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★バラ生産者からの質問と私からの回答 (2007/10/15)
2007/09/13のコラム『商品と「3つのP」』について,愛知県のAICHIローズファクトリーの三輪真太郎さんから質問を頂きました。
現在,推定で約2,000人(社)のばら切花生産者がありますが,そのほとんどは市場出荷がメインのはずです。そういった状況では,先生の言われる3つのP・トレーサビリティーはまだ時期尚早と思います。私はMPSは参加しています。その理由は,流通業者にMPSの印籠を掲示することです。マーケティングは,最終的にお金を支払うエンドユーザーに働きかけるものだと思いますし,そうしてきました。しかしながら,直販体制・直納体制が弱い現段階ではMPSも小川先生が言われるような消費者にアピール・・・・という段階ではないと思います。
これは、生産者から出荷した段階で「素材」であり「商品」では無いからです。次の業者の手を介して商品になる現実があるからです。フルーツのど飴は,メーカーから出荷した段階で商品なのです。
つまり,現在の生産者はメーカーでなく下請けなのです。出荷の段階で,商品化がされていなければ先生のおっしゃる構図は成り立ちません。
ここが国内生産者の最大の経営的弱点でしょうし,それを先生が警告してみえるのだと思います。
私たち小規模生産者は希少な品種を限定栽培し,限定出しすればかなりの高単価・高売上ができます。しかし,経営全体・日本全体で見たとき,「出荷後は市場の責任で俺はしらない」生産者が多い現実では,生産者の意識改革と流通業・販売サイドの意識改革が必須と思います。この部分が特に重要と思われます。
花のことを何も知らない人が販売業を営み,鮮度保持なんて経費の無駄とまで言い切る方が多い中,そして市場出荷に依存をせざるをえない中,生産者のみならずエンドユーザーまで(市場・流通業)一貫したポリシーの確立が必須とおもいます。
MPSを筆頭に,いつも生産者が先陣を切り,負担を背負うのはねじれ現象といわざるを得ません。この業界を総合的にプロデュースする必要があります。
私は,個人で・グループで出来ることはすでに取り組んでいるつもりですが,世界的に影響力ある先生はこの点についてどのようにお考えになるのか,ご意見を賜ることが出来れば幸いです。
ここからは私の回答です。
ホームページを見ていただきありがとうございます。HPはいつも一方通行の出しっぱなしなので時々寂しく思うときがありますが,このようにメールを頂くとうれしく思います。三輪さんのご指摘はその通りだと私も思います。
−MIWA−
これは生産者から出荷した段階で「素材」であり「商品」では無いからです。次の業者の手を介して商品になる現実があるからです。フルーツのど飴はメーカーから出荷した段階で商品なのです。つまり,現在の生産者はメーカーでなく下請けなのです。出荷の段階で商品化がされていなければ先生のおっしゃる構図は成り立ちません。
−FUKUI−
私は何とか切花を「素材」から「商品」に変えられないかと考えています。「商品」とは何かを考えたときに重要になるのが「情報」ではないかと思います。その点ではMPSも情報の1つと考えています。「商品」といったときには,そのものと一緒に色々な情報がくっついてこそ,ではないでしょうか。例えば,いくら品質が良い鞄であっても情報がついていなければただの鞄でしょうし,「縫い方に工夫をこらした職人の技」とか,「材料の皮はオーガニックで育てられた牛の皮を使っている」とかの情報がついていると,ホホーッと納得して買っちゃいませんか?
最近の市場は少し変わってきてはいますが,以前は生産者と買参人が直接交流するのをなるべく避けてきたところがあります。直接取引が始まったら市場の収入がなくなってしまいますから・・・。従って,情報の提供を市場に頼るのではなく,生産側から流通の末端(例えば生花店)に直接情報を提供することができれば,生花店は商品性を評価してもらえるのではないかと考えます。
最近のインターネットや携帯電話の急速な発達は,市場に頼らないで,生花店への直接情報提供ができるのではないかと思います。生花店への情報提供は,その先の消費者に対しても必ず効果があると思います。例えば,「このバラは環境にもやさしい栽培方法で作られたローズファクトリーの三輪さんのバラで,精魂込めて作られた一級品です」と言われれば,消費者は必ず買ってしまうと思います。このことは生花店の売り上げ増加にも繋がるので,さらに生花店からのリピート注文も出てくると考えますが,いかがでしょうか。
実際に,「三輪真太郎」でGoogle検索をすると,ARF(アイチローズファクトリー)のイングリッシュローズの魅力にとりつかれた方々のコメントが出てきます。まさに,これが「商品」の第一歩であり,以下に消費者が欲しがっている的確な情報を,これからさらに充実して提供できるかが「3つのP」に繋がるのではないでしょうか。
−MIWA−
現在、推定で約2,000人(社)のばら切花生産者がありますがそのほとんどは、市場出荷がメインのはずです。「出荷後は市場の責任で俺はしらない」生産者が多い現実では生産者の意識改革と、流通業・販売サイドの意識改革が必須と思います。花のことを何も知らない人が、販売業を営み鮮度保持なんて、経費の無駄とまで言い切る方が多い中,そして、市場出荷に依存をせざるをえない中,生産者のみならず、エンドユーザーまで(市場・流通業)一貫したポリシーの確立が必須とおもます。
−FUKUI−
実際には,ご指摘の通りの問題があることも認識しています。個選の場合には生産者自身が,共選共販の場合には農協の意識が変わらなければ,輸入の増加に伴って,苦境に立たされる生産者がゴマンと出てくる可能性は否定できません。ただ,市場法改正で2009年には市場自体が変化し始めると思いますし,生産者より苦しい立場に追い込まれている生花店も淘汰されてしまうかもしれません。
市場が大規模化されて,生花店が潰れてスーパーや全国チェーンの花店が大勢を占めると,大量安定供給できる輸入切花がいっそう有利になってしまいます。生花店の存亡は国内生産者の生命線ではないかと思います。なんとか,意識の高い生花店がより多く生き残ってもらえるような手立てを考えないといけないと思います。
−MIWA−
MPSを筆頭に、いつも生産者が先陣を切り,負担を背負うのは、ねじれ減少といわざるを得ません。この業界を、総合的にプロデュースする必要があります。私は、個人で・グループで出来ることはすでに取り組んでいるつもりですが,世界的に影響力ある先生は、この点をそのようにお考えになるのかご意見を賜ることが出来れば幸いです。
−FUKUI−
「世界的に影響力」という点は少々気になりますが・・・。確かに,花き業界という観点で考えなければいけない状況にきています。ただ,川下から要求されて対応するのではなくて,川上(メーカー)から川下を動かすことはより可能でしょうし,この点では「メーカーの考え方」に共鳴してくれる「川下側」の相手を正確に見つけ出す必要があると思います。生花店の中には,従来通りの古い考え方を持った生花店もおられますが,若い世代が後継者として跡を継いだ生花店は,自分自身の将来を考えて,新しい考え方を模索しています。
私は地方大学の教員ですので,法政大学の小川先生や千葉大学の安藤先生などのような全国展開はできませんが,せめて東海地方で何かできないかと昨年から考えているところです。例えば,バラに限って,生産,流通,販売に関連する方々を集めて,男性が女性にバラの花を贈るCMを流したり,男性週刊誌や男性の購読者が多い日本経済新聞にバラの消費宣伝広告を出したりなど・・・。ただ,お金もかかりますので,果たしてどれだけの方々が賛同してくれるかにもかかっていますが・・・。
PS: 9月からmixiというソーシャルネットワーキングサイトに参加しています。バラの生産者を探した所,25名の若い生産者が見つかりました。そこで自由な意見交換をし始めています。もし周囲のバラ生産者でmixiに参加しておられる方,あるいは参加してみたいという方がおられたら紹介してください。
★花店との連携を深めた生産情報の提供 (2007/09/27)
切花の消費宣伝ターゲットは誰でしょうか?
色々な生産団体が首都圏を中心として切花消費キャンペーンを行っています。日本ばら切花協会は「父の日」キャンペーンとして一般消費者を対象にバラのチャリティー販売を行っています。毎年実施しているのですが,なかなか目に見えた消費拡大効果が現れず,色々な論議が出てきています。何故でしょうか。
日本国内で最も評価の高い赤バラ品種は「ローテローゼ」です。バラを専門としている生産者が見れば一目で他の品種と区別することができます。しかし,一般の消費者は「ローテローゼ」であろうと「マサイ」であろうといずれも赤バラで,区別はありません。では「ローテローゼ」は誰が評価しているのでしょうか。そうです。花店です。花店は専門的な知識を持ち,来店する消費者に対して消費ニーズを判断しながら品種を選び,花束を加工して販売しています。これまで,花店は「ローテローゼ」の持つ良さを高く評価して花束やパーティーの盛花に使用してきました。このことが幾多とある赤バラ品種の中で「ローテローゼ」がダントツの優位性を確保してきたのです。しかし,パーティーなどでの仕事花の需要が減少し,その単価も低下の一途をたどる中で,次第に国産の高価な「ローテローゼ」の地位は低下し始め,代わってケニアのバラが仕事花の主役になり始めました。
バラは切花の女王といわれながら,色彩ではカーネーションと競合しており,豪華さではユリ,花保ちではアルストロメリアやトルコキキョウ,華やかさではガーベラと競合しています。例えば若い女性が「気分転換に花を買いたい」といって来店した時,花店の店長はどの花をすすめるのでしょうか。バラですか? カーネーション? ユリ? アルストロメリア? トルコキキョウ? ガーベラ?
花が仕事花から個人消費に主役が移り始めたにも関わらず,相変わらずバラ生産者は「良い物さえ出荷していれば必ず評価される」といっていますし,花市場は相変わらず見た目重視の効率的な物流を目指しています。「ローテローゼ」は花店が評価していたのであって消費者が評価していたわけではありません。今,重要なのは,消費者が評価できるバラであり,評価するための情報提供が重要なのではないでしょうか。
こんな話を愛知県のAICHIローズファクトリーの三輪真太郎さんから聞きました。
三輪さんはインフリッシュローズ切花を日本で最も早く生産し始めた方です。最初は名古屋の花き市場に出荷していましたが,「痛みやすい。開花が早すぎる。茎が細い。ボリュームがない。」という評価が市場から流れ,まったく売れませんでした。5年前に東京の市場に出荷し始め,有名デザイナーに使っていただくようになってから急激なブームが始まりました。業界人は良い花の基準を「もの」で判断しますが,消費者は「ものにまつわる物語などの付加価値」にこころを動かされます。
バラには色々な種類の品種があります。ハイブリッドティーのようなスタンダードタイプでも高芯剣弁と丸弁では雰囲気が違います。オールドローズタイプとミニ系のスプレータイプでは全く雰囲気が異なります。同じスタンダードタイプでも赤いバラとピンク,黄色,白ではイメージが違ってきます。
バラは品種改良の歴史が長いことに加えて,女性を魅惑する能力が高いこともあって様々なバラが育成されており,一口に『バラ』といってもそれが持つイメージは極めて多彩です。このバラの魅力は誰が語らなければいけないのでしょうか?
