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Pt. Transplants Indonesia(沖縄県花卉園芸農協「太陽の花」)
Cianjur, Indonesia

2010年9月2日にTransplants Indonesia社を訪問しました。
Transplants Indonesia社は、沖縄県花卉園芸農業協同組合「太陽の花」が沖縄のキク生産農家への安定した苗供給システムの構築のために1996 年に設立したキク苗生産農場です。沖縄はキクの挿し穂採取時期に台風が到来することが多く、挿し穂採取用の親株が全滅することも頻繁にありますが、Transplants Indonesia社が設立されてからは安心して切花生産に専念することができるようになりました。ちょうど訪問した2日前に沖縄に台風が上陸し、挿し穂採取用の親株が全滅した農家が多数出て、挿し穂の注文が殺到しているとのことでした。
農場の標高は920mで、最高気温32℃、最低気温14℃で年間一定です。
生産面積は4haで、うち2haはハウス、2haは平張り施設です。従業員35名に加えてパート労働者120名を雇用しています。沖縄県花き園芸農協「太陽の花」から仲宗根盛秀さんが農場長として派遣されており、仲宗根氏の案内で視察しました。
仲宗根氏は安全の観点から敷地内に居住しています。インドネシアの治安はそれほど良いとは言えず、乾季には集落単位で自警団が巡回するため比較的安全ですが、雨季になると自警団の巡回が出来なくなるため結構泥棒や強盗が頻発するとのことです。このため、太陽の花農場では昼間と夜間の警備のために16名の安全警備職員を雇用し、終日警備体制を取っています。夜間は安全警備職員6名体制で夜間警備を行っていました。

 
ハウスと平張りハウス

パート労働者の勤務時間は7:00〜15:00で、人件費はインドネシア(チアンジュール県)の最低賃金に相当する300円/日を支払っています。インドネシアは地域によって生活水準が異なる為に地域別に最低賃金の基準が違っており、2009年の最低賃金はジャカルタ110万Rpでチアンジュール88万RPとのことです。
従業員の給与は平均8,000〜9,000円/月で現地人農場長には25,000円/月を支払っています。人件費は政府からの通達で毎年10%上昇しています。
生産しているキク品種は秋系26品種で、挿し穂採取用の親株を栽培しています。現在は精興園の品種が5品種ありますが、将来はすべてを太陽の花ブランド品種にしたいとのことです。
挿し穂採取用親株圃場では白熱電球を用いて夜間に3.5時間の光中断法で長日処理を行っていました。白熱電球は耐久時間が短く消費電力も多いため蛍光灯に換えたいが、品種によって長日反応が不完全であることに加えて、蛍光灯の盗難が心配で導入できないとのことです。

  

インドネシア国営電力会社の電力供給能力が低く、頻繁に停電が発生するため、自家発電施設を設置していました。発電機は300kVA(スウェーデン製)1台と100kVA(イスズ製)1台を設置しています。

 

キクではウイロイドが問題となっているため、沖縄県花卉園芸農業協同組合との連携で、JA和歌山県農植物バイオセンターに依頼してウイロイド検定して基親株を選定し、青森県での越冬処理を行っています。ウイロイドフリーの親株の更新は2年ごとに行っています。また、Transplants Indonesia社では連作障害の回避とセンチュウ対策をかねて、キクの裏作として田んぼ作り(ハウス)とトウモロコシの栽培(ネットハウス)を行っています。ちなみに仲宗根氏によると、インドネシアではスリップスを見たことがないそうです。

挿し穂採取用親株圃場の土壌管理として堆肥の施用を行っています。堆肥は山羊糞、稲わら、グアノ(コウモリの糞)、米ぬかにテンペ菌(インドネシアの発酵食品「テンペ」:Wikipedia)を加え、毎月切り返しを行って4ヶ月堆積したものを使用しています。

 

