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若井研の提供するエネルギー・環境問題入門


目次 1.エネルギー事情 2.大気汚染 3.乗り切る 4.温暖化 5.原子力・核融合 6.新エネルギー 7.車技術 8.COP3 9.私たち 10.文献,WebSite



3.エネルギー危機と大気環境問題を乗り切るために

よくぞ、このページを開いてくれました。

 もうこの記事を読みたくなくなって、このページまで来てくれないのではないかと、心配していました。先行き暗い話ばかりだから無理もありませんね。でも皆さん、逃げても誰も助けてくれません。何か、良いことは無いかと読み続け、あなた自身の考えをまとめる助けにして下さい。
 ちょっと話を逸らしますが、数年前機械工学科一年生への私の授業でエネルギー問題を話したあと、「こういう状況に、君たち技術者・研究者を目指す若者はどう関わろうとしているか?」とレポート提出を依頼したことがあります。その中に、「この状況を造って我々に贅沢を教えたのは、あなたの年代の技術者である。したがって、それらの技術者がどうにか解決すべきであって、我々は今更与えられた贅沢を止めよと言われてもできない」というものがありました。私の世代の技術者がこういう状況を良しとして進めたことではありません。浅はかといえばそのとおりですが、エネルギー資源が有限であることを疑っていなかったわけではないけれど、今日明日の問題ではなくまだ先のことと思い、それより今の生活をもっと楽に豊かにするのが先決だと信じてばく進したというのが真実でしょう。社会全体がそう動いてきたといえばそのとおりです。ただ、20年以上前の石油ショックで、やはりエネルギーは有限ということを思い知ったのに、OPEC が結局石油の安定供給をするようになると、社会全体が忘れてしまったのです。そのころは石油の埋蔵量が増え続けていて、深刻さが失せてしまったことも事実です。有名な自動車メーカの幹部に「石油がいつまでも有るとは言えない状況で、自動車製造会社は、何か新しい活路を見いだしたり模索しているのでしょうか?」と質問しましたが、決まって「自分が働いているうちにはそんなことはおこらないでしょう」という答でした。ましてや地球温暖化の話は、最初説を唱えたのは確か1970年代で今部長とか教授クラスの人たちが学生時代のこと(いや宮沢賢治の童話に出てくるという話もあります。これは金星の温度が高いことが炭酸ガスの存在によることを知っていて地球に思いをはせたのでしょう)、しかし1990年ですら、前の章でも示したようにその証拠がはっきりしないから、誰も真剣に考えなかったし、日本ではそんな話を知っている人も少なかった状況です。逃げ口上を言っているわけですが。
 でも、状況は大きく変化しました。1章で示したように、石油の埋蔵量が増えるより消費が増え、一説では2010年に石油生産のピークが来てあとは減産だと。すでに減産に入っているという話しもあるのです(OPEC は1999年減産に入りましたが、アメリカの強い圧力で2000年春には増産に踏み切らなくてはならなくなりました)。誰が贅沢を与えたとしても、享受しつづけるためには、それなりの技術開発をするなり、贅沢を止めるなりの方策を考えなければ、自らの足を食べて飢えを癒すタコになってしまいます。今は社会全体で一丸となって打破せざるを得ないのです。傍観者ではありえません。技術者では無い人たちが、「贅沢を与えたのは技術者なのだから、贅沢を今更捨てなくて良い方策を技術者が編み出してくれなくては。」と言われて、技術者は江戸時代の生活を送り、COP3の達成のための帳尻を合わせますか?(そうは言え、本来この贅沢の世を生み出すのに強い影響を与えたのは技術者ではないと若井は思います)
 実際、昭和40-50年代、欧米に追いつけ、とばかりに頑張って今の贅沢を提供した世代は、深刻な状況になる50年後にはもはやほとんど生存していないでしょう。贅沢を享受している今の若者の世代が、エネルギー資源は失せ、環境は最悪の状況に置かれたその子供や孫に「あなたたちが贅沢をしたつけが私たちに回ってきたのだ!!」と非難されるのです。(600兆円にも上る借金地獄の国家予算も似ていますね。国家滅亡があるとしてこのころには責任者の世代は死に絶えているのです。{この話を持ち出しながら、実は借金財政と負の環境を残すことは全く違う面があると主張させて下さい。別件ですし、経済は素人の若井の説ですから、間違っているかも知れません、それでもどういう考えか知りたい人はここをクリックして下さい})でも、現在も贅沢のできていない人たちの子孫は「おまえたちの国が何世代にもわたって我々の自然を蝕み続けてきたおかげで、私たちまでもが環境を破壊されて人類滅亡のお供をしなくてはならなくなってしまったのだ!」と非難され、断罪される日が来るとも考えられます。熱帯雨林の破壊状況をご覧下さい。困ったことに、私たちの孫たちがそういう状況になったとき、ほかの国(今発展途上にある、あるいはそれより前の状況にある国)のその世代の人たちは誰を責めるでしょう?「おまえ達の親やその親が使ってしまい汚しきったのだ」と、私たちの孫を責めることになる可能性が圧倒的に高いと思いませんか?まさにその状況が進行しています。それに誰が応えるべきなのでしょうか。いまさら、「贅沢を与えた人が悪い」と言ってはいられませんね。

さしあたって、どうしたら良いの ?

