福井の Home に戻る

HILSEA Investments LTD.(ヒルゼア社)
El Quinche, Ecuador
【切花生産・花束加工・バラ苗生産】

2008年9月23日にJFMA(日本フローラルマーケティング協会)主催のエクアドル・コロンビア視察でHILSEA Investments社を訪問しました。
 HILSEA Investments社は、エクアドルの首都キト市から車で北東に40kmのEl Quincheにあり、標高は2,600mです。HILSEA Investments社はEsmeralda Farms inc.の子会社で、HILSEA Investments社の他にTolita、Perucho、Mora、La Victoria、Flor Y Campoなどの5農場を持っています。エクアドルのエスメラルダ農場は280haあり、HILSEA Investments社は30haのサマーフラワー(いわゆる1〜2年草切花)とバラを生産する農場で、切花生産、育種、バラ苗生産、花束加工を行っています。
正門の警備は重装備で、守衛さんはピストルを所持していました。

 

事務所脇の巨大な冷蔵庫には搬出用扉があり、巨大なトレーラーが横付けしていました。

 


【サマーフラワー切花生産】

生産しているサマーフラワーは60品目と多く、有名な切花としてはトラエケリウムの育種があります。夕霧草(トラケリウム)は挿し木プラグ苗を直接定植し、定植後17週間で収穫されます。

   

収穫された切花は、温室から選花場まで張り巡らされた搬送リフトを使って運ばれます。

エクアドルやコロンビアでは加温設備を持つ生産農場は少ないようですが、HILSEA Investments社ではスチーム管が温室間に配管されており、品目によっては夜間に加温を行っています。

従業員の環境に対する意識を高める目的で、分別回収が徹底して行われていました。

被覆フィルムは赤色と白色があり、赤い被覆フィルムは400〜700nmの可視光線(PAR)を遮光する能力があり、特にNIRP社育成のスーパーグリーンという品種で使用されていました。

 サマーフラワーは1〜2年草で連作を行うため、作期の更新期には連作障害の回避のために土壌消毒が不可欠となります。一般に土壌消毒は揮発性殺菌剤などの農薬を用いて行いますが、HILSEA Investments社では蒸気殺菌を用いて土壌消毒をしていました。
 土壌消毒後にはpHを調整した後に、バーク系の堆肥やピートなどを投与して土壌改良を行っています。

   

広大な面積でユリの切花生産も行っていました。シベリア、ソルボンヌ、スターファイターなどです。
隔離ベッドで栽培しており、生育が良く揃っているため、ほぼ一斉収穫が行われていました。収穫後の切り下球は回収して再度養成球として使用されます。

    

 

 収穫されたユリの切花はアメリカやヨーロッパに空輸で輸出されます。私の少ない知識ではユリの切花はかさばるために輸送が難しく、日本へのユリの輸出量は極めて少ない理由の一つと言われていました。しかし、エクアドルからアメリカやヨーロッパにユリの切花が容易に輸出できると言うことであれば、広大な農地を保ち人件費の安い中国東北部やベトナムなどからの輸出が想定されることになります。
 開花処理した高額なユリの球根をオランダから輸入して切花生産をしている日本のユリ切花生産者は輸送性のメリットと計算し尽くした計画的な周年生産で優位性を保っていますが、近い将来にはバラ、キク、カーネーションと同様に切花輸入という大きな課題が近づいているということでしょうか。



【花束加工生産】

HILSEA Investments社では各種の花束を加工してアメリカに輸出しています。花束加工に使用される切花は、エクアドル国内にあるエスメラルダの8農場で生産された切花です。

   

 切花加工を行う作業員はバーコードで管理されており、クレームなどに的確に対応できるようになっています。作業員が生産した花束の品質が良いと判断された場合には勤務カードに「緑」のシールが付けられ、問題のある花束を生産した場合には「赤」のシールが貼られます。当然、「緑」のシールが多く貼られて評価の高い作業員に対してはボーナスが支払われます。

 

 生産する花束の種類が多いため、生産する花束ごとに仕様書が作成されており、その仕様書の写真に従って花束が生産されます。また、花束にはクリザール社の鮮度保持剤が一束ごとに添付されていました。
 輸出する花束商品に対する品質保証およびクレームに対する的確な対応姿勢と作業員へのモチベーションの維持向上対策が整っていました。

