研究の周辺から
岐阜大学大学院医学研究科小児病態学
近藤 直実
私共の研究とそのテーマの特徴は、必ず臨床の問題点に立脚し、時としてその研究内容と方法は極めて基礎的になるが、やがて必ず臨床に還元されるものであるということである。
しかも、私の場合、いずれのテーマも臨床での病気をもつ患児との文字通り劇的な出会いは、卒後かなり早い時期であった。
細菌性髄膜炎を呈した小学生の男児に無ガンマグロブリン血症をはじめて診断したのがきっかけで、その病因解明と治療開発の夢が、現在の先天性免疫不全症の病因遺伝子解明、病態解明のテーマとして続いている。さらに完全IgG2欠損症をはじめIgGサブクラス欠損症の世界に先駆けた病因遺伝子解明、Ataxia-telangiectasiaやBloom症候群にみる、免疫−神経−内分泌−発癌にまたがる異常の病因遺伝子解明とその病態の理解とDNA修復機構とCa++シグナル伝達系の異常の解明に続いている。
溶連菌感染症の多彩な病像への疑問が病巣感染、免疫アレルギーと感染とのかかわりへの現在のテーマに続いている。
そして気管支喘息をはじめとするアレルギー疾患患者の日常の診療を通して、その著しい呼吸困難や生活の質の低下の根本的改善をめざした夢は、アレルギー発症の根幹にかかわる病因の解明をめざして、臍帯血を用いた出生時でのアレルギー発症予知法の開発をへて、現在のアトピー遺伝子の網羅的解明、アレルギー遺伝子診断予知キット開発(特許申請中)とそのオーダーメイド治療への応用に引き続いている。さらに、治療法開発のために、ゲノム解析から遺伝子発現解明(トランスクリプトーム)をへて、タンパク立体構造の解明(プロテオーム、構造生物医学)を導入して今日に至っている。またアレルギーが遺伝要因と環境要因の絡み合いによって発症することから、遺伝子・分子と環境との直接的かかわりを解明するために、遺伝子・分子生態医学という分野を開拓している。
アトピー性皮膚炎や食物アレルギーについても日々の臨床での問題点と疑問から現在のテーマに続いている。まず食物アレルギーでは日常診療の中で「昨日食べて本日症状がでた」という訴えをしばしば耳にして、食べてすぐに症状がでる即時型に対して、そうでない症例が少なからず存在することに気づき、そのアレルゲン診断は特異IgE抗体では困難で、何か方法は、と考え、抗原(アレルゲン)刺激によるリンパ球の幼若化反応が有用であることを見出し、かつ即時でないという意味で非即時型と提唱した。ここには、いわゆる遅発型や遅延型も含まれるが、病態は多彩で今後解明すべき点が多いが、あくまで臨床的に非即時であることからこのように名付けた。幸いこの呼称は現在いろいろな所で使用されている。また食物負荷テストの重要性といわゆるダブルブラインドテストが大切であることから本邦で草分け的に方法を確立させていただいた。アトピー性皮膚炎についても病因病態は種々検討してきてが、特に強調したいのはダニ対策として難治例に対し入院による簡易クリーンベットの活用を試み、大変良好な成績をえていることである。このアトピー性皮膚炎や食物アレルギーについては、J Allergy Clin Immunolの1号分(1993)に本研究室から2報約30頁にわたる論文が掲載された。
このような歴史をへて行っている現在の研究テーマと内容について以下に記す。
最先端医療の研究(図1)
小児疾患について、ゲノムそして21世紀型ポストゲノムの視点から解明し、臨床応用をすすめている。これらによりQOLの真の向上を目指している。その代表的プロジェクトを紹介する。
(1)アレルギー・免疫不全・遺伝病の病因遺伝子解明(ゲノム解析、およびトランスクリプトーム解析)とオーダーメイド治療
アレルギー疾患の抑制系の病因遺伝子を世界に先駆け明らかにしてきた。すなわちIL-12レセプターβ2鎖、IL-18レセプターα鎖の遺伝子変異とそれによる機能異常を明らかにしてきた。この成果は朝日新聞一面、岐阜新聞一面、中日新聞、NHKで報道された。これらの成果をもとにして、アレルギーを病因遺伝子から分類し、アレルギー遺伝子診断キットを開発するなど、オーダーメイド医療・予防に活用している。
免疫不全症のうち、IgG2欠損症の病因遺伝子をやはり世界で初めて明らかにした。さらに、Ataxia telangiectasiaやBloom 症候群や代謝病の病因遺伝子産物の機能と構造を解明している。
(2)アレルギー・免疫不全・遺伝病のタンパク構造生物医学(Structure biological medicine- Kondo Nによる)(構造プロテオーム解析)
アレルギーにおける抗原認識部位、抑制系のサイトカイン・レセプターなどの機能を遺伝子産物であるタンパクの立体構造を解明し、その異常を明らかにしている。これらをもとにして低分子創薬をすすめている(文部科学省高度先進医療開発経費を受けている)。
(3) 遺伝子・生態医学(genetic ecological medicine Kondo Nによる)と生命起源・進化・遺伝子発現
地球規模的環境や宇宙環境がヒトの起源、進化そして遺伝子とその発現にどのように直接的に影響を与え、ヒトの成長、発達、恒常性維持と、その異常や疾患(アレルギー、遺伝病、生活習慣病)の発症に関わっているかを分子、遺伝子学的に解明し、臨床応用を目指している。
(図1)
