薄膜シリコン系太陽電池研究開発部門では、太陽電池の高効率化を目指し、シリコン系薄膜の作製とその評価、透明電極の開発、ナノ領域での特性評価技術の開発ならびにヘテロ接合薄膜シリコン系太陽電池の研究開発を推進しています。薄膜シリコン系太陽電池は、少ない原料で作製可能、低価格で大面積化が用意などの利点があり、結晶シリコン系太陽電池とならびその普及が進んでいます。しかし、その普及を進めるには高効率化が必要で、そのためにはクリアすべき課題が多く残されています。
本部門では、薄膜シリコン系太陽電池の高効率化とさらなる普及に向けて、主に以下のような研究開発に取り組んでいます。
1.シリコン系薄膜の作製とその評価
薄膜シリコン系太陽電池は、水素化アモルファスシリコン、微結晶シリコン、水素化アモルファスシリコンカーボンなどが主材料となっています。これらの作製を、その代表的な作製方法であるプラズマCVD法や、原子状水素の生成が容易などの利点をもつホットワイヤーCVD法にて行っています。また、作製したシリコン系薄膜について、その構造や、電気的、光学的な性質を調べています。この結果をもとに、作製条件との相関やその材料の持つ特性を明らかにするなど、シリコン系薄膜の高品質化に取り組んでいます。さらに、新たなブレイクスルーを目指し、これまで薄膜シリコン系太陽電池に用いられてきた材料以外に、微結晶シリコンカーボンやケージ構造を持つシリコンなど新規ナノ結晶半導体の開発も行っています。
2.透明電極の開発
主な薄膜シリコン系太陽電池には、透明電極が用いられています。高効率化において、透明電極に関する技術も大きな役割を持っています。現在透明電極としては、主に酸化インジュームスズ、酸化スズ、酸化亜鉛などが用いられていますが、上記のような微結晶やナノ結晶材料の作製では、大量の原子状水素が必要なため、還元による光透過性の低下といった問題があります。この解決策として、我々は原子状水素に高耐性な酸化チタンをその保護膜として用いることを提案し、その開発を進めています。また、環境や価格などの点から毒性材料や稀少元素の使用が問題となっています。この問題についても、ホットワイヤーCVD法による透明電極の作製など新たな作製方法の検討や、新規透明電極材料の開発にも取り組んでいます。
3.評価技術の開発
微結晶ならびにナノ結晶材料は、数小サイズの結晶とアモルファスが混ざった材料です。このような材料では、微小領域での特性を知ることが重要となります。また、ナノ結晶材料を用いた薄膜太陽電池では、微小領域の特性がその性能に大きく影響すると考えられます。これまで材料の特性や薄膜太陽電池の性能を調べるのに用いられてきた評価方法では、材料のマクロな特性評価はできますが、微小領域での特性評価はできません。そこで、原子像まで観察可能な走査型プローブ顕微鏡の技術を用い、微小領域での薄膜材料の特性だけでなく、ナノ結晶材料を用いた薄膜太陽電池の特性評価を可能とする評価技術の開発を行っています。この評価技術を用いてナノ結晶材料ならびに薄膜太陽電池の特性を評価し、これらの作製にフィードバックすることで、薄膜太陽電池の効率向上が期待できます。
4.ヘテロ接合薄膜シリコン系太陽電池の開発
薄膜シリコン系太陽電池には、アモルファスシリコン系太陽電池と、微結晶シリコン系太陽電池があります。我々は、アモルファスおよび微結晶シリコン系薄膜を用いて太陽電池を作製し、その評価を行っています。上記で得られる情報をもとに、薄膜そのものの特性向上、透明電極など周辺技術の向上、接合特性など太陽電池の構造的な改善、新規半導体材料の適用などにより、アモルファスシリコン系太陽電池や微結晶シリコン系太陽電池の高効率化に取り組んでいます。また、光の波長領域が異なる太陽電池を組み合わせることで、より広範囲の光を電気にかえることができ、多接合太陽電池の開発が現在進められています。そこで、アモルファスおよび微結晶シリコン系太陽電池単体の高効率化を図るとともに、薄膜シリコン系多接合太陽電池についても開発を行っています。
写真:薄膜シリコン系太陽電池作製装置
薄膜シリコン系太陽電池は、いくつかの半導体層を積み重ねて作製する。本装置では、4つの異なる反応室と移送室から構成されており、各反応室で各層を作製し、試料を大気中に出すことなく各反応室間を移送できるようになっている。また、この装置はシリコン系薄膜の作製にも用いている。
写真:カーボンナノウォールの電子顕微鏡写真
カーボンナノウォールは、微小サイズのグラファイトが自立した構造を持つ。
図:uc-Si:H薄膜太陽電池における
微小領域でのI-V特性
図:uc-Si:H薄膜太陽電池における
表面形状像(p層側)