 それでは、何とかこの危機を乗り切る方法があるのでしょうか?  以下の方法が考えられます。

  1. 先進国は少なくとも第二次世界大戦の前までエネルギー消費レベルを落とす(贅沢を止める)
  2. 偉大な思想家(救世主?)の出現を待つ
  3. 新エネルギー利用技術を早急に開発する
  4. 新エネルギー利用技術開発ペースは遅いであろうから、それが間に合うまで化石燃料やウランを効率よく清浄に燃す技術をさらに磨く。発生した炭酸ガスについては吸収する方法を開発する
  5. 救世主なんて気味の悪いものではなく、マスメディアが贅沢を自粛する世論を誘導するのを期待する
贅沢を止めろ? 今そんな贅沢しているなんて思っていないのに!

  a. は、皆の覚悟ができれば容易なこと。でも、先ほどの学生が言うのが誰もの本音であって、なかなかクーラーや冷蔵庫を捨てることはできない。どう転んだってほとんど誰も実現する気がない。1997年暮れ、京都で開催された 温暖化防止国際会議(COP3) で議論できたのは結局炭酸ガス排出量の基準が 1990年で、そのときの何パーセント減らすかということで各先進国がせめぎ合っただけなのです。50年前に戻ることなど、誰も考えていない。でも、今までの議論で、1990年の10%や20%減らしたところで、賢い皆さんならとんだ茶番劇だということがわかるでしょう。日本政府は、このことを議論するのに、炭酸ガス排出についての専門分野である燃焼に関わる学者の集まりである 燃焼学会 に意見をほとんど聞かないで目標を設定した(当時の会長の話)ということもここで述べておきましょう。本当にどうすべきかを考えているのなら、専門家を交えた議論が絶対に必要でしょうに。実際は、燃焼屋ではなくエネルギー政策を専門とする学者に検討を依頼したそうです。それで、その学者は一心にどこまで日本は受け入れられるか検討を進めたそうですが、アメリカが7%を受け入れるという思いもよらない行動に出たため、日本のそれまでの議論は無意味となり、その学者グループの検討も利用されることなく、全く政治レベルで 6%減が決まったとのこと(その検討を依頼された学者の弁)です。ここでもやはり株式会社日本の論理、政治的配慮が優先したのでしょう。(皮肉にあるいは謙虚に考えれば、日本の燃焼研究家、エネルギー政策学者の実力が評価されていないことの証かもしれませんが。ともかく、技術ではなく政治、経済が主で工学が従であることは明らかです、日本ばかりか多くの先進国でも)

救世主なんて紀元前の話だろ!! こんなときの思想家は危険極まりない!?

  b. は、待つのであってどうこうすることはできないですね。それに、核保有国の暴走より怖いことも場合によってはあり得る (だからもちろん、私はこの解決法を待望して掲げているのではありませんよ)。本来、 a. は「贅沢を捨てる気がない」だけで「贅沢を捨てることができない」ということではありません。とくに日本人は「皆で渡れば怖くない」精神構造なので、「皆が一律に不便になるのなら文句を言わない」と想像できます。今までの経済発展の原動力は「先進国=西欧が贅沢しているのだから、私達も贅沢がしてみたい」ということだと思います。「誰も味わっていない最高の贅沢を率先して味わいたい」とは、日本人は思わないと私は信じています(日本人は誰かがやると、それに着いて行こうとすると言われていますね、オリジナリティーに欠けると)。このままではいずれ破綻するのだから、たとえば政治家が厳しい法律を決めてしまい、皆一律にそれに従えば日本だけでもそれはできることですね。でも政治家は絶対にそんなことはしないでしょう。政治家生命を失うのを恐れて。学者が言えば国民が従うかというと、一層何の拘束力・強制力も無いのだから誰も従わないでしょう。前述の スウェーデン と較べると、かなり寒い文化国ですね、日本は。そういうわけで、偉大な思想家が現れ、「幸福とは贅沢することではない」というあたりまえのことを誰もが納得できる形で説法することができれば可能かもしれないと私は思うのです。これは、私の恩師の志水昭史先生が持論のように言っておられたことでもあります。これはしかし、誰かの努力でできるというものではありません。この点についての「教え」が正しくても、他面では間違った教えをする思想家が現れても困りますし(最近は妙な思想や宗教が多数ありますからね)。いずれしかし、このまま進んで行けばそういう思想家が表れる可能性があると思います。偉大な思想家は、環境によってそれにふさわしいタイミングで必然的に生まれてきたという見方も有ります。今現れなくても、いずれ深刻な事態になれば世情に合わせた説を唱える人が受け入れられることになりうると思います。でもこれだけ情報が溢れている時代に、「そんな馬鹿なことがおこらなければ事は改善されないのか?」と私も思いたいですよ、本当のところは。
 そこで e. です。この情報化社会にありうるのはマスメディアによる世論の操作です。操作というと聞こえは悪いのですが、やはり大衆が知らないことは積極的に知らせる責務、そしてそちらに行くべきだけど多くが躊躇しているとき(日本人はとくに、上述のように皆が渡れば怖くないという性質があり、皆がそう思っているかどうか不安なときにマスメディアがその意見は絶対多数の意見なんだと知らせることで、納得して行動に移す性質の民なので)、その起爆剤の役割を担うのがマスメディアだとするなら、それも一つの解決策かもしれないですね(たとえば NHK BS が 2000年秋に地球温暖化をテーマとして放送を企画し、放送しました)。しかし、たとえば第一次、二次石油ショックの頃、エネルギー無駄遣いをやめようと叫んだ放送界は深夜放送を自粛したものの、現在は放送番組は一層増えている(火力、原子力発電所は、たとえ夜皆が活動を止めても効率的には得にならない、使ってくれた方が効率的だと言う言い分も有ることは知っていますが、それとて効率という言葉の綾ということも理解していなくてはなりません)、新聞・雑誌は'90年前後、日本が熱帯雨林を伐採し尽くすという記事を大々的に取り上げてきたものの、新聞広告は今も溢れているなど(事情は理解できるものの)、言うことと行動は伴わないから説得力を失い、せっかくの訴えもインパクトに欠けます。ましてや、根本に迫るほど、また世界的に即効的な影響力は今のところマスメディアといえども「無い」と言えますね。温暖化もじわりと利いてくるのだから、世論もじわりと利いてくればという観点に立って、焦らず地道に側面攻撃を期待すると言ったところでしょう。

やっぱり、新エネルギーに頼りたいから技術者は頑張って !!

