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Paso de Luna
Bogota, Colombia

 JFMAエクアドル・コロンビア視察途中の2008年9月26日にサントリーの岩城一考氏とサントリーフラワーズ石原卓朗氏に同行して、農園「Paso de Luna」を訪問しました。
 Paso de Lunaはサントリーが開発した遺伝子組み換えカーネーション「ムーンダスト(Moondust)」の切花を生産するコロンビアの生産農場で首都Bogotaから北東に1時間程行った場所にあります。農場の運営はサントリーのグループ会社フロリジン(Florigene)社です。
 農園名「Paso de Luna」はスペイン語で「月への道」の意味で、なかなか夢のある名前だと思います。
 Paso de Lunaは、サントリーのフラワービジネスの筆頭となるムーンダストを、日本はもとよりアメリカ、ヨーロッパなどに出荷するためのコロンビア基幹農場で、将来の生産量の増加を見越した敷地の確保が行われていました。
 2007年の日本国内でのムーンダストの販売本数は190万本、全世界では1900万本です。近年ヨーロッパでの販売本数も急増していることから、生産施設の拡張が不可避となっています。現在の生産面積は6haですが、数年内での栽培面積20haにむけて増築の最中でした。総敷地面積は40haとのことですので、まだまだ拡張可能です。
 Paso de Lunaでは生産施設の拡張が行われていたため、コロンビアにおける切花生産施設の構造を詳しくみることができました。
切花生産施設はユーカリ木材を用いた木造です。ユーカリはオーストラリア原産ですが、コロンビアでは至る所でユーカリの植林が行われています。

   

挿し穂用の親株栽培施設や挿し穂の発根施設として鉄骨のハウスを建設中でした。

 また、切花出荷調整施設や冷蔵庫の新設も行われており、2009年には事務所、選花場、冷蔵庫、従業員ロッカー、シャワー、トイレ、ダイニングルームなどの完備したオフィスになり、現在の2.5倍の生産・出荷能力を持つことになります。

 ムーンダストの切花は機能分化されたシステムで生産されていました。
親株は土壌病害の感染防止のためにポットで栽培管理されています。親株栽培施設への入室の際には靴を殺菌した後に、靴の上からビニルのカバーを付け、手を洗浄殺菌して入室します。

 

採取した挿し穂は、その場で発泡スチロール箱に入れられ温度上昇が防がれており、25本ずつ束ねられて冷蔵庫に入れられます。

 

冷蔵処理された挿し穂はミスト装置で加湿された挿し木発根施設で発根させます。

   

 

挿し木苗が定植された広大な面積の切花生産施設です。定植直後は手潅水で管理されます。

 

コロンビアはエクアドルに比べると赤道直下よりやや北に位置しますが、標高は3,000mと高いため、年間気温はやや低いと思います。
広大な面積の連棟生産施設で栽培されていることもあって、温室内のカーネーションの生育は良く揃っており、日本のカーネーション生産者からみたら夢のような状況に思えます。

  

 収穫されたムーンダストはいったん冷蔵庫に入れられた後、鮮度保持のためのSTS処理が行われます。出荷調整で最も大変そうだったのが、切花の基部の葉と側芽の除去でした。一芽ごと手作業で丁寧に芽を掻き取っていました。

   

 ムーンダストの輸出先で最も量が多いのはアメリカです。アメリカの切花消費は生花店からスーパーマーケットに移行しつつあり、単品での販売から複数の種類でアレンジしたブーケ(花束)に移り始めています。Paso de Lunaでも、これまでの1箱250本入りの出荷方式から花束加工品の出荷を想定した試作会が行われていました。アメリカのフラワーデザイナーを呼んで様々なブーケを試作していましたが、「日本人なら生け花を知っているだろう!」とアドバイスを求められました・・・。

  

出荷する時にはH.E.B.社の鮮度保持材Just Cutが添付され、14日間の鮮度保証のパッケージやフロリジーン社MoonDustのパッケージで花束加工して輸出されることになります。

 

 若手の職員は理学(植物)系大学を卒業して採用されていますが、就職後に園芸学の勉強をするために自主的に大学社会人入学をして勉強しているとのことです。また、もう1人の若手職員はMBA(経営学修士)を取得しており、総務・経営管理を担当していました。コロンビアでは農業はそれだけの企業的魅力がある業種ということでしょうか。
 同行いただいた石原卓朗氏は、Paso de Luna社の社員達から親しみを込めて「Takuro」と呼ばれていました。海外での生産拠点の確立を図る上で重要なことは、施設の整備や高度な技術ではなく密接な人間関係の構築であることを実感しました。

 コロンビアの切花生産地は平坦な高原台地であるため地下水も滞留しやすく、用水は雨水と地下水に頼らざるを得ません。エクアドルと比べると清潔な水がふんだんに手に入りにくい状況のため水の浄化は不可欠なのでしょう。濾過装置と紫外線殺菌装置が設置されていました。