
若井研の提供するエネルギー・環境問題入門
(実は、このテーマが若井研の得意とするフィールドなのです。なのにまだ
一部しか完成しておりません、徐々に充実させますのでご期待ください。)
7.環境対策型自動車技術
自動車の燃費改善率は、1980年代半ばが最も良くなっています。大気汚染が深刻になってその対策のため1970年代後半から1980年代初頭に一時的に加速度が落ちたものの燃費改善の動きは二度の石油ショックの洗礼を受けて1980年代半ばには最高となります。しかし、その後「消費は美徳」という環境問題に逆行する一部(実はほとんどではないかと思う)経済学者の薦めも手伝って買い換えが進み、それが一巡して需要の伸びが一段落すると、メーカは次なる作戦としてそれまでとは打って変わって大型化を試み、燃費は悪化し始めました。バブルがはじけて「大きいことは良いことだ」という構造がつぶれ始めると、今度は RV をそそぎ込み始め、バブル崩壊に遭遇したとき働きすぎて得たものと失ったものを潜在的に比較して、精神的な嫌気がさしたと思われるが、また環境・環境と騒がしくなって自然を求めてか、国民が余暇を有意義にという心理(先進国病とも言う?)に適合したのか好調に売れ、自動車産業の国内販売は息をついたのです。しかし結局 RV 車の燃費は良いはずもなく、平均的には当然のように低下を続けました。少なくとも、自然を求めるはずの RV は人類に良い環境保全には逆行するものであることを、認識しないままに。RV もそろそろ頭打ちというときになって、メーカは今度は環境を持ち出しはじめました。それは、メーカの利益追求の姿勢が根本にあることであっても、将来を考えれば迎合すべき姿勢ではあります。米国が主導する、燃費3倍作戦が以下のようにメーカーに浸透し、二度目の燃費改善速度のピークが来る可能性が高くなってきました。
日本は、1995年、「2000年までに公用車の10% を低公害車とする」という閣議決定を行い、メーカの低公害車開発意欲をそそる政策を打ち出しました。さらに、環境庁は1996年「低公害車ガイドブック」を刊行、自治体に現在購入可能な低公害車リストを送付しました。同年、「第13回国際電気自動車シンポジウム」が大阪で開催され、LEV、ZEVの機運を一気に高めました。それまで環境庁は電気、天然ガス、メタノール、ハイブリッドカーを「低公害車」と定めていました。1998年6月26日、環境庁の「低公害車等排出ガス技術指針策定調査検討会」は窒素酸化物、炭化水素などの排出量が一般の自動車より少ない車を新たに「低排出ガス車」と呼ぶことを決めたのです。
政府はさらに、'99年5月、燃費が良ければ税額を低くする自動車税の三案を提示しました。
- すべての自動車の税額を燃費だけに比例させる完全燃費比例型
- 基準となる燃費を設け、その基準より燃費が多い少ないに応じて税額を変える「付加・軽減型」
- 自動車のクラス別に基準燃費を定めて税額を燃費に比例させる「折衷型」
自動車メーカは燃費だけで税に反映すると、NOx 対策などがないがしろになりかねないと、これに強く反発しているのでどうなるか先行き不透明ですが、これが通る環境は整いつつあります。その後の動きを以下で読みとってください。
こうした流れの中に、低排出ガス車のうち、ハイブリッド車と電気自動車には普及補助事業が発足しています。ただし、私は個人的には、主旨を知らないから間違った見解かもしれませんが、ちょっと気になる条件だと思っています。
ここで、低公害車について、まとめてみよう。
低公害車の性能比較
(ガソリンエンジン車の性能を基準に相対比較し、
排出抑制や浄化性能に優れるものには、◎,同等は○,劣るものは▲)
| | 窒素酸化物 (NOx) | 炭化水素 (HC) | 粒子状物質 (PM) | 二酸化炭素 (CO2) |
| ガソリンエンジン車 | − | − | − | − |
| ディーゼルエンジン車 | ▲ | ○ | ▲ | ◎ |
| 圧縮天然ガス(CNG)車 | ○ | ○ | ○ | ◎ |
| ハイブリッド車 | ○〜◎ | ○〜◎ | ○〜◎ | ◎ |
| 燃料電池車 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| 水素自動車 | ○ | ◎ | ◎ | ◎ |
さて、アメリカでは強烈な政策を発表したにもかかわらず、日本車の環境技術に追いつくことが難しく、その矛先をかわすかのように SUV へシフト(SUV への規制は一般車より緩かったのでそこをメーカーが突いた形)するメーカの動きがあり、消費者も追従していました。これではせっかくの LEVやZEV政策も反古にされそうなので、 クリントン大統領は SUVへの規制も強めることにしました。まだ 大型車への動き が続いており、北米モータショーでは日本メーカーも大型車攻勢を続けようと言うところもありました。米車の中には環境対策が進んで同じ北米国際自動車ショーで 30kmカーも登場しました。その後、大型車では NOx などの規制が乗り切れないところからせっかくドル箱になっている SUV(Sports Utility Vehicle) の生産を縮小しようという作戦に出る会社もあり、景気が好調で燃費を気にしない国民性からメーカ自らが脱却しようとしていました(2000年頃)。日本では、環境に良い車は今のところハイブリッドカーや電気自動車であり、それらは高嶺の花、かといってさらに進化すべき燃料電池では庶民には全く手が届かないだろうからという状況にあります。そのハイブリッドカーは当初トヨタだけ(1997のプリウス)であったのが、ホンダがインサイトを発売し、つづいてトヨタがエスティマ、クラウンと続け、さらにホンダがシビックを出しています。日産も出してはいますが、表舞台には遠い状態(ティーノハイブリッドを100台限定発売)。マツダや富士重工も続々ハイブリッド参入の意向を表明し、さながらハイブリッドは日本の独壇場状態(2002年) にあります。もちろん、米国もプリウスが投入され、ハイブリッドが勢いづいて来て、無視できずに日本から完成した技術導入することにしました。米国は、もともと電気自動車で日本に攻勢をかけたかったのですが、大容量電池の開発が思ったように進まず、燃料電池が有ったではないかとシフトしました(本当のところ、企業は投資が大きすぎてやりたくないのですが、加州の LEV,LEVを販売数の何パーセントと言われると、どうしてもやらざるを得ない )。ハイブリッド車は中途半端ということなのでしょうか。欧州メーカーも同様だったと思いますが、最近ハイブリッド発売の話が欧米でも出て来るようになりました。
燃料電池車は市場投入一番乗りを巡ってダイムラークライスラーとトヨタなどが発売予告競争を演じましたが、2001年には 2002年にダイムラークライスラーがバス発売を前倒しと発表する(このころ乗用車は相変わらず 2004年としている)。一方、三菱はダイムラーと提携して 2005年に量産と発表。小型になると難しくなり、スズキは GM と組む と発表しています。
そうこうしながら、トヨタは乗用車発売を2003年と発表、舌の根も乾かぬ2002年7月初旬にはついにトヨタが先行して 2002年中に30台をリースで日米(米は加州)で発売を開始すると発表。今(2002年8月)のところ、ダイムラークライスラーの動向は伝わって来ていませんが、それに呼応するかのようにホンダも 2002年発売とし、日産も 2003年に発売と予告するなど、ハイブリッドカーのみならず、燃料電池車までもが日本の独壇場になろうとしています。ただし、トヨタを除き、ホンダも日産も燃料電池は他社のものを購入するとしていますから、純国産ではありません。心臓部は、おそらくバラード社に依存することになるでしょう。バラード社は、燃料電池を販売しても分解するなどは厳しく禁じていると聞きます。秘密の漏洩を極端に避けようとしているわけですが、事故などが発生したとき、責任の所在を明らかにする場合は障害にならないとも限りませんね。
そのバラード社が、2002年11月初めに日本での販売攻勢をかける場合、家庭用を先に普及させるニュアンスのことを言い出しています。それも機器個々の動力源としてのようです。数年前は、どのメーカーというわけではなく一般論として、自動車用を開発・普及させるには家庭用(一般電力)と一緒にという印象でした。それは、大量生産にしてコストを下げるためというのが大きな理由に挙げられていましたが、実際には、自動車用は家庭用とは似ても似つかない大きな障害があるのです。その一つが、後述しますが体積あたりの出力です。さらに、耐久性なども大きく条件が変わってくるでしょう。そして、日本ではほとんどの地域が冬の室外気温は氷点下を記録しますが、凍結問題も残されているようです。が、それやこれやで家庭用で室内に置くタイプが先ということのようです。
その燃料電池の2002年内発売にトヨタ自動車の張社長が最初に踏み切ったわけですが、その狙いは何でしょうか?まだインフラが整わないのに水素を高圧タンクに詰めて走るタイプです。水素の供給施設が今のところないのです。価格も、1台1億円は優に超えると言う代物を 1千万円程度で売るとしています。事故などを考えて、リース販売ですが、実は、車をばらして部品にして売れば、非常に儲かるという状態と張社長の弁です。
もちろん、トヨタが環境を重視した車づくりでは世界トップであるというメッセージです。そのためには 1億円/台x30台=30億円程度の損失は安いものだと。もしそういうことなら、30台以上は売らない可能性もあります。数は増やしても、一定の損失以上は避けるでしょう。その損失に耐えているうちに大量生産ができるようになるでしょうか?もし月産1000台になれば 1台 1,000万円で生産ができるようになるとしても、それまでには 1万台ぐらいは売らなくてはなりません。すると1兆円の損失です。トヨタは黒字経営・借金無しで、3兆円ほどの資産があると言います。一台も車が売れなくても数年間は給料を払いながら持ちこたえられるというほど、健全すぎる経営です。それだけしっかりした経営をしているトヨタが、燃料電池にその 1/3を賭けるとは考えられません。生産性が上がってその 1/10程度に損失が押さえれらるとしても、1千億円の損失(年収1千万円の従業員を1万人1年間遊ばすことに相当する)です。これは全く安く見積もった話です。これでは部品メーカーなど、買いたたかれているメーカーは不満が噴出するでしょう。部品メーカーの利益を奪って燃料電池という賭博をやっていると。
ともかく、燃料電池車は普及するとしても時間がかかり、燃料電池研究者の集まる学会も、2010年に普及し始めるとしています。トヨタ首脳もそういう見解です。おそらくこの見解がマスコミなどに「信頼できるデータ」として使われているように思います。でも、当の研究者ですから、予算的獲得的配慮による政治的発言もあれば、自分で取り組んでいるからこそ、真にそう信じている、ということもあります。一方のエンジン技術者の多くが、普及するにしても2010年には無理、という見解のようです。私は、もっと悲観的に見ています。以下のような理由です。
一方で、一般には中継ぎ程度に考えられているハイブリッド車の開発は着々と進み、プリウスは2代目で、初代燃費28km/gから 35.5km/gと2割もアップ。エスティマ、クラウンと種々の車種に別方式のシステムで投入し、市場調査を行っている(と私は見る)。今後も車種をどんどん増やすとしている。現状では、トヨタもホンダも、ハイブリッド車は結構値段が高い。車の寿命中に節約できるガソリン代は多くの場合それに叶わない。これでは客は付かない。現状では、政府、自治体や環境に意識が高い企業、あるいは個人が顧客。これからどれだけ価格を低くし、性能をアップし、顧客を確保するかが課題。それが燃料電池車の将来性を計る尺度にもなるはず。しかし、実は、燃料電池車はハイブリッド車に比べてそれほど燃費が良いわけではない。価格が高く、燃料が不便となれば、顧客は付かない。
そんなことは張社長は百も承知。したがって、張社長の狙いとは、「幕引き」。そこまで行かないまでも「第一幕終了」宣言。第二幕はいつ開くのか未定のまま。これはもちろん、若井個人の勝手な推測で、当たる確率は 30%程度と見ます。本当は50%ぐらいと言いたいところ。この話を、燃料電池にもエンジンにも近い企業の上層部の研究者にしたことがあります。すると「先生もそう思いましたか?私も、2002年発売のニュースを聞いたとき、なぜそんなに急いでと一瞬思ったけれど、その心は先生の考えていることと同じことではないかと思ったのです」と、相づちを打たれた。案外、そうなのではないかと思う。それが当たるか外れるかは別として、燃料電池車がシェアーでハイブリッド車を引き離すことができるか、となると、相当まだ紆余曲折があると思われる。化石燃料が無くなったら、水素を使わなくてはならないのだから、燃料電池が優勢に立つ、と思われるかも知れませんが、以下に説明するように、日本では下火になっている水素エンジンも欧米で開発が進められています。また、自然エネルギーの中のバイオマスからはメタンを作るのが効率的です。つまり、水素一辺倒ということにはならないのです。
といういうようなわけで、日本においてかなり長期にわたって、燃料電池はハイブリッドカーや電気自動車以上には売れそうにないことは明らかです。以下のようなデータが示しているのです。すなわちトヨタ、ホンダのハイブリッド車が飛ぶように売れているかというと、そうではありません。上述のように低燃費で車の差額をあがなえる程安いわけではないからです。ハイブリッド車はせいぜい50万円高です。燃料電池車はどう考えても、大量生産ベースに乗せてもこれより圧倒的に高いでしょう。つまるところ、現代人がガソリンなど燃料を余りにも安く使っているので、余分な(?)お金をはたいてまでそういう製品を買おうという状況には無いのです。
ここでちょっと、急に今までの議論をひっくり返すような話を持ち出し済みません。上述でトヨタは燃料電池車をリース販売、一台1千万円と記事がでましたから、てっきり1台1千万円として話をしてきました。ところが 2002年8/23の中日新聞に、「愛知県が1台導入を決定、予算は月に 約200万円で向こう 30ヵ月」とあります。ということは、愛知県は 30ヵ月 (2年半)で 1台に 6000万円ほど出費しようということに他ならないですね。確かにリース販売なのだから、生涯価格にはならないわけで、全くの早とちり。お恥ずかしい次第です(総合情報処理センター長もつとめて、計算機のレンタル・リースは十分すぎるほどなじんでいたのに、5年も経過すると焼きが回ってしまいました)。こういうことならトヨタはそれほどべらぼうな損ではありませんね。いつまでその価格でリースできるかわかりませんが。ホンダはカリフォルニア州と契約成立としていますが、価格は未公開です。恐らく、相当安く提供するのではないでしょうか。トヨタもまだわかりませんが、ある程度の台数の契約を確保するためには、相当値引きするでしょう。加州が、損してまで、支払う義務はないですし、一方トヨタもホンダも米国で十分儲けているのだから、燃料電池車の宣伝のためにわざわざ加州が(税金から)経済負担までして協力しようなど言うことにはならないと思います。いや、意外にそうではない見方もできるかもしれない。加州が実施する炭酸ガス規制に米自動車業界は真っ向から反対の姿勢を取っている。その米自動車産業の反対理由が「もしそんな規制をすれば、強度不足の日本車ばかりになり危険きわまりない」というようなキャンペーンを張っている。それに対向するために、燃料電池車は、ZEV が日本にできて米車にできないのは、やる気がないからだという州政府の反論のための格好の証拠物件になりうる。だから、加州は税金を突っ込んででも日本の燃料電池車を導入しても損はないことになります。
そうこう言ううちに、トヨタ燃料電池車が、首相官邸、環境省、国土交通省、経済産業省の公用車としてリース契約がなされ、1台 120万円 30ヵ月リースとなった。200万円/月 30ヵ月リースとしていた愛知県はこれによりどうなるのか、この時点(2002/11/20)では不明。
さて、一ヶ月のリース料で同程度の車が購入できてしまう車を、一体誰が購入するかということになります。が、国交省と経産省は 2010年までに 5万台計画をしています。そのために水素スタンドも整備しようとしています。が、大量生産ができるようになって相当割安になったとし、平均生産価格が 5000万円までさがったとしましょう。5万台ということは2.5兆円です。誰が買うかは別として、国民一人あたり 2.5万円です。すべてが政府か自治体が使うとしたら、4人家族が燃料電池車のために 10万円払うことになります。8年かけてですから、一年では 1.2万円ですが。これ以外に水素のインフラ整備費なども相当補助をしながらでしょうから、さらに払いが増えます。そこまでして、もし普及しないで今の電気自動車のようになってしまったら、誰がその責任を取ってくれるのでしょう。それでも環境にやさしいというのでしょうか。設備投資が無駄になれば、環境にも大きな負担を残すことになりかねませんね。
好対照でがんばっていると評価されるハイブリッド車を見てみると、トヨタプリウス発売以来 4年で 10万台です。値段は 200万円少々で、同クラスの 50万円高程度です。これは海外も含めての話だと思います。インフラには全く問題なくガソリンが使えて、この価格での話です。それも当然、公官庁を入れての販売数です。2010年まで8年で 5万台はそのハイブリッドの 1/4 の勘定です。が、価格が 2倍になっただけで恐らく購買意欲は落ち込むでしょう。水素スタンドがそこここには無いとしたら、なおさらです。
こういう政策は、きちんと技術力を判断できる人が入ってやらないと、扇動的な動きに振り回されてしまいかねません。
燃料電池車に文句ばかりつけている、と感じられるかもしれませんが、スターリングエンジンや電気自動車の例があるから、そう思うわけです。今のフィーバーぶりはそれらの数倍かもしれないのに、どうも期待が大きすぎると思うのです。
その一つの証拠と言いますか、私は実は知らずに信じてきたことで、実は違っていた燃料電池車の姿があります。燃料電池車は、ご存じのようにそれ自体からは水しか放出しません(当面の水素積載方式なら)。メタンから転換するにしても、転換時の排気中 NOxは無いわけで、排気はクリーンというわけです。さらに長所は、自動車用の燃料電池は内燃機関よりずっと効率が良いというものでした。ところが、2002年10月中頃に発表されたホンダの燃料電池車のスペックから計算すると、同じエネルギーでは同クラスのハイブリッド車のほぼ半分しか走れないのです。実はもっと少ない可能性もあるのです。そして燃料の水素を作るためにさらに多くのエネルギーを投入しているのです。トータルの燃費は、従来のガソリン車よりずっと低い可能性があるのです。これが 2010年にどれだけ改善されているか、ですが、ホンダの燃料電池車はバラード車から供給されているものなので、世界的にも歴史的にも完成度の非常に高いもののはずです。
燃料電池車に深入りしすぎてしまい、下の燃料電池車の節で書くことが無くなってしまいそうです。
それでは、次へ移りましょう。今後、IT技術がさらに発達史、交通体系にもそれが一層深く入り込めば、社会全体としての燃費は上がると言えましょう。その期待は、ITS(Inteligent Traffic System)に稿を譲ることにします。
さて、欧州では炭素税を課そうとしており、日本でも企業が炭素税に前向きになってきたことが徐々にそういう車を受け入れる気運を高めているともいえます。表に、税のグリーン化への取り組みについて、欧州の例を示します。
税のグリーン化への取り組み例
| ドイツ | 1997年から自動車保有にかかる自動車税に対して、低燃費乗用車は軽減、それ以外の乗用車は増税 |
| デンマーク | 1997年以降に登録された乗用車については、自動車の保有にかかる重量税に代わって、燃費に応じて税額が決まる燃料税が導入された |
| オーストリア | 1992年から自動車取得にかかる登録税を取得価格の12%から、燃費に応じた税率に変更した |
| フランス | 1998年7月以降に登録された乗用車については、自動車の取得にかかる登録税や保有にかかる運行税を、従来の排気量などに代わって、CO$_2$排出量などを用いて算出する方法に変更した |
そして、燃料代に上積みすることを容認し始めました。たとえば、一番支持されている税率は 炭素 1トンで 3000円、したがってガソリンなど石油類は 1リットルでせいぜい 2〜3円。これだけ値上がりしても、果たして燃費の良いハイブリッドにしようか、ということまではなりそうもないですね。豪州では1050円/tonになりそうです。結局、ガソリン代が安すぎるということです。
というわけで、車についてはおそらく2割アップ程度が限度で、二倍となれば問題外ではないでしょうか?好例は、NHK のハイビジョンテレビです。なかなか普及が進みません。高画質はわかっているのですが、価格が数倍では大きな壁になってしまいます。
車など、交通機関いわゆる運輸部門として使用しているエネルギーは、日本では総エネルギー使用量の4分の1 に上ります。そのエネルギー源は今のところ電気自動車、天然ガス自動車などがほんのわずかで、割合としては無視できる程度ですから、すべて石油または液化石油ガス(LPG)を使っているといっても過言ではありません。そうなると、車から排出される炭酸ガス量が全体に占める割合は、上述した車の使うエネルギーの全体に対する割合より多いことになります(発電としては石炭も結構使っているので単純には言えないことになるものの、石炭と石油の場合の炭酸ガス発生比と、全体で炭酸ガスを出さないエネルギー資源使用量との割合を考えると、そういう結果になります)。
