2015年 に世界保健機構(WHO) によりOne healthの 理念に基づくGlobal action plan on antimicrobial resistanceが 示され、2016年 にわが国のNational Action Planで ある「薬剤耐性(AMR) 対策アクションプラン2016-2020」 が公表されました。その中で、人、伴侶動物、畜水産動物、農業、野生動物を含む環境分野における薬剤耐 性菌の実態を把握して、薬剤耐性菌の制御のため分野横断的な協力体制が必要とされています。その行動計画は2023年4月 に「薬剤耐性(AMR) 対策アクションプラン2023-2027」 として更新されました。
(1)
薬剤耐性菌の分布に与える抗菌剤の影響
動 物で使用される抗菌性物質は、動物の細菌感染症の治療を目的とする動物用医薬品(動物用抗菌剤)と家畜の飼料中の栄養成分の 有効利用(海外では成長促進)を目的とした抗菌性飼料添加物に区分されます。獣医療で使用される抗菌剤は、医療現場で使用さ れる系統と概ね共通しているため、抗菌剤で治療された動物から排泄される薬剤耐性菌は公衆衛生上問題となります。そこで、抗 菌剤を投与された動物の糞便中にどのような薬剤耐性菌がどれくらいの期間分布しているかについて、家畜やペットを対象に研究 しています。
Yossapol
M, Suzuki K, Odoi JO, Sugiyama M, Usui M, Asai T.
Persistence of extended-spectrum β-lactamase plasmids
among Enterobacteriaceae in commercial broiler farms.
Microbiol Immunol. 64(10):712-718, 2020.
Suzuki,
K., Yossapol, M., Sugiyama, M., Asai, T. Effects of
antimicrobial administration on the prevalence of
antimicrobial-resistant Escherichia coli in broiler
flocks. Jpn. J. Infect. Dis. 72(3):179-184, 2019.
Kimura A, Yossapol M, Shibata S, Asai T. Selection of broad-spectrum cephalosporin-resistant Escherichia coli in the feces of healthy dogs after administration of first-generation cephalosporins. Microbiol Immunol. 61(1):34-41, 2017.
(2)自
然界における薬剤耐性菌の伝播・拡散様式に関する研究
One Healthに基づいてヒト―動物―環境分野における薬剤耐性を統合的に調査する体制が構築され、 2017年より「薬剤耐性ワン ヘルス動向調査年次報告書」として、国内における薬剤耐性菌の分布実態が明らかにされてきています。
国内の野生動物における薬剤耐性菌の分布について、1970年代には、スズメ、カラス、ムクドリなど人の生活に身近な野鳥か
ら薬剤耐性菌が報告されました。しかし、1980年代の調査で、山奥に生息するニホンカモシカでは薬剤耐性菌がほとんど認め
られないことが報告されました。2013~2117年に国内の野生哺乳類から分離した大腸菌の薬剤感受性を調べ、シカやイノ
シシ、小型哺乳類に薬剤耐性菌が分布することを明らかにしました。特に、シカやネズミでは人間と密接な動物ほど薬剤耐性菌を
保有することがわかりました。しかし、身の回りの昆虫からは薬剤耐性菌がほとんど見つからないことから、必ずしも密接さだけ
では説明できません。2018~2021年に収集した野生動物の糞便を用いて、抗菌薬の入った選択培地で積極的に薬剤耐性菌
を検索しました。すると、シカの他、ハクビシン、キツネ、アライグマなどの中型野生動物が第三世代セファロスポリンやキノロ
ン剤に対する耐性菌が低率ですが保菌することを明らかにしました。
このように、抗菌性物質が使用されない野生動物にも薬剤耐性菌が分布しますが、薬剤耐性菌の伝播ルートは、よくわかっていま
せん。そこで、薬剤耐性菌が分離された野生動物の生息環境に関する情報を多面的に解析して、薬剤耐性の伝播ルートについて研
究しています。
Asai T, Usui M, Sugiyama M, Andoh M. A survey of
antimicrobial-resistant Escherichia coli prevalence in
wild mammals in Japan using antimicrobial-containing
media. J Vet Med Sci. 84(12):1645-1652, 2022.
Odoi JO, Yamamoto M, Sugiyama M, Asai T. Antimicrobial
resistance in Enterobacteriaceae isolated from arthropods
in Gifu city, Japan. Microbiol Immunol. 65:136-141,2021.
Ikushima S, Torii H, Asano M, Suzuki M, Asai T. Clonal
spread of quinolone-resistant Escherichia coli among Sika
Deer (Cervus nippon) inhabiting an urban city park in
Japan. J Wildl Dis 57 (1): 172–177, 2021.
Asai T, Usui M, Sugiyama M, Izumi K, Ikeda T, Andoh M.
Antimicrobial susceptibility of Escherichia coli isolates
obtained from wild mammals between 2013 and 2017 in Japan.
J Vet Med Sci. 82(3):345-349, 2020.
環境中で生存する薬剤耐性菌にも興味があります。当初、大学の横を流れる河川水から医療や獣医療で重要な医薬品として使用さ
れる 第三世代セファロスポリンに対する耐性菌(ESBL産生菌)が分離されました。国内では報告のない珍しい細菌
(VEB-3
ESBL産生Aeromonas)も含まれていました。その河川周辺に生息する野生動物における保菌状況を、大学周辺を放浪
しているキツネと水辺に生活する哺乳類であるヌートリアを対象に調査してみました。キツネからはESBL産生大腸菌が分離さ
れ、CTX-M-14遺伝子を保有するO25:H4-ST131大腸菌も見つかりました。ESBLを産生するO25:H4-
ST131大腸菌は世界各国で人やペットから報告されるパンデミッククローンの一つです。一方、ヌートリアからESBL産生
菌は分離されず、さらにヌートリアは腸内細菌叢がかなり特徴的で腸内細菌目細菌が少ないことが示唆されました。第三世代セ
ファロスポリンは農薬では使用されない成分であるため、人類の生活から環境へ放出されたことが強く疑われます。環境中の耐性
菌はどこから来たのか、どんな野生動物までたどり着くのか、現在調査しています。
Nakatsubo T, Nakamura K, Omatsu T, Sugiyama M, Asai T. Low
potential of persistence and dissemination of
antimicrobial-resistant Enterobacterales by wild nutria
(Myocastor coypus) in a local river of Gifu Prefecture. J
Vet Med Sci. 2023 (印刷中) doi: 10.1292/jvms.23-0042
Asai T, Sugiyama M, Omatsu T, Yoshikawa M, Minamoto T.
Isolation of extended-spectrum β-lactamase-producing
Escherichia coli from Japanese red fox (Vulpes vulpes
japonica). Microbiologyopen. 11(5):e1317, 2022.
Aratani T, Koide N, Hayami K, Sugiyama M, Minamoto T, Asai
T. Continuous prevalence of VEB-3 extended-spectrum
β-lactamase-producing Aeromonas hydrophila in a local
river in gifu city, Japan. Microbiol Immunol.
65(2):99-100, 2021.
和
文記事等(最近5年間)
そ
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