農薬学の講義内容
目次
T.農薬の定義
U.農薬の歴史
V.農薬取締法解説
V.農薬の毒性
W.リスク評価
Y.農薬の分類
Z.殺虫剤
[.抵抗性と総合防除(Integrated Pest Management:IPM)
\.展着剤
].植物生長調節剤(わい化剤)
T.農薬の定義
農薬とは,病害虫や雑草から農作物を保護し生産性を向上させる薬剤で,農薬取締法で規定される薬剤を指す。
農薬取締法では,「農薬」とは「農作物を害する菌,線虫,だに,昆虫,ねずみその他の動植物又はウイルスの防除に用いられる殺菌剤,殺虫剤その他の薬剤及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤,発芽抑制剤その他の薬剤をいう。」また,「前項の防除のために利用される天敵は,この法律の適用については,これを農薬とみなす。」としている。
農薬取締法では,第1条で「この法律は,農薬について登録の制度を設け,販売及び使用の規制等を行なうことにより,農薬の品質の適正化とその安全かつ適正な使用の確保を図り,もつて農業生産の安定と国民の健康の保護に資するとともに,国民の生活環境の保全に寄与することを目的とする。」としており,農薬の適正な使用を定めた法律である。また農作物とは,人間が栽培している植物を指し,稲,麦などの穀物,野菜や果樹などの一般作物に加えて,鑑賞を目的として栽培される花,樹木,ゴルフ場の芝,街路樹,山林樹木なども含まれる。
農薬取締法が規定する薬剤には,菌,線虫,ダニ,昆虫,ネズミ,雑草,ウィルスなどを防除するための薬剤に加えて,農作物の生理機能を増進あるいは抑制する薬剤などを含んでいる。
農薬の英語名には,病害虫を指すpestと殺すを指すcideを合成した用語Pesticideが用いられており,個別には殺虫剤Insecticide,カビなどの殺菌剤Fungicide,除草剤のherbicideを記載するのに対して,日本語では「農業における薬」を示す「農薬」が使用されている。この農薬という用語が危険性の認識を希薄にする原因ともなっており,農薬絶対主義が広がる原因ともなっている。
一方で,農薬の使用が農業生産性の向上に大きく貢献したことは事実であり,1991年に日本植物防疫協会が実施した農薬使用による農業生産性と無農薬による農業生産性を比較した試験では,生産性の低下が著しいことが実証されている。
また,農業作業性の向上に対する寄与も大きく,除草剤の使用によって水稲の除草作業時間は40年前の20分の1に低下している。
収量減収率(%) | 出荷金額減益率(%) | |
水稲 | 28 | 34 |
リンゴ | 97 | 99 |
モモ | 100 | 100 |
キュウリ | 61 | 60 |
トマト | 39 | 40 |
U.農薬の歴史
◎食糧危機と生産性の向上
日本における農薬の歴史は第2次世界大戦後に大きく変化する。第2次世界大戦後(1945年),戦争によって荒廃した農地の問題に加えて,海外から帰還した兵士に加えて第1次ベビーブームに伴う人口の急増が生じて食糧危機が叫ばれ,生産性の向上が大きな目標となった。当時,アメリカの指導の基に農薬の使用が奨励され,DDT,BHC,パラチオン,水銀剤などが稲作で使用され,米の増産が図られ,農薬全盛時代が築かれる。その結果,1945年の農薬使用量は20億円から1970年には886億円に増加し,この間の農薬価格に変動がないことから,44.3倍の農薬使用が行われたことを示している。この間,米の生産量は1945年の582万トンから1970年の1253万トン(1967年1426万トン)に増加している。このように,農薬の使用によって日本国内の農業生産性は著しく向上した。この時期には既に単位面積あたりの農薬使用量はアメリカの7倍に達した。
◎抵抗性系統の出現との戦い
新規農薬の開発と抵抗性系統の出現とのイタチゴッコ
◎農薬使用に対する批判
●レイチェル・カーソン氏が「沈黙の春(SILENT SPRING)」を1962年に著し,農薬の使用に警鐘を鳴らす。
●有吉佐和子氏が「複合汚染」を1974年に新聞掲載する。
●コルボーン博士が「奪われし未来(Our Stolen Future)」を1996年に出版。
●「環境ホルモン(内分泌障害性化学物質)」の健康と環境への影響に関するワークショップが1996年にヨーロッパで開催される。
◎環境ホルモンとしての疑いのある市販農薬
【アトラジン,アラクロール,シマジン,ミクロデナポン,ケルセン,エンドスルファン,マラソン,メソミル,マンエブ,マンゼブ,メトリブジン,ペルメトリンジネブ,ジラム】
●農水省が「有機農産物等特別表示ガイドライン」を制定し,1993年に施行。
現在の国際情勢においては,農薬使用量の削減は環境問題と関連して削減の方向に向いている。
オランダは,1980年代は日本と同様,面積当りの化学農薬使用量が世界で最も高い国であった。
1992年の農薬使用量(OECD調査報告) オランダ 2.1 t/km2 日本 1.7 t/km2
最大輸出国であるドイツからの「農薬漬け」の指摘を受け,農業からの硝酸態窒素や農薬排出量を法律で規制し始め,施設野菜栽培の農薬使用量を2000年には1990年の65%とする法的規制を始めた。
2006-2007の農薬使用量(OECD調査報告) オランダ 0.4 t/km2 日本 1.2 t/km2
V.農薬取締法
農薬取締法(昭和23年制定,平成19年3月改正)
福井教授の農薬取締法解説コーナー
農薬取締法施行令(昭和46年3月)
農薬取締法施行規則(昭和26年4月,平成16年6月改正)
農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令(最終改正 平成17年6月)
W.農薬の毒性
農薬の毒性には急性毒性と慢性毒性,特殊毒性がある。
急性毒性とは薬物によって短時間に障害を与える毒性を示し,「毒物および劇物取締法」によって区政されている。毒性の種類によって,普通物,劇物,毒物特殊毒物に区分されており,一般には経口毒性あるいは経皮毒性によって評価される。ラットやマウスを用いて薬物を投与し,24時間後にその半数が死ぬ薬剤量を半数致死量(Median lethal dose:LD50)として示し,体重1kg当たりの薬物量(mg/kg)で示される。吸入毒性については
薬物投与後,1時間あるいは4時間後の半数致死濃度(Median lethal concentration:LC50)として示す。
LD50 LC50 吸入 経口