COP3 の国家公約を達成するために、'97年から産業部門のエネルギー使用量は確実に減った(実は、企業が努力した部分も評価しないわけには行かないものの、実質的にはアジア不況が日本にも大きく影響し、日本自身に起因する問題などで景気が低迷したため、生産活動がひどく鈍ったためというのが正しい見方、98年から少し回復基調であったしアメリカの好調に助けられた面もあって息をついていたが、00-01年にはそのアメリカ発の IT不況で裾野の日本の方が不況になった、、01秋には米同時多発テロで世界的にIT不況からの回復が遅れ、02年に米は回復したかに見え日本は構造改革という名で攪乱されたまま回復が遅れた状態が続いていますが、日本経済の欠点を突き続けた米国の成長株であり有望株と見られていたエンロンにつづきワールド・コムも粉飾決算、倒産という事態に陥り、結局米国も日本のバブルと同じであったのではないかと分析されています。そして、今後もそうした粉飾決算は他にも及ぶと予測されていました。だから日本は自国と米国の経済不振の影響をもろに受け、せっかく上昇しかけたもののぶり返してしまう可能性が高い)ものの、運輸部門と民生部門は相変わらず年率 2%程度の伸びを続けたのです。経済活動の健全さを大事というなら、逆にこれらの景気にはあまり左右されない部門が元気だったから、景気の低迷があの程度で済んだのだ、という見方もできなくはないのですが、エネルギー資源枯渇・環境悪化を憂うなら、景気の低迷という絶好機にも環境を最優先した社会構造に変革するなど、なんらかの改善がなされるわけでなく、相変わらず旧態然とした経済政策をとり続け、悪化の一途を辿っているということになり、またまた愚かさを露呈したということにほかならないですね。経済音痴の私がこう言っても、迫力はありませんが。
本来、工学は人類の生活を豊かにするために必要であったはずです。確かに豊かになったように見えながら、資源枯渇や環境悪化という人類が失った代償を考えると、決して手に入れた豊かさを喜んでいられる状況では無いはずであり、工学の求めてきたことでも無いはずです。それらの代償はまだ真の姿を顕著には表面化しておらず、ほとんどの人はその不便さを感じていないのですが、20年、30年後には確実にその不便さを感じるようになり、その頃には世代が交代してしまっているために、過去の愚かさを反省することはできず、単に一世代前の世を恨むだけという悲劇が起こることになるのです。
そういう人類の性(サガ)に対し、工学は呆れかえって、「これ以上の愚行をたしなめる意味で進歩を止める」のか、「一層努力して資源枯渇や環境悪化の速度を鈍化させ、ひいてはその心配を消し去る」のかという分岐点に立っていると言っても、過言ではないでしょう。答えは簡単ですね。今の成り行きを止める何者もなく、結局は経済原理にしたがって工学は一層励む以外に道はなく、表向きは資源枯渇・環境悪化に備えつつ実は一層それらに拍車をかけることになりかねない方向に進むのです。真にこの問題に取り組むとするなら、まず日米が協力して飽くなき経済の膨張を止めることです。いや、恐らく米国の国土は広く、資源も日本の比ではない量を誇っているうえに、世界の経済を引っ張っているという自尊心の大きさは、とくにブッシュ政権のそれは他国民の理解を超えるほどです。日本と一致団結してということにはならないでしょう。もちろん、ロスアンゼルスの自動車公害のように、はっきりとした症状が出れば行動は早いのがアメリカ。古い話で知らない人もあるかもしれませんが、有名なマスキー法がそれで、日本は完全に後追いになりました(これも、一方では正義感とか潔癖感とは違ったアメリカの国民性の一面を利用した結果という分析もあります)。ともかく、アメリカはあれだけ余裕がありながら、いや、だからこそかもしれませんが今の自分を大切にするようですから、先を憂うことには馴染まないのかもしれません。そういう意味では歴史の古いヨーロッパの方が、過去に多くを学び、将来を大事にするように思われます。日本と考えが近いはずです。だからヨーロッパと手を結ぶべきではないかと思われます。いや、アメリカも政権自体の考えと国民の考えは、ときとして一致しているわけではなく、京都議定書離脱問題をとっても、むしろブッシュ政権が国民から遊離していたという見方もあります。米国民を巻き込む展開を日本政府は考える必要があるでしょう。日本の首相は、是非欧州のリーダーたちと首脳会談を持ち、米国が経済原理だけで突き進むのを止める算段をすべきでしょう。
一方でブッシュ氏の言うとおり、もし単に京都議定書の目標をやみくもに達成する動きに出たら、世界は大恐慌に陥るという懸念は現実のものとなりかねず、なかなか政治家には難しい政策でしょうが、共産圏がこぞって政策を転換したあの大英断を、資本主義国も下さない限り、破綻に突き進むだけです。車屋さんは、そういう世界が間近に来ていると信じて、ともかくより環境に良い車を目指してがんばっているのだとエールを送って下さい。とくに日本の車業界は世界に誇れるのです。国家技術戦略検討会というまとめ(H12)を見てみると、以下で詳しく述べるガソリン直噴エンジン、リーンバーン用NOx吸蔵触媒技術、ハイブリッド自動車で世界を大幅にリードしており、燃料電池技術についても独自の燃料電池開発も世界トップレベルにあると分析しています。その証拠とも言えるのが、1997年を例にすると、自動車の技術輸出額が 3,462億円、同輸入額が75億円(対米でも、輸出2,100億円に対し、輸入額が27億円)と圧倒的に輸出比率が高くなっている(比率はもっと高まっている)のです。その好調が、自動車産業の一人あたり研究費が高額を維持し、4,000万円を超えていて、これは製造業平均の 1.5倍に達している(国立大学の技術系の一人あたり研究費は、この一桁以下でお粗末過ぎますね、余談ですが。一方アメリカの教授は、一人一億円程度は稼がないと優秀な大学院生を集められないと言う)。
上述したように、日本では全エネルギー消費量のうち 1/4 を運輸部門が占め、その約40%を自家用車、さらに約40%を大型車が占め、残り 20%弱を航空機や海運で使っています。すなわち、全エネルギーの 20%程度を自動車が使っているわけです。したがって、その効率を改善し、排気を浄化することにメーカや研究者は大きな責任を感じているわけです。また政府も、それ相応の対応をすべく学識経験者を集めて、よりよい車づくりのための規制や指導を行っています。
さて、そういう自動車産業にどうやってエールを送るのだ?とお思いですか。簡単なことです。燃費が上がったのだから、もっと車に依存しても大丈夫、などと決して思わないことです。環境によい車なのだから、無茶な走りでも環境は汚れないなどという走りをしないことです。良い車が出てきたからといって、すぐに乗り換えないことです。燃費をよく見せるために、行く必要もない長距離運転に精を出すような行動をとらないことです。寿命が来たら、燃費の良い車を選ぶことです。必要もないのに、燃費が良くなったのだから大きな車でも買おうかなどと思わないことです。ともかくトータルで、日本の運輸部門のエネルギー消費量が大幅に減ったという状況につながる努力をすることですね。
それでは、次世代エンジンとして資源枯渇・環境悪化問題をクリアーするために、車屋さんがどんな努力をしているか、紹介します。実は、車屋さんはご他聞に漏れず、残念ながら一般には競争原理の前には理想を追うことができず、上記問題に反するような車づくりに手を染めてしまいます。つまり、より力強く、より速くという要求に迎合するために、上記問題を切り捨ててしまうのです。上述した最近のアメリカでの SUVフィーバー、いや日本でも1980年代、何を血迷ったのかこの狭い日本で、カーメーカーが送り出した3000cc級の車攻勢に、ユーザは待ってたかのように迎合したのです。ともかくメーカーにとって、ユーザーは神様だからです。買ってくれない車を作っていては、会社がつぶれます。そうなると当然、環境は悪化の一途です。そこで残念なことですが、強制力を働かせてでも資源枯渇・環境悪化問題に立ち向かう車づくりに努力してもらわねばなりません。そのために、規制しなくてはならないという次第です。上述、悪名高いアメリカでさえ SUV に対して政府が苦言を呈しました。それなりに政略も有ると思われ、メーカーも早めに対処するということです。また、米国民全体が経済を前に環境を後ろにしているわけではなく、たとえば加州は炭酸ガス排出量規制をしようとしています。本来、エネルギーはブッシュ氏率いる連邦政府が規制し、大気汚染ガスは州政府が規制するという大原則があります。炭酸ガスはみかけ上、後者だというわけで、実質エネルギー規制を州レベルでやろうというわけです。加州はもともとマスキー法の原点となるロスアンジェルスのスモッグ問題発祥の地。それを考えれば、ブッシュ氏を差し置いてでも、車に対する温暖化ガス規制を行おうという意気込みです。日本ではどうでしょう? 取り締まり法案と対で成立させるはずであった住基法を単独で実行しようとする政府に対して、反旗を翻す自治体も出ています。是非政府に、環境あっての経済という視点で、厳しい注文をしてほしいものです。
メーカを規制しているに決まっている、とお思いですね。上述の長い前置きを考えていただければ、実はユーザーを規制していることにお気づきと思います。当たり前の話ですね。ここで2002年11月に判決の出た東京大気汚染訴訟について、触れましょう。これは、私の勉強不足で、ここでの私のコメントが原告の皆さんに迷惑な話になるかもしれないことをことまず断ります。新聞記事の記述どおりなら、原告の皆さんは1.道路および環境行政を扱う国すなわち国土交通省と環境省、2.道路管理者である東京都、3.排気ガスを出す車のメーカーを訴えています。3については、輸出車と国内販売車では排気基準が異なり、日本は輸出車より汚染度の高い車を売っている、すなわちダブルスタンダードだという言い分です。メーカーのとくに技術者は、自分たちが開発し自信のある技術について世の中に使って欲しいから日夜努力しているわけです。会社の首脳部でも同じでしょう。が、首脳部でも技術者でも、ユーザーが買ってくれなければ目的を達し得ません。良い技術には一般に価格がつきものです。技術開発はもちろんのこと、生産段階でも一般にコストがかかります。たとえばディーゼルエンジンの排気を浄化するのに、ディーゼルパーティキュレートフィルター(DPF)を装着すれば良いことはわかっているけれど、100万円高くなるとしたら、ユーザーは尻込みします。それが、もしある国では売れるとしたら、それはその国の環境規制レベルが厳しいからと言うのが大きな理由でしょう。結局、規制によってユーザーに高いものを買わせる国などの姿勢が無ければ、メーカーにはどうにもならないわけです。同じ環境規制であっても、ユーザーの意識が高ければ、たとえ値段が高くてもより良いものを買うことになるでしょう。価格だけではありません。メーカーは、NOx(窒素酸化物=NO, NO2, N2Oなどの総称) や PM を大量に排出する車を作ろうなど、思ってはいません。でも、同じ価格で NOx は少ないけれど馬力が相当小さい、という車は何もしなければユーザから簡単に見放されます。NOx は自分に直接影響しないけれど、馬力はもろに自分に効いてくるからです。これでは、世の中悪くなるばかりだから車を作る段階から規制して、そういう車しかユーザが選択できないような仕組みになっている次第です。。結局、東京大気汚染訴訟は、ユーザーの意識レベルが低いことを国が放置したということになります。いや国民はそんなこと思っていない、と言いたいかも知れません。でも、100円ショップなど、どうしてこんなに安いの?と思う価格破壊があらゆる製品に浸透してきています。そのコストダウンの一つの重要な要素に流通の価格破壊があります。これは排気問題とともに人の命にも関わっている問題ですね。私を含め、なぜこんなに安いのかと時には不思議に思いながらも、いざ購入する段階ではそういうこととは別のスタンダード意識がはたらき、結局より安い物を求めているわけです。これは、いいがかりと言われるかもしれませんが、沿道住民の環境悪化を深刻にしているわけです。そういう安いものを買う影にそういう犠牲者が居る、本来、救済などという言葉はその犠牲になっている方達にとっては不遜なのですが、それでも犠牲になってしまわれた方に対してわれわれができるのは救済です。その救済をどうするのか、となると、私たちが味わってしまった 100円ショップなどのありがたさに隠れた不法な取り分を、税金として戻す以外有りません。扇国交相は、50m以内の沿道住民は全国で120万人に上るからとても判決は認められないと言いますが、どれだけ犠牲者が多かろうと、被害が有ったと認めるのなら、そうした税金を使うことは当然のことですね。こういいう考えを持った方が国交省大臣を務めて居られるようでは、不当に犠牲を強いられる国民は泣き寝入りという政治途上国以前の国になってしまいます。
話が偏りましたが、国が正常に機能していれば、こうした規制は国民を規制するのです。
昭和53年('78)ガソリン車は NOx 排出量が未規制時の10%以下になるような厳しい規制を受けました。これにより生き残った方法は、理論混合比を用い、排気再循環により燃焼温度を下げて NOxを低減させる燃焼をさせた上、三元触媒により NOx、CO、未燃炭化水素を同時に低減するものです。
というわけで、まず、HC(未燃炭化水素)、CO(一酸化炭素)、
そして NOx(窒素酸化物) です
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メーカーはこのような厳しい規制に合致するように開発を進めてきたし現在も進めていますが、開発・耐久性・安全確認などを調べてやっと市場に出るため、あるいはものによっては当初見通しが立ちにくいものもあるなどですぐに規制することはできず、短期目標と長期目標に分けることで、答申から規制まで10年を要したものもあるのです。
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ちょっと待って下さい。CO, HC, NOx, PM はどのように発生するのですか?
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そうでしたね。発生メカニズムがわからないと、どうしてエンジンが悪いのか、どうしたら防げるのか、どこまで規制ができるのか、わからないですよね。
全体としてまず理解しておいていただきたいことがあります。化学反応としては、水素が一番早く酸素と化合しようとする、次が炭素、最後に窒素だということです。だから NOx は水素の燃焼と比べると非常にゆっくり生成されるのです。まず CO ですが、本来は CO2になるべきであったのに、酸素が不足したから発生したということはおわかりですね。ですから、酸素不足の燃焼条件がどこで起こったかです。
もともと混合気中の酸素が不足したため発生
酸素は充分あったのに、燃料が気化する余裕が無いまま燃焼が終わってしまったため発生
同様に、燃料が壁にくっついて酸素とめぐりあいにくくなっていたが、ピストン運動でのんびりと気化したころには、充分燃える時間が無かったから発生
気化も充分酸素も充分だが、燃料が薄すぎて燃焼温度が高くならず、燃え残りの燃料が高温ガスに接して中途半端に反応が終わった部分で発生
という具合です。
1. は燃料がリッチにならないよう、必要な空気量を確保して混合するよう努力すれば良いのですが、加速時、負荷が高い割にピストンがゆっくり動くと、ピストンは高温ガスに高圧で長時間(と言ってもエンジンにとっては長い時間であって、人の感覚からはあっと言う間のことです)さらされるので、焼けそうになります。それを防ぐため、昔から燃料を余分に出してその気化熱で冷やしています。そのため、その時期には一酸化炭素が出る可能性があります。今は電子制御で燃料コントロールしますので、こういうことは最小限になるようコントロールされているはずです。
2.は加速時にやはりおこりやすいのです。燃料の気化は空気中への霧吹き効果で行われますが、加速時は燃料が多量に吹き込まれるのに、ピストンはゆっくり動き、それに連動して空気もゆっくり運動していますから、霧吹きした後空気との混合が進みにくいわけです。これも電子制御されるようになってからは、非常に少なくなっているはずです。2.はさらに、シリンダー壁面で起こりやすいものです。シリンダー壁面温度は潤滑の必要性から冷却水により 200度以下に抑えられていますから、その壁面近くに有る混合気温度もそれに近い温度にあります。すると、その近くまで火炎がやってきても、非常にシリンダーに近いガスは熱くなれないので燃えることができないのです。でも、加熱はされるので、一部燃えようとしながら充分燃えることができず、CO までで反応が終わるものがあるのです。
3. は、ピストンとシリンダの間の隙間、とくにピストンリングの有る部分の隙間に燃料が液体のまま残りやすく、それが排気バルブが開き、圧力が下がり気化しやすくなるとともに排気行程で排気管に行くのですが、まだ燃焼後のガス温度は1000度程度あり、そこで燃料が不完全燃焼すると CO ができます。
4. は、たとえば希薄燃焼で温度が高くならないため燃焼速度が遅くなるのを防ぐため、吸気管やバルブを使ってそれらを通過するガスにねじれや速度を与えて乱れを発生させます。それが行き過ぎると、逆効果で燃えにくさが増すところとなり、高温ガスにさらされたところだが一部燃焼しかけて不完全に終わることになります。すると CO が発生するわけです。
一酸化炭素(CO)は、燃え残りとして同様に発生する水素と比べると圧倒的に燃焼する速さが遅いので、ピストン膨張中にたとえ酸素が近くにあっても、充分 CO2 になれないことが起こります。
つぎに HC です。燃料になる炭化水素は、本質的に高温で不安定で壊れます。つまり熱分解します。燃焼がうまく行けば熱分解を繰り返して酸素と結合しやすい段階で酸化し、最後には水と炭酸ガスになります。ですから本来発生しないはずのものです。ところが、中途半端に高温になると、発生します。この化合物が炭素と水素の集まりからできていると、総称で未燃炭化水素と言います。一般にいろいろの化合物ができますから CmHn などと書くこともあります。燃料そのものも含まれるわけです。Hと Cだけの化合物としてではなく酸素と中途半端にくっついたものも出てきます。こういうものは酸性で、排気管などを腐食します。未燃炭化水素 HC あるいは CmHn は、CO と非常に似た条件で発生します。
燃料が気化する余裕が無いまま燃焼が終わってしまったため発生
同様に、燃料が壁にくっついて、ピストン運動でのんびりと気化したころには、ピストンは下死点近くに来ている、あるいは排気行程になっていて温度が低くて、熱分解程度はできても CO や CO2 になるまでの反応はおきない
難関 NOx はどうでしょうか? NOx と言っても、NO2 とNO では生成メカニズムは違います。まず、NO について見てみましょう。一般に、
- 燃料中の窒素分が燃焼するときに NOになる(fuel NO と言われる)
- 炭化水素燃料が炎の中で熱分解しながら順に炭酸ガスや水蒸気になってゆく段階で、酸素不足の条件では炭素と窒素のある種の化合物が生成され、それが最終的に NO となる (Prompot NO とか、このメカニズムを最初に取り上げた人の名にちなんで Fenimore NO とも言われます)
- 窒素と酸素が充分あって、温度が高いときにできる(Thermal NOと言われる)
このうち、内燃機関で発生するのは最後の Thermal NO です。1. は燃料中に窒素が無いから発生しません。2.は、せいぜい 20ppmのオーダーですから、3. と比較にならない量です。さて、内燃機関でその Thermal NO はどうやってできるでしょう?
窒素と酸素が無ければできないので、燃料が希薄であること(燃料が充分あって不完全燃焼するような場合、酸素はみな燃料に取られてしまっている、このことは冒頭で示したように窒素と酸素の反応の速度は水素や炭素と比べものにならないほど遅いことに起因する)
さらに、温度が高くなければ生成速度はがた落ちになってしまう
と言ったところです。NO2 は、1000℃程度の低い温度でできやすく、たとえば石油ストーブなどでは NO よりたくさん発生します。でも、自動車用エンジンではやはり NO と比較にならないほど低濃度ですから、省略します。
一方、平成 6年('94)、自動車による石油消費量の低減の観点から、省エネルギー法が改正され、ガソリン乗用車は 2000年までに車種平均で 8.5% の燃費改善が求められました。走行抵抗の低減、車体の軽量化、動力駆動、伝達系の損失低減などとならび、一層の低燃費エンジンが求められたのです。このため、リーンバーン(希薄燃焼)エンジンが有望視され、各社からそのようなエンジン搭載車が発売されてるに至りました。この方式では、NOx 低減にはさらにリーン状態で働く触媒が必要と考えられ、その開発が進められ、NOx吸蔵型還元触媒の登場となりました。これが、筒内直噴ガソリンエンジンの普及にはずみをつけました。
この後、さらなる低減対策について平成 8年に中央審議会から中間答申が出されました。これを受けて、平成9年('97)3月に自動車排出ガスの許容限度が改正されました。
'98年9月、ガソリン、液化天然ガス(LPG) を燃料とする乗用車など5車種が対象として HC, NOxなどの排出量を対象として大幅強化することを 2000-2002年にかけて施行すると中央環境審議会が打ち出しています。現在日本で行われている排気規制と上記の大幅強化する保安基準の改正が公布されたものをみたい場合は、ここをクリックして下さい。これは1978年規制以来の大幅強化で、軽貨物、トラックを含む4車種も48-69%の範囲で許容限界値を下げることになっています。
それとほぼ同時に、自動車ではありませんが大型船について、北欧では厳しい独自の規制を設ける動きが有るのに対応して、2000年1月1日以降建造分は、ディーゼルエンジンのNOx排出量を約30%削減の義務づけの方向にあります(実際どうなったかは情報を持っていません)。運輸関係で結構なエネルギー消費をしている航空機用エンジンについても、NOx を初めとした規制が検討されています。
ご存知、ディーゼルエンジンからの、 "粒子状物質(PM)"も規制対象です |
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この粒子状物質はどのように生成されるでしょうか?
