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East African Growers Ltd.
Shalimar Flowers Ltd. (Shalimar Farm)

Naivasha, Kenya

2007年7月25日にShalimar Flowers Ltd.を訪問しました。
Shalimar FlowersはEast African Growersのグループ会社の一つで,East African GrowersグループはShalimar Flowers以外に2社の切りバラ生産会社を持っており,3社の合計生産本数は年間6,000万本に及びます。
 Shalimar Flowers Ltd.は野菜とバラ切花の生産を行う農業生産会社で,野菜はブロッコリーや豆類を生産しており,ヨーロッパのスーパーマーケットに輸出しています。訪問したときにもサヤインゲンの出荷が行われていました。
 ナイロビ空港までの輸送は,輸送専門子会社のWilham Kenya Ltd.が行っています。

 

 Shalimar Farmのバラの生産面積は20haで,来年(2008年)にはさらに10haを増設して30haとする予定です。現在の生産本数は年間1,400万本で,全量輸出しています。面積と年間本数から面積あたりの収量性を算出すると70本/uとなります。生産性としてはかなり低いレベルで,平均的な生産性の1/2程度かと思います。生産施設を見学させていただき,ちょうど改植期に当たっているようでしたが,バラの国際価格が低下しているこの時期に生産性が低下するのは経営上好ましくないのではないかと思いました。
 収穫・選花などの一連の過程に関わる従業員数を算出すると,26人/haで,生産面積が20haであることから,切りバラ生産に従事する従業員数は260人です。野菜部門と切りバラ部門を合わせた総従業員数は1,260人とのことですので,Shalimar Farmのなかで切りバラ生産が占める割合は経営上それほど大きくないことが判ります。
 バラの生産は1haを単位とした管理体制が取られています。1haの施設は中央の通路を挟んで25mベッドが両側72列配置されています。1haの施設は6棟の単棟温室が連棟になっており,1棟の単棟温室には通路を挟んで両側12列のベッドで構成されています。
 収穫作業は12人/haの班単位で行います。班ごとの収穫量や清掃などの管理状態に応じてボーナスを支給しているため,班ごとに競争しあってドンドン状態が良くなっているそうです。
収穫作業の12人の班には1名のスーパーバイザーが配置されています。労働者とスーパーバイザーは制服の色で区別できるようにしています。

 

生産施設内は極めてきれいに清掃されており,毎日収穫作業終了後に全員で清掃を行っており,清掃が徹底されているとボーナスを支給しています
案内して頂いたJim Foxton氏のjokeです。「私たちの温室はGreenhouseではなくClean houseです」

  

 切花生産は土耕栽培ではなく,隔離ベッドを用いた養液栽培で,潅液した養液は30%が廃液として回収されます。培地は周辺でとれるパミスを用いており,培地内の水分状態を確認するために全てのベッドにドレイン確認用の筒が取り付けられていました。
 以前は培地にココピートを用いていましたが,3年以上栽培を継続すると次第にココピートが腐食して土壌物理性が悪くなるので,現在パミスに転換しています。
 黄色の品種Golden Gateは根頭がんしゅ病に弱く,培養苗からの挿し木苗の試作試験を行っていました。

  

 

 温室で赤い旗が立っているのを見つけました。
 生産施設内で病害虫の問題が確認された場合には,その場所に旗を立てて従業員相互の意識統一を行っています。旗の色で病害虫が区別されており,赤旗:ダニ,青旗:ウドンコ病,黒旗:ベト病となっているそうです。これを目印に集中的な薬剤散布を行っています。

 労働者の給与は200シリング(352円)/日で,ケニアでは中位の給与水準です。当然福利厚生制度は充実しており,医療費や就学費,住宅費などの保証制度に加えて,週休1日制を取っています。下の写真は労働者の送迎用のバスです。

