岐阜大学大学院医学系研究科組織・器官形成分野

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(2010/01更新)


随分とホームページの更新をさぼっており,今(2009年12月)この研究室紹介を見ると時の流れを確実に感じます。全面改定するのが良いのでしょうが、あえて古い紹介を残したまま,研究室紹介を改訂させていただきます。

当分野は,依然として独立専攻科ですが,岐阜大学医学部の完全な大学院大学化に伴い,大学院の制度等に違いは残っているものの,実質的には岐阜大学大学院医学系研究科として統合的に運営されています。正式には岐阜大学大学院医学系研究科再生医科学専攻再生分子統御学組織・器官形成分野となります。

現時点では國貞を含めて4名の研究スタッフと数名の大学院生および一名の教務職員とで運営されています。

前回の紹介時と比べて研究内容は広がりました。質はどうでしょう? これから一つ一つ紹介しますので,皆様でご判断下さい。研究は大きく2つに分けても良いと思われます。もちろん,深いところで我々の行っている研究はつながってはいるのですが,ヒト幹細胞・iPS細胞の樹立と再生医療応用に関する研究と,発生生物学的な視点からの幹細胞システムの解明に分けて説明していきます。

まずヒト幹細胞の再生医療への応用ですが,私は医学部で研究を進める以上,特に再生医科学専攻という随分と限定的な所属であることもあり,私が将来の医療の主流と信じる再生医療の実用化に直接つながる研究を,可能なら臨床分野と提携して進めたいと考えておりました。そので,同僚の臨床講座である口腔病態分野と共同で,歯髄幹細胞の樹立を始めました。同分野の柴田教授の,外科手術の度に廃棄される親知らず(正式には知歯と呼ばれます)がもったいないので利用しませんかというお誘いに,当分野の手塚准教授が興味を持ち,以来口腔病態学の川口知子医員を中心に200人分の歯髄幹細胞株を樹立してきました(業績に掲げた論文63参照)。現在,岐阜大学歯髄幹細胞バンクとして運営しており,国内数カ所の研究期間と様々な共同研究を進めています(後で一部について紹介します。特許等の制約があり全てを書くことができません)。これまで,骨髄の間葉系幹細胞と同様の間葉系の幹細胞である歯髄幹細胞は,骨髄と比べて分裂寿命が長いこと,培養やマウスへの移植によって実際歯髄組織へ分化すること,効率は低いながら脂肪細胞や神経細胞に分化することなどを明らかにしました。

とりわけ興味深いのは,この細胞は効率良くiPS細胞へ誘導できることです(論文投稿中)。口腔病態学の大学院生である玉置也剛君を中心にiPS細胞の発見者である京都大学の山中先生の研究グループと共同研究を進め,Oct3/4およびSox2の2因子のみでiPS化できることも確かめました。この歯髄幹細胞からiPSを樹立する研究は国際特許を取得し,またJST山中iPS特別プロジェクトという国家的な研究の一端を担う岐阜大学サテライトチームの中心的な研究課題です。あまりに端折ったので話が見えない? ES細胞のような初期胚と同じ性質を持つ幹細胞(胚性幹細胞,万能細胞などと呼ばれます)は今まで,受精卵から誘導するしかありませんでした。分化した体細胞の核を受精卵に移植すれば何とか誘導できることはわかりましたが,効率も悪く選ばれた人にしかできず,大規模な捏造論文さえ現れました。山中伸弥と高橋和利は4つの遺伝子(Oct3/4,Sox2, Klf4, c-myc)を強制的に発現させることにより,どんな細胞でもES細胞の状態に誘導できることを発見しました。このような細胞はinduced pluripotent stem cells すなわちiPS細胞と命名されました。興味深いことに,一端iPS細胞化した細胞にはこれらの外から入れた4遺伝子(山中因子とも呼ばれます)の発現はなかったのです。つまり,iPS細胞がiPS細胞であるために山中因子遺伝子が持続的に作用し続ける必要はなく,おそらく山中因子により染色体を含むゲノムの環境(たとえばヒストン分子や遺伝子発現調節領域DNAの化学的な修飾)が変化することでどんな細胞もiPS細胞になるのです。このような遺伝子の塩基配列そのものの変化(突然変異)を伴わない変化をエピジェネティックと表現し,体細胞が山中因子によりエピジェネティックにリプログラムされてiPS細胞に誘導された,といえばおりこうな感じがします。まだ良くわからない方は,是非原著論文や,山中研究室のホームページ等で事実関係を確認して下さい。とりあえずWikipediaでもOKです。大方の生物学者はiPS細胞の発見を21世紀最大の発見の一つになるであろうと見ています。

