|
|
|
|
  |
|
タイの東北部からラオス平原地帯には天水田が広がる.水田の中には多数の樹木が見られる.樹木が多いところでは,まるで林の中にイネが育てられているように見える.このような景観を「産米林」という.次の画像を参照されたい. |
|
|
|
| ヤソトン県ルンノクター郡(1991)丘陵の水田 |
 |
|
|
| ヤソトン県カムクンケオ郡(2004)丘陵の水田 |
 |
|
|
| コンケン県ムアン郡(1983)氾濫原の水田 大きな蟻塚とその上に生える樹が特徴 |
 |
|
→Top |
|
|
| ビエンチャン特別市サイタニー郡(2006) |
 |
|
|
ビエンチャン特別市サイタニー郡(2006)
インドボダイジュ |
 |
|
|
| ビエンチャン特別市サイタニー郡(2007) |
 |
|
→Top |
|
  |
|
「産米林」という日本語は,高谷好一・友杉孝の論文において初めて使われた(高谷・友杉 1972 東北タイの丘陵上の水田:特にその「産米林」について.東南アジア研究10巻1号77−85).
高谷らによる定義は,森林として登録されている土地で米づくりを行っている水田,である.従ってこの定義は単なる景観を指すものではなく,農業統計上の分類項目として新たに提案されている水田の一つの区分である.ではどうしてそのような「森林」の中で米づくりを行っているか?このような森林(国有林)では伐採業者によって価値の高い巨木が切り出された際,伐採に必要な道路が作られ整備がなされた.農民がその後に下生えを刈り払い,イネを植えるようになった.森林局によって米を作ることは許可されているが水田内の木を切ることは禁止されている田として農民に利用されている.1930年代にはこのような田はほとんど存在しなかった.比較的近年まで林であったところに,この当時急速に米づくりが侵入してきた状態を,高谷らは「産米林」と称したわけである.
現在では,上空や道路際から見れば森林だが,一歩中に足を踏み入れると水田であった,というような「産米林」はほとんど見ることができない.このページの写真にも示すように,農民が水田に植えた竹やマンゴーの樹木類も含めて「産米林」として,定義を広げて用いられることが多く,このページでもそのような使い方をしている.
水田のイネの立場から見れば,群落の上にそびえる樹木があることで何らかの影響があることは明らかである.林の中か孤立木の下なのかが単に量的な違いではないであろうことは容易に想像されるが,具体的な中身,起きている現象についてはわからないことが多い.このことが産米林研究プロジェクトに着手した契機ともなっている.
|
|
  |
|
Rice production forest (高谷好一・友杉孝)
Trees in paddy fields (Grandstaff et al. 1986), (Watanabe et al. 1990),
(Vityakon et al. 1993)
Trees-in-Paddy-Fields Agroecosystem (Vityakon 1993) |
|
→Top |
|
  |
|
高谷好一・友杉孝(1972)(上掲)
Watanabe, H., K. Abe, T. Hoshikawa, B. Prachaiyo, P. Sahunalu and C. Khemnark 1990 On trees in paddy fields in Northeast Thailand.Southeast Asian Studies 28;45-54
Grandstaff, S.W., T.B. Grandstaff, P. Rathakette, D.E. Thomas and J.K. Thomas 1986 Trees in paddy fields in Northeast Thailand. In G.G.Marten (ed.) Traditional agriculture in Southeast Asia. Westview Press, Boulder&London.273-292.
Sae-Lee S., P. Vityakon and B. Prachiyo Effects of trees on paddy bond
on soil fertility and rice grwoth in Northeast Thailand. Agroforestry Systems
18:213-223.
Vityakon, P., A. Sae-lee and S. Seripong 1993 Effects of tree leaf litter
and shading on growth and yield of paddy rice in Northeast Thailand. Kasetsart
J.[Nat. Sci.]27;219-222.
Prachaiyo, B. 2000. Famers and forests:A changing phase in Northeast Thailand.Southeast
Asian Studies 38(3):271-446.