 いやいや c. があるから、偉大な思想家なんぞ現れる事態には陥らない、マスメディアも、停滞気味の新エネルギーを推奨する方向になれば、という人もいるに違いありません。太陽エネルギー利用システム風力利用システム波力潮力利用システムなど、多彩にあるではないか、と。
 そこでちょっと、それらの代替エネルギーとしての可能性をデータとして見てみましょう。

ChartObject 長期一次エネルギー供給見通し ('87,'94,'98,'01) と達成度

 グラフは、'87, '94, '98, '01年に通産省が予測したエネルギー利用形態の変化予測および実績です。横軸の説明で、年1/年2 という表示は、年2年1を予測したものを意味します。1980年初頭より「サンシャイン計画(1974年開始.おおもととなる石油、石炭、天然ガス、ウラン、太陽エネルギー、地熱など一次エネルギーの利用技術開発・改善研究)」と「ムーンライト計画(1978年開始.廃熱利用、省エネルギー利用技術開発研究)」を開始していました。それぞれ10年にわたって、産官学に予算(前者・後者にそれぞれ4500億円・1500億円、すなわち、国民一人当たり約6000円)を出して研究開発を依頼しました。その努力の結果は '92, '94年実績と1995年予測(95/87)を比較してもらえば明確です。'86年に限りなく近いことがわかります。強いて言えば、原子力が10年で 9.5%から11.6% に増加した(発電量の伸びは、この間全体で伸びているからもっと多い)程度。とくに'80前後では、本当に未知に近い分野であった新エネルギー利用技術、すなわち、太陽エネルギー、地熱、風力、波力、潮力などの利用技術は惨敗ですね。この10年でエネルギー消費量が20%程度増えたため、割合としては 1986年には1.3% であったものが 1994 年には 1.0% と減少してしまいました。統計データの取り方が一定ではないかもしれないことと、この程度少ない量は誤差も入りうることも減少の原因かもしれませんが、ともかく最も期待値から外れたものです。それほどまでに新エネルギーへの期待が大きかったということです。いや、皮肉かもしれませんが、新エネルギーといういわば「幻想」を、相当実力がありうると信じることで、さらにふんだんにエネルギーを使い続けたかったということかとも考えられます。誰もエネルギーを浪費したかったなんて思っていなかったと、言いたいでしょう。でも、きっと1980年代はアメリカ経済に手が届くところまで来て、しかも半導体技術は日本が勝ち、自動車王国としてのアメリカのメンツも潰してしまう勢いだったことは否定できません。その経済力を、エネルギーの大量消費が支えたのは疑いもありません。
 ちょっと話題が逸れますが6000億円について考えてみましょう。そんなにかけて、数字の上では何の成果も得られなかった、という印象ですね。これらの新エネルギー、省エネルギーへの取り組みの中、石油安定供給を大いにゆるがす大事件が起きました。湾岸戦争です。経済的にはバブルの絶頂期、一人勝ちの中でしたから止むを得なかったとは言えそうですが、それにしても90億ドルを「石油安定供給の税金」として拠出しました。円にして1兆円に迫るものです(国民一人あたり 1万円です)。これと比較して、将来のエネルギーを安定にするための税金が 6000億円しか出されなかったということは、数字に現れない成果でも止むを得なかったと言えそうです。
 話を元に戻して、目立った成果が出なかったため通産省は改めて「ニューサンシャイン計画」を立てて予算を組み、さらに '94年予測を見直して発表したのが xx/94 としたもの。それでも、その幻想が続いています。'87年の予測ではあまり期待していなかった天然ガスが結構行けると言うことで、そこに期待していることと、やはり原子力が圧倒的に期待されています。さらに昨年の
COP3 で締約国として、また議長国として約束した '90年実績より 6%削減を何で達成するかということで見直しをしたものを、xx/98として示しましたが、'94予測より原子力依存をさらに強めています。原子力依存の話は先にするとして、新エネルギーの惨敗ぶりを見て下さい。94年予測、98年予測ともに、指数関数的な伸びをそれでも期待している様子がわかります。ともかく政府は、COP3 での約束を守るとするなら、原子力と新エネルギーによるしかないと考えていたということです。それでは不足することが明白なので、森林の吸収で何とか計算が合わないかとか。それでも不足だから他国をまきこんでその国の排出権を取り込めないかとか。またまた幻想で終わらないことを期待したいものです。今度こそ、議長国・締約国としての責任をとる必要が出てきます。
 COP3の次の次の年 1999年はその頼みの綱である原子力にとって、実に重い年になってしまいました。7月には敦賀第二原発の大量冷却水漏れ、9月末には JCO による東海村臨界被ばく事故の発生です。世論は原子力を止めて自然エネルギー期待度がぐっと高まり、政府としても原子力依存を形の上だけでも減らすポーズが必要となりました。原子力長期計画も、ほとんど原案ができあがっていた矢先のことでしたが、見直しせざるを得ませんでした。そして新エネルギーシフト策を語るようになったのです。そうして、2010年には新エネルギーを 3.1%に、ということになったのです。ところが、まだほとんど日程が経たないうちから、達成困難ということになってきたのです。結局このままの普及速度ならせいぜい 1.5%止まりだというのです。先進国日本でこの程度しかできなければ、途上国についてはなにをかいわんや、です。
 98年の地球温暖化対策大綱の予測は結局あまりあてにならないこととなり、新たに2001年7月に長期計画を発表しました。それによる予測値が xx/01の棒グラフです。これでは、原発の構成比'97年 13%だったものを '10年で 15%としています。一方、新エネルギーは1.1%から 3%へと約3倍増を期待してます。この原発は、現有50余基で、7基程度の増設をもくろんでいることになります。ところが、01年11月には敦賀以降で最大の事故が浜岡原発で起こってしまいました。緊急炉心冷却系の余熱除去装置に至る配管が破断したのです。当初、原因不明でしたが、中電が配管の設計変更して取り替えたとき、想定していなかったことが起こったのです。これは、原子力発電の第5章で説明することにしましょう。ともかく、またまた原子力不信を招いてしまいました。ところが、半年後原因の特定がなされてしばらくして、とてつもないことが発覚しました。最大の電力会社が地元や国民を欺いていたということのみならず、私若井の勝手な想像ですが、この東電に鋭くつっこめない取り締まり側の経産省安全・保安院こそ大きな問題だと思います。そんな事件が起こったのです。これでは、いよいよ原発立地が怪しくなります。
 01年の将来予測は、二つあります。 一つが基準ケース、もう一つが目標ケースです。  その二つで違うのが、再び新エネルギーです。基準ケースなら現状とほとんど変わりませんが、目標ケースでは 3%としています。

