中国の有機栽培を視察いたしました(2001年10月7日〜13日)。
中国でも有機栽培は注目されている農業分野の1つとなっているようです。化学肥料や農薬が高価で、やむを得なく「有機農業」を行っているものと考えていましたが、チョット考え方が間違っていたようです。食生活が豊かになってきた証拠ともいえると思います。
中国は92年から無農薬・無化学肥料、減農薬・減化学肥料を中心とした「緑色食品プロジェクト」を推進しはじめ、栄養価値と付加価値の高い安全食品に属する野菜類の緑色食品が続出し、消費者の好評を博していると同時に、海外市場にも出回っている。
中国の有機栽培の基準
有機農業運動国際連盟の有機農業および生産加工の基準やEU有機農業基準などを参照し、中国の国情に合わせて、有機栽培基準が制定されている。
有機野菜(緑色野菜)をAA級とA級の二つに分けている。AA級緑色野菜は、生産中に化学合成された肥料・農薬・植物成長促進剤、その他環境と人体の健康に有害な物質を「一切使用していない」食品のことです。A級緑色食品とは、生産中に許容限度内の量、時間、種類で安全性の比較的高い化学合成物質を使用し、AA級緑色食品への過渡的有機野菜である。
1.環境基準
栽培する場所の、土壌、大気、水質を検査する。産地およびその周囲の生態環境のファクターを厳密に監視測定することで、そこが緑色食品を生産する基礎的条件を備えているかどうか判定する。
2.生産・加工基準
品目別に種子、農薬、肥料などの使用量、使用時期・期間の規定(上限)が設定されている。
3.品質基準
生産された緑色野菜の品質などに関する規定で、農薬や有害重金属の残留物などをチェックする。
4.流通・販売基準
緑色野菜の流通、販売、標識などに関する規定。例えば、包装はできるだけ簡易なものにするように指導している。(しかし、この成果はあまり芳しくない)。また緑色食品であることを示す標識をつけることで、消費者がその認定番号からいつどこで生産されたものかを監督できる仕組みになっている。
上記のように、中国の野菜生産は全体的に増加基調にある。緑色食品の生産規模
90年 97年2月 97年12月 98年12月 99年12月 生産品数(種類) 127 320 892 1018 1360 生産総量(万t) 35 - 630 840 1000 耕地面積(万ha) 4 - 213 230 300 生産企業数 - - 544 619 742
★緑色野菜と無公害野菜生産
●長春市緑色生態園
●桂隆無公害野菜生産基地(広西南寧桂楽農業総合開発有限責任公司)
●広西現代農業技術展示中心
長春市緑色生態園
有機栽培の展示とレストランが一体となった「農業観光施設」です。料金はチョット高めでしたが、吉林省の郷土料理を中心にした料理がたくさん提供されていました。施設の入り口は乾燥トウモロコシで作ったアーチと同様にトウモロコシを積み上げた壁でレストランの入り口まで誘導されます。
レストランの内部は温室風のテラスや個室があり、家族やグループで食事が出来るようになっていました。
レストランの周辺は有機栽培圃場が広がっており、食事が終わってレストランの外に出ると、トラック1杯の太ネギを出荷しているところでした。また、ビニルハウスではレタスが栽培されており、片屋根式の温室ではキュウリが栽培されていました。
●桂隆無公害野菜生産基地(広西南寧桂楽農業総合開発有限責任公司)
広西大学農学院のある広西省南寧市の無公害野菜産地(桂隆無公害野菜生産基地)を視察し、謝耀飛総経理に案内をいただきました。この生産基地は南寧桂楽農業総合開発有限責任公司の1部門で、収穫した野菜の全量を香港に輸出しています。面積は20haで、管理者3名と雇用労働者80名で運営されています。香港での販売が順調であることから、来年は面積を70haに拡張する予定とのことでした。
