ラマン散乱

 「ラマン」という聞きなれない言葉ですが、インドの物理学者C.V.Ramanに由来します。1928年にC.V.Ramanは散乱光の中に入射光と異なる波長の光が混じっていることを発見しました。その当時の実験というのは太陽光を望遠鏡で集光し、紫色のフィル夕を通して試料の懸濁液に当て、散乱光をフィルタを通して視認するというものでした。そのとき紫色の散乱光のなかにほんの少しだけ「緑色の光」も観測されたのです。この緑色の光はなぜ生じたのでしょうか?

 音楽の発声練習の様に一定の音程の声を出してください。それと同時に胸を平手で強くトントントントンと叩いてみてください。口からでる声が、胸がたたかれる度に変化して違う音になることがわかるでしょう。これは音の周波数変調として理解できます。この周波数変調は光の世界でもおこります。光が固体や分子に照射され、その時に固体中の格子あるいは分子が振動していると、光が変調され、もとの光の振動数と違う振動数の光、すなわち格子または分子の振動数が足された(または引かれた)振動数の光が放出されます。これがラマン効果です。

 入射光の振動数すなわち波長はよくわかっていますから、ラマン散乱光の振動数から格子振動や分子振動の振動数が詳しくわかります。固体や分子の格子振動や 分子振動の振動数は、その物質に依存するので、ラマン散乱は 物質や分子の同定に使うことができます。


ラマン散乱測定装置

下図は当研究室で用いているラマン散乱測定装置です。ミクロ室、マクロ室を備えており極低温下(20 K)での測定にも対応してます。

・励起光源: Arイオンレーザー
・分光器:トリプルモノクロメーター(加分散、差分散切り替え可能) ホログラフィック回折格子1800本/mm有効波長範囲(450−850nm)
・検出器:CCD検出器を用いたマルチチャンネル測定によって短時間で測定できる。
・ミクロ試料室:室温では、直径約1μmの散乱体からの散乱光を測定できる。
・マクロ試料室:He冷凍器により温度領域20Kから室温までのラマン散乱スペクトルの測定が行える。



当研究室で使用しているラマン装置です。

超高圧ラマン分光研究

 当研究室では、様々な物質の極限状態(極低温、超高圧力)でのラマンスペクトルを測定しています。ラマンスペクトルは結晶や分子の状態に敏感であるため、スペクトルの変化により構造相転移を調べることができます。下図は当研究室で測定された分子性固体のラマンスペクトルの代表例です。圧力や温度条件の変化にともなう構造相転移がラマンスペクトルを大きく変化させることが分かります。


メタンハイドレート:室温


硫化水素(H2S):低温150 K


アンモニア(NH3):低温50 K

臭化水素(HBr):低温200 K