水利環境研究分野の前身である「農業水利学講座」は,昭和40年3月に総合農学科の発展的解消に伴い,農業工学科農業土木系の1講座として発足し,初代講座主任は太田更一教授(昭和40年〜49年)であった.昭和47年4月に,太田教授,西出勤助教授(昭和39年に京都大学より赴任),佐藤政良助手(昭和47年に東京大学から新規採用)の3名の完全講座となった.昭和49年3月に農業水利計画学の権威であった太田教授(退官後,日本大学農獣医学部教授として迎えられる)が停年退官され,西出助教授が教授に昇格し2代目講座主任となった.昭和52年4月には佐藤政良助手が岩手大学農学部(現在,筑波大学教授)に転出したが,昭和53年に東京大学から足立忠司助教授が迎えられた.昭和56年には京都大学から千家正照助手が採用され,ここに西出・足立・千家の2回目の完全講座となった.昭和62年4月には足立助教授が岡山大学農学部教授(現在,岡山大学環境理工学部学部長)として転出した.当講座の主な授業担当科目は,農業水利学,農業水利学演習,土壌物理学,土壌物理学実験などであった.昭和63年4月に農学部改組に伴って,生物生産システム学科生産環境整備学大講座に所属し,「灌漑排水学研究分野」へと改称した.その後,畑地かんがいの権威であった西出勤教授は岐阜新聞大賞を受賞されるなど数多くの研究業績を残し,平成8年3月に停年退官された.引き続き同年4月には千家助教授が西出教授の後任として昇格し,平成10年4月に鳥取大学乾燥地研究センターから伊藤健吾助手を迎えた.当研究分野の主な授業科目は,灌漑工学,排水工学,土壌物理学,土壌物理学実験などであった.平成16年4月には農学部が応用生物科学部に改組されたのに伴い,生産環境科学課程環境生態科学コースに所属し,「水利環境学研究分野」へと改称した.現在は,千家と伊藤の2名の教員で教育・研究を担当している.主な授業担当科目は,水利環境学,環境水文学,地域工学キャリア演習,水棲生物識別実習,鳥類識別実習,フィールド科学実習など大きく変化した.
平成3年には岐阜大学連合農学研究科博士課程が創設され,現在に至るまでに計7名の農学博士(論文博士2名,課程博士5名)を輩出した.博士論文の研究課題は下記に示すとおりである.
○ Adomako John Tawiah (1993):The Study of Water Saving in Arid Land Farming Using High Water Absorbing Synthetic Polymers
○ 橋本岩夫(1998):転換畑・施設畑における灌漑管理と用水量の検討
○ Shamim Ara Begum (2001):Influence of various mulching materials on evapotranpiration, root distribution, soil moisture and temperature
○ 李尚奉(2002):乾田直播栽培の導入に伴う用水量の増加と効率的な水利システムの運用による対策
○ Afandi (2003):Soil Erosion and Soil Physical Properties under Coffee Tree with Various Management in Hilly Humid Tropical Area of Lumpung, South Sumatra, Indonesia
○ 浅井修(2005):ハウス栽培におけるトマト体内の水分動態と消費水量の検討
○ Raden Achmad Bustomi Rosadi(2006):Optimum Water Management of Soybean under Deficit Irrigation
研究内容は,@農業用排水,A土壌環境保全の二本柱で構成されている.とくに,農業用排水に関しては,昭和54年から現在に至るまで,農林水産省からの依頼を受け水田と畑地を対象とした用排水に関わる調査研究を継続的に実施し,日本の灌漑排水事業に大きく貢献している.
水田用水については,昭和54年〜58年に岐阜県巣南町で圃場における用水需要を対象に「栽培管理用水」と「圃場における有効雨量」を,昭和59年〜63年に愛知県明治用水地区内で地区レベルの用水需要を対象に「施設管理用水」と「地区レベルの有効雨量」を,平成元年〜5年には岐阜県西濃用水地区で水系・流域レベルを対象に「用水の反復利用構造」を,平成6年〜10年に岐阜県海津町で「圃場の大区画化に伴う用水量の変化」を,平成11年〜15年に岐阜県巣南町で「乾田直播栽培の水田用水量」を,平成16年〜18年に岐阜県大野町で「転作田に隣接する横浸透量」を調査研究した.以上の成果は平成5年に制定された「土地改良事業計画設計基準 計画 農業用水(水田)」の制定に貢献するだけでなく,その一部は李尚奉の博士論文としてとりまとめられるなど,農業土木学会誌に2編,農業土木学会論文集に3編の論文が掲載された.
畑地用水については,昭和54年〜58年に愛知県豊川用水受益地区で「圃場における用水需要」を,昭和59年〜平成5年に豊川用水受益地区で「ファームポンド掛かりの用水需要」を,平成6年〜10年には岐阜県飛騨地区で「雨よけ栽培ハウスの用水需要」を,平成11年〜15年に愛知県津島市のトマトハウスで「雨水利用による節水かんがい」を,平成16年〜18年に豊川用水地区で「多様化する栽培管理用水」を調査研究した.以上の成果は平成9年に制定された「土地改良事業計画設計基準 計画 農業用水(畑)」の制定に貢献するだけでなく,橋本岩夫,浅井修の博士論文としてとりまとめられるなど,農業土木学会誌に8編,農業土木学会論文集に6編の論文が掲載された.
この他の農業用排水関係の研究は以下の通りである.平成3年〜4年には,愛知県津島市の休耕田を利用した農業排水の水質浄化試験を実施し,農業土木学会誌に1編の論文が掲載された.平成8年〜10年に,滋賀県の永源寺ダムを対象に濁水現象の解明を行い,農業土木学会誌に1編の論文が掲載された.平成8年〜11年には,岐阜県丹生川村で傾斜水田地帯の暗渠排水量の調査研究を実施し,その成果は平成12年に制定された「土地改良事業計画設計基準 計画 暗渠排水」の制定に貢献した.平成10年〜12年に,愛知県矢作川用水を対象に中間貯留池を利用した流域的水資源の最適利用に関する調査研究を実施し,水文水資源学会誌など計3編の論文が掲載された.
土壌環境保全に関する研究は以下の通りである.平成3年〜6年に,砂漠の緑化を目的として高分子保水材による土壌改良の実験を行い,タウイアの博士論文となり,農業土木学会論文集など4編の論文が掲載された.籾殻・紙などによる有機物マルチの効果試験を行い,ベグムの博士論文となり,日本砂丘学会誌など計3編の論文が掲載された.平成7年〜14年には文部省科学研究費の補助を得て,スマトラ島傾斜地におけるコーヒープランテーションの土壌浸食調査を実施し,ランポン大学助教授アファンディの博士論文としてとりまとめられ,土壌の物理性など計7編の学術論文が掲載された.また,ランポン大学教授Bustomi氏とダイズの節水灌漑に関する共同研究を実施し,PWEの国際誌など計4編の学術論文が掲載された.このような研究交流の実績により,平成18年4月にランポン大学と岐阜大学の大学間協定が締結された.この他、渥美半島の硬質土壌畑を対象とした超深耕の効果試験、土壌塩類化の対策として効果的なリーチング方法の検討,暗渠資材としての木炭利用の効果試験などを実施している。
岐阜大学 応用生物科学部 生産環境科学課程 環境生態科学コース
水利環境学研究室
Laboratory of Water Resouce Environment
研究室の沿革 〜農学部時代〜