この生産会社の特徴は以下の点です。
◎防除網による害虫の侵入防除
◎有機肥料を液肥として施用する「有機液肥栽培」
◎土壌病害の予防のための輪作(アブラナ科→ウリ科→マメ科→キク科→ナス科)
◎養豚との複合経営
◎家畜糞尿からのメタンガスの生成
全ての施設は防虫網が張り巡らされており、殺虫剤の使用を極力抑えていました。
日本での有機栽培は、堆肥の利用などによって地力の向上をはかり、化学肥料の使用を抑制する栽培方式です。しかし、ここ桂隆無公害野菜生産基地では、河北省の「趙州緑色食品専用肥廠(肥料工場)」で製造された「膨化灰菌有機肥」(発酵鶏糞が主体とのことでした)と「尿素」を調整して水に溶かし、液肥として使用していました。尿素の添加量や有機肥料の量は広西大学農学院で土壌分析を定期的に行って調整していました。
有機液肥の施与方法は一見時代遅れの「天秤棒」を使って人手で散布する方法でしたが、人件費の安さ(10元(150円)/日)と労働者の数を考えると、機械化をする必要がないと感じました。当然人手で行いますから、丁寧に株の状況を見ながら散布することが出来ます。
日本のように「肉骨粉を含めば有機肥料」という安易な考え方ではなく、微生物をふんだんに含んだ有機肥料を使用していますので、土壌はきれいな団粒構造を維持しており、収穫終了後は「龍珠」という微量要素肥料を散布するだけで、堆肥などは一切施用しないとのことでした。(考えてみれば、有機液肥を施用しているので、敢えて堆肥を投入する必要がないということです)
驚いたことに、有機液肥を使用しながら、作物の生育ステージに応じて施肥内容を変化させていました。下の写真はニガウリですが、右の写真のように定植初期の栄養生長が旺盛な時期には添加する尿素の量を多くした結果、葉が大きくなっています。その後、果実が結実し始めて生殖生長が始まると尿素の量を少なくし、葉の大きさが小さくなっているのが判ると思います。
プラグ苗を用いて育苗も行っており、播種用土には圃場の土に堆肥を50%混合していました。堆肥は圃場の雑草や収穫後の残査などを使用して、自家製堆肥を作る徹底ぶりです。全般的に苗の生長も極めて良く揃っており、定植後のレタスも極めて順調に生育していました。南寧市は亜熱帯気候のためレタスは抽苔しやすく、香港、台湾、日本などで育種されたレタスの種子を用いて適用試験を行っており、台湾の種子が発芽・生育とも良好であったとのことでした。
岐阜周辺では夏に良く見かける「十六ササゲ」が栽培してありました。タアツァイも高温期にも関わらず良くできていましたし、施設外の露地ではニラが生産してありました。
養豚場があり、ここで飼育している豚の糞尿を活用してメタンガスの製造を行っていました。実際にガスコンロを使って火を付けてもらいましたが、結構火力が強く、炊事はメタンガスで充分であるとのことでした。
とにかく、ここまで徹底して有機栽培にこだわっている生産会社は始めてみました。栽培技術も高く、特に「有機肥料の液肥栽培」の発想には大変興味を感じました。日本でも充分活用できる技術ではないでしょうか。
「安全、安心、環境にやさしい」のいずれも満たす環境保全型農業の典型例といえるかと思います。
この生産施設は、農業の先端技術や様々な品種などを市民に展示・紹介し、農業への理解を深める「農業センター」的な施設です。
最近の流行野菜として、ピーマンの茎葉を収穫して葉菜類として利用する「辛椒叶」、同様に茎葉を葉菜類として利用するサツマイモ「香茹叶」(イモはほとんど形成しない)、キクの茎葉を葉菜類として食用するものなどが展示してありました。
果樹の品種等も展示してあり、珍しいものを紹介します。
パパイヤの花
食用ウチワサボテン
食用サボテンの果実(紅肉紅龍果)
Star Fruit
グアバ
ナツメ(棗)
シカクマメ