HC と同様に、やはり燃料が高温場で酸素の供給を受けないと、水素が少ない酸素と結合しようとするので、炭素が取り残され、それが集まると煤になります。ガソリンエンジンは、もともと蒸発しやすい燃料だし、さらにはシリンダーに入る前に吸気管の中で噴射ノズルにより微粒化して空気に吹き込まれシリンダーに入る前に気化し(一部は気化しないものの)、最近の直噴ガソリンエンジンでは非常に微粒化して直接シリンダー内に噴射することで、急速に気化させますから、点火前には燃料の周りには適切な量の酸素が行き渡っています。ですから、すすはなかなか出ません。ガソリン車の排気管からすすが出ていたら、それは明らかに整備不良です。そうは言え、整備したガソリン車はそれならすすは出ていないのかというと怪しく、目に見えないすすが出ているという話が最近(2001年暮れから2002年初頭ごろ)話題に上がっていますが、上述のように微粒化しているものの、直噴ガソリンエンジンは、とくに部分負荷では噴射が非常に遅く、ピストンが上死点に来て点火するタイミングに近いときに行われるため、酸素との混合が進んでいない領域があり得、非常に微粒化されているためできるとしたらそのすすは小さく、目に見えないほど小さく(0.5ミクロンあたりでは相当見にくくなりますが、それより小さくなると急速に見えなくなります)なっていると想像されています。
一方、ディーゼルエンジンでは、ガソリンの噴射圧が10気圧のオーダーなのに対し、1000気圧を超えて噴射するのだから、極超微粒化されそうですが、燃料の粘度が違うのでそうは問屋が卸さないようです。ともかく、超微粒化して噴射しますが、ガソリンエンジンのようなタイミングではなく、圧縮比を上げて高温にしてあるシリンダー空気に、火がついて欲しいタイミングで噴射しますから、少々の遅れで燃え始める(後述)までにはガソリンエンジンの場合より混合が進んでおらず、酸素との巡り会いは非常に遅れます。燃えながら混合が進むのです。ですから、酸素を水素に取られてしまって二酸化炭素になり損なった一酸化炭素もあれば、さらに酸素不足で炭素として取り残されてしまうものもある次第です。それらが集まって普通には数ミクロンの固まりになって目に見えるすすになり、超微粒化されたものは、ナノ以下の超微粒煤なる可能性があるのです。
そのすすがシリンダー壁面の潤滑油や燃料、あるいは熱分解した炭化水素に吸着されてできるのです。これがピストンの運動などで微粒化して飛散するのです。
さて1998年12月、中央環境審議会大気部会は、1989年以来となるディーゼル車排ガス規制につき、2002年から NOx, PM (すすなどからなる粒子状物質) の排出量を現行のほぼ3割減、HC排出量はほぼ 6割減とし、さらに2007年からの NOx、PM排出量を現行の7割減とするよう答申しました(これについて、具体的にどうなったか調べていません)。2007年規制でやっと欧米の規制値に追いつくことになるわけです。しかし、規制値がそうであっても、現在同様にメーカからディーラに出るときの測定値が達成しておれば、その後は検査しないということなら、最悪ディーラが出力的に最適点に再調整することができ、排気としては旧態然とした状況が続きかねません。継続的検査(せめて車検時には実施するなど)を義務づけない限り、どうにもならないです。
さて、東京都知事に石原慎太郎氏が就任した1999年半ば、ディーゼル排気問題を積極的に取り上げ、ディーゼル不買運動や、黒煙を排出する自動車を通報する運動を始めるなど、また交通が混雑する道路でのディーゼル排気が問題となった尼崎訴訟・神戸判決、それを受けてと思われるが、2000年4月末ごろに始まった 2007年規制を2年前倒しする案、古い規制のディーゼル車保有禁止令案など、ディーゼルエンジン車メーカーにとって厳しかったり有りがたかったり(買い替えが促進される)と急ににぎやかになってきました。
PM(Particulate Mattar) あるいは SPM(Suspended Particulate Matter) に関する非常に厳しい要求が公然と出るようになっただけではなく、ナノ微粒子、環境ホルモンすら出ているとのニュースも出て、ディーゼルは受難の時期を受け入れている状況です(こんな表現をすると、ディーゼル排気で苦しまれているみなさんにはおしかりを受けますね)。実は、大気には砂埃が有り、オイルにも若干なりとも埃が入っており、その中には NaCl(塩分) が含まれています。この Cl(塩素) があれば、ダイオキシンが発生しても不思議ではない、問題は量だという考えもあります。ただし、このニュースは多環芳香族炭化水素が原因としています。高温下での燃焼により、様々な化学物質が合成されている可能性もあるので、否定はできません。
温暖化の元凶 CO2(炭酸ガス)排出規制につながる "燃費規制"も有るのです |
'98年10月、運輸省の 運輸技術審議会自動車部会燃費基準小委員会は検討してきた新たな自動車燃費目標基準値の原案を公表しました。1995年度実績値に比べ、2010年でガソリン22%、これまで規制値外のディーゼル乗用車も2005年で14.5%削減を求めています。従来の燃費基準はメーカ全体の技術進歩を予測して設定、今回からはトップランナー方式つまり、現在商品化されている製品の中で最も優れた性能以上に設定する仕組みに変更するとのことです。
一方、クリントン米大統領は1999年12月21日、自動車排ガスに関する新規制を決定しました。特にスポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)やトラックは大幅な規制強化となり、メーカーには2004年型から3-5年かけて窒素酸化物(NOx) の排出上限を現行基準に比べ95%減らすよう義務付けています。石油会社に対しても、2005年までにガソリン中の不純物の除去を求めています。SUV の製造コストは一台当たり200ドル程度増える見通しで、一部は価格に転嫁される可能性もあると言います。
新規制では、車体重量ごとに NOx の平均排出量の基準達成を義務づけていますから、日本の中量、重量という結構重い車と同様の設定のようです。重量6000ポンド(1ポンド=約453.6グラムだから 約2.7ton)未満の一般車は2007年まで、6000ポンド以上1万ポンド(約4.5ton)未満の SUV やトラックは2009年までに、NOx の平均排出量を1マイル(約1.6キロ)あたり0.07(.0438g/km)グラムに下げるとしています。これまで SUV などへの規制は一般車に比べて緩やかだったため、引き下げ幅は一般車で現行水準の77%、SUV などで95% に達するとのこと。ここで、規制の仕方に二つの方法があることに気がつきますね?走行距離に応じたものと、エンジンの出力に応じたものです。それにしても、米国の規制は現在日本の規制の一桁厳しいものになるわけです。
ヨーロッパでは、CO2排出量に対し、140g/km規制が始まるといわれ、すぐにそれは 120g/kmにされるとのことです。一方米国はそんな規制の予定はありません。でも、カリフォルニア州だけは別で、CO2規制をするとしています。これに対し、ビッグスリーはCO2規制はエネルギーに関することであり、排気ガスの規制は州が、エネルギー規制は連邦政府が行うことになっており、CO2規制は見かけ上排気規制であるが、実質エネルギー規制ではないかと告訴している。これが認められると、燃費規制は無くなることになる。ブッシュ政権は、エネルギーには敏感であり、燃費規制は石油を使わない方向であるため認めたくないことと思われます。
さて、機械工学科の学生さん、上記 140g/kmとは燃費がいくらに相当するか、計算できますか ? 一度、トライしてみてください。いずれ、その数値を示しますので、それまでに。
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自動車用燃料として初期に使われたものは、石炭からとれる合成ガス(石炭と水からとれる水素と一酸化炭素を主成分とするガス)で、次に水素が考えられました。いずれも、ガス燃料です。その後、ガソリンや軽油などの液体燃料が使われるようになったのです。さらには天然ガスの主成分であるメタンや石油をとるとき一緒にとれる LPG (Liquified Petroleum Gas)が使われていますね。これらの燃料をガソリンエンジンと同じ仕組みの火花点火機関とディーゼルエンジンと言われる圧縮着火機関とに分類して、それらに使われている燃料について示します。
2.1 火花点火機関用燃料
まず、おもな燃料の性質を示しましょう。
| 種類 | 化学式 | 分子量 g/mole | 比重 | 低発熱量 MJ/kg | オクタン 価 | 断熱火炎 温度 K | 燃焼速度 cm/s |
| 気体燃料 | |
| メタン | CH4 | 16 | 0.55 | 50.2 | 110 | 2,250 | ≒45 |
| エタン | C2H6 | 30 | 1.05 | 47.7 | 110 | 2,262 | ≒50 |
| プロパン | C3H8 | 44 | 1.56 | 44.2 | 96 | 2,271 | ≒45 |
| n-ブタン | C4H10 | 58 | 2.01 | 45.6 | 90 | 2,273 | ≒45 |
| iso-ブタン | C4H10 | 58 | 2.01 | 45.6 | 97 | 2,273 | ≒45 |
| エチレン | C2H4 | 28 | 2.01 | 47.3 | 81 | 2,372 | |
| プロピレン | C3H6 | 42 | 1.48 | 45.6 | 85 | 2,337 | |
| アセチレン | C2H2 | 26 | | | | 2,501 | |
| 水素 | H2 | 2 | | | | 2,385 | ≒350 |
| 液体燃料 | |
| n-ペンタン | C5H12 | 72 | 0.63 | 44.8 | 41 | 2,275 | ≒45 |
| iso-ペンタン | C5H12 | 72 | 0.62 | 44.7 | 41 | 2,275 | ≒45 |
| n-ヘプタン | C7H16 | 100 | 0.69 | 44.7 | 0 | 2,277 | ≒45 |
| iso-オクタン | C8H18 | 114 | 0.69 | 44.4 | 100 | 2,277 | ≒45 |
| ベンゼン | C6H6 | 78 | 0.88 | 40.2 | 68 | 2,345 | |
| メチルアルコール | CH3OH | 32 | 0.79 | 20.1 | 75 | 2,224 | |
| エチルアルコール | C2H5OH | 46 | 0.79 | 26.8 | 75 | 2,240 | |
比重:気体燃料は対空気、 液体燃料は対水
断熱火炎温度は、常温常圧下の理論混合気
各燃料のエネルギー密度
| 種類 | 質量基準発熱量 MJ/kg | 体積基準発熱量 MJ/L |
| ガソリン | 44.0 | 32.7 |
| 軽油 | 43.1 | 35.6 |
| LPG | 50.2 | 25.1 |
| メタノール | 20.1 | 15.9 |
| エタノール
* | 21.1 | 15.9 |
| CNG(200気圧)
*2 | 49.4 | 8.9 |
| LNG
*3 | 49.4 | 22.2 |
| DME
*4 | 28.9 | 19.3 |
| 水素(150気圧) | 117.1 | 1.4 |
| 液化水素 | 117.1 | 8.4 |
| 鉛電池 | 0.1 | 0.3 |
*) データを引用した文献にはエチルアルコールの記載がなかったので追加した。
*2) 圧縮してボンベに入れた天然ガス。
*3) 常温では液体ではない天然ガスを冷却して液化し、容器に詰めたもの。
*4) ジメチルエーテルで、ヘアースプレーなどに入っている。常温常圧では気体だが、 少し圧力をかけるだけで液化する。後で出てくるがディーゼルエンジンの将来の燃料として注目を集めている。
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ガソリンにもいろいろありますが、ほとんど上記表中の飽和系炭化水素というメタンから始まるパラフィンの仲間が主成分。ただし、ガソリンはその中でもn-ヘプタン(オクタン価62)やi-オクタン(オクタン価100)あたりを主成分としている。こういう原料以外にも多くの成分が含まれており、その成分量により特徴がある燃料ができます。ガソリンエンジンの排気対策として触媒が使われていますが、その触媒は硫黄分に被毒(硫黄が触媒表面を覆い、本来の作用を妨害する)します。それで硫黄分のさらなる低減が義務づけられることになっています。
ディーゼルエンジン用軽油もパラフィン系(飽和炭化水素)とシクロパラフィンからなっています。ガソリンのオクタン価同様に、セタン価というものがあり、ディーゼルエンジンの燃焼にそれぞれの燃料がどの程度ふさわしいかを示す尺度として使われています。ディーゼルエンジンは、圧縮比を高くして圧縮後の空気の温度を十分高め(1000K程度で、たばこの火の温度あるいは、普通の窓ガラスが溶ける温度程度)、そこに高圧をかけて狭い穴(ノズル)を高速で吹き出させ、非常に細かい霧状にして送り出すと、揮発しながら空気と混合し、独りでに着火します(ですから、ディーゼルエンジンを自着火エンジンともいい、これに対してガソリンエンジンを、火花点火エンジンとも言います)。この自着火が起こるとき、あまり一度に自着火すると爆発的に圧力が上昇しますから、ただでさえ圧縮比が高くてクランクに大きな力がかかっているのに、そこへ爆発的燃焼をするともっと大きな力が発生し、通常ガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでも最大圧力は 50気圧を超える程度ですが、それがそうした異常燃焼をすると 100気圧にも達するので、乗り心地は悪いし、下手するとエンジンが壊れるという事態にもなりかねず、そうならない燃焼が良いわけです。セタン価は、ディーゼルエンジンにふさわしい燃焼をするかどうかの性質を示す尺度です。セタンは C16H34という大きな構造を持っています。
ディーゼルエンジンの NOx問題は上述のように大変厳しくなってきており、その排気を以下で述べるように、ガソリンエンジン同様触媒に頼らざるを得ない状況に来ています。すると、硫黄の被毒が問題となり(黒煙対策の DPF でも問題であったが)一層の低硫黄化が要求されています。
燃料が燃えるためには当然酸素が必要で、通常は空気中に含まれた 21%(体積割合)の酸素を使います。燃え終わったときを考えると、燃料としては通常炭化水素を使いますから、炭酸ガスと水ができます。もし酸素が無くなってしまうと、燃料の中には酸化ができないままのものができるはずです。しかし、燃料は高温では不安定ですから、分解してしまいます。炭化水素の場合は、水素と一酸化炭素が主な不完全燃焼成分です。水素はしかし分子が軽く、空中にすばやく混じりますし、たとえ人体に入っても問題有りませんが、一酸化炭素は少量でも頭痛を引き起こしたり、限界を超えて体内に入ると血液中のヘモグロビンと結合する力が酸素以上に強いため、一酸化炭素と結合してしまい酸素を運ばなくなります。脳が酸欠状態に陥り、体は少々の酸欠になって動くことができても、命令する脳が働かなくなり、廃人になったり、体も酸素不足に陥って死に至るわけです。こういう燃焼のさせかたはエネルギー資源的にも勿体ないことをしています。でも、エンジン技術の未熟なころは結構こういう燃焼をさせていたのです。車が少なければ、それでも問題とならずに来れたのです。最近はしかし、車の数も多く、排気中に少々でも有害物質が入っていると大きな問題ですから、そういうものを出すこと自体できようはずもありません。
燃料と空気の混合の具合をうまく調整すると、理屈の上では燃料は炭酸ガスと水蒸気に全て変わり、また空気中の酸素も残らないようにすることができます。こういう混合の仕方を、理論混合と言い、空気過剰率(記号は一般にλ) = 1 とか当量比(同Φ) = 1 と言います。混合比(燃料質量に対する空気質量の比)ではだいたい 15ぐらいになります。これより燃料が余分にある状態を濃い(過濃 : rich)と言い、空気が余分にあると薄い(希薄 : lean)と言います。
さて、内燃機関では一般に希薄混合にすると燃費が良くなります。それは、一般に大きな分子からできている燃料を沢山含む(理論混合比から過濃にする)と圧縮行程で同じ温度を上げるのに余分の圧縮仕事を必要とする(圧縮比を大きく取る必要がある)こと、燃料が沢山あって、高温で熱分解しやすく、燃料の持っている発熱量を上死点あたりの大事なときには充分吐き出さないで圧力が下がってきたときにやっと吐き出す、すると上死点あたりでは燃焼による圧力上昇があまり起こらないからピストンを押す力が投入燃料の割に出ない、後の方(下死点)で熱分解していた分子が再結合して発熱するため、排気温度は高い、ということで燃料がたっぷり入っている条件ではむしろ損なことが多いわけです。希薄にすればそういうことが無くなり、燃料の持っている仕事への変換能力を充分引き出すことができるようになるのです。また、燃料が薄くなるとノッキングしにくくなるので圧縮比を高くとることも可能になります。エンジンで、圧縮比を高くするということは、燃費を良くすることにつながります。(このあたりの、すなわちどうして希薄燃焼させると熱効率(燃費)が良くなるのかもっと知りたい人は、是非若井研に来るなり、若井の講義を聞くようにして下さい。もちろん、他の大学の先生もそういう講義はしておられるでしょう。)
そうは言っても、残念ながら燃えない酸素を残すぐらいだから無駄なガスの温度をも上げることになり、燃焼温度は高くなりにくく、ひいては燃焼の速さが遅くなったり、壁近くにあるガスは発熱する速度より壁に冷やされる速度が勝って、燃えなくなってしまうことになります。そういうガスは上述のように一酸化炭素になったり、炭化水素のまま、あるいは同じ炭化水素でも形を変えたものとなるなどして、結局は排気されます。それで、壁近くに残りにくいようにシリンダー内のガスに渦を与えるなどして、燃焼速度を速めるとともに、じっと壁近くに居るというようなガスを作らないようにしています。一方、燃焼する温度が高くなりにくいことから、NOx はあまり発生しないため、恩恵もあります。
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実際、どうやってその問題を克服しようとしているのですか ? |
ともかく燃料を少なくするものだから、燃焼が極端に遅くなります。それをどう速くするかが決め手になり、各メーカがスワール(シリンダー周壁に沿った渦)を発生させたり、タンブル(シリンダーの高さ方向の渦)を発生させたり、あるいはシリンダーの対角線方向の渦を発生させたりしているのです。結局、こういう渦を作ると言うことは火炎面積を多くして燃すから速く燃えることになるのです。
ところが、あまり渦を強くすると今度は火炎が冷える可能性も出てきて、渦を強くすればするほど良いという訳ではありません。また、燃料を少なくしすぎれば、燃焼後の温度がどんどん低くなりますから、燃えたガスが炎の前にある混合気を加熱することによりつぎつぎと燃えることができるのが火炎ですから、その加熱ができなくなり、燃えなくなります。その限界を希薄側可燃限界と言いますが、渦が強いところではこの限界に至る前に炎が消えてしまいます。そんなこんなで、結局各メーカーは当量比=0.6程度、つまり理論混合比の 6割程度しか燃料を送り込まない燃焼をさせるのが限界だと言っています。実は、これぐらい薄くなってくると、通常の点火プラグで点火するのも難しくなるので、点火も強力にする必要が出てきます。
そこで若井研の宣伝をすると、火花を強力にしたと同様の効果を与えるとともに、渦も与える、しかもその渦の元になるものの温度が高いので、上述のように強すぎると冷えるという逆効果が現れにくい、という方法を提案して来ました。水素ジェット点火法です。小さなキャビティーに水素・空気混合気、または水素・酸素混合気を導入し、そのふたを開けると同時にそのキャビティーの中で火花放電すると、点火される混合気は世の中で最も良く燃える混合気だから失火がまず無い、そこで燃えたガスがジェットとなって燃焼室に出て行くので、攪乱・渦効果を発揮するのです。その渦の元は当然熱い水素火炎で生成した燃焼ガスですから、バルブを通ってくるときに作られた渦と比べれば温度が高く、失火に至りにくいというわけです。
天然ガスキャンペーンカー(日本ガス協会)
天然ガスは主成分がメタン。他の章で示したからもうおわかりと思いますが、地球温暖化の観点からはメタンは同じ発熱量あたりの炭酸ガス発生量がガソリンより20%程度少なくなっています。だからガソリンや軽油をメタンに切り替えるだけで、日本は 1990年から既に増えてしまった分とさらに 1990年から 6%減という国際公約を車部門では達成できてしまう計算になります。それ以外に、燃料が気体ですから、石油に含まれている硫黄が無いし、さらに気体燃料だから液体燃料より HC(未燃炭化水素)が少ないという利点があります。火花点火エンジンの場合、NOx は圧縮比にもよりますが、それが同じなら理論的にはガソリン車より若干低めになるでしょう。いずれ触媒で処理するのだから、変わらないと考えて良いと思います。実際、走らせてみたところ、火力発電所並みを達成できるという報告もあるようです。圧縮自着火エンジン(ディーゼルタイプ)では、NOxはわずか低めと報告されているものもありますが、わずかなので、差はないと言えましょう。メタンは、ガソリンエンジンで悩んだノッキングも起こりにくく、良いことずくめのようです。残念ながら、液体を噴射する従来のエンジンに対し、気体を使うこの場合はシリンダーに十分混合気を供給することがむずかしくなり、出力が従来のエンジンより下がると言われています。熱効率は従来と同程度ですが、ディーゼルタイプでは供給が一層難しくなるため、また自着火しにくいため工夫が必要なこともあるのでしょう、従来型には及ばないと言われています。モーターとのハイブリッド方式にすることで従来のディーゼル並みの効率を達成できるという報告が有ります。でももっとも大きな問題は、燃料の運搬方法です。メタンは常温ではいくら圧縮しても液体になりません。メタンと同族のエタンは35気圧程度圧縮すれば液化します。プロパンは 5気圧位で液化しますから、家庭用の燃料に薄い鋼板のボンベで運搬して届けてもらうし、タクシーもそうですね。でも、さすがプロパンボンベであっても、タンクはガソリンタンクより大きく、タクシーはトランクルームに鎮座していて外国旅行のため空港までタクシーを呼んだのに、トランクルームにトランクが入らないと嘆いたことはありませんか? メタンの場合は、常温では気体ですからどうしても圧力をかけた高圧タンクが必要です。Compressed Natural Gas を略して CNG と言います。この圧力は工業用には130気圧程度高めます。それぐらいに加圧しないと十分エネルギーとしては貯わえられないのです。一般に使われている高圧ボンベは直径30cm 程度、高さ 1.5mほどあり相当な重量になりますが、、実際、常温常圧では、5kg 程度相当ですから、ガソリンにすればわずか 6リットル程度です。これでは航続距離を稼ぐわけには行きません。ボンベの重さは20kg 程度は有るので、結局燃料を運ぶのかボンベを運んでいるのかわからないほどです。気体だから、体積も負けていませんから、自動車の相当部分を燃料運搬に使ってしまうことになります。このボンベは高圧に耐えられるように作られているので、事故で壊れることは無いから安全という考えもありましょう。それが利点だと。しかし、ボンベから燃料取りだしに使われているバルブ部分は弱く、そこが破壊されると中から 100気圧を超えるガスが噴出し、推力が半端ではありませんから、それ自体が燃料噴出の反作用で飛び出して危険ということもあり、可燃性ガスが噴出するので危険ではあります。日本ではタクシーに使われている上述プロパンガス (LPG : Liquified Petroleum Gas) も同様です。ヨーロッパではこのボンベの爆発事故対策がテーマとして扱われていますが、日本では燃焼仲間も問題にしていません。ともかく、天然ガスに戻って、燃料タンクの重量と体積が大きいという問題を解決できれば、魅力的な燃料です。ディーゼルエンジンにも使うことができ、むしろ石油燃料の場合より熱効率が高いと言われています。
