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Red Lands Roses Ltd.
Ruiru, Kenya

 2007年7月27日にRed Lands Roses Ltd.を訪問しました。
 Red Lands Roses社は1997年に設立された会社で,社長は女性のIsabelle Henin-Spindler氏です。生産施設面積は16haで,中大輪品種とスプレー品種を30品種生産しており,年間生産量は1,600万本,2008年には施設増設に伴って1,800万本を予定しています。
 ケニア最大のコーヒー園と銀行を経営する親会社の資本下にあり,経営基盤はしっかりしています。

 Google earthより

 Red Lands Roses社のあるRuiruはナイロビから北東35kmにあり,バラ生産会社が集中しているThikaに近く,標高は1,700mです。標高が低いので気温としてはやや高めで,バラ生産の最適地とは言えませんが,降水量が少なく,日射量が確保できることに加えて,水が豊富で水質も良く,さらにナイロビ空港まで1時間という立地に恵まれています。
 気温は18〜23℃で,到花日数は6〜7週間(42〜49日)です。収量性は100本/u(330本/坪)で,ケニアの中では収量性が高いとは言えませんが,花径,切花長が大きく,高品質のバラが生産されていました。

  

収穫した切花は,花や葉の傷みを防止するために,必ずビニールネットで巻いて運搬します。

 

生産施設の中央にはトラクターが通行できる広い通路が確保されており,トラクターや耕耘機で切花や資材が運搬されています。

  

 品種の導入にあたっては,新品種をトライアルで試験栽培し,生産性を判断すると同時に,切花を顧客に送付して品種判定シートで採点を受けて決定します。この顧客からの情報に基づいて社長の決済で翌年に栽培する品種が決定されます。

 

 環境対策に対して熱心なケニアの生産会社の一つで,廃液リサイクリングシステムをケニアで最初に導入したのがRed Lands Roses社です。また,MPS-ABC認証についてはオランダ以外の国での認証第1号です。MPS-ABCの他,MPS-GAP,MPS-Social,Flower Label Organization(FLO),Eurep-Gap,Max Havelaar,Flower Label Program (FLP Germany),Switzerland and Kenya Flower Councilなどの各種認証を取得して,差別化戦略をとっています。
 温室側面には害虫捕捉用の黄色の粘着シートが張り巡らされており,殺虫剤使用量の節減に取り組んでいました。

また,切花の廃棄部分の回収とコンポスト化にも取り組んでいました。

   

 ラテライトの火山れきを培地に用いた廃液リサイクリングシステムのHydroponicsで栽培を行っています。ラテライトの火山れきは排水性が高く,保肥力や保水性もあり,バラの栽培に適しています。

  

 従業員は350人で,従業員の賃金は6,000シリング(10,500円)/月+ボーナスです。従業員の福利厚生に対する取り組みも充分で,従業員専用の大きな休憩施設がありました。近隣から通勤する従業員は自転車と徒歩で通勤していますが,送迎用の専用バスやワゴン車もありました。

   

 社長のIsabelle Henin-Spindler氏との意見交換の際に,バラ生産の労働効率の話題になりました。Red Lands Roses社の労働効率は24人/haです。世界的に見ると,ケニアの平均は30人/haで,ついでインドの20〜24人/haが多く,エクアドル・コロンビアは14〜18人/haです。自動化が進んでいるヨーロッパでは,イタリアが6〜8人/haで,オランダは3人/haと最も労働効率が高く,生産の自動化,機械化が進んでいるとの話でした。日本は7〜10人/haですので,イタリアより労働効率が悪いということになり,機械化の導入がヨーロッパより遅れていることになります。
 生産温室への病原菌の持ち込みを防ぐための消毒・殺菌は過剰とも思えるほどの徹底ぶりです。特に,根頭がんしゅ病がケニア国内で蔓延していることから,部外者は全ての生産施設に入る時には,靴を消毒します。また,農場入口には車のタイヤを消毒する消毒槽が設置されていました。

   

根頭がんしゅ病は樹液感染するため,収穫するハサミは腰につけた消毒ボトルに毎回浸けて消毒してから採花します。

 

採花した株元の切口には,灰色カビ病の予防のため銅剤を塗っていました。

選花場での従業員管理は厳しく行われていました。全ての選花台の前には下の写真の作業管理規則が掲示されています。

BE A PROFESSIONAL AND QUALITY CONCERNED BUNCHER
  I DO NOT:
    Press the flower buds with my fingers when bunching and tightening the SFK
    Press the neck of the flowers with my fingers when bunching and tightening the SFK
    Put piles on my partition (not more than 25 stems per partition)
    Start bunching unless you have all the required items and at least 20 stems.
    Put bunches on the table.
    Handle the stems at the leaves level, handle stems from the bottom of the stem
    Do not bunch not flowers that are not to standard
    Talk during the working period.
  I DO
    AIways put the returned bunches in water
    Flowers should be head to head on the bunching block
    Use my protective cloths and wipe my table
花を束ねて結束する時に,花を指で押さない
花を束ねて結束する時に,花首を指で押さない
選花した花を25本以上山積みにしない
選花した花が20本以上揃わない状態で結束を始めない
机の上で結束を行わない(専用の台の上で行う)
茎の基部を持って作業を行い,葉のついた部分を持たない
規格外の花を束ねてはいけない
作業中に私語をしない
束ねた花はすぐに活け水に浸ける
束ねたバラは花の向きを常に同じにして並べる
自分に指定された殺菌した布でテーブルを拭く
収穫した切花の品質管理を重視しており,切花収穫は1日3回実施され,収穫した切花は選花場の専用搬入口から搬入されて,速やかに殺菌した冷水を用いて5℃で6時間水あげ,予冷を行います。