Vityakon, P. , S. Subhadhira, V. Limpinuntana, S. Srila, V. Trelo-ges and
V. Sriboonlue 2004 From Forest to Farmfields: Changes in Land Use in Undulating
Terrain of Northeast Thailand at Different Scales during the Past Century
Southeast Asian Studies 41(4):444-472.
Kosaka, Y., S. Takeda, S. Prixar, S. Sithirajvongasa and K. Xaydala 2006
Land-use patterns and plant use in Lao villages, Savannakhet Province,
Laos. TROPICS 15(1):51-63
Kosaka, Y., S. Takeda, S. Prixar, S. Sithirajvongasa and K. Xaydala 2006
Plant diversity in paddy fields in relation to agricultural practicies
in Savannakhet province, Laos. Economic Botany 60(1);49-61.
Kosaka, Y., S. Takeda, S. Prixar, S. Sithirajvongasa and K. Xaydala 2006
Species composition, distribution and management of trees in rice paddy
fields in central Lao, PDR. Agroforestry Systems 67;1-17.
|
|
→Top |
|
 |
| 【科学研究費補助金(基盤研究(A))課題「東南アジア天水田稲作における産米林の機能解明と活用」(2007から09年度)】 |
|
|
|
研究の背景
○天水田稲作を基盤とする農業の問題点
東南アジアを地形を基礎として農業立地的に分類すると,山地部,平原部,デルタ部,島嶼部のように区分けできる(高谷1985「東南アジアの自然と土地利用」).稲作の上では伝統的な小規模灌漑の山間盆地や近代的な灌漑が整備されたデルタでは高く安定的な生産をあげることができるのに比べて,平原部の生産は極めて低く,また不安定であることが知られている(長谷川1992「タイ農業が警告する」).稲作を水利の上から分類しその地理分布を見ると,rain-fed
rice cultivation(天水田)とされるシステムは南及び東南アジアにおいてはインド東部,ミャンマー中部と並んでタイの東北部に著しく多く分布している(IRRI Rice Knowledge Bank). タイの東北部はコラート高原と呼ばれ,地形的には平原部に分類される地域であり,平坦な地形と低い降水量を特徴とし,灌漑水を容易に得ることができない条件のために稲作は天水田に頼らなければならない.このような環境が天水田稲作の卓越をもたらし,また生産の低収不安定を結果している.これはこの地域の社会経済的困難の主要因となっている.
東北タイを中心とした東南アジア平原部の天水田稲作の生産性安定化の推進に関しては,育種的な対応と,そのための基礎となる生理生態的研究が東北タイのウボン稲作試験場を拠点としてFukaiらを中心に精力的に行われてきた(Fukai1998 Increased
Production of Rainfed Lowland Rice in Drought Prone Environments).その過程で天水田向けの改良品種も作出されるようになり,特にラオスではTDKシリーズの改良品種の普及が進んでいる.けれども育種的な対応のみではこの地域の生産不安定性を十分に克服できるとは言い難い面もある.そのような指摘は平原部天水田の稲作システムを実態的に解明してきた研究からもなされている.
○東北タイの農村定着調査から明らかにされた天水田稲作
京都大学の人類学者水野浩一は1960年代に東北タイの天水田農村において社会経済に関する長期定着調査を行い,その過程で天水田稲作の実像が明らかになった(水野1981「タイ農村の社会組織」).
この成果をベ−スとして80年代,2000年代における農業生産の実態と社会経済状況の変化に対応した変容を明らかにする研究が京都大学の福井ら,龍谷大学の舟橋らを中心にそれぞれ行われた(福井1990「ドンデーン村−東北タイの農業生態」,舟橋2005「ドンデーン村再々訪:東北タイ天水田農村における40年間の動態研究」).これらの研究からは,80年代の無施肥栽培の下では品種配置や作期の設定などが微地形の特徴と降雨分布に配慮した精細な環境対応技術として確立されていること,にもかかわらず収量は水田の個々の筆間で大きく異なり,また年時間変動も著しいことが実測によって示され,そのうえでこの村の生産改良には中生中心の品種配置と作付スピードの向上を図ることが有益であることが指摘された(宮川ら1985「稲作の類型区分」,Miyagawa
& Kuroda 1985 Variability of yield and yield components of rice in
rain-fed paddy fields of Northeast Thailand.など).