本ページは自動車を対象にしています。すでに十分予測していただいていると思いますが、このエンジンは定置式には価値が高いですね。とくに、家庭やビルの空調に使うには重宝です。燃料タンクは必要有りませんから、自動車では欠点となっても、そういう分野ではむしろ長所です。すなわち、今まで空調は電気が主力でした。ところがとくに冷房が必要な夏は電力会社にとっては頭が痛いことにピーク電力が容量オーバーになり、大口ユーザーには制限を設けたり、消費自粛を促すなど苦肉の策を取っています。これをガスエンジンを用いて家庭やビルが自家発電して空調してくれれば、新たに発電設備を設ける必要がありません。夏のピークに合わせて設備を増やしても冬や夜間は電気余りになるのです。原発は負荷変動には弱いので、火力発電で調整します。エコアイスなどは、この夜間電力で昼の冷房負荷を分散しようという政策なのです。少々実は効率が悪くても、設備を増やし、夜は遊ばせておく方が高くつくので、夜間電力を安くし、エコアイスや電気風呂炊き器を使ってくれたら割引という方が電力会社にとって経済的なのです。考えてみてください。100万`h級の発電所は、フル稼働すれば一日の売り上げは 5億円なのです。純益はそのうち 4億円程度にはなるでしょう。この稼働率が 50%になれば一日 2億円の損です。一年では700億円の損です。原発は建設に 5000億円程度(地元対策費は別)かかるので、もとを引くためには全負荷運転をしたいということもあります。これが理由で、夏の冷房のために設備投資などしたくないわけです。
ガスは反対に、冬ピークが来ます。ガスストーブなどが厨房や風呂沸かし以外に使われるようになるからです。夏は、風呂沸かしの熱も少なくて済みます。だから設備は余っているし、ガス会社としても夏の収入が少なくなるのは困ります。平均した収入が理想です。そうなると、夏需要が増える冷房がガス依存になれば収入が安定します。設備的にも冬のピークに合わせてガスのパイプラインが敷設されていますから、設備の稼働率も高くなるわけで、効率的です。ガス会社はそこを期待しています。そのうえ、ディーゼルエンジンにすれば熱効率が高く、メタンはすすを出さないし、良いことづくめです。このあたりについては、別に新エネルギーの章へ稿を移します。
余談になりますが、15年ほど前、中国に行ったとき、大きなゴムの浮き輪のようなものをバスの上に載せていました。カーブするとそのゴムの袋はゆらゆらと揺れます。中身は天然ガスだと言っていました。私はずっと、タイに行ったことが無かったのですが、最近観光に訪れ、有名なトゥクトゥクに乗ったところ、これが気体燃料で動いていました、天然ガスかLPGか確認しなかったのですが、結構小さなボンベが後ろに備えてありました。容量からおそらくLPGでしょう。上述中国では、当時ガソリンが貴重で、バスをそのようにしてまで天然ガスで動かしていたようです。タイのトゥクトゥクがなぜ LPGか、おそらく運転手に聞いてもわからないだろうから、質問しませんでした。なお、タイのガソリン代はアメリカと同程度に安かったです。日本の半額程度でしたから、ガソリンが高いからというのではなさそうです。
そういうわけで、天然ガス自動車を普及させようとすると、天然ガススタンドが必要です。しかもボンベが 700気圧耐えられるものを考えている以上、供給側も700気圧で詰めることができなくてはなりません(現状では、法律でそこまで高圧にすることはできない)。岐阜市では少し南の、岐南町に一カ所、岐阜羽島にも一ヵ所できています。

天然ガスボンベ (法的規制により現在は200気圧まで、将来的にはもっと加圧する)脚注
実は、この圧縮に要する仕事量は馬鹿にならない値です。もし、非常に急速に圧縮するなら、専門用語では断熱圧縮と言い、空気なら 2000K近くになります。メタンはそれほどにはなりませんが、1000Kを超えます。その圧縮仕事は 2.3MJ/kg になります。メタンの発熱量の5%程度です。じっくり圧縮すれば等温的な圧縮になり、その場合必要な仕事ならその約半分となり、1.04MJ/kgです。同2%程度の損失になります。
自動車技術 '02年8月号・年鑑によると、2002年3月末時点で 12,012台、燃料のインフラも急速充填機が 181台、小型充填機(昇圧供給装置)が 607台、天然ガスステーションは155軒に達している。それにしては、岐阜はまだ二台と思う。充填機数に比べ、1万台少々は、普及台数は少ないという印象。
以上天然ガス自動車についてまとめると、
- 天然ガス埋蔵量は、60-70年でシェアーは石油の半分。現在石油のシェアーを食いつつある観点からすれば可採年数は減少するが、メタンハイドレートなどの利用が可能になれば石油より将来性が有るかもしれない。
- 供給はパイプラインは家庭用に充実しているので、高圧充填設備が用意されれば、問題無い。
- 燃料タンクとしては、高圧方式 (CNG)になると思われるが、発熱量あたりの重量はまだ課題である。
- 排気は従来エンジン(ガソリン車、ディーゼル車)より十分清浄。
- 熱効率は、遜色がない程度で、従来エンジンに勝るというわけでもない。
- 出力は従来車より少々低め。
- 燃費としては、今後の天然ガス、石油価格に依存するのでなんともいえないが、現状では当然高い。
| 5. メタノール(などアルコール燃料)エンジン・カー |
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アルコールは普通の自動車燃料と何が違うのですか ? |
アルコールは、パラフィン系燃料の端っこの水素と炭素の間に酸素が潜り込んだ形をしています。すすが出にくい燃料としてみなさんも良くご存じですね。アルコールランプは青い炎です。もしアルコールの代わりにランプの中に灯油を入れれば、赤い炎になります。灯油は炭素のまわりに水素がくっついている構造であり、燃焼の際水素は酸素と出会うとすぐに結合して炭素が取り残されることになり、炭素の分も酸素があればガスコンロのようにアルコールランプより明るい青い炎で燃えます。酸素が不足すると、緑色が強くなり、二酸化炭素になれずに一酸化炭素を大量に出すことになります。さらに酸素が不足すると、一酸化炭素にも巡り会えないまま漂うこととなり、炭素同士が集まってすすになるわけです。そのすすは真っ黒です。その黒いものが高温になると赤い光を放つのです。炭と同じです。ガソリンや灯油の仲間にローソクがあります。パラフィンという名は、これらの属につけられているものです。ローソクはこの炭素が発生するから、良いわけです。すすが発生しなかったら、ローソクの本来の使い道である「照明」にはならないわけです。すすが、専門用語としては黒体ふく射をし、そのスペクトルは全域にまたがるので可視域でも光るわけです。すすが多ければ多いほどそのふく射量は多くなります。一方、あまりそれが多くなると炎の温度が下がり、ふく射量は温度の指数関数(全波長にわたると温度の4乗)的に聞いてくるので、逆に明るさは落ちることにもなります。そのすすが多く、温度も高いというのが夜店のトーチランプとして使われる、カーバイドによる照明器具です。この温度は、鉄の溶接にも使うほどですから、ローソクの温度など比較になりません。
話が照明に飛んでしまいましたが、アルコールはそれ自体に酸素を持つので、そういうことにはなりにくく、赤い炎を出すことはありません。いや、赤いと言うより黄色っぽい炎を見たことがある、と主張される方もあるかもしれませんね。それはおそらく試験管かビーカーを加熱していて、そこから水が吹きこぼれたのではなかったですか?その水には、完全な蒸留水でもない限り、塩分が混じっていますから、その塩 (NaCl)の中のナトリウムが高温になって発光したのです。ガスコンロでラーメンを吹きこぼれさせたときも、同じスペクトルの光を放ちます。話がそれましたが、ともかくアルコールはすすを出しにくい燃料です。アルコールの炎は、 CHの480nm付近の、青白い暗い光を発します。とても照明にはならないわけです。薄暗いので温度は光り輝くローソクより低いかと思うと実は間違いで、温度は結構高いのです。
酸素が入っていても、酸素と水素、酸素と炭素、炭素と水素の化学結合エネルギーは酸素二分子と炭素、水素二分子と酸素が結合する場合と比べて小さいので、結局発熱量が小さくても必要とする空気量も少ないのとキャンセルすることになり、燃焼後の温度はパラフィン系と大差有りません。となると、NOx 生成量はいずれも断熱的に燃えているなら変わらないことになります。
メタノール、エタノールともに蒸発熱が大きいことはよく知られていますが、そのためキャブレターで蒸発させ、空気と混合したガスはガソリン・空気混合気より圧縮前温度が低くなります。したがって、圧縮後の温度はガソリンより低く、ノッキング発生が抑制できます。実は、上表でこれらアルコールのノッキング指数であるオクタン価はオクタン以上に高いこともあって一層ノッキングが発生しません。したがってガソリンエンジンの圧縮比に対する制限が減り、高圧縮比が達成できます。それは熱効率の向上、ひいては温暖化ガス排出量削減に効果的です(高温にするので、NOxは発生しやすくなります)。
実際エンジンに使う場合、メタノール(CH3OH)かエタノール(C2H5OH)を使いますが、原料から考えると当面はメタノールが主流でしょう。エタノールが出てくるとすると、バイオマスから変換される時代が来たときと思います。実際、ブラジルでは1980年代、日本でも盛んにアルコールエンジンが研究された時代に実際に動いていました。ブラジルはガソリンを輸入するのでせっかくの天然資源を輸出して得た外貨が減るのを嫌い、天然資源の一つであるサトウキビを利用してエタノールを抽出し、それをガソリンにブレンドしていました。純粋メタノール車ではなく、燃料もガソホールと名付けて、その燃料を使う場合は税金で優遇する措置をとっていました。1990年中頃だったと思いますが、ブラジルの工業化が進み、車の台数が圧倒的に増えるに至って、とてもサトウキビから作るエタノールでは燃料として間に合わないし、増産すれば赤字になるということで、やむなくその制度を廃止しました。アルコールエンジンかの排気には発ガン性の有るアルデヒドが含まれているという反面、PM や多感化合物、ベンゼンなどガソリンや軽油を用いた場合に排出される大気汚染物質を含まないという長所が有ります。PM が出ないことから、火花点火エンジンより、ディーゼルエンジンへの搭載研究が多いようです。PM に苦しむ軽油燃料ディーゼルエンジンは、PM を出さないようにするとNOxが増えるというトレードオフの関係にあるからで、両方を同時に消すのが大変困難なわけです。さらにガソリン車は PM を出さないため、排気浄化のための触媒を使うことが可能だが、軽油燃料ディーゼルエンジンは PM が出るため、現在大いに困っているわけです。アルコールは前述のようにすすが出ないし、軽油にたくさん含まれてやはり触媒を被毒させる硫黄分も無いので、NOx が出ても後処理で激減させることができる。そのほか、アルコール燃料の特徴がさらにディーゼル燃焼に向いている点がいくつかあります。というわけでアルコール燃料は、火花点火エンジンよりディーゼルエンジンに向いている。ただし、アルコールエンジンの学会もあるものの最近は発表件数が減少しつつあり、むしろアルコールは燃料電池車の水素の原料として、研究されています。
メタノールは、石炭、天然ガスから作られます。石炭から作る場合は、石炭に結構含まれている硫黄が H2S となって含まれるため、除去しなくてはなりません。その点、天然ガスから作れば、そういう有害な二次物質が発生しないこともあり、今はこのルートが多いでしょう。
天然ガスを用いるなら、わざわざアルコールにしなくても天然ガスそのもので動かせば良いのでは?という考えが当然起こります。が、上述のように、天然ガスは可搬性に劣ります。液化したメタンなら、アルコールより体積あたり発熱量は高くなりますが、圧縮天然ガスは半分しかありません。液化した場合は、容器が問題だし、冷却しつづける必要もあるわけで、アルコールにした方が圧倒的に利便性があがります。
エタノールは、上述のようにバイオマスから作ることができます。今後、地球規模でバイオマスを有効利用しなくてはならないような時代が来たら、エタノール化して使うことになるでしょう。
もし、バイオマスも化石燃料も無いときは、エネルギー源として原子力発電所や太陽光発電などの電気エネルギーを利用して、あるいは地熱を利用して水素と石炭あるいは水素と炭酸ガスを合成してアルコールにすることもできるでしょう。
ここで、ちょっと現実的な話をします。我々がお金を出して買うときの燃料単価は、通常体積あたり(gあたり)ですから、下の表の右欄の発熱量が気になるところですね。ガソリンと軽油では、ここですでに後者が優位に立っていて、さらに価格が後者の方が安いので、ディーゼルエンジンは燃費が安くなるのもうなずけますね。それにさらに、エンジン自体の特性として、ディーゼルエンジンの方が熱効率が良いのですから、ディーゼル車はガソリン車より経済的となるわけです。初期投資にたとえ少々かけたとしても。一方、メタノール、エタノール(メチルアルコール、エチルアルコール)はメタンなど酸素を持たない燃料と比較して、単位重量(モル)あたりの発熱量が低くなっています。DME も同様です。
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現在売られている、アルコール系燃料と同じですか ? |
さて、こういうアルコールを主成分とした燃料が「アルコール系燃料」として売られていますが、アルミニウムを溶かすということで燃料系統の配管などが腐食して漏れ、火災が発生したり、不具合が報告されるに至り、国土交通省も、アルコール系燃料を使うことを想定せず設計生産された車(一般の車はまず考慮していない)には、使わないように喚起した。それは、国土交通省の話ですが、ここで言いたいのは、アルコール系燃料と言われるものの成分を知らないのでなまじっかなことは言えないが、一般にアルコール系燃料はパラフィン系燃料より体積あたりの発熱量が低い。それなのに、リッターあたりの値段が安いからと言って売っているのは問題だと指摘する学者も居ます。これは、アルコール系燃料に限らず、発熱量あたりで売るべきだということになります。ところがアルコール系燃料製造会社は、リッターあたり燃費は変わらないどころか良くなるというのですから、たとえばエタノールと同じ発熱量と仮定すると、発熱量は半分以下、それでガソリン以上に走るということは、ガソリンを用いたときの熱効率が市街地走行で 15%程度(一般に最大熱効率は 30%程度ですが、市街地走行ではこの程度に落ち込む)とするなら、アルコール系燃料を使うと市街地走行でも 30%を越える燃費となるわけで、ちょっとおかしいとも言えます。エタノールより相当に高級(炭素数が多い)なアルコールを使っているなら差は縮むでしょう。しかし、高級になると粘度が問題となります。昔は霧吹きの原理で燃料を空気中に混合させていました、いわゆるキャブレターです。最近はどんな車も燃料は電子制御された噴射弁から吹き出しています。いずれにしても、粘度が大きいと問題になると思われます。メタノールはガソリンとほぼ同様の粘性ですが、エタノール、プロパノールと大きくなってブタノール(炭素が 4つ)では、ガソリンの7倍程度高い粘度になります。もう少し大きくなると液体でさえ居られなくなって、料理屋さんで個々に鍋を温めるために使われている固体アルコールになってきます。そんなわけですから、おそらくそんな分子構造の大きなアルコールではないと思いますから、逆に低級アルコールなら発熱量が問題だということになるわけで、なんともわかりにくい「アルコール系燃料」ではあります。この話題のアルコール系燃料は、こうして体積あたりでは安いということになっていますが、ご存じのように、ガソリンには原料と同程度の税金がかかっており、たとえばアメリカの二倍程度の価格になっています。メタンからもしアルコールを作るとガソリンを石油から精製するより高くなります。それなのに「アルコール系燃料」が店頭で安いのは、その税金がかかっていないからです。この燃料が急速に販売量をのばし始めた頃、当時の運輸省は税金を検討するとしていました。これに対して、アルコール系燃料のメリットがたくさんあるのに、迫害に等しいというような主旨の本も出ていました。そういうやりとりのあとだけに、トヨタ・ホンダの例が引き合いに出されていても、4例に過ぎないこともあって、国土交通省のなんらかの圧力ではないか、と感ずる人が居ても不思議ではありません。一方、たとえ 4例であっても死亡事故につながりかねない危険なことなので、注意を喚起しなければ、メーカーの責任、国の責任を問われることになります。事実なら迫害というのはとんだ濡れ衣です。
ともかくも、このアルコール系燃料は、ここでとりあげたアルコールエンジンとは違いますので、ご注意を。
上述のように、いわゆるアルコール系燃料は金属をも溶かすので、ガソリンを燃料とした車にそれを使うのは危険としましたが、本家本元のアルコールの代表であるメタノールは人体にも有害です。50年も前には、戦争(第二次世界大戦)でお酒が手に入らず飲めないために、メチルアルコールを飲んで死んだ、目がつぶれたなどという話を聞かされたものですが、まさに有害物質です。一つ上のエチルアルコールはその飲めるアルコールの主成分です。エチルアルコールはバイオマスから作ることができますが、量的には不足です。現状でアルコールを供給できるとしたら、メタン改質のメタノール(メチルアルコール)になるでしょう。アメリカの自動車会社は、それによる思わぬ事故を恐れてか、メタノールを燃料にすることには消極的のようです。アルコールエンジンと言うより、下で述べる、燃料電池の水素をどうするのかというとき、水素自体は気体だから運搬性が悪いということで、液体燃料を使いたい、となるとガソリンかメタノールかということになります。ガソリンは水素に改質するのに 800℃が必要ですが、メタノールからの改質温度は非常に低いので、メタノール改質を本命とするメーカーがあります。しかし、これは危険だからと、フォード、GM は研究を縮小あるいは撤退しているのです。なにしろ、コーヒーを膝にこぼしてやけどをした人に億の額の賠償責任を問われたり、たばこで肺ガンになった人に、十分その危険性を説明しなかったからと兆の桁の賠償金を支払わなくてはならない国です。メタノールが飛び散って目に入って目が見えなくなったというような事故は、頻発しても不思議ではありません(説明が深入りしすぎですが、もうひとつ、アルコールにまつわる危険な話を。純度が非常に高いアルコールを皮膚に付けるとやけどをします。強力な脱水作用があるため濃硫酸のように、皮膚から水を吸収してしまうからです。これは受け売りですが、そんな高純度アルコールを扱う場合は気を付けてください。これは自動車に関係なかったですね)。
自動車技術誌'02年・年鑑によると、2002年2月末時点で約140台で、メタノールステーションは10ヵ所、残念ながら94年の新エネルギー大綱の思惑とはほど遠いものになっています。
さて、以上アルコール自動車をまとめると、
- メタノールの原料は天然ガスが主流。石炭からも可能で、将来性は石油またはそれ以上。
- 液体燃料なので、燃料供給システムとしてのインフラはガソリンスタンドの改修で可能。
- ガソリンとの混合燃料車は有る程度普及している。
- 効率は従来車よりやや悪い程度。
- 排気はホルムアルデヒド、アセトアルデヒドが多い(現状ではアルコール自動車が少ないのでアルデヒド規制は無いが、走行量が多くなれば規制されると思う、現状では多くなる気配は無い)。PM は出ないに等しいので、NOx対策に専念できる。
- アルコール中、メタノール(メチルアルコール)は、人体に危険物質
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これらは武蔵工大で開発された武蔵10(乗用車)と武蔵9号(トラック)
武蔵10号の燃料(水素)タンクはトランクルームを占めている。開発段階だから、やむを得ない。うまく作ればガソリンタンクと同様にトランクルームに入りそう。ただし、航続距離は十分ではないかも。
9号の燃料タンクは運転席の後ろに光っているステンレスのタンク。 |
武蔵工大の古浜先生が1980年代から取り組んでこられ、圧倒的にリードしておられます。古浜先生が同大学学長として現場から退かれた後も上の写真のように 10号まで進められてきました。やはり 1980年あたりということで、このエンジンも石油ショックあたりが引き金になって開発が促進されたわけです。水素も、天然ガス同様に圧縮しても液化しないので、可搬性という視点では不利です。それで、当時も盛んに水素吸蔵合金が研究されていました。私ごとですが、若井研の前身である志水研時代、中国の浙江大学と研究協力するとき、当方の温度計測技術を give に、相手方のアルコール & 水素エンジン の技術を take にした研究を行った経緯があります。ずいぶん昔の話です。
最も進んでいるのはドイツかもしれません。ドイツは1990年代後半のシュレーダー政権では連合政権を組んだ緑の党の党首・トリッテン氏が環境大臣を務め、環境を強く意識しているため、原発も寿命の来るものから停止と決めたほどです。トリッテン氏が環境保全意識が高いだけでなく、そういう政権を選んだ国民も意識が強いと言うことになりますね。その証拠といえるかどうかわからないですが、2002年のシュレーダー政権続投かどうかを決める選挙では、原発容認派はここで政権交代すればまた原発は復活すると密かにではなく、閉鎖を決めたときのコメントが新聞に載るほど公然と、大きな期待を寄せていました。2002年夏にヨーロッパの広域を襲った大洪水がドイツも水浸しにし、戦争に次ぐほどの被害を出したのを当のトリッテン氏は逆用し、その「原因は温暖化による気候変動だ」と選挙期間中にキャンペーンを張ったのが功を奏し、シュレーダー政権続投に大きく寄与しました。つまり、ドイツ国民がそうした政権を選んだわけだから、環境意識が高いことの証と言えましょう。知り合いのドイツ人も、「ドイツ人は環境意識が非常に高いから・・」と話しを切り出すほどです。そうした国民性の中で風力発電も非常に進んでいるし、いずれは水素社会だという意識も強い。話を水素エンジンに戻しますが、そうした中で水素スタンドがミュンヘン空港だったと思いますが作られ、水素エンジン搭載トラックが活躍しています。
また、最近BMWが 2003年から走行実験をすると発表。燃料電池車に対抗する意識が明白。
燃料としての水素の性質の他の燃料に比較して際だった性質に、燃焼速度がガソリンなどの 7-8倍速いことがあります。火がついたら危険ですし、ちょっとしたことで火がついてしまいます。最近リバイバルで作られて、ヒンデンブルグ号という気球船の火災事故は有名な話しですが、確かに普通には火がつかない場合でも火がつくし、一度火がつくとあっという間に燃えます。ロケットに使う燃料も液体水素ですね。火がつくと、狭いところも平気で火が通り抜けます。一方、空気に混ざって薄くなる性質(拡散)も圧倒的に速いですから、決まった量が漏れたときは、すぐ散らばってしまい、安全になります。
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水素を使うなら、燃料電池の方がすべての面で良いのでは ? |
さて、水素を燃料にするというと、最近では燃料電池が先に話題に上るようになりました。内燃機関より燃料電池の方が変換効率が良いというのが売りで、前者より圧倒的に新奇性が有るためです。しかし、燃料電池も新しいには新しいのですが、1980年代には最初のブームがあり、今回は二度目と言えばそうなのです。内燃機関はずっと研究され続けていますが、燃料電池は一度あきらめられたことが有るということです。燃料電池自動車については以下で述べますが、問題はその変換効率が本当に燃料電池車の方が優位かということです。これについては、燃料電池屋さんは「当然燃料電池だ」と主張し、内燃機関屋はいやいやまだ市場にほど遠いものが庶民レベルのものとして世に出たときに、理想的な値が実現されているかどうかわからない、それより長い実績をもつ内燃機関に新しい発想を取り入れた、「水素エンジンの方がより良いものになる」と言い、結局誰にもまだどちらに軍配が上がるかわからない状態です。
それでは、同じ歴史を持つガソリンなどを用いる内燃機関と水素を燃す内燃機関とではどちらがどういう長所短所を持っているのでしょう?
