがGC-MS分析の結果分かりましたので、水酸化中鎖脂肪酸が毛髪の代謝に重要
な役割を果たしていることが予想されました。
このように、毛髪には他の組織にはあまり見られない特殊な脂質があり、毛髪の特殊な構造の維持と働きに関与していることが分かりました。特に、重要なことはメ
ラニンの脂質の一部にαリノレン酸由来の水酸化中鎖脂肪酸があったことです。これまでなぜαリノレン酸は、皮膚に集まるのか、その生理的意味が不明でした。体内で
はαリノレン酸からEPAやDHAのω3系脂肪酸が生成する活性は、成人の場合は非常に弱いので、皮膚組織に集まるとしても大部分はβ酸化によってアセチルCoA
に変わってATP合成に使われるだけだ、と考えられてきました。それではαリノレン酸が皮膚に集まる理由が説明できないのです。
それが今回の研究で、メラニンの主
要な脂質の部分構造としてαリノレン酸由来代謝物が取り込まれている、ということが分かったわけですから、皮膚や毛髪に多いメラニンの代謝にαリノレン酸酸化代謝
物が重要な貢献をしている、と考えられて、それが皮膚に集まる理由の一つなのではないか、と思われます。メラニンの脂質は、恐らくはメラノソームの中のメラニン色
素顆粒とその周りの脂質膜との相互作用そしてメラノソームの輸送において重要なのだろうと考えられますが、まだ詳細は不明です。いづれにせよ、メラニンは皮膚と毛
髪で紫外線等からの体の防護という重要な役割をしているものですから、成人の必須脂肪酸であるαリノレン酸が酸化されて生成した代謝物がメラニンに付いていたとい
うことは、このメラニン代謝への関与がそのαリノレン酸の主要な役割なのではないか、と思われます。
◆◆
(3)脂質栄養と脳神経機能に関して(〜2002年頃まで)
食事でとる脂質の中に、必須脂肪酸というのがあることは聞かれたことがあるでしょう。これは、人間の体内では合成することができないもので食事として植物や海産物などから
しかとれない脂肪酸の事です。リノール酸やαリノレン酸がそれです。
そして、脂肪酸には下の図にあるように様々な長さ(炭化水素鎖の炭素の数)と炭素と炭素を繋ぐ結合の不飽和度(2重結合の数)によっていろんな種類があ
り、その機能が多様なものになっています。例えば、20:4と書いてあるものは、炭化水素鎖の長さ(炭素の数)が20で、不飽和結合が4個あるということ
を意味します。(因にこれは、アラキドン酸という名前がついていますし、(5,8,11,14)というのは不飽和結合のある位置を表わしています)
図
1。この図で示しますように、脂肪酸の長さを延ばすやり方と不飽和を作るやり方(酵素がやります)には異なる酵素が関係しますが、3種類の系に分けること
ができます。飽和と1不飽和(ここでは16:0が出発点として書いてある)の系、リノール酸(18:2n-6)が出発の系、それと第3にαリノレン酸
(18:3n-3)が出発の系です。このうち、必須脂肪酸であるリノール酸とαリノレン酸のバランスが大きく変化すると、体の中の細胞膜の構造が変化し機
能も変化します。そして、脳神経の機能、そして精神状態まで変わることになるのです。
”YOU ARE WHAT YOU ATE” という言葉がありますが、脂肪酸に関してはもっと直接的な影響があるのです。
実際、名古屋市立大学薬学部(現在・金城学院大学薬学部)の奥山治美教授のグループでは、ラットの学習行動に影響を与えることをだいぶ以前に明らかにして
います。
図
2。これは、ラットに学習させる場合の訓練とテストの戦略を図示したものですが、明度弁別学習法を使います。即ち、明るい光と暗い光を区別させ、明るい光
が提示された時にペダルを踏むと餌が出る、という学習をさせるのです。この方法で、紅花油(Saf)というαリノレン酸の殆ど無い油を使った食餌の群とそ
れの豊富なシソ油食群(Per)で比較すると、シソ油食群のほうが学習能が高いのです。
なぜか。そして、どうしてこのようなことが起こっているか? 改めて考えると、深刻な問題(普段の食事が精神(脳)機能にも影響を及ぼす?)を提起している実
験だと思います。
そのメカニズムを解明するために、私達は奥山研究室と共同研究を続けています。
その一端をご紹介します。
図
3。この2つの群の脳を電子顕微鏡で見ると、記憶にとって重要な役割をしている海馬(Hippocampus)という部位の神経端末にあるシナプス小胞
(Vesicle)という、伝達物質を含んだ「袋」の数(実際は単位面積当たりの数、即ち密度)が、2つの群でかなりはっきりと異なっている分布(ヒスト
グラム)を示しました。これは、シナプスの機能にも変化があるだろう、という重要な根拠になります。さらに、これは、小胞の代謝(合成と分解)がなんらか
の変化を受けていることを示唆するものです。
では、もっと分子レベルで見てどんな差があるのでしょうか?