(mg/kg)経皮
(mg/kg)ガス
(ppm)蒸気
(mg/l)ミスト
(mg/l)普通物 >300 >1000 >2500 >10 >1.0 劇物 30-300 100-1000 500-2500 2.0-10 0.5-1.0 毒物 <30 <100 <500 <2.0 <0.5
慢性毒性は,急性毒性が低く,一過的に摂取しても障害が発生しないものの継続して摂取した場合に障害が発生する毒性のことである。通常,特定の臓器・組織に機能異常または病変が現れる場合には,その臓器・組織の名を冠して「心毒性」「肝毒性」「神経毒性」という。
特殊毒性は,急性毒性や慢性毒性に分類されない毒性を示し,刺激性,免疫毒性,発がん性,変異原性(遺伝毒性),催奇性,生殖毒性などがある。催奇性には奇形児の発生,生殖毒性には内分泌撹乱物質(いわゆる環境ホルモンなど)による不妊などがある。
X.リスク評価
農薬が与えるリスクの中には,毒劇性の他に環境に対する毒性を挙げることができる。環境への影響は,魚毒性として表され,コイとミジンコを試験生物として用い,コイの場合には48時間後,ミジンコの場合は3時間後の半数致死濃度(Median tolerance limit:TLm)として評価し,A類,B類,B-s類,C類,指定農薬の5種類に分類される。
コイ ミジンコ 備考 A >10ppm >0.5ppm B 0.5-10ppm 0.5ppm以下 B-s 0.5-10ppm 0.5ppm以下 より低い濃度で平衡異常などの障害発生 C 0.5ppm以下 0.5ppm以下 指定農薬 0.5ppm以下 0.5ppm以下 水質汚濁性農薬に指定されている農薬
Y.農薬の分類
農薬は,殺虫剤,殺菌剤,除草剤,殺ダニ剤,植物生育調節剤に大別される。
また,その製剤性状によって粉剤,水和剤,乳剤,液剤などに大別される。
1)水和剤:水に溶けにくい有効成分を微粒子に増量剤を加え,さらに物理性を有効にするために界面活性剤を加えたもの。
2)液剤:水溶性の有効成分を液体の製剤としたもの。
3)水溶剤:水溶性の有効成分を粉末,粒状などにした固形剤で,水に溶かすと容易に水溶液となる製剤。
4)水溶性包装製剤(WSB):主として水和剤を水溶性の袋で包んだ製剤で,そのまま水に投下できる。
5)顆粒水和剤・ドライフロアブル:有効成分を界面活性剤,結合剤とともに粒剤状にしたもの。これを水に希釈すると水和剤調整液と同様の微粒子として均一に分散する。
6)乳剤:水に溶けにくい有効成分を溶媒に溶かし,これに水中で攪拌した時に均一な微粒子で分散するよう界面活性剤などの乳化剤を加えて安定にしたもの。
7)EW:乳剤に分類される製剤である。一般に乳剤は農薬原体を有機溶剤に溶解させ,乳化剤などを加えた透明な液体なのに対し,本剤は有機溶剤の大部分を水にかえたもので,粘ちょうな乳濁液体製剤である。(バイスロイドEW,トレボンEW)
8)粒剤:農薬原体を増量剤と混合造粒または空粒に吸着あるいはコーティングして製造される粒剤の固形剤。
9)微粒剤:粉剤の代替としてドリフトを少なくする目的で開発された製剤。
10)くん煙剤:加熱により有効成分をガス化して使用するための製剤。
Z.殺虫剤
昆虫の性質
◎神経がある。
◎呼吸をする。
◎幼虫から成虫に変わる。
◎食事をする。
【殺虫剤は,この昆虫の性質を駄目にする働きがある。】
1.神経系阻害剤
◎昆虫の神経と人間の神経の基本構造は同じである。
◎神経が伝わる → 電流が流れる
◎神経系阻害剤 → 電流の流れを止める。
(1)有機リン酸系化合物
−−−ホスホ−−−,−−−−ホスフェート
(DDVP,ビニフェート,ランガード,EPN,ジプテレックス,スミチオン,ダイアジノン,エストックス,ダイシストン,マラソン,エカチン,スプラサイド,オルトラン)
◎神経から筋肉や神経同士の連絡を阻害する働きがある。
◎分解が早く,残効性は期待できない。
◎アルカリ性で分解するため,アルカリ性の農薬(ボルドーや石灰硫黄合剤)と混用できない。
◎低毒性ではあるが,作業中に薬剤を浴びたり吸わないこと。
◎作業後は石鹸でよく洗う。
(サリンもこの仲間)
最も種類が多く,商品名も多種多様であるため,必ず成分名を確認すること。
(2)カルバミド化合物
−−−−カーバメート
−−−カルバ−−−
(デナポン,ハイドロール,ピリマー)
◎作用は有機リン剤と似ているが,働きが異なるため,有機リン剤と抵抗性が重ならない。
◎熱,太陽光,酸に安定であるが,アルカリ性で分解されやすい。
◎カーバメート系殺虫剤と散布時期が近いと薬害が発生しやすい。
有機リン剤に次いで種類が多い。
(3)ピレスロイド系殺虫剤
−−−−リン
アレスリン(カダンA,ボンサイズA,ワイパーゾル)
エトフェンプロックス(トレボン)
シクロプロトリン(シクロサール)
シハロトリン(サイハロン)
シフルトリン(バイスロイド)
シペルメトリン(アグロスリン)
トラロメトリン(スカウト)
◎除虫菊の研究から開発された。
◎主な作用は神経まひで,有機リン剤やカーバメート系薬剤と作用がまったく異なる。
◎速効性で,残効性がある。
◎フルシトリネート剤,ペルメトリン剤はピレスロイド系殺虫剤であるが,他のピレスロイド系薬剤に抵抗性がついた場合にも効果がある。
(4)ニコチノイド系殺虫剤
アドマイヤー,ベストガード,モスピラン,バリアード,アクタラ,ダントツ, アルバリン
◎新しいタイプの殺虫剤
◎アブラムシ,スリップス,コナジラミ等に効果が高い。
◎神経マヒ作用で,摂食や産卵を防止する。
◎速効性で,効果が持続する。
◎人畜毒性が低い。
(5)ネライストキシン系殺虫剤
カルタップ(パダン),チオシクラム(エビゼクト),ベンスルタップ(ルーバン)
◎イソメ(釣りの餌)をなめたハエが死ぬことから,研究開発された。
◎死ぬまでにはかなり時間がかかるが,神経マヒは速やかに起こり,摂食を阻害するため,食害は最小限に止まる。
◎残効性がある。
2.呼吸阻害剤剤
呼吸作用に関わるミトコンドリアの電子伝達系阻害剤で,鱗翅目(ヨトウなど),半翅目(アブラムシ,コナジラミ),アザミウマ類,ダニなど多くの害虫に殺虫作用を持つ。(医薬用外劇物)
(1)トルフェンピラド
トルフェンピラド(ハチハチ乳剤)
(2)ピロール系
クロルフェナピル(コテツ)
(3)マクロライド系
エマメクチン(アファーム,ショットワン),ミルベメクチン(コロマイト,ミルベノック)
3.微生物殺虫剤
害虫に対して選択的に殺虫効果のある毒素を作る微生物をタンク培養して,農薬としたもの。