まず、燃料供給については圧倒的に従来のガソリンが優位で、同じようなインフラですむアルコールが次で、天然ガスが次ぎ、そして最後に水素となりそうです。ただし、アルコールは液体であり、従来のインフラに少々手を加えればできるということであっても、試験的以外にはそういうものができたという話は聞きません。一方、天然ガススタンドは上述のように、そろそろ普及が始まり、岐阜でも岐阜ガスの本拠地である岐阜市南の、岐南町に一カ所できています。水素スタンドについては、2002年5月、国が促進を図るため規制緩和することにしたので、やっとインフラ整備に心が傾き始めるかも、という状況です。これは、自動車より使用条件が圧倒的に緩い家庭用燃料電池から普及させたいということで進められるものですが、もちろん、家庭用に使う燃料電池の水素と車用燃料電池の水素は別物ということにはならないでしょう(不純物の濃度が燃料電池の性能劣化に大きく利く可能性があるので、どういう水素を必要とするのか、両方に問題なく使うことが可能かなどの詳しいことは知りません)から、価格の安い家庭用をまず普及させることでインフラが整うということになるのでしょう。
供給についてはそういう状態で少し明るくなっているわけですが、供給した水素をどう蓄えるのかで、燃料電池と全く同じ方式が考えられています。高圧ガスタンク、液体水素、水素吸蔵合金です。高圧ガスタンクは、高圧メタンガスタンクと同じように思うかもしれませんが、こちらはずっと難しくなります。
日産と共同で進めている前述武蔵工大は、液化水素を使っています。このグループが液体水素を利用するのは、液体で貯蔵している高圧タンクの圧力をそのまま利用して液体のまま筒内に噴射することができることにあるようです。通常のガソリンのように、キャブレターで空気と混合し、吸気管を通って吸気弁によりシリンダーに導入されるシステムでは、バックファイアーが頻発したため、それを防御するためには筒内噴射しかなく、ガスを筒内噴射するのは大変だからということで至った結論のようです。さて、液体水素筒内噴射は、制御系や材料などの問題は多いけれど燃焼の立場では文句なしかというとそうではなく、水素だからという問題があります。それは、液体水素が蒸発して出てくるの温度は低く密度が重くなりそうですが、それ以上に水素は分子量が小さく軽いので、空気との混合が進みにくいのです。最近はやりの、筒内直噴ガソリンエンジンはあえてガソリンを空気と不均一に混合するのがねらいですが、水素では混ぜたくても混ざりにくいのです。筒内直噴ガソリンエンジンでも、常に不均一混合したいわけではなく、負荷が大きい(アクセルを深く踏んでいる) ときは、一様になるように圧縮のはじめの方で噴射しています。水素はこのように噴射しても混ざりにくいという意見があります。ただ、武蔵工大の関係の先生に訊いたところ、それは大きな問題ではないだろうとのことでした。確かに軽いガスと重いガスがスワールと言って吸気管によりねじ曲げた流れがシリンダーに入って、周回させることで希薄で燃焼速度が遅い混合気の燃焼を速めるエンジンが多いのですが、こうすると遠心力が働いて重い空気は外周へ、軽い水素は内周へ集まり、混合が進まないという理屈ですが、一方で水素は分子が軽いだけあって拡散速度が大きく、混合が非常に早く進む性質があります。その効果は前述の遠心力による分離効果を減少させることになっているのでしょう。液体水素を収納する容器は1kgの水素に対して20kg以下のようです。液体水素貯蔵法で問題なのは、当然常時冷却を続けないと気化してしまうことです。
水素吸蔵合金の場合は、吸蔵する水素量が温度により変化することを利用します。水素を取り出すためには加熱しますから、出力に応じた温度調整が必要になります。これがなかなか難しいかもしれませんが、燃料電池で開発されればそのまま水素エンジンでも利用できることになります。水素吸蔵合金から取り出す水素はガスですから、上述のバックファイアーを防ぐ方法を開発しないと、実用レベルになりません。現在そういう技術が達成されているのかどうか、私は知りません。自動車がエンジンに要求する条件は非常に広く(回転数は600rpm〜7000rpm程度まで、初期圧力も0.1気圧〜1気圧程度まで)、どんな条件でもバックファイアーしない水素・空気混合気供給方法はなかなかむずかしいようです。それは度外視して、運搬だけに焦点を絞るとしましょう。可搬性の観点に立てば、1kgの燃料+容器または吸蔵合金で何kg の水素を運ぶことができるか、が指標になります。水素吸蔵合金の中で特性の良いものは、最近はやりのカーボンナノチューブです。2002年5月のニュースの中にも新しい材料製造法の話題が出ています。1kg の水素を貯えるのに20kg程度を要するようです。たとえば、ガソリン50gと同じエネルギーを蓄えるためには、14kg の水素が必要ですから、280kgの燃料タンクが必要となるわけです。50gのガソリンタンクの車はおおよそ 1dでしょうから、これが 3割り増しの 1.3dぐらいになるわけです。これぐらいなら、まだ我慢の範囲ですね。ただし、カーボンナノチューブはむしろ、すぐにでも実用化されそうな携帯電話用燃料電池の水素吸蔵に使われるかもしれませんね。ともかく、まだ大量生産は無理で、一台に280kgものカーボンナノチューブは採算が合いません。
高圧タンク法はどうでしょう。高圧にしても、やはり可搬できる量は液体と比べれば劣性にあります。通常市販されているガスボンベは 150気圧程度ですが、天然ガス自動車の項でも述べたように、700気圧程度まで技術的に高めることが可能な段階にあります。しかし、150気圧のボンベでも、その口(バルブ部分)が壊れると、ジェット噴射となり、火がつかなくてもボンベが固定されていなければ、60kgの容器がくるくると回転し、壊れ方によってはミサイルのように飛び出します。実際昔、捨ててあったボンベのバルブを解体業者がハンマーでたたいたら(たぶん、減圧弁を取り外すのが面倒というような理由ででしょう) 500m先まで飛行したと、ニュースになったことがあります。幸い落下点は誰もいない運動場だったから被害はなかったという、実に危険な事例があります。一方、アクアラングの現場トレーニングで、潜るとき背負う酸素ボンベを炎天下において教育していたところ、あまりの暑さにボンベ内圧力が異常に上昇(アクアラングのボンベは知りませんが、通常使う酸素ボンベは他と簡単に区別するために、黒く塗られていますから、同じ色だった可能性が高く、その場合は太陽光をまともに吸収して温度は非常に高くなります)し、鋼鉄製容器が裂けながら吹き飛び、生徒の一人の太股に当たった。裂けた鋼鉄板が刃物となりその太股を大きくえぐり、出血多量でその方は亡くなられたという痛ましい事故もあります。700気圧のボンベがなんらかの原因で爆発したらその被害の程度は想像を絶します。たとえば、直径わずか1cmの穴があいただけでも、そこからガスが噴出するときの反作用は500kgにも達するのです。もちろん、そういうタンクは、上述の鋼鉄製ボンベのように裂ける性質を持たない設計になっているはずですから、小さな穴が一気に拡大することは絶対にないと思います。そうした爆発についての実験は米国でも行われており、実用化のために何を解決すべきかが明らかになりつつあります。
さて、必要なタンク容量を見てみましょう。高圧タンクの場合 1kgの水素を貯えるのに20kg程度の重量になるようです。カーボンナノチューブと同じですね。普通の乗用車はガソリンを50gほど積みます。これはエネルギーにして1.6GJです。これと同じだけ水素を積み込もうとすれば、7kモル=14kg分ですで、高圧タンクに35MPa(燃料電池車が採用している)で詰めると、500gになります。
結局、、重量比からはそれも同じ程度の可搬性と言えます。
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やはり燃料の可搬性ではガソリン・ディーゼル車ですね |
どのような方法によるとしても、水素エンジン自動車は燃料の運搬で液体燃料車には相当リードを許します。そうなると、液体燃料以上に何か長所が無ければ使ってもらえないことになります。
たとえば、化石燃料が枯渇する、水素燃料は自然エネルギーから電気分解を通して、将来は太陽熱から直接水を分解することでいくらでも取り出すことができる、ということは大きな長所です。でも、そうだとしても、水素を炭酸ガスや石炭と化合させてメタノール化すれば液体になり使い勝手が良くなります。その場合は、水素そのもので運搬するときの車の重量増大による燃費損と、水素をアルコール化したときの損失との比較でいずれが優位か決まるでしょう。今のところそれは優劣つけがたい状況です。
さて、こうしていちおうエンジンまで水素燃料が来たわけですが、その後エンジンとしては水素を用いるありがたみはあるのでしょうか? 当然言われているように、それ自体としては炭素を含まない燃料だから、二酸化炭素も出さないし、一酸化炭素、炭化水素という石油系燃料ではつきものであった公害物質を出しません。二酸化炭素だけはしかし、現状では水素を作る段階で発生します。それならもう一つ大きな公害物質である、窒素酸化物はどうでしょう。水素は上述のように、非常に燃焼速度が速いのですが、それはひいては非常に薄い混合気でも燃焼させ得るということで、超希薄燃焼が可能になります。ただし、少々燃焼に明るい人は超希薄にすると窒素酸化物が圧倒的に少なくなると思うでしょうが、水素の場合は、少々希薄にしても窒素酸化物は思ったように少なくなりません。それは基本的に燃焼温度が希薄でも高いからです。窒素酸化物は、酸素量と温度に強く依存しますので、少々希薄でも結構希薄でも酸素は十分あるわけで、その量を決めるのは主に温度ということになります。

断熱的に等圧(左)または等容(右)燃焼したときの到達火炎温度

断熱的に等圧(左)または等容(右)燃焼したときの NOx 生成量
(この NOx量は、平衡濃度と言って、実際生成される量を予測しているわけではなく、 燃焼後到達する温度、圧力(左図は1気圧)に長時間存在したときに生成される量。 )
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とくに右のグラフを見てください。横軸は、燃料と酸化剤としての空気の混合のさせ方を示しており、当量比 (φ)といいます。理論混合比 (燃料は全て炭酸ガスと水になり、空気中酸素は全て燃料を酸化するのに使い果たされて残らない)では1となります。 1より左の方は燃料が少なく、たとえば 0.5では、空気中の酸素が 10%程度残ることになります。逆に完全燃焼させるに必要な燃料量の 2倍混合させた場合はこの値が 2になります。H2の燃焼温度とアセチレンを除く他の燃料のそれでは水素が結構高い値になっており、そのことが NOx 生成量にも利いてきてたとえばメタンの当量比 (φ) が0.6(天然ガス自動車の希薄燃焼はこのあたりを使うと思われる)と同じ NOx になるのは、水素では 0.4あたりとなります。実は、このあたりの水素・空気の燃焼速度は天然ガス・空気の当量比 1の燃焼速度を上回るので、理屈の上ではまだまだ希薄燃焼させても十分回ることになります。ということは、NOx レベルはもっともっと低くすることが可能であることになります。熱効率は、こういう希薄状態では圧縮比を上げることが可能だろうし、希薄で熱解離も少ないので二重に効率アップ効果が働きます。問題は、エンジンは摩擦馬力がつきもので、あまり希薄にするとその摩擦が相対的に増えるので、いちがいにまだ燃焼できるからと希薄するほど効率が良くなるとは言えません。武蔵工大の開発グループなどの報告によれば、ガソリンエンジンと比較して効率は遜色なく、排気はきれいになります。
自動車技術によると、BMWにより15台生産され、世界5都市でデモ走行しました。ドイツのどこかの空港で使われていると聞きました。ドイツに行く機会のある人は、探してみてください。
ここで、水素エンジン車をまとめると
- 排気中にCO, CH は存在しないので他の燃料の内燃機関より優位にある。。
- 排気中 NOx も、ガソリンエンジンやアルコールエンジンよりきれいになりうる。
燃料電池車はNOxが出ないので、それとの比較ではマイナス。
- 温暖化ガスであるCO2は水素製造元で発生する。燃料電池を含む他との比較は燃費によることになるが、基本的に他の内燃機関と比較して遜色はない。
ただし、水素製造にあたって、原発や自然エネルギーを使うことができるという面からは、温暖化効果は少ないとも言える。
- 燃料の可搬性としては、天然ガスと同様。液体燃料にはかなわない。燃料電池車とは非常に似る。
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燃料を直接シリンダー内に供給したからと言って、何が変わるのですか ? |
このエンジンは、前述したガソリンが負荷応答のために宿命的に背負ってきた「絞り損失」あるいは「ポンピング損失」について、解決を狙ったものです。ガソリンエンジンの熱効率がディーゼルエンジンにかなわない理由の一つが、この点にあります。部分負荷時に限った話ですが。ディーゼルエンジンは、負荷応答を燃料の噴射量で制御できるから、この絞り損失は無いのです。もう少し、詳しい話に入りましょう。図を使うとわかりやすいところがあるのですが、時間に余裕があるときに作るとして、今はとりあえず文章で書くだけにさせてください。
エンジンに要求される馬力(出力)は、加速のときや上り坂、あるいは速度が速いときに大きく、またエアコンを使っているときにも大きくなります。一方、一定速度走行、低速走行時は要求量が少なくなり、減速時に至ってはむしろ出力はマイナスで良くなります。エンジンの出力は、熱効率が一定とすれば燃料の量に依存します。ディーゼルエンジンは、圧縮比を高く取り、圧縮後の温度を700度Cを越える程度にまで高めます。この温度は、アルミニウムは溶け、ふつうの窓ガラスも溶けそうになるほどで、たばこの火の温度に近いと想像してみてください。燃料と空気が混ざっていれば、すぐにでも燃え出します。エンジンがパワーを出すためには、圧縮行程が終わって膨張行程に入ったときに一気に混合気が燃焼して圧力が高まってくれれば、ピストンには圧縮中と比べると比較にならない高圧がかかり、膨張中に力強くトルクを発生してくれます。それで圧縮中に必要だったトルクを返してもまだおつりが十分あって、タイヤにトルクが伝わる仕組みになっています。その燃焼がいつ起こるかが大事で、ディーゼルエンジンではすぐ火がつくとはいいながらエンジンの回転速度と比較すると少々遅いので、圧縮が終わるより少し前から燃料をシリンダーに噴射します。その燃料量を調節することで、要求される負荷に応じています。ガソリンエンジンもそうすれば良いのですが、そうは行きません。
ガソリンエンジン、すなわち火花点火機関は、出力を少なくしたいとき、ディーゼルエンジンのように燃料量を調整したら同じようになるかというと、残念ながらできません。ガソリンエンジンは、圧縮比がもともと低く圧縮後の温度も 300度から400度C程度なのです。これでは、自然にガソリンが燃え出すわけには行きませんし、自着火させるならディーゼルエンジンと同じ、振動が出るなどの問題が出てきてガソリンエンジンの特徴が無くなります。ガソリンエンジンはその静粛性が売りです。火花を使って点火し、混合気を火炎が伝播しなくてはなりません。そこであらかじめ空気と燃料を圧縮前に混合しておき、圧縮の途中で点火します。火炎が広がる速度が無限大なら、点火時期は圧縮直後ですが、先ほどディーゼルでも説明したように、それは有限の値なので、圧縮終了時より少々前に点火します。ディーゼルエンジンは、燃料噴射して濃いところも薄いところも、空気温度が高いので燃えてくれますが、ガソリンエンジンは火種となる火花から始まり、その火花で形成された火炎がつぎつぎと燃えていない混合気に燃え移ってゆかなければ、燃え損ないが出て、熱効率は悪いし、排気は炭化水素満載で危険です。ですから、きちんと燃えてくれる適切な濃度の燃料混合割合にシリンダー全体が用意されていなければなりません。となると、ガソリンエンジンの燃料量を必要な出力に合わせて調節するためには、空気量も調節しなくてはならないことになります。これが、ガソリンエンジンの宿命なのです。その空気をどうやって調整するのか、ご存じですね。絞り弁(throttle valve)で、吸気管の面積を広げたり狭めたりして空気を入りにくくするわけです。絞り弁が吸気管を狭めているとき、ピストンがそれでも空気を吸おうとしているのに、空気が来ないので、シリンダー内は負圧になります。従来のキャブレターは、絞り弁の前に燃料ノズルが有って、空気の流量に比例する量が出るように設計されていましたから、空気量が出力を決めることになっていたわけです。今は、空気量に比例した燃料は、電子噴射でより正確に吸気管で吹き込まれています。しかも、応答性を良くするためにシリンダーの吸気弁近くで吹くようになっています。
話が長くなって来ましたが、こうしてガソリンエンジンは、出力が少なくて良いときはシリンダー内圧力を下げることになり、ピストンは吸気中負圧を受けます。ところがピストンの背面はクランクケースになりますが、そこはいつも大気圧ですから、ピストンはその差圧分だけ、一生懸命がんばって吸気行程を達成します。その負圧に負けないで動いた分が、損失になります。それがポンピング仕事とか絞り仕事と呼ばれています。
これは大いに熱効率を下げるので、できるものならそんな無駄をさせたくないという思いがずっと内燃機関屋を悩ませてきたのです。ディーゼルエンジンのようにシリンダーにふつうに空気を吸い込みながら、火花点火で混合気を完全にうまく燃すにはどうしたら良いのか。
一部分だけの空気が燃料と混ざり、その他では燃料が全く行き渡らないような混合ができれば、絞りは不要になります。負荷に応じて、燃料と混ざる領域が変化してほしいことになります。これはなかなか難しいことでした。でも、究極のガソリンエンジンとして内燃機関屋の夢でもあったのです。その思想は、だからずっと古いのです。1970年代の石油ショックのころも当然たくさんのアイディアがありました。ホンダの CVCC が出る頃に、いかに部分的に濃い燃料を燃すかで、種々のアイディアが出ました。三弁式という論文が多く出ました。しかし、結局ものにならなかったのです。当時、CVCC も実は成層給気で話題をさらいましたが、これは NOx対策のためのもので、負荷応答のためというわけではありませんでした。
そして最近、アメリカが燃費規制をはじめそうだという頃になって、それを完成させ、最初に市販したのが三菱でした。競争自動車としては、先に有ったのですが。その後、トヨタ、日産が続きました。これらの技術も、日本が世界に先駆けて世に出し、その技術を輸出しています。
どうやって、その混合領域の分離をしたのでしょう。三菱は、ピストンのヘッド部の形状を家の屋根のように中央を高くし、一方の屋根の面にくぼみをつけました。そして燃料を吸気管ではなくシリンダー内でしかも負荷に応じてタイミングを変えて吹く事にしたのです。負荷が高いときは、ピストンがまだ圧縮を始めるころに吹くことで、全体に燃料が行き渡ります。負荷が低いときは燃料噴射をピストンが圧縮をほぼ終わるころ(上死点と言います)に行います。この噴射弁は上述のピストンのくぼみめがけて吹く構造なので、くぼみの反対側の屋根近くにある空気には燃料は行き渡らないのです。くぼみ側に必要な燃料量だけを供給すれば良いから、全体に供給するより少なくて良い、ということは部分負荷に対応できるというわけです。トヨタ方式も、日産方式も基本的には同様な考えによります。
このようにしてできあがったエンジンは、ディーゼルの良いところを取り込んだわけで、三菱の GDI を開発した安東さんは、「これからだんだんディーゼルかガソリンかの区別が無くなる」とさえ言っていました。
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アイディアがあって、今までなぜ実現できなかったのですか ? |
さて、絞り損失を解決したなら、めでたいことですが、おそらく排気としては希薄エンジンなどと比較してやっかいなことを抱え込んでいると思います。上述のように、「空気のみ」、「適切な混合気」の領域を連続的に分けたわけではありません。単純に二つに分けただけと極論できます。それなら二つの負荷に対応できるだけではないか、ということになりますが、それはハードには二つに分かれているものを噴射タイミングなどを微妙に調整してソフトで対応しているわけです。二つの領域に分ける程度のことは、おそらく 1970年代でも可能でしたが、この連続的に分けるような対応はできなかったし、今市販されているエンジンは、コンピューターシミュレーションで詳細にエンジン内で何が起こっていて、どうすれば連続的な混合領域分けができるのかなどを知ることができるようになってきたのです。また、コンピューターシミュレーションは、本当にそうなっているかどうかの保証ができないので、レーザーなどを用いた詳細な情報を採集する計測技術も発達し、それを利用することで微妙なコントロールをすることが可能になってきたわけです。(余分なことを言いますが、たとえば敦賀2号機の熱交換器破断事故が発生した99年、ある研究者は設計ミスではないと、事故が発生した直後にインタビューでコメントしていましたが、実際は設計ミスでした。原発分野は他分野に圧倒するコンピュータソフトを蓄えています。それによりあらゆるシミュレーションを行い、万全を期しているという自負があるのでしょう。でも、非常に複雑な系だからこそ、実はたとえば実験式が多用され、それが実際の場に合うか合わないかは実験式の適用範囲内ということになりますが、実験式が適用範囲なら、実験してみれば良いわけです。それが普通はできないので、そのままそれで設計が進みます。この熱交換器の例では、高温水と冷水の混合状態が思いも寄らない状態で発生していて、思いも寄らない繰り返し熱応力いわゆる高サイクル熱疲労を起こして破断したと結論しました。ことほど左様に、シミュレーション結果はもう一度再現実験するのが一番ですね)。実はさらに、そのコントロール技術も、電子技術の発達すなわち車の IT化によって可能になってきました。燃料は昔霧吹きの原理で空気と混合していましたが、1980年代に電子噴射技術が確立され、最近はそれがディーゼルエンジンにも適用され、コモンレールという新しい概念も出てきました。吸気管に吹き込むだけなら管内は大気圧またはそれ以下ですからそれほど無理がありませんが、直接シリンダー内に噴射しようとするなら圧縮後の圧力に負けない圧力が必要です。圧縮後の圧力は15気圧以上にも達します。さらに、吸気管での噴射なら吸入行程も経過して火花点火を迎えるため、蒸発に時間的余裕がありますが、吸気行程終了時あるいは、圧縮行程終了間際あたりに噴射する筒内直接噴射方式では蒸発時間がほとんど無いので、噴霧の粒径を非常に小さくしておく必要があります。それに効果的なのが、噴霧として押し出す圧力を高くすることです。そういうわけで、噴霧圧力は相当高圧にする(50気圧にも達する)ことになり、通常の吸気管への噴射ノズルとは違う設計になります。トヨタでは、おそらく同グループのデンソーが開発したコモンレール開発のノウハウが利用できたと思います。
こうして、燃料を直接シリンダーに噴射することが可能になり、長年の夢が実現できたことになった次第です。
それでは、燃費は相当良くなったのでしょうか?ひところの宣伝には 20%以上の燃費向上となっていました。ポンピング仕事をなくすことで20%の向上が可能でしょうか?理論的には、難しいと言えます。なぜなら、通常、ピストンを押す圧力は平均的に10気圧少々です(平均有効圧力と言います、これは膨張行程の平均圧力から、圧縮行程の平均圧力を引いた値であり、これにシリンダー体積をかけたら、圧縮・膨張行程一回転あたりに取り出すことのできる仕事量になるので、指標として使われる値です)。4ストロークエンジンは、圧縮・膨張行程の他に、排気・吸気行程があります。この間にもエンジンは仕事をしますが、これはマイナスの仕事になります。排気が理想的に行われれば、大気圧です。吸気も理想的に行われれば大気圧で、両方の差が無く、仕事はゼロになります(ピストンリングの摩擦などは考慮外としてです)。問題のポンピング仕事で負圧が発生すると、上述の平均有効圧力に相当する値は、いくらがんばってもマイナス一気圧以上にはなりません。ポンピングで達する最大真空度は当然「大気圧マイナス一気圧」だからです。この分が部分負荷のときに損になる量ですから、本来たとえば平均有効圧力が12気圧有ったとしたら、その1気圧分少ないことになるので、筒内直噴で絞りを無くしてもせいぜい8%の得にしかならないことになりそうです。ところが、この平均有効圧力=12気圧を発生しているときと言うのは、全負荷のときでアクセル全開状態ですから、当然ポンピング仕事損失は発生していません。部分負荷のときにそれがあるわけですから、たとえば 1/4負荷のとき、これは市街地で時速40-60km/h程度で走っているときはこんな程度と思いますが、そういうときは平均有効圧力が 4気圧程度に下がっています。その中で 1気圧は25%になるので、20%セーブはありそうです。でも実際は 1気圧ポンピングロスはありえないことと、加減速時は、平均有効圧力がもっと高いので、20%得になるというのは特別の条件ではないかと思います。これはしかし、実際に試したわけではなく、机上の空論で言っているだけですので、責任はとれる話ではありません。往々にして、宣伝より効果が無いではないか、という話を聞くので、こういう解釈ではないか、と思う次第です。
一方、直噴により燃費向上に利く二次効果も有ります。そのひとつが、燃費の向上にこの方式がとくに部分負荷で利くもう一つの理由に、冷却損失の減少があります。通常の吸気絞り方式で部分負荷を実現したときはシリンダー内は全て燃焼ガスでしめられているため、シリンダー内全表面で冷却することになります。一方、筒内直噴ガソリンの部分負荷は、空気のみの部分は圧縮を受けるのみなので、冷却損失が発生するのは主に燃料を吹き込まれた領域となり、結局冷却損失は大幅に減るというわけです。さらに一つが、ノッキングの抑制です。シリンダーに直接噴射するので、ガソリンの気化熱により圧縮前温度が下がるから、ノッキングが発生しにくくなり、その分圧縮比を高くとれます。圧縮比はガソリンエンジンの熱効率を直接支配するので、当然この現象は熱効率向上に効果的というわけです。
さて、このように長話をしていますが、燃費的には上記のようなことで得になることを狙った以上、得をしているはずですが、排気はどうでしょうか。いくら流体解析ソフトを駆使し、最先端の計測器で燃焼の細部まで解析したうえで最適設計をしても、思うままに制御をすることはできない。したがって、燃料が過濃ぎみであったり、薄くて燃えない部分ができたりということは起こりうる。NOx も大変に出やすい当量比 0.9付近を形成するので結構出ることになる。ひところは、点火プラグは真っ黒だと揶揄する声もありました。しかし、最近は触媒技術も進歩し、大変クリーンになっています。たとえば、NOx吸蔵還元触媒です。触媒と言えば三元触媒のこと、というほどにそれは有名ですが、効果を発揮するのは当量比が 1付近(つまり理論混合比と言って、理想的には燃料がすべて炭酸ガスと水になって残らず、また空気中酸素も使い切るような混合の仕方)での話。筒内直噴ガソリンエンジンでは、それは期待できません。NOx吸蔵還元触媒は、希薄で発生しやすいNOxをいったん硝酸塩の形でため込んでおき、リッチ(燃料あまりの状態)で NOxが少ないガスが来たときに、そこに含まれる CO や CH で還元する巧妙な触媒です。NOxが能力いっぱい吸蔵されたのに、リッチな状態が来ない場合は、コンピュータが検知して強制的に一瞬だけ燃料を余分に吹いて、COとHC を送り込む仕掛けも作ってあります。
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それでは、筒内直噴ガソリンエンジンをまとめてください |
以上、筒内直噴ガソリンエンジンをまとめると、
