網羅的生体研究と医用工学
2002.7.11
(以下には、スライドの中の主要な語句のみを掲載します。講義自体はVTRに保存されていますので、必要であればコンソーシアム事務局に連絡してください。閲覧方法などの指示があると思います。)
網羅的とは
?
- 空間的階層性とネットワーク性でとらえること
- 時間軸で
- これらを体系的に相互に関連付けながら理解すること
多彩な網羅的研究
- 人・多様な生物のゲノム
(genome)・プロジェクト(遺伝情報の総体) −
DNA 補足:
Kihara, H. Genom analyse bei Triticum und Aegilops.
木原均:生物が正常な生活機能を維持するために必要な最少単位の染色体セット
(1930)
- 生物のトランスクリプトーム(
trans-criptome)
・プロジェクト−mRNA
ポストゲノムの
網羅的プロジェクト
- プロテオーム(Proteome
)プロジェクト −タンパク質
- グライコーム(Glycome)
・プロジェクト −糖鎖
- フィジオーム(Physiome
) ・プロジェクト −細胞から個体まで機能総体
(メタボロームなども)
生命現象の抽象化・情報化
記号化・・網羅的解析の基本
生命情報の取り扱いを容易に
忘れてはならない視点1
- 生き物は、遺伝子と蛋白だけで、できているわけではない。
- 「生命は具体的である」
忘れてはならない視点2
- 「生命を記号・情報理論的に捉える」(例:ゲノム・遺伝情報の総体を、
A-T-G-C
の配列という記号で捉える)けれども…
- 背景には、核酸やタンパク質という具体的な化学物質があり、
Wetな環境での物質間相互作用
があること
- これはあらゆる生物
で30数億年
続いていること
- 生命は「非線形系
」であること(
Inputが2
倍になってもOutput
は2倍になるとは限らない;
mRNAが2
倍に増えていても対応するProtein
が2倍になっているとは限らない)
人や多様な生物のゲノム解析プロジェクト
- 人の場合、約30億塩基対の配列と注釈(遺伝情報の総体)マッピング
- タンパク質をコードしている人の遺伝子の数は3〜4万個(しかない)
2001.2.15~16 発表のドラフトシーケンス
(配列)から
- バクテリア、酵母、線虫、ハエ、シロイヌナズナ、コメなどのゲノム構造が明らかに
- 今後も、チンパンジー、豚など有用多様な生物
ゲノム情報を生かすために
cDNA
チップ、完全長cDNA
マイクロアレイ
- 一塩基多型(SNP
s)ライブラリ構築
- タンパク質−タンパク質間相互作用データベース
- 新しい配列(シーケンス)決定技術(より速く正確に、高感度に、大量に
…)
現在の主戦略 プロテオームへの
期待
- すべてのタンパク質の構造(1〜4次構造)と機能、相互作用を網羅的に明らかにする研究プロジェクト
- 狭義では、2次元電気泳動法などによりある種の細胞・組織からタンパク質を分離し、質量分析法などにより1次構造を、さらに
NMRやX
線結晶解析により立体構造(3〜4次構造)を明らかにするプロジェクトのこと
HUPO
「人プロテオーム機構」
も発足
バイオ・インフォーマティクス
Bioinformatics
- 情報科学から生命科学への貢献(
IT→
Bio) - ツールとしてのコンピュータおよびネットワーク技術
- データベース(
DB)構築、検索しデータを抽出するための情報(ソフトウェア)技術
- ボランティア精神、オープンソース化(
linux
など) - フリーソフトの普及(
http://bio.perl.org/
など)
現在活動しているデータベース
- DNA
の塩基配列DB
、タンパク質のアミノ酸配列DB
、ペプチドの質量スペクトルDB
、タンパク質の3
次構造(原子座標)DB
、タンパク質の2
次元電気泳動パターンDB
、代謝反応系のDB
(KEGG)、化学物質構造・スペクトル
DB、疾患DB
、脂質DB(
Lipid Bank)など(インターネット上に) - データベースサーバーを運用しているサイト(
GenBank
、EMBL、
PDB、ExPASy
、GenomeNet
など)
代謝
DBとバス路線図
酵素は、数字で意味の違いに分類される
E.C.(
Enzyme Code)
1.
-. -.-
Oxidoreductases.
1. -.-
Acting on the CH-OH group of donors.
1. 1. 1.-
With NAD(+) or NADP(+) as acceptor.
1. 1. 2.-
With a cytochrome as acceptor.
1. 1. 3.-
With oxygen as acceptor.
1. 1. 4.-
With a disulfide as acceptor.
1. 5.-
With a quinone or similar compound as acceptor.
…
2. -. -.-
Transferases.
3. -. -.-
Hydrolases.
4. -. -.-
Lyases.
Boehringer Mannheim "Biochemical Pathways" wall chart
細胞内情報伝達系の関係地図の一部
バイオ系データベース
バイオ系データの形式(
XML)例
網羅的(な意気込みでの)生体研究?
人や他の生物をまるごと理解しようという壮大な挑戦!