 

 選花場では多数の女性従業員が選花台の前の作業管理規則に従って切花の選別,梱包を行っていました。選別・梱包現場では緊張した空気が感じられ,社長自らが選花方法を指導していました。

   

 選別・梱包を行う従業員は,作業前に個人ごとのバーコードラベルがあてがわれ,選別・梱包をしたバラにバーコードラベルが添付されます。下右の写真は従業員の個別バーコードラベル棚で,作業開始時にこの棚からラベルを取って選花台にむかいます。

 

選別・梱包されたバラは,専門の検査員によって検査されます。検査員は真剣なまなざしで検査を淡々とこなしていました。

 選花場で選別されている切花の葉に品種番号が記載されたラベルが添付されたものがありました。選花を行う従業員と切花収穫を行う従業員との品種に対する意識の共有を図る上で効果があります。

 選別・梱包されたバラはバケットの入れた状態で4℃の冷蔵庫に入れられます。バケット内にはクリザール溶液が入っています。クリザール溶液は2日間ごとに更新しています。
箱詰めするときには,葉に水滴が付着していると輸送中に灰色カビ病などの病害の発生が増加することから,ファンで切花に風を当てて水滴を取り除いていました。箱詰め前の切花収納棚には害虫の写真が展示してありました。
箱詰めした切花は出荷前に2.5℃に急冷されます。

   

  

 輸出はエミレーツ航空を用いてドバイを経由して行っています。Red Lands Roses社は,ドバイフラワーセンター(DFC)開設前からドバイを経由した輸出を行っており,ドバイでの乗り継ぎがスムーズに行われているため,今の所DFCについては必要性を感じていないとのことでした。
 高品質な切花を生産出荷していることから,ヨーロッパ輸出の販売先は92%が専門花店(フロリスト)との直接取引で,残りの8%はVBAに出荷しています。他のケニアのバラ生産会社とは異なり,スーパーマーケットには出荷していません。輸出国はフランス・パリとニース,ポルトガル,イタリア,スウェーデン,中東諸国,オーストラリア,スイス,日本などで,今後,経済発展が著しいロシアやカザフスタンにも輸出を拡大したいとのことでした。オーストラリアへの輸出はヨーロッパのオフシーズンでの販売が可能であることから今後さらに拡大させていきたいとの話でした。
 選花基準は切花長を基準として50〜80cmに分け,さらにExtra,First,Standardの3段階の品質基準で選花しています。品質基準Extra,First,Standardの割合は,各々20%,60%,20%となっています。輸出に当たっては,注文に応じて束にする切花本数を5本から20本まで調整したり,スリーブを専用にあつらえたり,あるいは品種混合についても対応するとのことです。
 輸出コスト(輸送費や手数料など)は2.2〜2.4$/kg(25本)
 日本には全生産量の16%を輸出しており,近い将来には20%程度に増やしたいとのことでした。日本への輸出に対しては積極的に取り組んでおり,IFEX(International Flower Expo)にも3年間出展しています。日本への輸出は3年前から行っており,YMSを輸入商社として取引しています。YMS担当者からは「品質が高く,色合わせも日本向けに調整されている」と高い評価を受けています。
 日本への輸出の事例としては,ケニアを夕方出発してドバイに深夜に到着し,2時間の乗り継ぎで日本(成田,関西,名古屋)出発便に乗り換え,翌日夕方には日本に到着します。同様にヨーロッパへの輸出についても,ケニアを夕方出発してドバイに深夜に到着し,2時間の乗り継ぎでオランダ出発便に乗り換え,朝にアムステルダムに到着します。
 ドバイを経由するメリットとして,切花品温の低温維持を挙げることができます。出荷場の冷蔵庫で2.5℃に温度を下げ,保冷車で空港まで輸送します。貨物航空便に積み替えてヨーロッパ直行便で輸送すると,到着時には20℃を超えてしまいますが,ドバイを経由することで,経由地のドバイで再保冷するとオランダ到着温度が17℃程度に収まります。日本への輸出の場合には,日本到着温度が20℃を超える程度まで上がるため,今後この点については検討する必要があると思います。
 日本輸出の切花価格(FOB価格)は70〜80cmのExtra規格の場合0.45ユーロ(73円)/本,Standard規格の場合0.41ユーロ(66円)/本で取引されており,販売価格(FOB)は年間を通じて定価で取引しています。

   

 社長のIsabelle Henin-Spindler氏の話によると,「日本の植物検疫は厳しく,ダニの発生のために燻煙処理を受ける時がしばしばある。植物検疫での燻煙を受ける割合は2006年は30%であったが,今年(2007年)は80%燻煙処理を受けている。しかし,燻煙処理を受けても品質には問題ない。」とのことでした。燻煙にかかる経費はYMS社とRed Lands Roses社が半々で負担しています。

苗増殖権を育種会社より取得して,苗の自家増殖を行っています。苗生産施設は白色の遮光フィルムで覆われています。

 

 苗生産はナタルブライアー(Natal Briar)を台木としたミニプランツの生産が行われています。下左の写真の白い作業服の従業員が技術指導者で,青い作業服の従業員に技術の伝承が行われていました。ミニプランツ生産に用いるナイフは毎回殺菌液に浸して消毒します。

   

ミニプランツはココピートを主体にパーライトなどを混合した培地に挿し木して発根させます。

   

発根・発芽が完了した苗は,プールベンチ方式で養液を潅液して定植苗に生育させます。

 

用水は地下水を用いていますが,雨水についても貯水タンクに貯めて利用していました。