環境改善から環境創造へ-微生物の力を借りながら- | 応用生命科学課程 | 応用生物科学部 | 国立大学法人 岐阜大学 |

高見澤一裕
 高見澤一裕教授(環境微生物工学研究室

環境改善から環境創造へ-微生物の力を借りながら-

小学生のころ、私は大阪府の北のはずれの池田市に住んでいました。昭和30年代の高度成長が始まりつつある時代でした。阪急宝塚線を利用して大阪市内へ、梅田のターミナルへ、時折ショッピングに連れていかれていました。大阪市内に入る直前に三国という駅があります。ここは、神崎川の渡り口で、線路が急な角度で曲がっていたため、電車は徐行して運転していました。したがって、川の様子がよくわかります。緑、黄色、赤など鮮やかな色の帯が真っ黒な川の本流に絵を描いていました。下流側を見るとすべてが混ざり合って、なんとも奇妙なおどろおどろしい色具合に交じっていました。さらに、三国の駅に近付くと乗客は真夏の暑い時でも電車の窓をバタンバタンと閉めだしていました。神崎川の臭いがたまらなくくさかったのです。こんな汚い川をきれいにしたいなーと漠然と思ったのが、今でいう環境改善への研究のきっかけだったかもしれません。

微生物に興味を持ったのは高校生の時です。NHKの朝ドラ、「おはなはん」が始まりました。役者は左卜全、場面は五右衛門風呂に入りながら、おはなはんの旦那役の質問、あんたは帝大で何を研究しているのか?カビだー、その後、カビの話を訥々としていました。

ふーん、カビが研究材料になるのか、とても新鮮で、餅や畳に生える青や黒が不思議に思えました。ともかく、カビを含む微生物を学びたくて農学部農芸化学科に進みました。 
環境改善と微生物が結びついたのは卒業論文です。活性汚泥という言葉にひきつけられました。それは、微生物の集団で、環境改善の機能が高いことを知りました。爾来、活性汚泥をはじめ微生物集団、単一の微生物と環境のかかわりを研究しています。
前置きが長くなってしまいました。これからバイオレメディエーションとバイオリファイナリーの研究についてお話します。
汚染サイトに栄養源を入れているところバイオレメディエーションは、生物とくに「微生物を利用した環境改善」と訳されています。一般の人たちはあまり気にしておりませんが、先進諸国の土壌・地下水汚染は深刻で、日本では44万か所、アメリカで200万か所、ヨーロッパで180万か所といわれています。重金属や有機性化学物質による汚染です。有機化学物質による汚染、たとえばクリーニング屋さんでの洗剤に使われるトリクロロエチレンやテトラクロロエチレン、は油と性質が近いためいったんこぼれると地下水の上をさっと走って広がってゆきます。すなわち、有機化学物質による汚染は広範囲に広がってしまい、地下水流に沿って何10キロも汚染されていることはざらです。回収はおろか浄化が大変であることが分かると思います。これらを浄化する方法として、汚染している化学物質を分解する微生物の力を借りることが考えられます。すなわち、分解微生物が元気になるように餌(栄養源)を与え、分解させようとする方法です。これがバイオレメディエーションで、いろんな化学物質を分解する微生物を探し、性質を見極め、活性化するための栄養を見つけ出し、実際の汚染サイトで浄化に応用するための基礎的な研究を行っております。

我々微生物学者は、人類が作った30万とも50万ともいわれている化学物質を分解する微生物は存在すると信じています。いないと思っても、これまで探してきていないか探す方法が悪かったためでしょう。現に、テトラクロロエチレン分解菌は1998年まで存在しないと考えられていましたが、現在は、30種類以上が報告されています。地球上にどれだけの種類の生物がいるのでしょうか?少なくとも1億種類といわれています。微生物は?カビは4.8 %、細菌は0.4 %しかわかっていないといわれています。環境改善に微生物を利用する研究はこれからますます盛んになります。

 次はバイオリファイナリーです。バイオリファイナリーという言葉は、アメリカのクリントン大統領が大統領在任時に初めて使いました。この言葉の意味はいくつかの解釈がありますが、バイオテクノロジーを使ったバイオマス資源の利用がもっとも一般的と思います。takami2.jpgバイオマス、ここでは植物に限定しますが、は、食糧、飼料、繊維、肥料そして燃料として利用されています。私は、未利用資源あるいは廃棄されている植物の葉っぱや茎などの利用を研究してきました。

バイオマスは、おおざっぱに言ってセルロース、ヘミセルロース、リグニンからできています。これらの中でセルロースとヘミセルロースは各々ブドウ糖もしくはキシロースから構成される天然高分子化合物です。これまで、微生物の生産する酵素を使ってたとえばピーナッツの殻、ピスタチオの殻、クルミの殻、スギの鋸くずなどの植物系廃棄物からキシロースを取り出し、これを低カロリー甘味料キシリトール微生物変換してきました。すなわち、未利用資源から有用物質を取り出してきました。

最近では、ゴルフ場からの刈り芝や道路除草の雑草などからブドウ糖を取り出し、アルコールへ微生物変換するバイオエタノール生産の研究も行っています。雑草から燃料を創っても食糧を原料とする方法と競合せず、さらに、より環境に優しいといえます。新たな環境創造につながる微生物利用です。(ゴルフ場が油田に…日本が世界に誇る最新技術

先にも少し触れましたが、地球上に存在する微生物の95%以上はまだ分かっていません。人によっては、99%いや99.9%ともいいます。いずれにせよ、無限の探索の可能性が残っています。この、微生物の楽しさは、マンガ「もやしもん」にも描かれています。ちなみに「もやし」とは、「種麹」の意味で、清酒製造業で使われています。
親菌感って大切ですね。