- 突き当たる問題点・・その複雑性の巨大さ
- タンパク質などの生体分子の構造と機能の総体、そしてそれらが細胞内小器官から個体までの階層で時間的空間的に相互作用する機能の総体
… ・・途方もない複雑さ
- しかし生体はその複雑さを「抱えて」当然のごとく生きている
マッピングと網羅的研究
〜地図とガイドブック〜
人体の網羅的研究で
その複雑性を理解し、人間に役立つように「使いこなす」には?
- 実は医用工学の中心的テーマ
- 情報科学・計算機科学との連携が必須
- モデル化とシミュレーションが複雑性の理解のために必須のステップ(
Physiome project)
- データベース化(様々な階層の医学生物学的網羅的情報の統合)
- しかし計算機で超複雑性を解明できるだろうか?
「複雑な病気」の理解
複雑な病気の原因には、多数の遺伝子が関与し、環境要因も関与する
医用工学の領域
- 医学や医療の進展(病気の診断、予防、治療)に工学的に寄与するための融合的分野(
ME)
- 電気電子工学的分野から
- 機械工学的分野から__
- 情報工学的分野から__
- 化学工学的分野から__
- 計測工学的分野から__
- 生命工学的分野から__
Physiome
(フィジオーム)
プロジェクトの紹介
Physiome
プロジェクトの目指すもの
- コンピュータ上に、実際の生命現象の機能モジュールのモデルを構築すること。
- 人を含む生命体の in
vivo, in vitro, in silico での実験を可能に。“
In silico human”
- In silico
生理学実験、創薬デザイン、副作用予測、診断治療支援ロボットの開発、低侵襲手術支援などへ繋げる。
Visible Human Project
The complete male data set, 15 gigabytes in size, was made available in
Novermber, 1994.
Physiome
とIT
- ゲノム解析では配列などのデータベース化とコンピュータ解析(
Bioinformatics
)が中心的役割を果たした。 - Physiome
でも、コンピュータ技術とネットワークの基盤が重要。 -
Physiome
の領域は階層性に富み膨大、多くの研究者の共同作業が必要。 -
臓器ごとの
Physiome
、心臓など。
経済産業省・産業技術総合研究所の
中期目標
ゲノム情報利活用技術及び有用蛋白質機能解析、有用遺伝子探索と機能性生体分子創製、脳科学技術(脳機能解析・脳型コンピュータ)、分野融合的課題(情報認識変換分子システム開発など)
生体機能代替技術、医療診断・治療支援機器開発技術、福祉機器開発技術、生体ストレス・人間特性計測応用技術
人体を
in vivoで計測する技術の発展の重要性
(例
)
- MRI(核磁気共鳴画像化法)とf
MRI(functional/
機能的MRI)の紹介
- 光による計測法の紹介
f
MRIの原理と応用
- 機能(活動)している脳の部位を特定する。
- 活動している細胞組織は酸素要求量が高く血流量が増え酸素化型
Hbがその周辺で増大
- 酸素化型(反磁性)−脱酸素化型(常磁性)
Hbのバランスの変化が磁場環境の不均一をもたらし、
MR(水のH
水素核の核磁気共鳴)信号強度が変化する。
f
MRI技術に見られる知識の融合
- ヘモグロビンの代謝、酸素化−脱酸素化(生化学)
- ヘム鉄の磁性の変化(生物物理)
- NMR
/核磁気共鳴(物理化学) - 画像処理・解析(情報工学、数理工学)
- 磁場発生装置などハード(電気・電子工学、機械工学)
- 酸素代謝、人体の機能(生理学、医学)
- 臨床診断(医療)
光
CTの原理と応用
光
CTやfMRI
により、生きたままで、生体内の細胞組織の活動・変動を測定でき画像化(マッピング)できる。
Human Brain Project
Neuro-informatics
脳での遺伝子発現の画像化
アルツハイマー病との比較、3D
表現
体の表面(皮膚と粘膜)の計測
- 皮膚(表皮と真皮)約3
Kg、1.6
u(最大の臓器;肝臓は約1
〜1.5Kg、脳で
1.2〜1.4Kg
)
- 体内の情報を皮膚や粘膜から計測する方法の開発
- 皮膚や粘膜の状態は血液成分や体の状態に影響され体内情報を反映する。
口腔粘膜の多くの成分を光で計測
- 非侵襲的測定法
- フーリエ変換赤外分光法と
ATR(全反射)計測法を利用
- タンパク質、脂質、糖質などが高感度に計測可能
- 高脂血症などの予測
口腔粘膜の測定からわかること
- 日内変化(日内リズム)
- 血液中トリグリセリド(中性脂肪)との相関
構造の変化と化学的成分(機能)の変化を網羅的に研究すること
複雑系としての人間を理解し、健康の診断と病気の予防、治療に貢献できる工学的知の戦略
〜まとめ〜
- 情報技術の発展を基盤に、人間や生命体を網羅的(体系的、統合的)に理解しようとする努力
- モデル化、シミュレーション、モジュール同士の関係、ネットワーク解析
- 「モジュール」自体の構造や働きに関して詳細で定量的な、地道で、
wetな研究が重要