発電単価
注) この表 は、NEDO のフィールドテストなどをもとにしています。
ただし、波力発電は最新のデータが無いので著者の推定値です。


発電単価2000
注) この表 は、左のグラフの原子力から水力までを 2000年に通産省資源エネルギー庁が見直したもの。おそらく新エネルギーも下がっているのでデータを見つけ次第、更新します。


 6章をごらんいただければ明らかになりますが、新エネルギー利用技術は早急には開発できないものだし、ともかく対象とするエネルギーが燃焼や原子力と較べると薄い(大きな設備の割に得られるエネルギーは少ない)、それだけに設備の量は圧倒的に多く必要となるため普及にも時間がかかるのが苦しいのです。表は、通産省(左は'98年に NEDO が行ったもの、右は原子力発電所の最長寿命を30年から条件によって
60年まで延ばしたのを契機に資源エネルギー庁が見直したもので、高レベル放射性廃棄物処理費などを含む)の示しているエネルギー価格です(二つの表の大きな違いは、それぞれの設備の減価償却で、火力と原子力が左は16年で償却としていたものを 40年としたこと)。だからといって、何もしないというのでは進歩がありません。産業革命が興ったように、あるとき急激なブレークスルーがおこるかもしれないのです。通産省の NEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization=新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、現在も新エネルギー・省エネルギーの開発および導入普及事業を主たる事業としてとらえて予算を組んでいます(ニューサンシャイン計画の一環、平成8年度分806億円,平成9年度は450億円程度?)。先の表にある、太陽電池を例に取ると、先のコストの表では他のコストの二桁高額となっていますが、現在太陽電池は、90万円/kW程度ですから、その発電を一年(日射などを考え、一日 4時間)1500時間、これを20年使うとすれば30円/kWhとなります。これだと燃料費の数倍まで下がることになります。まだまだ通常のエネルギーが安いと言えそうです。逆に、通常エネルギーに炭素税がかかったり、埋蔵量が減って高騰したりするころには十分競争できる価格になっていると思われます。そういうことをふまえて通産省が予算を組んでいると考えれば納得できないわけではないですが、先の表を見ていると、ものにならない夢物語に予算を使っているのか、ということになります。この章の目的ではないものの、誤解を避けるためにあえて述べるのですが、残念ながら従来燃料の価格が高騰しようが、新エネルギー価格が下がろうが、それで事足れりにならないことをご承知下さい。それは、新エネルギーの密度が薄すぎて、今のままの生活を保障するには新エネルギーと言われるものを総動員しても21〜22世紀中は、全く不足するということです。21〜22世紀中と敢えて断ったのは、22世紀末になるころにはおそらく人間の数が減って自然エネルギーとバランスするだろうという、根拠は無い漠然とした私の予測(期待)があるからです。21世紀中には 100億の民になるのは必至の情勢であり(世界人口のピークは 2150年頃という予測もあります)、それが21世紀あるいは 22世紀中頃までに 20〜30億人以下に減少するには、戦争か疫病など納得できない形でしか起こりえません。自然減少を待つとしたら 22世紀末が最も早い場合で、下手したら 23世紀を越えるでしょう。逆に言えば、もし 22世紀末までには20億程度にもどるとするなら、化石燃料も核燃料も、燃料としてはそれまで持ちこたえるために必要なだけだということになります。なお、上記の表の中には核融合や核分裂の新しい方法である高速増殖炉(文部省の管轄?)などに関する研究事業が含まれていません。通産省がらみの政府予算が主に原子力に配分されていますが数千億円に上り、各電力会社の研究開発費も含めたら膨大な予算になります。また核融合については科学技術庁のデータをご覧いただけばおわかりと思いますが、毎年ほぼ300億円程度配分されてきています。これらは、原子力白書科学技術白書"をご覧になってもよくわかります。この予算を見るにつけ、新エネルギー開発に携わる研究者は、それだけの予算が新エネルギーにつぎ込まれれば、もっと早くものにできた、と嘆くのです(とは言え私は、それだけ予算をつけたからと言って新エネルギーが原発の代替になるほど進化するとはとても思えないのですが)。

NEDOの事業('96&'97 古くて済みません、最新データを入手していません)

項目事業の種類細目 '96年予算
1.新エネルギー技術開発 太陽エネルギー 太陽電池製造技術54.1億円
太陽光発電システム技術15.5億円
産業用ソーラーシステム実用化技術開発2.7億円
風力エネルギー 大風力発電技術開発5.2億円
石炭エネルギー 石炭液化技術開発119.8億円
石炭ガス化技術開発29.7億円
クリーン・コール・テクノロジー13.8億円
地熱エネルギー 各種地熱調査・調査技術489.1億円
地熱バイナリー発電システム11.5億円
水素エネルギー 水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術開発15.6億円
廃棄物発電など 高効率廃棄物発電技術開発27.2億円
その他のエネルギー 液体燃料転換技術開発5.2億円
2.省エネルギー 燃料電池 76.2億円
セラミックガスタービン開発技術 16.9億円
超伝導電力応用技術開発 25.6億円
新型電池電力貯蔵システム開発 18.0億円
高温超伝導フライホイール電力貯蔵研究開発 5.0億円
そのほか導入促進など 104.4億円