iPS細胞はまだ再生医療に使われてはいませんが,文部科学省等の推進する再生医療の実現化プロジェクトや総理府の推進する再生医療スーパー特区事業等の国家プロジェクトの目玉として,iPS細胞を用いた再生医療の実用化が進められており,私は近いうちに必ず実用化されると考えています。最初の臨床例で様々な欠点が見えたとしても,地道な改良により必ずiPS細胞を用いた再生医療が実現すると思います。手塚准教授を中心に岐阜大学歯髄幹細胞バンクの細胞の組織適合性抗原(HLA)を決定し,A, B, DRという主要ローカスが全てホモ接合である3株を見つけました。これらの歯髄幹細胞から誘導されたiPS細胞は日本人の3割に移植可能であり,iPS細胞を用いた再生医療の実現化を加速する細胞資源であると考えています。現在,歯髄幹細胞の調製からiPS細胞の誘導までを無菌環境下で行う設備(Cell Processing Center)を建設中で,2009年度末に完成の暁には,これら全ての過程を厚生労働省の「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」に適合した環境で行えることになります。

ただ,iPS細胞の安全性について,いうまでもなく最も重要なことですが,現時点では事実に基づいた確かな指針がありません。安全性に関する国の指針が確定しない限り実用化はあり得ません。このことに関しても,実際にJSTの戦略的イノベーション創出推進事業として理研CDBの高橋政代チームリーダーを中心に,iPS細胞から誘導した網膜色素上皮細胞シートを用いた網膜色素変性症などの眼疾患の再生治療が今後5年程度の期間で実行されることが決まっており,その時に安全性に関する指針が策定されるでしょう。我々も独自に他機関との共同でより安全なベクターを用いた立法を開発中で,5年度程度を目処に直ちに再生医療に使用可能なiPS細胞を準備したいと考えています。

ここで,皆さんは理研や京大の再生医科学研究所のような大きな組織に対抗してあえて岐阜大学でiPS細胞研究を行う意義はあるのか,特にiPS細胞の樹立のような基本的な事項は,大きな機関に任せた方が効率的ではないか,結局岐阜大学で行うことは無駄になるのではないか,と思われることでしょう。確かにそういう意見にはもっともな部分もあるでしょう。研究の自由にまでさかのぼるつもりはありませんが,応用を指向しているとはいえ科学研究の性格を強く持つiPS細胞研究においては,研究の裾野は広いほど新たな成果が生まれる確率は高まり,競争的な研究環境が醸成されるでしょう。実際,世界中に多くの研究機関がある中で,HLAのトリプルホモ個体を確認し,その体細胞からiPS細胞を実際に誘導したのは我々が初めてだったと思います。それ自体はやればできることではありますが,実際に行うことによるインパクトはあったのではないでしょうか。少なくとも我々はそう信じています。

次に,幹細胞システムの解明に向けての研究ですが,手がけてきた順番に説明していきましょう。まず,色素細胞に関する研究です。色素細胞は我々の体表の表皮細胞(ケラチノサイト)の核を紫外線から守るために覆っています。色素細胞からケラチノサイトに取り込まれた色素顆粒(メラノソーム)も。紫外線の防御に役立っています。実際,色素細胞を完全に失った個体(白皮症)は皮膚がんになりやすいことからも,色素細胞の重要性が伺われます。体表が毛で覆われた動物(人間もですが)では,色素顆粒は主に毛に供給されます。もちろん,着色された毛は紫外線防護作用もありますが,色素細胞によって決まる毛色を通して様々なコミュニケーションを行うことはご存じでしょう。魚などは,3種類の色素細胞を持ち,それぞれの特性を活かした多彩な体色表現は大変有力なコミュニケーション手段になっています。カモフラージュ(隠蔽)にも色素細胞による体色のパターンが使われています。シロクマの真っ白な色素のない(従ってシロクマの毛包には色素細胞が存在しない)体毛は確かに氷原では完璧な隠蔽色ですが,北極の強い紫外線はどうするのかという疑問は,シロクマの皮膚は毛をより分けてみれば真っ黒で多量の色素細胞が存在することで了解されます。紫外線防御とカモフラージュを同列に扱うのはなんだか違和感がありますが,色素細胞への進化的な淘汰圧という点では同様に働きますので,どうか納得して下さい。さらに詳しく知りたい方は図書館などで松本二郎・溝口昌子編著“色素細胞”(ISBN 978-4-7664-0867)をご覧下さい。