(1)BT剤
(トアロー,セルスタート,セレクトジン,ダイポール,バシタックス)
◎B.Thuringensisという微生物が作る毒素を農薬としたもの。
◎鱗翅目害虫(蝶や蛾の幼虫)に選択的に作用(蝶や蛾の幼虫以外には効かない)。
◎死ぬまでの時間がかかるが,消化管(内臓)に障害が起こり,速やかに食害を止める。
◎若齢幼虫ほど効果が高い。
◎酸で分解される。
◎作用の仕方は,アオムシの消化管内のアルカリ性消化液で成分が溶解し,殺虫作用を示す。アオムシ以外の消化液はアルカリ性でないため,効果がない。人畜は胃酸が酸性であるため,体内で分解されるため,毒性を示さない。
4.昆虫生長制御剤(IGR剤:Insect Growth Regulators)
昆虫は,卵から幼虫になり,幼虫は脱皮を繰り返して,やがて蛹となり,羽化する。この生長過程を何らかの形で阻害する殺虫剤で,他の殺虫剤とはまったく異なる。
主なものは,脱皮阻害剤,変態阻害剤である。
◎ふ化直後の幼虫は,脱皮を盛んに繰り返すため,若齢幼虫ほど効果が高い。
(1)ベンゾイルウレア系殺虫剤
クロルフルアズロン(アタブロン),シフルベンズロン(デミリン),テフルベンズロン(ノーモルト),フルフェノクスロン(カスケード)
◎昆虫のキチン質(皮)の生合成阻害剤で,新しい皮が出来なくなり死に至る。
◎ミツバチや天敵(ハチ類)などに影響が少ない。
◎人畜に毒性が低い。
◎アブラムシなどには効果が低い。
(2)ブプロフェジン剤
ブプロフェジン(アプロード)
◎昆虫のキチン質の生合成阻害剤。
◎コナジラミ類,カイガラムシ類の若齢幼虫に選択的に効果が高い。
◎成虫には効果が全くないが,卵はふ化できなくなる。
◎遅効性であるが,残効性が長い。
◎他の昆虫に効果が低く,天敵類に影響がない。
(3)テブフェノジド剤
テブフェノジド(ロムダン)
◎脱皮を異常に促進する薬剤で,異常脱皮を繰り返し,脱皮不全のまま死に至る。
◎キチン生合成阻害剤より速効性で,残効性が極めて長い。
◎鱗翅目(蝶や蛾の幼虫)に特異的に効果がある。
◎天敵や有用昆虫には効果がない。
◎薬害は全くない。
◎今後の流れ
世界的な園芸生産の流れとして,環境保全型農業の推進が挙げられる。農薬の使用は環境保全型農業とは逆の流れであり,特に有機リン剤,カーバメート剤,有機塩素剤はその残留性や人体への影響も含めて,使用を抑制する方向に動いている。
日本は,現在農薬使用量の世界第一位であり,二位のヨーロッパの5倍の使用量(製品重量換算)が日本で消費されている。
園芸王国といわれるオランダやデンマークでは,温室周りに防虫網を張り巡らしたり,天敵利用,フェロモン(誘引剤や撹乱剤)の利用など農薬に頼らない園芸生産を目指しており,日本での多量の農薬の使用は国際的に批判を浴びることになるであろう。
農薬の使用を減らす方法として
1.害虫の発生の確認
◎定期的に害虫の発生を観察する。
◎トラップ(黄色や青色の粘着プラスチック板)を温室内に設置し,害虫数を確認す る。
2.最適時期の散布
◎発生初期の散布が最も効果的で,大発生をしてからでは効果が薄い。
◎農薬の効果は若齢幼虫で最も高い。
◎精神的な安心感を得るための過剰な散布を止める。
[.抵抗性と総合防除(Integrated Pest Management:IPM)
1.IPM(Integrated Pest Management)とは?
第2次世界大戦後,有機合成殺虫剤は絶大な効果を示し,生産性の向上に大きく寄与した。しかしその結果,天敵がいなくなり,害虫の誘導多発生(リサージェンス)をもたらした。
本来,農業は生態系を崩す人為的作業であり,単一植物を一定範囲に生育させることは,それを食草とする害虫や寄主とする病気を増大させることになる。
このような背景から,1960年代にFAO(Food Agricultural Organization:国連食糧農業機関)を中心に,生態的病虫害管理とそれを補助する人為的管理とを組み合わせて病害虫を管理する方法が,提案され始めた。
(1) 複数の防除法や管理法を合理的に組み合わせる
(2) 経済的被害の視点から害虫防除の要否を決める。
(3) 害虫の密度や作物被害の変動を見極めながら防除を行う。
複数の防除法を合理的に組み合わせる方法
【A】有害生物を低密度に抑制する
◎捕食寄生性動物,捕食性動物,(=天敵)
◎感染性微生物,弱毒ウィルス,拮抗菌
◎抵抗性品種,環境制御による病害虫の制御
【B】一時的に有害生物密度を低下させる
◎直接的殺生物法(農薬,微生物農薬)
◎繁殖行動の攪乱(フェロモン),行動攪乱(誘引物質や光による誘殺)
◎忌避(シルバーポリフィルム,UVカットフィルム)
この中で,【B】の直接的殺生物法で使用される農薬は,【A】の天敵などに影響を及ぼさないことが必要で,選択性を持たせることが重要である。
(1) IGR剤(脱皮阻害剤や羽化阻害剤など)
(2) BT剤(Bacillus tyuringiensis:昆虫毒素を生合成する微生物を製剤化した農薬)
(3) 植え穴処理などのように吸汁性昆虫のみが殺虫される
(4) イオウ燻蒸
フェロモンは,昆虫の性フェロモンを圃場に拡散させることによって,雄の交尾行動を阻害させることで繁殖を阻害する。即効的な効果は低いものの,栽培期間を通じて次第に効果が高まり,他の防除資材と併用することによって極めて高い効果を現すことが可能である。
また,夜間に活動する夜蛾類の活動を抑制するために,黄色や緑色の防蛾灯を設置したり,防虫網などによって害虫の新入自体を防ぐなどの方法も有効な方法といえる。
●IPM(総合的病害虫管理)は,無農薬栽培ではない。
●個々の制御率は低いが,複数を合わせることで防除効果を高める。
【例】 天敵では60%の防除効果がある。
フェロモンでは60%の防除効果がある。
IGR剤では60%の防除効果がある。
100×0.6=60 100−60=40
40×0.6=24 100−60−24=16
16×0.6=9.6
60+24+9.6=93.6
◎3種類の防除法を組み合わせることで約94%の防除効果が期待できる。
単純化した場合の個体数モデル
Hn+1=A/R×Hn
Hn:目的の種の個体数(n:世代数)
A:理想状態での増殖率
R:環境抵抗
(A/R=増殖率・・・1ならば次世代数一定,1以上なら指数関数的に増加)
生物の個体数のバランス・・・ある生物種での産卵数が多くても,その繁殖には非生物的要因(気象などの条件)のほか,生物的な要因(捕食などによる天敵・病原菌・餌の有無)などにより阻害され,自然では長期的に一定に保たれるはずである(環境抵抗と呼ばれる)。この環境抵抗低下の要因を調べれば,害虫の異常増殖の原因なども説明しやすい。