それを見る一つの手
段として、赤外分析があります。これは、組織や膜そのものをそのままで壊さずに見ることができて、脂質や蛋白質、糖等の化学的な検査を簡便に行うことがで
きるものです。2つの群では、脂質や糖タンパク質の合成に重要なミクロソーム(microsomes,小胞体)を見た場合には、殆ど同じようなスペクトル
なのですが一部興味深い差がありました。中でも、下に示しますように、1080〜1200cm-1 辺りのところに差があることが判りました。これは、糖
鎖に変化があることを示唆しているものです。これは、脂肪酸の変化と学習行動によって、膜の糖鎖が変化する可能性を強く示唆するものです。なぜ、こんなこ
とがおこるのでしょうか?
さらに、なぞは深まりました。
図
4。これは、2つの群で、学習行動をさせた時とさせない時でのラット脳ミクロソーム膜の赤外スペクトルの比較です。(B)は2次微分スペクトルで、より詳
細なスペクトルの分離が行なえます。緑で染めた所に学習後で2つの群で顕著な差がありました。これは糖鎖での変化であることを示唆しているので、さらに糖
鎖の分析(どんな糖鎖が変化しているのか化学分析するためにヒドラジンという試薬で糖鎖を蛋白から分離し蛍光試薬でラベルしHPLCで分離同定)を続け
て、確かにある種のシアル酸を含んだ複合糖鎖が変化していることを最近示しました。
さらに、脳の学習記憶の
モデル系として良く使われる海馬スライス組織の「長期増強」現象のなかで、テトラエチルアンモニュウム塩(TEA)によって引き起こされる「化学的長期増
強」では、2〜5分という比較的早期において、これまで考えられて来たアラキドン酸ではなく飽和・モノ不飽和脂肪酸のCoA化合物(アシルCoA;あしる
こえい と発音します。CoAとはコエンザイムAという補酵素とよばれる脂肪酸等の活性化物質です)が出てくることを明らかにしました。これは、ラット脳
海馬ではホスホリパーゼA1が長期増強の比較的早期において重要な役割をしていることを示唆するものです。
さ
らに、アシルCoAによって海馬スライスから実際神経伝達物質であるグルタミン酸が遊離してくるというのも測定できました。(左の図;おまけ)これはグル
タミン酸電極というものを使ってリアルタイムに測定できます。このことは、比較的早期にアシルCoAが出たらそれはさらにグルタミン酸を遊離させる方向に
働きうる、ということを意味します。これはとりもなおさず、早期に出る16:0-CoAなどが「逆行性のメッセンジャー」としてラット脳海馬シナプスで働
いているのではないか、と予想させるもので、これまでアラキドン酸が逆行性物質として注目されていましたが、それ以上に別の脂肪酸CoAが大事ということ
を示唆しています。そして、この脂肪酸化合物は膜脂質から出てくるわけですから、食事による脂肪酸のバランスの変化で膜脂質脂肪酸組成が変わればアシル
CoAの出てきかたにも変化が出るだろう、と当然予想されるわけです。それもシナプスの機能を変える要因になっていると考えられます。
図5。
これは、ここまで述べて来た、シナプス周辺に関する研究結果を絵で表わしたものです。(以上のほとんどの内容は既に論文として発表しています)
食餌(事)の脂肪酸のバランスの変化で、脳神経の行動学的な変化とそれに密接に関連した脳の細胞構造的な変化が判りましたが、その分子的メカニズムを研究
していくと脂質だけではなく、膜の表面に出ている糖鎖も変化があることが判りました。これは、様々な細胞代謝系が互いに影響しあっていることを示していま
す。また学習行動の基本にあるシナプスの機能では、シナプス活性化の比較的初期に様々な脂質の分解と合成の系が回りはじめることが判ります。
こ
のように、分子メカニズムを詳細に理解するには、どうしても時間軸に沿って詳しい分子機構が分かってこないといけません。そして、様々な分子の空間的時間