ついでに,虹彩の色素細胞は同所に存在する網膜色素上皮と共に,目に入る光の量を制御しています。眼皮性白皮症や眼性白皮症といった色素細胞のメラニン色素合成能力が低下した患者さんは,虹彩が透明で少し強い光でもまぶしく感じてしまいます(羞明)。さらに,このような患者の多くには眼球振盪(視線が左右に動く)や弱視など目の発生異常に起因すると考えられる症状も認められます。実際,視覚情報を脳に伝える網膜神経節細胞の発生に異常があることが確認されています。一方,遺伝性難聴を伴うワーデンブルグ症候群では,色素細胞の発生異常により,内耳の色素細胞が激減していることが知られています。眼皮性白皮症患者には難聴は認められないことから,聴覚に果たす色素細胞の機能は目の発生に必要な機能とは別であると予想されます。このように,色素細胞には毛色とか紫外線防御とは関係がありそうもない機能もあるのです。ただ,我々はこのような色素細胞の個別の機能の研究はあまりしておりません。

これまでの説明で感じていただけるように,色素細胞はたとえそれが失われるような酷い病気(変異体)の場合でも,患者が死ぬことはありません。なくてもとりあえず生存はできるのです。従って,色素細胞自身の生死を左右する重要な遺伝子の変異体でも,それが他の個体の生存に必要な機能に重大な影響を与えない限りは,生存できます。例えば,心臓が形成されないようなあるいは機能しなくなるような変異は生まれる前に死んでしまいますから,遺伝学的な研究ができません。遺伝学ができなければ,死因の解析に必要な生物学的な情報が得られません。その点,色素細胞は取りあえずなくても大丈夫ですから,遺伝学的な情報が多く集まります。

通常,幹細胞が異常をきたすと,たとえば自己再生能力が早期に失われるようなことがあると,個体が発生できません。例えば,心臓の幹細胞が形成されなければその個体は胎児期に死んでしまい,通常その個体に何が起こったかはわかりません。色素細胞は,無くなっても個体の発生に重大な影響がありませんから,毛色や皮膚の色が白い個体として生まれ,遺伝学的な解析から原因遺伝子を突き止めることができます。何よりもまず研究したいのは,幹細胞の生存を支配する重要な分子(遺伝子)の解析ということになりますから(我々は必ずしもそうとばかりではありませんが),幹細胞について重要なことが知りたければ,色素細胞を研究対象にすることが大変有利と考えられるのです。遺伝子研究に関する研究方法が洗練されてきた昨今ではありますが,幹細胞の有無が明確に判断できる色素細胞のこのような利点は,たとえ個人のゲノムの配列情報が20万円で調べられる時代になっても色あせることはありません。私の知る限り,色素細胞の幹細胞に関する生物学的な情報は,質的な面ではあらゆる細胞の中でも最も深い(ベスト3に入る)と思います。

業績でもわかるように,我々は幹細胞因子(Kitl, SCF),幹細胞増殖因子(HGF),エンドセリン3といった色素細胞の幹細胞の増殖・分化に影響を与える因子の研究を進めてきました(2,4,11,13など)。これら全ての因子がそれぞれ色素細胞の幹細胞の自己増殖・維持(生存)・分化に重要であることが,これらの論文でin vivoにおいて強く示されています。最近では,表皮に存在する色素細胞と真皮に存在する色素細胞では幹細胞の維持に使われる分子が異なり,従って真皮の色素細胞と表皮の色素細胞は別々に考える必要があるという考えを提唱しました(69)。また,我々の作出した色素細胞幹が病的に増加する遺伝子改変マウスは色素細胞の発生からメラノーマ研究まで国内外の多くの研究室で基本的な研究材料として使用されています(46など)。ES細胞から色素細胞を分化誘導することには我々が初めて成功しました(11)。この実験系を利用して,色素細胞の発生に重要な各因子の必要性の詳細な解析が可能になりました。色素細胞幹細胞が実は神経や平滑筋などの別の細胞に分化する能力を保持し続けることもこのような研究過程で明らかにしました(48,68)。色素細胞は,神経堤細胞という通常の3種の胚葉(内胚葉,中胚葉,外胚葉)とは別の,進化的には脊椎動物で初めて出現する新たな細胞系譜に属する細胞です。我々は現在,色素細胞幹細胞を手がかりに神経堤細胞の起源を議論できる研究も進めています。以上の研究は本橋力講師,青木仁美助教,吉村直子博士課程大学院生が中心になって行っています。