従来までの農薬と違った防除法の試み
特に,園芸施設内での害虫の爆発的増加の原因として,生物相の減少が考えられている。例えば,卵を平均200個産む虫は,自然界でその数をほぼ一定に保っているとすれば計算上は99%が死亡,もしくは子孫を残せないことになる。この要因の中には病気,飢餓,気候,被捕食・寄生などがあるが,この中で今まで農薬とともに殺してきた天敵生物の要素は意外に強かったのではないかといわれている。それを補うかたちで天敵昆虫などが注目されてきているのである。
殺虫剤抵抗性の発生
自然界では,抵抗性の有無にかかわらず様々な遺伝特性を持った個体が混在している。ある特定の作用機構(A)を持つ殺虫剤が処理されると,その抵抗性を持つ個体のみが生き残り,次世代では抵抗性遺伝子を持つ個体が繁殖することとなる。その結果,次世代の個体群は抵抗性を持つ群となり,特定の作用機構を持つ殺虫剤では害虫を淘汰できなくなる。そこで別の作用機構を持つ殺虫剤(B)を処理する。この作用機構に対しては抵抗性と非抵抗性が混在しているために,抵抗性を持たない個体は淘汰される。次世代の個体群はAとBに対して抵抗性を持つ個体群となる。このようにして,C,D,Eと次々と作用機構の異なる殺虫剤を使用していくと,A〜Eまでの全てに抵抗性を持つ個体群となってしまうように思われる。
一般に突然変異が発生する確率は10万分の1と言われており,淘汰圧がかからない状態になると,次第に抵抗性を放棄する突然変異個体も増殖し始め,Eの作用機構を持つ殺虫剤を処理する頃には,Aの抵抗性を持たない個体も急速に増殖している状態となる。
その結果,Eの殺虫剤を処理した後に,再びAの作用機構を持つ殺虫剤を処理すると,初期の状態と同様に効果を発揮できることになる。
従って殺虫剤を処理する場合には,作用機構の異なる殺虫剤をローテーションで使用することがより効果的となる。
1種類の殺虫剤を処理する場合には,2〜4日程度おいて複数回(3〜4回程度)連続して使用すると効果的である。その理由は,第1回目の処理では成虫に効果があるが,孵化していない卵には効果がないため,第2回目の処理は殺虫剤処理後に卵から羽化したものを対象として処理する。同様に第3回目・・と処理すると,最終処理時期には抵抗性を持たない個体の全てを殺すことができる。
このようにして5種類程度の作用機構の異なる殺虫剤をローテーションで処理し続けることで,殺虫剤抵抗性をつけないで害虫を防除し続けることが可能となる。
2.IPMは農薬使用を否定したものではない
◎作付け前の農薬使用は否定しない。
◎天敵に影響しない農薬を最低限使用する。
捕食性天敵や寄生蜂などは成個体であるため,これ以上脱皮を行わないため,脱皮阻害剤や変態阻害剤などはこれらの天敵に害を及ばさない。
●IGR剤(Insect Growth Regulators:昆虫生長制御剤)
●BT剤
3.防除歴からの脱却
防除歴は,年間の栽培過程において,これまでの経験から発生すると予想される病害虫について防除方法が記載してあるものである。これに従えば,初心者でもそれなりに満足できる収穫が期待できる。
●プロの農業者は,初心者と同じ防除歴を使用する必要があるか?
◎IPMでは,病害虫の被害程度を定期的に監視(モニタリング)する必要がある。
◎IPMでは,将来の病害虫の発生を予想(発生予察)する必要がある。
●農薬散布中心の慣行防除とは異なる
4.拮抗菌によるIPM
拮抗菌には,細菌ではAgrobacterium, Bacillus, Pseudomonas, Arthrobacter, Alcaligenes, Enterobacterなどがあり,糸状菌ではTrichoderma, Gliocladium, Penicillium, Chaetomium, Pythium, Talomyces, Sporidesmium属菌などが報告されている。
これらの菌はいずれも病原菌の生長を抑える物質(多くは抗生物質)を生産し,これによって病原菌の生長が抑えられることが知られている。また,植物は根から拮抗菌の生長を促進する物質を分泌して拮抗菌の生長を活発にさせ,その結果拮抗菌が生産する抗生物質が病原菌の増殖を抑えると考えられている。
◎Agrobacterium radiobacter strain 84(アグロシン)
根頭がん腫病の防除:Agrobacterium radiobacter strain 84が作るアグロシン84が病原菌の感染を抑える。
◎Pseudomonas fluorescens(蛍光性シュードモナス)
蛍光性シュードモナスが特殊な抗生物質を作り,これが病原菌の生長を抑制する。また,この菌は土壌中の鉄イオンを効率的に利用するため,病原菌が鉄イオンを利用できなくなり,その結果病原菌の増殖が抑えられる作用もある。さらに,蛍光性シュードモナスは土壌に吸着したリン酸を溶解し,植物が吸収できる形にすることによって,植物の生育も促進されるため,植物生育促進性根圏細菌(PGPR)といわれている。また,これらの菌は除草剤などの農薬を速やかに分解し,環境汚染を防ぐ能力も持つ。
これらの他にPseudomonas cepacia,Bacillus属,Trichoderma属,Gliocladium属,放線菌Streptomycesなども抗生物質を作る。
◎Trichoderma harzianumやTrichoderma hamatum(トリコデルマ)
これの菌は病原菌に寄生し,病原菌の菌糸を酵素で分解して栄養源とすることで病原菌の増殖を抑制する。また,Arthrobacterも同様に病原菌を分解する(溶菌)。
◎病原菌の仲間で非病原性の菌の利用
Fusarium属の菌は,苗立枯病や萎黄病,萎ちょう病を引き起こす病原菌であるが,非病原性のFusarium oxysporumは以下のような作用で病原菌の感染を抑制する。
(1) 植物が非病原菌Fusarium oxysporumに感染すると,植物細胞内に病原菌が侵入したのと同様な反応(褐変物質の蓄積や細胞壁を固くするなど)が起こり,次の本来の病原菌が侵入しにくくなる。
(2) 非病原菌Fusarium oxysporumが植物に感染すると,植物組織内でこれが増殖し,その後の病原性Fusariumの侵入を阻止する。
◎VA菌根菌(AM菌,菌根菌)
