絶滅した日本のオオカミの系統学的研究


  今年、私たちは、日本に生息していたオオカミ2亜種、ニホンオオカミとエゾオオカミの系統学的な位置を明らかにする論文を発表しました。約100年前に絶滅してしまったこれらの動物に対する関心は高いようで、マスコミにも取り上げられました。この論文について、若干の解説をしたいと思います。

この研究は、岐阜大学応用生物科学部共同獣医学科の石黒先生がこれまでにおこなってきた研究を進展させたものです。これまでは、ミトコンドリアDNAの一部領域を解析して、系統関係を推定してきました。本研究では、ミトコンドリアDNAの全領域に基づいて、日本のオオカミと世界のオオカミの関係をより詳しく解析しました。

論文では、ニホンオオカミとその他のオオカミが分かれたのは、約10万年前だったと推定しています。そして、いろいろな誤差を考慮して、約2万5千年前〜約12万5千年前頃に彼らの祖先が日本にわたってきたのではないかと述べています。一方、エゾオオカミは、アラスカやカナダに現在も生息しているオオカミと遺伝的に極めて類似しており、約1万4千年前以降に北から渡来したのではないかと推測しています。北海道は約1万年前まで大陸とつながっていたと考えられていますから、エゾオオカミについては問題ありません。不思議なのはニホンオオカミです。彼らは朝鮮半島経由で渡来した可能性が高いと言われていますが、最近の知見では約20万年前以降には日本列島と朝鮮半島がつながったことは無かったと言われています。彼らの祖先はどうやって日本に来たのでしょうか。遺伝学に基づく年代推定に際しては、いろいろな仮定を置きます。私たちの設けた仮定に間違いがあったのでしょうか。さらなる研究が期待されます。

マスコミ報道では、「ニホンオオカミは固有種ではなかった」という点に重点がおかれました。確かに、大陸に広く生息するハイイロオオカミ集団とニホンオオカミとは遺伝的にそれほど隔たっていなかったので、ニホンオオカミは日本固有の別種であると考えるより亜種であると考えるのが自然です。けれども、ニホンオオカミは、遺伝的にかなり独自性が高かったのも事実なのです。系統樹では、北米、ヨーロッパ、中東、中国などのオオカミが1つのグループを作り、ニホンオオカミはそれらとはっきりと異なっていました。生物学的にも文化的にも貴重な集団を失ってしまったのは、とても残念なことです。

まだまだ書ききれないことがたくさんあります。このような研究を引き継いで発展させるのは、あなた方です。

(2014年12月)


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