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Windsor Flowers Ltd.
Thika, Kenya

2007年7月27日にWindsor Flowers Ltd.を訪問しました。
Windsor Flowers社はナイロビの北東40kmのThikaにあり,標高は1,500mです。
案内してくれたOperating DirectorのPardeep Kumar氏はで38才の工業技術者で,共同経営者の一人です。Pardeep Kumar氏は1993年にインドからケニアに来訪し,インド在住時に取引があったThika市の鉄鋼会社の社長とバラ生産会社を設立しました。
農場設立に当たって数年間インドやケニアの切りバラ生産農場の経営に携わって調査し,投資を行うことを決めたそうです。
Thikaには5,500エーカー(22km2)のデルモンテのパイナップル農場があり,ケニアの中でも農業で発展した裕福な地域です。
 Windsor Flowers社は2003年に設立された会社で,2004年4月から切花の輸出を開始しています。生産施設面積は9.9haで,1.1haの温室9棟からなっています。生産施設の総建設投資額は300万$(3億7,000万円)とのことですが,この面積の施設を日本で建設すると,12億円以上かかると思われることから見て,1/4程度の施設建設コストかと推定されます。2008年7月までに4棟(4.4ha)を増設し,14.3haにする予定です。

 

1.1haの温室1棟で1品種,計9品種を生産しています。収量は242本/u(800本/坪)と日本では考えられない収量の高さです。日射量の多さが起因しているのだと思います。年間2,400万本を生産・輸出しています。品質は高く,93〜94%がオランダのアールスメール花き市場の基準でA1-qualityです。
2006年の総売上金額は2億7,800万シリング(4億9,000万円)です。
切花1本あたりの農薬,肥料などの生産コストは4シリング(7円)で,人件費は1シリング(1.76円)です。品種のロイヤリティーとして0.85ユーロ(140円)を支払っていました。
毎日夕方の収穫が終了した時点で清掃を行っているとのことで,温室内はきれいに清掃されて整然としていました。

  

 従業員は233人で,65%が女性で産休保証の有給制度を取っています。人件費は4,000〜14,000シリング(7,000〜25,000)/月で,地域のお祭などの祝日の労働者を確保するために,超過勤務手当として通常の給料の2倍を支払っています。
 労働管理体制が整っており,切花収穫作業は,1.1haあたり1名のスーパーバイザーの基に9名の労働者が収穫を行っており,さらに2名の切花運搬担当労働者が加わった生産グループ制が取られています。これに加えて,全体管理のために養液管理,病害虫管理部門があります。
 農薬散布をしていました。黄色の防護服を着た労働者が7名と赤色の防護服を着たスーパーバイザー1名のチームで,全員防毒マスクをつけています。防除薬剤は温室に張り巡らされた専用配管を通じて供給され,「HATARI SUMU(毒,危険)」と掲示されています。

  

収穫ハサミを水酸化銅溶液に毎回浸けて消毒を行っていました。根頭がんしゅ病対策と思いますが,徹底できれば効果は高いと思います。

 

選花作業は33人が担当しており,PackingとGradingのスーパーバイザーが各1名おり,労働管理体制が取られていました。
収穫から選花,出荷までの作業はシステムライン化されています。
温室で収穫後,専用運搬車で運搬 → 直接冷蔵庫(5℃)に搬入 → 保冷して切花温度を低下させる → 選花場で選別,20本ごとに梱包

    

梱包されたバラを品種ごとにまとめて冷蔵庫(5℃)に保管 → 輸出用段ボール箱に入れた後,2.5℃の冷蔵庫に移動

   

2.5℃の冷蔵庫から専用搬出口から保冷トラックに搬出

 

冷蔵庫には見慣れた加熱燻煙機が天井から下がっていました。毎晩殺菌剤で薫煙して,灰色カビ病の発生を予防しています。

 生産したバラは全量をアールスメール花き市場(VBA)に輸出していました。輸出先としてVBAを選んだ理由は,ナイバシャ湖周辺の生産会社がFlora Hollandに輸出しており,既に市場が占有されていたことに加えて,VBAの方が取扱市場が大きかったことや,VBAの方が手数料に関して交渉が可能で安くできたことがありました。しかし,現在はFlora Hollandと合併しているのでこの優位性はあまりメリットにはならないと思いますが,心意気は重要だと思います。
 昨年までのVBAでの平均取引価格は,7〜8月:0.13ユーロ(21円),9〜11月:0.17〜0.18ユーロ(29円),12〜6月:0.22ユーロ(35円)で取引されています。
 出荷量の3%が輸送中の灰色カビ病などの問題でロスとなっているとのことですが,輸出が主体ということであれば低いロス率だと思います。10日間の花保ち検査を実施していましたが,専用検査室はなく,選花場の一角で行われていました。

 Windsor Flowers社の農場敷地は,コーヒー園が倒産して環境保護団体NEMA(National Environment Management Authority)の管理地となっていた不良債権の土地を購入しました。周辺の土地は現在もNEMAが管理・所有しており,周辺1.5kmには人家はありません。このような状況から,NEMAが農場敷地の環境負荷調査を毎年行っており,周辺環境に対して肥料や農薬などの汚染についてNEMAから環境認証を受け,保証されています。
 KFC(Kenya Flower Council)の環境認証を取得していました。MPSについて質問しましたが,「MPSについては関心はあるが,KFCの環境認証を受けているため特に取得する必要を感じていない」とのことでした。
 バラの剪定枝などは一カ所に蓄積して堆肥化した後,土壌改良材として使用しています。

 Thikaには2つの大きな川が流れており,用水は川から3kmのパイプラインで採水しています。川の水は公害で汚染されておらず,pHは6.8です。雨水も利用しています。パイプラインで取水した水は貯水池にいったん貯めて使用します。用水費を地方政府に支払っているとのことです。

  

 ThikaはNaivashaと比較して標高が低く,年間平均気温はやや高めで最低10℃,最高28℃ですが,良質の水と土壌に恵まれています。土壌はインドのBangarolのラテライト土壌と類似しており,地力があり高い生産性が期待できます。
 Windsor Flowers社ではインドのBlooms and Greens社でみたのと同じように籾殻を用いて土壌改良を行っており,栽培の仕方もまさにインドのバラ生産を思い出させる状況でした。
 切花の到花日数は約42日です。
 全てが土耕栽培で,養液栽培について質問してみましたが,「パミスを用いた養液栽培では,パミスのpHが高く,pH調整をする必要があるため環境に優しいとは思わない。むしろ,廃液の出ない管理した土耕栽培の方が環境に優しいと考えている」との回答でした。

   

 Naivasha湖周辺はNaivasha湖の水が利用できることから,切花生産が大きく発展しました。しかし生産施設からの排水による水質汚染問題を引き起こし,Naivasha湖の水のpHが高くなり始めています。pHの調整にはリン酸を使用しており,水質調整に150$/10haのコストの上昇を招いていると同時に,リン酸による水質汚染を引き起こしています。
 Windsor Flowers社のあるThika の水はpH調整を行う必要がなく,環境に優しい生産ができると胸を張っておられました。
 毎週2〜3回,2〜3時間の停電があるために自家発電施設(Generater)を持っています。バラ生産は,養液の施肥や農薬散布にはポンプが不可欠で,切花保管の冷蔵庫など,電気のインフラ整備は不可欠です。発展途上国での切りバラ生産の問題点を実感しました。

 

乾季には被覆ビニールが汚れるために洗浄していました。

Operating DirectorのPardeep Kumar氏の夢は,「自分で農場を持ち,従業員が喜んで生活できるEstateを作りたい」とのことでした。