 ケニアの労働者人件費は年々高騰しており,年10%程度の上昇率とのことでした。2年前にケニアを訪問したときには,平均的な人件費が1$/日(110円)と言われていたことからみると,確かにこの2年間でも人件費が高騰していることが判ります。
 収穫作業は7:00〜日没までとしており,通常の収穫は朝と夕方に行っていますが,気温が高い時期には1日3回の収穫を行うことで品質のバラツキを少なくしています。
収穫したバラは最初に5℃の冷蔵庫に4時間入れて品温を下げ,切花の呼吸による消耗を抑えています。
 トレーサビリティーを徹底しています。温室で収穫する際に品種,収穫日,温室番号を明示したシールを葉に添付し,選花・包装部門の従業員が生産部門での情報を共有できるようにしています。
 下右の写真に見える赤いシールは品種識別シールで,温室番号と日付が書き込まれていました。

  

 選花場での労働時間は7:00〜16:00です。選花場の担当労働者数は100名程度と推定されます。選花室は15℃に温度管理されており,主に下葉除去,切花選別,パッケージ,運搬,箱詰めの他に清掃専門の係もいます。少しでも汚れるとすぐに掃除をしてクリーンな状態を維持することに気を付けています。

  

切花規格は35〜90cmに区分されており,出荷するスーパーマーケットの要求に応じて10本束や15本束に束ねられます。

  

 品質管理には気を遣っており,10名程度の班に1名のスーパーバイザーがおり,さらに赤い服を着た品質管理担当者が配置されていました。上右の写真にも黄色の服を着たスーパーバイザーと赤い服を着た品質管理担当者が見えると思います。
 また,切花を入れるバケツは色ごとに区別されており,生産温室から選花場までの運搬には黒色のバケツを使用し,束ねたバラは青色のバケツを使います。廃棄する切花はピンク色のバケツに入れられます。これらのバケツは,病菌の拡散を防ぐために,基本的に相互に流用することはありません。

  

 

ここにも束ねた切花を切り揃える専用カッターがありました。Shalimar Farmのカッターは特別注文のようでした。

選花場で選別され,10本あるいは15本ごとに梱包されたバラは5℃の冷蔵庫で保管されます。

   

冷蔵庫の中でのボトリチス(灰色カビ病)の発生を抑えるために,冷蔵庫の床が水で濡れたらすぐにモップで拭き取るようにして,冷蔵庫の湿度を下げるように努力していました。

 包装された花束は冷蔵庫のなかで輸出用に箱詰めされます。箱詰めされたバラは12時間2℃の冷蔵庫で低温処理して,ナイロビ空港へ輸送されます。品質の劣化を防ぐための定温の維持には最善の注意が払われていました。ここにも赤い制服を着た品質管理担当者が目を光らせていました。

  

 Shalimar Farmは野菜の生産・輸出も行っていることから,バラの輸出先もスーパーマーケットが中心で直接取引を行っています。スイスのミグロ(Migros),イギリスのテスコ(Tesco)などの他,フランス,オーストラリア,USA,スウェーデンなどのスーパーマーケットにも輸出しています。
 農場を午前中に出庫すると夜のヨーロッパ航空便でナイロビ空港を出発し,翌日朝にはオランダに到着します。2008年にはナイロビ空港からアメリカ行きの直行便ができるので,アメリカ市場にも期待しており,現在それにむけての予備的な輸出を行っていました。
 一部日本へも輸出しています。輸送日数は,植物検疫を含めて4日間を要します。日本の植物検疫は厳しく,丸1日かかるといっていました。
 日本の大手スーパーマーケットのイーオンの関係者が先週来社したとのことでした。「イーオンは品質に対する要求が厳しく,取引相手としては大変だが積極的に対応したい」とのことでした。
 昨年インターネットで入手していた船便での切りバラの輸送試験についての情報を得ることができました。
 「0.5℃の船便冷蔵コンテナを用いてオランダへの輸送試験を行った。輸送には4週間を要した。品種によっては,冷蔵状態から室温に戻すと一斉に開花してしまうものがあったが,何も問題なく2週間程度かかって開花した品種もあり,品種によっては船便輸送も念頭に置いた取り組みも考えていきたい」
 選花場の奥には切花品質検査室(Vase Life Room)がありました。品質検査室の温度は20℃で,7:00〜19:00の12時間照明でした。毎週切花を入庫して3週間の切花保持試験を行っています。
 下中央の写真は検査室に入庫して5日目の状態で,下右の写真は17日目の状態です。