的相互作用を全体としてシステマティックに理解していかないと、本当の理解へ、さらには本当に役にたつ研究へはいくことはできないと思っています。
私の研究室では、脳の生体膜構成分子から学習行動まで、新しい解析手段を開発しながら、膜脂質と糖蛋白質糖鎖の研究を軸にして様々な機能発現のメカニズムの
理解へと進んでいきたいと思っています。
(4)赤外分析法による新しい診断技術の開発について(〜2002年頃まで)
(以下の図は1999年8月のICOFTS国際会議のシンポジウムセッションで発表した内容の一部です)
私達は、赤外分析法を上で見たような生化学的な分析法として使って来ましたが、特にフーリエ変換赤外分析法はパワフルで、体の組織そのものを非破壊的に測
定することに使うこともできます。これを人で体の中の脂質や糖の量の変動を、採血など体を傷つけること無く、非侵襲的にみることができるような、臨床診断
装置として開発しようとしてきました。
図1。
この図は、実際私自身の口腔粘膜をそのまま測定した時のスペクトル(赤外全反射測定法による)です。はっきりと粘膜の蛋白質や、リン脂質、糖鎖などに関係
した特徴的な赤外吸収を見ることができました。
どのように口腔粘膜を測ったか、といいますと、それには特殊なアダプターを開発する必要がありました。
下の絵がその私達が開発したアダプター部分です。
図2。これは、第1世代とよんでいる
最初に設計して作ったもので、図の中のZnSeロッドとあるところを唇でくわえ粘膜部分を押し当てて、数十秒間測定するだけなのです。この操作での安全性
も確認済みです。
図
3。このシステムでいろんな人を測定し、その人の血液を採取して血液中の中性脂肪(ここではトリグリセリド)の量と赤外スペクトルのある種のピークの大き
さを比較した所、良く相関するところがあることが判りました。これをつかえば、ある程度その人の中性脂肪値が高いか、どうかを判断できます。
図
4。これは同じシステムを使って、人の血清を一滴だけ載せて測定した例で、これでも血清中の蛋白質や脂質、糖等に関係したバンドを見い出すことができま
す。ただし、血清中のグルコース量(いわゆる血糖値)との相関を調べましたが、余り良い相関にはなりませんが、ある程度の傾向はわかります。人の年令や男
女差に由来する血清成分の違い(蛋白や脂質もふくめ)が小さな糖由来のバンドに影響してきれいな相関が見られない、と考えています。しかし、同じ人の時間
経過等では小さな変化でも比較的良く観察できるようです。だから、このシステムを血糖値の変化を見る手段として使う場合は、マススクリーニングとしてより
も個人の経時変化を見たほうがより信頼性のあるデータがとれると思います。
図
5。このように研究段階では臨床診断にも使えるシステムなのですが、実際はもっと小形の(今は装置自体が大きく、持ち運びは困難)赤外分析装置を開発しな
ければなりませんし、それができたらアダプターも、さらに解析プログラムも簡単に信頼性のあるものを開発していかなければなりません。やることはいっぱい
あります。それも、いろんな分野(医学、介護医療、工学、情報学など)との協力があってはじめてできるでしょう。これができたら、「パーソナル化しネット
ワーク化した測定装置」として家庭にも医療施設にも使えるようになるのでは、と期待を込めて開発を続けていきたいと思っています。
カレントトピックス (一時停止)
関連領域の論文情報などを拾い集めて載せていきたいと思います。
(1)N-3脂肪酸と脳に関して(1999.1.1〜1999.12.31,checked at 10
June)
(2)N-3脂肪酸と脳に関して(2000.1.1〜2000.4,checked at 6
June)
(3)N-3脂肪酸と脳に関して(2000.4.〜2000.11.)providedby
MedlineWorkbench mailing service.
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