今のところあくまでも私の思いつきに過ぎませんが,ヒトiPS細胞から誘導した色素細胞を用いた再生医療は,尋常性白斑症(vitiligo) に悩む多くの方を救済可能と考えています。顔にできた大きな(たとえ小さくても)白斑を根治させることは,決して無駄な医療ではないと考えています(論拠は別の機会に述べます)。白髪も当然,色素細胞の移植を含め色素細胞の幹細胞を制御することで治療可能でしょう(この場合私個人はわざわざ治療したいとは思いませんが)。

最後に,ES細胞あるいはiPS細胞から網膜細胞を誘導し,それらを用いて視覚異常の再生医療を行うことを目指した研究について述べましょう。我々はES細胞から色素細胞を誘導したのとよく似た培養法を用いて,ES細胞から効率良く網膜あるいはレンズ様組織を誘導する方法を発見しました(28)。この中から,網膜を裏打ちし視細胞を栄養的に支えている網膜色素上皮と網膜のもっともレンズ側にあり,視覚情報を脳の視覚野へ伝達する網膜神経節細胞に関して,様々なマーカーや移植実験により,実際に再生医療に使えるのではないかという証拠を提出しました(40,50,60,65)。ヒトにおいてもこれらの細胞の異常によりそれぞれ網膜色素変性症や緑内障という失明の最大原因になっている疾患が引き起こされます。我々の研究は全てマウスを用いた再生医療モデルではありますが,前述した理研の研究グループなどにより日本初のiPS細胞を用いた再生医療は網膜色素上皮をターゲットに行うことが決定されています。我々は,ヒトiPS細胞を動物の眼内に移植することで視覚障害の治療に使える網膜組織を再生させるという,現時点では少々過激な方法論を提示しました(70)。これらの研究は青木仁美助教を中心に展開しています。網膜細胞を誘導し,必要に応じてセルソーターで精製し,網膜の一部を破壊したマウスや遺伝的に網膜に欠陥のあるマウスに顕微鏡下で移植し,経時的に再生組織を確認し網膜電図などで視機能を測定するという,複雑な実験ですが,彼女の目覚ましい努力により,ほとんどを岐阜大学で行えるようになりました。実際にiPS細胞を用いた再生医療にゴーサインが出されれば,我々を含めた様々な試みの中から最適な医療が生き残っていくでしょう。多くの研究グループが,一定のルールの下に,たとえ規模は小さくとも自由に研究を行うことが,何が正解か全くわからない再生医療の基礎研究には必要ではないかということも,少し理解していただけたでしょうか?

その他にも,当分野の研究者の個性や意向をくみ入れ,ES細胞が分化する最初の出来事に関連する遺伝子の機能解析(72),ES細胞やiPS細胞を浮遊状態でほとんど感染原になる血清などの動物由来成分を用いず多量に培養し,再生医療への応用を促進する研究(64),内耳の幹細胞を利用した聴覚異常の再生医療モデルの確立,神経堤幹細胞をエピジェネテイックなリプログラミングにより例えば色素細胞から誘導し,その幹細胞から再生医療に使える神経細胞を誘導する研究,などを学内外の研究機関や企業と共同で行っています。おいおい,これらの研究についてもアップします。

このように,当分野は幹細胞というくくりで比較的多種の研究を手がけており,ただこのことは我々の弱点にもなりうるのですが,研究者個人がより自分に合った研究を一つの研究室内で選択することが可能です。また,医学部ではありますが,比較的独立色の強い分野として,研究の多くを医学部以外の出身者で行っており,製薬企業(研究・MR),臨床試験支援企業、パラメディカルなど多少とも専門性を活かした就職実績があります。当然,修士課程修了後に就職を希望する方に本格的な研究機会を提供する覚悟があります。これまでの10年の実績として,医学部の基礎教室としては平均以上の研究費を獲得し(年間4を超えない数千万円),半分以上の修士課程修了者は自分が著者に入った論文を持っています。博士号取得者は,実質的に当分野の研究で取得した医学部の臨床出身者を含め8名(3名が当分野所属)います。当分野所属の博士号取得者は1名が当分野の助教,1名がアメリカ合衆国でテクニシャン,1名は米国製薬企業で研究員をしています。

