シャクチリソバの育種利用をめざして   
 
 シャクチリソバの花(異型花自家不和合性はソバと同じ)  日本では主に河川敷に生育し、10月頃に花を咲かせる。 フリーズドライされたシャクチリソバの葉の粉がねりこまれた蕎麦(ほっと今庄(福井県) 
  帰化雑草は年々増え続け、在来種を駆逐しもともとの生態系を乱すなどの理由で深刻な問題となっています。これらのなかには、遺伝資源として重要な価値を持つものもあります。当研究室では、シャクチリソバに着目しましています。
 
   シャクチリソバは中国西南部が原産地で、パキスタン、インド、ネパールからタイにかけて広く分布しています。ソバ、ダッタンソバに近縁な野生植物で、形態がソバに似ていたことから、かつてはソバの野生祖先種であると考えられていたこともありました。最近、Yamane et al. (2003 and 2004)のDNA分析により、野生ダッタンソバはシャクチリソバから約70万年前に種分化したことが明らかにされました。ダッタンソバはルチン含量が他のソバに比べて高く、機能性食品として注目されている食品です。ソバは日本人にとっても身近な食材であり、多収性や機能性を増加させるような品種改良が試みられていますが、ソバもダッタンソバも日本は原産国ではないため、育種素材としての野生植物資源は日本では得られません。シャクチリソバは日本には昭和以降に持ち込まれたことがわかっています(下図)。
 
 
  シャクチリソバ(Fagopyrum cymosum syn. F. dibotrys;漢名は天蕎麦,野蕎麦,金蕎麦,万年蕎麦,英名はperennial buckwheat)は多年生の虫媒植物で、自家不和合性があろります。牧野富太郎が『頭註國譯本草綱目』(1933年)で「赤地利」をFagopyrum cymosum と記載したことから和名としておこされました。栄養繁殖するため宿根ソバ(シュッコンソバ)とも呼ばれています(原,1947)。
 近年明らかになったソバ属の分子系統樹をみると(下図),ソバ属は,2つの大きなグループ(シモーサムグループとウロファイラムグループ)からなっています。シモーサムグループは栽培の2亜種を含めた4種で構成されています。ソバ(Fagopyrum esclentum ssp. esculentum;漢名は蕎麦,英名はcommon buckwheat)とその野生祖先種(F. esculentum ssp.ancestrale),ソバに非常によく似ている自殖性のホモトロピカム(F. homotropicum),ダッタンソバ(F. tataricum ssp. tataricumGaert.;漢名は苦蕎麦,英名はtartary buckwheat)とその野生祖先種(F. tataricum ssp. potanii),そしてシャクチリソバです。シャクチリソバは,形態的特徴がソバに似ていることから,かつてはソバの野生祖先種と考えられていたこともあった。しかし中国南西部で1990年に大西によりソバの野生祖先種(F. esculentum ssp.ancestrale)が発見されています(Ohnishi,1991)。分子マーカーを用いた研究からも,シャクチリソバはソバとは異なる種であることが明らかにされています。

  シャクチリソバは近年、帰化雑草として日本各地で分布を拡大していますが遺伝的多様性は全く調べられてきませんでした。シャクチリソバは、原産地である中国では、その薬効成分が高く評価され、その結果、乱獲が相次ぎ、現在では国家二級の保護植物として認定されています。また、ネパールでも、1999年より国際植物遺伝資源研究所〔IPGRI:International Plant Genetic Resources Institute〕の支援を受け、シャクチリソバの現地保全(in situ conservation)が始まっています。山根らの研究グループはこれまで、パキスタンからタイ、インド、中国にかけて広い範囲の遺伝的多様性を調査し、野生ダッタンソバがシャクチリソバから種分化したことや、シャクチリソバがソバ属の中でも極めて高い多様性を保持する植物であることを明らかにしてきました。
  当研究室では、日本におけるシャクチリソバの遺伝的多様性を調べ、遺伝資源としての評価を行い、さらに、雑草生理・生態学的特性を理解したうえでの適切な管理にむけての基礎的なデータを収集を行っています。そして、遺伝資源としてのシャクチリソバを利用した、新しいソバ品種の開発を目指しています。
   ★シャクチリソバの来歴の謎の解明★ 〜最新研究より〜
  最新の実験結果から、シャクチリソバは日本に一回だけ持ち込まれたものが全国に広がった可能性が高いことがわかっています(山根投稿準備中)。このことは、たった一度の持ち込みにより、ごく短い期間でこれだけ大きな集団を形成する可能性を示しています。帰化植物の急速な分布拡大様式を理解するうえで重要な手がかりとなりそうです。さらに興味深いことに、日本でみられるシャクチリソバは、種としての分布は四倍体の方が広いにもかかわらず、日本も生育するシャクチリソバは全て二倍体であることがわかってきました。一回の持ち込みに由来するという今回の結果と矛盾しませんが、ではなぜ、二倍体なのか?それは、シャクチリソバでは二倍体だけが根茎を肥大させ、中国ではこの肥大した根茎が薬用として利用されていることと関係あるのではと我々は考えています。さらにDNA分析の結果、中国の最も東の集団から持ち込まれた可能性が示され、シャクチリソバのきた道が解明されつつあります。
 
 
 
       
       
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