- 熱効率は従来のガソリンエンジンよりアップする。
- 排気はそれなりに処理をすることで、規制値はクリアー。
- 今後のガソリン機関の主流になる可能性が高い。それはハイブリッド車に徐々に移行する間、主役となる。
最後の件は、多くの内外の内燃機関屋さんが描いている将来像です。
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東京都知事、石原慎太郎氏が 1999年にディーゼルエンジンの出す黒煙に業を煮やし、排除策を検討すると発表した。それ以前も、ディーゼルエンジン屋さんにとって、黒煙問題は死活問題になると危惧していた。学会でも、メーカーの重鎮が、懇親会で大学の若手に「なんとかしてくれないと、生死に関わる」と振れて回られたことがある。東京でのこの話はそれから10年も経ってからの話だから、ついに、という感ではあります。ともかく、メーカーがそれほど気にして取り組んだのに、解決がつかなかったことでもある。川崎訴訟、南部訴訟という道路での PM を問題にした裁判も結局は道路側・国側が負けることになり、それはメーカーの負けを意味するものでした。

トヨタ製、ディーゼル PM&NOx除去装置脚注
ディーゼルエンジンで黒煙(PM = 粒子状物質と言って、黒煙が燃料や潤滑剤の油脂分と混ざって少々べとべとした状態になった排気中性分)を抑制しようとすると、燃料噴射圧を高くし、微粒化することで燃料の空気との接触を促進すれば良いけれど、そうすると高圧縮比で燃焼前温度がすでにガソリン車より高いのに、一気に燃えてしまえばその温度は大変に高くなるので NOxが大変な量になって生成されてしまいます。その NOx を触媒で減らそうとしても、すすが出ていると触媒作用を急速に劣化させてしまいます。そのうえに軽油中には触媒の嫌う硫黄分がガソリンより高濃度で含まれているので、すすが無くても触媒は使えないので NOx を減らすことができないわけです。ですから、NOx を下げるために黒煙はほどほどまでしか下げられないのが正直なところでした。
ところが最近(2001年暮れ)、国土交通相はNOx を数年度大幅に減らすと宣言しました。それは、おそらくメーカーがそれだけ余裕ができたということでしょう。開発の目鼻がついたのだと想像します。
その技術は、一つにコモンレール方式があります。ディーゼルエンジンの噴射は従来、エンジンの回転に連動して燃料噴射ポンプを駆動し、圧力を上げてタイミングをみはからって噴射弁のふたを開けて噴射させるというものでした。それがコモンレールでは、常に燃料圧力を1000気圧に達するほどに上げておき、それをそれぞれの気筒の噴射弁に導いておき、車載計算機でその噴射タイミングを自由にコントロールするというものです。一回の燃焼のために、噴射を自由なタイミングで数回行うことも、それぞれの噴射量を細かく制御することも可能な画期的なものです。こうすることで、すすも発生しにくく NOx も異常発生させない燃焼をさせることが可能になったのです。
さらに、燃料自体を変えてしまえという方向が出てきました。もともと、火力発電所などは地球温暖化抑制のためと、エネルギー安定供給の立場から、石油依存を弱めようとしていることと一致する方向として、天然ガスへの燃料シフトが行われています。ディーゼルエンジンも燃料を天然ガスに変えれば良いのですが、前述のように、天然ガスは運搬性が圧倒的に悪く、普及の抵抗になっています。ところが昔から、DME(ジメチルエーテル)と言って、メタンから作る化学製品が、スプレーなどの圧力発生物質に使われていました。これは燃料中に酸素を含むので、アルコールのようにすすを出しにくい燃料でもあるのです。そこに目をつけたわけで、盛んに研究されました。その物理的性質はプロパンと非常に似ているので、扱いも慣れているわけです。LPG自動車と同じ扱いというわけです。ただ、圧力をかけたタンクを必要とするので、軽油のようなわけには行きませんが。数年前まではこの DME の製造は効果でしたが、最近安価に製造する方法が確立されにわかにこの燃料をディーゼルエンジンに使おうという機運が高まったわけです。これを使えば黒煙は出ない、硫黄も含まないので触媒の被毒もないから NOxもコントロールできるというわけです。
そして、現在まだ可能性の段階ですが、均一混合気圧縮自着火(HCCI = Homogeneous Charge Compression Ignition)エンジンの開発があります。これはおもしろい現象ですね。上述の筒内直噴ガソリンエンジンは、部分的な燃焼をさせようという、ディーゼルにすり寄ったアイディアが実現したものです。ところがディーゼルエンジンの方は、従来のガソリンエンジンのように均一混合気で爆発させた方が良いというわけです。これは、ひとえに PM を減らしたいからです。煤が出るのは、一般に燃料は炭素がいくつかつながったものの外側に水素がくっついた構造をしていますが、その水素は酸素と非常に速く結合するため、のろのろしている炭素はもし酸素が不足していると酸化反応から取り残されてしまうわけです。それでも酸素が少々不足程度なら、一酸化炭素になって少ない酸素を分け合うのですが、大幅に不足するようになると、どうにもならなくて炭素が分子として取り残され、そういう取り残された炭素が集まって煤になるのです。ですから、すすを減らすには均一予混合にしてやれば良いというわけです。これではガソリンエンジンで問題になった部分負荷をどうするのだ、と心配になりますね。でも問題ないのです。圧縮比がガソリンエンジンよりずっと高いので、非常に薄くても自着火して燃えてくれます。この燃焼方式も研究され始めて結構になりますが、まだ実現されていません。それは、自着火という現象の気まぐれさにあります。化学反応は温度の影響を強く受けますから、ほんのちょっとした温度の違いで着火したりしなかったりします。とくにエンジンは、残留ガスと言って排気しても圧縮比に相当する死空間を残します。そこには1000度近い排気ガスが残っていて、そこに新しい空気を吸い込みます。水素エンジンのところで述べたように、密度の違うガス同士はなかなか混合が進まないものです。絶対温度が 3倍も違うので密度も 3倍も違います。水素と空気の 15倍の違いと比べればその違いは小さいものの、密度差は混合を妨げます。ということは圧縮後の温度分布が存在することになります。均一混合気であっても、実は残留ガスと新気との層ができている可能性があります。新気の近くに残留ガスが有れば、圧縮後の温度は他より非常に高くなります。するとそこは先に自着火します。その混合の程度が、サイクルごとに一定なら、いつも自着火は同じタイミング(クランク角度)で起こりますが、サイクル変動と言ってサイクルごとに常に同じ事が起こるとは限らないのがエンジンです。つまり、自着火の起こるタイミングが変動することになります。自着火が発生すると、通常あっという間に燃えてしまうので、圧力も一気に高くなります。そういう燃焼は、圧縮直後(上死点)で発生してくれないと困ります。ところが、そういう現象はどうしても圧縮上死点以前に発生することになります。もし、圧縮上死点までに自着火しないなら、あとは温度が下がるのでほとんど自着火する可能性はありません(着火遅れという現象があるので、その遅れ機関が膨張に入ってからやってくる場合には、上死点後でも自着火する可能性はあるでしょう)。上死点前の着火は、圧縮仕事を増やすため燃費は悪化します。また、到達圧力は非常に高くなり、エンジンの振動も非常に大きくなります。だから、非常に正確に上死点で自着火させなくてはならないのですが、それができない、という状態で多くの研究者がその制御方法を様々な角度で調べているのが現状です。もし、この方法がうまく行くとなると、NOx は圧倒的に少ないと言われています。一方で、HC が思ったより多く出るという報告がなされています。当初、日本で話題が沸騰した HCCI ですが、2002年の国際燃焼学会ではボルボの国スウェーデンの Lund 大学が圧倒的に多くの論文を出していました。この学会はどちらかというと、engineering というより science を極める学会と言われています。ちょっと変わった現象と私は思うのですが、HCCI は車搭載エンジンとしての実用化は難しいと見る研究者が多くなっているのも現状です。今後しかし、このエンジンが完成しないと、内燃機関は燃料電池に席を奪われるという研究者も居ます。
80年代には大々的に研究されていながら、その後泣かず飛ばずでいた水・軽油エマルジョン燃料についても少々触れておきましょう。そんなことをするのは、水を含ませて燃焼温度を下げ、NOxを減らすことがねらいです。実際、ガスタービン燃焼器などではそういうことを行います。上述のように thermal NO は、燃焼温度が高いと急に発生量が多くなるので、なんとしても下げたいのです。どうせ、ガスタービンでは使う温度はタービンブレードで溶けないように下げるわけだし。圧縮機からバイパスした空気を混ぜるか、水で冷やすかの違いです。ディーゼルエンジンでも、水噴射をしてもNOx低減のためには同じ効果を狙うことができますが、別の噴射弁を付けなければなりませんね。いや実は、エマルジョン化して燃料と同じ噴射弁から霧吹きした方が良い効果があるのです。それは、圧縮後の700度にも達するシリンダー内でそうしたエマルジョン燃料を噴霧すると、沸点の低い水が先に沸騰します。すると、周囲にまとわりついていた軽油を爆発的沸騰の勢いで吹き飛ばしてくれます。これをその研究者達は micro explosion(ミクロ爆発)と呼んでいます。つまり、超高圧噴射して噴霧を細かくする以上に、細かくする効果を水が担ってくれるわけです。当然、空気との混合が促進されるので、燃料の燃え残りは減り、すす排出量が減少します。ということで一石二鳥というわけです。ただ、これには欠点もあり、
- 分離するまでの期間があまり長くない、
- 水が入っているので燃料系の配管などに錆を呼ぶ、
- 冬凍るので使えない、などです。
1について、なかなか軽油と水が混じり合わないのは誰でも知っている事実ですね。でも牛乳は水に油が溶けている好例ということも皆さんご存じですね。それを強制的に溶かそうという代表が、身近にある石けんです。一方が水となじみ、一方が油になじむという性質の分子でできています。そういう性質の物を界面活性剤と言います。界面活性剤を用いれば、軽油も油と溶け合います。ディーゼルエンジンの燃料としては、主成分が軽油で、少量の水が中に浮いている状態が望ましいですね。エマルジョン燃料もその界面活性剤を用いて作るります。界面活性剤を多くすれば分離までの時間を長くすることが可能ですが、普通の界面活性剤は硫黄を含んでおり、その量を多くすることは今の脱硫軽油の方向に逆行します。その期間を界面活性剤を使わない、あるいは、燃焼して排気されても環境を汚さない界面活性剤を使って、長くすることが課題です。それを逃げるのが、車載で混合する方法です。実際、2002年10月、日経環境技術賞を受けたのはコマツ製作所で、50:50の混合を車載で行うタイプです。これは、当然、軽油の他水をも車に積んでゆく必要があります。S&Sという会社もやはり水エマルジョン燃料を使う方法を研究しています。それもやはり、車載で混合します。もし、車載でなく分離しないエマルジョンができれば、燃料系統は今まで通りのものが使えることになりそうですね。錆びも解決できれば。
その錆の2について、上記コマツグループは、錆びないエンジンと燃料系を開発したといいます。ただ、私の恩師の北海道大学名誉教授・村山正先生(2002年現在、北海道自動車短期大学・学長)は、80年代この研究のリーダーシップを取っておられたのですが、錆の問題を言われるから、数ヶ月旅する船の動力に使われる大型ディーゼルエンジンで試してもらった後、噴射弁を自分で分解して調べたけれど全く錆は無かったと言って居られます。常に錆びるというわけではないようです。
最後に 3の凍結問題ですが、日本にいる場合、九州の一部を除いて、冬場にはどうしても氷点以下を経験します。でも、フランスではすでに公に使っているようです。フランスは当然雪も降る寒い季節が有ります。ですから、問題ないのかも知れません。今、知り合いにその点を質問しているところです。わかったら、ここに書き加えましょう。
このように、ディーゼルエンジンは最近になって大幅に進化しようとしています。おそらくメーカーや研究者のこうした楽観姿勢が国土交通省の強気な NOx低減宣言だったのでしょう。
今のところ、ハイブリッド乗用車はガソリンエンジンを使っていますが、海外メーカーはディーゼルエンジンを使うのを当然のように言っています。ハイブリッドカーは燃費が売り物のはずだから、そのためにはガソリンエンジンより熱効率の良いディーゼルエンジンを使わない法は無いという訳です。もし、そういうハイブリッドカーを作れば、燃料電池の効率が良いと言ってもひけを取らないという算段です。そうなれば、開発状態では一台 1億円を下らない、大量生産しても庶民の購入意欲をそがない程度までコストダウンできる保証はどこにもない現状では、ディーゼル電気ハイブリッドカーの勝算は高いと見ているわけです。そのためにも、排気がきれいでなくてはならないので、今後もまだまだディーゼルエンジンの排気浄化技術革新が行われてゆくでしょう。
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電気自動車は、何と言っても無公害だから良いのでしょ?
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最初に、多くの人が誤解している点を指摘します。「電気自動車は、NOx も CO も未燃炭化水素も果ては温暖化ガスである炭酸ガスも出さない、無公害自動車だ」というよくなされる説明についてです。このことが成立するのは、すでに電気自動車も電力も存在していて、単に走るだけの場合のことです。
電気を何から取るのか、というところですでにこの主張は崩れてしまいます。現状では、電力会社から引き込んだ電線から充電するでしょう。その電力は、電力会社にもよりますが、平均としては60%程度は化石燃料から発電しています。つまり、CO, NOx は規制値以下に除去するよう対策がなされていますが、CO2は現状では排出しっ放しですね。CO, NOx も規制値以下ではあっても、「無公害」ではありえないのです。
今後、それでは無公害になりうるのでしょうか?原子力政策を進めるならば CO, NOx, CO2 は出さないと言えますが、放射性廃棄物の問題が残ります。さらに原子力発電所の建設で、熱が必要になります。このとき他の原子力発電所で発電した電力で加熱してできれば(放射性廃棄物を考慮しないとして)「無公害」の前提は崩れません。が、加熱できる温度は燃料を燃してできる温度よりは高くしにくく、結局は燃焼させることになるでしょう。たとえば、セメントを作るときなどです。燃焼も水素を燃せば、CO, CO2を発生しませんが、NOx は出ます。酸化剤として空気を使わず酸素を作って使えば確かに生成されるのは水だけになります。
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必要分だけ太陽光で電気、さらに水素と酸素を発生させれば、可能かも
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そういう時代はまだまだ先のことで、ここ数十年はそういうことは起こりません。あまり細かいことを言うな、ということでしょうが、「真に無公害!」と言わないほうが良いし、裏にはそういう事実があることを知っていたほうが良いでしょう。なぜこんなことを言うのかというと、大学に入ったばかりの機械工学を目指す学生に「電気自動車は無公害とは言えない」という話をすると、かなりの学生が驚いて「まったく無公害と思っていた」とレポートに書くから、一般の方はそれ以上に知らないのでは、と思うからです。実に方々で「電気自動車は無公害」と気楽に説明されているからでしょう。
太陽電池自動車、いわゆるソーラーカーが出てくるのではないか、という期待も有りますね。でも、結局バッテリーが必要です。他のページで太陽電池の話をしていますが、変換効率がたとえ100%で、真夏の昼天気も上々として、屋根を全面太陽電池で埋め尽くしたとして小型車ならせいぜい4m2、4kW。馬力にして 10馬力に達しない。ソーラーカーレースで優勝するようなものは、太陽電池だけで一億円のオーダをかけて単結晶(変換効率 25%程度)を採用している。一般に経済的に入手できるのは多結晶(15%)、アモルファス(9%)。こうなると、とてもそのままでは走れないことがわかりますね。たとえ走れたとしても、太陽電池を作るには電気が必要で、またまた問題が無公害とは言えない矛盾に陥るわけです。
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現状で無公害とは言えないけれど、内燃機関よりは低公害ですよ
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もちろん、内燃機関より相当低公害であることは疑い無いでしょう。火力発電所で発電した電力から充電するとしても、火力発電所の排気は自動車の排気よりずっときれいだからです。火力発電所は、普通の家庭のガスコンロと同じように、ずっと継続的に安定に燃焼が起こっていますから、それだけ排気をきれいになるよう制御することが簡単だからです。自動車用エンジンはこれに対し、速く回ったり、出力が変化してそれに応じた燃焼制御をきめ細かく行わなければならず、きれいに燃すことが非常にむずかしいのです。とくにディーゼルエンジンは、その燃焼の仕方がどうしてもクリーンにしにくいのです。ですから、発電所の電力を使うことはよりクリーンなわけです。また、最初に述べたように充電したあと走るときは確かに無公害と言えますから、最近話題を呼んだ尼崎訴訟の神戸判決のように、あるいは東京都のディーゼルエンジン規制のようなことはおこらないことになります。つまり、公害の発生場所をコントロールすることが可能なわけです。内燃機関を用いる自動車の場合は、走りながらそこで大気汚染をしてきていましたが、そのエネルギー発生を発電所に任せるわけですから、今までは電機器具のために発電していた分に、さらに道路を走るいわゆる陸送の必要とする電力も発電所に頼るようにしようということになりますから、原子力ならその立地問題、火力ならその大気汚染物質出を道路から発電所に集中させようということになる次第です。ちなみに、日本でそうエネルギー消費量の3割程度が運輸関係でその多くが陸送です。電力での消費割合も3割程度ですから、運輸関係をすべて発電で賄うとしたら、現状の発電所を倍増させなければならない計算になります。これはしかし大げさですね。内燃機関の実質熱効率と、電気自動車にしたときの発電所から送電から含む総合効率を考えると、もう少し少なくて済むでしょうね。
さて、将来の話から逆に昔に戻りましょう。電気自動車が登場したのは、1873年のことと言われています。当時、鉛蓄電池を使っていてガソリン自動車より性能が良かったのです。たとえば、時速100km/hの電気自動車は、100年前にすでに登場していたのです。しかし、1920年頃には性能が向上したガソリン自動車にシェアを抜かれてしまいました。戦争中、ガソリンが不足して日本で電気自動車が復活しかけたことがあります。なになに、ガソリンすなわち石油が不足したら発電できないから、充電もできないではないか、とお考えかも知れないですね?でも大丈夫、そのころ日本の電力は水力に頼っていました(水力発電で十分足りていた、というわけです)から、ガソリンが無くても良かったのです。そのころに戻れば、自然エネルギーだけで生きて行けるんですね。
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100年以上前に登場し、公害問題が大きくなって再び復活したのです
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さて、今は少し下火になったのですが、1990年ごろ、アメリカは電気自動車で日本のメーカを挑発していました。アメリカはマスキー法という非常に厳しく守りきれないような排気規制をしかけたことがあります。それに対し、アメリカに輸出をもくろんでいた日本の各メーカはアメリカメーカより早く良い対策車を生み出し、そのほかの性能もアメリカ車を凌駕するものを送り込んだため、アメリカ車は売れなくなってしまった後のことです。それを巻き返すために、究極の対策は電気自動車だ、というわけです。その後、アメリカ車は息を吹き返し、激しく日本車とシェアーを争っています。そんななか、カリフォルニア州は再び厳しい規制すなわち、ローエミッション車(低公害車=LEV)、超低公害車(ULEV)、ゼロエミッション車(無公害車=ZEV)を販売数の一定割合を占めるようにという規制をすることにしたのです。これには、電気自動車を作るしかないというわけで、日本のメーカも1998年頃までは相当真剣に取り組んでいました。
電気自動車と言っても、蓄電池には何を使うのか、モータを交流にするのか直流にするのか、充電はコードを使って行うのか誘導電流により非接触で行うのかなど、効率的な方法を先に開発し、世界の統一規格とすることができれば特許などで莫大な収入が見込めるという次第。各国各メーカーが開発競争にしのぎを削ったわけです。
まず蓄電池ですが、1990年代も当初は鉛蓄電池か密閉型ニッカド電池でした。これらでは航続距離がせいぜい 100km 程度。ここに新しく Ni-MH電池と Li イオン電池が開発され、航続距離が 200km を超えるようになり、電気自動車が有望視されるようになったのです。充電方式は、効率は劣るものの簡便さから交流誘導式が有望視されています。最高速度も現状では十分ではありません。せいぜい 100km/h 少々です。日本を走るのだから何も 100km/h 以上は不要ではないか、とお思いでしょうが、実は出力(馬力)が低いのです。坂道を上るときは、荷物を満載したトラックのように登坂車線をゆっくり上るということになります。ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンが排気問題を度外視すれば、いかに優れた性能を持っているか、思い知らされる次第です。
電気自動車は、世界を席巻するでしょうか?現状は悲観的ですね。200km 程度まで延びたとは言え航続距離の短さは、とても十分ではありません。東京まで、現在のエンジンなら無給油で行けますが、電気自動車は途中充電の必要があり、しかも充電時間がばかになりません。また、バッテリーは重放電を繰り返すと劣化しますから、資源の問題、産業廃棄物の問題などが出てきます。今後これらの問題がどこまで解決されるかにより、今後の普及を大きく左右します。
エネルギー利用効率はどうでしょう?現状では、発電所で発電した電力で充電しなくてはなりませんから、発電所の末端効率=約33%が大元になります。これから上述誘導方式で充電します。さらに、充放電の損失があります。これに対して、ガソリンエンジンの最高熱効率は約30%、ディーゼルエンジンは同じく 35%程度。ここで、最高熱効率と書いたことが内燃機関の欠点を物語ります。すなわち、通常、とくに市街地走行では出力の半分以下の部分負荷運転です、その効率といえば10%台、場合によっては 10%台の低い方になります(このあたり、詳細に知りたい人は、次のハイブリッドの項をご覧下さい)。電気自動車は諸々の変換をしてゆくうちに効率が落ちますが、10%台までは下がりません。そこが電気自動車の排気がきれいという上にもう一つの売りになるわけです。結局、普及のキーポイントは上述の航続距離、充電の手間、重量、バッテリー、価格ということになります。
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ハイブリッドカーや燃料電池自動車として、活躍が期待されています
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ともかく、最近各メーカはあまり電気自動車に力を入れて宣伝しなくなりました。でも、この電気自動車開発の努力が無駄になったというわけではありません。なぜなら、ハイブリッドカー、さらには話題の燃料電池自動車にその技術がそのまま使えるので投資は十分回収できるわけです。いや、実はとくに欧米諸国はハイブリッドカーでは日本に先を越されたということか、燃料電池自動車が日の目を見ないことには電気自動車の投資が回収できないので、死にものぐるいで燃料電池自動車に力を入れているのです。これはそれぞれの項でまた説明しましょう。ここで私が言いたいのは、電気自動車はもはやどのメーカも魅力を感じていないらしい、ということです。私自身も、電気自動車が台頭する時代が有るとしても、相当先のことだと思っています。
ただし、全く電気自動車の出る幕はないという訳では決してありません。たとえば今でもスイスのアルプスなど自然を大切にするところでは、多くが使われているし、同様に町の自然を壊したくないところなどでは、これから電気自動車以外の進入を禁止するところも出るでしょう。また、長距離でなければ、十分電気自動車の利点が発揮されるので、たとえば市街地のいくつかに拠点を設け、そこに貸し出し電気自動車(せいぜい二人乗りのコンパクトカー)を置いておき、利用したい人が予約すると借りられるというカーシェアリングにはうってつけかもしれませんね。実際、神戸や横浜で試験的に実施されています(いました?)。
また、電気自動車が出てくるのは相当先だろうとしましたが、燃料電池に話題が移ってしまったのは、電気自動車の欠点があったからで、それをまとめると、
- バッテリー容量がなかなか大きくならない
- 充電時間がかかる (急速充電が可能になってもインフラも問題、平成14年現在で36ヵ所)
- 価格が下がってこない
- 温度の影響を非常に受けやすい
ということでしょう。これらのうち、とくに容量と充電時間の問題がクリアーされると、燃料電池車は不要になるかもしれないですね。実は、燃料電池車はバッテリーを積まなくてはならないですね。充電時間の問題は、この場合大きな要素ではないですが、他は燃料電池と共通の問題です。あとは、充放電効率がそれほど低くなければ、燃料電池の長所である、燃費が良い、排気がきれいということも共通なので、わざわざ高い燃料電池を積み込む必要は無いことになりかねません。
この電気自動車の燃費について、燃料電池の最後のところで、燃料電池やハイブリッド車との比較で紹介しましょう。
それより、電気自動車の範疇に入ってきたハイブリッド車がその電気自動車の技術を継承しながら、電気自動車や燃料電池のうたい文句に近い性能を達成しそうな雲行きです。今は日本の独壇場ですが、アメリカが本気で取り組み始めれば、トヨタ、ホンダも黙っては居られないので競争が激しくなり、いよいよインサイトという二人乗りの軽量車ではなく、普通の車で3リッター・カーやさらに先には 2リッター・カーが出てくるのではないでしょうか。
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慶応大学が開発している「エリーカ」は100円で100kmつまり驚異のリッター・カーとのことですが?
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それは多分うたい文句であって、現状はほど遠いでしょう。実際この車、バッテリーを 48kWh分積み、それをフル充電して200km走ると言っています。これでは、100円でわずか12kmぐらいしか走れないので、プリウスや燃料電池どころか、ガソリン車にも負けてしまいます(下の燃費比較表を見てみてください)。
2リットルカーをどの種が実現するかですが、ディーゼル・ハイブリッドが有力でしょう。
それでは、そのハイブリッド車を見てみましょう。
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どうして通常のエンジンより複雑なものを作るのですか?
