さまざまな辞書
意外かもしれませんが、江戸時代にはいろいろな辞書が編まれ、刊行されました。
ここでは、その一部を紹介してみます。
現代の国語辞典・用字集にあたるものは節用集でしたが、漢和辞典にあたるものに『倭玉篇』(ワゴクヘン・ワギョクヘン)がありました。中国の字典『玉篇』に準拠しつつ、和訓を補ったものです。

〇現代の漢和辞典と異なって、部首の配列は画数順ではありません。部首の表す意味が近いもの同志を近くに配列しました。また、基本的に「字」の辞典であって「語」の辞典ではありませんでした。
 参考:京都大学谷村文庫の倭玉篇(寛永15・1638年版)

○遅れて画数引きのものも登場し、明治にいたるまで印刷されました。
 参考:藤原博文さんの廣集玉篇大全
◆この『倭玉篇』もよく用いられたのでしょう。いろいろの工夫がなされ、刊行されました。漢字を、行書・草書と楷書(真字)で併記したものも早くから出されました。

『真草倭玉篇』(寛永4・1627年刊)。
◆これはちょっと変わり種。部首から熟語・漢字列を引き出す辞書です。

『扁引重宝字考選』(安永3・1774年刊)。

◆日本は、古くからいろいろな文物を中国から取り入れていました。江戸時代でも同様で、たとえば、漢学を学んだ人々の間では、中国の口語体小説を読むことがはやりしまた。『水滸伝』『三国志(演義)』『西遊記』などがこれに当たります。

◆そこで使われた用語を集め、日本語をあてた辞書も現れました。


『雑字類編』(天明6・1786年刊)。

  参考:京都大学谷村文庫の文藻行潦
  参考:京都大学谷村文庫の漢字和訓
また、漢詩を作ることも行われ、この関係の辞書も数多く出されました。

◆日本人が漢詩を作るときに一番困るのが韻でしょう。表現したい内容はある。どんな語を配置すればよいのかも決まった。でも、韻の合致した漢字がわからないわけです。

◆そんなときに韻の上から分類してある辞書が必要です。それがイロハ引きになっていればより分かりやすい。そんな要求を満たしたのが『以呂波韻』でした。


『増補以呂波雑韻』(寛文4・1664年刊)。
漢詩用の熟語・慣用句辞書

『詩学筌蹄』(正徳3・1713年刊。表紙)。 中国の『円機活法』の和訳本だとか。『円機活法』自体、信頼性にかけるものだったようです。『和語円機活法』というのもあります。
 左上隅に「谷舌」とありますが、これは「俗活」の左半分。本来の書名と思われる「和俗活法」の中二字を柱題にしたものでしょう。

 長らく書名を誤記しており、少なくともお二人の方の時間を無にしました。記してお詫びします。
 別して米谷隆史・岡島昭浩両氏に御礼申します。
仮名遣いの辞書もありました。 知識層の一部が使っていた「定家仮名遣い」とは別の仮名遣いが、契沖『倭字正濫抄』によって示されました。

◆これは平安時代前期までの古典作品に基づいたもので、国学者に支持されるつつ改良され、種々の仮名遣い辞典を生みました。

◆明治以降には、字音仮名遣い(音読みの仮名遣い)研究の成果とあわせて、「歴史的仮名遣い」として発展することになります。


『増補古言梯標注』(弘化4・1847年刊)。



◆江戸時代には、ほかにも多様な辞書がありました。

  詞葉新雅(京都大学谷村文庫)
  俗字指南車(東京学芸大学・望月文庫)
  寺子節用錦袋鑑(東京学芸大学・望月文庫)
  訳文須知 (京都大学谷村文庫)
  経典熟字弁(広島大学附属図書館)
  絵解字引(東京学芸大学・望月文庫)
  和訓栞(三重県)
  俚言集覧(クレス出版)
  物数称謂(京都大学谷村文庫)
  一代書用筆林宝鑑(東京学芸大学・望月文庫)
  商売往来絵字引(奈良教育大学)
  蕃語箋(京都大学谷村文庫)
  倭英通韻以呂波便覧(京都大学谷村文庫)
  (増補改正)訳鍵(京都大学谷村文庫)
  英和対訳袖珍辞書(岐阜大学附属図書館)
  英和対訳袖珍辞書(黎明館〈鹿児島県〉)
  露日辞典(鹿児島県)
  蘭和辞書(香川大学附属図書館)
  和英語林集成(筑波大学附属図書館)
  混効験集(琉球方言集。琉球大学附属図書館)

江戸時代になって、古い時代の辞書が印刷されることもありました。

  倭名類聚鈔(早稲田大学図書館)
  和名抄残篇尾州大須宝生院蔵(京都大学附属図書館谷村文庫)


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