「バラにまつわる物語」は生産供給する生産者こそが提供できる最大の情報価値であり,実際にお金を出してバラを買っていただく消費者に対して提供すべきものではないかと考えます。物流至上主義の花き市場ではなく,購入してもらえる消費者に対して情報提供能力を持つ花店との連携を深めて,消費者に悦びを提供する産業になっていただきたいと願っています。
食と花の世界フォーラムにいがた2007の花の国際シンポジウム(2007/06/04)で地域育種について講演しました。
園芸業界は長引く不景気のなかで価格が低迷し,これに加えて海外からの輸入切花が急増して苦境に立たされており,地域育種によるオリジナルブランド作りに活路を見いだそうとしています。地域ブランドに対する取り組みで感じたことをいくつか挙げてみます。
(1)ブランドは誰が作るか? ブランドは生産供給側が作るものではなく,消費者が作るものです。生産供給側は,消費者がブランドとして認識できるような区別性,安定供給体制の整備,品質管理を提供するものであり,生産供給側が声高に「地域ブランドの確立」を唱えるものではありません。ブランド化を目指して戦略をたててマーケティングを行いますが,これらの取り組みが結果として消費者に認められ,ブランドとして認識されるものではないかと思います。
私の講演の中で岩手県のリンドウの事例を取り上げました。岩手県では1973年まではほとんどリンドウは栽培されていませんでしたが,その後急速に生産量が拡大し,それまで全国一であった長野県を抜き去って一位の座を確保しています。この過程では,早生から晩生までの品種の開発や,肥料や病害対策など栽培技術の開発が同時に取り組まれたことによって安定した生産供給量が確保され,さらに新たな花色を持つ品種が育成されたことで新たなリンドウの消費を広げていったと言えます。
全国的には地域育種としてユリに取り組んでいる県が8県と多く,次いでキクが4県と多いのですが,それぞれの県の生産動向と必ずしも一致しておらず,産地育成とは無関係に育種が行われているように思います。このように,新しい品種をスポット的に開発してもそれは地域ブランドには結びつかず,消費ニーズに対応した品種の開発や生産技術の向上などの地道な努力こそが地域ブランド形成に重要です。
(2)産業としての方向性を明確にすることも重要です。新潟県と富山県はチューリップ産地として競合関係にあります。富山県はチューリップの育種に力を入れており,富山県のチューリップ品種は日本国内では地域ブランドとして認知されています。しかし,近年オランダ産の輸入チューリップに押されて球根生産量が急減しています。チューリップの切花産地としてのキャンペーンも行っていますが,切花生産量は新潟県の1/8で小さな産地です。富山県はチューリップ産地としてのブランドを持ちながら,それを活かした取り組みが行われているとは言えません。一方,新潟県は全国一の切花チューリップの生産地ですが,チューリップの育種には積極的ではなく,切花の品種はオランダ産の品種が多く生産されています。ブランド形成のための戦略として,富山県がチューリップ切花全国一を目指してチューリップ育種ブランドを活用するか,チューリップ日本一の新潟県が育種に力を入れて切花産地ブランドを発展させるか,あるいは富山県と新潟県が過去のしがらみを乗り越えて富山県育成した日本産チューリップ品種を新潟県で切花生産するか。いずれにしてもこのままの状況が続く限り,日本のチューリップ産業はブランド形成以前に崩壊する危機をむかえています。中国では大量のチューリップの切花生産が行われ,花き市場にあふれていることを考えてみてください。
いずれにしても,地域育種力は産業としての花き生産業の活性化戦略と一体となってこそ大きな力を発揮します。公的研究機関の研究者が研究室から外に出ることなく机上の考えで地域育種を進めている限り,何も有意義な成果をもたらすことはありません。研究者が,現場に対する視野を広げることに加えて,産業に携わる生産者が積極的に研究方針に参画することこそ地域育種の本質ではないかと考えます。お上の作った新品種を単純に有り難がって生産する体質こそ地域育種の正反対の極に位置することを認識する必要があると思います。
朝日新聞の関西空港支局の記者から取材をいただきました。関西空港に今年に入ってから急激にケニアからのバラが輸入されているとのことでした。エミレーツ航空は2002年から関西−ドバイ便を就航しており,2006年6月からは中部国際空港にも就航しています。エミレーツ航空はアラブ首長国連邦の航空会社で,ドバイ空港をハブとして世界各地に航路を確保しています。
今年7月にドバイフラワーセンター(DFC)を訪問しました。まだ,ドバイフラワーセンターの視察報告書がHPでアップできていませんが,簡単に概要を述べます。
ドバイフラワーセンターはケニアなどの東アフリカ諸国とインド,マレーシア,ベトナムなどのアジア諸国をターゲットとした切花の国際流通基地として2006年に設立されました。アラブ首長国連邦のドバイは中世からアジアとヨーロッパを中継する都市として発達してきた歴史を持っており,現代の切花国際中継基地としての発展を目指しています。
ケニアからヨーロッパへのバラの輸送は,オランダ航空(KLM)がアムステルダム直行便をこれまで就航しており,ケニアからオランダを経由してヨーロッパ各地への輸送の便宜を図ってきました。しかし,ケニア−オランダ間は8時間を要し,さらにオランダからヨーロッパ各地への転送には長時間かかることから,ケニアで5℃に予冷したバラであってもオランダに到着する時には18℃に上昇し,さらにその後のヨーロッパ各地への転送では温度管理が難しくなっていました。
エミレーツ航空はドイツ,イギリス,フランス,ロシア各地に直行便を就航しており,ケニアからヨーロッパ各地への輸送に対して,ドバイを経由することでケニア−ドバイ間5時間+ドバイ−ヨーロッパ間6〜8時間となり,オランダからの転送を考慮すると有利性が高まります。また,ドバイフラワーセンターで温度が上昇したバラを再度5℃以下に再冷却することで,バラの品温は最高でも15℃以下に維持できることになります。
これまでケニアから日本への直行便はなく,KLMやシンガポール航空,タイ航空などの航空便が使われてきていました。しかし,エミレーツ航空が関西空港と中部国際航空に就航したことで大きな変化が現れ始めたということができます。
当然,エミレーツ航空以外の航空会社ではドバイフラワーセンターのような再冷却サービスは期待できず,ケニアのバラの品質はイマイチの状況でした。しかしドバイフラワーセンターが運用され始め,エミレーツ航空が切花の品質を保証することで高い品質のケニアのバラを日本に輸出できるようになり,ケニアの生産会社が一斉に関西航空を目指して輸出し始めたと考えることができます。(残念ながら,中部国際空港の情報を得ることはできませんでした。)
さて,問題は首都圏です。成田空港の航空機就航枠の拡大あるいは羽田空港の国際航空枠の増加によって,現在就航していないエミレーツ航空の首都圏への空路が確保された時に大きな変化が始まるのではないかと考えます。
今年の7月のケニア訪問で,日本への輸出に興味を持っていたバラ生産会社の担当者は,日本を当面の対象として考えてはいるものの,近い将来は,ロシアと同じように経済発展を遂げる中国をターゲットとして睨んでいました。恐らく,5〜10年後には日本への輸出は減少して中国への輸出が増加するものと推定されますが,その間,日本のバラ生産者は耐えきれるのでしょうか? アメリカのように生産崩壊することはありませんか?
確かに原油高騰が目の前の大きな問題であることはよく理解しています。しかし,そのことだけを主要課題として周りを見なくて良いのでしょうか? 「原油高騰対策を乗り越えた時に,海外からの輸入で足元がおぼつかなくなっていた」ということが起き得るような気がします。
インドはケニアと並ぶ国際的なバラ生産輸出国です。ドバイフラワーセンターが稼働し始め,Bangalore−Dubai間をエミレーツ航空が就航していることから,ヨーロッパ向けのバラの輸出が今後ますます増加するものと推定されます。当然,日本向けのバラの輸出は順調に増加しており,目下輸出量第一位です。
一方インドはBRICsの一員であり,デリー市では2010年のアジア大会開催に向けて高速道路の建設が行われ,IT産業の発展による経済成長も期待されています。日本では想像できない富裕層も多く,2006年の世界の長者番付では日本を抜いてアジアのトップに立ったといわれています。恐らく10年後には中国と並ぶアジアの大国として大きく日本の前に立ちはだかることになると思われます。
このような経済成長を受けて,現在でもインド国内の切りバラの価格は輸出価格を上回ることがあるとのことで,国内需要の高まりに伴って,恐らくインドのバラの輸出能力は10年後には大きく低下することになると思われます。しかし,今後10年間のインドを含めた海外からの輸出攻勢に対して日本の切りバラ生産業界は耐えられるのでしょうか。杞憂かもしれませんが,これからの10年間で日本の切りバラ生産業界は崩壊の一途を遂げるのではないかとの感があります。バラから野菜作りに転向する生産者が全国的にみられるようになり,原油高騰を受けて冬季の暖房を打ち切る生産者や新たな投資を控えて品種の更新を遅らせる生産者などもみられます。海外からの輸入の影響で価格低迷が続き,原油の高騰も加わって経営が一層厳しい状況であることは十分理解できますが,将来展望を持たないで経営が成り立っていくほど甘くはないと考えます。
規模拡大と省力化で低価格に対抗するのか,アメリカのPajaRosa社のように消費者ターゲットを明確に定めたマーケティングに従って高品質と差別化を図っていくのか。日本国内で生き残っていくための戦略を定めて,一歩ずつ積み上げていくことが重要ではないでしょうか。
商品には「3つのP」が必要だと思います。PL:製造者責任(Product Liability),PR:情報提供(Public Relations),Package:商品の識別。鉢花・切花を含めて,どれくらいの花き商品がこの「3つのP」を達成しているでしょうか.私が愛用しているフルーツのど飴をみると,たかが100円ののど飴ですが,住所,電話番号,ホームページアドレスが記載されています。
切花は50本ごとに束にされ,段ボールなどの出荷容器に入れられて出荷されます。段ボールには,花き市場でのセリで目立つように生産組合やバラ園の名前やロゴマーク,最近はホームページアドレスなども印刷されています。当然,品種名や生産者名,品質規格なども明記されています。しかし,花店の裏や資材置場に行くと,これらの出荷段ボールが山のように積み上げら,産業廃棄物として処分されています。
さて,この出荷段ボールの印刷は誰のために行われていたのでしょうか。花き市場でのセリの目印ですから,花き市場関係者,仲卸,花専門店に対する生産者情報としては不可欠な情報です。しかし,花店の店先にはこの情報が有効に活用されているようにはみえません。バラの品種名が明示されていれば良い方で,産地名などはどこにも見あたりません。生産者からの情報はエンドユーザーの消費者に伝わることなく,花店の裏で産業廃棄物の段ボールとして処分されています。
最近のデパートの地下街や大手スーパーの野菜コーナーでは生産者の写真の付いた特選野菜の生産者コーナーがあります。以前は,野菜は素材であったのですが,最近は商品に成長してきていると感じます。消費者は野菜に対して安心・安全・鮮度・品質に関わるトレーサビリティの保証と商品性を追求し始めたのではないでしょうか?
切花には「商品性」がないのでしょうか?花店は「私達が加工した花束やアレンジが商品であり,切花は商品ではなく素材だ」といいます。素材であれば国産でも輸入でも構わないのでしょうか?
