沖縄県花卉園芸農業協同組合 企画開発部 種苗センター
【キク育種】
(沖縄県名護市)
種苗センターは名護市辺野古にあります。有名な米軍のキャンプシュワブに隣接しており、訪問した時も実弾射撃訓練の音が聞こえていました。
種苗センターの前身は、昭和61年に沖縄県や太陽の花などが出資してできた第3セクターの沖縄県種苗センターです。現在は太陽の花が引き取り、経営企画部種苗センターとして育種・種苗管理の業務を果たしています。総面積は、ハウス7,069坪、平張りハウス499坪、露地344坪の計7,912坪で、担当職員は6名です。
県などの公立研究機関に頼ることなく、生産組織が育種会社と同じような育種能力を持つ組織を運営しているのは驚きです。太陽の花としては育種部門に25年前から年間1,500万円を超える多額の維持費を注ぎ込んでおり、組合員や、組合員外の生産者からも徴収したパテント料を含めた数千万円の経費を投入して育種や栽培技術の開発を行っています。
種苗センターでは世界中、日本中から品種や系統を収集しています。特に後継者のいない国内の個人育種家の方々から育成系統の譲渡を受けて、交配に活用していました。
このように、積極的なキクの育種が行われており、オリジナル品種が開発されています。
キクの実生発芽施設です。このようにキクの種子を播種し、実生を育成して優良個体の選抜が行われていました。
これまで沖縄「太陽の花」で生産されていたキクは小ギクが中心で、年末と正月および春の彼岸の需要に対する供給を一手に担ってきました。しかし、平張り施設での切花生産が始まったことによって出荷時期が11〜6月に広がり、正月と春の彼岸以外の時期には小ギクの需要が落ち込み、需給バランスを崩して30円/本の低価格で取り引きされました。30円/本の平均価格は生産コストが低い大規模生産農家にとっても限界の価格で、小規模農家では35円/本以上の価格を確保する必要性が高まってきています。このような状況から、年末や彼岸などの物日以外の需要期にも安定販売できる新たな品種の開発が急務となってきました。また、平張り施設では周年出荷も可能であることから、お墓参りの菊のイメージが強い小ギクから大きくイメージチェンジを図る目的で「菊らしくないキク」の育種に取り組んでいます。
ウリズン・シリーズ(キャンディーマム)と命名された新系統は、小ギクとスプレーギクとの中間の形態を示すキクで、小ギク特有の分枝性とスプレーギクの豊富な花色幅が特徴です。ウリズン・シリーズの第2弾として「グーマ・シリーズ」と命名された八重咲き小輪形の新しい品種群が既に育成されていました。
また、「菊らしくないキク」にもチャレンジ中で、花弁が垂れるものや嵯峨菊のように立ち上がるもの、優雅に反転するもの、カーネーション咲きのキクなど、大変おもしろそうな品種が育成されていました。近い将来これらのキク品種が新たなキクの世界を作り上げてくれることを大いに期待しています。
緑色LEDによる防蛾灯が設置されていました。白熱電球に変わる各種蛍光灯の効果の検討やLEDランプの試験なども取り組まれていました。
平成11年(1999年)から導入が始まった平張り施設(農作物被害防止施設)によって8月定植が可能となり、収穫期の前進化に貢献しています。平張り施設は台風被害の回避に絶大な効果を発揮しますが、設備費が高いことがネックになっています。特に近年の鉄骨の国際価格の上昇が面積拡大の障害となっています。
沖永良部で開発された木柱平張り施設は建設費が安く、鉄骨平張り施設の1/3以下の価格で建設することができます。しかし、2011年5月の台風2号と8月の台風9号、そして9月の15号と大きな台風の襲来を受けて木柱平張り施設が倒壊する被害が発生しました。原因としては地中埋設深さが80cmと浅かったことも関係するかもしれませんが、風速50mに耐えられる安価な平張り施設の開発が課題となっています。
台湾では、日本のブドウ棚を改変した「ネットハウス」が使用されており、台風にも強いとのことから「台湾ネットハウス」という名称で試験が行われていました。特徴は太い鋼管アンカーをワイヤーで展張固定する方式です。アンカー柱は3.5mおきに建てられており、高さは3mと高いため作業性が高く、施設内環境は良好になります。
鉄骨平張り施設の建設価格が10,000〜12,000円/坪であるのに対して、「台湾ネットハウス」の建設費はその30〜40%減とのことですので、10aあたり200万円程度で建設できることになります。
平張り施設が普及した理由の一つに、ネットの紫外線耐久性の向上があります。沖縄の紫外線は北海道に比べて2倍高いといわれていますが、ダイオサンシャイン(ダイオ化成)が販売されたことで5年以上の耐候性が確保できるようになり、急速に施設が拡大しています。
沖縄の気候は、夏は最高気温33?・最低気温28?ですが、冬は最高気温22?・最低気温16?と植物の生育に最適な環境です。しかし、地球温暖化の影響で以前は問題とならなかった8月定植・12月収穫の切花に高温障害が発生し始めています。
また、これまでのキク生産は11〜6月の切花出荷が中心でしたが、平張り施設ができたことで周年出荷も視野に入れた作型開発が可能になってきています。ここで課題となるのがやはり夏の暑さに抵抗性を持つ耐暑性夏秋ギク育種です。特に電照で花芽分化を抑制できる夏秋ギク品種の開発が急務となっています。
健全苗の供給も育苗センターの重要な任務です。和歌山県農業協同組合「植物バイオセンター」でウィロイドフリーの検定を行ったものについて、青森県に送付して越冬させることで幼若性を打破して冬至芽を経由した親株生産を行っています。この低温越冬操作によって、親株の樹勢の維持を図っています。
近年問題となっている害虫にクロゲハナアザミウマがあります。キクの葉裏で大繁殖しカスリ状の被害を引き起こします。体長は1.2mmで、0.6mmの網では平張り施設内への侵入を防ぐことができず問題となっています。