岐阜大学大学院医学系研究科組織・器官形成分野

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研究テーマの紹介


1.細胞からの眼の分化誘導

すべての細胞分化を再現できる可能性を秘めた実験系として、胚性幹細胞(ES細胞)を用いたin vitro培養系の樹立を試みてきた。培養条件をシステマティックに改変し、試験管内で一個のES細胞から、レンズ様の形態をした細胞集団に色素上皮を含む上皮細胞集団が隣接して存在するあたかも発生中の眼を想起させる構造物を誘導する条件を見いだした。



ひとつのES細胞に由来する眼様構造

コロニーを形成したES細胞の80%近くが直径1-2mmのこの構造物(仮に培養眼とする)を形成する。レンズ様の細胞群を形成する部分の細胞は網膜のマーカー遺伝子を発現しており、さらにその一部はレンズに特有の各種クリスタリン遺伝子を発現していることが確認された。また、メラニン色素顆粒を持つ色素上皮については特徴的なpolygonalな形態と共に特有のマーカーであるTRP2遺伝子を発現していることを確認した。さらに、目のマスタージーンと考えられている転写調節因子Pax6が、生体の目で知られているように培養眼全体に発現していることを確認した。

我々が主に用いているのは遺伝子破壊マウスの作成に使われている標準的なD3株であるが、同様の条件下で、複数のES細胞株から培養眼が誘導された。

再生あるいは移植医療に関しては、異種動物の組織・臓器や自己の幹細胞など多くの選択肢の利用が検討されているが、供給できる細胞数、同種という安全性、遺伝子改変の容易さ等ES細胞独自の利点がある。我々の培養眼の誘導実験の特徴は、網膜や色素上皮など今まで誘導できまかった細胞系譜を誘導したというだけでなく、ES細胞から器官に類似した構造物が誘導できるという、従来の発想にはない可能性を示したことである。

完全な組織・器官を試験管内で誘導することが可能かどうかは現時点で判断できることではないが、培養眼のような準器官(organoid)とでもいうべきものを誘導しそれを移植することで、一種類の細胞を移植する治療(細胞療法)とは別の有効性を持つ新たな再生医療の可能性が開ける。

フォトギャラリー

ESから誘導した眼様構造

ESから誘導した網膜色素上皮細胞

Neurosphere

この培養眼をトリやマウスの眼に移植したところ、レンズや網膜の細胞に分化する能力があることを確認した。とくに、培養眼由来の網膜色素上皮がトリの本来の網膜色素上皮に置き換わるように発生しているのが観察された。

このことは、培養眼には未熟な網膜色素上皮が存在することを示しており、このような細胞を網膜の再生治療へ使う研究を進めている。また、京都府立医科大学眼科学教室の木下茂先生のグループとの共同研究でES細胞から角膜細胞を誘導する研究をおこなっている。

2.ES細胞からの神経堤細胞の分化誘導

初期発生過程で神経管の形成時に出現する移動性の高い神経堤細胞はメラノサイトの他に平滑筋、骨・軟骨、神経細細胞、グリア細胞、内分泌細胞など様々な細胞系譜へと分化する幹細胞であり、発生学の中心的なテーマの一つとしてその分化過程がどのような分子メカニズムによって制御されているかに関心が集まっている。一方、胚性幹細胞(ES細胞)は分化全能性が保証された細胞として、試験管内で様々な細胞に分化させ最終的に移植用の細胞として再生医学へ応用することが考えられている。

我々はES細胞からメラノサイトをかなり選択的に誘導できる培養系を確立した。メラノサイトは、他の細胞と異なり神経堤細胞にのみ由来するので、この培養系で神経堤細胞が生じていることが強く示唆される。われわれは、実際に神経堤細胞が誘導されていることを確認し、この培養系を神経堤細胞の成立と分化の全過程を再現できる系として確立することをめざしてきた。

最近、当教室の本橋らにより、この培養系を改良し神経堤としての性質----神経、グリア、色素、平滑筋など複数の細胞に分化する----を持つ細胞をセルソーターをもちいてひとつずつ分離・精製する方法が確立された。

神経堤細胞の大きな弱点は究用の細胞の確保の難しさである。発生初期に神経管の一部から由来するこの細胞はマウスの胚あたり数百個しか回収できない。Andersonらにより未分化なまま神経堤細胞を維持する方法が確立されているが多量の神経堤細胞を維持することはそれでも困難である。

われわれの方法によれば、ES細胞を用いた神経堤細胞の研究ができることになり、事実上用意できる細胞数は無制限になり、この細胞の分化機構の新たな研究手段として有用と考えている。

神経堤細胞に由来する細胞の細胞の発生異常により神経堤症としてまとめられている遺伝病が多く存在する。神経堤細胞の分化機構を明らかにし、ES細胞からの誘導技術を確立することは将来これらの神経堤症の細胞治療への重要な貢献になると思われる。

3. 歯髄細胞プロジェクト

手塚准教授を中心にしたプロジェクトについてはこちらへどうぞ。

4. ヒトES細胞の利用プロジェクト

岐阜大学医学部および文科省の承認を得て、2003年よりヒトES細胞を利用した実験を開始しています。ヒトES細胞から、血液細胞と心筋を分野誘導するプロジェクトで、心筋の方は現在久留米大学医学部の小財健一郎先生のグループとの共同研究です。

両者とも、誘導には成功しており、論文を投稿準備中です。さらに、2005年には、神経堤細胞の誘導実験の計画を申請し、京都大学再生医学研究所で樹立された国産ES細胞株を使えるようになる見込みです。

ES細胞を使った再生医療というからにはヒトES細胞を使うべきというのは正論であり、我々もマウスのES細胞で得た蓄積をヒトに応用したいと考えています。 ヒトなりの難しさはあるものの、特定の細胞に分化させるのにマウスとかけ離れた条件は必要ないようです。


以上の研究テーマ以外にも、血液幹細胞に発現する新規遺伝子M86の遺伝子破壊法を用いた機能解析、色素細胞・神経堤細胞の増殖・分化機構の解析などを行っています。これらの研究の紹介は詳しくはいたしませんが、色素細胞の研究では多くの研究成果を世に問うています。私(國貞)自身、どちらかというと細胞の色素細胞の研究が一番好きです。詳しくは業績に掲げた論文を参考にしてください。

2004年から、岐阜大学医学部脳神経外科との共同で、ES細胞(培養眼)からの網膜幹細胞の誘導実験をはじめています。網膜にわずかに残されている幹細胞の存在は知られていますが、増やすことは困難ですので、培養眼から誘導できれば画期的なことです。

2005年から、株式会社ニデックと共同で網膜神経細胞(ガングリオン細胞)を分離精製しています。緑内障の原因の一つにガングリオン細胞の脱落が上げられており、移植による再生医療が成立する可能性があります。