そうではなく,国内の生産者は「○○バラ園の素晴らしいバラを使った花束」を目指しているのだと思います。その思いを消費者に伝えることこそが商品を生産する花き生産者の役割であり,「3つのP」の保証であると考えます。
PL(製造者責任:Product Liability),PR(情報提供:Public Relations),Package(商品の識別)。いずれも商品が持つ重要な要素です。この「3つのP」を悪用したのがミートホープ社の食肉偽装事件だと思います。信頼されていることを悪用したPL偽装,ニセの情報提供による偽装PR,他社のブランドパッケージを悪用した偽装Package。「3つのP」が重要であるからこそ発生した事件といえます。
9月8日に開催された東京農業大学花き懇談会の懇親会で,東京農業大学名誉教授の樋口春三氏が挨拶をされました。「今回の花き懇談会セミナーで,花き業界が大きな変革期をむかえていることを実感しました。これまでの花き生産は生産者サイドで物事を考えていれば良かったのだが,消費者重視の観点がより一層求められているのだと!」
まさに花き業界の重鎮である樋口先生の名言だと思います。これまで,良いものを生産していれば必ず売れる。消費者に良いと考えて取り組んでいれば必ず評価される。現在の花き業界ではこのような観点では産業として成り立っていかないことが見えてきたように思いました。
トレーサビリティは情報開示と言われることがあります。しかし,トレーサビリティと情報開示とは全く次元が異なることを理解している人は必ずしも多くありません。情報開示といった場合に,どの様な情報を公開するのでしょう。また,誰に公開するのでしょう。情報開示の中には,公開できる情報を要求があった場合に開示するという考え方があります。情報提供する側にとって都合の良い情報を選別して開示したとしてもそれはトレーサビリティとは違います。
トレーサビリティは情報を欲しいと思った人が希望する情報をいつでも入手できる体制を整えることであり,消費者のニーズを充分に把握していない限り対応が難しい取り組みです。情報を公開出来る体制を整えてもヒョッとすると誰もその情報を取りに来ないかもしれませんが,それで良いのです。トレーサビリティとは安心の提供であり,いつでも正確な情報を手に入れられるという安心感があれば,それで充分なのです。
食品業界では,100円ののど飴にも0120のフリーダイアルのお客様相談センターの電話番号が記載されてあり,ホームページや住所まで書いてあります。花き生産者の中には「電話番号を書くとやたら電話がかかってきて面倒くさいのでは?」という人もいますが,実際に食品業界では購入者の何%が電話をしてきているのでしょうか。連絡先が書いてあることが消費者に安心感を与えているのではないでしょうか。
★花生産における農薬取締法の問題点 (2007/09/11)
東京農業大学の花き懇談会セミナー(9月8日)に出席しました。今回のテーマは「花き産業における環境保全を考える。IPMとMPS」で,私の講演は「花き産業の環境対策と生産から流通までのトレーサビリティ」でした。
私の講演でも農薬取締法の問題点を指摘しましたが,総合討論でも同様の論議が始まりました。「IPMに取り組みたくても使用できる農薬が制限されている。どうしたらよいのか?」 私自身の意見として不思議に思うことを述べましたが,なぜキュウリのウドンコ病に登録されている農薬をアジサイで使えないのでしょうか?
農薬取締法には大きな欠陥があります。農薬取締法は農業生産における安心・安全な農薬使用を進めるための法律で,その主旨には大いに賛成できます。消費者保護の観点から,登録されていない農薬の使用は絶対に認められるものではありません。当然,農薬は安全性を基準に審査され,登録申請されて使用が許可されるべきであり,作物ごとに種々の安全性試験を実施して,その結果を基に申請が認められ,登録農薬となるはずです。しかし,実際には必ずしもそのような観点で登録申請されている訳ではありません。
登録申請には作物ごとに種々の安全性試験を実施する必要があり,その試験には多額の経費を必要とします。キュウリやトマトなどの主要野菜は生産農家も多く,栽培面積も大きいため,登録申請のために多額の経費をかけても農薬が売れればその経費は必ず回収できます。しかし,例えばアジサイの安全性試験のために多額の経費を投資しても,アジサイの生産農家数は全国でも数十軒で,農薬使用量も少なく,安全性試験のための費用を回収することは不可能です。従って,農薬会社は安心・安全の観点ではなく,経営的観点からアジサイの農薬をわざわざ申請することはありません。
このように,農薬が売れないから農薬会社が登録申請を行わないという状況にもかかわらず,「農薬登録がないのはその農薬が安全ではないからです」といえるのでしょうか?
安全性の保証を前提とした農薬取締法の農薬登録が,実は農薬会社の経営的観点とすり替わっているにもかかわらず,その現実に目をつむってお題目を唱え続けることは,重大な欠陥ではないかと考えます。
農水省が消費者に対する農薬の安全性を確保するために農薬取締法を制定し,その遵守を生産農家に課すことは極めて当然であり重要だと思いますが,その農薬登録制度自体に安全性とは全くかけ離れた農薬会社の経営的な観点が入り込んでいることが問題です。本来は農水省の責任で安全性試験を実施し,農薬登録を行うべきではないかと考えます。
都道府県の農業指導に関わる職員の皆さん。このような状況を判っていながら登録農薬以外の農薬使用を生産農家に規制することは,職務の怠慢と言わざるを得ません。農業指導に関わる職員は農薬取締法の問題点について声を大にして農水省に伝え,適切な法改正を要求するべきではないかと思います。生産者も含めて花き生産業界に所属している皆さん。「お上」の言うことだからおかしいと思っても声を上げずに従うことが,実は花き産業の発展を阻害していることに気が付いて欲しいと思います。
ちなみに,キュウリのウドンコ病に登録許可が下りている農薬をアジサイで使用する場合,これは「無登録農薬」ではありません。登録農薬ではあるが,キュウリ以外での使用が制限されていることを意味しているのであって,無登録農薬ではないことをお間違えのないように!
★ジャパネスク(Japanesque)とアジアの風(イーストアジアンウィンド:East
Asian Wind) (2007/07/23)
花の育種は世界的規模で行われており,育成品種の生産も世界的に行われています。インドやケニア,中国などを訪問すると,日本でもよく見かけるヨーロッパの育成品種が生産されています。当然,多額のロイヤリティーがヨーロッパの育種会社に支払われています。私は国粋主義者ではありませんが,何かしら200年前のヨーロッパ植民地政策を思い起こさせるような気がします。ヨーロッパのバラの育種会社にとって,日本で消費されるバラが日本産であろうとインド産であろうと全く構いません。日本で消費されるバラ品種がヨーロッパの育成品種であり,正規のロイヤリティーが支払われていることが重要で,消費国の産業育成などは興味の対象外です。
現代バラの発展は1867年にフランスのGuillot Fils 氏が育成した“La France”が契機であるといわれていますが,実際には異なります。1792〜1824年に中国からヨーロッパに渡った4種類のRosa chinensis “月月紅:Slater's Crimson China”,“月月粉:Parson's Pink China”,“彩暈香水月季:Hume's Blush Tea-scented China”,“淡黄香水月季:Park's Yellow Tea-scented China”が現代バラの育成の契機となっています。
1800年以前のヨーロッパのバラ(オールドローズ)の花色は,暗いピンク・赤紫・ピンク・白色しかありませんでしたが,中国から導入された月月紅によって鮮紅色,淡黄香水月季によって淡黄色の花色が導入されました。また,オールドローズは春にしか花が咲かない「一季咲き」でしたが,月月紅と月月粉の導入によって四季咲き性が導入されました。同様に,ハイブリッド・ティー(Hybrid Tea)の語源となったTeaの香りが彩暈香水月季や淡黄香水月季から導入されました。このようにアジア植民地時代に中国清王朝から持ち出された中国の古代バラ品種がヨーロッパのバラの育種の歴史を大きく変えたのです。
ヨーロッパとアジアは歴史的に全く異なる文化を熟成し,相互にその文化を尊重しながら交流を行ってきました。しかし,産業革命後の近代文明はヨーロッパの文化の優位性を際立たせ,アジア文化の低落を招きました。近年まで,日本人は日本の文化を低く評価し,江戸時代以前の文化財産がヨーロッパに大量に流出しました。しかし,ヨーロッパやアメリカで日本の美が評価されると改めて日本文化の良さに気が付くといったことを繰り返してきました。
花でも,ツツジやサツキが「アザレア」として再評価されたり,ヤマユリやカノコユリが「カサブランカ」や「スターゲイザー」として輸入されてヒットしたり,群馬県の育種家・坂本正次氏が育成したアジサイ品種「ミセスクミコ」がオランダで高い評価を受けるとそれまで古臭い花として評価の低かったアジサイが鉢花として脚光を浴びるなど,数多くの事例があります。
中国ではこのヨーロッパ文化崇拝の傾向がさらに高く,地方に数多く残る古い文化遺産は至る所で解体されて高層建築が作られています。私自身もこの5年間清王朝以前に育成された古代バラ品種(古老月季)を探してきましたが,なかなか残っていません。地方で古い月季園(バラ園)情報を頼りに訪問すると,高層マンション群になっているなどガッカリすることがこれまでも多くありました。
ヨーロッパの育種会社が育成した品種は,確かに洗練された花形や花色,高い生産性を持ち,ファッション性にも優れています。しかし,これらの品種はヨーロッパ文化を基礎にして育成された品種であり,ヨーロッパ文化の感性に基づいて選抜された品種です。
ヨーロッパ文化の対極にある日本文化,アジア文化の感性で新たな花の育種を進めていくことが重要であると考えます。ジャポネスク(Japanesque)とアジアの風(イースト・アジアン・ウィンド:East Asian Wind)がこれからの世界の主流になると考えます。
花育種会社は,ヨーロッパ育成品種の日本代理店に甘んじることなく,日本やアジアの風をヨーロッパに吹き込んで下さい。日本の育種会社はヨーロッパ植民地政策の先棒担ぎではないのです。
7月11日に東京テレビのワールドビジネスサテライトで水産仲卸業者の特集「今,問われる卸売市場の役割」が放映されました。東京中央卸売水産市場の仲卸業者数は10年間で1800社から1550社に減少し,取扱高は10年間で3400億円から2600億円と800億円減少しています(PDF file)。そして,取扱品目のうち2/3が冷凍魚や加工品で,いわゆる鮮魚は20%程度となっていました。地方卸売水産市場はもっと苦戦を強いられており,なかには山口県唐戸市場のように観光客を相手とした魚市場への転換や,今年5月に開業した新潟市総合卸売センター水産部のように韓国・ロシアとの輸出入に将来性を託する取り組みなど,卸売市場の生き残り戦略が紹介されていました。
地方の漁港と周辺都市の消費者を基盤とした地方卸売水産市場は,園芸業界でいう所の地産地消を基盤に商いをしてきました。しかし,築地市場などの大都市中央卸売市場が全国の漁港から商品を集め始めると,中・大型漁船が地方の漁港に水揚げしなくなり,地方卸売水産市場の商品構成力は低下して次第に力を落とし始めました。さらに,スーパーに押されて買参人であった鮮魚店が廃業したことも追い打ちをかけ,地方卸売水産市場は衰退の一途をたどっています。またスーパーの店頭を見ると判るように,海外からの輸入冷凍切り身が幅をきかせており,国内水産業の衰退も急速に進んでいます。