 これらを合計すると、国民一人当たり平成8年度 1000円、平成9年度で400円程度をこの事業に使ったことになります。皆さんがこれを安いと思うか高いと思うかわかりませんが、それらの新しい予算に基づく研究でも、当然のことながら救世主となるものが約束されているわけでは有りません。下手をすると、つまり結果だけをみれば「悪あがき」と取れるものもあるでしょう。最近、さる銀行再建のために 数兆円が公的資金から拠出されました。一銀行のために、です。これを考えると上述の悪名高い(?)原子力関係予算を含めエネルギー技術開発予算の貧弱ぶりがわかりますね。そうなのです。他国はわかりませんが、日本の技術開発への資金は経済不安を抑えるだけのための資金と比べて圧倒的に貧弱なのです。エネルギー技術開発は、人類の長い将来に関わること、経済問題は一時のこと、ということなのにです。

どれもこれも否定して、あとはじり貧に近い d. しか無いじゃないですか?
もしかして、自分(燃焼屋)の保身のためにこう結論づけたいのでしょう !!

結局現段階では、 d. 以外に選択の余地は無いのです。

 このエネルギーと炭酸ガスによる地球温暖化問題について、もう少し詳しく見てみたい人は、( 2030年が危ない!! を参照してみて下さい。あなたの考えを生かした将来像を具体的にグラフで試すこともできます。是非、覗いて見られることを勧めます。なお、そのページは、現在中部大学教授隅田先生−'96年岐阜大学を定年退官−が作成されたものです)

だいたい、そんな余地がまだあると言うの?

各種熱機関の熱効率と用途

種   類利用できるエネルギー資源熱効率用      途
スティーム(蒸気)タービン石油、石炭、天然ガス、原子力、地熱ほか40%〜
原発は30%〜、
地熱は20%程度も
発電、大型船舶
ガスタービン石油、天然ガス、(石炭)〜35%ジェットエンジン、ヘリコプター、発電(コンバインドサイクルやコジェネ)
スティームタービン・ガスタービンコンバインド(複合)石油、天然ガス、(石炭)50%〜発電(50%を超えるのは新規の場合、既設スティームタービンにガスタービンを後付している場合は 40% を少々上回る程度)
ディーゼルエンジン石油、天然ガス〜50%小規模発電所、大・中型輸送機関、コジェネ
ガソリンエンジン石油、天然ガス〜30%小型輸送機関、コジェネ
なお、石油として LPG (Liquified Petroleum Gas =液化石油ガス)も含む

 私たち産業革命以降の人類は、今まで述べてきた残り少ない貴重な資源を動力や電気に変換して利用しているのですが、化石燃料から得られたエネルギ−のすべてを動力や電気として利用できると思っている人もいるかもしれませんね。損失もあるから、そうはできないということは知っていましょうが、残念なことに損失が無くても、そうはできないということを皆さんに理解していただきたいと思います。「熱エネルギーを機械エネルギー、さらには電気エネルギーに100% 変換できるエンジンは存在しない」という事実です。100% どころか 現在最も良い場合で 50% を少しうわまわる程度なのです。
 最近話題の燃料電池は、熱機関のように燃焼温度という制約を受けません。かなり専門的な話になりますが、この燃焼温度の影響とは「熱力学第二法則」から導かれることです。ときどき、燃料電池の燃料→電気変換は第二法則の制約を受けないという表現が見られますが、これは間違いです。もともと燃料が持っている自由エネルギーをいかに電気エネルギーに変換できるか、ということで、自由エネルギーは第二法則から計算される値です。それ以上には電気に変換できませんから、当然第二法則の制約を受けています。熱機関は燃料を燃焼させて熱機関にそのエネルギーを渡すときに、この自由エネルギーの持つ相当部分を無駄なエネルギーにしてしまうのです。だから燃焼温度の制約を受けるわけです。
 その燃料電池も、燃料の自由エネルギーをそのまま100%電気に変換できるわけではありません。燃料の持つ発熱量と自由エネルギーはほとんど同じですから、簡単に発熱量として考えると、諸々の損失を考慮すれば結果として変換効率は 60%程度になります。自動車用に考えられている PEM は、40%程度と考えられますから、内燃機関の変換効率が非常に悪いわけではありません。いずれにしても、発熱量を100%電気に変換できないどころか数十パーセントのロスが発生することを理解下さい。