Glomus属(グロムス属),Gigaspora 属(ギガスポラ属),Sclerocytis属(スクレロシティス属),Scutellospora属(スクテロスポラ属),Enterospora属(エンテロスポラ属),Acaulospora属(アカウロスポラ属)の6属が知られている。菌根菌には,外生菌根菌と内生菌根菌がある。
●外生菌根菌の病原菌抑制作用
土壌中の栄養を病原菌に先駆けて吸収するため,病原菌が利用できる栄養分が枯渇し,増殖が抑えられる。また根に菌鞘を作り,病原菌が侵入し難くしたり,抗生物質を作って病原菌の増殖を抑える作用もある。
●内生菌根菌の病原菌抑制作用
土壌中のP,K,Mg,Zn,Mnなどを積極的に植物に供給し,植物の生長,なかでも根の生長を促進し,植物の抵抗性を高める働きがある。
5.環境改善によるIPM
農薬による病害虫の防除に頼ることなく,病害虫が発生しにくい環境管理を行い,病気にかかりにくい植物を育てる。
【病害虫が発生したら農薬を散布する】 → 後手後手に回るイタチゴッコ
◎防虫ネットを施設外に張り巡らして,害虫の侵入を防ぐ。
換気が悪くなり温室内の温度が上がる場合には,ファンによる強制排気を設置する。
◎湿度上昇を防ぎ,病気の発生を抑える。
(1) 過繁茂を避ける(鉢間をあける) = 葉から蒸散による加湿を防ぐ。
(2) 温室内に循環扇を設置し,特に夜間に温室内の空気が動くような環境にする。
◎病気が侵入しにくい葉を作る。
(1) 肥料(特に窒素肥料)の過多に気を付ける。
(2) 蒸れない条件(過繁茂)を避ける。
(3) 葉に充分日射が当たるような環境作り。
◎利用にあたっての問題点
我が国ではともすると天敵にのみ目が向けられがちであるが,天敵が施設で有効に働くためには農薬も含め,以下のようなサブシステムが必要としている。
(1) 病害虫の付着していない健全苗の供給システム
(2) 病害虫に対する抵抗性品種の利用システム
(3) 衛生学の徹底
(4) 耕種的防除システム
(5) 病害虫を発生させない温室の構造システム
(6) 天敵に影響のない或いは少ない農薬の使用システム
(7) 病害虫のモニタリングシステム
病害虫の防除の基本は,大発生する前に繁殖を押さえる方法が最も有効である。そのためには繁殖状況をこまめに調査して,発生初期の時期を判断することがポイントです。
農薬で防除するための基本として,農薬の殺虫効果を知っている必要がある。
農薬の殺虫効果は,害虫の体重あたりの有効薬剤量で決まるので,特に鱗翅目(ヨトウなどの蛾の仲間)では,卵から孵化した直後の幼虫は小さく,体重が極めて軽いので,少しの農薬量でも簡単に殺すことができるが,終齢幼虫(蛹になる前の大きな幼虫)では,体重が羽化直後の幼虫の数百倍になるため,農薬の濃度も数百倍を必要とする(実際にはそんな濃度で散布不可能)。
また大量発生してしまった後では,色々な発育段階のもの(卵,羽化直後の幼虫,終齢幼虫,蛹,成虫まで)が混在しており,この中で卵や蛹は農薬に対する反応性が著しく低く,終齢幼虫も農薬が効き難いため,農薬をかけてもなかなか効かない状況が続いてしまう。
発生初期を判断する方法としては,「トラップ(黄色や水色の粘着プラスチック板)」を温室内や入り口にぶら下げて,定期的に観察して,粘着版に張り付いた虫の量(数)をチェックする。虫の量が増え始めたら農薬散布する。
害虫の有無に関わらず予防的に散布することは,抵抗性を付けることになるのでしてはならない。農薬の散布の仕方は,1週間〜10日毎に同一の農薬を3回程度散布し,その後再び発生が見られた場合には,系統の異なる薬剤(例えば有機リン系,カーバメート系,ピレスロイド系など)を変えて同様に1週間〜10日毎に3回程度散布する。
近年の消費者の意識の変化として,農薬に対する過敏反応がある。花き生産は消費者のイメージを大切にする農業生産であることから,農薬にできるだけ頼らない防除法を模索する必要がある。
以前は天敵資材はほとんど日本国内では販売されていなかったが,近年のヨーロッパでの環境保全型農業に伴う資材開発と販売活動の結果,極めて数多くの天敵資材が販売され始めてきている。
現在の時点で把握できた「天敵資材」について一覧を紹介する。
チリカブリダニ
商品名 スパイデックス
対象害虫 ナミハダニ,カンザワハダニなど
卵から成虫までのすべてを捕食する。
ハダニの寄生した葉からでる揮発性物質を目標に移動する
活動適温 20〜30℃
原産地 チリ,地中海沿岸
●チリカブリダニの雌は,1日4〜5個の卵を産卵し,15〜20日間連続して産卵する。卵から5日程度で成熟し,産卵を開始する。25℃で1頭のチリカブリダニは,30日後には10〜12万頭に増殖する。
商品内容 500ml中に3000頭が入っている。
影響のある農薬類 有機リン剤,合成ピレスロイド剤,カーバメート剤
ミヤコカブリダニ
商品名 スパイカル
対象害虫 ハダニ類
活動適温 15〜30℃
原産地 日本,ヨーロッパ,アルジェリア,北中南アメリカ
●ミヤコカブリダニは,ハダニがいない場合には花粉を食べて生長することもできる。卵から20℃では約10日間,25〜30℃では5日で成虫となり,1個体が約50個の卵を産む。
商品内容 500ml中に2000頭が入っている。
影響のある農薬類 有機リン剤,合成ピレスロイド剤,カーバメート剤
ナミヒメハナカメムシ
商品名 オリスター
対象害虫 ミナミキイロアザミウマ,ミカンキイロアザミウマ,ヒラズアザミウマ等のアザミウマ類,ハダニ,オンシツコナジラミ
活動適温 20℃以上
原産地 日本,極東アジア
●雌成虫は25℃条件でミナミキイロアザミウマを1日20頭以上捕食する。20℃以下では捕食量が減少する。25℃以上の高温条件で増殖率が高く,施設栽培では3月中旬から11月中旬まで高い防除効果を発揮する。15℃以下で増殖率,捕食量が低下し,12時間以下の短日条件では成虫が休眠に入り,産卵しない個体が増加する。
商品内容 500ml中に500頭が入っている。
影響のある農薬類 有機リン剤,合成ピレスロイド剤,カーバメート剤,脱皮阻害剤
ククメリスカブリダニ
商品名 ククメリス
対象害虫 ミナミキイロアザミウマ,ミカンキイロアザミウマ
活動適温 20〜30℃
原産地 カナダ
●花粉を食べて生長できる。1日にミナミキイロアザミウマを4頭捕食する。卵から7日程度で成虫になり,20日間生育する。産卵数は1日あたり2個程度で,生育期間中産卵する。
商品内容 500ml中に50000頭が入っている。
影響のある農薬類 有機リン剤,合成ピレスロイド剤,カーバメート剤