地方卸売水産市場の衰退と中央卸売市場への集中化には様々な要素が関係しています。(1) スーパーの進出によって鮮魚店が廃業し,仲卸業者の取扱量を上回る大規模量販店が台頭したことによって仲卸業者の地位が低下した,(2) 鮮魚店が廃業し,代わりに進出したスーパーの商品仕入れは,量販店中央配送センターが中央卸売市場から集中的に行うため,地方卸売水産市場の買参人が減少し,地方卸売水産市場の売り上げが減少した,(3) 地方の漁港に水揚げする漁船が減少して商品構成力が低下し,市場としての価値が低下した,(4) 量販店の品揃えを統一するためには大量に均質な商品が必要となり,この需要を満たす商品として輸入冷凍魚が急増した,などが挙げられます。
このような流れから,山口県唐戸市場のように卸売水産市場から観光魚市場への転換を図ったり,金沢市近江町市場のように鮮度が重視されるゲンゲンボウやシロエビなどの特殊な地場魚介類を取り扱うことを目玉として生き残り戦略をたてたり,あるいは新潟市総合卸売センター水産部のように海外との輸出入に将来性を託する取り組みなど,地方卸売市場はまさに経営体質の改革を図ることで生き残りをかけています。
さて花業界に目を向けてみると,首都圏の中央卸売市場が巨大化し,地方の主要産地の切花や鉢花を集中的に引き付けて取扱価額を増加させています。当然,大都市の中央卸売市場に出荷できるのは大規模生産者や大規模共販組合で,零細な生産農家は価格が安くても地方の花き市場に出荷せざるを得ない状況になっています。このことは,小型漁船は航行距離が短いために地元の漁港に水揚げせざるを得ないのに対して中・大型漁船は大都市の中央卸売市場に水揚げしていることに似ています。さらに園芸店や生花店などの花き専門小売店が減少してスーパーやホームセンターなどの量販店の販売額が増加していることは,まさに鮮魚店が廃業していった30年前の水産業界を彷彿とさせますし,スーパーなどの大量需要を満たすために海外からの輸入切花が増加していることは,アフリカやインド洋沖から大量の冷凍魚が輸入されていることに類似しています。
花業界は新しい展開が始まっているのではなく,水産業界や青果物業界が歩んできた道を一歩遅れて歩んでいるのではないでしょうか。花き生産者の皆さん,地方卸売花き市場の皆さん,自分たちの生き残り戦略をたてるに当たって水産業界のこれまでの歩んできた道を再検証してみましょう。現在生き残って営業している水産業界の各社を調査してみると,必ず自分の歩むべき道が見えてくると思います。
7月7〜8日に花葉会サマーセミナー「市場の“企画”というものの実態」が開催され,出席してきました。今回のサマーセミナーでは主要4市場とオークネットの取り組みが紹介され,大変興味深い内容でした。
花き市場の取扱数量は急速に低下しており(PDF file),過去5年間で取扱数量は切花4億7千万本,鉢物で5400万鉢,花壇苗1億株減少しています。これに伴って卸売価額は過去5年間で切花が64億円,鉢物で219億円,花壇苗で56億円下がっています。このような状況で市場手数料を主な収入源としている花き市場は,経営の新たな方向性を見いだそうと模索していることが判りました。花葉会セミナーでは,2009年4月の市場法改正が近づき,さらに市場取扱量の減少を打開するために,これまで市場外取引として扱われていたホームセンターやスーパーなどの量販店の取り扱いを積極的に増やそうとしていることが伺えました。
平成16年の経産省の商業統計では,花きを取り扱う店舗数は26,370店で総販売額は7,763億円です。このうち園芸店や生花店などの花き専門小売店舗数は22,019店,販売額は5,669億円です。これに対して,量販店に分類されるスーパーは294店,販売額は707億円,ホームセンターは3,468店,販売額は1,128億円となっています。スーパーやホームセンターなどの量販店の店舗数は全体の14%ですが,販売額は23.6%を占めています。
平成14年度の商業統計と比較すると,花き専門小売業店舗数は5,151店減少し,販売額は1,368億円下がっており,急速に園芸店や生花店の経営が苦しくなっていることを示しています。これに対して量販店は販売額が272億円増加しており,総販売額に占める量販店販売額は平成14年の18.2%から23.6%へと増加しており,この2年間に急速に量販店の勢力が拡大しています。
量販店は多くの店舗を持っており,店舗ごとの取扱品は同じであることを基本としているため,量販店で花束パックを販売する場合には同じ規格の切花が大量に必要となります。花葉会サマーセミナーでの首都圏の花き市場の紹介事例では「赤いバラを同じ規格で5,000本調達しようとしても国内ではローテローゼでさえ手に入れられないので,必然的に輸入のバラを使わざるを得ない」状況となっており,平成18年花き卸売市場の取扱数量はユリを除いて輸入が前年度対比100を超えていることでも理解できます(PDF file)。また,鉢物や花壇苗は切花のように輸入が増加してはいませんが,大量発注を背景とした植物を知らないバイヤーの無理な値引き交渉が生産者を圧迫しています。
量販店はこれまで専門集荷会社や花束加工会社を通じて生産者から直接買い付けたり輸入商社と直接取引するなど,いわゆる市場外取引を行ってきました。上記の数値でもわかるように,量販店は発注量の大きさを背景とした低価格交渉を前面に出した強気の取引が基本です。
花き市場は国内の花き産業の振興を旗頭にたてて花生産者の側に立って量販店と交渉ができるのでしょうか?大量の取扱量の魔力に惑わされて量販店の代弁者になるのでしょうか?市場法改正や取扱価額の低下など花き市場の懐具合が怪しい中で,花き市場が正念場をむかえています。
花き生産者の皆さん。国内生産者のために働いてくれる花き市場はどこなのかかを正確に見定めてください。グローバルスタンダードだけが正論ではないと思います。
2006年3月に上海を訪問した時に麒麟生物農業(上海)有限公司の張志豪氏から聞いた情報によると,上海の切花消費人口は2000万人に達したとのことです。2003年の上海市民の年間1人当たりの花の消費量は30本であったものが,翌年の2004年には50本に増加しました。消費の多くは業務用で,会議,結婚式での消費量が急速に伸びています。
中国で消費される切花ではユリが急速に伸びており,オリエンタル系ユリの切花は6〜7元(90〜100円)/本と高価です。球根価格が2〜3元といわれていますので,球根購入費に投資ができる生産会社は利益率がよいと思います。
これに対してバラは低迷しています。2005年にはバラは既に生産過剰に陥っており,生産者引き渡し価格は0.04元(0.6円)/本にまで低下しています。これに対してカーネーションの生産者引き渡し価格は高く,0.1元(1.5円)/本程度です。しかし,上海花き市場でのバラの販売価格はそれ程低下していないことから,流通業者にとってはバラは利益率が高い切花ということができます。日本でもバラの市場価格はこの10年間で120円から60円と下がっていますが,花専門店での価格はそれ程下がっていないのと似ています。
それはともかくとして,バラが生産過剰に陥り生産者引き渡し価格がカーネーションより低くなった原因として,中国の消費構造を挙げることができます。中国では春節,情人節(バレンタインデー),労働節(メーデー),国慶節などの物日にしか花が売れません。草本植物のカーネーションでは,物日に大量の切花が収穫できるように苗の定植時期を決めて栽培しています。これに対してバラは木本植物なので「物日の時だけ収穫を行う」ことができず,需要のない時にも切花を出荷せざるを得ません。当然,需要のない物日以外の時期に収穫されたバラは超安値で買い叩かれてしまい,この低価格が需要日である物日での生産者価格を引き下げることになっているようです。これに対してカーネーションは的確に生産調整が行われているため需要期以外での出荷が少なく,価格の低下を招いていません。
このようにバラは物日主体に生産・販売する切花ではなく,「日常的に花を消費する文化」と密接に関係した切花ということができます。日本の花き消費文化は中国に比べれば高いと思いますが,消費拡大キャンペーンは未だに父の日や卒業式などの物日を中心に行われています。誕生日,結婚式,葬儀など,日常的な消費拡大に焦点を絞って運動することで,バラの本来の性質を活かした消費需要を伸ばすことができるのではないでしょうか?
花キューピッドが最近始めた「還暦のお祝いに60本の赤いバラを贈る」キャンペーンはまさにバラの特性を活かした販売促進キャンペーンであり,「二十歳を過ぎたら『私を産んでくれたお母さんありがとう』の気持ちを込めてバラの花束をお母さんに贈ろう!」や「シックな花色のバラを飾って二人でバースデー・イブ」,「桂由美デザインのローズユミを使ったブライダルブーケで結婚式」,「フューラルローズで故人の思いを偲ぶ」など,斬新な企画でバラの消費拡大を図る必要があると考えます。物日にこだわらない日常的なバラの消費キャンペーンこそ,周年出荷を余儀なくされる切りバラの消費拡大には効果的ではないかと考えます。
6月19日に開催されたJFMA主催の「お花屋さん活性化セミナー」に出席しました。花業界は不景気の余韻を引きずっていると言われていますが,セミナーに参加して元気が出てきました。「何もしなければ何も変わらない!現状を変えたいと思うならば待っていても何も変わらない!成功者は必ず信念の基に何かを始めている!」
確かに,人口が集中していてトレンドに敏感な首都圏や関西圏の成功者の話と言ってしまえばおしまいですが,しかし,彼らも安穏とした経営を続けながら成功した訳ではないことを実感しました。情報交換会でお話しできた山形県の花店「花泉」の大泉社長も同じ感想をお持ちで「地方でもやるべきことは沢山あって,やるべきことをすることなく『地方は都会と同じようには行かない』と不満を言っていても始まらない」と言っておられました。
例えば,母の日の花業界の競合相手は同業他社ではなく,「お母さんにプレゼントしたい」と思う気持ちを起こさせるインテリアや食品,旅行業界であり,母の日以外の誕生日にも花を贈ってほしいと考えるならば,「誕生日に花を贈りたい」と思わせるための日常的な仕掛けが大切だと感じました。
花を購入する人は40〜60歳代の女性が主体であるならば,「それ以外の年齢層の女性をターゲットとした仕掛け」が大切だと思います。また花を贈られてうれしいと思う気持ちは男性よりも女性の方が大きいのであれば,「女性は花を贈られるとすごくうれしい気持ちになる」ことを男性に充分認識させることが重要で,「奥さんや彼女を喜ばせたい」と思う男性の気持ちを花に向かわせることを考える必要があるのではないでしょうか。
さて,この点から花業界のプロモーションを振り返ると,「現在,花を買ってくれている女性」をターゲットにしすぎていないでしょうか。女性をターゲットとしている限りは「自分を褒めてあげたい」,「自分の生活を豊かにしたい」気持ちを満足させることであり,「花を贈られたうれしさ」を満足させることにはなりません。
30〜50歳代の男性をターゲットにした「女性に花を贈るキャンペーン」をもう一度原点に立ち返って考えるべき時期にきていると思います。男性が視聴者ではないテレビの昼の時間帯にキャンペーンをする意味はありませんし,女性と男性が同じ時間帯にテレビを見るコールデンタイムもふさわしくないかもしれません。(だって,テレビを見ながら「私も花を贈ってもらいたいわよねぇ」なんて目の前で言われたら贈れなくなってしまいませんか?)