2000年代における調査から,この村の品種も改良型の2品種のみとなり,化学肥料が普及し,区画整理によって圃場は大規模化したところで機械化直播栽培が行われるようになったことを報告した(宮川ら2004「東北タイの天水田稲作における近年の栽培技術変化の評価」).このことによって村全体の平均収量は増加したものの,干ばつ害等による極低収田が依然存在する一方では最高収量の値は80年代と変わりがないこと,年次変動も依然として著しく,不安定性を克服できてはいないことを明らかにした(Miyagawa
et al. 2006 Long-term and spatial evaluation of rice crop performance of
rain-fed paddy fields in a village of Northeast Thailand).
また京都大学の河野泰之等を代表とする東北タイ全域における農業変化に関する調査研究(MAPNET project)においても,稲作技術は近代化に向かいつつも生産の低収不安定性からの脱却は容易でないことが示されている(Miyagawa
et al. 1998 Technical changes in rainfed rice cultivation in Northeast
Thailand).
このように平原部の天水田稲作自体の改善には多くの障壁が存在していることが明らかである.一方東北タイを始め天水田稲作農民は稲作の不安定性に対処するために多角的な生産,生業を戦略として維持している.80年代までの東北タイの農村では菜園における野菜果樹生産や,キャッサバなどの畑作,家畜,野生資源採集などの活動が活発に行われていた.しかしこれらの活動も都市への農外就労が増えるにつれて徐々に衰えつつあり,農業や生物生産活動全体による食料生産のボトムアップは困難な状況にある(松田明子・宮川修一2002「東北タイ・ドンデーン村におけるホームガーデンの20年間の変化」,PELUSSAproject(代表;河野泰之)による).
○天水田稲作と森林樹木
平原部天水田の特徴的な生態として「産米林」の存在が知られている(高谷・友杉 1972 前掲).これは森林を水田化する過程において意図的に田内に林木を残したままにおくことによって生じる景観である.東北タイでは18世紀半ばより入植水田化が進行し,かつては全土の6割もあった森林が現在では1割にまで減少した.けれども産米林の存在により意外に耕地内の立木は多い.このような産米林の機能については近年注目が集まるようになり,東北タイにおいてはコンケン大学農学部による調査(Grandstaff
et al. 1986 前掲)が,またラオス南部の天水田地帯では京都大学の竹田・小坂らの調査がなされている(Kosaka et al. 2006 前掲). 前者の報告では,産米林の機能について農民からの良い評価を多く掲載しているが,実測実証調査が行われていないという点で予備的な研究段階にとどまっている.また後者の研究では森林,林産物の天水田稲作農民生活にとっての意義という観点からの分析にとどまり,稲作にとっての効果や障害については十分な検討がなされていない.
人間文化研究機構総合地球環境学研究所を中心とした「アジア・熱帯モンスーン地域における地域生態史の統合的研究:1945-2005(代表秋道智彌)」における研究からは,ラオス平野部では首都近郊においてさえも平均20%程度の森林面積があり,平原部ではありながら現在の東北タイとは異なって,極めて多くの樹木が水田内に存在し,さらに水田と森林がモザイク状に分布していること,このような水田で行った数量調査からは林内の新田の収量は開田年の古い田よりも高い値を示すこと,農民はイネの生育にとってよい立木と悪い立木とを明確に区別していることをみている(足達・宮川他2006ラオス・ビエンチャン平野の天水田農村における品種選択と収量分布の特徴).水田の樹木が被陰などによりイネに悪影響を及ぼしている,という事態は想定しやすいが,水田樹木生態系は予想外に複雑で,一面ではイネにとっての好ましい状況を提供している可能性も大きいことがわかった.