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ハイブリッド車は、電気自動車でもあります。上述の電気自動車の項で予告しましたが、電気自動車もハイブリッド車もピストン式内燃機関の欠点から来る熱効率の悪さを凌駕できるところから、ガソリン機関やディーゼルエンジンに勝る可能性に期待されているのです。もともとハイブリッドは二子の意味ですから、二つの動力源を使うなら、何でもハイブリッド車になります。一般にはエンジンとモーターの組み合わせをハイブリッド車と言っていますが、古いところではエンジンとフライホイールの組み合わせ、最近は燃料電池の始動性の悪さを補うための、燃料電池+充電池ハイブリッドという概念も出てきています。この章ではしかし、エンジン+電気モーターを扱います。
通常のいわゆる内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン)を使う自動車の熱効率は全負荷、つまりアクセル全開のあたりでは 30%近くになり、特殊なエンジンでは 50%に迫るものもあります。ピストンに作用するガスから見るともっと高い熱効率になるのですが、機械的損失のうちとくにピストンを用いたエンジンはピストンリングがガス漏れを防ぐため常にシリンダーをこすっていて、これがせっかく発生したガスのなす仕事を結構奪ってしまって熱効率を下げています。この損失はアクセルを緩めてピストンが出そうとする力を弱めたとき(部分負荷時)も、あまりその大きさが変わりません。
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低負荷時の機械摩擦損失が、相対的に大きくなることです
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ですから、負荷が小さいときは走ろうとするエネルギーの他にシリンダーとの摩擦などのために奪われる割合が増えるのです。全負荷時はこのロスが 15-20%程度で済んでいるのが、部分負荷時は 50%にもなろうとします。アイドリング時はこれらロスのためにほとんどのガソリンを使っているし、エンジンブレーキ時はこのロスは車の持つ運動エネルギーを逆に吸収さえしているわけです。
ガソリン機関はさらに、筒内直噴ガソリンエンジンの項でも説明したように、アクセルに連動した弁(スロットル弁)がエンジンに入ってくる空気量、したがって吸気圧力を下げることで負荷応答(出力調整)をしています。このためピストンの裏側には常に大気圧がかかっているのに、部分負荷の吸気時はピストンの表面は負圧ですから、力を加えてやらないと動かないという、ブレーキがかかった状態になります(このとき必要な仕事をポンピング仕事と言います、余談ですが、熱力学第一法則は仕事などエネルギーは保存されますが、ポンピング仕事をピストンがしなくてはならない、そのために、燃料を余分に使う必要があるのですが、それではその仕事あるいは燃料の発熱を受けて得をしたものがないと熱力学第一法則は成り立たないことになります、それは誰だかわかりますか?機械工学科の学生は、わかっていなくてはなりませんよ !! )。ディーゼルエンジンはこのような負荷応答をしなくて良い仕組みですから、部分負荷時の損失はガソリンエンジンより少なく済み、熱効率は良くなりますし、逆にエンジンブレーキの利きはガソリンエンジンの方が強く感じることになります。そういう次第ですから、ガソリンエンジン搭載乗用車の、まさに部分負荷の典型である 60km/h定地走行時の熱効率は通常 15%(通常言われている内燃機関の効率は、最も良いときのものが示されているのであって、15%はその値の半分程度)有れば良い方ということになるのです。
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ハイブリッド車は、ガソリン車の低効率の部分負荷を避ける
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ということでハイブリッド車は、ともかくエンジンには熱効率の良い全負荷で回ってもらって(方式にもよりますが)不要な出力分は充電に回し、それでも余るならエンジンを止めてしまって充電した電気だけで走ろうというものです。こうすれば、全体としての熱効率を 30%に近づけられるというものです。というわけで、60km/h 程度の定地走行燃費で見ても倍になりそうですね。従来型エンジンと比較し「加減速時」にもある程度燃費を稼げます。ブレーキ時にモータを発電機にして使うからで、これについては、40%程度が回生できるとされています。ただ、全体ではどうしても重くなるので、加減速があれば 100%回生でない限り損失が多くなる可能性もあります。また細かく見れば、ピストンエンジンは加速時には燃料をリッチにすること、マニュアル車はクラッチを切っている間の空転ロス、クラッチ接続時の摩擦損失、オートマチック車の特性から来る加速時の滑り損失の増大などがあり、ハイブリッドでは加減速回数を減らすことでこれらのロスを減らすことができます。だから、どう軽く作るかということも重要です。
逆に、加速時の損失分を回収することが大きなメリットなのか、摩擦損失低減が大きなメリットかは、どう走るかにより異なります。たとえば、市街地走行で加減速が頻繁に行われるような運転はブレーキ回収効果が、法定速度程度で長時間走るなら、摩擦損失の低減効果が大きい。加減速が多くても、それほどアクセルペダルを踏み込まない急加速を好まない運転の場合はやはり摩擦低減効果が大きい。
電気自動車は、逆に加速時に電池の内部抵抗が大きくなって損失が増えます。内部抵抗が増えるということは、電池での発熱が増え温度が上昇し、一層内部抵抗が増えるというのが一般の電池の特徴です。ですから、ある程度大きな電池を搭載する必要が出てきます。上述のようにそれ以上に現状では走行距離を満足させる電池は大きくなりすぎることが市場価値を低くしています。日本のエンジン技術がアメリカの規制をクリアーして勢いが有った頃、欧米は排気規制を強化するとして電気自動車で日本の先を行こうとしたようですが、結局うまく行かなかったし、さらにはハイブリッドカーでも日本に先行され、かと言ってせっかく電気自動車に投入した膨大な開発費をどうするのか、というとき燃料電池車が救世主として現れたという次第でしょう(独断で見当違いの分析かも知れません)。ハイブリッドカーも、先行していた電気自動車の開発技術が充分生かされていますから、結構早く良いものが出てきたわけです(メーカー当事者の弁)。恐らく、充電式の電気自動車は少なくとも近い将来は特殊目的以外には台頭してこないと思います。燃料電池が蓄電池の問題をクリアーしてくれると言う期待が大きいからです。ただし、燃料電池車は、うまく行ってもハイブリッド車にかなり遅れて台頭してくるだろうというのが多くの専門家の見方です。燃料電池車に期待されている燃費はハイブリッド車と大きくは変わらない程度です。そういう観点からするなら、燃料電池車の利点は、排気が非常にクリーンという点です。
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ハイブリッド車的な燃費は、ドライバーの努力でできる
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燃費の立場から言うなら実は従来のピストン式の内燃機関の特徴を良く知っていれば相当に燃費を稼ぐ運転ができることを理解して下さい。実際、今乗っている車を乗り捨ててハイブリッドカーに乗り換えるより、現在少々燃費が悪い車であっても乗り方を変えれば燃費を 30%程度まで上げる可能性が有り、比例して NOx も少なく、温暖化ガスも排出量も少なく、製造のための環境負荷を考えれば乗り続けるのが良策となります。やればできる範囲です。いかがでしょうか?
全負荷は熱効率が良いというのなら、違反は覚悟で地球環境を守るため、アクセルを踏み込んで極力高速で走ろうなどと思わないで下さい。燃費と熱効率は直接対応しません。高速で走れば風圧による抵抗が圧倒的に効いてくるので、急激に抵抗が大きくなります。エンジンはその抵抗にうち勝つための効率は上がるのですが、もともと無駄な抵抗を発生させているわけですから、ゆっくり走った方が熱効率が悪くても燃費としては良いことになります。加減速が入ればなおさらゆっくり走った方が良いことになります。ハイブリッド車は従来車以上に低速で燃費が良いことになります。誤解の無いように、運転して下さい。
各社ハイブリッド開発・販売状況(2002.8現在)
| メーカー |
車 名 |
車両概要 |
発売時期 |
特徴 |
| システム | エンジン | 電池 |
| トヨタ |
コースター |
シリーズ |
1.5gガソリン |
シール鉛 |
'97 |
交流誘導 |
| プリウス |
トヨタ方式 |
4気筒ガソリン |
ニッケル水素 |
'97 |
交流同期 |
| クラウンマジェスタ |
マイルド |
3.0ガソリン |
鉛 |
'01 |
交流同期 |
| エスティマHB |
マイルド |
2.3gガソリン |
ニッケル水素 |
'01 |
前後輪とも交流同期 |
| 日 産 |
ティーノ |
パラレル |
4気筒ガソリン |
リチウムイオン |
'00 |
交流誘導 |
| ホンダ |
インサイト |
パラレル |
3気筒ガソリン |
ニッケル水素 |
'01 |
交流誘導 |
| シビック |
アシスト |
1.3gガソリン |
ニッケル水素 |
'01 |
前後輪とも交流同期 |
| 日野 |
HIMR |
新HIMR |
9.9gディーゼル |
シール型鉛 |
'96 |
ターボインタークーラー 付きディーゼルエンジン |
米国は、2003年からハイブリッド車を投入すると言っている。
世界の自動車メーカーの取り組み(2002.10.20・中日新聞)
| メーカー | 状 況 |
| ゼネラル・モーターズ(米国) | 年間10億ドル(約1250億円)の研究費を燃料電池車開発に投入。次世代燃料電池車「ハイワイヤー」事業計画を9月パリ・モーターショウで発表 |
| フォード(米) | 世界で発となるハイブリッド SUV(スポーツユーティリティー車) 「エスケープ HEV」そ2003年に発売 |
| トヨタ(日本) | ガソリンエンジンのハイブリッド車「プリウス」を全世界で約10万台販売。日野自動車と共同で燃料電池バス「FCHV-BUS2」を東京モーターショウに展示する |
| ルノー(フランス)・日産(日本) | 先行するトヨタとハイブリッド技術について16年以上の長期、継続的交流することで合意。2006年に米国で新型車発売を計画 |
| ダイムラー・クライスラー(ドイツ、米国) | 燃料電池車「NECAR5」の米大陸横断に今年 6月成功 |
| フォルクスワーゲン(ドイツ) | 天然資源などによるバイオマスなどを燃料とする車を開発中 |
| PSA プジョー・シトロエン(フランス) | 2003年中にミニ・ハイブリッド車を発売予定 |
| ホンダ (日本) | 新型セダン「シビック・ハイブリッド」を発売。2005年までに国内平均燃費の25%向上(1995年比較)を目指す |
実は、ハイブリッド車と言うと内燃機関と電池+モーターと思っている人が居ますが、1980年代にはエンジンとフライホイールのハイブリッド車が日本ばかりか米国などでも盛んに研究され試験車も作られていました。最近は燃料電池の始動性が悪いので、電池を積むのは当たり前になっています。これもハイブリッドです。同じ内燃機関であっても、ガソリンエンジンの他にディーゼルエンジンを使っても良いわけで、日本では乗用車にガソリン車を使っていますが、ディーゼルエンジンの方が熱効率は良いし、フルハイブリッドになれば、最も適したところで充電できれば良いというわけで、後発の欧米はディーゼルエンジンを使うとしています。ガスタービンを使っても良いですね。これだと、振動はほとんど無くなってしまいます。効率が悪いのが欠点ですが。
ここでは、エンジンと電気モーターの組み合わせとしましょう。そのエンジンとモーターがどう動力として働くかで、大別してパラレル方式とシリーズ方式とがあります。パラレル方式は、動力をエンジンとモーターが同時に働くことができる。低負荷で良いときはモーターだけで走るが、負荷が大きくなるとエンジンも働く。そしてエンジンは主に充電に使う。
シリーズ方式ではエンジンは充電に専念する。だからエンジンは排気、燃費に好条件で作動させる。が、モーターはすべての負荷に応答しなくてはならないので、バッテリーもモータも十分大きなものが要求される。重くなるため、パラレルより燃費が良くなるとは限らない。
そういう分類では、2002年現在、日本で市販されているハイブリッド乗用車プリウス、インサイト、エスティマ、クラウン、そしてシビックは、いずれでもない。パラレル方式に工夫を加えたものといえる。それぞれその工夫がである設計思想が違います。大きく分ければ、プリウスが完全ハイブリッドに近く、他はアシスト的です。アシスト的でも、クラウン、エスティマと、インサイト、シビックはまた違います。逆に、シビックはインサイトで開発したシステムをほとんど借用しています。ここで両者を比較してみます。プリウスは、ほぼ完全なハイブリッド車なので、車サイズはシビックと同様ですが、エンジンサイズは 1500cc、モーターも 33kW、電池容量も 220Vx65Aあります。一方のシビックのエンジンサイズは 1300cc、モーターは 10kW、電池容量も 110Vx60Aと少な目です(正確ではありません、うろおぼえのデータです)。これだけなら、以下のように区別できます。プリウスは、高速走行など負荷が高いときもハイブリッドシステムが多用される。モーターが主役に近く、エンジンはどちらかというと充電に使われるべきもの。シリーズに近い使い方がうまい使い方かもしれない。シビックはこれに対して、モーターが小さいので、一定速度などではモーターだけが働き、加速時はエンジンにモーターがアシスト的に働き、充電は、エンジンに余裕があるとき(たいていの状態では余裕がある)に行う。時速60kmを超えると10kWのモーターだけでは力不足なので一定速度運転であってもエンジンの力が必要になる。60kmを超える運転は高速道路しか無いので、通常の運転では燃費が非常に良くなる。
こう考えると、シビックの燃費が非常に良いのが理解できます。
ところが、実はそうは行かないところがありました。実際私はカタログを手にするまで、シビックハイブリッドの仕組みを知らなかったので、上記のように信じていました。カタログを見たら、動力システムはインサイトと同じでした。これは、非常に巧妙にモータを作ってあり、エンジンの背面、トルク軸からディファレンシャルギアに至る間に薄く作ったモーターを入れ込んだのです。これでスターターを兼用にしています。これでいかにも効率的に思えるのですが、せっかくのハイブリッドの良いところが半減してしまいます。すなわち、モーターだけで駆動してエンジンは高出力状態だけで動かす、ということができなくなるのです。常にモーターとエンジン回転数は同じですから、モーターの力で十分であっても、エンジンを止めることができない、ということは上述の摩擦は常に発生するのです。足しになるとしたら、加速時のパワーをアシストするので、エンジンサイズを同クラス車のそれより小さくできること。それに、ブレーキによる車の運動エネルギーの回収ができることです。エンジンサイズを小さくしたとしても 1500cc程度から1300cc程度への軽量化ですから、バッテリーを積んだり、コントロール用電子回路などを考えると、それほど得ではなく下手すると、全体では重くなるでしょう(ホンダさん、済みません)。重くなってもブレーキ回生が効率よく行われるなら、大きな問題とはなりません(転がり抵抗分は損が増えますが加速に使うエネルギーはある程度戻ります)。ブレーキ回生効率=40%程度とは、プリウスの例ですが、シビックでもそれを大幅に上回るということはないでしょう。となると、大幅に燃費が良くなるとは私は考えにくいのです。それでも、初代プリウスの10・15モード燃費は 29km/gで、アシストハイブリッドのシビックは29.5km/g。なぜフルハイブリッドより良い燃費なのか、不明です。なお、この後、プリウスは 2003年、あっと驚く35.5km/gを達成してしまいました。ホンダ2人乗りインサイトは特別として、普通の乗用車として初めて、3リッターカー(3gで100km走る車)になったのです。
このハイブリッド車、現在は日本の独壇場です。アメリカもドイツも、次に述べる燃料電池車こそが次世代カー動力源というので、全精力をそちらに注いで来たのでしょう。その点、トヨタは先をきちんと読んでいるということでしょう。最近 フォードもハイブリッド車を売り出すと言っていますが、その技術開発をする気は無く、トヨタ(アイシン)から技術を買うことにしています。あいかわらず、燃料電池で主導権を取るために全精力を注ぎ続けるということのようです。ところが、プリウスを開発した担当者に、97年岐阜大学に来てもらい学生に話をしてもらったとき、「トヨタは電気自動車のノウハウをたくさん蓄積していたので、ハイブリッド車開発グループの陣容は大きくはなく、それでも短時間にできた」と言っていました。ビッグスリーともあろう会社が、そのハイブリッド技術を開発する気がなく、トヨタの軍門に下る、というのはたとえハイブリッド車が燃料電池車までのつなぎの製品としても、おそらく燃料電池車が台頭するにはまだまだこれから10年や20年ははかるであろうことを考えると、そうは言っていられないように思います。それほど開発費を二重に投資することを嫌っている、ということなら、逆に、それほどのすごい技術開発をトヨタは「それほどかからなかった」とサラリと言ってのけるほどの実力を備えている、ということを意味するのかもしれないですね。
このハイブリッド車と、燃料電池車、電気自動車との燃費の比較を、燃料電池車の最後のところに示しました。現状でいかにハイブリッド車ががんばっているか、ご理解いただけるものと思います。
燃料電池も、電気自動車と同様環境によいとされています。それが行き過ぎてやはり無公害と信じられている面も有るようです。ある面では正しく、ある面では正しくないですね。すなわち、燃料として水素を積んだ車自体を見れば確かに無公害です。その水素は自然界には利用できる形態で存在しないから、何かから製造しなくてはならない。水の電気分解をするなら、電気を何から作るか、現状では発電所に依存する。すると、今はほとんどが化石燃料か原子力となり、公害や放射性廃棄物問題は避けられないのです。それを飛ばした説明をそのまま信じないでください。将来、こういう方に変わることが無きにしもあらずではありますが。
現状で水素はどうやって作るでしょうか? おそらく、メタン改質でしょう。メタンに水を加えて7-800度にすると水素と一酸化炭素が発生します(実際には二酸化炭素とメタンも出てきます)。ここから一酸化炭素(二酸化炭素、水蒸気も)を除去して利用します。自動車用燃料電池(固体分子型)は、80度C程度になると効率よく水素から電気を取り出すことができます。もっと高温で働かすことができる大型のものは、直接メタンを供給し燃料電池内で水素に転換させて使います。しかし、自動車でこんな高温にすることができないので、車で水素を別に作るか、水素を積み込むかどちらかとなります。
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水素ガスですか? どうやって自動車に積むのですか?