 

 ミニブーケを3ヶ月前から試作販売をしており、アメリカに輸出しています。ミニブーケはオアシスを入れた容器で生産され、水入りの状態で輸出されます。
 一般に、空輸する切花は乾式輸送が一般的です。これは空輸貨物料金の算出が容積と重量の併用で算出され、重量を大きくしないための手段です。しかし、HILSEA Investments社は加工したミニブーケの花保ちを向上させるために敢えてオアシスを用いた水入りミニブーケを生産して空輸するという実験的な試みを行っていました。

   

 日本では、このミニブーケに類似した商品としては青山フラワーマーケットで販売しているキッチンブーケやダイニングブーケなどが相当すると思います。しかし、オアシスを使ったこれらのブーケは水下がりが激しく、生産したブーケのオアシスの水は切らせなくなりますので、仕方なく店頭での加工が原則となっています。
 HILSEA Investments社のこの試みから、ミニブーケの流通を大きく替える可能性を感じました。
 切花を輸出する宿命として植物検疫の合格が大きな壁となります。素材としての切花を輸出する場合には、植物検疫で不合格となっても多少の薫蒸処理は品質の低下の生涯にならないことがありますが、手を加えた花束商品の場合には植物検疫での薫蒸処理は品質低下と共に花保ちの低下を招きます。
 HILSEA Investments社では、輸出商品について植物検疫と同じシステムで病害虫検査が独自に行われており、輸出に当たってのロスの低減が図られていました。


【バラ苗生産】

バラ苗生産施設を視察しました。今回は時間の関係で視察することができませんでしたが、HILSEA Investments社は切りバラ生産農場があり、そのためのバラ苗生産施設を持っています。
台木はNatarBriarを使用しており、ミニプランツ苗を生産していました。当然ですが、台木専用施設を保ち、台木の枝を収穫してきます。接ぎ木する穂木の品種は切花生産施設から採取します。

接ぎ木は分業化された流れ作業で行われており、台木と穂木の枝を一定の長さで切り揃えて不要な芽を切除する作業員、台木と穂木を接ぎ木する作業員などに分かれています。
接いだミニプランツはクリップで挟んで挿し木されますが、クリップが色分けされていて品種間違いが起きにくい工夫が取られていました。

 

 

 接ぎ木作業過程で病原菌やウィルスの侵入が製造ロスを招きます。接ぎ木で使用するナイフは270℃の高温で殺菌され、さらに作業台では塩素消毒液を入れた容器に毎回の作業ごとにナイフを漬けるといった徹底的な殺菌への注意が払われていました。

  

 接ぎ木後6週間で定植苗になります。生産したミニプランツ苗のほとんどは自農場で使用しますが、一部は他社に販売もしています。
 接ぎ木までの作業の徹底した管理に対して、挿し木管理はあまり良くありませんでした。全体の活着率は80%以下と見受けました。恐らく湿度と温度の管理が充分ではないものと思います。挿し木までの作業工程の管理が素晴らしかったのですが、最終的な苗育成段階でのロスはもったいないと思います。

  

 育苗施設の一角にバラの実生苗がありました。HILSEA Investments社では積極的なバラの育種も行っており、その交配種子の発芽までの管理がここで行われているのかと思います。


【カスミソウ切花生産】

カスミソウの専用切花生産圃場を視察しました。広大な圃場でカスミソウが生産されています。

カスミソウは日長反応で開花を調節できます。生産圃場では日長処理用のナトリウムランプを設置するための柱が一定間隔で立っており、苗が定植されて一定の成長がみられた後に、花芽分化を促進するためにナトリウムランプが取り付けられます。

   

カスミソウは堅めで収穫し、トラクタで牽引する荷台に積み込まれて選花場に運ばれます。

   

選花場では堅めの花を強制開花施設で開花処理させます。輸出国に応じて3分咲き(強制開花施設で1日)から満開(強制開花施設で7日)まで調整して輸出します。

 強制開花前

  強制開花処理後

強制開花は20%程度が開花した切り花を蕾収穫し、温風器とダクトを用いて20℃に保温して開花させます。

  

切り花の選別にあたっての注意事項が選花台ごとに掲示されると共に、大きな垂れ幕や掲示板で詳細に提示されていました。