女性の目に触れる機会が少なく,男性が購読者の主体である日本経済新聞や男性コミックなどは一見花業界と無縁の媒体のように思えますが,「女性が知らないうちに男性をその気にさせる」効果的な媒体かもしれません。
「何かをしなければ何も変わらない!」 これがキーワードではないかと思います。
★特殊な消費者ニーズに対応するバラの生産・流通 (2007/06/20)
静岡県の市川惠一氏はアンダルシア,オードリー,ルナロッサなどの感性豊かな品種を数多く育成しています。これらの品種は育成者である市川バラ園だけが生産しており,開花生理に適した時期だけ収穫され,厳しく選別されて特定の花市場に出荷されています。年中品薄状態ですので,市場価格は他のバラとは別格です。市川バラ園としては差別化を図った優れた経営戦略であると思いますし,大量流通には適さないバラであるからこそのマーケティング戦略だと思います。
市川氏が育成したこれらのバラは特殊な品種でニッチマーケットかもしれませんが,日本全国を対象とした場合にはかなりの消費ニーズがあるものと思います。実際に,岐阜の田舎でも市川バラ園のアンダルシアの名前を知っているバラ愛好家がいて,アンダルシアを買いたくて仕方がない花専門店はたくさんあります。需要ニーズを正確に把握して需用者に的確に配送できれば,バラを愛する消費者をさらに増やすことができます。
現在の切りバラの流通は,生産者が近隣の特定市場に自らが出荷し,セリによって価格が決められ流通していきます。生産者が全国の花き市場からの注文に応じて出荷することはほとんどなく,生産者の都合で市場に出荷され,価格が決定されています。
これからのバラ産業の発展を考えた場合,消費ニーズに対応して的確な量を的確な市場に提供することが重要です。現在の流通方法では市川バラ園のバラの流通状況は致し方がないかと思いますが,是非全国展開できる生産量を確保して,消費者のニーズを満足させることができる全国的な販売流通経路を開発して欲しいものだと思います。このような一つ一つの取り組みが,海外からの輸出攻勢に対抗する日本国内の切りバラ産業の発展に繋がるのではないかと考えます。
藤色系のバラでラバンデという品種があります。花弁数が15枚程度と少なく花保ち期間が短いため,市場や仲卸を経由した一般の流通には適さないことが理由で切りバラ生産農家の間では評判が良くなく,今では生産している農家はほとんどいません。しかしアメリカでは房咲きの藤色の花色とキャシャな花姿が人気で,根強いラバンデ・ファンがいます。アメリカの切りバラ生産はエクアドルやコロンビアからの輸出でほとんど壊滅状態ですが,このラバンデは輸送に耐えられないとの理由からエクアドルなどでは生産ができないため,アメリカ国内のラバンデ愛好者を対象としてPajarosa Floral社ではラバンデを生産していました。
ニッチマーケットの商品であっても,それが全国規模になれば1生産者では対応できない消費量になります。現在の多くの切りバラ生産者の流通方法は,自らが特定の契約市場に出荷して販売する方法です。したがって,特定品種の生産量を増やすことは特定市場への品種の出荷量を増加させることになり,自らの出荷が自らの価格の暴落を招くことになりかねません。ニッチマーケット商品であるからこそ国際競争力があり,ニッチマーケット商品であるからこそ全国的な流通体系の活用が不可欠だと考えます。
2009年の市場法の改正によって,小中規模切りバラ生産者が全国を対象とした切花商品を流通できる道が開かれるものと期待しています。
★第9回中国国際花卉園芸展覧会に参加して (2007/05/09)
4月11〜14日にかけて上海世界貿易商城と上海国際展覧センターで開催された第9回中国国際花卉園芸展覧会(HORTIFLORAEXPO CHINA)に行ってきました。
この展覧会は中国花卉協会が主催して,毎年北京と上海で交互に開催されており,中国の花き生産,流通の現状を見定めるためにこれまでも毎年参加するように心掛けてきた展覧会の一つです。今回の展覧会に参加して,「消費地の北京と上海で生産技術や新品種などを紹介する展覧会の役割は終わった」という感想を持ちました。
これまでの中国国際花卉園芸展覧会では海外の最新技術が紹介され,世界各国の農業資材会社や種苗会社が巨大な中国市場を目指して競うようにブースを設け,中国国内での営業活動を活発に行うと共に,中国の花き生産関係者もこぞって最先端技術の導入のために参加していました。その成果として,例えば10年前ではパッド&ファンは一部の生産会社にしか導入されていませんでしたが,今では大規模生産会社では当然の設備のように設置されています。またこれらの設備は,中国国内の工業技術の高まりと共に,海外からの輸入商品から中国産に置き換わり始め,それまでオランダやイスラエルなどの独壇場であった温室施工や潅水設備,養液管理装置も中国産でまかなうことができるようになりました。当然,生産コストの安い中国産の生産資材が調達できるようになれば,海外からの輸入も低調となり,中国への輸出をねらう海外からの出店も減少したものと推測しています。
中国国際花卉園芸展覧会は毎年北京と上海で交互に開催されてきましたが,この間に大生産地である昆明,広州などでも毎年のように花の国際展覧会が開催されており,代表的なものに中国国際植物展示会(IPM CHINA)があります。昆明は中国の切花生産拠点からアジアの生産拠点へと変貌を遂げ始め,同様に広州も中国の観葉植物生産拠点からアジアへの輸出拠点に進化し始め,それぞれの産地が国際的な地位を独自に確保し始めた時,生産地から遠く離れた消費地である北京と上海が国際的な花き資材展覧会を開催する意味が低下し始めたものと考えます。
今回の中国国際花卉園芸展覧会では,新たな取り組みとして日本やヨーロッパなどのフラワーデザイナーによるアレンジの実演発表会と作品展示が行われていました。生産資材展示の役割を終えた国際花卉園芸展覧会が,消費地としての特性を最大限活かした花き消費拡大を進める展示会に変貌し始めたと感じました。
私事ですが,3月で結婚25周年をむかえました。私が結婚したのは大学院の学生でしたので,この25年の間には家内の扶養家族であった新婚時代や公務員としての安月給時代など,色々なことがありました。
チョット良い和食のお店で2人で食事をすることにしました。折角の25周年記念なので何か思い出になるものをと思い,バラの花束を贈ることにしました。25本の花束を2束。一束は私から家内に,もう一束は二人のために。
自分で贈る花束を持って家内と一緒にタクシーに乗るのは興ざめなので,1時間前に花束を持ってお店に行って「今日の食事は結婚25周年なので,家内が席に着いた時に,『ご主人からの贈り物です』と言って花束を渡してもらえませんか?」と頼んできました。
さて,タクシーに乗って店に着いて席に座った所で,打ち合わせ通りにお店の方がおもむろに2束のバラの花束を家内に渡してくれました。私はバラの研究をしているので,生産者からバラの花をいただく機会が多く,家内も一般の人よりバラに親しむ機会が多いと思います。それにも関わらず家内は私が驚くほどの感激をしてくれ,サプライズな仕掛けは大成功を納めることとなりました。
バラの花は女性が最も好きな花であり,プレゼントされたい花の第1位です。それにも関わらずバラの消費量は年々減少しています。バラの花の使い方を男性が理解していないことにも原因があるのではないでしょうか。2007年2月22日のコラムにも書きましたが,バラの使い方を宣伝して消費を促進する方策を進める必要があります。
中国野菜のチンゲンサイが日本に導入された時に,テレビの料理番組で調理方法を積極的に放送したことが定着の最大の理由であったと言われています。同じことがバラの消費拡大でも言えるのではないでしょうか。心を伝える方法としてテレビドラマで使ってもらう,コンサートやイベントでのお祝いに積極的に利用する,新聞広告での結婚記念日にはバラの花束キャンペーンなど,贈る人の心を伝えるバラの花をイメージ戦略として積極的に進めることが重要だと思います。
HollandWeb社が発行しているニュースレターを毎月購読しています。毎月のオランダ花き市場のバラの取扱量と平均価格やオランダの最新情報が満載で,結構楽しみにしている情報の1つです。
最新のニュースレター47号に「Kom in de kas!(温室へいらっしゃい)」の記事がありました。1977年から始まったイベントで,毎年3月末の週末の土日にオランダの300社の施設生産会社が一般人を対象に施設公開を行うイベントだそうです。今年は2日間で21万人が参加したといいます。オランダの人口は1,600万人ですから,オランダ国民の80人に1人が生産温室を見学したことになります。生産されている花や生産システムをPRする全国規模のイベントとのことでした。
オランダは施設園芸大国ですから国民の理解と信頼が重要なのだと思いますが,このような一歩ずつの取り組みが国産花きの普及に大きく貢献しているのだと思います。
日本の花き生産者もやってみませんか?まさに顔の見える生産者と消費者の関係を作ることにも繋がり,さらに消費者の声を直接聞く良い機会にもなると思います。「そんな面倒くさいことをしなくても市場に出荷している方が楽だし,販売に直接繋がらない!」と言わずに,国産花きの販売促進に必ず繋がっていくと思いますよ。まずは一歩から!
★国際化のなかでの共販組織のあり方 (2007/04/10)
2007年3月のインド,2005年7月のケニアと世界を代表する切りバラ生産国を訪問しました。バラは今や国際商品であり,大量需要に対応できる生産能力が要求される商品です。需要のある所には地球の裏側からでも輸出されてきます。バラは国際的な主要な切花の一つで,先進国ではキク,カーネーションと共に,バラは3大切花に必ず挙げられます。花束には不可欠な切花であり,国内あるいは国際的に展開する大規模量販店や系列チェーンの生花店では同一規格のバラが大量に必要とされます。この大量需要に応えうる生産能力を持つことが国際的なバラ流通において必要不可欠な能力であり,ケニアやインドはこの大量需要に的確に応えたからこそ急成長を遂げられたといえます。
ケニア最大の切りバラ生産会社Sher Agencies社は400haの生産面積で年間6億本の生産量があり,インドのMeghna社でも6ha,600万本を生産し,世界中に輸出しています。これに対して,日本国内のバラ栽培面積は540ha,生産量は4億1,420万本で,生産者数は2,000名程度と推定され,平均栽培面積は2,700u(810坪),平均年間生産量は21万本程度です。このような零細規模ではとても大量需要には応えられませんし,ケニアやインドと対抗することもできません。大量需要とは対極にあるこだわりのバラ生産に徹するしか方策はありません。
MPS(花き産業総合認証プログラム)の設立に関与して判ったことですが,日本にはヨーロッパには存在しない共販組織があります。農協を中核とした生産組織で,例えば静岡県の大井川農協,愛知県のひまわり農協,愛媛県の東予園芸などが有名です。これらの共販組織の個々の生産農家は極めて小規模ですが,ひまわり農協全体では生産面積が19ha,生産量は1,500万本であり,共販組織として機能できればケニアやインドの大規模生産会社と同等の生産・出荷能力を持っています。共販組織は,いわゆる数多くの生産農場から構成される切花生産会社ということができ,各農場に責任担当者が存在する生産会社です。しかし,現状では大きな問題点を持っており,必ずしも大規模生産会社のようには機能していません。
その大きな理由の一つは,これらの共販組織は単なる集出荷組織であることです。生産する品種の選定は個々の組合員の興味に任せられており,組織として管理されていません。生産する品種は販売戦略の上で最も重要な武器の一つであり,戦略を持てない組織は企業ではありません。また,共販組織は農協の下部組織である部会として位置づけられており,永続的な責任体制が確立されていないことも問題です。一般に農協の部会担当職員が実質的な戦略担当者ですが,担当職員は一介の農協職員であり戦略決定に責任を持っておらず,不定期に職場の移動が行われます。形式的な部会長は部会員の生産者から選ばれますが,部会長は生産技術者ではあるものの,戦略立案能力を持ち合わせていません。
日本は,日本の農業の発展のなかで作り上げた共選共販組織という世界に誇れる組織を持ちながら,それを最大限に活用する方策を持たないまま衰退していくのでしょうか。共販組織は「羊飼いに搾取される羊の仲良しグループ」ではなく,「大きな獲物をとるために組織化した集団」ではないのですか?
