島嶼環境は,大陸など他の地域から地理的に著しく隔離されており,進化学の予測理論を実際に確認観察できうる場として考えられてきました。私は小笠原諸島,南西諸島,ミクロネシア諸島をフィールドワークの場として,進化生態学的な研究を行ってきています。
小笠原諸島では,まず,多くの無人島を含めた離島ごとに,植物相の解析を行い,各構成種の分布生育状態を明らかにしました。また,同諸島に固有のクマツヅラ科ムラサキシキブ属3種と,ミカン科シロテツ属を材料に,地理的隔離や生育環境と,形態変異・生理的特性変異との関係を解析してきました。その結果ムラサキシキブ属では,各固有種3種の個体群がそれぞれ生態的環境に対応して異なった形態変異を示し,その変異の様相は,固有種3種の共通祖先の適応放散の結果と,離島に分布を拡大した際の遺伝的浮動の結果で生じてきたものと考えられました。シロテツ属では,葉の形態変異が,生育環境に適合した生理的特性と関連している事実を把握しつつあります。
小笠原諸島のさらに南海域にある火山列島,北硫黄島(無人島)における植生調査も行い,同島の山頂域の植生を戦後はじめて具体的に報告し,また,火山列島のさらに南のミクロネシア諸島では,そこに分布するムラサキシキブ属植物の形態の分類学的問題を明らかにしました。
一方,南西諸島では,植物相の解析のために,屋久島から,トカラ列島,奄美列島,沖縄列島,八重山列島にいたる各地で,野外調査を行いつつ,文献情報の整理もしてきました。その結果,環境保全上,重要なデータを整理して示すことができました。また,特に植物相の解析がほとんど行われてこなかったトカラ列島では,現地調査を繰り返し,島の面積と自生種類数の間の正の相関を明らかにすると同時に,火山起源の島々独特の現象として,比較的新しい地誌的環境が生育種類数に影響を与えていることを示しました。
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