Pacific Bouquets(パシフィック・ブーケ社)
Yaruqui, Ecuador
【切花生産・花束加工】
日本フローラルマーケティング協会の海外視察に参加して、2008年9月23日にエクアドル・パシフィック・ブーケ社(Pacific bouquet)を訪問しました。
パシフィック・ブーケ社(Pacific bouquet)はQuito市から北東に30kmのYaruquiにあり、エクアドル最大の花き生産会社ヒルゼア・グループ(Grupo Hilsea)の花束生産専門農場です。
1990年代のエクアドルは切花生産業が急速に成長し、アメリカなどの輸入国では輸入切花を花束加工する加工産業が発達しました。2000年代に入って、スーパーマーケットでの切花販売が急速に成長するにつれて生産・加工の国際分業体制が崩れ、さらに航空輸送技術の発達に伴ってエクアドルで花束加工して輸出する業態が発達し、特にエクアドル最大の花き生産会社ヒルゼア・グループでは、切花素材生産業からより付加価値の高い輸出用花束製造に重点を置く企業姿勢を示しています。
パシフィック・ブーケ社は、輸出花束の最大の課題である生産履歴と鮮度保証を実証するための花束の加工生産企画のための実験農場ということができ、すべて自社生産切花で花束加工を行うための実証試験が行われていました。当然、ここで生産される花束はすべて自社農場で生産された切花だけを用いています。そのためには様々な多数の品目の切花を生産する必要があり、いわゆる少量他品目生産体系を維持しながら周年生産を行うという極めて厳しい経営体制の中での試行錯誤が行われていました。
農場の総面積は5.5haで40品目という多品種生産を行っています。
実証試験としては厳しい条件ではありますが、花束で使用されるすべての切花が花束加工場と同一敷地内の自社農場で生産された切花であるということから、収穫後すぐに花束加工できるという、最も有利な鮮度保証が可能となります。
生産されている品目は、Solidago(キリンソウ)、Eucalyptus(ユーカリ)、Molucella、Helianthus(ヒマワリ)、Dianthus(ダイアンサス)、Hypericum、アスター(3品種)、Bupleurum、Carthamus(ベニバナ)、Ammi(レースフラワー)、、フェンネルガーベラ、スプレーバラ、スプレーギク、ダリアなどです。
ヒペリカムはHilsea社が育種した5品種です。ヒペリカムの栽培体系は、苗を定植した後にピンチを行って2〜3本仕立てとした後、スタンダード仕立てて切花として収穫します。定植から収穫までは23週を要し、年間2回転しかできないことになります。
ヒペリカムは、パシフィック・ブーケ社が生産する花束の主役の一つでもあることから、苗の定植は毎週行われ、周年収穫ができる体制が整えられていました。苗は定植後3〜4年栽培されます。
露地で生産される切花の苗は育苗施設で生産されます。種子系の植物はプラグトレーに播種され、アスターやヒペリカムなどの栄養繁殖性の植物は挿し木が行われます。播種や挿し木直後は高湿度が維持された施設で管理され、発芽・発根したものは育苗施設で管理されます。プラグ用土はBM-2が用いられていました。
赤道直下のエクアドルでは、日長時間は1年中12時間です。植物にとって12時間日長は短日条件に相当します。したがって、Solidagoなどでは短日条件では小さい苗の時期に花芽ができて切花の収穫ができないため、長日条件を維持するための電照施設が設置されていました。
網支柱などの資材は、植林されているユーカリがふんだんに使用されています。エクアドルの気候ではユーカリの成長は早く、4年で胸高直径15cm程度まで成長するとのことです。鉄鋼材の高騰が続いている中、生産資材コストは安く抑えることができます。
切花収穫は畝ごとに一斉収穫が行われ、計画的な生産体系が取られていることが判ります。
露地栽培だけでは生産できる品目が限られてきます。また、病害虫の管理が必要なキク、バラ、ガーベラなどは施設生産が行われていました。
バラはスプレーバラが中心で、リディア、ビビアンなど3品種が生産されていましたがいずれの品種も葉は照り葉で、ウドンコ病などに対して耐病性の高い品種です。
収穫された切花は農場内にある選花場に持ち込まれ、速やかに選別されます。選別された切花は1〜3℃に設定された冷蔵庫で水揚げ・保管されます。
農場で収穫された切花を用いて収穫後すぐに花束が生産されます。花束製造は9人で行われ、200〜250束/日/人、月6万束が製造されます。製造された花束はアメリカのスーパーマーケットに出荷されます。製造する花束のデザインはパシフィック・ブーケ社が提案し、スーパーとの協議の基で決定されます。花束の販売価格は4$とのことでした。
多くの花束加工会社が複数の契約農場から切り花を仕入れて花束製造をしているのに対して、パシフィック・ブーケ社では自社で生産した切花のみを用いていることから、どうしても品目の幅が狭くなりがちな欠点を生産技術でカバーしていました。
エクアドルの気候は植物にとっても最適ですが病気や害虫にとっても適した条件であり、切花の輸出を産業として発展させるためには病害虫の防除は植物検疫上の大きな課題となっています。パシフィック・ブーケ社では農薬の使用を減少させるための取り組みとして黄色粘着シートを用いた害虫防除が行われていましたが、やはり主力は薬剤散布に頼らざるを得ない状況です。
将来、有機栽培や無農薬栽培などに対する技術力の向上が可能になった時には、自社農場の切花だけを使用した花束製造はオーガニック・ブーケに対するトレーサビリティーの確保という点で有利になってくるように思います。
恐らくパシフィック・ブーケ社の親会社であるヒルゼア社が目指しているのもこの点ではないかと思います。
潅水などの水は、背後に連なる4000mの山からの天然のわき水が水源となっています。潅水は自動潅水装置で行われており、適宜液肥が潅注されます。
エクアドルでは水の確保が大きな問題となり始めているとのことです。基本的にエクアドルの生産農場で使用される水は、5000m級の高山の氷河からの雪解け水で水源が限られていますが、その水源容量を超えた農場開発が進められており、さらに地球温暖化の影響もあって氷河が溶けて減少する傾向にあり、水源の確保が各農場の重要な課題となっています。パシフィック・ブーケ社の水源は氷河の雪解け水ではなく背後にある緑豊かな水源涵養林であることから、環境保護対策の姿勢も評価されることになると思います。