ディジェネランスカブリダニ
商品名 スリパンス
対象害虫 ミカンキイロアザミウマ
活動適温 15〜30℃(最適温・湿度:22℃・70%)
原産地 ヨーロッパ,アフリカ,中近東
●花粉を食べて生長できる。ククメリスカブリダニと比較して乾燥に強い。
商品内容 500ml中に500頭が入っている。
影響のある農薬類 有機リン剤,合成ピレスロイド剤,カーバメート剤
オンシツツヤコバチ
商品名 エンストリップ
対象害虫 オンシツコナジラミ,シルバーリーフコナジラミ
活動適温 18〜33℃
原産地 北米
●オンシツコナジラミの幼虫に産卵すると共に,その体液を吸汁する。18℃以上で飛翔活動が盛んとなる。卵から成虫までの期間は,24℃で15日程度で,最高気温が40℃以下であれば産卵,増殖を行う。
商品内容 1枚のカードに50〜60頭の蛹が張り付けられている。。
影響のある農薬類 有機リン剤
サバクツヤコバチ
商品名 エルカール
対象害虫 シルバーリーフコナジラミ,オンシツコナジラミ
活動適温 20〜30℃(30℃以上でも適応)
原産地 カリフォルニア州,アリゾナ州
●コナジラミの幼虫に産卵すると共に,その体液を吸汁する。卵から成虫までの期間は25℃で20日で,成虫の寿命は6〜12日である。雌1頭あたりの産卵数は 1日あたり3〜5個である。
商品内容 1ビン中に3000頭が入っている。
影響のある農薬類 有機リン剤
ペキロマイセス・フモソロセウス
商品名 プリファード
対象害虫 コナジラミ類
発生適温 20〜28℃
原産地 アメリカ
●Paecilomyces fumosoroseus菌がコナジラミの体内に菌糸を伸ばし,体内で増殖してコナジラミを殺す。成虫に対して最も効果が高い。死んだ成虫から多数の胞子や菌糸が発生するため,2次感染も見られる。コナジラミに噴霧して使用する。噴霧した後,80%の湿度が8時間程度維持される必要がある。
商品内容 顆粒状になっており,水に溶かして噴霧する。
影響のある農薬類 殺菌剤,特にマンネブ剤やTPN剤は注意。
バーティシリウム・レカニ
商品名 マイコタール
対象害虫 コナジラミ類(Mycotal),アブラムシ(Vertalec)
発生適温 20〜25℃
原産地 −
●Verticillium lecanii菌がコナジラミの体内に菌糸を伸ばし,体内で増殖してコナジラミやアブラムシを殺す。本菌に感染した昆虫は数日で死亡し,綿毛状の菌糸でおおわれる。死んだ成虫から多数の分生胞子が発生し,次々と感染していく施設栽培に適する。噴霧した後,90%の湿度が9時間程度維持される必要がある。30℃以上や15℃以下では感染しにくい。
商品内容 顆粒状になっており,水に溶かして噴霧する。
影響のある農薬類 原則として殺菌剤は要注意。
ショクガタマバエ
商品名 アフィデント
対象害虫 アブラムシ類
活動適温 15〜30℃(最適温・湿度:22℃,85%)
原産地 世界中
●幼虫期にアブラムシを捕食する。60種以上のアブラムシを食べる。成虫は夜間に飛び回り,アブラムシの集団の周辺に卵を産み,2〜3日で孵化する。幼虫期は7〜14日で,この間に50匹以上のアブラムシを食べる。地面に落ちて蛹となり,14日で成虫となり産卵し始める。低い温度と短日条件で休眠するが,春には羽化する。
商品内容 500ml中に1000頭の蛹が入っている。
影響のある農薬類 有機リン剤,合成ピレスロイド剤,カーバメート剤
ヤマトクサカゲロウ
商品名 カゲタロウ
対象害虫 アブラムシ類
活動適温 20〜30℃
原産地 日本,ヨーロッパ,北米
●幼虫期にアブラムシ類を捕食する。卵は4〜5日で孵化し,幼虫期間は9〜12日間である。この間に,200〜400頭のアブラムシを食べる。蛹は9〜12日で羽化し,成虫の寿命は1〜2カ月で,この間に500〜600個の卵を産む。成虫は夜行性で,昼は葉裏に止まっている。短日条件で休眠するが,春には羽化する。1頭あたりの捕食頭数が多いので,生物農薬的に使用される。
商品内容 1シート(20×30p)に500頭の幼虫が入っている。
影響のある農薬類 有機リン剤,合成ピレスロイド剤,カーバメート剤
コレマンアブラバチ
商品名 アフィパール
対象害虫 アブラムシ類
活動適温 15〜30℃
原産地 ヨーロッパ,アフリカ,オーストラリア,北南米
●アブラムシの体に卵を1個産卵し,アブラムシの体内を食べ尽くした後,繭を作って羽化する。アブラムシを1頭ずつ探して産卵するため,アブラムシの密度が低いときに効果が高く,この点からショクガタマバエと組み合わせたときに最も効果を発揮する。
商品内容 250ml中に500頭の蛹が入っている。
影響のある農薬類 有機リン剤,合成ピレスロイド剤,カーバメート剤
イサエアヒメコバチ・ハモグリコマユバチ
商品名 マイネックス
対象害虫 マメハモグリバエ
活動適温 20〜30℃
原産地 ヨーロッパ,アフリカ,アジア,北米
●雌成虫はハモグリバエの食痕を見つけると,葉の表面から毒液を注入してハモグリバエを殺し,産卵する。孵化した幼虫はハモグリバエの幼虫を食べて育つ。この他,殺したハモグリバエの幼虫の体液を成虫は吸汁して殺す。雌成虫の寿命は20℃で32日間で,この間に200〜300個の卵を産む。この他に体液吸汁によって50〜100頭のハモグリバエを殺す。日本国内の施設栽培の環境では休眠は見られず,トマトでは年中寄生が観察できる。
商品内容 1ビンあたりイサエアヒメコバチ125頭とハモグリコマユバチ 125頭が入っている。
影響のある農薬類 有機リン剤,合成ピレスロイド剤,カーバメート剤
スタイネーネマ・クシダイ(クシダネマ)
商品名 芝市ネマ
対象害虫 コガネムシ
活動適温 20〜30℃
原産地 日本
●昆虫病原性線虫で,土壌中の線虫がコガネムシの幼虫の口から侵入し,幼虫の体内で線虫に共生する細菌が放出される。コガネムシ幼虫は,この細菌の働きで数日で死亡する。幼虫の死体の中で増殖し,コガネムシ幼虫1頭あたり数万から数十万頭の線虫が増殖する。15℃以下ではコガネムシの活動が低下するため,効果が低い。
商品内容 水和剤1gあたり40万頭の線虫を含み,1袋313g入り。
影響のある農薬 殺線虫剤
スタイネーネマ・カーポカプサエ
商品名 バイオセーフ
対象害虫 スジキリヨトウ,シバツトガ,タマナヤガ,シバオサゾウムシ
活動適温 20〜30℃
原産地 世界各地