  

昨年のロス率は2.5%で,病害虫がその主要な原因でした。収穫したバラの92〜95%を輸出し,わずかであるがケニア国内でも販売しています。
 ケニアは根頭がんしゅ病の蔓延が著しく,十数年前に各所のバラ生産会社が壊滅的な被害を受けたとのことです。
 この影響もあって,Shalimar Farmでは自社での台木の生産を行っていました。台木の品種はナタルブライアー(Natal Briar)で,オランダから培養苗を定期的に購入し,順化・鉢上げ後に台木育成施設で栽培して,台木のシュートを生産しています。培養苗を用いる理由は根頭がんしゅ病フリー化のためです。台木の生産面積は1haです。ここで得られた台木のシュートを用いて自社で接ぎ挿し苗(ミニプランツ)の苗の生産が行われます。
 根頭がんしゅ病フリーのナタルブライアーのシュート生産は今回のケニアの生産会社訪問で初めて見ることができました。収穫された根頭がんしゅ病フリーのシュートは他の農場にも販売を行っています。1本のシュートは20シリング(35.2円)で売れるとのことでした。結構良い商売だと思います。

  

 

根頭がんしゅ病フリーのシュートを用いた接ぎ挿し苗増殖施設を持っています。苗増殖施設は全体を白いペンキで塗られており,中はミスト装置で湿度管理が行われていました。
施設に入る前には靴を消毒する殺菌漕があり,毎回靴を浸して殺菌します。現在でもケニアでは根頭がんしゅ病の感染がひどいことを伺わせます。

  

 接ぎ挿し苗の培地は整形ピート板で,オランダから購入しています。接ぎ挿し方法はオランダのミニプランツと同じ方法です。生産した苗は自社の圃場に定植するだけではなく,他の生産会社に対して苗の販売も行っています。苗の販売価格は30シリング(52.8円)/本+ロイヤリティーです。

   

 近年,切花生産会社からの排水によるNaivasha湖の汚染が問題となっており,Shalimar Farmでは排水対策にかなりの配慮が行われています。パミスを用いた隔離ベッドでの栽培や潅液した養液の回収が行われており,回収した養液からの肥料成分イオンの除去と殺菌を行うために,25万$を投資してイスラエルのPuretec Water Engineering Ltd.社製の逆浸透膜ろ過装置を導入していました。80立米/時間の廃液処理能力を持っています。これまで,オランダなどでも養液殺菌装置などはみたことがありますが,逆浸透膜ろ過装置を導入して廃液処理を行っている生産会社はみたことがありません。Puretec Water Engineering Ltd.社のホームページをみましたが,Shalimar Flowers社の装置が写真で紹介されていたことから(http://www.puretec.co.il/index_files/Page439.htm),農業関係での導入は極めて希ではないかと思います。Shalimar Flowers社の環境対策に対する意欲の一端を見た気がしました。
下左の写真は回収した養液を貯蔵するタンクで,その右端の建物の中に逆浸透膜ろ過装置と養液調整装置があります。下中央の写真が逆浸透膜ろ過装置で,下右の写真が養液調整用の原液タンクです。

  

 Shalimar Farmは社員教育に熱心で,10〜15人の作業班ごとに研修会を行ったり,スーパーバイザー会議を開催するなど,「経営者と社員が共に会社の発展を支えていこう」という考え方が感じ取れました。スーパーバイザー会議は毎週開催され,農薬や肥料,光熱水量費などの生産コストを算出して検討会を行っているそうです。
MPSの認証制度には積極的に取り組んでおり,MPS-A,MPS-GAP,MPS-Social,MPS-Qを取得しているほか,EurepGAPの認証を受けていました。
黒・赤の制服はセキュリティー担当職員で,1日2交代制で夜間も警備を行っています。