熱機関の宿命


1)発電所

 表に示すように発電になるとほとんどの発電所で、40% 程度の変換効率です(しかし上述のように、どういう温度で熱を熱機関に渡したかという点で、同じスティームタービンを使うにしても、原子力発電所は火力発電所ほど高い温度にはできないので30%台、地熱発電所になるともっと低く20%台になり、廃棄物発電では10%台になるものも相当あります)。6章で示しますが、コンバインドサイクルの採用が進められていますが、後付(既設の蒸気タービン発電所を改造する場合)では、その熱効率を2-3%アップさせられます。新規コンバインドサイクルの場合は、50%超が得られ、今後技術の粋を結集して 60%に迫るものを目指して開発が進められています。
 いずれにしても熱→電変換効率は100%より相当低いのですが、さらに送電効率(発電所を出てから長い距離の電線を伝わり、変電所を通り電柱上のトランスを過ぎて家庭に来るまでの間の損失が馬鹿にならない)を考えると一割程度減少して 40%なら35〜33%あたりまで落ちてしまいます。このロスを減らすために、高電圧化が進められ、それまで25万ボルト、50万ボルトであったものを100万ボルトにしてきています。これは中学校で習ったオームの法則から理解していただけますね、同じ電力を送るのに、電圧が高ければ流す電流は少なくて済み、電線での発熱量は電流2 x 抵抗で、同じ電線なら抵抗は同じ、したがって電流が少なければその二乗でロスは減るわけです。10%損失だったものなら25万V→50万Vでは2.5%となり、25万V→100万Vなら1.25%となり、ほぼ一桁損失を下げることができるわけです。100万`hの発電所の一日の稼ぎは2億円、一年では700億円にもなるから、5%でもこの損失は圧倒的に経営を左右するわけです。電圧を上げるのと同様に電線を太くしても、抵抗は減りますから直径で倍にすれば電圧を倍にしたのと同じ効果が得られます。ここでの改善余地はこれ以上、あまり無いのも事実で、進めるとするなら超電導です。現在は常温超電導体が無いので、ある程度冷却を必要とします。その冷却と損失との損得を考えると、今そういう動きが無いところを見ると、今のままの方が良いという判断でしょう。設備投資が恐らく巨額になります。
 蒸気タービン発電所で、化石燃料にしろウラン燃料にしろ、燃料を燃すとどの程度電気の利用ができるか見てみましょう。例えば、あなたの家で100W電球のスイッチを入れたとします。そうすると、まず発電所では300W分の化石燃料やウラン燃料を燃します。そのうち約180W分の熱を電気に変えることができずに捨ててしまう(海水の温度が上がるので、漁場であったところは条件が変わってしまいます)ことになります。この理由を知りたい方は
ここをクリックしてみてください。家庭でお湯を沸かすのに、その1.8倍のお湯を沸かすことができるエネルギーを海に捨てなくてはならないのが現実なのです。300W分の燃料で300W分の電気を発生させることができれば、今の生活を保障しながらさらに中国とインドの国民全てに相当する人々の贅沢を許容できるのですが、どう頑張っても今の技術ではもちろんのこと、よほど革命的な材料ができない限り、今後も期待できないのです。このようにして、電気に変換できた120Wの電気と燃料として投入した 300W のエネルギーの比を熱効率と言いますが、これを40%から50%にすることは技術的にはできるようになってきました(上の表のコンバインドサイクル化)。ただし、新規に設計した発電所ではできても、稼働中の発電所でそれを達成することができないので、全ての発電効率が50%を越えるのはまだまだ先の話です。
 さらに発電所から家庭に来るまでの電線や変電所を通ってくるうちに、 20W程度が失われ(上述のように電線の電気抵抗をゼロにすることができれば、損は出ないのですが、結局空気を加熱することで失われる) て行くのです。要するに、現状では熱機関が燃料から得たエネルギ−のうち、利用できるのはわずか 3 分の 1 にしか満たないということです。

 日本全体で消費するエネルギーのうち、発電に使われているのは 半分弱です。このように、時間はかかるけれど、徐々に熱効率を上げてゆくことで、今より25% ぐらいはセーブできるようになると期待できます。燃料電池など新しい考え方は、別ページ で解説します。

産業別エネルギー利用割合

形 態割合目 的割合
発 電41%産業用34%
運輸用17%
非発電59%民生用18%
損失分32%

2) 輸送機関

 左の表をご覧下さい。全体のエネルギーのうち、輸送機関で使われているのは17%程度。この場合、エンジンの熱効率は最も良い条件で表からわかるようにディーゼルエンジンで50%に迫るものがあり、ガソリンエンジンでは35% 程度有ることになっています。しかし、実際にたとえば陸上で走っている場合は10%台に下がります。とくにガソリンエンジンはもともとの効率がディーゼルエンジンより悪いうえに、部分負荷と言ってアクセルをいっぱい踏んでいないときは効率が悪くなります。これを解決しようと、専門的になりますが「筒内噴射方式」、「ミラーサイクルエンジン」あるいは「ハイブリッドカー」などが開発されてきています。ハイブリッド(ガソリンエンジンを最も良い条件で動かし、発電機を動かし、蓄電した電気エネルギーでモータを回す、形式によっては、モータの力が不足する条件ではガソリンエンジンが助ける。)タイプではエンジンの熱効率を常に30%程度を維持しつつ、実はこのときは燃焼状態も良好なので排気も清浄にできるので注目を集めているのです。「ハイブリッドカー」ではさらにブレーキ時にせっかくの車の運動エネルギーが通常は摩擦熱で失われてしまうのを避け、動力用モータを発電機として働かせることで回収して一層燃費を良くしています。このように発電機を使って蓄電池に蓄えることをしないで、車の運動エネルギーを積載したフライホイールの回転エネルギーに変えようという研究も長く続けられています。
 車などはほとんど水平移動なのだから、摩擦が無ければ移動にエネルギーは不要なはずですね。航空機も高度を上げますが、この位置エネルギーを回収する方法が有り、採用できれば燃費が大幅に減るのですが、これれは現状(速度を必要とすることが一番のボトルネック)ではほとんど無理でしょうね(降りるときにヘリコプターのローターお化けのようなものを出して、回転させてモーターを回し、発電して蓄えるなどが単純には考えられますが、みなさん挑戦してみてはいかがでしょうか?)。
 なお、皆さんができる省エネ運転技術については、 第7章 で紹介しますので、ご覧下さいと言いたいのですが、一部完成している段階です。コンピューターシミュレーターになっていて、みなさんにもダウンロードして体験していただく準備中です。2001年中にテスト判が公開できることを狙っています。公開する場合は若井研トップページに、見出しを作りますのでご期待下さい。