●昆虫病原性線虫で,土壌中の線虫が害虫の口から侵入し,幼虫の体内で線虫に共生する細菌が放出される。この細菌の働きで数日で死亡する。幼虫の死体の中で増殖し,コガネムシ幼虫1頭あたり数万から数十万頭の線虫が増殖する。害虫の成虫には効果がなく,幼虫のみに効果を現すため,トラップなどで成虫の発生時期を調べ,その時期から幼虫の発生時期を予察して散布時期を決める。
商品内容 顆粒剤でボトル1本あたり2,500万頭の線虫を含む。
影響のある農薬 殺線虫剤
ボーベリア・ブロンニアティ
商品名 バイオリサ・カミキリ
対象害虫 ゴマダラカミキリ,キボシカミキりなどのカミキリ類
活動適温 20〜25℃
原産地 日本
●カミキリムシ成虫が本剤シートの上を歩いたり,触角が接触すると,成分である菌が感染し,成虫内外で増殖し,1〜2週間で死亡させる。産卵期や羽化期に樹に本剤シートを巻き付けたり,ホッチキスでとめて使用する。即効性はないが,次世代(翌年)の卵・幼虫密度を低減させることを目的として使用する。
商品内容 残効期間は約1カ月で,不織布1に1,000万個の菌を含む。
ナミテントウ
商品名 ナミトップ
対象害虫 アブラムシ類
活動適温 20〜30℃
原産地 日本
●アブラムシ類全般に有効な天敵であり,捕食量が多く,成虫は1日で200匹程度のアブラムシを捕食します。その捕食量の多さから速効性の効果が期待できます。
商品内容 有効成分ナミテントウであるナミテントウの成虫100頭を梱包したカップ。
タイリクヒメハナカメムシ
商品名 タイリク
対象害虫 アザミウマ類
活動適温 15〜35℃
原産地 日本
●タイリクヒメハナカメムシは,日本に7種生息することが知られるハナカメムシ類の中でも休眠が浅いことで知られており,冬季の短日条件下でも有効に働くことが可能です。タイリクヒメハナカメムシは11度以上で発育可能ですが,高温時により有効に働くので,使用時期は春先から秋にかけての高温期が理想的です。また,夜温の低下は発育に悪影響を及ぼす場合があるため,夜温管理は15度以上が理想的です。
商品内容 タイリクヒメハナカメムシ成虫…50頭/50ml。
アリガタシマアザミウマ
商品名 アリガタ
対象害虫 ミナミキイロアザミウマ
活動適温 15〜35℃
原産地 日本
●沖縄から発見されたアリガタシマアザミウマは,各種の植物上ですばやく走り回り,小型の節足動物を捕食する。特に害虫ミナミキイロアザミウマを好んで捕食する。
商品内容 アリガタシマアザミウマ成虫…50頭/50ml。
\.展着剤
界面活性剤の種類と機能性展着剤(アジュバント)
1.界面活性剤
一般に水と空気,水と油,あるいは水とガラスのように,気体・液体・固体のうち二相の境界を界面と呼びます。例えば,ビーカーに水と油を入れてかき混ぜても,しばらくすると水と油は溶け合わないで境界をはさんで上層に油,下層に水の二相を形成します。それに,石鹸水を加えてかき混ぜると,水と油の二相がお互いになじみ合って乳濁状の溶液に変わります。この場合,石鹸がなじみにくい水と油の界面に働いて安定な乳濁状態を作り出すことによります。このように二物質間の界面に作用してそれらの界面の性質をいちじるしく変える性質を界面活性と言います。また,石鹸のように著しい界面活性を示す物質を界面活性剤と呼びます。
界面活性剤は湿潤・吸湿・浸透・可溶化・乳化・分散・起泡・潤滑・洗浄・帯電防止・吸着・皮膜形成・殺菌・細胞膜攪乱・防錆など多くの作用を持っています。
2.界面活性剤の構造
界面活性を持つ物質の共通した基本構造は,油になじみやすい部分(親油基または疎水基ともいう)と水になじみやすい部分(親水基)の二つの部分から成り立っています。良好な界面活性を示すには,親油基と親水基がそれぞれ同一分子中に占める割合が重要であり,どちらか一方があまり大きくなり過ぎると界面活性は失われ,ただの油溶性または水溶性の物質になります。すなわち新油基と親水基の間に適当なバランス(HLBという)が保たれることが大切です。
3.界面活性剤の種類
界面活性剤の種類は極めて多いが,界面活性剤が水溶液で界面活性を示す部分の性質に着目して,次のように大別されます。
1)陰イオン(アニオン)性界面活性剤
2)陽イオン(カチオン)性界面活性剤
3)両性界面活性剤
4)非イオン(ノニオン)性界面活性剤
4.展着剤の種類
農薬用展着剤は,その機能で大まかに分けると,濡れ性(展着効果)を改善する「展着剤(スプレッダー)」と,浸透性を高めるなどの機能を付加した「機能性展着剤(アジュバント)」,及び対象作物の表面への固着性を高める「固着性展着剤(スチッカー)」の3つになります。
1)展着剤(スプレッダー)
展着剤の中で最も種類が多く,散布液の表面張力を下げることで湿展性を改善し,濡れにくい作物や虫体への付着性をよくして防除効果を高めます。
しかし,展着剤の加用量が多すぎるとかえって付着量が減り,防除効果を低下させるので,ラベルに記載の注意事項を確実に守ることが重要です。特に濡れやすい作物に対してはこの傾向が強いので注意が必要です。
主成分としては,非イオン界面活性剤のみのものと,非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤とを混合したものがあります。
2)機能性展着剤(アジュバント)
植物,害虫,病原菌などの表面を「濡らす力」と「表面から内部へとしみ込ます力」の両方を併せ持ったものをいいます。
界面活性剤は,その濃度が高くなると外側が親水性で内部が疎水性のミセルと呼ばれる粒子を形成するようになり,濃度が高くなればなるほどミセルの量が多くなる性質を持っています。このミセルは,その内部に水に溶けない農薬などの分子を中に取り込み,より微少な粒子にすることで,植物,害虫,病原菌などの外から中へしみ込む力を与えます。
機能性展着剤の主成分は,非イオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤が中心となります。
(1) 非イオン性界面活性剤
非イオン性界面活性剤の特徴は,各用途に応じて最適の親油性と親水性のバランス(HLB)のものを選択して使用できることです。このHLBの選択で,水に投入された際,自分自身でミセルを作り(自己ミセル形成という),親水性を示すものにアプローチBI,サーファクタントWK,サプライなどがあります。
これらの機能性展着剤は,濡れ性のほか,強い可溶化力,付着力を示し,農薬などを外から中へしみ込ませることが出来ます。
一方,親油性が強い場合は,自己ミセルを作らず,油滴を形成します。このようなものにはスカッシュなどがあります。スカッシュの成分は,この油滴が溶解力を示し,農薬などの成分を油滴溶解する力を有しているとともに,散布後,皮膜形成をを示し,ダニ,アブラムシなどの気門封鎖(窒息死させる)のはたらきを持っています。