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水素を積み込む場合も、方法がいくつかあります。ガス状の水素を非常に高圧にする方法。液体にして体積を小さくする方法。水素をため込みやすい金属=水素吸蔵合金を使う方法です。この水素吸蔵合金でにわかに着目されているのが、カーボンナノチューブです。まだしかし実用化するには高額すぎるようです。まだ研究は緒についたばかりです。車に燃料の水素を積み込むという意味では、水素エンジンも同様であり、その先駆的存在である武蔵野工大は液体水素を積んで研究してきました。
現在、研究中あるいはもうすぐリース販売するという車には、液体方式も吸蔵合金方式も実際には使用されていません。重量的に見合わないのでしょう。採用されているのは、高圧ガスボンベ方式です。普及している水素タンク(ボンベ)は150bar(150気圧)程度です。2002年にリース販売を日米(米はカリフォルニア州)で開始すると発表したトヨタ、ホンダともにとりあえずは高圧水素方式です。トヨタは、本命としてはメタノールとしているようですし、GM はガソリンからの改質を考えているようです。メタノールは、メタンから作っておき、ガソリンスタンドのインフラで供給できるとしています。メタノールは毒性が強いため、研究を縮小したメーカー(フォード)や中止したところ(GM)も有ります。また改質温度が低いのも利点としています。GM は普通の車同様ガソリンを積載して、車上で改質する方式を研究中です。が、800度にも達する改質温度が要求されており、現実的ではないという見方も強いようです。現在の開発状況では、改質器が小型トラックの荷台の半分を占めていることからも、まだまだ先は長いように思います。
高圧ガスボンベを使うホンダの場合、その圧力は350bar(気圧) と言います。大変な高圧です。トヨタも同じく 350bar とのことです。その圧力はどんなものか、ちょっと紹介しましょう。たとえば、直径1平方cm の円形穴があいたとすると、そのボンベには 350kgの力がかかることになります。穴が広がって直径が2倍程度になりガスが漏れるとしたら、噴射力は1.4トンとなり、車の重量と変わらない力で押されます。わずか2-3cmの穴でです。もし、後ろからトラックか何かに衝突されて穴が開くような事態が発生したら、もっと大きな穴になるでしょうから、まるで虫けらのように吹き飛ぶ可能性があります。前述のように、天然ガス自動車のための CNG用高圧タンクが開発されつつありますから、安全な高圧水素タンクも開発されつつあるものと思います。正直、現状では、そうした燃料電池車で通勤したいとは思わないですね、わたしは、臆病ですから。

トヨタ・日野の燃料電池バスの屋根に5本積まれた35MPa 150gの水素ボンベ 脚注
さて、燃料電池の良いところは、何と言っても汚染物質をまき散らさないことにあります。排気は水だけです。でも、残念ながら、燃料電池車の価格は電気自動車のさらに一桁上です。大量生産されたからといって、普通の車並みになるとはとても考えられない状態です。もし、そんな高価な車なら、その価格を廃棄処理装置に振り向ければ、従来のガソリン車やディーゼル車の方が安くて良いものができるでしょう。まだ一つ、燃料電池車の長所が有ると言われています。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのみならず、熱機関と言われるものはすべて、カルノーサイクルのいわゆる熱力学第二法則の制約を受けるのに対し、燃料電池はその制約を受けないというものです。細かいことを言えば、燃料電池の使う水素の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに変換するとき、どれだけ変換できるかという量の計算には自由エネルギー分だとしますが、この自由エネルギーはまさに第二法則の制約の中で出てくる量ですから、第二法則の影響を受けていないと言う表現には誤りがあります。そんな細かいケチは付けないとして、カルノーサイクルの制約という観点に戻れば、それは確かに燃料電池はその制約を受けないので、理論効率は高いと言えます。実際それなら、内燃機関と燃料電池の化学エネルギーから電気なり機械エネルギーに変換する効率はそういう違いがあるかといえば、いずれも理論値(内燃機関も、カルノー効率で計算したら90%にもなるのですよ)よりはるかに低いので、その制約があるから内燃機関はいけないという言い方はできなくなります。自動車用に開発されている燃料電池の達成できる変換効率は 40%程度と言われており、一方の否定的に見られている内燃機関は乗用車用としては30-35%程度です。ちょっと低いなという程度ですね。みかけは。今までずっと、ここまで読んでこられた方は、内燃機関はほとんど部分負荷で運転されているので、そのときの効率が低いことが大きな問題だ、ということを思い起こされていますね。その値は10%台、車重に似合わない大きなエンジンを積んでいる場合は、10%の低いところまで落ち込みます。燃料電池は、逆に全負荷(定格出力)運転の方が厳しいと思われます。内部抵抗が増えてくるからです。それでももともとが 40%台なら 10%台まで落ち込むことは無いでしょう。となると、燃料電池の圧倒的優位性が出てくるので、やはりある程度高額であっても燃料電池車を買おうという時代が来るかも知れません。
深読みしている方で、何事も確認して納得するタイプの方は、ちょっと待てよ、ハイブリッド車は部分負荷の欠点を抑えたため燃費が良くなったはずではなかったか、それでも燃料電池車が圧倒的に有利なのか、と疑われているでしょう。
私もそんな一人なのです(私の場合は、もっと偏った考えです、すなわち、内燃機関や燃焼を研究テーマにしているため、燃料電池に内燃機関を取って代わられては困るという立場もあるのです)。立場の問題はともかく、実際現在開発されている燃料電池車の効率と、内燃機関を使ったハイブリッド車の効率とではどちらが良いのか、比較するデータはあるのでしょうか? 私は直接そういう比較をしたデータを知らないし、知り合いの研究者の多くも、漠然とは知っていても、具体値は知らないようです。私の所属する自動車技術会や機械学会の機関誌に直接燃費らしきものは掲載されたことは無いと思います。ところが、2002年10月末に、ホンダ(FCX)がある程度のスペックを発表してくれました(実は、自動車技術会機関誌・自動車技術にも少々古いデータが出ていました)。それはすでに上述しましたね。燃料タンクは150g、その圧力は350気圧、それに水素を一回充填すると航続距離は 355kmに達すると。これだけのデータがあれば、ハイブリッド車の燃費との相互比較が可能になります。そのタンクに蓄えられる水素の量が計算でき、それから水素のモルあたりあるいは質量あたり発熱量を使って、355km走るのに使うエネルギー量を計算することができます。ハイブリッド車については、プリウスやシビックの約30km/gと、ガソリンの密度および、ガソリンの質量あたりの発熱量を使って、燃費の計算ができます。ただし、'費'という言葉を使っていますが、実際何円で何キロメートルということにはならず、何J(ジュール)で何kmというデータが出るわけです。いずれもエネルギーあたりですから、比較できるわけです。機械系学生と言わずとも、工学部の学生さんなら、あるいは高校生諸君でも、これだけのデータが有れば計算できますね。水素、ガソリンの発熱量は、このページの上の方の燃料の節に表にしてまとめてあるので、計算する人は振り返って見てください。結果は、燃料電池の方が、ハイブリッド車の70%ぐらいしか走りません。トヨタの燃料電池車は、ホンダ車より大きいので、さらに差がつきます(トヨタの燃料電池の効率もバラード社並として)。車重がハイブリッド車と比較して思い、サイズも大きいから当然同じ距離走るのに必要なエネルギーは多いので、走行距離が短いから発電効率が悪いということにならないのも事実です。また、同じ固体高分子膜型を使う家庭用燃料電池が市販を目前にしてにぎやかになってきていますが、どうやら発電効率は35%程度。自動車用はあのボディーに家庭用の一桁大きな出力の電池を載せなくてはならないので、無理があることを考慮すると、どう考えても30%程度であろうと思います(もちろん、貴金属を多用するなどしているから、家庭用とは違うということかもしれませんが、そうなると価格的に下げられないことになりますから意味がありませんね。実際、トヨタの技術者に聞いたところ、負荷の低いときは40%ぐらいで、負荷が高くなると効率が下がるとのことです。具体的な低下率は聞かなかったですが、結構大きいようです。それは発電電圧として現れるのですが、低負荷時に300V超が高負荷では二百数十ボルトになるとの話です。もし、300Vが200Vになるとすれば、効率は10%代の低い方まで落ちてしまい、ちょうど内燃機関と逆になります、この性質は電気自動車のところでも示しましたね)。ここでは、従来車の内燃機関と同程度の変換効率としましょう。トヨタFCHV4は35MPaで157g。満タンで走行できるのは10・15モードで300kmとしています。10・15かどうか明らかにしていないときは350km程度としていました。これは一定速度走行とすると、10・15モード燃費とあまり変わりませんね。どうしてでしょう?結構、ブレーキ時のエネルギー回収が行われているのかもしれません。実際はどうか、知りません。そう考えないとつじつまが合わないのでは、と思うわけです。ホンダFCXも燃料タンクサイズ・充填圧力はほぼ同じで、航続距離は 315kmだったと思います。一方、上記自動車技術に GM の燃料電池車は液体水素 68gで航続距離は 400kmとあります。これから計算すると、上記二車種の 4割良い燃費になります。実は、本当のことはわからないので間違っているかも知れませんが、この走行距離(航続距離)は、恐らく適当な一定速度でのデータでしょうから、プリウスなどの 30km/gという値より相当ひいき目の値になります。

ホンダの燃料電池車 FCX脚注
こうして、分かったようなことを書いていますが、実は気になることがあります。内燃機関の場合、全負荷で燃料がたくさん燃えているとき、その熱の1/3が仕事に変わりますが、1/3は排気管から排ガスの持つエネルギーとして出てゆき、残り1/3が種々の場所からの冷却熱としてラジエーターから出てゆきます。これに対して、燃料電池車の効率がハイブリッド車の半分以下とすると、棄てなくてはならない熱は逆に2倍にもなるわけで、それをどうやって逃がすのかです。ここで、簡単のため燃料電池車も内燃機関も出力が 100必要としましょう。すると、内燃機関は同量(100)の冷却を必要とします。燃料電池車では100が出力に変わるから、残り200を放熱しなくてはならないことになります。つまり、内燃機関の場合の2倍を放熱しなくてはならないことになるのです。スターリングエンジンがリバイバルしたとき、これは外燃機関であるから、効率が同じであっても内燃機関が排気に 1/3を逃がしてもらうのに外燃機関はそれができない。したがって、内燃機関の冷却熱とその排気熱あわせた 2/3を棄てなくてはならないことが大きな問題だとしていました。つまり、放熱のための冷却ファンは内燃機関の倍になると。ところが、燃料電池車の排熱温度はせいぜい80度程度なので、冷却ファンの大きさは内燃機関のさらに倍程度の4倍程度となり、スターリングエンジンが大変としていたよりずっと大変だということになります。
それにしては、写真で見るバスの燃料電池は放熱している様子がありません。ラジエターは別のところにあるのでしょう。FCHV4は、展示会で聞いたところ内燃機関の倍必要だと言っていました。それでは不足するはずですね、とつっこむと、確かにスタックをダイレクトに風を送って冷やしているとのこと。この熱量がどの程度のものかははっきりしません。新聞一面広告に出たFCXの中身の図からも、やはり通常の倍ほどのラジエターサイズが有ることがわかります。TVでの解説でもそのようなことを言っていました。これだけでも不足しそうですが、残りのエネルギーはどうやって逃がしているのでしょう?想像ですが、もしかすると、水素のまま逃げているのかもしれません。ともかく、家庭用と比べると圧倒的に狭い部屋で水素ガスが電解液に溶けなくてはならない。それが難しいので溶けなかったものがそのまま逃げるのかもしれません。燃料電池学会などに参加して聞いてくれば良いのでしょうが、そこまで足を伸ばしたことがありません。エネルギー的に考えるとそういうことが考えられるということになります。


ボンネット内の様子。隙間無くぎっしり詰まっている。中央に青い筋の入った五角形の金属箱は、電圧制御回路などが入っている。この下に左右一杯に拡がる燃料電池スタック(90kW)が有る。その下には減速機の付いたモーター(80kW)が有るが見ることはできない。手前フロントグリルの後ろに大きなラジエター。ラジエターは、実はさらにボディーの下にも配置されていて、全体で普通の内燃機関の場合の倍のサイズ。実は、スタックも風邪が送られていてラジエターの働きをしている。
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(上段) 蓄電池。プリウスと同じく、ニッケル水素蓄電池。燃料電池は85度程度にならないと発電しない。それまで出発できないのでは、ユーザは納得しない。この蓄電池がそれを補う。
(下段)燃料タンク。バンパーの向こうで四角く見えている黒い部分。室内で、車体下で暗く、馬鹿チョンカメラだったた(実は腕のせい)め、後ピンになってしまった。この黒く見えているのは単にカバー。指でたたいてみたが、軽い音。薄い印象。はねた石が直撃しない程度の強度らしい。この燃料タンクの充填圧力は35MPa、容量はFCHV4同様の150gと思われる。 |
トヨタ製燃料電池(FCHV4) (2003年2月2日岐阜県柳津町・カラフルタウンの「エコカー・フォーラム」にて)
話を元に戻して、トータル効率を議論するならさらに水素を 350気圧に高めるための圧縮仕事損失もエネルギー勘定に入れなくてはなりません。水素を天然ガスから変換するときの損失も加わり、いじわるく見れば天然ガスを日本に運ぶときに液化するときのエネルギーも馬鹿にならないのですが、大元からたぐれば、ガソリン(精製のためのエネルギーが必要)より相当余分にエネルギーを使うと考える必要があります。それらの値を調べると、実は日本に来るまでに天然ガス状態(火力発電所で使うのに相当)で23%が失われ、さらに圧縮して自動車に乗せるなら、合計25%程度が失われます。液化前に水素に改質すると42%が失われ、さらに圧縮もすればトータル45%が失われます。この圧縮に失われる割合は、多分、参考にした資料ではそれほど高圧と考えていないと思います。350気圧とか700気圧にするなら、もっと失われます。一方の軽油では10-12%が失われ、ガソリンは精製エネルギーがもう少し必要で15%程度失われます。結局、相対的には、水素はガソリンと比較して 5割余分にエネルギー損失が自動車に載せる前に失っています。それをさらにカウントしないと、正確な比較にはならないわけです。液体水素にすると、また別の損失が発生します。液体にするためにもエネルギーが必要ですが、放置するとどんどん熱せられて蒸発して水素が無くなって行きます。それを防ぐためには冷却を続けなくてはなりません。この損失分は測るのが難しいですね。
まだわかってない、航続距離と燃費問題がありますが、仮に定地走行燃費は10・15モード燃費と同じと考える(あるいはホンダの航続距離データは 10・15モードのものと考える)と、総合的にハイブリッド車は同じ燃料のエネルギーで現在の燃料電池車の3倍多く走るし、もしそれが5割り増しだとすれば、4.5倍も多く走ることになり、先ほど燃料電池は第二法則の制約を受けないと言っていたことはどこかへ飛んでしまいます。
内燃機関は1800年中頃から歴史があり、燃料電池はまだ研究の緒に就いたばかり、という見方も無くはないですが、前にも述べたように、実は今回の燃料電池ブームは二回目あるいは三回目であり、とくに大型の燃料電池の研究はサンシャイン計画に含まれてずっと研究が進められ、最近やっと実証試験が行われているという状態です。ですから、まだまだ開発余地が残されている、という見方は過度には期待しない方が良いように私は思います。すでに相当研究されてきて、現状なのだと考えた方が良いと思う次第です。とくにトヨタの燃料電池は独自開発ですから歴史が浅いですが、ホンダの燃料電池はカナダのバラード社のものですから、これは宇宙に打ち上げたロケット用に開発された歴史があり、非常に長い技術の蓄積に基づくものです。
ここで従来車、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車の 燃費比較をしてみましょう
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ここで、比較するのは、発表されたデータからの類推ですから、間違っているかもしれないし、正確ではありません。おおざっぱにこんなものだと理解して下さい。電気自動車は、バッテリーに積載されたエネルギーを基準に考えれば、変換効率は高いので圧倒的に有利です。が、二次電池に蓄えるもととなった電気は火力発電所で作っているので、おおもとの燃料の発熱量をベースに考えるためには、発電所の効率を含める必要があり、それを原発を含めた効率を 35%として計算して最後の欄に示しています。水素も同じく、もともとそれが有ったわけではないので、上述のような考えを入れて比較しています。そういうわけで、ガソリン車は精製のための効率 10%を引き、水素は50%の損失を含めたのが最後欄です。GM の液体水素を使った燃料電池車については、ガス状の場合と同じ計算をしています。当然のことですが、この最後の欄の値が大きい方が燃費が良いわけです。
MJ はメガジュールで、1ジュールの 100万倍、1ジュールは、1kg のおもりを約10cm持ち上げるに必要なエネルギーです。1dの車をなめらかな道で押すと、10kgの力(SI単位系では、98Newton)が必要ですから、1MJ で 10km 動かすことができます。例えば電気自動車のRAV4を見てみましょう。1.5tonですから、6.6km動かすことができますから、約100MJ電気エネルギーを持っているので、 660kM動かすことができることになります。実際は215kmしか走行できません。これは、速度が速まれば風の抵抗が増え、普通 60km/h で空気抵抗ところがり抵抗(上述のもの)が同程度になりますからもしこの航続距離を時速60kmで測定したら、航続距離はその半分で 330km程度になります。215kmはまだ少ないですが、10・15モード燃費は何度も加減速をしなくてはならず、ブレーキ回収効率が高くなければ損失が増えることや、伝達効率も低いなどが有るのでしょう。そんな風にこの表を見てください。横欄の色が同じ車同士はベース車両が同じという意味です。たとえば燃料電池車のFCHV-4(トヨタ)のベースはガソリン車のクルーガーVですよ、という意味です。なお、日産の電気自動車・ルネッサEVは発売中止になっていますが、対応する日産車が無かったので、ほぼ同クラスということでガソリン車にステージアをベース車両としてあります。プリウス(トヨタ)もベースとなる該当車が有りませんが、カローラ程度としてください。PLUSE、インサイト、FCX V4(以上ホンダ)、HydroGen3(GM) については、ベース車が不明です。Fセルも、ベース車は
メルセデスベンツのAクラスとされていますが、その性能を私は知りません。

以上の表のように、積み込んだ水素のエネルギーベースの燃費で比較すると、たとえばガソリン車・クルーガーVに比べて FCHV-4は倍以上走ります。それをガソリン精製や水素製造などに必要なエネルギーを換算した場合はほとんど同程度になります。2002年の東京モーターショーでトヨタ・日野の燃料電池バスは、同クラスのバスの倍ほど走るという説明をしていたとのことですが、その事実とこの表はおおよそ合致していることになりますから、勝手に計算した値ではあっても、かなり正しい線を出していると思います。そうは言え、ここに載せた4種類の燃料電池車の燃費がほとんど同様なのが気になります。まるで示し合わせたようです。燃料電池は先行していると言われるバラードにせよ独自開発に自信を持っているトヨタにせよ、発電効率はそれほど変わらないことが大きな原因でしょう。それにしても、それぞれ重量やサイズが相当異なると思われるのにほぼ同じというのは不可解でもあります。GMの他は2002年11月から12月にかけて発表されたものです。GMは別のものを、また日産も同時期に発表していますが、データ不足(燃料容量)で表に載せられないのが残念です。
家庭用燃料電池は発売が間近なのに、 自動車はなぜ本格普及は2010年以降なの?
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自動車用燃料電池は、こうして大変現状では厳しい状況にありますが、家庭用にも同じタイプが開発されており、こちらはもう少し普及が早いとみられています。当初は、家庭用と自動車用を同時開発すれば生産コストダウンに大いに利くということで、期待されていましたが、どうも同時は難しい雲行きです。理由は簡単です。皆さんの家庭用の契約容量は 4人家族なら恐らく30-50A程度でしょう。これは、3kWから5kWを意味しますし、実際家庭用に売られるものは、こんな大きなものではなく、1-2kWではないかと思います。ところが、車用となると、たとえばプリウスはハイブリッド車でありながら 50kWのモーターを積んでいます。単純にエンジンで考えれば、1500ccクラスは 50kW-70kW、2000ccクラスともなると 100kWです。それに電力供給する燃料電池を、となると、家庭用の一桁上を積み込む必要があります。家庭用はその程度でも、体積は結構大きくなっています。その10倍以上もある燃料電池を、狭い車に積み込まなくてはならないのです。しかも、燃料タンクは 150gと、普通の 3倍程度の容量であり、実際見たことがないのですが、耐圧・安全を考えるとガソリン車の燃料タンクのように内容量が50リットルは外形も 50gというわけには行かないとも思います(バスに積まれたこのページの写真から想像してください)。そうなると、非常に窮屈になります。
燃料電池がかさばる理由を、「燃料電池は電極面積で仕事をする量をかせがなくてはならない、だがエンジンは体積で仕事をするのだから、燃料電池は大きくなるのは宿命」という人が居ますが、一方、「燃料電池は連続的に仕事をしているが、エンジンの燃焼現象は、全体のなかのほんのわずかな時間で間欠的にしか仕事をしていないのだから、仕事が少ないと言われれば、体積の議論は逆になります。実際の所は、エンジンの燃焼は 2000-3000Kという高温で進むので、反応速度が圧倒的に速い、車載用燃料電池は温度が低いので、触媒を多用しても反応に時間がかかるというこだと思います(専門家の意見を知りません)。
そういうことで、乗用車は宣伝には良いけれど、実際の普及は価格的にもサイズ的にも、バスからでしょう。


トヨタ・日野の燃料電池バスの後部に積まれた燃料電池脚注
水素を積むのは一時しのぎとトヨタは言っています。いずれ液体を積むと。繰り返しになりますが、その場合はアルコールかガソリンになり、トヨタ、ダイムラークライスラーはアルコール改質を考えているようなことを言っていましたし、GM はガソリン改質を考えています(表向きそう言っていても、内部ではあらゆる可能性を追求していると思います)。それぞれ一長一短があり、優劣決めがたいところです。メタノールは、非常に低温で改質できるので効率が良さそうですが、メタノールはメタンを改質して作るため、そこでの転換効率が問題となります。一方、ガソリンは 800度という高温が改質に必要です。その温度になるまでの時間と、ちょこまか運転ではそんな温度になる前に用が済むことになりますから、ハイブリッド化が必要です。すなわち、別に二次電池を用意して充電しておく必要があります。しかし、800℃までの加熱分はエネルギー的には大きな負担になりながら(ちょこまか運転ではとくに)回収は難しいでしょうから、そこでの損失も全体効率を大きく左右すると思います。
これらの改質では、燃料電池を被毒する一酸化炭素が発生するため、その除去装置も必要になります。
このほか、現在もっとも大事な高分子膜が水を必要とするための冬季凍結する問題や、電極触媒に高価な貴金属・白金を用いるなども普及の障害になっています。私の友人は、そうした障害が大きいからこそ研究する価値が有ると言っています。
こうして、まだまだ大変ゴールが遠いという状態にあります。
若井は、燃料電池車を目の敵にしていないか?と疑問を持たれた方はありませんか。燃料電池車ばかりではなく、若井研ホームページは他にも後ろ向きな表現が満載です。誤解しないでください。燃料電池車がにくいなんてことはありません(前にも述べましたが、私は燃焼屋で内燃機関の燃焼もやっているので、正直言って憎くはないけど、潜在的にはよろこんで歓迎していることもないと言えるかも知れません)。私はなるべく、忠実に真のデータを提供しようとしているだけなのです。あまりぬか喜びをしない方が良いという立場です。一般の読者は情報をお持ちではないので、きちんと伝えないと誤解される。たとえば上述のように、燃料電池は水だけしか出さないから非常にクリーンだし温暖化抑制にも良いという言い方が誰もが読む新聞によく書かれますが、水素の製造段階まで戻れば、そんな単純な話しではないわけです。そういうトータルなところまできちんと説明しておかないと、ついバラ色の夢と現実との区別ができなくなるということなのです。私は、話題にしたそれぞれすべてに専門家というわけではありません。間違ったことも多々言ってきたと思います。若井研ホームページで、「世の中とは違う言い方をしているぞ」、という場面に遭遇したら、是非、他の情報を入手されこのページの言い分について検証され、皆さんのレベルを一層高めていただければ幸いです。
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まさかロシアのあのスターリンと関係はないでしょうね?
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| | 右 写 真 を ク リ ッ ク す る と 拡 大 写 真 が 現 れ ま す |
 下記遠山氏作品 (島津理科機器から発売 されているものを参考に 作りカットモデルとした) |
無関係です。ロシアのスターリン(Iosif Vissarionovich Stalin)が生まれたのは 1889年(没年1953)、このスターリン(Robert Stirling)はスコットランドで 1790年(没年1878 だから、お互い知らないことになる)に生まれています。1芸に秀でる者は何でもできる、のたとえがあるものの、ロシアのスターリンはここまでは手を出していなかったようです。一方このスターリンは本職は牧師でしたが、職につて2カ月後(1815年)にはこのエンジンの特許を出しているというのでやはり 1芸にの例えは、確かのようですね。さらにこのエンジンは、実はガソリンエンジン(オットーが発明)よりもディーゼルエンジンよりも早く生まれていました。
蒸気エンジンに対し、空気エンジンと言われていました。当時は、ワットの蒸気機関が動力発生の最右翼でした。そこに、実に巧妙なエンジンが登場したのです。その概略図を見ただけではなかなか一般の人にはどうして動くかわからないという代物です。これは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのようにエンジンのシリンダー内に燃料が入っていって燃えるというタイプいわゆる内燃機関とは異なり、外から熱して動くいわゆる蒸気機関と同じ仲間の外燃機関ですから、電気自動車のところで説明した発電所とも同じ燃焼方式なのです。
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バーナで加熱といういわゆる外燃機関 なので、排気を清浄にできます
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だから、発電所並にクリーンに燃すことが可能です。それだけではありません。
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外燃機関 だから燃料を選ばないし、太陽熱でも動くのです
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実はこのエンジンは、クリーンということより外燃機関だから燃料を選ばないという長所があります。燃料でなくても、高温でさえあれば、電気加熱でも、太陽光を集光して高温を作っても、地熱でもともかく高温熱源から熱を供給さえしてやれば動くのです。もちろん、原子力でも核融合でも、熱さえ伝えてやれば動くのです。
このスターリングエンジンは、当時日本にも相当輸入されたとのことです。
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ガソリン、ディーゼルエンジンの台頭で一掃されてしまった !!
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ところが、ガソリンエンジンが発明されその熱効率が圧倒的に高くなって、完全に負けてしまい、消える憂き目に会いました。日本に輸入されたスターリングエンジンも、今は一台残っている(東京工業大学)程度のようです。
時代が変わって 1960年代、フィリップスというオランダの電気会社(ソニーのように種々の特許を持っており、それで暮らしている会社と言った方がよいかもしれない)が、離れ島など、電線が引けないところでしかもメインテナンスのための要員も派遣しにくいところで発電するための動力源として着目したのです。これが 1970年代の石油ショックで、外燃機関だから多様な燃料が使える、理論的な熱効率は理論的に最高熱効率を与えるカルノーサイクルのそれに一致する、という長所を持っているので俄然脚光を浴びることになり、各国で企業・大学・一般発明家を問わず研究を始めたのです。上述のように一度はガソリンエンジンに負けて消える運命にあったのですが、自動車メーカも研究しました。さらには、このエンジンはバルブを使わない非常に静かなエンジンであること、弱点としては外燃機関であるから熱を捨てるとき、内燃機関のように熱いガスは吐き出す、というわけには行かず、強制的に放熱しなくてはならないのですが、海の中なら放熱は簡単にできるということで、なんとアメリカでは海軍の潜水艦の動力源として研究されたこともあります。
海の中は金属音は減衰しにくく非常に遠くまで届くため、エンジンのバルブの音は敵に発見されやすいので、それを持たないスターリングエンジンは非常に魅力的だったのです。
日本では、通産相のサンシャイン計画の中にこれが取り上げられ、船舶技研やアイシン精機が精力的に取り組みました。後者は今もそのプロジェクトが動いていると思います。が、結局このエンジンは外燃機関であるため、効率を上げるためには高温熱源温度を上昇させなくてはならず、すなわち焼き玉のようにシリンダーヘッドの温度を 1200度C 程度には上昇させねばならず、商品価値としてはなかなか認められなかったわけです。オランダ・フィリップスではバスのエンジンとして 1980年頃には動いていたはずです。
日本では現在、アイシン精機が細々とやっているののほかに、日本機械学会がスターリングエンジンラリーと称する大会が学生員を対象に毎年催されています。1999年は人が乗る程度の大きさのエンジンを用いて速さを競う大会が行われたとのことです。
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今年もスターリングエンジンラリーが行われる予定です。実は私と研究交流している、中日本自動車短期大学の遠山寿氏がリーダーを努めて、そのラリーに出場しています。以下の写真は、過去に参加したときの作品と、2000年大会に出場を目指して作っている、人の乗れるモデルです。三気筒です。その関連の本も有ります。
'99のモデル
 | '00のモデル
 | '00のモデルのエンジンヘッド部
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以上は中日本自動車短期大学・遠山寿氏の作品。各写真をクリックすると、拡大写真を見ることができます。
スターリングエンジン学会というものも有るはずです。
そんな次第で、夢のエンジンではありましたが、結局車に搭載して市販されるということは無いでしょう。ただし、このエンジンを逆回転するとクーラになるので、簡単なコンパクトなクーラ(冷凍機)としては使われています。また外国では、 製品化されています。1kWから75kWまであるようですが、効率は14%から37%と、当然、期待するほどには高くありません。それぞれ特殊目的で、たとえば陸の孤島などの太陽熱による発電(家庭用太陽電池は発電効率が 10%程度に対し、スターリングエンジンの発電効率は十分高い、価格も集光器は単なる放物面鏡で良く、あとはエンジンが必要なだけ。ただし、太陽追尾装置、すなわち赤道儀で放物面鏡を駆動する必要有り)などには向いています。あるいは、潜水艦など、陸では外燃機関の苦しみである放熱が簡単にできることと、静粛性から価格と効率を度外視した長所の利用が有り、日本も防衛庁が購入しているようですが、目的はこんなところかもしれません。
13.1 CVT (ベルト式無断変速機)
13.2 ITS (情報交通システム)
13.3
脚注) 02年11月・東京モーターショーで、大学院学生阿部君に依頼して撮影して来てもらった。