医学部の動向は良くわからず,これを読んでも実際どうなのか?という方は,是非私にコンタクトして下さい(tkunisad@gifu-u.ac.jpに)。教授では信用できないという方は,このサイトにある教室員や大学院生に電話でも良いのでコンタクトしていただいて構いません。必ずしも科学研究の価値が心から国民に認められていない現状で,今以上に明るい生命科学あるいは医学研究者の未来を説く勇気は私にはありませんが,例えば,大学の図書館や生命科学系の研究室には必ず置いてあるNature(ネイチャー)という科学雑誌を一冊どれでも手にとって下さい。必ず,生物学関係の論文が掲載されているはずです。文献には私が関連した最近のNatute論文を選んでも結構ですが,どれでもOKです。オンラインでも結構です,周りの先輩に頼んでそれらしい論文をダウンロードして下さい。英語が不得手という方は,雑誌の最初にある論文のサマリー部分の日本語訳を参照して下さい。一体どんなことを実際に行ったらこんな図が描けるのか,最終的になにをどう料理したらこんな偉そうな結論が導けるのか興味深く感じたら,科学に関わる資格は十分といえます。少なくとも修士課程の2年を研究して過ごすことは,この厳しい時代でも不利ではありません。いくらかでも身に付くはずの科学的な考え方や合理的な物事の進め方は,必ず他の役にも立つでしょう。これを見ているあなたがいくら若くてもあと60年しかない人生です。是非手前どもの研究室にとは申しません(我々の要求や進め方にとても合わないと判断したら,入学を断ることもあります)。水のあった研究室を選び,2年あるいは5年いやもっと長く,人類のみに許された贅沢である科学研究を行うのが一つの正しい人生ではないでしょうか。


(2007/07)


当教室は平成14年度4月より岐阜大学医学部大学院再生医科学専攻再生分子統御学講座組織・臓器形成統御学部門という名称で司町の岐阜大学医学部に創設されました。平成16年より、岐阜大学大学院医学研究科再生医科学独立専攻再生分子統御学講座組織・器官形成分野と改名され、16年6月からは柳戸の新校舎の4回に研究室を構えています。岐阜大院医・再生・組織器官形成あるいは学内では組織形成と略称しています。

現在、四名の研究スタッフと五人前後の大学院生と一名の教務職員とで運営されている研究グループです。

再生医学の実用化を目指して、それに必要な細胞・組織・器官の発生の分子機構の解明と制御技術の開発を行っています。さまざまな細胞を必要に応じて使っていますが、胚性幹細胞(ES細胞)からさまざまな細胞を誘導することに力を注いでいます。さらに、これらの細胞を用いて動物を使った再生治療モデルの開発を行っており、最終的な目標である人への移行を模索しています。

再生医学は何を目指すのでしょうか?高邁な理念はさておき、近未来の再生医学の一つの応用例として、左心低形成症候群の患者を救うためのストーリーは次のようになります。

患者の表皮のバイオプシーから線維芽細胞を調製します。凍結しておいたあらかじめ除核しておいた余剰受精卵に線維芽細胞由来の患者の細胞核を移植し、その受精卵から患者自身の遺伝情報をもつES細胞を樹立します。その間、心臓の発生を制御する全遺伝子の配列を患者の線維芽細胞(あるいは末梢の白血球細胞)由来のDNAを用いて確認し、異常の有無を確認します。もし異常が見つかれば、ES細胞を樹立後正常配列に遺伝子相同組み替えを利用して修復します。ここまでで約半年かかるでしょう。さて、樹立され必要に応じて遺伝子を修復されたオーダーメードES細胞を用いて、まず培養皿の上で心臓のタネを発生させ、さらに培養タンクに移して成熟させます。あるいは、心臓のタネはブタに移植して成熟させることになるかもしれません。約1年後、この再生心臓は左心低形成症候群の小児へ移植されることになります。患者のゲノムをもつES細胞から作った心臓ですから拒絶反応の心配もありません。

もちろん、各段階で様々な問題点が指摘されており、この予測が近未来において的中するかどうかは定かではありません。しかし、すくなくとも前半に述べた技術はマウスにおいてはすでに確立されています。多分、一人一人のES細胞を用時に樹立するこのプロトコールは、あらかじめ樹立しておいた組織適合性抗原などの免疫反応に影響を与える遺伝子の検査済みのレディーメードES細胞から選択するプロトコールへ移行するでしょう。ただし、後半部はほとんど未開発の技術であり、我々はそれを開発しなければなりません。

現在、ES細胞から様々な細胞が分化誘導されています。特に、神経細胞や膵臓のβ細胞の樹立はパーキンソン病や糖尿病の再生医学的治療につながる成果として注目されています。しかし、心臓のようにいくつかの細胞種の秩序ある配合によって形成される組織・器官を試験管内で誘導することは可能かどうかも定かではありません。もちろん不可能であるという根拠もありませんし、原理的に何にでもなれるはずのES細胞を用いれば可能であると信じてはいます。当教室はES細胞から組織・器官、せめてそのタネになる未成熟な組織・器官でも良いから試験管内で誘導したい、そしてそれらを用いて再生医療を行いたいと考えているのです。