近年ではアグロフォレストリーによる環境ストレス回避の研究,深根性の樹木による水のリフトアップ機能を利用した水ストレス回避の研究(桜谷2004「樹木根による土壌水の再配分と近傍作物への効果」)なども行われるようになり,このような手段での天水農業における作物栽培改良が提案されるようになってきている.他方,天水田域でもこれに接する林地の土壌の肥沃性(Naklang et al.1999)や,東北タイの焼畑の研究から開墾当初の土壌肥沃土の高さが指摘されている(久馬2001「熱帯土壌学」).平原部天水田稲作においても産米林に注目するならば,稲作改善の新しい方途が発見できる可能性が大きい.
○インドシナ半島平原部,とりわけラオスにおける産米林の水稲生産における意義
ラオスは稲作国であり,米の一人当たり消費量もミャンマーに次いで世界第2位であるが,米の生産は平原部天水田,山間部伝統的灌漑田,焼畑においてなされている.このうち最も重要なのは平原の天水田であるが,天水田では上記のような問題を抱えている一方,地形的にも経済的にも灌漑化はほとんど望めない状態にある.いわゆる近代的な稲作技術の導入は,東北タイの天水田よりも困難であり,従って東北タイの天水田がたどってきた近代化(機械化,補助灌漑,化学肥料,単一改良品種)をそのままに適応することはできない. 一方ラオスの天水田地帯には多くの森林が存在しており,また水田にも多くの立ち木が存在している.森林や有用な樹種はそれだけでも価値の高い資源であるが,これらが水田や耕地に特別の効果を及ぼし,作物の生育に対する環境ストレスを緩和するのみか,何らかの助長効果を現していることが証明できるなら,他の稲作地域ではできなかった,近代化の弊害を回避したポストモダンの稲作が可能ではないか? そういう意味で産米林水田は近代化からは完全に取り残されていたことが幸いして,現在,最も消費者に求められるような安全と環境負荷のない価値の高い米の生産が可能ではないのか?
|
|
|
|
研究の目的
東南アジア大陸部の天水田に樹木が混在する「産米林」について,水稲生育に及ぼす効果を定量的に明らかにすると共に,水田および水稲と樹木の相互作用を解明する.
さらに産米林が天水田においてどのように維持されてきているのかを植物生態学と農村社会学の立場から明らかにする.
これらの成果に基づき,不安定で低収を特徴とする天水田稲作の改善に資するような,産米林機能を活用する新しい技術を提案する.
|
|
|
|
研究組織
宮川修一 (岐阜大学応用生物科学部)
舟橋和夫 (龍谷大学社会学部)
星川和俊 (信州大学農学部)
竹中千里 (名古屋大学大学院生命農学研究科)
大場伸也 (岐阜大学応用生物科学部)
川窪伸光 (岐阜大学応用生物科学部)
小坂康之 (総合地球環境学研究所)
渡辺一生 (京都大学東南アジア研究所)
足達慶尚 (岐阜大学大学院連合農学研究科)
小久保美佳(岐阜大学大学院応用生物科学研究科)
原田真里 (岐阜大学大学院応用生物科学研究科)
松下雄一 (信州大学大学院農学研究科)
弓場憲生 (広島県立総合技術研究所)
富岡利恵 (名古屋大学大学院生命農学研究科)
※瀬古万木 (岐阜大学大学院農学研究科)(2007年度まで)
|
役割
代表・水田生産力分析
農村社会経済における効果分析
産米林立地地理
土壌肥沃度と水質評価
作物生育リモートセンシング評価
動植物相分析
樹木生態および資源管理
産米林立地地理
水田生物資源および生産力
樹木生息生物
イネの生育と収量
産米林GIS
イネ生育リモートセンシング
水田土壌および水の化学成分
イネの生育と環境要因
|
|
|
|
研究成果発表
|
|
→Top |
|

|
|
このページに関する問い合わせ先 miya@gifu-u.ac.jp |
|
最終更新日2012年2月7日 |