採取した挿し穂は陰干し処理を行って少し乾燥させます。余分な水分を調整する事で苗の保管処理を良好に行う事ができ、さらに挿し木後の発根も良くなります。半乾燥させた穂木はコンテナに入れられ、穂木の調整室に移動します。

 

穂木は人手で4.5cmに調整します。作業室では30人以上のパート労働者が20〜30本ずつセットにして袋詰めをしていました。

  

農場の挿し穂生産能力は年間2,500万本ですが、現在は1,100〜1,300万本の穂木を沖縄に送付しています。余剰の挿し穂生産能力を効率的に活用するために、試験的に沖縄県での切花生産が難しい夏場の苗生産体制の補完事業として、小菊の穂木を愛知県の生産地に輸出しています。
沖縄に送付する苗は、未発根穂木が20%で、挿し木発根させた苗が80%を占めています。沖縄での農家配布価格は8〜10円/本程度で行われています。ちなみに、キク苗の一般販売価格は11〜12円程度であることから見て、低価格での配布が可能となっています。
農場からジャカルタ空港までは保冷車で輸送します。空港まではおよそ3時間ですが、近年交通渋滞がひどくなっていることから、13:00に農場を出発し、19:00には空港に到着して航空便に積み込みます。農場から沖縄までの輸送行程は以下のようです。
農場→(保冷車)→ジャカルタ→(国際便)→成田(植物検疫)→(国内便)→中部空港→(地方便)→沖縄
沖縄−成田便がないため、いったん中部空港に転送して沖縄に運んでいます。ジャカルタ−香港−沖縄などの輸送ルートも考えられますが、海外での荷物の積み替えはトラブル発生が心配です。日本国内での荷物の積み替えは確実ではありますが、国内路線の航空運賃が著しく高いことが問題となっています。

 

発根苗の発根は隔離ベッドで行います。隔離ベッドの培地には、おがくず80%、ゼオライト20%の混合培地を使用しています。ゼオライトはおがくずの撥水性の防止として添加しています。培地は、毎作後次亜塩素酸で消毒を行い、継続して使用しています。
発根促進剤としてインドネシア産のIBA95%薬剤(オキシベロン)を0.5%に希釈して使用しています。発根は挿し木後4日目から始まり、9日目に発根苗を収穫して梱包します。
挿し木ベッドの挿し木本数は18,000本/ベッドで、一度に50万本程度の発根処理能力を持っています。労働者の挿し木速度は1時間1,500本と非常に早く、訓練されています。
昨年までは川水を用水として使用していたためピシウムなどの発生に悩まされたそうですが、現在は井戸水を用水として使用しており、ほとんど病気の心配はなくなりました。



パート労働者の雇用問題として、政府の指導による最低賃金の高騰と、労働者の競争意識が低いことをあげていました。充分な監督を怠るとすぐに労働効率が低下してしまうそうです。しかし、仲宗根氏のポリシーとして「労働監視の強化はしたくない」ため、グループ制を含めて「自主管理体制」による自覚の向上を目指しています。また、報奨金制度や日本への研修など様々な意識向上対策を講じていました。
人件費の高騰が続いているため、省力化や省コストに努めていました。その一環としてビニルマルチをしない親株管理を試みていました。無マルチ栽培の方が根の成育が良く、挿し穂の採取効率も良いように思いました。

 

従業員とのコミュニケーションは出来る限り日本語で出来るように日本語学習を奨励しています。日本語の習得が優れている者に対して日本での研修を予定しています。従業員のモチベーションの向上にも繋がり、日本での技術向上にも繋がります。
インドネシアへの様々な支援活動を行っており、近隣の学校の改築や修繕経費の寄付や、毎年子供達への文房具の配布などを行っています。また、パート職員の雇用にあたって、周辺の集落から1軒から1名を均等に採用するように心がけています。
面白い設備として、ハウスの扉がペットボトルを使用した自動ドアになっていました。