(2) 陽イオン性界面活性剤
陽イオン性界面活性剤にはニーズなどがあります。その作用性は,すべての物質の表面はマイナスに帯電しているので,陽イオン性界面活性剤は,素早くマイナス表面に吸着します。このように,細菌,糸状菌などの表面に吸着することで,細胞膜の外から中へ農薬などの物質を取り込ませることが出来ます。これはミセルの利用と陽イオン性界面活性剤の吸着力とそれに伴う細胞膜に対する攪乱作用を利用したものです。また,陽イオン界面活性剤はそれ自体でも,抗菌活性を持っており,特にうどんこ病のように菌糸体が表面にでている病害に対して有効に働きます。
3)固着性展着剤(スチッカー)
作物などに付着した薬剤の固着性を高めて風雨による流亡を少なくし,薬剤の残効を高めます。主に,果樹の樹幹などに保護用殺菌剤を散布する場合に使用されています。
].植物生長調節剤
【わい化剤】
1.わい化剤とは
植物の生長は,植物ホルモンによって調節されている。植物ホルモンには5種類の物質が知られており,オーキシン,サイトカイニン,ジベレリン,アブスジン酸,エチレンがある。この中で「わい化剤」として知られる生長調整剤は,ジベレリンの作用を抑える働きを持っている。わい化剤はにこの植物ホルモンの作用を変化させることである。
2.ジベレリンの働き
イネの苗を徒長させる病気「バカ苗病菌」から単離されたが,その後植物でも 生合成していることが明らかとなり,同定された。同定された順にGAに数字が付けられ,GA1,GA3 などのように書き記す。一般にジベレリン剤として販売されているものはGA3 を溶かしたものである。
生理作用としては,茎の伸長生長の促進,休眠打破,発芽促進,花芽誘導促進などの作用がある。
3.わい化剤の作用
わい化剤はジベレリンの合成阻害の作用を持つ。
下の合成図の【A】〜【E】の場所で,合成を止める作用がある。
メバロン酸 →→→ ゲラニルゲラニルピロリン酸 →【A】→ コバリルピロリン酸 →【B】→ ent-カウレン →【C】→ ent-カウレノール →【D】→ ent-カウレナール → 【E】→ ent-カウレン酸 →→→ ent-7α-ヒドロキシカウレン酸 →→→ GA12-アルデヒド → 【F】→ ジベレリン
大きく分けて,【A】〜【B】の阻害剤,【C】〜【E】の阻害剤,【F】の阻害剤の3種類に分けられる。
ジベレリンの植物体内での合成を阻害するため,しだいに植物体内でのジベレリンの含量が不足し,植物のジベレリン反応が低下する。すなわち,生理作用の茎の伸長が抑えられ,草丈が短かくなる。
◎わい化剤は,茎に伸長を抑制する作用があるのではなく,茎を伸ばす働きのあるジベレリンの作用を弱める働き。
◎したがって,わい化剤を処理した後ジベレリンをかけると,わい化剤の効果は低下する。すなわち,ジベレリン処理はわい化剤の効果をうち消すことができる。
◎わい化剤は,ジベレリンの合成を阻害する作用のみを持つため,すでに植物体の中に含まれているジベレリンについては,効果がない。したがって,わい化剤が効き始めるまでには時間がかかる。
◎すでに植物体の中に含まれているジベレリンは,次第に分解されて植物体の中の濃度が低くなり,ジベレリンの働きが徐々に弱まり,わい化剤の効果がでてくる。
◎わい化剤は,下から上に移動する。
4.わい化剤の種類
◎トリアゾール系
ウニコナゾール
【(ES)-(RS)-1-(4-クロロフェニル)-4,4-ジメチル-2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-3-オール】
商品名:スミセブン液剤
成分 :ウニコナゾール0.05%
作用 :【C】〜【E】の阻害
使用法:茎葉処理および土壌潅注
特徴 :単子葉,双子葉の草本,木本など多くの植物に高い効果を示し,わい化や花芽形成促進などにも効果的である。茎葉処理の場合には植物全体,特に新葉に均一にかかるように散布する。
パクロブトラゾール
【2(RS 3RS)-1-(4-クロロフェニル)-4,4-ジメチル-2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)ペンタン-3-オール】
商品名:バウンティフロアブル(水和剤),ボンザイフロアブル(水和剤),スマレクト粒剤,バウンティ粒剤,エムマイティ9号・6号
成分 :商品名ごとで成分含量が異なり,パクロブトラゾール21.5%,2.5%,2%,0.6%,0.06%,0.09%
作用 :【C】〜【E】の阻害
使用法:茎葉処理および土壌潅注
◎ピリミジン系
アンシミドール
【α-シクロプロピル-α(4-メトキシフェニル)-5-ピリミジンメタノール】
商品名:スリートーン
成分 :アンシミドール 0.0025%
作用 :【C】〜【E】の阻害
使用法:茎葉処理と土壌潅注
特徴 :使用量が多くなればなるほど,効果が高まる傾向がある。
フルルプリミドール
【2-メチル-1-ピリミジン-5-イル-1-(4-トリフルオロメトキシフェニル)プロパン-1-オール】
商品名:グリーンフィールド水和剤
成分 :フルルプリミドール50%
作用 :【C】〜【D】の阻害
◎イソニコチンアミド系
イナベンフィド
【4'-クロロ-2'-(α-ヒドロキシベンジル)イソニコチンアニリド】
商品名:セリタード(水和剤,粒剤)
成分 :水和剤(イナベンフィド50%),粒剤(5〜6%)
作用 :【C】〜【E】の阻害
特徴 :稲科植物に強く作用し,広葉植物には作用が弱い。糸状菌(土壌中の菌)による分解が早いので,残留性が低い。合成阻害剤の一般的性質であるが,効果の現れ方がゆっくりで,かつ緩やかであるが,持続期間が長い(35日程度)。
◎4級アミン系
クロルメコート(別名 クロロコリンクロライド,CCC)
【2-クロロエチルトリメチルアンモニウム=クロリド】
商品名:サイコセル
成分 :クロルメコート46%
作用 :【A】〜【B】の阻害
使用法:茎葉散布
◎その他
ダミノジッド(別名 アミノサイド,SADH)
【N-(ジメチルアミノ)スクシンアミド酸】
商品名:ビーナイン水和剤
成分 :ダミノジッド80%
作用 :【C】〜【E】の阻害
使用法:茎葉処理
プロヘキサジオン
【カルシウム=3-オキシド-5-オキソ-4-プロピオニルシクロヘキサ-3-エンカルボキシラート】
商品名:ビビフルフロアブル
成分 :プロヘキサジオン1%
作用 :【F】の阻害
使用法:茎葉処理