3) 民生用

 たとえば家庭用や業務用としての厨房のコンロのエネルギー変換効率は40%〜50%止まり。これは上述のエンジンやタービンなどのように効率の理想的上限値100%を下げる理論的制約は有りません。ですから、もっともっと上げることができます。もし、このように家庭で発熱するものの変換効率が上がれば、燃焼させるための発熱量が減るので、たとえば夏、クーラーはその発熱量までわざわざ電気を使って冷やしているのですが、それを少なくできるのだから二重に得になります。
 同じ理由で、パソコンを増やすということは、クーラーの大きさも増やさないといけないのです。これらのエネルギー効率の良いもの(たとえばディスプレイをブラウン管から液晶にする)に変えて行けば両得です。
 つまり、クーラーが使う電気、最終的には発電所の燃料使用料が減ることになります。一挙両得ですから、発熱性の家庭用製品の効率改善は効果が倍増するので魅力的ですね。同じことは、クーラーを使う工場や事業所なでにも言えることです。
 と、あまり甘い話ばかりではいけないので、説明を加えておきますが、冬場の暖房はこれらが助けていたとも言えますし、クーラーの消費エネルギーは実はそれほど多くないので、圧倒的に効果があるとは言えませんが。
 このように、燃料から電気エネルギーや動力を取り出す効率をともかく改善することが大事ですし、暖房や冷房の効果を十分上げるために、断熱効果を上げることも大事です。また、経済活動が今までは何が何でも物資を動かして作ることで活性化されてきたのを、動かないで、作らないで活性化することも考えなくてはならないでしょう。
 石炭と水の合成により、石油に変わる燃料(メタノール)を作ることも、国内外で相当長く研究がなされてきています。メタンハイドレート利用が幻想に終わっても、これで、相当長く燃料の確保は出来そうです。しかし、炭酸ガスが増えることに変わりは無く、資源問題を解決したと思っても地球温暖化というもう一つの問題を大きくしてしまいそうです。
 石炭と水だけをもとに気体燃料や液体燃料を作るとなるとそうなってしまいますが、ここに太陽エネルギー利用技術が取り入れられれば、両方の問題が改善されます。実際に、そういう研究も各所で進められています。

炭酸ガス回収技術の開発

炭酸同化作用

 前項で炭酸ガスの話がでましたが、これを回収できれば、地球温暖化問題は一気にクリアーできます。石炭が有る限り、相当長く燃料の枯渇の心配はなくなります。ところがそう簡単な話ではないのです。このような研究の一端は、たとえば日経サイエンスに 2000年時点のものが紹介されています。
 ここで、種々の案を列挙しましょう。