共販組織を農協の下部組織としての部会にとどめるのではなく,法人組織として独立させて独自の戦略を進める能力を持つことが国際化の中での生き残りに不可欠な選択肢ではないかと考えます。
私が隊長をしているボーイスカウト岐阜第16団の団委員長のご母堂様が亡くなられ,先日通夜に出掛けました。祭壇をみて驚きました。2年前に私の父親が亡くなった時の葬儀祭壇はすべてキクで飾られていましたが,その葬儀の祭壇は周辺が白キクで飾られていたものの中心部分はピンクのチューリップ,その周りはストックで飾られていました。白キクは国産であるか中国産であるのかの識別はできませんでしたが,チューリップやストックは間違いなく国産だと思います。2年前に「生花祭壇」という言葉をJFMA会員の(株)ニチリョクの担当の方からうかがう機会がありましたが,いよいよ岐阜の田舎にもそれが浸透してきたのだと実感した次第です。
国産の切花需要のさらなる向上を考えると,母の日や敬老の日のような物日と違って,誕生日と同様に葬儀は年間を通じた需要があります。そして,葬儀では生花を飾ることが常識であり造花を使うことはほとんどありません。このような葬儀需要を輪ギクだけゆだねるのではなく,バラを含めた切花のもつ豊かな感性を葬儀で表現できないでしょうか。私は切りバラ業界にいるために感じたのですが,一般の人々向きには白とピンクのバラで祭壇を飾るのが適切かとも思いますが,故人が活動的な方だった場合には赤いバラの祭壇もいいと思いました。
ただ,そうなった時に輪ギク業界が招いてしまったような輸入切花が主流となるような状況を再現させてはいけないと思います。葬儀専用の深みのあるビロードがかった暗赤色のバラ「フューラル・レッド」や白と淡いピンクの覆輪の「フューラル・ピンク」,淡いクリーム色とオレンジの覆輪の「フューラル・イエロー」,淡い紫色の「フューラル・ブルー」,そして緑色を帯びた白バラ「フューラル・ホワイト」といった日本の消費者が明確に判別できる区別性の明らかな品種の開発が重要であり,その品種登録が不可欠となります。当然,このフューラル・シリーズは葬儀以外で販売してはいけません。生産する農家にとっては広く販売できない品種は不安があるかもしれませんが,様々な広報活動によってこの品種が葬儀専用品種として定着した場合には大きな需要を生み出し始めます。当然,育成者(種苗会社)が主体となって放送媒体や広告などを用いて広報活動を行い,専用品種としての需要開拓を行うことが重要になります。また,育成者権が保護されていない海外諸国に種苗を提供しない限り国産切りバラのマーケットが着実に形成されることになると思います。
近親者の葬儀を行う場合には,葬儀の日取りも含めて落ち着いて考える余裕がないままに様々なことを即断することになります。私も一昨年に父親を亡くしましたが,常日頃頭の中にインプットされていたことがそのままに表現されることになりますし,また特別なものに弱い特徴が如実に現れます。新聞やテレビで見かけたバラを使った生花祭壇を勧められると葬儀業者の言いなりになってしまうことを実感しました。
そうですね!フューラル・シリーズは顧客は喪主であり,喪主となる年齢層の男性の目に触れる放送媒体を有効に活用することが重要であり,顧客に商品提案する葬儀業者にトレンドとして提案してもらえる戦略が重要であると思います。
農水省の施策の1つとして農業の法人化があります。岐阜県も含めて全国で担い手育成事業の一環として農家からの法人化が進められており,日本農業法人協会の会員は2006年現在,1,650人で,年々会員数は増加しています。
法人とは何でしょうか?用語としては「人格を持つ」ことを意味しますが,経営体として考えた場合に「農家」と「法人」の違いは経営体の組織化と責任体制の確立ではないかと思います。私の周辺にも年商数億円を誇る生産法人があります。しかし,いわゆる「農家」が大きくなった形態の法人が多く,いわゆる法人としての組織形態を実質的に取っている法人は意外と多くないように思います。このような農家法人では,社長とその奥さん(専務)が生産温室の作業管理,営業,販売,企画,人事などすべての業務の中核を担っており,いわゆるワンマン経営体で組織化は行われていません。一般に企業の組織としては生産管理部,営業企画部,総務部は最低必要ではないかと思います。当然,それぞれの組織には責任を任せられた社員が存在し,責任と業務が分業化されています。しかし,農家が単純に大きくなった農家法人はこれらの責任と業務の分業が行われておらず,従業員は社長と専務の言われるままに作業する労働者で,古参のパートさんの方が強い権限を持っていたりします。一般に真の生産法人と農家法人の違いとして語られるのが従業員の定着率です。特別な事例を除いて,農家法人では新規採用した従業員が数年で退職することが多いようです。
ワールドビジネスサテライトという番組がありますが,そのCMの中で「なぜあなたは仕事をしているのですか?」という質問に対して「私は仕事が好きだから!」と女性が答えるシーンがありますが,私もサラリーマンの一人として仕事を続けられるのは「やらされているのではなく,自分が担当している仕事に責任を感じることと,それを評価されているという実感があること」が重要だと思います。
経営者が有能であることは当然必要なことですが,様々な能力を持つ従業員を育てて経営陣に参画できる従業員として自覚させ組織化することは,国際化を迎え10年後の生き残り戦略をたてることが要求される花き生産業界にとって必要なことではないかと考えます。
研究室行き付けのスナック・ラブハンターが,2月17日に22年の営業に終止符を打ち閉店しました。最近の柳ヶ瀬は「柳ヶ瀬ブルース」が流行った頃の面影はなく,ひっそりとした繁華街でしたが,ラブハンターはいつもお客で賑わっており,2001/12/11のコラム「スナックとカラオケ」でも紹介したように,他の店と比較すると繁盛している店の1つだと思いましたが,ママは的確に状況分析を行い,閉店の道を選択しました。
ママいわく,「最近の30歳代以下の若い人は,スナックで飲む習慣がなくなってきています。2次会は居酒屋で,歌が歌いたければカラオケに行きます。彼らが40歳・50歳になった時にスナックの将来はあるのか悩みました。今は繁盛していますが,20年後に自分の人生を託すだけの業界なのか?20年後に人生の選択ができない年齢に達した時に,スナック経営にしがみつく人生は送りたくない。まだ若いうちに新たな人生の選択をすることを選びました」。ママはこれから日本がむかえる高齢化社会を見据えて,4月から看護師の資格を得るために看護専門学校に入学するとのことです。
見事な経営者だと思いました。業界の将来を正確に分析し,自分自身の人生設計を的確に見据えて行動することはなかなかできることではありません。
さて,花き園芸業界の将来を考えてみましょう。図に示したように,1998年以降切花消費が減少しています。特に1994年以降40歳代の消費金額の低下が著しく,2004年の切花消費の80%を50歳代以上が担っています。このような状況が続いた場合に,20年後の花き園芸業界に将来性はあるのでしょうか?現在の花き消費を支えてくれている60歳代の人々が20年後も今と同じ消費量を支えてくれることはありません。30歳・40歳代の人々は20年後に現在の50歳・60歳代と同じ花き消費をしてくれるのでしょうか?
20年来の友人であるオランダ・ウェブ社のミッシェル・ドゥ・コック氏が日本ばら切花協会の講演で「バラ生産者の将来に向けた選択肢として,攻めの姿勢でバラ生産を拡大することに加えて,負債を作らない撤退も一つです」と述べられたことを思い出しました。また,バラ業界を熟知しておられる静岡大学前教授の大川清氏が「バラ生産者はバラ生産にこだわり続けるのではなく,野菜も含めたバラ以外の作物の生産を選択することも重要な選択肢です」とアーチング栽培研究会の停年退官講演で述べられたことも印象的でした。
20年来の行きつけのラブハンターが閉店したことは,私にとっても大きな衝撃であり,様々な人達と語り過ごした私の一番脂がのった時代を失ったような気持ちになりました。しかし,ラブハンターの閉店は私自身に将来の日本のバラ業界の行く末を改めて再確認する必要性を考えさせると共に,国際化を迎えた花き業界に従事する者として,将来を見据えた方向性を再検討する必要性を感じさせてくれました。
★何故日本には花の消費拡大CMがないのか? (2007/02/22)
福島県でバラを生産しているI氏からメールをいただきました。自動車会社や食品業界を含めて,テレビ,ラジオ,新聞,雑誌など様々な媒体を通じて消費の拡大を目的としたコマーシャルが行われています。これに対して花産業界では,サントリーなど一部を除いてCMを見かけることがありません。
日本の花き消費量は年々減少しており,市場価格の低迷も加わって花き業界は大きく冷え込んだ状況にあります。日本フローラルマーケティング協会(JFMA)の小川孔輔会長は「日本の花消費量を世界一に!」を宣言していますが,他の業界と比べると消費宣伝は大きく見劣りします。
国立大学の入学定員を工学部と農学部で比較してみました。工学部は約25,000人の入学定員があるのに対して,農学部は約5,000人です。大学の学生定員は就職受け入れ人数ということができ,業界の規模として農学系は工学系の1/5といえるでしょう。花き園芸に関わる定員は恐らく1/500程度かと思います。しかし,テレビの花の消費拡大CMの時間はとても1/500ではなく,1/5000以下の感じがします。このことは,業界が消費者の顔を正面からみようとしているのか,そうでないのかを表しているように思います。工業界は消費者ニーズを積極的に把握しようと考えているのに対して,農業は消費者を注視していない現れなのでしょうか。
講演で話題として良く取り上げるのですが,自動車業界は消費者ニーズを的確に把握しようと努力しています。カローラとエスティマ,クラウン,レクサスの車種を聞けば乗っている人の年収や世帯人数,住居の種類,社会的地位などが自然と想像できます。実はそうではなく,消費者を年収や世帯,住居,子供の年齢,社会的地位などで分類して,階層ごとに最適な商品開発と提案を行った成果として,車の種類と消費者が対応しているのです。収穫した切花や鉢花がどのような消費者に購入されているのかを把握している生産者を私は知りません。しかし,どの花き市場に出荷しているのかだけは正確に把握しています。生産者は本当の購入者である消費者や生花店,園芸店には興味がないでしょうか?
