亀尾園芸輸出公社 (KMC:Kumi Corporation)
韓国ソウルで開催された第27回国際園芸学会の折に,亀尾園芸輸出公社を訪問しました。
亀尾園芸輸出公社は1997年に亀尾市が出資して作られた日本への輸出専用スプレーキク生産会社で,100%日本輸出を目的として設立され,1999年8月から出荷が始まりました。
亀尾園芸輸出公社は一般開放していないとの情報を聞いていましたので,米村花きコンサルタント事務所の米村浩次氏の助力をお願いして,視察をすることができました。
亀尾園芸輸出公社の敷地面積は10.2ha,生産温室の総面積は7ha,親株用の専用温室が1.3haで,オランダ製のフェンロー型温室です。軒高は4.8mと高く,温室内環境は快適でした。温室は2重被覆ができる構造となっていました。フェンロー型温室の欠点として側窓がないため,細霧冷房装置が導入されています。
生産品種は30品種で,Fiddes社の品種が15品種,CBA社3品種,Dekkar社10品種,Delif社2品種の構成です。精興園の品種も3品種試作しています。切花品種の色構成は白,ピンク,黄色で3等分だとのことです。
親株は独自に栽培して,穂木を採取していますが,一部は種苗会社から輸入していました。
定植は年4回行っており,周年生産体系がとられており,年間1,100万本を生産しています。この他に委託農家からの300万本を加えて1,400万本を出荷しています。収穫最盛期には1日で3万本が出荷されます。基本的に100%日本向け輸出ですが,5%程度の規格外品は韓国国内でも販売をしています。委託農家に対しては,苗を54ウォンで販売し,切花として購入しているとのことでした。年間総売上は2005年実績で55億ウォンです。従業員は4名の管理者と46名のパート労働者です。
苗はソイルブロックで生産されており,ソイルブロック培土はドイツのKlasmann社の輸入ピートに活性炭を配合して使っていました。
オランダから養液調整システムを導入して,調整された液肥を施与する養液土耕栽培です。年間4回の定植を行います。
挿し木は密閉挿しで行われており,ほぼ100%の発根率でした。発根したソイルブロック苗はコンテナに入れて定植場所に運ばれます。一部は委託農家に出荷,販売されます。
苗の定植は日本でも同じですが人力で行われていました。しかし,定植作業といっても圃場にソイルブロック苗を置くだけの作業ですので,機械化も可能かと思いました。定植後にはスプリンクラーで充分に潅水が行われます。
暖房は温湯パイプで行われています。温湯パイプはキクの成長点付近に設置し,キクの成長に伴って上昇する「エレベータ・ヒーティングパイプ・システム」が導入されています。
右の写真のU字のパイプが温湯管です,中央に走っている管はCO2施与のためのもので,CO2施与濃度は7:00a,m.〜10:00a.m.に800ppmで実施しています。
収穫は株ごと抜き取って行います。抜き取った株はベルトコンベアーに乗せて中央通路まで運ばれます。中央通路では自動切花調整機があり,根元の根と根鉢を自動で切り離し,簡易結束した後,生け水の入った運搬用台車に入れられます。良くシステム化されていました。
左の写真を Click してください。動画が見られます。
切り離された根と根株の土は,1カ所に集められて堆肥化されていました。
収穫された切花は速やかに大型冷蔵庫に入れられ,保冷されます。切花流通は完全なコールドチェーンが徹底されており,リーファーコンテナ(冷蔵コンテナ)を用いて行われます。
日本の輸入商社として4社が取引をしています。集荷場の一部では色ミックス3本束の花束が加工されていました。ジャスコ向けの花束加工商品で,日本語で「お花を長く楽しみましょう」と印刷されたPPにはバーコードも印刷されており,263円で店頭販売される商品であることが判りました。当然出荷箱は日本語表記です。
同行いただいた米村浩次氏いわく,「3本束の花束は日本でしか見ることができません。日本人はどうしてもっと豪華な花束が買えないのでしょうか?3本の花束を加工している韓国の人はどう思っているのでしょう・・。」
亀尾園芸輸出公社の特徴は,機械や施設をオランダなどから導入するものの,海外からの技術指導を受けることなく,独自に技術を開発していることです。中国では,同様にオランダ式のフェンロー温室や,暖房機器,養液循環制御装置が導入され,同時にオランダからの技術指導を受けたことによってオランダの言いなりにされて,技術移転もままならない事例を数多く見てきていますが,韓国人のプライドの高さを垣間見た気がしました。
下の写真は亀尾園芸輸出公社が独自に開発した自走式薬剤散布機です。温室の棟ごとに移動させて使用します。
最近は韓国でも農薬の使用規制が厳しくなっており,土壌病害の防除のために70℃の蒸気消毒が行われていました。土壌消毒した後に,堆肥が施与されています。
右の写真は巨大な重油タンクとボイラーです。
説明いただいた担当者の話では,「最近の円安は大きな影響を与えている」とのことです。また,2005年秋以降の原油の高騰は経営にも影響が大きく,2004年冬のC重油代は80ウォン/リットルであったのが,2006年は450ウォン/リットルに高騰しているとのことです。
切花の価格は,契約出荷の場合にはCIF(日本到着価格)で45円/本で,花き市場出荷の場合には平均で40円程度だということです。花き市場でのセリ販売と契約出荷の割合は50%:50%とのことでした。日本での評価は,マレーシアより品質が高いとの評価を受けているそうです。基本的にマレーシアとは品種が異なっているのに加えて,マレーシアのスプレーキクは茎が太く,葉が厚すぎることから日本人の嗜好には向かないのではないかと判断しているとのことでした。
マレーシアとの価格差は,以前はマレーシアより10円低く設定されていたようですが,現在は5円安にまで上昇しているとのことです。近年マレーシアから日本へのスプレーキクの輸出量が急増しており,その結果,輸入切花全体の価格が低下しており,問題となっているそうです。以前は55円であったスプレーキクの価格が,現在は45円まで下がっており,将来は35円程度になると予想していました。これに対抗するために,花束加工などの加工工程を自社で行うことで付加価値を付けることに配慮していました。
説明をしてくれた担当者の話ですが,「日本のスプレーキクの消費需要はまだまだ成長する能力を持っている。亀尾園芸輸出公社から福岡までは2日で到着するので,輸出という感覚は持っていない。ソウルの市場より日本の市場の方が魅力があるので出荷しているという感覚でいます」とのことでした。まさに韓国は私が感じているより身近な隣国でした。