  1. 植物に吸収させる(炭酸同化作用)
  2. 燃焼ガス中の炭酸ガスを化学的に吸収させ、あとで取り出して棄てる
  3. 同上を物理的に吸収させて上記同様の処理を行う
  4. 機械的に圧縮してハイドレート化することで燃焼ガスから分離し、棄てる
 1. 以外は、燃焼した後、大気に拡散してから現在の 350ppm 程度まで薄められてからでは効率が悪いので、燃焼直後の10-5%程度の濃さの状態で処理する方法です。
 1. の炭酸同化作用から考えてみましょう。自然には、人類が文化的生活維持のためと称して莫大な燃料消費を始める前の、植物の炭酸同化作用によるバランス状態がもっとも好ましいことは言うまでも有りませんね。例えば、岐阜大学は2,500kWのエネルギーを使用しており、それに伴う炭酸ガスの発生を押さえるために最も効率の良い植物を用いたとして、13km2 (1辺約4kmの正方形に相当) の森林が必要です。実際には、落葉期間、日射時間、晴天率などを考慮するとこの何十倍も必要とするでしょう。ちなみに現在の岐阜大学柳戸キャンパスの敷地は、わずか0.7km2(必要な面積の1/26)です。このように地上では面積的に無理があるため、沿岸に繁殖する海藻によって炭酸ガスを回収させようと試みている研究グループもあります(今はどうかわかりません)。普通の樹木は350ppm 程度の薄い場合は良いのですが、燃焼直後の濃い条件ではむしろクロレラなどバクテリアを用いた方が効率的という
研究もされているようです。しかし、植物を用いて光合成で炭酸ガスをセルロース化などエネルギーレベルの高いものに改質するためには当然エネルギーが必要です。それを太陽光に頼るわけですが、相当広い面積が必要なのは上述の通りです。これが可能なら、そこで変換したセルロースを燃料として使えるので、もはや石油などの資源は不要となります。植物で抑制することができれば一度栽培すれば只なので、その方が圧倒的に安いのは当然ですが、昔植物が億年という長い時間をかけて地上の炭酸ガスを取り込んで作った化石燃料を二三百年で一気に吐き出してしまおうとしているのだから、とても植物で解決というのはできそうもありません。いやいや、最近の遺伝子操作技術で炭酸同化作用の効率の良いものを作れば、充分バイオマスで炭酸ガスとエネルギーの循環ができあがる、という人も居ます。でも、これも危ない話です。成長速度も圧倒的に高くなくては使い物にならないので、そういうものを作ることになりますが、もしそんなものが自然界へ漏れ出たら、それこそ光合成は効率よく成長も早いので他の植物より生命力も強い可能性があり、ほかの植物が育とうという前に成長して日陰に追いやり自分だけがすくすくと成長するわけですから、あっという間にあらゆる植物を消滅させてしまう可能性が有ります。こういうものは、恐らく望まれないでしょう。それなら普通の植物では本当に効率が悪いのか、という疑問すなわち、必要な光合成基地としての面積については、6章のバイオマスの項をご覧下さい。
 2. の化学的吸収とは、クレゾールとか石灰 (CaO) などに吸収させることで濃縮し、あとで温度を上げつつ回収する。クレゾールや石灰はリサイクルするという方法です。CaO の場合、炭酸ガスを吸収して CaCO3 になります。これを800度程度の高温にすると炭酸ガスと CaO に分離できますが、この吸収には圧力損失を伴うこと(装置が大きければ圧損も少なくできます)や高温にするなどで、発生したエネルギーのかなりを使うことになります。。MEA (モノエタノールアミン)は 120度C で炭酸ガスを解放してくれるので、分離効率は良さそうです。 分離した炭酸ガスは、海洋に棄てるという案です
 3. の物理的吸収について、昔のサイエンスにはすでに記述されていて、たとえばモレキュラーシーブというガス吸着剤を使うのが安いと書いてありました。これは、大学生で化学を学ぶ人はガスクロマトグラフという装置に使われることが有るので知っているかもしれません。常温では炭酸ガスをどんどん吸着してくれて、300度C 以上の高温では脱着します。CaO より脱着温度が低いので効率的です。ですから、排気ガスが顆粒状のこの多孔質吸着剤を通るようにしておき、充分吸着したら高温にして炭酸ガスを取り出す、という方法が考えられます。しかし、モレキュラーシーブの価格は非常に高いものです。その記事では、このために発電コストが 140%高くなるとしています。この40%という部分がこの炭酸ガス除去に使われることになります。
 4. の機械的方法は、いきなりハイドレートにしてしまう方法です。メタンがハイドレートとして海底に膨大に眠っているというのと同様、炭酸ガスもハイドレートを作るので、圧力をかけて送り込めば海底でハイドレートの形で蓄積できるという研究が有ります。上記 2, 3 ともに濃縮した炭酸ガスは圧力をかけてハイドレートにして深海に棄てるという案を前提にしています。100万キロワット級の普通の火力発電所から出てくる排気の量はおおよそ 1000立方b/秒、すなわち 1秒当たり 10m立方です。もし、煙突の直径が 2m とするなら音速程度(300m/s)で排出しなくてはならないほどの量です。これをどんどん高圧にして海底に送り込む (20度C付近では70気圧程度にしないとハイドレートにならない)必要があります。となると、圧縮する仕事、つまりエネルギーは相当のものです。発電したエネルギーのうちからこれを差し引くことになります。圧縮するという仕事は結構損失が有りますから、採算が合うようにこういうプラントを作るのは大変なことです。この量を少なくすれば圧縮仕事は少なくなります。すなわち、この数字は燃焼したときの炭酸ガス、水蒸気の他さらに窒素も含んだ量です。 2, 3 で炭酸ガスを濃縮することができれば、圧縮する仕事は減ります。炭酸ガスを完全に分離できるとすると、炭酸ガスと他の窒素、水蒸気との割合は 約10:1程度です。濃縮装置の入り口が直径 2mであれば、音速で排気ガスが入ってきて、その中の10分の9が再び放出され、残りが炭酸ガスで出てくるということになります。CaO による方法にせよ、モレキュラーシーブによる方法にせよ、とてつもなく高速で吸脱着をさせる必要がありますね。濃縮は諦めて機械的な圧縮機を使って、燃焼ガスを圧縮し(圧縮後は高温になるので冷却しなくてはなりませんが)ハイドレートにする方法を検討してみましょう。単段では効率が悪いので二段で圧縮し冷却してハイドレートにして除去した残りの燃焼ガスを今度は二段で膨張させて動力回収することを考えると、発電所の出力の30%程度の動力を使うことになります。
 ということで、モレキュラーシーブにせよ機械的方法にせよ、同じ程度のエネルギーを使うことになります。ハイドレートにした後、深海に送り込むための動力も必要です。比重から、海底2000〜3000メートル程度まで送り込まなくてはならないのです(それより浅いと、せっかく送り込んだハイドレートも、浮力で浮いてきて1000〜700m 程度まで上昇してくるとガス化してしまいます)。つまり発電単価が高くなることになるわけです。温暖化を本気で止めるには、30%程度、電気使用量を減らして炭酸ガスを閉じこめるか、今のままの生活をするためには、発電所を40%一気に増やすかということになります。これは集中した発電設備だから効率的にできる方法です。今分散発電がもてはやされていますが、そうなると、この方法は各所で分離した炭酸ガスを集めてからハイドレートにすることになり、実現する可能性は全く無くなります。効率的に見合うわけが無いからです。発電以外の、輸送機関や小規模燃焼設備、過程での厨房や風呂の湯沸かしで発生する炭酸ガスはそのまま放出です。発電で使われているエネルギーが 30%程度とすれば、こうしてがんばってもやっと炭酸ガス排出量を30%減らすことができるだけです。もちろん、もっと効率を落としても良いとするなら、全ての一次エネルギー(燃料として掘り出したエネルギー)を、そうした集中管理できる発電設備で使い、そのエネルギーで水素を発生させ、そのエネルギーを配給して輸送機関や民生用のエネルギー源とする、という方法を取れば、ほとんどの炭酸ガスを閉じこめることが可能になります。この方法が温暖化抑制にたとえ非常に有効としても、残念ながら、世の中はそれを実施することを望まないでしょう。それぐらいなら、温暖化した方が良いと暗黙に認めて知らん顔して進むことになりそうです。それほどに非効率的なエネルギー利用率を認めないと思います。
 もちろん、たとえこの効率の悪化を認めたとしても、この方法で乗り越えなくてはならない大きな問題が残されています。投棄した深海でも海底生物が生きているし、バクテリアも生きています。それらの生態系をどう崩すのかが明らかにならないと、簡単には実施できないわけです。生態系を崩した結果、地上にも大きな変化が起こる可能性もあり、また将来に影響するかもしれず、その影響が無いと言えない限り認められない方法となります。影響の有無を調べるため、試しに投棄してみる、ということすら怖くてできないのです。それらの影響が不可逆性ならば、問題が起こったとき、元に戻ることができません。小規模でやってみれば、ということも、それがポジティブフィードバック系であれば、加速度的に悪影響が増加する可能性があって、やはり危険です。地球温暖化は抑制できたものの、それ以上の悪影響がもたらされた、というのでは大問題です。
 結局、放出ペースをもっともっと遅くしない限り地球温暖化の抑制は期待薄ですね。とにもかくにも、せっかく自然がその昔大量に有った炭酸ガスを石炭や石油の形で閉じこめたのに、一気に解放してしまうのだから、自然界に急激なひずみが起こるのは当然ですね。解放させるようにしたのも工学だから、再び閉じこめる方策を練るのも工学の仕事ではありますが。

 「批評家のような表現ばかりしているが、おまえたち=若井研は何をやっているんだ !!」という印象を持たれた方も有ると思います。それについては、「若井研(若井・高橋チーム)の研究概要と内容詳細」を是非参照して下さい。全てがこの問題に関わっているとは言えませんが、相当の部分をこのテーマに割いて努力しています。


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執筆・編集責任者:若井和憲
ページ管理担当者:高橋周平
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