世界に目を向けると,花き消費をプロモーションしている事例としてオランダ花き協会(Bloemenbureau Holland:BBH)を挙げることができます。毎年販売促進計画を立て小売店や輸出先国にまで販促サポートをしています。川上から川下まで一貫したプロモーションは,花き産業の発展を考える上で見習うべきです。オランダ花き協会の活動原資は市場取扱手数料です。売上げの0.2%を広告宣伝費として拠出し,花き産業の発展のために投資を行っています。しかし,これは花の流通が市場を基本として行われているオランダの特徴でもあります。日本では花き市場の力が次第に小さくなりつつあり,市場外取引が急増しているなかで,オランダのような花き業界挙げて取り組むための原資の調達が難しい状況になっています。
日本フローラルマーケティング協会(JFMA)の目標「日本の花消費量を世界一に!」は効果的なCM戦略やプロモーション手段の企画立案が重要な課題となります。日本の花き産業界は工業界と競える業界に成長できるかどうかが今試されようとしています。花き産業界の関係者が一致団結して花き消費プロモーションに取り組む姿勢が問われているのではないでしょうか?個人ではできないことですから・・。
市場法が改正され,2009年から新たな制度が施行されます。改正には様々な内容が含まれていますが,花き業界のもっぱらの注目は手数料の自由化です。現在は取り扱い金額の10%を一律に徴収していますが,これが自由に設定できることとなります。自由に設定できるということから,花き生産者の間から「安くなるのか?」といった声が出ています。しかし,恐らく市場手数料は大きく変わることはないと予想されます。
市場関係者は,生産者から「安くなるのか?」との声が挙がっていることに耳を傾けて欲しいと思います。『自由化』ですので高くなることも当然ある訳ですが,そのような声はあまり聞かれません。このことは,10%の手数料に見合うだけの市場の役割が果たされていないと生産者が感じていることを表しているように思います。
市場手数料には情報処理費,取引場所提供費,荷役労働費,代金決済予備費,営業費,事務費,企画広報費などが含まれていると思いますが,現在の手数料10%のなかでのこれらの項目の内訳を明確に表現できる花き市場はどれだけあるのでしょうか。「手数料が市場法で決められていたので,何とかその中で出来るようにやってきた」というのが本音かもしれません。すべての花き商品が市場を経由してセリ取引が基本であった時代には問題はなかったのですが,注文取引のように商品は直接発注者に宅配されて伝票だけが市場を経由する場合や,セリを行わない取引など流通が複雑化するに従って,10%の本質的な意味が曖昧になってきたように思います。
現在の花き市場に大きく求められているのは,取り扱う商品に対する情報流通の重点的な対応ではないでしょうか。物が不足している時代には需要者に対して的確な物流を確保することが重要でしたが,物が飽和状態になり消費者ニーズが多様化している現在では,中間流通業者として生産者からの商品情報を把握し,需要者のニーズを把握して的確に最適な商品を提案する能力が要求されています。そうです。まさに市場営業能力が問われているのではないでしょうか。
恐らく,生産者は市場営業能力に不満を感じているからこそ「市場手数料が高い」と感じているのだと考えます。市場営業能力の高い花き市場は,手数料の自由化に対して「15%を徴収する」と宣言することが受け入れられる時代が到来していると考えるべきだと思います。私は,国際化の波のまっただ中に船出していく日本の花き業界において,花き市場の役割は今後さらに大きくなっていくと考えています。しかし,現在の機能しか持てない市場にはその役割を担う資格はなく,まさに市場の淘汰の時代が到来したと考えています。
日本の花き業界をより発展させようと考えている市場,大いに頑張れ!
★物の価値を評価できない花き市場に価格形成能力はない? (2007/02/15)
世の中のすべての商品には,それ自身が持つ価値があります。人はその本質的な価値を評価して価格を判断します。消費者の価値観の中には「高いよりは安い方が良いよね!」という評価もありますが,安すぎる物は売れないのも事実です。私が常用している物の1つに「のど飴」があります。1つ100円ですが,仮にこれが30円で売っていたら買うでしょうか。あまりにも安いのど飴は「何かいわくがあるのかしら?」といった気持ちになり買う気になりません。
市場論としては,需給バランスに伴う価格形成論理があり,需用者のない物は価格が形成されないのは事実です。しかし昨今の花き市場での価格の低迷は,本当に花の需要が下がっていることを表しているのでしょうか。市場の関係者は他人事のように「売れないんだから仕方がない」といいますが,本当に花は売れない商品なのでしょうか?
花き市場の関係者から「輸入のバラは品質が良い」という声を聞きますが,ここでいう品質とは何を評価しているのでしょう。見た目ですか?色合いですか?長さですか?花の大きさですか?
花の品質は用途によって異なるのではないかと思います。パーティなどで使用する花は数日の日保ちと一見の豪華さが満たされることが評価される品質ですが,プレゼント用の花はより長期間の日保ち,微妙な色合い,香り,品種名なども品質として評価される項目となりますし,農薬の使用法が品質として評価される場合もあると思います。当然,パーティ用とプレゼント用は需用者が異なります。各々の需用者に対応した商品の提案が価格形成に重要であり,花束加工業者にイングリッシュローズの切花を提案しても「要らない」といわれますし,高級花店に中国のバラを提案しても同じような反応です。しかし,これが逆であれば話は全く変わります。
そうです!商品を売ることは,本来商品が持つ価値をよく理解し,その商品の価値情報を需用者に伝えることであり,本当の需用者を見つけ出すことだと思います。花き市場に出荷している生産地を足繁く訪問して商品に対する生産者の思いと商品価値を理解する,買参人の店を足繁く訪問して客層を理解しニーズを把握することが花き市場関係者の仕事です。
花き市場の役割は,それぞれの思いをよく理解して最適なパートナーを引き合わせる仲人のような役割であり,出会いの場を提供して各々が勝手に好みの人をチョイスする出会い系サイト(変な意味ではありません)ではありません。出会い系サイトでは情報提供者が各々の責任で自己PRを行い,良いパートナーが見つからなかった場合には「残念だったね。次回に期待しようね!」で済まされます。しかし,仲人さんは必ず「次にはもっといい人を紹介するから期待していてね!」といいます。生産者に対して,「売れないんだから仕方がないんだよ!」,「もっと良いものを出してきてよ!」,「景気が冷え込んでいるからねえ。時期が悪いよ!」としか言えない花き市場には花の取引を仲介する資格はありません。
花の品質(本質)を見極めることができない花き市場,商品の持つ価値を理解できない花き市場,需用者である買参人のニーズを理解できない花き市場には価格を形成する資格はありません。
商品には商品が本質的に持つ価値があることをよく理解してください。
★大学農学部の危機は産業としての農業の危機を映し出す (2007/02/13)
3月7日に国公立大学受験志願者倍率が公表されました。岐阜大学応用生物科学部は前期日程入試2.8倍,後期日程入試5.5倍でした。一安心のように見えますが,詳しく見ると,私が所属する生産環境科学課程は前期2.5倍,後期8.3倍,もう一つの食品生命科学課程は前期1.7倍,後期5.8倍,獣医学課程は前期6.8倍でした。一般の方から見ると,「良かったですね!」感じるかもしれませんが,実は大変なことが起き始めているのです。
昨年の国立大学農学部で定員割れを起こした学科を持つ大学が複数でました。国立大学は学費も安く定員割れなど信じられないというのが社会通念かもしれませんが,過去3年間で,毎年複数の大学の農学部で定員割れが発生しているのです。
大学の合格者の選定にあたって,どこの大学もセンター試験を用いた「足切り点」を設けています。点数は一般に公開はされていませんが,例えば総点数に加えて数学,英語,理科などの個別科目の最低点を超えないと合格者のリストには入れません。この段階でかなりの割合の受験生が合格者の対象外となります。さらに,合格者リストに載った場合でも私立大学と併願していてそちらを選択する場合もあります。特に交通の便が悪い地方大学の場合に首都圏や関西圏の私立大学を優先する事例が見られ,重大な問題となります。また,大学の受験システムとして前期日程と後期日程があり,どちらかの受験で第一志望に合格した場合には,当然のことですが,合格しても辞退者が出てきます。
このような状況から,一般論としてですが,2倍の志願者倍率を下回る場合には定員割れを起こす可能性が危惧されるのです。もう一度3月7日付の朝刊を見直してみましょう。農学系の大学のうち,7大学で倍率2倍以下となっています(少数第2位切り捨て)。恐らく学科のレベルでは間違いなく定員割れの水準といわれる1.5倍前後になっている可能性があります。
なぜ農学部の人気がないのでしょうか。岐阜大学では3年前に農学部から応用生物科学部に改編しました。私自身は「農学」という名前には愛着があったのですが,高校生には大変不評でした。農学部のイメージは?との質問に対して「米作り。遅れた産業。就職がない。」といった反応で,バイオテクノロジーや地球温暖化,環境対策などのプラスのイメージはありませんでした。岐阜大学は応用生物科学部に改編したことで高校生の見る目が変わり,志願者倍率が高くなって何とか定員割れの危機を脱しました。
国立大学は法人となり,大学教員も国家公務員ではなくなりました。大学経営を考えると定員割れは最大の危機です。受験生が少ない大学は間違いなく文部科学省の指導を受ける対象となります。どの大学で定員割れが生じたのかは一般に公開されませんが,関係者の間では話題となっています。農学系の大学の退潮は産業としての農業の衰退を表しているのでしょうか。
産業としての園芸の発展こそが,教育・研究としての園芸学の大きな推進力であることを再認識しました。園芸産業の発展に大学研究者はもっと貢献すべきだと実感しています。
★オランダ人は嫌いです! でも尊敬しています! (2007/02/09)
花き園芸を専門にしていると,オランダを一度は訪問することが義務のようになります。「ここまでするのか!」と思う高度な生産施設を見せつけられて,日本のパイプハウスを思い浮かべて情けない気持ちになってきます。
温度・湿度・CO2が完全制御された3haの大温室では14,000luxの補光ランプが輝き,ベンチが自在に動き回り,切花運搬ロボットが通路を走り回り,選花場では大型選花機が稼働し,養液は完全循環システムで自動制御で混合調整され,無人防除機で病害虫の防除が行われています。花き市場は超大規模市場で,誰がこの花を買っていくのかと思うほどの膨大な量の花が時計ゼリで次々と競り落とされていきます。単なる農業の1分野である花き産業が工業のような生産・流通システムで動いていきます。
オランダ人は「花を生産するということはその生産性を追求することであり,当然のことである」と平気でのたまいます。そして「日本は自動車・電気などの工業界では進んだ国であるのに,花き産業の分野ではどうしてオランダのように生産性を追求しようとしないのか?」と疑問を投げかけます。オランダ人は論理的思考に基づいて行動します。これに対して日本人は思いやりの文化に基づいて行動します。正しい事であっても,決して相手を追いつめることはしません。相手の気持ちを思いやってアドバイスはしますが強制したりすることはありません。オランダ人は言います。「冷静に考えて,より良い方向性を見つけたのであれば,それに向かって行動するのは当然のことでしょう!現状が間違っていることを判っていながらそれを続けることは理解できません。正しいと思ったことが間違っていれば,その段階で速やかに方向転換を図ることが重要であり,その姿勢と考え方が重要なのです」
確かにオランダ人の言うとおりです。生産性を追求するということはオランダの生産方式を取り入れることであり,オランダの流通システムを導入することかもしれません。
しかし,オランダの花き産業はオランダ国内での消費を考えている訳ではなく,ヨーロッパ全土を消費市場として成長してきたからこそあのような生産システムが重要になってきたものと思います。それに対して,日本の花き産業はたった1億2000万人の日本人を対象とした花き産業であり,日本人の特有の「職人の技」を高く評価する国民性に基づいた花き産業であることを敢えて主張したくなります。
そうはいっても,国内の花き市場は闇雲にオランダ式の時計ゼリを導入し,そこそこの品質の大量生産商品を効率よくさばくことに力を入れ始め,少量しか出荷できない「職人の技」なんて目もくれない状況です。さらに追い打ちをかけるようにインドやケニアやエクアドル,ついには中国,韓国までもが大量物流にものをいわせて日本の市場を目指してきます。また,これを評価するホームセンターや花束加工業者が大きな力を発揮し始めています。これでは,「日本伝統の花き園芸文化はどこに行ってしまったのだ!」と憤慨してみたくなるのは私だけでしょうか?
負け犬の遠吠えのようにみえるかもしれませんが,「日本独自の花き園芸文化をもう一度!」と思うのですが,世の中の流れはオランダの言うとおりの国際化戦略の中に日本が組み込まれてきていることも事実というほかありません。
中国を含めた東アジア市場を対象とした大規模生産企業を目指す花き生産者は,オランダ人の論理的思考を習得して大いに発展していただきたいと思います。それと同時に,園芸文化を大切にする国内の消費者を対象に,職人の技,匠の技術で日本国内市場での高い評価を目指す花き生産者も必要ではないかと思います。
切花は収穫された時から老化が始まり,最終的に咲き切るまでの日数が鑑賞日数といえます。切花の日持ちは,この老化の過程を如何に遅らせて鑑賞日数を長く続かせるかに掛かっています。最も美しいバラは庭に咲いているバラの花で,常に樹体から光合成産物である糖の補給などを受け続け,まさに生きた花の生命力を感じさせます。
一世を風靡したアニメ「北斗の拳」のなかでブームとなった「お前はもう死んでいる!」の言葉ではありませんが,収穫された切花は,まさに切り取られた時から「お前はもう死んでいる!」状態です。低温で保存され,鮮度保持剤を処理されていたとしても,収穫した時から老化の過程を着実に歩んでいるのであって,庭で咲いているバラの花とは本質的に異なります。
切花の鮮度とは何でしょう。収穫した時が最も鮮度が高く,その鮮度こそが感動を与えるのではないでしょうか。ケニアやエクアドルのバラはコールドチェーンが徹底され,切った時の鮮度が高く維持されており一見新鮮に見えますが,収穫から航空便での輸送や植物検疫を経て,既に1週間以上が経過しています。まさに「お前はもう1週間前に死んでいる!」のです。
食品業界や鮮魚の業界では,「作りたて,獲れたて」の鮮度が消費者に購買意欲を沸き立たせます。「アツアツの作り立てダヨ!」と「先週作ったんだけど電子レンジでチンすれば味は同じダヨ!」とは何かが違います。「獲れたてのピチピチだよ!」と「先週獲って良い状態で保存したから味は同じダヨ!」とも違う気がします。何が違うのか?そうです。感動が違うのです。
国産の切花が求めなければいけないのは「消費者に対する感動の提供」ではないでしょうか。先程まで咲いていた新鮮なバラの生命力を消費者に感じてもらうことこそが,国産の切花生産者が追求するべき方向ではないかと思います。最も美しいバラの花は庭で咲いているバラの花であり,生きている花の生命力こそが消費者に感動を感じさせる命だと思います。
★海外からの輸入切花はどこで売られている? (2007/02/06)
この10年間の輸入切花の急増は目を見張る感があります。バラに到っては既に20%を超えて,国内流通量の30%に近づこうとしています。全国どこの花き市場でもケニアや韓国,インドのバラは取引されており,間違いなく一般の花店でも輸入切花が取り扱われているはずです。しかし,花店で輸入切花の表示をされたバラを見たことはありません。というより国産の表示すらなく,ましてや国内産地の表示などは皆無です。
生花店の冷蔵ケースのバラを見ていると,「恐らくインドのバラでは?」と思うバラが国産に間違いのないローテローゼと全く同じ値段で販売されています。これはおかしいことではないのでしょうか?国産のローテローゼの市場価格は80円以上と思いますので,これを200円で販売するのはロス率などを考えると致し方ないのかと思いますが,1本40円で仕入れたインドのバラを同じ200円で販売するのはいかがなものでしょうか?「物には本来持つ価値があり,物の価値で価格が決まる」と思います。40円で仕入れたインドのバラは80円で仕入れた国産のローテローゼと同じ価値があったのでしょうか?
アメリカやヨーロッパでは海外からの安価なバラが輸入されたことによって消費者のバラの購買意欲が高まり,総消費量が2倍以上に増加すると共に,国内産のバラの生産本数も増加する時期が必ず見られています。しかし,日本の現在の状況では,輸入切花が増加するに従って総消費量がむしろ低下しているというおかしな現象が見られています。 【pdf file】
日本の消費者にとって海外からの安価な輸入切花の恩恵が全く反映されていないことが原因ではないかと考えます。安価な輸入切花の恩恵は消費者に還元されるのではなく花店の利益に変換され,鮮度の低い輸入切花を国産と同じ高額な価格で購入させられていることが,消費者の切り花購入意欲を低下させていると考えるのは間違った考え方でしょうか?
確かに花店の経営は極めて厳しい状況であることは理解していますが,消費者の目を欺く商売は長い目で見た時に,将来に影響する大きな課題を提起することになりかねないと思います。
★日本で必要なMPS認証制度はMPS-QとMPS-Florimark TraceCert(MPSフロリマーク・トレースサート)かも? (2007/02/05)
MPS-Q(Quality)は,生産出荷する花き生産物の品質向上と収穫から出荷までの商品管理体制の整備,トレーサビリティの保証を認証するシステムです。そして,MPSフロリマーク・トレースサートは,流通業者が取り扱う花き商品の鮮度管理,受け入れ検査,保管方法,在庫管理体制の整備,トレーサビリティの保証を認証するシステムで,この両者は深く連携しており,生産から販売店までの品質(鮮度)の保証を消費者に対して行う認証制度です。
花き生産者がMPS-Q認証を受けるためには,出荷する花の品質管理体制を整備し,従業員の責任体制の整備,出荷伝票の管理・保管,適切なクレーム対応体制の整備に加えて,一定期間ごとに日持ち試験を実施し,顧客満足度調査を行うことが義務づけられています。一方,流通業者がMPSフロリマーク・トレースサート認証を受けるためには,受け入れロットごとの鮮度・品質のチェック,低温での保管,ロット単位での購入・販売相手の照合と記録,適切なクレーム対応などの実施が義務づけられています。
すなわち,MPS-Q認証を受けた生産者の花がMPSフロリマーク・トレースサート認証を受けた流通業者を経由されることで,生産から販売店までの流通経路が一体となってトレーサビリティが確保され,生産者と流通業者が鮮度・品質に対する取り組みを共に評価し合うことで,消費者に対するトレーサビリティを保証することができるようになります。このことは,切花や鉢物を販売する生花店,園芸店にとって極めて大きなメリットをもたらし,消費者に対して自信を持って販売できる商品を取り扱うことに繋がります。
まさに,「国産であるからこそできる商品の差別化」が完成することになります。
MPS-ABC認証は「環境にやさしい花き生産を目指す認証プログラム」といわれています。しかし,MPS本部からは「環境にやさしい」,「環境保全型農業」などの用語の使用を厳密には規制されています。なぜでしょうか?
日本人が持つ「認証」のイメージは,「他の多くのものから区別性を持たせるためのシステム」です。したがって,認証を受けた商品は「特別な商品」であり,認証は「一定のハードルを越えたものだけが受けられる」という感覚があります。例えば,エコファーマーは農水省が制定した持続農業法に準拠した基準を超えたものだけに認証が与えられ,このハードルを越えられない生産者はエコファーマーの認証を受けることができません。
MPS-ABCは環境にやさしい花き生産を「目指す生産者」に与えられる認証制度で,現状を認識すると共に環境対策に高い関心を持って改善する意欲を持つ生産者を認証する制度です。このような認証制度はかつて日本には存在しませんでした。
MPS-ABCは,環境に対する対応状況が現状は様々な段階であったとしても,意欲的に改善しようとする高い意欲がある生産者が一人でも多く認証されることによって,花き生産における環境が徐々に改善され,より多くの花き生産者がMPS-A認証を受けることによって最終的に「環境にやさしい花き生産業が達成される」という考えに基づいた認証制度です。したがって,現状を認識して第一歩を踏み出そうとするすべての生産者に対してMPS-参加者のロゴマークの使用を許可します。また,MPS-Cの認証ハードルは極めて低く設定されており,ほとんどのMPS-ABC参加者はMPS-Cの認証を受けることができます。
そんな低いレベルの認証を誰が評価するのか?といった意見が聞かれます。環境対策というものは対策基準が高ければ高いに超したことはありませんが,低いレベルの人であっても環境問題に対して常に意識を持ち続け,共に連携し合って着実に環境を改善する努力が重要であると思います。一部の特別な企業だけが環境対策を講じたから公害日本が美しい国に変わったのではありません。21世紀はLOHASの時代といわれていますが,LOHASの人達は「共に環境を考えるパートナー」に対して高い関心を持っています。まさにMPS-ABC認証を受ける花き生産者は「地球環境にやさしい花き生産を目指す」パートナーとして認証を受けることを意味しています。MPS-ABC認証は,まさに一人一人の生産者が向上心を持ち続けながら,着実に一つ一つの小さな取り組みを積み重ねていく姿勢を認証するシステムであり,息の長い取り組みが生産過程でのエネルギー消費量の削減をもたらし,農薬使用量の減少を達成させることに繋がります。このことは10年間のオランダでのデータによっても実証されています。 【pdf file】
★MPS認証プログラムが始まりました (2007/01/31)
MPS(花き産業総合認証プログラム)がいよいよ始まりました。新しい認証が始まるということで,花き生産者の間で「MPSはどのように対応したらよいのだろうか?」といった話題があちらこちらで聞かれるようになりました。日本におけるMPS認証の導入は今始まったばかりで,色々と情報不足による誤解もあるようですので,改めてMPSについて解説をしてみましょう。
「MPSは,オランダが国際戦略に基づいて世界に花を流通させるための認証制度であり,アフリカ諸国などからの切花輸出を防ぐ目的で設立されたものであるから,日本への導入は得策ではない」という意見が依然と根強くあります。
MPS-ABCは1990年代から急速にヨーロッパで高まった農業に対する環境問題への提起に対応するべく設立されたものです。したがって,MPS-ABCの本来の意味は国際戦略というよりも,花き産業における環境対策を進め,一般消費者にその取り組みをアピールすることを目的として始まった認証システムです。MPS-ABC認証制度が始まった後にアフリカ諸国からの輸出が始まり,それに対応するための国際基準として整備されてきましたことは事実であり,この点では「オランダの国際戦略の一環として確立されてきた」との指摘は正しいと思いますし,「世界に花を流通させるという大きな意志を持つ生産者」にとっては大きな武器になることは間違いありません。
それでは「国内での流通を基盤とする花き生産者」にとっては意味のないものでしょうか? そうではありません。花は日本国内でも既に国際商品となっており,一般消費者が気付かないままに海外からの輸入切花が大量に流通し始めています。どの花が国産で,どの花が輸入切花かの区別ができないままに一般消費者は花を購入させられています。販売する花店の立場からすると,「国産であることの差別性がないので敢えて区別していない」というのが現状ではないかと思います。
MPSは「花き産業総合認証プログラム」ですが,まだその中の一部であるMPS-ABC=MPSとの認識を持っておられる方がおられます。以前のコラムにも書きましたが,日本国内の生産者において重要なMPS認証は,(1)MPS-ABC,(2)MPS-Qの2種類です。さらに流通業者が受ける認証システムのMPS-Florimark TraceCert(MPSフロリマーク・トレースサート)が加わることで国産の花の優位性が大きくクローズアップされます。
MPS-Japan(MPSフローラルマーケティング株式会社)は,花き産業における総合認証プログラムであるMPS認証システムを国内に広げることで,海外から輸入される切花に対して国産花きの優位性をサポートし,消費者にその恩恵を広げていくことが職務となっています。
MPSは,意欲ある花き生産者の大きなサポート役となり,国際化の中で国内の生産者が歩むべき指針を見つけ出す契機を提供してくれます。
亥年の年頭に当たって、メール年賀状を作成いたしました。ご覧下さい
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